【インタビュー×イベントレポート】「感情展-短歌で詠み、イラストで描く-」で目の当たりにした“感情”の輪郭 – 前編

日本を代表するイラストレーターでありアートディレクターのMika Pikazo。彼女がクリエイティブディレクションを務める短歌とイラストの展覧会「感情展-短歌で詠み、イラストで描く-」が、角川武蔵野ミュージアムで開催中だ。

総勢39名ものイラストレーターと11名の歌人が一堂に会した大規模展示の見どころは?

Mika Pikazo単独インタビューに加え、内覧会で出会った参加作家たちへのゲリラインタビューを収録しながら、前後編にわたって現地レポートをお届け。

短歌とイラストをどう組み合わせるか

「感情展-短歌で詠み、イラストで描く-」会場の様子

はじめて短歌に触れたのは、学生時代。教科書で触れた程度のものだったのが、大人になり、一冊の本に出会った。歌人の榊原紘による著書『推し短歌入門』だ。

「その本では、好きなアニメや映画の良かったシーンを、推し活のような感覚で短歌として詠むんです。その時に、いかにそのままの表現を使̇わ̇な̇い̇で詠むか。『嬉しい』、『悲しい』などの直接的な言葉を使わずに表現する方法が解説されているんです。」

Mikaさんのイラスト表現とはむしろ逆のアプローチですね?

「私はその時の感情をそのまま正直に描くことが多いです。短歌では、直接的な表現ではなく、物に例えたりしますよね。『悲しみ』の表現として『傘』とか『深夜』を使ったり。それでも、表現に先立つ『感情』はイラストとも共通しているはず。今回はそうした『感情』をテーマに、様々な角度から展示を構成しています。」

入り混じる愛と恐れ

5つのエリアからなる会場の最初を彩るのは、CHAPTER 1「感情の起源」。

直径3200cmのMika Pikazoによる大作「愛、恐れ」が構える。

対となる2つの作品は、それぞれ「愛」と「恐れ」という根源的な感情を描いており、一つの部屋を二分するように中央に背中合わせに展示されている。

Mika Pikazo / 「愛、恐れ」

突き詰めると「感情」とは、実態がなく本来共有のしようがない虚構かも知れない。それでも伝えることを諦められないのが人間が人間たる所以であり、その度に人は創作の力を信じてきた。

この区画で展示されている石川啄木と与謝野晶子の歌は、時を超えてMika Pikazoの内から滲む「愛」と「恐れ」と共鳴している。そしてそれは、そこに立ち入る鑑賞者である私たちにも語りかけてくる。

Mika Pikazo

「この2つの作品は、サーモグラフィーをモチーフに制作しました。赤や黄色だと体温が感じられるのに対して、青や水色だと死を連想させるようなニュアンスがありますよね。太陽を浴びているような生命力と、深海の中で恐怖のまま体が動かなくなっているような感覚をイメージしながら描きました。」

この2つの作品では、どちらから先に制作に入りましたか?

「『愛』を先に描き始めましたが、先に完成したのは『恐れ』を描いたものです。」

「恐れ」を描く時、気持ちは沈むものですか?

「凄く辛かったですね。敢えて怖い映像や音楽に触れたり、普段はなるべく考えたくないようなことをリフレインしながら描いていました。

逆に赤い絵の方、『愛』を描いた作品では、そうした『恐れ』を跳ね返すように描きました。自信を持ってそこに立っているように…。

ただ、『感情』は簡単には分けられません。幸せな気持ちの中には恐れもあるし、逆もそうだと思っています。

私自身、幸せな状態だと、いつ死んでもいいなと思ってしまう時があるんです。今が幸せで楽しんでいるのに、その先の、例えば『死』について考えている。 この明るさがずっと続けばいいな、ではなくて、楽しい時ほど終わってもいい、と思ってしまうことがあるので、そういった複雑さの中にある『愛、恐れ』を描きました。」

短歌は時代と国境を越えて

CHAPTER 2「時代を越える感情」の様子

続くCHAPTER 2「時代を越える感情」では、天井から吊るされた雄大な短歌幕が印象的だ。古物の置かれた台座を中心に対になるように展示された2つの幕。右側が近代歌人の詠んだ歌、それに対して左側の幕で現代の歌人が返歌をするという試みで、時を経ても変わらない人間の「感情」を明らかにする。

ここには冒頭で紹介した『推し短歌入門』の著者である榊原紘の作品も並んでいる。


そしてこの区画で注目したい点は、時代だけでなく、国境を超えていく短歌の姿だ。

今回の展示では、短歌の英訳に際し、ピーター・J・マクミランを招聘している。英訳『百人一首』をはじめ、様々な著書を手掛けてきた短歌英訳の第一人者で、参加した現代歌人の伊波真人は、彼による英訳を意識しながら歌を詠んだと語る。

「基本的に普段詠む歌は英訳されないので、凄く新鮮でした。ピーターさんは元々好きな方だったので、どのように翻訳されるのか意識しながら作った部分はあります。英訳されたものは自分のイメージとはまたちょっと違っていて非常に面白かったです。外国の方やイラストレーションファンの方々が初めて短歌に触れたり、その逆もあると思いますが、化学反応が起こるような素晴らしい展示だと思います。」

言葉にできない

CHAPTER 3「言葉にできない感情」の様子

漢字の部首などを解体し再構築した“存在しない言葉”が中央で弾けて、それらを取り囲むように、19のイラスト作品が円形に連なるCHAPTER 3「言葉にできない感情」。

現代を代表するイラストレーターの面々が、言葉にできない「感情」をイラストに託したこのエリアでは、内に向かって飾られたイラストの外面に、各作家の制作に際した想い、感情が記されている。

作品の説明に終始することの多いミュージアムの解説文としては珍しく、作品の持っている言葉のようなものや感情を詩的に吐露する文章は、感情をテーマにした展示ならではだ。それらは会場で体感して頂くとして、後編では、内覧会で居合わせた作家へのゲリラ取材をまとめて掲載。お楽しみに…!

「感情展-短歌で詠み、イラストで描く-」

会期:2026年2月13日~2026年3月29日
会場:角川武蔵野ミュージアム
アドレス:埼玉県所沢市東所沢和田3丁目31−3 ところざわサクラタウン
休廊:火曜
開館時間:10:00~18:00(最終入館:17:30)
※休館日、営業時間は変更となる場合があります。最新情報は公式HPよりご確認ください。
公式サイト:https://kadcul.com/event/251

交錯するアートーミュージックビデオに取り込まれていく現代アーティストたち

楽曲の世界観を視覚的に表現するミュージックビデオ。遡れば1983年、マイケルジャクソンがリリースした「Thriller」のショートフィルムとも言えるミュージックビデオを境に、総合芸術としてのミュージックビデオというジャンルが確立されただろう。(2026年現在で11億回再生を誇る!)

