SNSでバズる「異世界」。珍宝館から書肆ゲンシシャまで、私たちを惹きつける“奇妙さ”とは

InstagramやTikTokを開くと、ときおり流れてくる異世界。

群馬県の「珍宝館」、大分県・別府の「書肆ゲンシシャ」、静岡の「鴨江ヴンダーカンマー」、近年誕生した門司港の「たまゆら珍館」や東京・神田の「絶滅メディア博物館」。一見すると悪趣味で、どこか近寄りがたいこれらの場所に、SNSなどで多くのコメントが寄せられ、若い世代を中心に静かなブームを生んでいる。

浜松市の「鴨江ヴンダーカンマー」。館長が30年に渡り蒐集した珍奇コレクションを展示している。/ 公式サイトより

これらの場所に共通するのは、誰かの偏愛が、そのまま空間になっているという点だ。昨今のマーケティングやデザインがし尽くされた観光地とは一線を画している。どの場所も「万人受け」を目指していない。むしろ、誰にも理解されなくてもいいという強い態度が、そのまま空間になっている。自分が面白いと信じるものだけを集め続けた結果として、唯一無二の世界が立ち上がっているからこそ、画面越しでもその空間からは異様な熱量が伝わってくるのだ。

デジタルでは再現できない「生々しさ」

私たちは日々、画面越しにあらゆるものを見ている。補正された写真や、編集された動画、SNSには暴力や性、死といった直接的な表現が規制されている。

群馬県・伊香保温泉にある「珍宝館」では3500点にも及ぶ展示品がひしめいている。ここは大人のテーマパークという名の通り、春画や、性器をモチーフとした置物、安産祈願を謳われた巨石など、人間の性にまつわるアイテムが展示されている。また名物の館長の軽妙なトークも魅力だ。

「珍宝館」で展示されている展示品のごく一部。夫婦円満のパワースポットにもなっている。/ 公式サイトより

怖いもの見たさで珍宝館を訪れる人も少なくないだろう。もちろんそんな刺激を叶える展示物であることも確かだ。しかし、この場所を訪れる人々は、同時に感じる「生々しさ」に魅了されているのではないだろうか。独特の視点によって集められたコレクションや時間が積み重なった結果としてしか生まれない本物の質感を感じることができるのだ。

デジタルが便利になればなるほど、人は情報ではなく物質を求めるようになる。時代に逆行するかのように、いまアングラ空間への関心を高めているのかもしれない。

ダークファンタジーの「聖地巡礼」が始まっている

もうひとつ興味深いのは、これらの場所を訪れる人たちの感覚だ。

彼らは単なる観光客としてだけではなく、まるで作品世界に入り込んだかのように空間を楽しんでいる。ゴシック、退廃美、オカルト、都市伝説、怪異、ダークファンタジーなどなど。近年の漫画やアニメ、ゲームには、こうした世界観が数多く登場する。

そうした作品が好きな人にとって、アングラ空間はリアルな2.5次元空間になるのかもしれない。壁に掛けられた古写真や名前も分からない標本、意味深な骨董品を眺めながら、「この品物にはどんな物語があったのだろう」と想像を巡らせる。まるで作品の伏線を読み解くような感覚で空間を歩くこと自体が、現代の「聖地巡礼」になっている。

大分県・別府にある「書肆ゲンシシャ」は、博物館の原点とも呼ばれる驚異の部屋をモチーフに作られた複合施設だ。古書や写真集に加えて、マンガや「いわくつき」の物品など、あらゆる珍奇なものを取り扱っている。

明治の文豪たちを虜にした睡眠薬や、アウシュビッツ収容所で看守として働いていた職員の写真集など、身震いしてしまうようなものが来客を出迎えてくれる。予約制で、1時間1,500円を支払うとゆっくりお茶を飲みながらほんやアイテムを鑑賞することができ、購入も可能だ。

アートは、美術館だけのものではない

こうした場所を訪れると、「アートとは何か」という考え方も変わってくる。美術館で作品を眺めるだけがアート体験ではない。

東京・神田にオープンした「絶滅メディア博物館」は「紙と石以外のメディアはすべて絶滅する」をモットーに、私たちの進化の過程で滅んだ、もしくは滅びつつあるメディア機器を収集展示する私設博物館だ。VHS、フロッピーディスク、テレフォンカード。今私たちが使っているスマートフォンやAIだってここに収蔵されるかもしれない。

あらゆる「メディア」が集められた「絶滅メディア博物館」の展示室。 / 公式サイトより

長い歴史の中で、人間は様々な遺産を生み出してきた。日本独特のモノ好き・数寄者文化を育んだ感性は現代でも、この場所で脈々と受け継がれている。アングラ空間は、奇妙なものを並べた珍スポットではない。誰か一人の執念や偏愛が積み重なり、時間をかけて育った「思想のアーカイブ」である。

北九州・門司港にある「たまゆら珍館」。エロありグロあり、アーティストインレジデンスありのカオス感。 / 公式サイトより

だからこそ、どんな洗練された商業施設よりも強い個性を放ち、人を惹きつける。きれいに整えられたタイムラインに少し疲れたなら、一度そんな場所を訪れてみてほしい。

そこには、生と死、欲望と知性、美しさと醜さが混ざり合った、人間という存在の輪郭がある。そして、その濃密な空間に身を置いたとき、あなたはきっと気づくだろう。

いま必要な場所とは誰にも真似のできないほど純粋な、「好き」が形になった場所なのだと。

EDIT: Ryo Hamada

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