今週読みたいアート。アートな雑誌 Vol.2

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

ちょーっと右肩下がりな出版業界において、「MEN’S CLUB」「美人百花」などなど、続々とレジェンド雑誌が廃刊していく。隆盛を極めた“夢を届ける”メディアはかつての勢いは陰る。しかしながら雑誌にしか表現し得ない世界ってものがあるのだ。ということで、前編に続き後編では、「アート」に触れられる雑誌にフォーカス。パラパラっとめくってみて、まだ見ぬ世界や華麗なクリエイティブにワクワクしてみては。

◯『Epoch review』Francesca Gavin、Leonard Vernhet・編(Epoch review)

フランス発のこのインディペンデント・マガジンは「現在と過去を対話させる」ことを目的として不定期刊行中。クリエイティブディレクターとして誌面を作成するのは、Leonard Vernhetだ。〈シャネル〉や〈シュプリーム〉や〈エルメス〉とのコラボレーション、〈オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー〉の創業者・ラムダン・トゥアミとの山岳をテーマにした雑誌『USELESS FIGHTERS』でも活躍する、第一線のアート・ディレクターだ。そんな彼が力を入れるこの本は、人類学からファッション、科学から芸術、考古学から音楽まで、様々な分野の融合を行っている。アーティスト、思想家、歴史家、人類学者など、多くの職種の人々が参加し、扱うテーマも「メタモルフォーゼ」「予言」など抽象的かつ多岐にわたる。広げまくった風呂敷をちゃーんと回収する誌面には圧倒されるし、時代の先端をいく刺激的なクリエイティブに出合ってみてほしい。

◯『Provoke 』多木浩二、中平卓馬、高梨豊、岡田隆彦、森山大道・編(二手舎)

雑誌、とひとくちにいってもZINEや同人誌まで含めるとどれほどの数がこの世にはあるだろう。そんな中でも、“伝説の雑誌”は刊行後もいつまでも語り継がれるものだ。こちら、美術評論家の多木浩二と写真家の中平卓馬によって発案され、詩人の岡田隆彦と写真家の高梨豊が加わり創刊された同人誌。1968年の刊行後、たったの3刊しか続かなかったにもかかわらず、その影響力は絶大。「思想のための挑発的資料」として書かれた内容はもちろん、デザイン面でも、先日予告されたフランク・オーシャンのニューアルバムのジャケットが、この「Provoke」を参照しているとも話題だった。復刊プロジェクトもすすみ、手に入りやすい今こそ、ぜひ読んでみて。

今週読みたいアート。アートな雑誌 Vol.1

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

本格的な暑さが到来し始めた今日この頃。休日は家で涼みながら、優雅な1日を。というか、あまりの酷暑に家にいるしかない。そんなときは雑誌をパラパラっとめくってみて、まだ見ぬ世界や華麗なクリエイティブにワクワクしてみるのはどうだろう。「アート」に触れられる、まだまだ面白い雑誌が世界にはいっぱいあるのだ。

◯『Voice of photography』Voice of photography・編(影言社)

2011年に創刊、台湾発の写真にフォーカスしたアートマガジン。「暴力」「科学資本主義」「AI」など、ニッチでハードコアな話題からトレンドの事象まで、毎号異なるテーマを展開。国内外の写真家、アーティスト、映像作家を軸に、対談やインタビュー、創作にまつわる裏事情や文化的背景、歴史などアカデミックな内容も。写真史の論考、コラム、レビューなど、写真の批評に関する側面も強い。最新号は「宣教師」の図像イメージを探った第36号。台湾を起点にアジアの写真文化を俯瞰する壮大なプロジェクトだ。

◯『So young magazine』So young magazine・編(SO YOUNG)

こちらの雑誌がフォーカスするのは音楽。ロンドン発のDIY音楽マガジンだ。音楽といっても注目するのは新進気鋭のミュージシャン&イラストレーター。フォンテインズD.C.やウェット・レッグなど魅力あふれるルーキーたちのイラストを交え、今のインディー・シーンのリアルな姿を紹介し、世界から注目を集めている。ここ日本でも2022年に特別号が刊行され、昨年末には第2号も刊行。現在もライブやパーティーを主催するなど、その活動の幅を広げながら精力的に活動中。最新号はカーディナルズ、スクワッドらを特集した第56号。是非ともチェックしてみて欲しい!