ミュージックビデオは再生数が増え続けることに価値があり、複製を前提としたメディアである。一回性が魅力の「アート」とは真逆の存在であり、現代アーティストたちにとって最高の実験の場となる。ミュージックビデオを手掛けてきた三人の現代アーティストたちを取り上げ、交錯するアートと音楽の世界を考察する。

村上隆:ポップアートの文脈をミュージックビデオに落とし込む

村上隆にとってミュージックビデオは、単なるコラボレーションの場ではなく、自身の美術理論を実装するための拡張空間である。その象徴が、Kanye Westとの協業による「Good Morning」「Stronger」だろう。ここで見受けられるのは、村上自身が提唱する「スーパーフラット」ー日本画に端を発する平面性、キャラクター、カワイイの系譜ーだ。カニエ・ウエストという時代を切り開くカリスマの音楽作品に、マンガやアニメをモチーフとする村上隆の映像を全面的に流し込んだ。

重要なのは、これらのミュージックビデオが「楽曲のための映像」に留まらず、村上隆の作品世界の一部として機能している点である。キャラクターや色彩や構図は、のちの絵画や立体作品とも連続し、ミュージックビデオが一時的なプロモーションではなく、村上隆の美術作品群の一部として組み込まれている。

国民的ユニットとも言えるゆずであっても村上隆の考え方は変わらない。2002年にリリースされた「アゲイン2」という楽曲では、ミュージックビデオの中に村上隆の「お花」が印象的に登場する。その系譜は時代の寵児NewJeansへと続いている。2024年にリリースされた「Right Now」のミュージックビデオでは、パワーパフガールズとともに村上隆の「お花」が登場する。

村上隆はカニエウエストやゆず、NewJeansとのコラボレーションにおいていずれも長い友好関係を築き、完売必至のグッズなど話題には事欠かない。それも村上隆のキャリアにとっても欠かせない存在となっている。ミュージックビデオは従属的なメディアではなく、アートが大衆文化へと増殖するための戦略的装置として扱われているのだ。

蜷川実花:色彩感覚の舞台装置としてのミュージックビデオ

写真家や映画監督として知られる蜷川実花とミュージックビデオの関係性は、村上とは対照的である。蜷川は理論や美術史などを前面に押し出すのではなく感覚的だ。写真家として培った色彩感覚と被写体の扱い方を、そのまま映像空間へと移植する。AKB48「ヘビーローテーション」三代目 J Soul Brothers「花火」など、彼女が制作したMVに共通するのは彼女ならではの色彩、華々しい装飾物、そして被写体を美しく映し出す照明など画面を包み込む装置的な美術である。

蜷川のMVにおいて空間は感情や欲望を視覚化するセノグラフィーとして機能し、静止画として完成された構図を映像的なシークエンスとしてミュージックビデオに体現しているといえる。

ダミアン・ハースト:完全に現代アート化されたミュージックビデオ

最後に紹介するのはダミアン・ハーストだ。彼がミュージックビデオを制作していたことをするものは少ないかもしれない。イギリスを代表する現代作家であるダミアンは、30年以上にわたるキャリアの中で芸術、宗教、科学、そして生や死といったテーマを深く考察してきた。代表作であるサメを巨大な水槽でホルマリン漬けにした作品「生者の心における死の物理的不可能性」や、107点に及ぶ連作「桜」シリーズなど多岐に渡る。その中でダミアンは1995年にメンバーであるアレックスの大学時代の友人として親交のあるBlur「Country House」で監督を務めている。

作品内では彼の美術作品と同様に、生と死、滑稽さと不穏さが同居し楽曲の魅力と相まって何度も鑑賞してしまう味わい深さがある。ダミアン・ハーストはこのミュージックビデオが公開された年のターナー賞を受賞し、その立場を不動のものとした。

【インタビュー】 感情を込めない。つのさめの描く無機質の美学- 後編

緻密な線を積み重ねることで生まれる、つのさめさんの不思議な世界観。後編では、彼女の思考を形作るプライベートな関心事や、現在連載中の漫画『キョンシーちゃん』に込めた想い、そしてクリエイターとして「細く長く」歩み続けるためのフラットな姿勢について話を訊いた。

「わからないもの」への好奇心とSF的思考

つのさめさんの作品には、魚や海辺のモチーフ、あるいはSF的な要素も登場します。ご自身のルーツとして、何か影響を受けているものはありますか?

つのさめ – 子供の頃は、いわゆる「ジャンプ漫画」や「ポケモン」といったポップなものが好きでした。でも、それとは別に図鑑を眺めるのが好きだったんです。魚、虫、そして宇宙。
大人になってから気づいたのですが、私は「自分が理解できないもの」に対して、ずっと強い好奇心を持っていたんだと思います。

それが、今の「情緒の読めない」作風に繋がっているのでしょうか。

つのさめ – そうですね。「感情を込めない」という作風も、絵を描きはじめた子供の頃からずいぶん経ってから気付いたものです。はじめのうちは「感情」を表現しないといけないとばかり思っていました。それが、自分の本当に好きなものに気がついて、時間をかけて徐々に今の作風に変わっていったんです。
最近は特にSF小説や、一般向けの科学解説書をよく読んでいます。科学に詳しいわけではないのですが、そこにある「まだ解明されていない不思議」や未知のものに触れるのが楽しいですね。

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最近、大阪万博(2025年)にもかなり熱心に通われていたとお聞きしました。

つのさめ – もう狂ったように通っていました(笑)。今はネットで何でも調べられますが、その場に行かないと体感できないものがあると思います。巨大な建造物や世界の衣装、最新のロボット……。二次元では表現しきれない「生の体験」に溢れていて、出不精な私にはすごく刺激的でした。

万博での体験が、絵に影響を与えることも?

つのさめ – 直接的に「これを描こう」となることは少ないですが、長期的な視点で見れば、自分の気持ちの方向性を変えてくれている気がします。特に落合陽一さんの「null2(ヌルヌル)」では、AIが自分そっくりの姿で語りかけてきて、自分の存在意義を問い直させられるような哲学的な面白さがありました。ああいう「攻めた内容」を大きな規模で見せてもらえるのは、一人のクリエイターとして純粋に感動しました。

メッセージを込めない、という選択

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ご自身の作品を通じて、読者に伝えたいメッセージなどはありますか?

つのさめ – 実はないんです。むしろ、意図的にメッセージが込もらないようにしているくらいです。

ちょっとわかる気がします。作品としての意義や作為性、メッセージ性から一切離れて、目の前の作品に純粋に感動するような。

つのさめ- 私は、パッと見て「何を考えているかわからない」温度感や、その場の空気感が「なんかいいな…」と思ってもらえるだけで十分なんです。自分が純粋に好きだと思った光景を、言葉にできないまま形にしたい。見る人にも、そのままを受け取ってもらえたら一番嬉しいですね。

現在連載中の漫画『キョンシーちゃん』では、イラストとはまた違うアプローチをされていますね。

つのさめ – 漫画はイラストと違って、どうしても「感情」を描かなければならないので、実は今でも悩みながら描いています。本来、私は感情を描くのが苦手なのですが、キャラクターが何を考えているかを読者に伝えるのは漫画としての醍醐味でもあります。「イラスト」と「漫画」、この両方の作風の差をどう埋めていくかが今の私の課題です。

「細く長く」続けていくことの豊かさ

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普段、制作に行き詰まることはありますか?また、そんな時のリフレッシュ方法があれば教えてください。

