ゲーム大国ジャパン。つい最近も「Nintendo Switch」の桃太郎電鉄シリーズ最新作『桃太郎電鉄2 ~あなたの町も きっとある~』が発売されたことで話題だけれど、日本においては、ゲームを一度もプレイしないで生きていくことって、ジブリ作品に触れずに人生を送ることと同じくらい難しいんじゃなかろうか。
日本産のコンピューターゲームが登場したのは1973年のこと。据え置き型の家庭用ゲーム機や携帯型ゲーム機が登場し、アーケードゲームから「ゲーム」の中心が手元へと移っていった。今でも、任天堂やソニーをはじめ、日本で開発されたゲーム機/ゲームソフトは世界で活躍中。むしろ、今だからこそ、ゲームの世界は広がり続け、美しいデザイン、特殊な設定、メディアアート領域との接近もみられる。そんな多様なゲームの世界を本稿ではご紹介したい。
美しき背景デザインから。
ゲームに興味はないけれど、美しい風景は大好き。そんな現実派なあなたには、『ゴーストオブツシマ』はいかがだろう。舞台となる「対馬」は、日本の九州の北方、長崎は玄界灘にある、山林が面積の89%を占める自然豊かな島のこと。鎌倉時代に「文永の役」「弘安の役」の2度にわたり、元軍(モンゴル帝国軍)の侵攻を受けたという歴史を下地にする。主人公は武士の道から外れた境井仁(さかい・じん)。冥府から蘇った「冥人(くろうど)」となって、対馬の地を敵の手から解き放つというストーリーだ。ゲームの設定それ自体ももちろん楽しいが、実際の対馬の風景にインスパイアされた背景デザインも見どころのひとつ。美しい海と白浜の海水浴場の「小茂田浜」、対馬のシンボル的存在で古来より霊山として崇められた「白嶽」、万葉集の「対馬の嶺」に比定される名山「有明山」など、四季の移ろいも楽しみながら、黒澤映画さながらのスケール感で演出される。
戦っても、物を作っても、ただのんびりするだけでも。美しい情景のなかで、なんでもありな革命的ソフトが『ゼルダの伝説』シリーズだ。ここ最近の2作『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』は「オープンワールド」で展開。プレイヤーが広大なマップを動き回りながら、自由に目的に近づくことができるゲーム世界を構築している。この「オープンワールド」のジャンルを踏襲しつつ、壁も岸も洞窟もよじのぼることができる“現実を超えた”自由さを再現したことで、全く新しいゲーム性を獲得した。DIY的に自由に武器を作りながら、夕日や朝日を堪能しつつ、美しい情景に身を任せることができる。

変わり種ゲームから、アートを感じる。
小さな王子が地球で塊を転がしながら大きくしていくーー。そんなシンプルかつユニークなルールながらコアな人気を誇る「塊魂」。今年にはシリーズ最新作「ワンス・アポン・ア・塊魂」が発売された同作の魅力は、直感的な楽しさやカラフルなデザインに加え、BGMとして使用される「素敵ソング(オリジナルソング)」の数々だ。なかでもキリンジによる「ヒューストン(Re-Arranged by KIRINJI)」は名曲。
楽しいゲームの雰囲気を楽曲で彩る。ナムコが誇る独自性の高さを象徴する一作だ。
コピーライターやエッセイストなど、マルチに活躍する糸井重里氏がディレクション、ゲームデザイン、シナリオを手掛けたことで知られる伝説のゲームといえば「MOTHER」。“エンディングまで、泣くんじゃない。”、“名作保証”などテレビCMで流れたフレーズと共に、発売から30年以上経った現在もファンからの熱烈な支持を受ける同作。当時の現代風のアメリカを舞台に、宇宙人や超能力、ポルターガイストといった怪現象の謎に迫っていく。アメリカンカルチャーへの愛に溢れ、いわゆるRPG的な「剣と魔法」の世界観とは一線を画した斬新なゲーム設定に加え、ムーンライダースの鈴木慶一が担当したサントラは名曲揃い。ゲーム中で重要な役割を果たす『エイトメロディーズ』は小学生向けの音楽の教科書に掲載されたほか、ラッパーのVAVAによる「現実 Feelin’ on my mind」のサンプリング元としても若い世代から親しまれている。
斬新。これまでの価値観を変革するという取り組みは多分にアート的。その意味で、ゲームの枠組みを根底から覆すような「アンチRPG」の金字塔を打ち立てた一作が「moon」だ。「ゲームなんかやめて⋯」というセリフからはじまるこちらのゲーム。ひょんなことから異世界へとやって来た主人公が、すでに勇者に倒された何の罪もないアニマルの魂を「キャッチ」して救い、住人たちの生き様に触れて“ラブ”を集めていくという、敵を倒すのではなく、「救う」のが目的の「反骨精神」に溢れた物語なのだ。住民たちの生き様や活動は、もはやアンチRPGの枠に収まらず、この現代社会のありように警鐘を鳴らすような、哲学的な問いが散りばめられている。

