ファッションショーがワカラナイ!

服は好きだけど、パリコレやランウェイはわからない!と感じる人も多いだろう。一見すると奇抜で、時には理解を拒むようなものすらあるけど、なぜだか目が離せない…。この記事では、そんな不思議なファッションの世界を、アートの視点から紐解いてみたい。


一直線に伸びたランウェイを堂々たる姿でモデルが歩いてくる。その姿は、日々、誰かを見て思う“お洒落”とは違ったりする。ここでは、必ずしもデイリーに着るものを提示している訳ではない。「アート」が美術館やお金持ちの家の中にしかないように、ここでいう「ファッション」は、ランウェイやセレブのパーティなどに限った話。服の造形的側面を高めるべく、それが存在する場所を限定するという、一種の方法論に近い。

それでも昨今のファッションは、その「場所」から飛び出し、私たちの「生活」と「アート」の間をゆらゆらと行き来することに新たな可能性を見出している。そうした昨今の潮流を、3つのキーワードと共に駆け足で紹介する。

意外な組み合わせを楽しむ:Maison Margiela、sacai

「君主たち」 / エドガー・エンデ /ドイツの シュルレアリスム画家であり、かの絵本作家・ミヒャエル・エンデの父親でもある。

何か変なものをみた時に「シュールだね」なんていう人がいるが、シュールという言葉はシュルレアリスムに由来している。シュルレアリスムは、本来結びつかないもの同士を組み合わせることで、意識の外側にある現実(超現実)をあぶり出す美術運動だ。この手法は現代ファッションにも多大な影響を与えている。

今年5月に東京と京都で大規模な個展を開催した美術作家マルタン・マルジェラは、Maison Margielaの創設者でもある伝説的なファッションデザイナーだ。彼の衣服は常に、衣服と別のものを意図しない形で組み合わせることで作られてきた。例えば2001年に作られたベストは、古着の手袋のみで構成されている。

Artisinal white glove top

彼は一見価値のない安物の手袋でベストを作ることで、着用者の身体に触れるような色気を導き出し、衣服産業における価値の転換を図った。

現代では阿部千登勢が手掛けるsacaiが、最も洗練された「シュール」を体現している。

彼女の作る服はマルジェラとは異なり「え、そこでつなぐの?!」と声が出るような縫製が魅力だ。ニットとシャツ、コートとジャケットなど、別々の生活服を切り貼りするようにして作られた衣服は、結果として見たことのないシルエットやドレープを作り出す。

sacai Spring &Summer 2026 Collection

Maison Margielaもsacaiも、身近なものの不意な組み合わせが、気づかなかった美を提示する。それこそがファッション的なシュールさの醍醐味だ。

アートとデザインの融合:Dior、visvim

「りんぼく」 / ウィリアム・モリス

ファッションは、単に見た目が美しいだけでなく、社会に対する「問い」や「行動」であることもある。19世紀イギリスの作家ウィリアム・モリスが提唱した「アーツ・アンド・クラフツ」運動は、工業革命による手仕事の減少を批判し、生活とアートの一体化を目指した。この精神は、現代のブランドにも脈々と受け継がれている。

代官山に「パビリオン」と名付られた美しい店舗を構えるDior。創業者のクリスチャン・ディオールは、時代と呼応した服作りが特徴だ。「ニュールック」と呼ばれる彼の初期作は、なんと戦時中であるにもかかわらずとても動きづらい。

Christian Dior; Spring-Summer 1947 / wikimedia commonsより

このシルエットは戦時中の貧しい人々の心を刺激し、デモ運動まで起こったという。ディオールは、ただ美しい服を作ったのではなく、戦争にもへこたれない優雅な女性のための服、あるいはそうなれる服を作っていた。生活には向かないシルエットがむしろ生活を刺激するような挑発は、彼の作品が生活とアートと強く関わり合っている証拠だ。

また中村ヒロキによるvisvimは、ヨーゼフ・ボイスの「社会彫刻」というアイデアを背景に持っている。社会彫刻とは、あらゆる人間活動は社会という素材を形作る彫刻活動であるというアイデアだ。

彼の美しい素材の探究から職人の技術までを徹底する姿勢は、単なる服作りを超えた社会活動でもある。「Social Sculpture」と名付けられた定番ジーンズは、名の通り職人と着用者の関係を通じて完成する「彫刻」といえるだろう。

「見えないもの」をアートする:THE ROW、Fragment

私たちの生活は目に見えるものだけで成り立っているわけではない。現代アートもまた、目には見えない「概念」や「イメージ」を作品化してきた。例えば画家・河原温は、1960年代から、カンヴァスに日付だけを描く「日付絵画」というシリーズを展開している。この作品は一日丸ごと使って描かれたと言われているのに、それを記録した写真は一切残っていない。何が本当で何が嘘なのか…もしそれが嘘だとしても、日付絵画の向こうに河原温の1日を感じてしまう…というのが河原の目論見なのだ。つまり彼の作品は、鑑賞者の想像力そのものでもあると言える。現代ファッションもまた、形のない「ブランドイメージ」や「先入観」をデザインの対象としている。

2006年にオルセン姉妹によって設立されたTHE ROWは、極めてシンプルなデザインの中に最高級の素材を封じ込めている。特筆すべきは、彼女たちの宣伝方法だ。SNSやルックブックにおいて、服と並んで彫刻や建築の写真を提示することで、着用者の中で、彫刻の曲線と縫い目の曲線が等しく美しいことに気づかせようとしてくれている。

また藤原ヒロシ率いるFragmentは、服を作らずに「イメージ」を操作するプロジェクトだ。

Louis VuittonやMonclerといったラグジュアリーブランドとのコラボレーションにおいて、彼はロゴを載せて色を黒に変えるといった最小限のデザインしか行わない。

MONCLER FRAGMENT/MONCLERはコラボレーションラインとして定期的に他デザイナーを招いている

一見すると手抜きのようにも思えるデザインは、しかし、そのわずかな変化が、相手ブランドが持つ「伝統」という重苦しいイメージを、現代的な「ストリートの文脈」へと一気に書き換える。最小限のデザインの変化だけで服のイメージを全く変えてしまう手つきは、ものを媒介として「ブランド」という形のないものをデザインする現代アート的手法と言える。THE ROWはブランドを通じてもののイメージを、Fragmentはものを通じてブランドのイメージを作り替えているのだ。

ファッションを読み解く双眼鏡

最近ではJWアンダーソンが手がけたLOEWEのように、これら3つの要素を絶妙にミックスしたブランドも多い。

ファッションショーをただ「着るための服」としてではなく、「何を使って、どんな新しいことを提案しているんだろう?」という視点で眺めてみよう。この3つの傾向は、きっとファッションの世界を見渡す双眼鏡となってくれるだろう。

EDIT: Yuki Shibata

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