つのさめ – 構想を練る段階はいつも苦しいです(笑)。そんな時は散歩をしたり、本を読んだり、猫を撫でたり。ごく平凡な暮らしをしています。散歩中にポッドキャストを聴いているときや、あえて何も聴かずに歩いているときに、ふと「あ、これを描こう」とアイデアが降ってくることもありますね。

日々のルーティンの中で、創作が呼吸のように組み込まれているんですね。

つのさめ – ただ、今はまだまだ絵に向き合う時間が少ないと思うので、一日に6時間は机に向かうように頑張っています。一人だと集中が切れて本を読み始めてしまうので、友達と作業通話をして雑談しながら、自分を机に縛り付けています(笑)。

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最後に、今後の展望について教えてください。

つのさめ – 何か大きな野望があるわけではなく、今の状態を「細く長く」続けていけたらいいな、という気持ちが一番大きいです。仕事として受けるものも、できるだけ自分の趣味とかけ離れないように。自分が「いいな」と思えるものを、これからも淡々と、静かに積み重ねていきたいと思っています。

 つのさめさんの語り口は、その作品と同様にフラットで、どこか浮世離れした心地よさがあった。「わからないもの」を「わからないまま」愛でる。その潔いまでの無機質さが、かえって私たちの想像力を刺激し、彼女の描く緻密な白黒の世界へと深く沈み込ませてくれるのだろう。

【インタビュー】 感情を込めない。つのさめの描く無機質の美学- 前編

SNSを中心に、緻密なペン画と、どこか捉えどころのないキャラクター「ちえさん」で支持を集めるイラストレーター・漫画家のつのさめ

一見すると可愛らしく、しかしじっと見つめていると、そこには魚や虫のような「思考の読めない」静かな不気味さが漂っている。

緻密に描き込まれた背景と、極限までシンプルに削ぎ落とされたキャラクター。その鮮やかなコントラストは、いかにして生まれたのか。大阪に構える「シカク」で開催された個展の余韻が残る中、彼女の創作の原点と、「ちえさん」という不思議な存在について話を訊いた。

「ちえさん」って何者!?

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つのさめさんの作品には、象徴的なキャラクターである「ちえさん」が頻繁に登場します。彼、もしくは彼女はどのような経緯で生まれたのでしょうか?

つのさめ – もともとは、私が一番最初に描いたオリジナルの創作漫画に出てきたキャラクターなんです。最初は、パン屋さんかどこかでバイトをしている設定で、三角巾をつけて働いている女の子として描いていました。

でも、落書きを繰り返していくうちに、気付けば最初の設定は薄れて、どんどん曖昧な存在になっていきました。三角巾の「出っ張り」の部分が、いつの間にか髪の毛として定着してしまって(笑)。シルエットとして、三角巾を外したときもこの形だったら面白いな、と思って今の姿になったんです。

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あの特徴的な髪型は、もともと三角巾だったんですね。一つの画面に、ちえさんが何人も登場する作品も印象的です。彼女たちはそれぞれ別人なのでしょうか?

つのさめ – 実は、あまり具体的な設定を作り込んでいるわけではないんです。「画面に同じキャラがいっぱいいたら面白いな」という、すごく素朴な理由で描いています。おじさんになったり赤ちゃんになったりすることもありますね。

私はもともと不思議なものが好きなので、日常的な風景の中に、同じ顔をした存在が複数いるだけで、急に「不思議な空間」になる。その違和感が気に入っています。

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ちえさんの表情には、どこか読めないところがあるというか、愛くるしさの中に、突き放したような不気味さのようなものを感じます。

つのさめ – そう言っていただけると嬉しいです。私自身、創作の中で「情緒」を描くことがあまり好きではないというか……。何を考えているか分からないものが好きなんです。

例えるなら、虫や魚のような感じ。カニやイカなどを頻繁に描くのも、曖昧さや無機質な感覚を描けるからです。言葉にできない、「人間的な感情」が通じないような無機質さに惹かれるんだと思います。私の中では、そうした感覚を表現出来るのが、絵を描くことの魅力です。

トーベ・ヤンソンに見た「コントラスト」の美学

背景の描き込みが非常に緻密な一方で、キャラクターは非常にシンプルですよね。このギャップについては意識されているのでしょうか。

つのさめ – そうですね。キャラクターを際立たせるために意識して描き分けています。影響を受けているのは、『ムーミン』の作者であるトーベ・ヤンソンさんや、水木しげるさんです。

水木しげるさん!確かに、妖怪たちは個性的ですが、背景の自然描写は驚くほど緻密ですね。

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つのさめ – そうなんです。あとエドワード・ゴーリーのペン画にも強く憧れました。背景が緻密で、キャラクターがシンプル。そのバランスが生む、不穏でかっこいい空気感を目指したくて、今のスタイルに辿り着きました。最近の作家さんだと、panpanyaさんや、ネルノダイスキさんの表現からも大きな刺激を受けています。

違っていたらすみませんが、あずまきよひこさんの『よつばと!』からの影響もあるのかなと感じました。

つのさめ – 『よつばと!』も好きですね!キャラクターの線がスッキリしていて。直接的に影響を受けているかは分かりませんが、もしかすると無意識に影響を受けているかも知れません。

らくがきアニメ

作画工程についても伺いたいのですが、アナログのような質感がありつつも、基本的にはデジタルで描かれているとお聞きしました。

つのさめ – はい、基本的にデジタルです。もともとすごく不器用なので、デジタル特有のコマンドZ(戻るボタン)がないと不安で(笑)。でも、アナログの質感にはずっと憧れがあるので、テクスチャーを工夫してアナログ風に見せています。

最近、大阪で個展を開催した際にアナログ制作にも挑戦してみたのですが、やってみたら意外と描きやすさや発見があって。これからは少しずつ、アナログの作品も増やしていけたらいいなと思っています。

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白黒の「ペン画」へのこだわりはありますか?

つのさめ – 個人的なこだわりはそこまでありません。昔は色を使って描くことも多かったのですが、最近はとにかく「ペン画」が楽しくて。タイミングがあれば、カラフルな絵もどんどん描いていきたいです。

そうなのですね…!つのさめさんの作品の中の、言葉に出来ない不穏な世界観は、「ペン画」との相性がすごく良いとも感じたので、ちょっと意外でした。

つのさめ – それもあると思います。実際、「ぺン画」を描いてからの方が、人に見てもらえる機会が増えて、反応もよかったんです。やっぱり反応があると嬉しいので、それでついつい「ペン画」を描いちゃうみたいなとこもありますね(笑)。流されすぎな部分はよくないかも知れませんが…。

「無心になれる」ハッチングの時間

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制作の中で、一番「楽しい」と感じる瞬間はどこですか?

つのさめ – 仕上げの段階で「ハッチング(細かい線を重ねて影をつける技法)」をしているときですね。ここはもう、無心で黙々と手を動かすだけなので、すごく楽しいです。

逆に、構成を考えたり煮詰めたりする段階は、正直かなり苦しいです(笑)。だからこそ、何も考えずに線を引き続ける作業の時間が、自分にとっては癒やしなのかもしれません。

SNSでは「クロッキー」という言葉を添えて投稿されていますが、あの緻密な背景もクロッキーのスピード感で描かれているのでしょうか?

