ぬごですが。は、「普通」をテーマに作品を描くアーティストだ。それでいて彼の描く作品は、女性がほとんど。彼女たちは、時にスーツ、時に奇抜な服装に身を包み、どこか陰を感じさせる表情を湛えている。一見すると「普通」からは程遠い。そのギャップが興味を惹いた。
格差の広がりや先の見えない景気、SNS越しに映る他人の輝かしい暮らし。いまのZ世代を取り巻く環境には、明るい希望よりも社会への違和感や不信感、静かな諦めが横たわっている。「時代に翻弄されながらもそれを引き受けて生きていく僕らは『普通』で、世の中がおかしい」。そう訴えているように思えた。彼が捉える時代の姿、描き出す「普通」の正体を、彼の口から聞きたい。このようなことを企画書にまとめ、取材が始まった。
道端に落ちていたぼろぼろのポスター

まずは、絵を描き始めたきっかけを教えてください。
ぬごですが。 – 中学2年か3年生の頃に絵を描き始めました。よくある「気づいたらずっと描いていた」みたいなことではなくて、はっきりしたきっかけがあったんです。当時友達みんなでゲームセンターに通っていた道があって、ある日、その道中に“ポスター”が落ちていたんです。「あのポスターなんやろう」ってみんなで拾ったら、初音ミクのポスターでした。
道端に落ちているような物だったのでボロボロだったのですが、スマホも無く、今ほどものを見る機会も無い時代だったので、それがすごく珍しかったんです。みんな「欲しい!」となって、じゃんけんの結果僕が勝ち取りました(笑)。それを家に持ち帰って、受験勉強をしているふりをしながら、ふと模写してみたのが、絵を描くきっかけになったんです。
なんとなくうまく描けたので友達にあげたらすごく喜んでくれて。それまで何かで褒められるとか、やったことがうまくいくという経験があまりなかったので、それをきっかけに絵を描くことに一気にのめり込んでいきました。
初音ミクはもともと知っていたのですか?
ぬごですが。 – 好きでしたね。ニコニコ動画が好きで、初音ミクのゲームや音ゲーもやっていましたし、まさにそのゲームをやりに友達とゲームセンターに向かっている途中でポスターを見つけたんです。
美術の学校には行かなかった

BAMでも多くのイラストレーターの方々に取材をしてきましたが、みなさん幼い頃から絵を描いていたという方が多くて。中学生から描き始めたというのは比較的遅い方ですね。
ぬごですが。 – 自分でもそう思います。だからこそ高校は普通科に進み、部活にも入りませんでした。途中から美術の学校への進学も考えたのですが、「もう遅いかな」と思ってしまって。「ちゃんと勉強しないといけないんじゃないか」とか、「絵で食べていくってどういうことかも全然わからない」という状況でした。
それでも絵を描き続けていた?
ぬごですが。 – そうですね。アニメの模写をずっとしていて、録画した『けいおん!』などを一時停止しながら描いていました。オリジナルを描くという発想もほとんどなかったんです。
「絵」の世界を広げてくれた、2人のイラストレーターとの出会い

ぬごですが。 – 絵を描き始めたのもたまたまで、アニメが好きになったのも、夜中に目が覚めてテレビをつけたらたまたまやっていたからなんです。「え、こんな時間にアニメやってるんだ」と驚いたくらいで。今思うと、本当に視野が狭かったと思います。当時は自分から何か新しいものを探しにいこう、という気持ちがなかったんです。
「模写」が中心だった当時から、現在の作風に至った転換点は何だったのでしょうか。
ぬごですが。 – これも偶然なのですが、SNSで流れてきた2つのイラストを見たのが大きなきっかけになりました。作者を調べると、雪下まゆさんとざしきわらしさんというイラストレーターの方でした。ちょうど同時期にお二人の絵が目に入ってきて、それが衝撃だったんです。

具体的にどのような衝撃だったのでしょうか。
ぬごですが。 – 当時の僕は、絵のジャンルには、アニメイラストや絵画、水墨画、抽象画など、「美術の授業でちょっと見たことあるやつ」くらいしかないと思っていたんです。「絵を描く」ということは、そのどれかに当てはまるものしかないと、勝手に縛られていました。でも、お二人の絵はそのどれでもなくて。僕の中で、「名前のない絵を描かれた」と思ったんです。
ジャンルの外だったんですね。
ぬごですが。 – そうなんです。「え、そんなんしていいんや」と、本当に衝撃でした。今思えば当然いいに決まっているのですが、何故か当時はそう思えなくて。それまでは二次創作しか描いていなかったのが、お二人の作品を見て、「僕もやってみようかな」と、そこで一気に作風が変化しました。絵を描くことを通して自分の内面を出していけるようになったんです。
ぼーっと生きていたら、「普通」にたどってくる道

お話を伺っていると、本当に偶然の出来事の積み重ねというか。何か特別な体験があったわけではないのですね。
ぬごですが。 – そうなんです。今の活動の大きなテーマは「普通を描く」ということです。僕がたどってきた道は、ぼーっと生きていると普通にたどってくるような道だったと思うんです。美術の学校に行くわけでもなく、地元の友達と近くの学校に進んで、そこで出会った人たちと仲良くなって。絵を描き始めたのも、特に自分から何を探すわけでもなく、たまたま拾ったポスター、たまたま見たアニメがきっかけだったり。だからこそ、そんな自分が見てきた「普通」を描いた作品は、多くの人にも共感しやすいのではないかと思っています。

特別な何かを描くのではなく、あくまで「普通」を描くと。
ぬごですが。 – そうですね。そこに意味があると思っています。作品を一番届けたい相手も、僕と同じように普通に生きてきた人たちなんです。
特別な境遇、出色した才能があるわけでもない。ぬごですが。は、いわゆる「普通」の生活を軸に作品を描き出す。だが、多様性が謳われる昨今、普通の輪郭は確実に揺らいでいる。ぬごですが。の見つめる「普通」、絵を描くことで炙り出すその世界とは一体何なのか。後編ではもう少し迫ってみたいと思う。
