ニューヨークのメトロポリタン美術館(MET)で2027年春に予定されていた、ファッションデザイナー、ジョン・ガリアーノの大規模展「John Galliano: Horizons」の開催が中止となった。
Metとガリアーノは8月31日、共同声明で発表。7月31日の発表から約1カ月での方針転換となった。背景には、ガリアーノが過去に行った反ユダヤ的・人種差別的な発言をめぐる批判がある。
7月31日の展覧会発表直後から集まった批判

「John Galliano: Horizons」は、ガリアーノの約40年にわたるキャリアをたどる、初の大規模な美術館展として企画された。METは7月31日の発表で、1984年のセントラル・セント・マーチンズ卒業コレクションから、自身のブランドや、ジバンシィ、クリスチャン・ディオール、メゾン・マルジェラでの仕事までを扱うと説明していた。
一方で、発表直後から問題視されたのが、ガリアーノの過去の言動だった。ガリアーノは、2010年と2011年にパリで反ユダヤ的、人種差別的、反アジア的な発言をしたことが問題となり、2011年にはクリスチャン・ディオールのクリエイティブ・ディレクターを解任されている。同年、パリの裁判所は人種や宗教、民族、出自を理由とする公然の侮辱について有罪判決を下した。
今回の展覧会では、ガリアーノの過去の言動も、そのキャリアをたどる上での重要な転換点として扱われる予定だった。METは、2010年と2011年の言動による「断絶」を第1部「Bearings」の冒頭で取り上げ、ガリアーノの美的業績と倫理的責任、美術館による評価の関係を考察する構成になると説明していた。
しかし発表後には、過去の言動への批判に加え、METがガリアーノを大規模展の主役として取り上げること自体が適切なのかという懸念が、政治関係者やユダヤ人コミュニティや政治関係者らから示された。
「ヨム・ハショア」と重なるメット・ガラ ガリアーノの展覧会をめぐる懸念
さらに議論に拍車をかけたのが、展覧会とメット・ガラの開催時期だった。
2027年のメット・ガラは当初、5月3日に開催される予定だった。この日の夜は、ホロコーストの犠牲者を追悼する「ヨム・ハショア(ホロコースト記念日)」の開始と重なる。一方、ガリアーノの展覧会「John Galliano: Horizons」は、メット・ガラの6日後となる5月9日に開幕する予定だった。
ガリアーノが2011年に反ユダヤ的・人種差別的な発言をめぐって問題となった経緯に加え、メット・ガラの開催予定日がヨム・ハショアと重なることもあり、ガリアーノを取り上げることへの懸念や批判はさらに広がった。
8月31日、METとガリアーノが開催見送りを発表

こうした批判が続くなか、METとジョン・ガリアーノは8月31日、「John Galliano: Horizons」を予定どおり開催しないと共同で発表した。METの館長兼CEO、マックス・ホラインは、ガリアーノとの慎重な協議を重ねた結果、展覧会を進めないことを決めたと説明している。
METのコスチューム・インスティテュートのキュレーター、アンドリュー・ボルトンは、今回の展覧会が引き起こした「痛みと懸念」を認識しているとし、開催見送りを支持すると表明した。
ガリアーノも声明で、METから自身の作品を扱う展覧会を提案されたことへの感謝を示す一方、過去の言動によって生じた痛み、とりわけユダヤ人とアジア系コミュニティに与えた苦痛について、責任を負い、深く申し訳なく思っていると述べた。また、自身をめぐる議論がMETを難しい立場に置いたり、コスチューム・インスティテュートの活動から注意をそらしたりすることを望まないと説明している。
また、METの理事であるアナ・ウィンターは、ガリアーノが展覧会を開催しないと決断したことについて「正しい決断」だと述べ、ガリアーノとMETを全面的に支持すると表明した。
「展覧会を中止する必要はなかった」との意見も
一方で、今回の開催見送りをめぐっては異なる意見も出ている。
9月1日付の『ニューヨーク・タイムズ』で、ファッション評論家のロビン・ギヴァンは、「中止すべきだったのは展覧会ではなく、Met Galaだった」と主張した。
ガリアーノの作品を美術館で取り上げること自体は、彼のファッション界への功績だけでなく、過去の差別的な言動も含めて、その評価を批判的に検証する機会になり得る。
一方で、メット・ガラのような祝賀的なイベントで彼を称えることは、過去の言動を踏まえた上でなお彼を顕彰することにつながるとして、より問題が大きいと指摘した。
METは今後、2027年春の新たなコスチューム・インスティテュート展と、2027年のメット・ガラについて詳細を発表するとしている。