つのさめ – あ、あれは完全に「名残り」なんです!最初は練習として短い時間で描くクロッキーを上げていたんですけど、だんだん描き込みが増えていって、今は全然クロッキーじゃない(笑)。でも、フォロワーの皆さんもその呼び方で覚えてくださっているので、まあいいか、と思ってそのまま使い続けています。

そうだったのですね!謎がひとつ解けました…!笑

後編では、「わからない」もの、「情緒が読めない」ものへの興味のルーツ、そして心底ハマったという「大阪万博」の話、そしてこれからの展望を深掘りしていきます。お楽しみに。

テレビの世界もアートがいっぱい。

「オールドメディア」なんて言葉が流行語にノミネートした今年。
テレビや新聞、雑誌などかつてのエンタメ、報道メディアはインターネットや配信コンテンツ、SNSなどと比べて“オールド”と目されている。ただ、スマホやネットを用いて個人が人それぞれの趣味を楽しめる昨今において、「みんな」に向けてコンテンツを制作する姿勢は“オールド”ながら唯一無二の魅力でもある。それに、NetflixやAmazon Primeで全世界へ配信される日本のバラエティ番組のコンテンツを見てみると、その制作力だって、バカにできないはずだ。

 で、そんなテレビ番組が“みんな”へ届けるコンテンツのなかでも、報道、バラエティ、お笑い、音楽、など様々なジャンルがあるように、アートな内容を堪能できるものがある。本稿では、そんなアートなテレビ番組をご紹介。テレビ離れが叫ばれ久しいが、今一度リモコン(もしくはTVer)片手に、ぜひ一読を(出演者の名前は敬称略)。

ゴールデン帯人気番組から深夜帯のマニアックな放送まで。

プレバト!!」は2012年からTBS系列で放送(現在、木曜19時〜)されているバラエティ番組。
浜田雅功司会のもと、芸能人による「俳句査定」、「いけばな」、「水彩画」、「消しゴムはんこ」などなど「才能査定ランキング」としてさまざまなジャンルの“才能”の査定を行う。2023年には、「『知的エンターテインメント』ジャンルで、放送の開始から10年以上にわたって多くの人に支持され続けてきた」との理由で、第31回(令和4年度)の橋田賞を受賞している。人気企画は「俳句」。『NHK俳句』などにも出演する俳人、夏井いつき氏による辛口の添削・評価が話題を呼んでいる。藤本敏史、村上健志、森口瑤子、アンミカ、中田喜子、Kis-My-Ft2の横尾渉・千賀健永、千原ジュニア、東国原英夫などなど、豪華出演陣の意外な才能、一面を垣間見れるのが魅力。同企画に出演している梅沢富美男は『句集 一人十色』 (ヨシモトブックス)を出版するなどメディア展開も行う。現在は『プレバト才能アリ展』を全国巡回中。芸能人が創作した才能アリ作品と圧巻のお手本を一挙大公開し、番組ファンはもちろん、作品制作を“自分もやってみよう”と思えるきっかけになるかも。

展覧会公式サイトより引用:https://www.mbs.jp/p-battle/

TOKYO MXで2021年から放送されている「小峠英二のなんて美だ!」。
「初心者でもアートについて簡単に学べる “日本一敷居の低いアートバラエティ番組”」を標榜する同番組はお笑い芸人・小峠英二MCに、軽やかな語り口が魅力の、あらゆる“美”のジャンルへの入り口的存在。その魅力は本格的な出演者と意外な切り口。「日本画」「彫刻」「美大」など美術にまつわるテーマから、「都市デザイン」「日本庭園」「家紋」などややマニアックな話題、「宇宙」「相撲」「数」など、一見すると“美術”にはカウントされない(と勝手に思われている)ような話題まで幅広く丁寧に扱う。『白と黒のとびら』『精霊の箱』の著者で言語学者の川添愛氏、国語辞典編纂者の飯間浩明氏が登場した「ことば」回など本格的な回も。ジェンダー・セクシュアリティ研究を行う岡田玖美子氏&映画監督の今泉力哉氏による「恋愛」回では、王道を逆手に取った演出、観る者の心に響く繊細な描写テクニックを紹介するほか、日本において「恋愛」の価値観がどのような変遷を辿ってきたのかを探る興味深い放送回だった。番組でのメインキャストはアートディレクターの中谷日出と乃木坂46の池田瑛紗。東京藝術大学の美術学部に在学し、今年は個展も開催した池田による勉強熱心なコメントも素敵だ。

番組公式サイトより引用:https://nantebi-da.jp/

長寿番組にもあるんです。

 長年続く名番組として美術の魅力を伝え続けているこちら。
テレビ東京「開運!なんでも鑑定団」はもはや説明不要の伝統的バラエティコンテンツのひとつ。依頼を受けた「お宝」の価値を歴史的・資料的・金銭的に徹底鑑定する番組フォーマットで、1994年から放送中。司会は今田耕司。鑑定士には“骨董通り”の名付け親ともいわれている焼き物・茶道具の専門家中島誠之助、横浜「ブリキのおもちゃ博物館」館長の北原照久、日本画を専門とする安河内眞美など、バラエティに富んだその道のプロたちが登場する。2005年放送の「柿右衛門様式の壺」は5億円(!)、近年では今年放送された「中国 宋時代の版本「韓昌黎集」9冊」が3億円の鑑定額がつくなど話題を呼んだ。実家のお宝や謎の貰い物などなど、身の回りの美術品や貴重品をついついさがしてしまいたくなる。鑑定士たちによる分析、歴史の紹介は、美術と値段の関係について改めて考えるきっかけにもなるはずだ。

番組公式サイトより引用:https://www.tv-tokyo.co.jp/kantei/index.html

日曜美術館」は定番中の定番でありながら、日本のアート系テレビ番組のマスターピース。
NHK Eテレにて“日曜日”に放送中。芸能人ゲストによる美術館めぐりや、今週開催中の注目の展覧会紹介(「アートシーン」)、 こちらの番組、元々は1965年1月1日に特集番組として放送。’76年よりレギュラー放送が開始され、2,500回の放送を超える歴史ある長寿番組。展覧会に呼応した注目の一作、アーティストにフォーカスしたものから、「印象派」「狩野派」など、美術用語を深掘った学びになる回までバラエティに富む。俵万智や千住明、小野正嗣など錚々たる人選が歴代の「キャスター」を務め、現在は守本奈実アナウンサーと、音楽家の坂本美雨によって届けられている。2026年は50周年を迎えるということで、「NHK日曜美術館50年展」が東京藝術大学大学美術館で開催予定だ。セザンヌ、ムンク、葛飾北斎、舟越桂、などなど、同番組を彩ってきた名品の数々が揃う注目の展覧会だ。

展覧会公式サイトより引用:https://nichibiten50.jp/

 NHK Eテレ「ビタゴラスイッチ」「びじゅチューン!」、テレビ東京「新・美の巨人たち」などなど、美術にまつわる番組は各局に用意され、その方向性も多岐にわたる(筆者はかつてNHK総合で放送されていた『迷宮美術館』がお気に入りでした)。偶然面白い番組と出合ったり、好きな番組の時間にチャンネルを合わせて待機したり。YouTubeや配信型サブスクのサジェスト機能とは一味違う、そんなテレビならではの良い意味での“オールド”な味わいは、今こそ必要な栄養素なのかもしれない。仕事や勉強で疲れたら、美術番組でリフレッシュしてみては?