今週読みたいアート。芸術の舞台裏を描く漫画編 Vol.2

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

梅雨真っ只中のこの季節。風邪もひきやすいし、なかなか外出して楽しむ気分でもないかも。そんなときはお家のなかで読書はいかが。といっても今回紹介するのはアートに関する漫画本。芸術業界の裏側を覗き見たり、作家の葛藤を垣間見たり。きっと創作意欲も湧いてくること間違いなし。

◯『ギャラリーフェイク』細野不二彦・著(小学館)

「ギャラリーフェイク」1992年、細野不二彦・著(小学館)出典:小学館公式ウェブサイトより引用

アートコミックの金字塔であり、必読の書。主人公は雁作専門の画廊、「ギャラリ-フェイク」のオ-ナ-、藤田玲司。古今東西、あらゆる美術作品の知識はもちろん、時事問題、社会問題までをカバーする教養と情報の数々に圧倒されつつも、サスペンス仕立ての物語にグイグイ引き込まれる。基本的には1話完結なので、スキマ時間に読みやすいのもGOOD。現在も連載中の不朽の芸術書である。

◯『In: The Graphic Novel)』ウィル・マクファイル著(Mariner Books)

「In: The Graphic Novel」2021年、ウィル・マクファイル著(Mariner Books)出典:ウィル・マクファイル公式ウェブサイトより引用

ザ・ニューヨーカー誌で活躍する有名なデザイナー、ウィル・マクファイルによる最初の作品(グラフィックノベル)だ。こちら、まだ邦訳されていない作品ながら、ジワジワ注目を集めている一冊。2022年には「アイズナー賞」にノミネートし、2024年にはフランス語に翻訳された作品を表彰する「ACBDコミック賞」のグランプリを獲得。主人公は、作者を投影したかの様な、人とつながることができない若いイラストレーター、ニック。その人生の苦痛と孤独を描き出すのだが、ニックの内面に変化が現れたたとき、モノクロームのページから突如として現れるカラフルな色彩に感動する。イラストレーターという仕事が描き出す詩的な世界をとくとご覧あれ。

今週読みたいアート。芸術の舞台裏を描く漫画編 Vol.1

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

梅雨真っ只中のこの季節。風邪もひきやすいし、なかなか外出して楽しむ気分でもないかも。そんなときはお家のなかで読書はいかが。といっても今回紹介するのはアートに関する漫画本。芸術業界の裏側を覗き見たり、作家の葛藤を垣間見たり。きっと創作意欲も湧いてくること間違いなし。

◯『ブルーピリオド』山口つばさ・著(講談社)

主人公は、高校生・矢口八虎(やぐち・やとら)。「受験」という誰もが避けては通れぬ門。それがあの美大受験なら? 美大受験の克明な描写、美術に向き合う者に降りかかる試練の数々。まさかの美術×スポ根⁉︎ 美しくも厳しい美術の世界へ身を投じ、美術に青春を捧げる学生たちを描いた名作だ。自身も東京藝術大学の出身である著者が描く物語は、信念と情熱と、美術を信じる者の感性の瑞々しさに満ちている。

◯『東京ヒゴロ』松本大洋・著(小学館)

フランスでは漫画は「音楽」「文学(詩)」「演劇」「映画」「メディア芸術」と8つの分野に次ぐ「第九の芸術」と呼ばれる。ここ日本でも、文化庁の特別の機関「日本芸術院」にて新分野として「漫画」が選出された。その流れに異論を唱える人は多くないと思う。そんな「漫画」の世界そのものを抉り出した傑作がこちら。作者は『鉄コン筋クリート』『ピンポン』で知られる松本大洋。大手出版社を早期退職した漫画編集者の塩澤は、理想の漫画誌を作るため、自分が信じる漫画家たちを訪ね、執筆を依頼する。ただ“それだけ”の話なのだが、仕事・表現・友情が交差した「創作哲学」があまりに美しすぎる。もはやこれは「描く」ことの美学が詰まった、芸術作品だ!

