【レポート】「櫃田伸也ー通り過ぎた風景」に見た縦横無尽な風景

「櫃田伸也-通り過ぎた風景」が豊田市美術館で開幕

風景を切り取るための方法にはどんなものがあるだろうか。人は記録や記憶を使ってかけがえのない風景を残しておくのだろう。今も愛知県にアトリエを構える櫃田伸也は一貫して「風景」を描き続けているアーティストだ。現在豊田市美術館では過去最大となる回顧展『櫃田伸也-通り過ぎた風景』が開催中だ。

1941年に東京に生まれ、東京藝術大学に在学中は展覧会だけでなく映画や芝居を見て回った。芸術に限らず様々なカルチャーに関心を持っていたことは、展示されている櫃田のスクラプブックからも明らかだ。ポストカードやフライヤー、中には雑誌の広告や教科書の切り抜きまで多岐にわたる。そんな櫃田が描く絵画たちは抽象と具体、実存と本質、自由と不自由を軽やかに行き来する。

建築に伸びやかに配置される作品

気持ちのいい自然光が注ぐ展示室1

展示は2つのセクションで構成されている。2階の展示室1では、木材の格子で組まれた什器に1960年代から、未完成のままで置かれていた作品までを網羅的に展示している。様々なアプローチを試行錯誤してきた櫃田自身の頭の中を少しだけ覗けるような仕組みになっている。

会場デザインも見所の一つだ。美術館建築の名手として知られる谷口吉生設計の豊田市美術館。2階まで吹き抜けとなり間接的に自然光が注ぐ展示室に、壁面と展示什器、床置きに至るまで様々な角度で絵画が交差するように配置されている。会場構成を手がけたのは、地元愛知県で活動する建築事務所の「STUDIO大」と「おどり場」の協業によるものだ。あらゆる作品に描かれた線が空間の中で縦横無尽につながっていくようだ。

作品同士が関連しあうかのように配置されている

続く展示室では3部屋にかけておおよそ制作年代順に櫃田の代表作や資料が並べられていく。徐々に大きなキャンバスを用いたり、意識的に接続されたキャンバス

、そして90年代を境に表出していく山水への関心など、体系的に櫃田の作品と対峙することができる。興味深いのは、近年になって櫃田自身が過去の作品に加筆をしていることだ。足りない色彩を絵筆と時にはテープなどを用いて加えていく工程は、まるで変わりゆく風景の一瞬一瞬を留めているかのようだ。

体系的に櫃田の作品を鑑賞することができる

櫃田が描き出す風景とは

近年の作品では、感覚的な線とフレッシュな色彩で構成された生き生きとした表情の作品を見ることができる。2008年頃から徐々に櫃田の体を蝕むパーキンソン病の影響は計り知れないだろう。それと同時にあらゆる制約から解き放たれた自由な線に、一種の希望すら見出してしまう。

櫃田が描き続ける風景とは何なのか。少なくとも私には、目の前で見えている視覚的な景色を描く以上に、その場所の匂いや音、そこに吹く風、身体と心で得る感覚を絵画に写しとることのように感じられた。

《四季山水》1980s-2023

 

自身が使用していた作業机をキャンバスとして使用した作品。

一通り作品を見終わると、最初の吹き抜けの部屋へと戻っていく。何度でも作品を見直したくなるような濃密な体験ができる展覧会だった。同時開催として、櫃田伸也と同時代に活躍した作家や、愛知県立芸術大学や東京藝術大学での教員としての側面を感じられる作品によるコレクション展が開催されている。合わせてチェックしてもらいたい。

展示室4

「櫃田伸也ー通り過ぎた風景」

会場:豊田市美術館(愛知県豊田市小坂本町8-5-1)
会期:2026年4月4日(土)~6月21日(日) 
休館日:月曜日 ※5月4日は開館
営業時間:10:00〜17:30(入場は17:00まで)
※営業時間は変更になる場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。
観覧料:一般1,300円、高校・大学生900円、中学生以下無料
公式サイト:https://www.museum.toyota.aichi.jp/exhibition/hitsuda2026

EDIT: Ryo Hamada

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