【インタビュー】原田ちあきが語るイラストと日常ー自分っぽさと健やかさと。 – 後編

前編に続いてイラストレーター・アーティストとして独特の色彩とキャラクター、ポエティックなセリフで大活躍する原田ちあきのインタビューをお届けする。

ペンが動かなくなったスランプを「ホラー」が救ってくれた

もし答えづらかったらスルーしていただいて大丈夫なのですが、「この人はちょっとライバルだな」と感じる方はいますか?

原田ちあき – 昔はいっぱいライバル視していた人がいました(笑)。ただそれぞれがそれぞれの好きなことをしていればいいんじゃないか、と思い始めてから他人のことはあまり気にならなくなりました。永遠のライバル、というか憧れでいうと楳図かずお先生です。最終的には楳図さんみたいな元気なおばあちゃん…になりたいです

過去のインタビューで、「ホラーを書きたい」とおっしゃっていたのを拝見しました。楳図かずおさん(関連記事:楳図かずお、恐怖から大美術へ。)など、影響を受けた作家さんもホラー作品を作っています。原田ちあき版ホラー作品の進捗はいかがですか?

原田ちあき – 実は書籍で出したい!という企画が数年前から持ち上がっているんです。ただちょっと頓挫している状態で。出したい気持ちはすごくあるので、続きをちゃんと書かなければならないと思っています。出版社の皆さまにも本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです…(苦笑)。

それは楽しみです!ホラーをやりたいと思ったきっかけはあるんですか?

原田ちあき – もともと、私のイラストって悪口みたいな言葉を使うことも多かったんです。みんなが心の中で思ってるけど口には出さないようなことを描きたくて。でも、あるタイミングから、特にTwitterでは“レスバトル”する人が増えたり、思ったことを簡単につぶやくようになってきた気がして。そんなタイムラインの中に私のイラストだけがポンと現れたら、逆にものすごく嫌な気持ちになっちゃう人もいるかもしれないな、と感じたんです。

2013年に公開された「あの娘への最後のお願い」

その頃ちょうど私生活もいろいろとぐちゃぐちゃになってしまっていて、体調を崩したり、引っ越しを余儀なくされたり、いろんなことが重なってしまって。コロナの時期も相まってしばらく元気が出ない時期が続き、イラストやエッセイが描けなくなってしまったんです。でも何かを描きたいし、生活も支えなきゃいけない。見てくれている人たちにも絵を届け続けたい。その中で悪口だけじゃダメだな、自分の好きなものをもう一度よく考えてみようと思ったときに、ふとホラーが思いついたんです。

ホームページにこっそり「ホラーっぽいテイストのイラストが描けます」と書いてみたら怪談系YouTuberさんや都市伝説・事件系のYouTuberさんから依頼をいただけるようになって。ホラー作品をつくり出してから、自分にもまだ表現できるものがあるんだと思えてすごく嬉しかったです。

SNSと社会と。みんなが自分だけの仕事をすればいい。

今は誰でも自由に発信できる一方で見られる側になるリスクも大きいと思います。SNSを駆使してきた作家として意識していることはありますか?

原田ちあき – あまりお会いする機会がないのですが、見てくださっている方のことが本当に好きなんです。私のグッズを持ってくれたり、「好き」と言うのってもしかしたらちょっと勇気がいることかもしれない。だからこそ、その人たちが恥ずかしい思いをしないようにしたいんです。
自分が過激なことをツイートして炎上したりしたら、見てくれている人が嫌な気持ちになったり、恥ずかしくなったりするかもしれない。それだけは絶対に嫌で。みんなには凪のような人生、ハッピーな人生を送ってほしいという気持ちでいてもらえるように常に意識しています。

アーティストの中には、SNSで社会的・政治的な発言を積極的にされる方もいらっしゃると思います。原田さんはどのような距離で社会と付き合っていますか?

原田ちあき – 私の場合は遠くからじっと見ている、というのが近いかもしれません。先日も、友達のミュージシャンが政治的なツイートをして大炎上してしまったことがあったんですけど、だからといって「友達をやめよう」とはまったく思わなくて。ミュージシャンだから、イラストレーターだから、とカテゴライズされがちですけど、最近思うのはみんな“自分だけの仕事”をしているということなんですよね。

同じような絵を描いていても、私の仕事は私のもので、その人の仕事はその人のもの。政治的なコメントをすることも含めて、その人のスタイルであり仕事なんだと思っています。

原田ちあきの日常。子育てによって少しずつ成仏していく親への反発

ファッションや見た目にこだわりはありますか?

原田ちあき – 実は、ファッションにはあまり興味がなくて…。服も、髪も、ネイルも、そんなにこだわっていないんです。昔は自分なりにすごく考えていたと思うんですが、実は母が過干渉なタイプで、着るもの全てが決められていて、20代前半くらいで初めて自分で選んだ服を着たときも、「それ似合ってない」「変だね」と言われ続けていて。その反動もあって、反骨精神で派手な色の服を着ていた時期があったんだと思います。

お休みの日には、お子さんと一緒に出かけたりもしますか?

原田ちあき – 最近は増えてきましたね。自分が子どもの頃、親に遊びに連れて行ってもらった記憶があまりなかったので、小さい頃の自分がしてほしかったことを子どもにしてあげたいと思っていて。特別な場所じゃなくてもいいから、1日1回は散歩に行くとか、家の中でも一緒に家事をしたり、遊んだりしています。

それが結果的に、自分の心の健康にもすごく良くて。私のほうが遊んでもらっているような感覚もありますね。

パパの骨を獅子舞に食べさせる

ご両親とのお話をもう少し聞かせてください。

原田ちあき – 昔は本当に仲が悪くて、小学校5年生くらいの時に父がふわっといなくなってしまったんです。そのころの家は空気も悪くて、お父さんと一緒にいるなんて嫌だ!と思っていて。その結果父とは別居することになりました。そこから、母の干渉の対象が私だけになってしまって、ずっとぶつかり合っていました。

最近も喧嘩ばかりで本当に仲が悪かったんですが、孫が生まれてから、母や、父と父のパートナーも遊びに来てくれたりして。ちょっとずつですが仲良くなってきました。

私自身もなんでこんなに親が許せないんだろうという気持ちが、子育てによって少しずつ成仏していくような感覚があります。お互いに距離ができたことで、生きやすさにつながってきました。

最近手がけていることや、これからやってみたいことについてお伺いできればと思います。

原田ちあき – やりたいことは本当にたくさんあります。またエッセイも書きたいですし、ホラーもやりたいです。それから、コロナ以降のスランプの影響もあって、元々の悪口のイラストに完全には戻れていない感覚があるんですが、子どもが幼稚園に行くようになって自分の時間がもう少し取れるようになったら、女の子をもっと細かく描いていきたいなと思っています。
あと、ずっと興味があるのが、自分のイラストと言葉を翻訳して、海外に向けて発信してみることです。以前、台湾や中華圏で翻訳版の本を出していただいたことがあったのですが、今度は英語圏にも出してみたい、いろんな国の人に見てもらいたい、という気持ちがあります。