ジョン・カフカ:意外なる文化的ルーツと、イラストの魅力に迫る。【後編】

豊かな色彩感覚と独特な構図、繊細なタッチが織りなす唯一無二の世界観。現代的なイラストレーションの美しさを更新し続ける韓国のアーティスト、ジョン・カフカ。特別インタビューの前編ではミステリアスなイメージとは裏腹に、日本のカルチャーにも造詣深く、お気に入りのブランドや映画など意外な一面も垣間見た。そんな彼の、アーティストとしての日常や創作哲学、これからの展望など、気になることを根掘り葉掘り伺ってみたインタビュー記事の後編です。

「自分の絵が好きな人をがっかりさせたくない」

B – 普段はどんな場所で制作していますか。また、制作の際に大事にしていることはありますか。

John Kafka – 普段は自宅で、iPadで制作をします。でもカフェでやるときもあるし、友達の家に遊びに行ったときにも制作することもあるので、場所を選ばないですね。作品は週に3〜4枚。多いときには週に7枚描くときもありました。 ファンの方と交流し続けたいから、絵をたくさんアップする方だと思います。コツコツと、定期的にたくさん制作することを大事にしています。あとはクラシックなどの音楽があるとより良い仕事ができる気がしています。

普段の制作の様子

B – 休日はどんなことをして過ごしていますか?

John Kafka – 本や映画が好きなので(詳しくは前編に)、散歩しながら映画館や本屋でインスピレーションを得ます。あとは、休みを作って人と会う約束をして話をするようにしています。同じ活動をしている仲間の作家さんが多くなり、自分が知らなかった習慣や見習うべき点を吸収しています。

韓国のお気に入りのお店【Sushi Ki】での写真

B – かなりストイックに制作して仕事に取り組んでいる印象です…! 原動力になっているのは何でしょうか。

John Kafka – やはり読者、鑑賞者ですね。昔は承認欲求から制作に取り組むことも多々あったのですが、そこはもうだいぶ捨てた状態だと思います。今は好きなものを描いて、好きになってもらうことが嬉しいという気持ちが大きいです。自分の絵が好きな人をがっかりさせたくないですね。

B – 取り組む作品で目指したい世界観などはありますか。

John Kafka – 一つのコンセプトで連作をするのが好きなんです。今は宗教的なコンセプトを立てて制作を進行中です。自分の良さをどう表現するか、どう説明するかをより重視していきたいなと思ってもいます。実は、日記的に日常の気分を絵に描いたことがあるのですが、後で歳をとった時に昔の作品を見ながら過去を振り返ることができたら面白いなと思って制作しています。

B – では、そうした作品を目指し制作する上で、心がけていることはありますか?

John Kafka – 好きな人、尊敬するアーティストの影響を受けながらも、あまり影響を受けすぎて似たり寄ったりになりすぎないようにしようと心がけています。ミュージックビデオなどを見て影響を受けることもあるけど、とにかく自分の好きなように表現しようという努力を怠らないようにしています。

ジョン・カフカの目指す未来。

B – 今年(2025年)から、今後挑戦していきたいことなどはありますか。また、今後GAAATと新しい挑戦や共同でやってみたいことなどありますか?

John Kafka – 絵も描き続けますが、短編小説も書きたいです。 絵画家と文章作家を両立させてみたいなと考えています。GAAATさんとは最近のホテルの展示(ザ・スクエアホテル銀座での個展『DECO』)が3月31日まで開催中です。衣料品&アクセサリーコラボの広い範囲の展示になっていて、絵ももちろんあるのですが、実際に衣装を制作して展示しています。コンセプト的なものを絵以外にもっと広げて、見所をたくさん増やして、展示場を絵のコンセプトの世界観で彩れるように目指したいです。

DECO

B – ジョンさんのアーティストとしての夢はありますか。

John Kafka – そうですね。昔思っていたレベルでの夢は叶ったけれど、最終的には絵やメッセージをより多くの人に見てもらいたいですね。自分の夢が誰かの夢になること。誰かに影響を与えられる人になることです。

B – ありがとうございます。最後に、進行中のプロジェクトや、告知したいことなどあれば教えてください。

John Kafka – 韓国ではポップアップストア(日本でも開催計画中)、日本では展示活動と画集が出版されていますので、ぜひチェックをお願いいたします。絵を描いている理由は読者の方がいてこそ、見てくれるだけで嬉しいんです。今日は色々お話を聞いていただきましたが、やはり絵を描く人間として、絵でメッセージを伝え、話をしなければならないとも思っています。これからも頑張りますので、よろしくお願いいたします。本日はありがとうございました!

