ラグジュアリーバッグの現在地──現代アートと化すバッグ

サザビーズやクリスティーズなどのオークション会場では、主に絵画や彫刻、現代アートなどが取引される。その中で一際異質な出品物がある。それはフランスの高級ファッションブランド、エルメスのバーキンだ。ヴィンテージのバーキンや限定モデルは、時に数千万円という値がつき、落札の瞬間には会場がどよめく。私たちの憧れの対象であったラグジュアリーバッグは、いつのまにか所有するための資産へと変化していった。

エルメス・バーキン / エルメス公式サイトより

なぜエルメスの「バーキン」はアートと同じ価値を持ったのか?

バーキンは1981年に誕生したバッグだ。当時のエルメス社の社長ジャン=ルイ・デュマがロンドン行きの飛行機で女優・歌手のジェーン・バーキンと隣席になったことがきっかけとされている。ジェーンの持っていたカゴバッグには、たくさんの持ち物が雑然と入れられ、子育てをしている彼女にとって使いやすいバッグがないことをデュマにこぼしました。彼はそれに応え、商品化されていたオータクロアから着想を得た新しいバッグ“バーキン”を生み出した。

バーキンはジェーン・バーキンの存在と相まって、子育てや仕事をしながら活躍する女性のためのエレガントなバッグとして、女性たちの憧れのバッグとなった。さらにバーキンが特別視される理由のひとつは、その製造工程にある。一つのバッグを、熟練の職人がほぼ手作業で仕立て上げ、年間の生産数量にも限りがある。そのため世界で最も入手が困難なバッグの一つともされる。

ドラマ「セックスアンドザシティ」でも題材として扱われるバーキン。販売員から「これはただのバッグではありません。”バーキン”なのです。」と語るセリフが印象的。

店頭で入手困難となったバッグは中古・二次流通市場を加熱させていく。価格推移は右肩あがりで現在の中古市場では平均で300万円ほどで取引されている。この価格は店頭で購入した際の定価よりも高価である。バーキンは年月を経ても値崩れせず、特別なレザーや装飾が施された入手困難なモデルほど価格が上昇していく。この「時間が価値を生む」構造は、絵画や彫刻といった美術品の資産性とまったく同じロジックだ。ファッションアイテムでありながら、投資対象として語られるようになった背景には、こうした希少性と資産性の裏付けがある。

そんな中で、2024年7月10日、パリのサザビーズで行われたオークションでは、ジェーン・バーキン本人が実際に使っていた「初代バーキン」が出品され、860万ユーロ(約14億7000万円)で落札された。ハンドバッグとしてのオークション史上最高額であった。落札したのは、プレオウンドショップ「ALLU」や買取専門店「なんぼや」などを運営するバリュエンスジャパンで、初代バーキンとともに世界各地を展示巡回している。

「オークションで落札された最も高価なハンドバッグ」としてギネス世界記録に認定された初代バーキン / バリュエンスジャパン株式会社公式サイト

キャンバスとしてのバッグ──アートとの融合

もう一つの潮流が、ブランドと現代アーティストのコラボレーションだ。ルイ・ヴィトンは村上隆や草間彌生といったアーティストと組み、バッグをキャンバスに見立て、道具という役割から解放してきた。近年展開する「アーティーカプシーヌ」というプロジェクトでは、ルイヴィトンの新しいアイコンバッグであるカプシーヌを、世界各地のアーティストが自身の作風でバッグを再解釈する。それらのバッグは限定数販売され、アートコレクターたちから羨望の眼差しを向けられている。

2025年に発表されたアーティーカプシーヌシリーズ。村上隆とのコラボレーション。 / ルイ・ヴィトン公式サイトより

ディオールの「Lady Dior As Seen By」も同様の試みだ。アイコンバッグ「レディ ディオール」を、毎シーズン異なる新鋭アーティストが自由な手法で表現し直す。ストリートカルチャーやポップアートの感性がラグジュアリーの文脈に持ち込まれることで、従来のバッグにはなかった新しい価値が生まれている。もはやバッグは、ブランドロゴを主張する道具ではなく、アーティストの思想を纏う立体のキャンバスになっているのだ。

「持ち歩けるアート」を所有するという選択

数あるバッグの中から、世界中のラグジュアリーブランドは、顧客から選ばれる商品を作り続けなければならない。これらのアーティスティックなハンドバッグは数多くのバッグを所有する富裕層にとって新しい価値を生み出す。彼らは、より希少で誰も目にしたことのないものを求めているからだ。さらに、多くの美術品は自宅に飾るだけでしか楽しむことはできないが、お気に入りのブランドやアーティストが手がけた限定バッグを持つことは、日常のなかで実現できる、もっとも身近な「アート所有」の形だ。こうしてファッションの購入とアートのコレクションの境界が曖昧になりつつあるのだろう。

スペインの高級ブランド「ロエベ」と陶芸制作ユニット「スナフジタ」によるコレクション / ロエベ公式サイトより

今日のラグジュアリーバッグは、職人の技術とアーティストの思想が交差する、もっとも身近な現代アートといえる。オークションの高額落札やコラボレーションの背景にあるストーリーを知ることで、いつものファッションの見え方は少し変わってくるはずだ。次に店頭でバッグを手に取るとき、それを「キャンバス」として眺めてみるのも面白いかもしれない。

EDIT: Ryo Hamada

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