前編では、彫刻科での卒業制作からGuiano『月』へと至る、ミツ蜂の「マイナスをプラスに変える」感性をたどった。後編では、その儚さの源泉にある3つの映画と、初個展「擬花」に込めた思いに迫る。
「飛び降りる瞬間ではなく、その直前を」——3つの映画が照らす儚さ

ミツ蜂さんの作品に共通して漂う儚さや命の煌めきについて、他の創作物から直接的に影響を受けたエピソードはありますか?
ミツ蜂 – 映画が好きで、最近だと『国宝』を映画館で3回観に行きました。吉沢亮さんが演じる女形の儚さや美しさ、特に化粧が崩れながら屋上で夜中に踊っているシーンにはすごく惹かれましたね。「ここを描きたい」と思う瞬間がいくつもありました。
どこか、卒業制作やGuianoさんの『月』のMVとも通じるものがあるように感じます。
ミツ蜂 – そうだと思います。それから、映画『リリイ・シュシュのすべて』も記憶に強く残っています。劇中で女の子が鉄塔から飛び降りてしまうのですが、その直前の過去の回想で、凧を揚げてすごく楽しそうにはしゃいで遊ぶシーンがあるんです。でも次の瞬間には、倒れている。私が描くときに意識しているのは、飛び降りる瞬間そのものよりも、その直前の「全てのエネルギーを出し切って遊んでいる姿」なんです。月詠みさんのMVを描くときもまさにそんなマインドでした。

「死」そのものではなく、絶望の直前に生を全開にして咲き誇る瞬間のエネルギーですね。
ミツ蜂 – はい。浅野いにお先生の『おやすみプンプン』でも、女の子が亡くなる前に海で大はしゃぎするシーンがあるんです。その3つの作品のシーンが全部すごく好きで。私の作品に出てくる「花」も、だいたい満開のまま散りかけていたり、ほぼ散っていたりします。咲き誇って一気に散る一瞬の煌めきを描きたいという感覚は、これらの作品体験と深く繋がっている気がします。
負の感情を吐き出し、自己を浄化する——初個展「擬花」に込められた2つの意味

そして今回、初の個展「擬花」が開催されます。コマーシャルワークで誰̇か̇の楽曲を描いてきたミツ蜂さんが、完全に自分だけの世界を表現する場となりますが、どのような気持ちで臨まれましたか?
ミツ蜂 – 自分の世界観が表現できていたら嬉しいなと思っています。今回は「感情展」の時に描いたイラストを元に、制服の花瓶や、その他の原画を制作しました。制服の花瓶はずっと立体物として作りたかったので、良い機会だったと思います。
「感情展」の話も出ましたが、個展の原画や立体物の制作において、ご自身の内面や感情はどのように関わっているのでしょうか。
ミツ蜂 – 普段から「負の感情」をエネルギーにすることが多いです。絵を描くこと自体が自分にとってのストレス発散であり、毒や悪いものを描いて吐き出すことで「浄化」している感覚なんです。だから逆に、明るい絵を描いている時の方が「根暗な自分を隠して嘘をついている」ような後ろめたい感覚になってストレスが溜まってしまう。ダークで切ない絵を描いている時こそ、ようやく本当の自分を出せている気がします。

今回の個展タイトルである「擬花」という言葉も、そうしたミツ蜂さんの内面世界と関わりがあるのでしょうか。
ミツ蜂 – そうですね。これも、まず最初にタイトルから決めました。社会に溶け込むために自分を取り繕って過ごしていると、「自分だけ周りと違うんじゃないか」という孤立感や生きづらさを感じることがあって。もし同じような感覚を持っている人がいたら「一人じゃないよ」と寄り添いたいという思いがありました。

また、「擬花」という言葉にはもう一つ、別の漢字で植物用語としての意味もあります。ひまわりのように小さな花の集合体が集まって、一つの大きな花に見せている状態のことを、偽りの花と書いて「偽花」と呼ぶんです。社会という集団の中で取り繕う自分の姿や、自分の手で花という作品を構成していく感覚とすごく重なって。その両方の意味を込めてこのタイトルにしました。
満開のまま散る花、アネモネの花言葉、そして「ミツ蜂」という名
「花」は、月詠みさんの『死よりうるわし』MVの1分19秒あたりに一瞬チラッと映ったり、その他の作品にも度々登場します。特別なモチーフですか?
ミツ蜂 – 花には「花言葉」がありますよね。それによって多くを語らずとも意味を込められるのがありがたくて。特にアネモネの「裏切られた」「見捨てられた」といった少し怖い花言葉が好きです。
もしかして、活動名義の「ミツ蜂」もお花から取ったお名前ですか?
ミツ蜂 – 実は、たまたまなんです(笑)。本名から取ってつけた名前なんですが、今となってはこの名前でよかったなと思います。

もう一つの大切なモチーフ
また、「花」と同じくらい頻繁に登場するのが、「制服」のモチーフです。これにも何か思い入れがあるのでしょうか。
ミツ蜂 – 制服については、私の中で「高校時代の女社会」が一番周囲と比較しなきゃいけなくて息苦しかったと思っているんです。みんな同じ服を着ているからこそ、かえって自分の異質さが浮き彫りになってしまうような。過去に描いた『合わない』というイラストも、4人の制服の女の子のうち1人だけがズレている違和感を描いたものでした。そういった日常のモヤモヤや密かな毒、感情の揺らぎを、作品として昇華できればと思っています。

メインビジュアルにも、額縁や制服のリボンに留まる蛾やスズメバチといった印象的なモチーフが配置されていますね。
ミツ蜂 – 額縁は「絵画のように美しい最高のシーンを切り取る」イメージで描きました。リボンのスズメバチや蛾は、日常会話の冗談や、カフカの『変身』をイメージして描いた過去作からの派生で、自分の中にある毒や醜いものを象徴的に表現しています。

個展はまさに、そうした私の自己満足とも言えるこだわりを詰め込んだ空間になっています。でも、そうやって吐き出した私的な世界を、こんなにも多くの方が楽しみにして見てくださることに本当に感謝しかありません。ぜひ会場で、その空気感を感じ取っていただけたら嬉しいです。
自らの内面にある負の感情や日常の違和感を、芸術という形で美しく昇華させてきたミツ蜂。誰かに見せるためだけでなく、自らを浄化するように生み出された作品たちは、社会の片隅で取り繕いながら生きる私たちの心に静かに寄り添い、確かな救いを与えてくれる。一枚の絵の向こう側に広がる物語と、そこに息づく命の煌めきを、ぜひ会場で体感してほしい。

■ミツ蜂 個展「擬花 -ギカ-」
・会期:2026年9月18日(金)〜9月23日(水)
・営業時間:11:00〜21:00(変更の場合があります。詳しくは公式サイトをください)
・会場:GAAAT GALLERY(〒150-0001 東京都渋谷区神宮前六丁目20番10号 MIYASHITA PARK South 3階)