芸術×ゲームの世界
アーティストたちがリスペクトを捧げるゲームもある。1994年にイギリスのレアが開発、任天堂が発売したスーパーファミコン用横スクロールアクションゲーム「スーパードンキーコング」。こちらにリスペクトを捧げるのはミュージシャンのマック・デマルコだ。彼が好きな一曲として挙げる「Aquatic Ambiance」はこのゲームの水中シーンでかかるBGMで、メロウかつアンビエントな音の響きが魅力の楽曲だ。こちらは、『伝説の騎士エルロンド』『バトルトード』シリーズなどの音楽を手がけたゲーム音楽家、デビッド・ワイズが手がけた楽曲で、マニア間では伝説級。メルカリ等の中古販売サイトではサントラCDの価格は高騰している。大学時代テレビゲームにはまっていたという俳優・イラストレーターのリリー・フランキーの卒業制作はスーパーマリオブラザーズの世界を表現したもの。マリオ一人で8ステージのうち4ステージまでを、一度も失敗せずにたどり着く様子を録画したものだったとか。このようにゲームを起点にモノづくりに影響を受けた人々がいる一方、ゲームそのものがアートと交わる事例もある。
日本の文化庁では、平成27(2015)年度からゲーム、アニメ、マンガ、メディアアートの4分野を対象とした、「メディア芸術連携促進事業 連携共同事業」を行っている。要するに、ゲームは日本が世界に誇れる「メディア芸術」であるとして国が認めているわけだ。ゲームそのものの保存・アーカイブへの取り組みだけでなく、メディア芸術としてゲームを扱うアーティストの活動支援を行うなど、ゲーム分野とアート分野の接近は要注目なのだ。
ゲームを作品に取り入れている例として、アーティスト・藤嶋咲子が2024年末に開催した個展「WRONG HERO」は注目。バーチャルな空間を絵画として描くと同時に、メタバース上の空間でデモを行うパフォーマンスを行うなど、多岐に渡りメディアアートを展開していた作家だが、この個展では、「主人公」の物語を補完するだけの脇役のように扱われる女性性に着目。「姫になることを捨て、勇者になる」選択をした女性を主人公に、ジェンダーをめぐる2Dゲーム、それをベースにした3Dゲームの映像の展開とともに、埋もれていた声を浮かび上がらせる。
アイルランドの映画監督デヴィッド・オライリーによるゲーム作品もコンセプチュアルだ。プレイヤーが山になる、かつ、山でいる他は何もできないというシンプルすぎるゲーム『Mountain』、原子から銀河、ピザから巨木、微生物から巨大ビルまで、ありとあらゆるあらゆるものに変化を続けるゲーム『Everything』の2作を発表。ゲームの基礎である「ストーリーテリング」「キャラクター」といった要素を排除し、表層的な世界の解釈から離れていくユーザー体験を提供している、実践的な取り組みだ。何をどう操作すればいいかわからない。チュートリアルも存在しない。「世界」そのものの体験。いわばそんな「アンチ・ゲーム」を展開するアーティスティックな作品もぜひプレイしてみてほしい。

広がり続けるゲームの宇宙。
日本で家庭用ゲームが誕生して約50年。これだけのゲームが溢れれば、ある種の飽和状態にあるのではないか。そんな不安を軽々と打ち破ったのが「アストロボット」だろう。主人公は小型ロボットのアストロ。 50を超える惑星に散り散りになった仲間のボットたちを助け集めていくストーリーのアクションゲームだ。ソニー・インタラクティブエンタテインメントが2024年秋に発売したこのゲームは、総合レビューサイトMetacriticでメタスコア94点という高得点を叩き出し、この年の「GAME OF THE YEAR」を受賞する快挙。草むらや砂利道、鉄板などの異なる地面、水の感触、敵を攻撃した際のダイナミックなアクションなど、シンプルながら随所まで気の行き届いたギミックが評価された。こちらのゲームはソニーの「TEAM ASOBI」という日本のスタジオが制作。「触って楽しい」というゲームの原点に立ち返りつつ、「きめ細かい」ともいうべきゲーム体験、 画面に広がる美しい光景は、ゲームの現在地を大幅にアップデートさせたともいえるだろう。
「8番出口」「スイカゲーム」のように熱狂を生むインディーゲームや、現実への応用可能性がまだまだ開かれているVRゲームなどなど、「ゲーム」の未来はまだはじまったばかり。そしてその発展には必ず「アート」な視点がある。未来を切り開く一作を探して、ぜひプレイしてみよう。