コンビニに入ると、なんとなく安心する。
商品の並ぶ棚、決められたレジの位置、店員さんの「いらっしゃいませ」。どの店に行っても似たような景色が広がっていて、何をすればいいのかもだいたい分かる。
四角い箱の中で、人もモノも、ちゃんとそれぞれの場所に収まっている。
今回は、そんなコンビニを舞台にした、村田沙耶香の小説『コンビニ人間』を紹介したい。

主人公の古倉恵子は、18年間コンビニでアルバイトを続けている。マニュアルに従って動き、決められた言葉を話し、決められた場所に商品を並べる。
白く明るい店内。壁、棚、レジ、バックヤード、商品、制服、マニュアル。
そこには一見すると無数のものが存在しているが、それぞれには明確な位置と役割が与えられている。恵子は、その空間にいるときだけ、自分が「世界の中のひとつの部品」として機能している感覚を得ていた。
ところが、その場所から少し外れると、そこには「普通ならこうする」という別の規範が現れる。
「普通」や「正常」は、マニュアル化されているわけではないのに、いつの間にか共有され、私たちのふるまいを静かに方向づけている。ときに私たちは、その基準から少し外れたものに違和感を覚える。『コンビニ人間』では、そんな「正常」の輪郭が、コンビニという身近な空間を通してありありと描き出されている。
そして、小説の表紙もまた印象的だ。
あらかじめ決められた位置と役割のなかに、人もモノも整然と収められているコンビニに対して、そこには、四角く切り取られた塔から煙が吹き出し、手足が覗き、大きさもばらばらのモノたちが出たり入ったりしている。
このイメージを手がけたのは、現代美術家・金氏徹平。表紙に使われているのは、2009年に制作された《Tower》だ。ドローイングを起点に、コラージュ、映像、舞台へと姿を変えながら展開されてきたシリーズのひとつである。

箱から何かが出てくる。
穴の向こう側に別のものが見える。
チューブが伸びる。
何かが入り込む。
身の回りにあるものを組み合わせたり、切り取ったり、別の場所に置いてみたりすることで、見慣れたものを別の姿へと変えていく金氏さんの作品。そこでは、ひとつの形や用途にとどまらないものたちが、いくつもの関係をつくっている。
「正常」とされる場所から、少しだけ外れてみること。決められた場所にあるものを、別の場所に置いてみること。そんな視点から世界を覗いたとき、私たちの身の回りにある「四角い箱」は、どんなふうに見えてくるだろう。