中国語版作品の数々

現在は、子育てエッセイ漫画の出版のお話をいただいていて、それを無事に出したいなと思っています。そこまではなんとか、寿命が尽きることなく頑張りたいですね(笑)。

原田ちあきは、仕事場からの1時間のインタビューでは収まりきらないほどの夢を語ってくれた。SNS、イラスト、アート、そして子育て。様々なフィールドを耕し続ける原田ちあきの勇姿を、時に笑い、時に涙しながら見守っていきたい。

【連載】Convenience ART Vol.0「prologue」

コンビニの自動ドアが、「アート」への入り口へと繋がっていると言ったら不思議だろうか。

まず、僕たちの考えていることを簡単にご説明。
これは僕たち「BAM」の全体を通して言えることだが、特にこの連載「コンビニエンスアート」では、難しいことはさておき、価値や定義が曖昧となりつつある「アート」を、もっと自由に楽しみながら、より多くの人に「アート」について知って、考えるきっかけになったら素敵だなと。そんな想いが出発点となっている。

AIの登場により、加速化するであろう「アート」を取り巻く混沌とした状況に対して、そしてただでさえ敷居の高い「アート」に対して、僕たちは、もっとどっしりと構えて、楽しみながらアクセス出来ると思う。

急がなくっても「アート」は逃げない。誰かに取られることもないのだから。

さて、前置きはこの辺にして。
今、この日本において、誰にとっても、最も身近な“お店”って何だろう?
きっと10人中8人くらいは「コンビニ」と答えるんじゃないかと思う。
そして、そんな「コンビニ」に実は「アート」がたくさん隠れていて、しかも売っていると言ったら気になるでしょう?

便利でいつでも身近な存在「コンビニエンスストア」で見つけたたくさんの「アート」を紹介していく連載「コンビニエンスアート」、お楽しみに。

4次元で観る『YONEYAMA MAI EXHIBITION “arc”』

米山舞の個展が、およそ2年ぶりに開催される。

アニメーションの現場で長きに渡り活躍してきた米山は、2018年頃から、本格的にイラストレーターとしてのキャリアをスタートさせた。2019年の初個展「SHE」を皮切りに、2021年の「EGO」(anicoremix gallery)、2023年の個展「EYE」(PARCO MUSEUM TOKYO)と、意図してか、これまで2年おきに個展を開催してきた。
そして2025年、今回の『YONEYAMA MAI EXHIBITION “arc”』である。

それぞれ、青山、原宿、渋谷、銀座といった開催地の変遷を辿って来た訳だが、アニメーター出身であり、そのルーツを重視する彼女が、未だ会場に秋葉原を選ばないのは何故か。
私にはそれが、彼女の特徴のひとつである、アニメーション・イラストレーション・アートと、越境していくアーティスト活動と重なって見える。

今やこの国で、アニメを「オタク文化」と呼ぶ人はいない。むしろ、日常に“ありふれてしまった”アニメは、情報の氾濫する現代において、簡単に消費されてしまいかねない。現に私たち普通の視聴者は、アニメーションが一体どのようにつくられ、どれほどの人が関わり、どれだけの絵が描かれているか知らない。
アニメや漫画における原画の価値が囁かれ始めている昨今の潮流、放送画面からは見えない、画面の奥の影の部分を再評価しようとする気運は、そうした現状に一石を投じている。

そして米山は、その第一線にいる。

「時間」と「連続性」をテーマに据えたと語る今回の個展は、それまでの展示としては初めての試みとして、自主制作した映像を作品として展示・販売している。
そして何より特徴的なのは、会場の空間設計として、外壁・内壁・中央と、3つの異なるレイヤーで構成した点だ。それぞれ、外壁を走る1コマ毎のカット、内壁を飾るのは、大小様々なイラストレーション、そして中央に鎮座する3メートルもの彫刻作品。その背後の巨大スクリーンには、アニメーションが映し出される。

そうした流れの中での鑑賞体験は、ひょっとすると、米山から観た、ある1つのアニメーション作品への視線・思考をなぞり、追体験することに近いのかも知れない。
3つのレイヤーを通して、シームレスに、アニメーション・イラストレーション・アートへと接続されていく流れるような展開は、1つの絵の中で、流れるようなストーリー性を感じさせる米山舞の真骨頂と言える。

昨今の原画への再評価や、米山の言うセル画の価値を認めることは、すなわちアニメーションを取り巻く細分化された職種に目を向けるということに繋がり、ひいては、度々問題になるアニメーターの労働環境・賃金などの問題に光をあてるきっかけになるかも知れない。アニメーションをハイエンドな銀座の街に持ち込んだ『YONEYAMA MAI EXHIBITION “arc”』は、そういった意味でも、非常に重要な意味合いを孕んでいる。

YONEYAMA MAI EXHIBITION “arc”

会期:2025年12月6日~12月28日
会場:銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM
アドレス:東京都中央区銀座6丁目10-1 GINZA SIX 6F
電話:03-3575ー7755
開館時間:11:00~20:00(最終日 ~18:00)
観覧料:無料
公式サイト:https://store.tsite.jp/ginza/event/art/50901-1725021030.html?srsltid=AfmBOooZH2OQWBIFdSqHDGHBGJyACjc9Owt21w-9hOArGwLmIlZlPQ2J

「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」現地レポート – その2

2025年11月1日からの3日間で開催された「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。
Chim↑Pom from Smappa!Groupらがキュレーションを務めたオールナイトでのアートイベントは、東洋一の歓楽街と呼ばれる「歌舞伎町」を舞台に、街のあちらこちらに散らばった会場で、同時多発的に“何か”が起きている。

さて、歌舞伎町で一体何が起きていたのか。

鈴木喜兵衛から続く「歌舞伎町」のダイナミズム

「新宿歌舞伎町能舞台」

会場のひとつである「王城ビル」を後にして向かったのは、「新宿歌舞伎町能舞台」。先日のインタビューにて、Chim↑Pom from Smappa!Groupの卯城竜太さんは次のように語っていた。

「この場所が今後の歌舞伎町の文化活動のアイデンティティになっていくのではと思っています。」

「歓楽街に能舞台があることは、一見特殊に見えるが、文脈としては真っ当で、自然なことなんです。」

「新宿歌舞伎町能舞台」

近隣をラブホテルに囲まれたビルの一角に、「新宿歌舞伎町能舞台」はある。奥まった入り口を、さらに2階へと上がり、ようやく扉が現れる。確かに「普通」ではない。
だが、この場所の歴史は、1941年まで遡ることが出来る。
当時は「淀橋区角筈一丁目北町」という地名であったこの地は、戦時下に街の大部分が焼失。復興に際した町おこしとして、当時の町会長である鈴木喜兵衛が目指したのは、歌舞伎を上演する劇場を中心とした「文化の街」だった。歌舞伎座の誘致を目指し、1947年に今の「歌舞伎町」という名称に至ったのだが、結果的に歌舞伎座の誘致は実現せず、皮肉にも今の「歌舞伎町」という名称だけが残った…。

