【インタビュー】ドット絵から3Dへ。過渡期を知るゲームキャラクターデザイナー吉川達哉の創作論 – 後編

前編では、ドット絵から3Dポリゴンへ、ゲーム業界を巡るテクノロジーが激変を遂げた転換期について話を訊いた。

続く後編では、完全3D化へと舵を切った『ブレス オブ ファイアV ドラゴンクォーター』以降の別̇次̇元̇の話。ボタンひとつを描くのに、ひとつのキャラクターを描くほどにまで描き込む「情報密度」の恐怖、『デビル メイ クライ 4』で突き詰めた3D空間での強度。そして独立15周年個展「Xv」に込められた「修行」としての想いまで。どれだけ表現技法が変わろうともブレることのない、吉川達哉氏の根底に流れるキャラクター論の核心に迫る。

文字通り「次元」が変わる、全く新しい3D表現

『ブレス オブ ファイアIV うつろわざるもの』を経て、続くシリーズ5作目『ブレス オブ ファイアV ドラゴンクォーター』で作品は完全な3D表現へと舵を切ることになります。クリエイティブ面において、3D化はどのような表現の広がりをもたらしたのでしょうか。

吉川 – そこは本当に劇的な変化でした。ドット絵というのは本質的に「一方向から見た1枚の絵」なので、どれだけアニメーションさせてもカメラアングルを大きく動かすような空間演出には限界があったんです。

それが3Dになった瞬間、キャラクターの後ろへカメラが回り込んだり、背景を含めた動的なカメラワークが可能になりました。ポリゴンの重なりや表示のバグなど当時は特有の苦労もありましたが、ゲーム内のデモシーンを含めて、映像としてのメリハリや演出の幅は一変しました。表現のツールとして、開発陣が抱いた期待感も非常に大きかったですね。

奥行きが求める「情報密度」の恐怖______脳が騙されなくなった時代

「RED PINK」

画面を自在に動かせるようになったことで、キャラクターを「デザインする側」の意識には具体的にどのような変化が求められたのでしょうか。

吉川 – ここが一番恐ろしいところで(笑)。2Dのイラストであれば、一方向からの情報密度を高めておけば、多少ごまかしが利くというか、イラストとして「間」が持ったんです。しかし、まったく同じデザインをそのまま3Dの立体空間に持っていくと、一気に情報量が足りなくなってスカスカに見えてしまう。人間って、立体や奥行きを感じた瞬間に、脳が「そこにあって当然の情報」を無意識に求め始めるんです。

脳が求める「当然の情報」とは、具体的にどのようなものでしょうか?

吉川 – たとえばドット絵なら、腰のベルトなんて茶色の帯のテクスチャが描いてあれば十分に成立していました。ですが3Dになると、「縫い目はどうなっているのか」「革が擦れた痕はあるか」「エッジのほつれはどうか」といった、リアリティ、普段見ている当たり前を、見る人の脳が要求し始めるんです。

漫画やセル画のアニメならシンプルな影だけで格好よく見えていたキャラクターも、3D空間に置かれた途端に物足りなくなってしまう。デザイナーは、その「3Dにしたときに発生する物足りなさ」を予見し、あらかじめデザイン段階で密度を仕込んでおかなければならなくなったんです。

『デビル メイ クライ 4』で突き詰めた、ボタンひとつへの徹底考察

「Devil Duck」

特にハイエンドなリアルさを追求する作品になると、その密度の補完作業は想像を絶する領域になりそうですね。

吉川 – 僕が携わった中で一番難しく、しんどかったのは間違いなく『デビル メイ クライ 4』ですね。世界観がリアルに寄れば寄るほど、ごまかしが一切通用しなくなります。自分自身で描いていても、「現実世界にこんな構造の服があったらおかしいだろ」と葛藤する毎日でした。

3Dモデラーさんからも、「このジャケットのボタンの付け根、縫い目はどう終わっていますか?」「コートが裏返ったときの裏地の縫い目を見せてください」という確認が入るわけです。

服の構造や縫製まで理解していなければ、3Dのキャラクターデザインが成立しないと。

吉川 – そうなんです。たとえば主人公のネロが着ているコートには、消防士の防火服に使われるような金属フックのボタンを採用しました。デザインとしてすごく格好いいと思って提案したのですが、それを実際にポリゴンで立体化してもらうためには、僕自身がそのフックの構造を完全に理解し、3Dモデラーさんにも構造を共有しなければならない。

アニメや漫画のデザインなら「丸いボタン」を描いておけば済んでいたところが、金属なのか、木なのか、貝なのか。穴は何個あって、どう固定されているのか。ボタンひとつを描くだけで、キャラクター1体を一から生み出すのと同じくらいの考察と調べ物が必要になりました。いい加減な絵は一切描けないという恐怖と隣り合わせの現場でしたね。

たとえどれだけ時代が変わろうとも

「Blank Angel」

これまで、ドット絵から3Dへと技術が進化し、激変していく制作現場の実態を伺ってきました。では逆に、その中でも変わらなかったキャラクター論や哲学とは、一体何でしょうか。

吉川 – 表現ツールや画面の解像度がどれだけ変わろうと、僕自身のキャラクター作りの根本にある思想や哲学は、最初から今までまったく変わっていません。

その根底にあるのは、「日常的な観察」と「人間や生物に対する共通認識」です。たとえば、街や日常で人を見かけたときに「あ、この人は強そうだな」「優しそうだな」と感じたり、あるいはゾウという動物を見たときに「絶対に強いけれど、目がつぶらで優しいな」と感じたりしますよね。世界中の人たちが、対象の外見や目元から無意識に感じ取っている普遍的なイメージや記号があると思うんです。

キャラクターをデザインするときは、まずその世界共通の人間観察から得た感覚やフィードバックをベースにします。そこに映画やドラマ、漫画などを観て蓄積してきた「自分が面白いと思うキャラクター像」や、少しばかりの自分のこだわりを掛け合わせていく。そしてゲーム制作であれば、ディレクターの意志や世界観とすり合わせながら落とし込んでいく。この構築プロセスは、ドット絵だろうが3Dだろうが、今でも一切ブレていません。

キャラクターデザインと「一枚絵」______独立15年目の筋トレと修行

「三毛化け猫娘」

今回の独立15周年個展に展示される作品群は、吉川さんがXなどで精力的に発表されてきたオリジナルのイラストレーションが中心です。ゲームのための「キャラクターデザイン」と、完成された「一枚のイラストレーション」を描くことの違いはどこにありますか?