今週読みたいアート。アーティストによる書籍編 Vol.2

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

だんだんと暑さを感じる今日この頃。家で涼みながら読書はいかがだろう。おすすめのアートにまつわる本を紹介する連載、今回は「アーティストによる名著」をご紹介。アーティストを志す人はもちろん、その作品を知らない人でも、作家本人の言葉をキャッチしてみれば、思いもよらないインスピレーションを受けられるはず。

◯『点と線から面へ』ヴァシリー・カンディンスキー・著/宮島久雄・訳(ちくま学芸文庫)

まるでマジシャンの種明かしのように。20世紀初頭、抽象絵画の概念を提唱した画家・カンディンスキー。自由に伸びる線、色とりどりの図形、音楽が聴こえるような創造的な構図。当たり前だけど、テキトーに描いてるんじゃなくて、計算し尽くされているのだから恐ろしい。その裏側を全公開するかのごとく、自身の絵画の構成要素を徹底的に分析し、理論的・科学的に吟味する本書。「生きた作品」の造り方を露にした名著だ。ドイツの伝説のデザイン学校「バウハウス」にて教鞭もとっていた「先生」による、必読の教科書。

◯『芸術起業論』村上隆・著(幻冬舎文庫)

昨年、京都市京セラ美術館にて開催された「村上隆 もののけ 京都」、お笑い芸人・ロバートの秋山や哲学者・斎藤幸平とのYouTubeでの対談動画など、最近も話題に事欠かない稀代の芸術家・村上隆。これだけバズを起こすのは、彼の才能の一つに、分かりやすく人に伝える言葉の力もあるんじゃないかと思う。それが遺憾なく発揮された主著がこちら。世界基準の戦略を立てる意図から、作品をブランド化する方法、プレゼンテーションの秘訣、才能を限界まで引き出す方法…。村上隆が設定する問題意識と、生き抜くための経営方法が描出される。村上の活動を理解するためだけでなく、ビジネス書としても有用。「死後評価される」と時折、憂いをもって語る村上だが、この本も益々参照され続けるはず。

今週読みたいアート。アーティストによる書籍編 Vol.1

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

6月。梅雨の湿気や新年度の疲れが溜まって気が滅入っている人も、落ち着いた日々を過ごせた人にも、刺激的な読書で印象深い初夏にしてみるのはいかがでしょうか。今回は「アーティストによる名著」をご紹介。作品ばかりじゃなく、作家本人による言葉には面白い部分がたくさんある。インスピレーションを受けること間違いなし。

◯『自分の中に毒を持て: あなたは”常識人間”を捨てられるか』岡本太郎・著(青春文庫)

「自分の中に毒を持て: あなたは”常識人間”を捨てられるか」1993年、岡本太郎・著(青春文庫)出典:青春出版公式ウェブサイトより引用

大阪・関西万博の開催で、1970年当時の万博の映像を目にする機会も多いこの頃。当時から現在まで絶大なるインパクトを残すのが『太陽の塔』。作品と同じく、亡くなって約30年が経った今もなお存在感を発揮しているのが作者の岡本太郎だ。「芸術は爆発だ」の名言に代表されるように、言葉の訴求力も高い岡本。「無難な生き方ばかり選んでないか」「自分の殻を破ってみないか」「自分の中に毒を持ってみようよ」そんな意図が込められた刺激的で人間愛に溢れた岡本の金言の数々に痺れる。チルが求められる時代にこそ必読……いや必毒の一冊。

◯『グレン・グールド著作集』グレン・グールド・著/ティム・ペイジ・編/宮澤淳一・訳(みすず書房)