はずだった。

「新宿歌舞伎町能舞台」

そうした歴史の中で、1941年に誕生した「中島新宿能舞台」。2022年からは名称を変え、「新宿歌舞伎町能舞台」となる。ホスト事業を中心に展開するSmappa!Groupが施設を購入したのだ。会長の手塚マキさんは、歌舞伎町商店街振興組合常任理事を務めるなど、現在の「歌舞伎町」の文化的発展に尽力している。彼の話は【インタビュー】東洋一の歓楽街を回遊する。「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」の舞台裏 – 手塚マキ編で触れた通りだ。また、彼の著書『新宿・歌舞伎町 人はなぜ〈夜の街〉を求めるのか』に詳しい。

「中島新宿能舞台」に「歌舞伎町」という名前を加えたのは、そんな彼の、「鈴木喜兵衛の意志を継ぐ」という決意の現れなのかもしれない。

「新宿歌舞伎町能舞台」から外に出たところに居合わせた、飲食業に勤めるという女性に話を伺った。

「過去に開催された「ナラッキー」がきっかけで王城ビルを知りました。普段はあまり歌舞伎町には来ないですが、2Fの唐組の公演や、新宿歌舞伎町能舞台もすごかったです。」

鈴木喜兵衛の描いていた街の未来像まで、時間はかかるかも知れない。だが着実に、このラブホテル街にも、歴史の流れ、街の土壌から生まれるダイナミズムを感じた瞬間だった。

鑑賞者ではなく、誰もが参加者。歌舞伎町のロッカーには何がある…?

続いて向かったのは、会場の1つであるセレクトショップの「THE FOUR-EYED」。アーティストのぼく脳さんによる「フォー横闇市場」が開催されている。

ぼく脳

「フォー横闇市場」はどういった取り組みでしょうか?

ぼく脳 – 近年のフリマアプリや古着の高騰の仕方を見ていると、「闇市」に近いものを感じるんです。元々「闇市」って生活に必要なものが手に入らなくて生まれたものだと思うので、今回は闇市化した、フリマアプリなどのデジタルの世界に流れていったものを、あえて現実世界に戻す、みたいな文脈で考えています。体験とか概念に焦点を当てていて、「お金」じゃ買えないメニューもあったり。それをセレクトショップという華やかなお店の横でやるということに意味があると思います。

個人的な目玉商品はありますか?

ぼく脳 – 歌舞伎町の街中にあるロッカーを1つ借りて、その中に展示物を入れたんです。歌舞伎町ってかなりロッカーがあるんですけど、その中のどれか1つに展示があって、鍵自体がどこのロッカーの物かも探さないといけないんです。

ちょっと闇取引のようなイメージですね。参加者の人に何かコメントを頂けますか?

ぼく脳 – 普通に「アート」を観に来るだけでも勿論いいと思いますが、例えば今言ったような体験だったり、一緒に散歩したりとか、「一緒に何かをする」という形が多いイベントだと思います。だから誰ひとりとして鑑賞者なんていなくて、ここに来た全員が参加者。ぜひ積極的に呑んだり、買ったり、体験したりしながら街を歩いて楽しんでください!

歌舞伎町の真ん中で「みそ」を仕込み、踊る

「生活パーティー feat.みそ仕込み」の様子

続いて向かった先は「デカメロン」。
2020年にオープンしたアートスペースで、2Fに作品を展示、1Fには作品を鑑賞した後に対話が生まれるようにとbarが設けられている。
この場所で今夜行われているのが、アーティストの下司悠太さんによる「生活パーティー feat.みそ仕込み」だ。今夜仕込んだ「みそ」は、湿気の少ない常温で保存し、だいたい1年後に食べごろなんだとか。

DJが音楽を流しながらのみそ仕込みの現場とは、一体どのようなものなのだろう。

「生活パーティー feat.みそ仕込み」会場の様子。右側男性がアーティストの下司悠太さん。

歓楽街のど真ん中で、「みそを作りながら音楽に合わせて踊る」。かなり珍しい試みだったと思いますが、いかがでしたか?

下司悠太 – デカメロンのギャルバーのギャルたちが、みそ汁をこんなに楽しんでくれるとは思わなかったです。すごく嬉しかったですね。

開催に当たって何か想いはありますか?

下司悠太 – 家事労働とか、生のための行いは、「金銭価値」を得づらいですよね。そうしたことを「歌舞伎町」でやるっていうギャップは面白いんじゃないかなと思いました。ただ、みそ仕込み自体は3年前からやっていて、毎年20キロのみそを仕込んでいます。かなり大変で、こういう時こそ、「音楽があるといいな」と、そういう思いから始まりました。この活動を通して何かを訴えたいというよりかは、自分の中の欲望というか、そういった思いが大きくもあるんです。

続いて、偶然居合わせた「みそ仕込み」体験中のパフォーマーの坂口涼太郎さんに感想を伺った。

参加していたパフォーマーの坂口涼太郎さん

みそ仕込みを体験してみての感想を一言お願いします。

坂口 – 坂口涼太郎です。パフォーマーをやっています。歌舞伎町で踊りながら仕込んだみそが、1年後のこの時期に完成して、その感想をまたこの場所に伝えに行きたいです。

研究者として俯瞰する。齋藤直紀の見据える都市の姿

GROUP 齋藤直紀

「WHITEHOUSE」で開催されているのは、建築コレクティブGROUPによる展示、生きられた新宿「Parallax city」だ。
批評家の多木浩二の残した2000枚あまりの新宿の写真。そこに折り畳まれた彼の新宿への視線から、彼のいない2025年の新宿、ひいては100年後の都市に目を向ける。そんな建築コレクティブGROUPのメンバーであり、東京大学未来ビジョン研究センター特任助教でもある齋藤直紀さんに話を伺った。

今回の展示はどういったものでしょうか?

齋藤 – GROUPとしては映像だったり、インスタレーションだったり、あるいは群像写真だったりというものを、MoMAで開催された「Shinjuku: The Phenomenal City」に展示された作品をもとに作成しているんです。そうしたたくさんの要素の合わさった点は、今の新宿という街の、ある種雑多な感じと共通するかも知れません。

「BENTEN」では、歌舞伎町という街で、同時多発的にあちこちで色々なことが起こっています。都市の研究者である齋藤さんだからこそ出来ると考えていることはなんでしょうか?