吉川 – 作業の目的と性質がまったく違います。今回の展示会に向けて描いた作品では、いわゆる「キャラクターデザイン」という工程からは離れたところにあります。

ゲームにおけるキャラクターデザインとは、ディレクターや企画、現場のチームと調整を重ねながら、そのキャラクターの魅力を究極まで磨き上げていく作業です。それに対して今回の個展に向けた一枚絵は、これまで培ってきた「キャラクターを安定して描く技術」を土台にしつつ、限られた期間の中で「いかに画面として気持ちよく成立させるか」という工程をひたすら鍛錬する。いわば筋肉トレーニングや修行のような感覚で描いています。

「修行」とおっしゃる背景には、独立15周年を迎えた今、どのような想いがあるのでしょうか。

吉川 – 企業さんからご依頼いただいて描いた仕事の絵は、当然ですがすべて企業さんのものです。素晴らしい仕事である反面、自分だけのものではないという切なさもどこかにあったりします。だからこそ、自分で生み出したオリジナルのキャラクターを1枚の完成された絵として仕上げることで、「自分だけの作品」として世に存在させたかったんです。もっと言うと、自分の中の「これならお金を出してでも欲しいと思えるか?」という厳しいハードルと向き合い、プレッシャーに打ち勝つための修行でもあります。自分が心から欲しいと思えない絵を描いても無駄な作業になってしまいますから、限られた時間を使って徹底的に自分自身の欲求と向き合いました。

吉川さんの描く一枚絵は、デジタルでありながら鉛筆のラインやアナログのランダムな「かすれ」が非常に印象的です。描き手としての質感へのこだわりについてもお聞かせください。

吉川 – 元々カプコンに入社した当時、ポスターなどのイラストはすべて画用紙に絵の具で描かれていた時代だったんです。時代とともに「PCの方が早いし便利だ」とデジタルへ移行していきましたが、僕自身はどうしても鉛筆の線の風合いが好きで、ずっと残したかったんです。完璧にコントロールされすぎない、紙と鉛筆が擦れたときに生まれるランダム性や不確実性みたいな。そういうアナログな「手触り」みたいなものが、今も僕の表現の根底に心地よく残っているのだと思います。

デジタルのニュアンスをいかにアナログに落とし込むか______複製技術「MCA」との出会い

「狼喰い羊」

そんな中、今回の展示作品では、アートブランド・GAAATが展開する「MCA(メタルキャンバスアート)」を用いて立体感やマテリアルの質感まで緻密に再現されています。この表現手法を選んだ理由を教えてください。

吉川 – 個展の開催が決まったとき、既存の紙媒体へのプリントアウトでは、どこか物足りなさを感じていたんです。デジタルの絵というのは本来、画面の中でピクセルが集まって構成されるものですが、それを紙というマテリアルで表現するとどうしてもニュアンスが落ちてしまう。

そんな時にGAAATさんの技術を見せていただき、「これしかない」と直感しました。デジタルが持つ独特の情報量や画面の空気感を、紙や画面とはまた違う不思議な質感で空間に再現してくれる。展示作品をご覧いただく方にとっても、普段目にしない新しい視覚体験を提供できるのではないでしょうか。

「もっと上手くなりたい」______技術の波を越えて続く探求

「雷音」

最後に、独立15周年を迎えた今、キャリアを振り返り吉川さんが感じていること、そして今後の展望についてお聞かせください。

吉川 – 今こうして個展に向けて絵を描いているものでも、もちろんキャラクターデザインでも、僕の中にはずっと「絵が上手くなりたい」というシンプルな欲求が強くあり続けています。

何年経験を積んでも「上手くなりたい」という思いは消えません。もっと上手くなって、自分が納得できる満足のいく作品を描き、それをSNSや作品展、あるいは新しいお仕事として皆さんに見てもらいたい。自分自身も心から楽しみ、そして見てくれるファンの方々も一緒に楽しんでもらえるように、ちょっとずつでも前に進んでいけたらと思っています。

ドット絵の1ピクセルに命を吹き込んだ時代から、3D空間におけるリアルな表現への挑戦、そして自分自身と向き合う一枚絵への挑戦まで。道具やテクノロジーがどれだけ進化しても、吉川達哉氏が描き出すキャラクターたちには、時代を超えた「生きている人間のリアリティ」と熱量が宿り続けている。独立15周年という節目に提示された圧倒的な描線と美学を、ぜひ個展の会場で体感してほしい。

吉川達哉個展 |Xv – Tatsuya Yoshikawa Art Exhibition

・会期:2026年10月16日(金)〜10月19日(月)
・営業時間:11:00〜21:00 ※初日のみ16時開場
・会場:GAAAT GALLERY(〒150-0001 東京都渋谷区神宮前六丁目20番10号MIYASHITA PARK South 3階)
・公式サイト:https://gallery.gaaat.com/pages/tatsuya-yoshikawa

EDIT: Ryo Kobayashi

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