「グレン・グールド著作集」2025年、グレン・グールド・著/ティム・ペイジ・編/宮澤淳一・訳(みすず書房)出典:みすず書房公式ウェブサイトより引用

カナダといえばマーシャル・マクルーハンなどメディア論・メディア研究の大家を輩出した国でもあるけれど、同じく20世紀に活動したカナダの知識人として、グレン・グールドを推したい。ピアニスト、グールドは22歳で米国デビュー。若い頃より名声を欲しいままにしたが、64年のリサイタルを最後に突如として舞台から退き、以後はレコードと放送番組のみで演奏活動を続けた一風変わった存在だ。クールな佇まいに、独自の解釈を施した演奏から、いまだにファンも多いグールド。音楽論やメディア論をめぐって文筆も行なう思想家としての一面も持ち合わせる。35年ぶりとなる新訳で、彼の辿った軌跡と深い思考の数々を追ってみてほしい。伝説の「クラシック」ピアニストが如何に「現代」を鋭く分析していたかがわかるはず。

ジョン・カフカ:意外なる文化的ルーツと、イラストの魅力に迫る。【前編】

豊かな色彩感覚と独特な構図、繊細なタッチが織りなす唯一無二の世界観。現代的なイラストレーションの美しさを更新し続ける韓国のイラストレーター、デザイナー、ジョン・カフカ。SNSの投稿で注目を浴びて以来、ここ日本でも個展の開催やAdoのカバーソングMVを手掛けるなど、活躍を目にする機会が増えた。ジョンはよくある英語名から、カフカはあのドイツの作家フランツ・カフカから頂戴したという名前からして、ミステリアスなイメージも多い彼だが、アーティストになるまでの来歴やこれからの展望など、気になることを根掘り葉掘り伺ってみたインタビュー記事の前編です。

花死

ジョン・カフカがアーティストになるまで。

B- 本日はよろしくお願いいたします。昨年の日本での個展「DECO」(@ハラカド)「閻羅-KARMA-」(@ミカン下北沢)はいかがでしたか?

John Kafka-東京には観光でよく行っていたのですが、個展を日本で開催したのは昨年が初めてでした。日本は展示の文化も活発で、ファンの方との交流も楽しかったです。自分の作品を気に入ってもらえたことがとても嬉しく、これからも活動を続けたいと思う原動力になりました。日本はサブカルチャーの聖地ですし、実は今年も日本で予定していることがあるんです(詳しくは記事後編で)。

B- 普段はどんなことをされているんですか?

John Kafka- フリーランスでイラストレーターとして活動しつつ、絵の講師として授業も受け持っています。

B- 先生なんですね! そんなジョンさんのこれまでの来歴を聞いてもいいですか?

John Kafka- 絵に興味を持ったのは高校生のときです。最初は趣味としてのスタートでした。美術大学を卒業して、ウェブデザインや出版・編集の仕事に関わるなかで、自分の画集を出したいという思いが強くなったんです。本格的に作家活動を志したのは3年ほど前で、 ゲームイラストや広告イラストのお仕事をしつつ、今回の展示を機に念願だった画集も出版することができました。

B- そもそも、アーティストを志すきっかけは何だったのですか?

John Kafka- 絵は昔から好きだったのですが、職業にするつもりはなかったんです。でも以前、ある作家さんの画集の表紙を手伝った際に、世界中の人に自分の絵を見せられるってすごいなあと思ったんです。素敵な絵を描いて出版できるって良いなと。その方は今も応援してくれる恩人のような人で、その時に感じた“画集を出版したい”という思いがきっかけかもしれません。

花火 ※アーティストとして初期の頃の作品写真

B- 人気が出るきっかけはありましたか?

John Kafka- うーん、自分としてはまだ人気があるとは思わないですが、有名なアーティストの方々と一緒に絵を描いたり、自分の好きなものや伝えたいことをみんなが見つけてくれたり好きになってくれたりしたときに、少しだけ実感します。

B- これまでどんなポップカルチャーに触れてきましたか?

John Kafka- 普段の興味は、映画、音楽、小説などの本、詩(俳句)です。王家衛(ウォン・カーウァイ)監督や黒澤明監督の映画作品が好きで、特に『羅生門』や『夢』がお気に入りです。King gnuやAdoなどのアーティストにも、歌詞や創作方法といった面からもとてもインスピレーションを受けています。

B- では、ご自身の創作活動に影響を与えたアーティストはいましたか?

John Kafka- 絵に関しては、20世紀初頭に活躍したアメリカのイラストレーター、J・C・ライエンデッカーの影響が大きいです。日本ではイラストレーターの米山舞さんやタイキさんが好きです。それから米津玄師さんです。ひとつにとらわれない自由さに影響を受けました。

B- ライエンデッカーの影響も意外ですが、日本のカルチャーへの造詣の深さにも驚きです。作品制作のプロセスについて教えていただけますか?

John Kafka- 資料・参考文献をたくさん探すところから始めます。自分の得意な領域とどう混ぜられるかラフを練り、色を乗せながら、その都度方向性を決めます。自分はレイヤーはあまり使わないですね。最後に補正とシルエットチェック。その時、未熟な部分や修正すべきところがあれば、その都度取り除いて修正を重ねています。

制作の“悩み”と喜び。

B- ジョンさんはデジタルが創作の中心だと思いますが、アナログではなくデジタルを選んだ理由や、違いを感じる瞬間はありますか?

John Kafka- 油絵や水彩画ももちろん好きです。SNSも映像も簡単にアプローチできるのがデジタルで、自分もコミュニケーションのためにデジタルアートを多く制作しています。でも、アナログとデジタルは一緒に制作していくべきだとも思います。デジタルの上にアナログを貼るとか、 並行していくことが大事なポイントだとも思うんです。

B- 二つに分けずに同時に制作していく大切さですね。ちなみに、昨年のハラカドの個展「DECO」では、メタル製のキャンバスに作品が再現され、デジタルアートがフィジカルアート(MCA)になっていました。その垣根の超え方は、どのように感じましたか?

John Kafka- メタルキャンバスってこんな使い方もあるんだと、実物を見てとても良かったです。自分の表現が未熟で完全に生かせなかったんじゃないかと思うくらい魅力的な素材ですし、次やるときはもっと上手くやろうと思っています!

B- 制作以外で熱中していることはありますか?

John Kafka- 趣味を楽しむ時間をあまりとれていないのが残念なのですが、小説や詩集などの本を読むことや、アクセサリーが好きです。リックオウエンスやコムデギャルソン、グッチ、ヴィヴィアンウエストウッドなどなど。

B- そうなんですね! たしかに、人物の服装やアクセサリーなどデザインもジョンさんの作品の魅力のひとつですよね。ご自身のお気に入りの一枚を教えてください。

John Kafka- 「カルマ」という作品です。これは反省がテーマの作品で、絵を描きながら過去を振り返ってみたんです。自分はこれまで、キャリアに役立つものや興味のあるものだけをテーマに、誰かのために絵を描いたことがありませんでした。 家族や友人や周りの人を表現する絵を描いたことがなかったんです。“自分だけのために絵を描いていたんだな”と反省をしました。実は、母親が仏教徒で、それに関連する本を読んだことで、コンセプトの方向性が決まりました。「カルマ」とは業という意味で、因果を示すものです。そして自分の反省の気持ちやメッセージを投げかける作品になりました。

カルマ ※自身のお気に入りの作品写真

B- AdoのカバーMV、Eveの“音楽を絵にする”・トリビュート企画アルバム「Under Blue」への参加など、コラボレーションはいかがでしたか。

John Kafka- 個人的にファンアートを制作するほどすごく好きなアーティストだったので、とても嬉しかったです。ファン心を表現した絵になっていると思います!

B- MV、ゲームイラスト、個展に向けた作品制作など、それぞれ違いはありますか?

John Kafka- 昔はそれぞれの制作を分けて考えていたけど、大きな違いはないかな。ゲームイラストに関しては注文されたものだけを制作しています。コラボ制作は、ミーティングでコンセプトを話し合うところからはじめるのが、普段の制作とは異なりますね。

B- 制作過程の中で、行き詰ったことや大変だなと感じた体験や、逆に嬉しい瞬間はありますか?

John Kafka- 作品ごとに大変さを感じます。いつも大変だけれど、絵も消費していくので、自分の絵に見飽きることもあります。なんというか…アイデンティティが停滞してしまう感じ。自分のスタイルを維持してそのままだとマンネリ化してしまうかもしれないし、かといってそこから外れると自分じゃないような。そういう難しさを感じます。嬉しい瞬間としては、コラボレーションをしたときに気に入ってもらえることです。それから、「カルマ」を展示した時、日本のお客さんが家族で来客して鑑賞して下さって。“ジョンさんのおかげで絵を始めた”と言ってくれたとき。とても感動したと同時に、自分の活動により重みを感じた瞬間ですね。

後編へ続く。

今週読みたいアート。入門書編vol.2

4月は出会いの季節…。今一度、アートの世界と出会ってみよう。ということで今月フォーカスするのは「入門書」。ひとくちに美術といっても様々な切り口があるけれど、「よく分からない」の意見も多い現代アートについての書籍と、美術史に関する意外な一冊をご紹介。

◯現代アートとは何か/小崎哲哉・著(河出書房新社)

「現代アートとは何か」2018年、小崎哲哉・著(河出書房新社)出典:河出書房新社公式ウェブサイトより引用

現代アートを説明する文章は数あれど、どんな問題や議論を孕んでいるのか、「アートワールド」と呼ばれる世界が如何なる輪郭をもつのか、詳細に紹介しているのが本書だ。「現代アートを司るのは、いったい誰なのか?」そんな問いから、アートの動機や裏側を軽やかに暴いていく。現代アート界の内幕を描き、カンヌ国際映画祭パルム・ドール(最高賞)も受賞した映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(監督:リューベン・オストルンド)や、『現代美術史』(山本浩貴・著/中公新書)も併せて読むとさらに理解は深まるかもしれない。

◯ 改訂版 西洋・日本美術史の基本 美術検定1・2・3級公式テキスト/美術検定実行委員会・編(美術出版社)

「改訂版 西洋・日本美術史の基本 美術検定1・2・3級公式テキスト」2014年、美術検定実行委員会・編(美術出版社)出典:美術出版社公式ウェブサイトより引用

少し異色の本を。こちら「美術検定」という美術検定協会主催の検定試験の公式テキスト。美術の知識や教養をテストするための教科書なのだが、図説や内容のカバー範囲が幅広く、美術の入門書としてもバッチリ。特に日本と西洋両面を抑えており、各時代の要点を掴めるところがおすすめ。TOEICの単語帳から英単語を勉強してみるように、このようなテキストから美術を学んでみるのもいいかも。ついでに毎年開催されている試験を受けてみては? 

それでは、みなさまのより楽しいアートライフを祈って、また次週!

今週読みたいアート。入門書編vol.1

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

4月は出会いの季節…。今一度、アートの世界と出会ってみよう。ということで今月フォーカスするのは「入門書」。今回はあえて新刊本ではなく、既に発売されており価格もお手頃で、手に入りやすいものから選んでみました。勉強…とまでは言わないけれど、読んでおけば、作品と出会ったときの体験にもさらに深みがでてくるはず。

◯ 美術の物語/エルンスト・H・ゴンブリッチ・著(河出書房新社)

「今週読みたい」と銘打っておいてなんだが、こちらの本は一生もの。美術の歴史を知りたければ、とにもかくにも、これを読んでおけば間違いない教科書的一冊だ。本書の1番の凄味は、一貫して優しい言葉で記されている点。なにかと専門用語の多い美術の世界でも、とにかく分かりやすく、図説を配置しながら、スタートとなる「ラスコーの洞窟壁画」から現代アートに至るまでの膨大&壮大な美術の世界へ読みやすく展開する。主に西洋にフォーカスしているが、社会的、歴史的な背景とともに、理解が進むはず。昨年10月には河出書房よりポケット版(内容同じく新書に近いサイズ)が発売されている。お値段もお手頃なので一家に一冊ほしいところ。「ポケポケ」も話題だけどこちらの「ポケット」もお忘れなきよう。

◯20世紀美術/高階秀爾・著(ちくま学芸文庫)

昨年逝去された高階秀爾氏による一冊。高階氏は日本を代表する美術史家・美術評論家だ。2000年まで国立西洋美術館長を務め、『名画を見る眼』や『近代絵画史』など著書に代表作も多く、多くの美術学徒たちにとっての心の先生的存在ではなかろうか。とにかく平易な言葉を用いて美術のコンテクストを説明してくれるありがたい存在。なかでも本書は文庫なので手に入りやすい点と、「難解」なイメージのある「現代美術」がはじまった20世紀にフォーカスしている点からおすすめ。いわゆる美術史をおおまかにつかんだら、この一冊を手に取ってみよう。モネら印象派の登場の後、戦争の時代を挟み、どのようにして今日の現代アートへと至るのか、コンパクトにストーリーを追っていける。図版多数なのも親切設計だ。

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