齋藤 – 都市をテーマとしたアート作品というのはたくさんあって、僕自身もすごく共鳴するところではあるんですけど、一方で「都市」と言っていれば何でも成り立つような飽和状態に近いのかなと思っています。僕自身は都市空間の研究者として都市をリサーチした上で、成り立つアート作品というものを提示できればなと、それだけがテーマではないけれど、そうした点で別の姿を提示できるかなと考えています。

生きられた新宿「Parallax city」

こうしたイベントを通して、歌舞伎町という街がどのように変化していくと予想しますか?また、こんな風に変わっていってほしいという、願いのようなものがあれば教えてください。

齋藤 – 50年前に多木浩二さんが、「新宿には、モニュメントがない。目に見える構造というものがなくて、人々の活動によって、新宿というものが出来上がっている」と言っているんだけれども、50年経った今、その多木さんが言っていた新宿像みたいなものは、パッケージングされて、東京の都市のどこでも見られるようになっている。それでも多木さんは逆に鋭かったのかなと思っているんです。

今後、新宿に望むものとしては、特にこう変わってほしいとか、こうあってほしいというものはないんだけれども、新宿だけはこの猥雑さというか、ある種、怖さみたいなものはあり続けるのかなとは思います。都市開発は、そうした部分を少なくしていく作業の側面がありますが、グレーな部分が全て無くなるのはどうなのかとは思いますね。と言うより、何か操作をして変えられるようなものではないと思っているので、研究者として、もう少し俯瞰して見ていられればいいかなと思います。

王城ビルで待ち合わせ

王城ビル

再び「王城ビル」へと歩を進める。
「デカメロン」の「生活パーティー feat.みそ仕込み」で出会った方に、ミソが出来上がってひと段落ついたら話が聞きたいから電話が欲しい旨を伝えていた。「王城ビル」1Fで開催中の飲食店や物販が立ち並ぶ「アー横」で待ち合わせをした。

「デカメロン」で開催された「生活パーティー feat.みそ仕込み」に参加したお2人

イベントに参加したきっかけを教えてください。

– Instagramの広告で知りました!新宿や高円寺で活動しているアーティストの友人も知っていて、開催前から話題に上がっていました。「王城ビル」のアートイベントにも何度か行ったことがあったんです。

「BENTEN」を通して歌舞伎町のあちこちを歩いて回ったと思いますが、何か歌舞伎町への印象が変わったり、新しい発見はありましたか?

– 能舞台があることは全然知らなかったですね。建物の隙間に入り込んでいって、すごい場所にあるなと結構驚きました。

みそ仕込みはいかがでしたか?

– 「王城ビル」の受付のところにチラシが置いてあって、行ってみたらすごく楽しかったです。持ち帰って保管して、1年くらいしたらカビを取って食べられるみたいです。大豆の水分が抜けて浮き上がってきて、その部分は醤油として使えるとか、作る人の手の細菌によって味もちょっと変わるらしくて、色々と知れて楽しかったです。

わざわざご連絡いただき本当にありがとうございました。

2人にお礼を伝え、最後に、「東京砂漠」へと向かった。

東京砂漠

この日は13年ぶりに、「芸術公民館」が復活する。「芸術公民館」とは、会田誠さんが開いたbarで、若き芸術家たちの集うサロンであった。今はなきその場所、ならびにその意思の跡̇にできたのが、今夜の会場の「東京砂漠」だ。

今日は特別に会田誠さんがバーテンを勤めるとのこと。残念ながら会田さんがいる時間は過ぎてしまったが、23時から5時までは、会田さんの奥さんであり、同じく芸術家の岡田裕子さんが店頭に立つ。

深夜4時30分。「東京砂漠」の屋根裏部屋

東京砂漠

「東京砂漠」に着くと、そこはもう人でごった返していた。店内の椅子はもちろん、通路にまで人が溢れ、皆愉しげに酒を酌み交わし、会話を交わしている。ちょっと人が多過ぎたのと、酒の席を邪魔するのも癪だと思い、撮影だけさせてもらう。そしてもう1つ上の階、屋根裏部屋のような部屋へと階段を上がっていった。

東京砂漠最上階の様子。

壁中にペンで好き放題の文字やら絵やらが描かれ、それらは畳にまで及んでいる。「宅呑み」の中でも自由度の高い呑み場さながらの、出̇来̇上̇が̇っ̇た̇状態が広がっていた。後から聞いた話だが、会田誠さんの描いた絵の横にも、みんな好き放題に、なんでも描いているそう。ここはそういう場所。年代世代を問わないたくさんの人たち。酔いもかなり回っているであろうこの場から聞こえてくる言葉は、「村上隆」、「好きな〇〇文学」…。品のない行動は承知で、カメラの確認のフリをしながら盗み聞いていると、そこだけ聞いてももはや皆目理解不能の哲学の話までしている。堪えきれずに尋ねると、手前にいた2人、互いの「芸術論」での激論を繰り広げていたのだが、さっき、ここで出会ったばかりだと言う。

そう言えば、少し前に出くわした、会田誠を探して「BENTEN」にやってきたと言う某映画監督。「王城ビルにいるらしい!」と言って道に迷っていたので、ビルまで案内したのだが…。僕も探していた会田さん、ここで寝てましたよ…!

東洋一の歓楽街「歌舞伎町」を舞台に、3日間のオールナイトイベントとして幕を閉じた「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。街のあちらこちらで同時多発的に、様々なイベントが巻き起こる。
戦後間もないこの地を「道義的繁華街」として復興すべく尽力した鈴木喜兵衛が、未来に託した願い、「歌舞伎町」命名に際した願いは、未だ旅の途上にある。「BENTENは長期的に考えている」と語る手塚マキさんの描くこれからの歌舞伎町が、未来の歴史にどう絡んでくるのか。街のダイナミズムは留まることを知らない。

「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」※イベントは終了しました。

2025年11月1日〜11月3日に開催された回遊型アートイベント「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。「都市の再野生化」をテーマに掲げ、昨年の「BENTEN 2024」に続き、Chim↑Pom from Smappa!Groupらがキュレーションを務める。
当日は新宿歌舞伎町能舞台、王城ビル、デカメロン、WHITEHOUSE、東京砂漠などを回遊しながら、光と影の交錯するカオティックな都市のリアルを、文化としての「歌舞伎町」を味わうことができる。

日時:2025年11月1日(土)15:00-5:00/11月2日(日)15:00-5:00/11月3日(月・祝)15:00-23:00

HP : https://www.benten-kabukicho.com/

Instagram:https://www.instagram.com/benten2025_kabukicho

「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」現地速報レポート

2025年11月1日からの3日間で開催中の「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。
Chim↑Pom from Smappa!Groupらがキュレーションを務めたオールナイトでのアートイベントは、東洋一の歓楽街と呼ばれる「歌舞伎町」を舞台に、街のあちらこちらに散らばった会場で、同時多発的に“何か”が起きている。

さて、歌舞伎町で一体何が起きているのか。

閉幕まで残り2日の今、初日の現場レポートを速報でお届けします。

「うしろさん、今2階にいます!」

15時ちょうどに現場入りをする。スタッフの方とは開催直前のインタビューに際して既にやり取りをしていたので、挨拶もそこそこに「王城ビル」の奥へと入った。今日はやることがたくさんある。新米ライターとして、できるだけたくさんの素材を集めようと躍起になっていた。

「王城ビル」のB1Fから5Fまでひとまず目を通そうとしていた矢先、スタッフの方から連絡があった。「うしろさん、今2階にいます!」

Chim↑Pom from Smappa!Group 卯城竜太

来場者に向けて一言だけ頂けませんか?

卯城 – 必ずどこかしらで何かが行われているので、タイムテーブルをよく見てもらって、色々楽しんで頂けたらと思います。
僕は今日、2階で「状況」劇場を担当していて、16時頃からは演劇があったり、歌ったり、それからパフォーマーたちがいろんなことをやり始めます。パフォーマティブな空間になっているので、是非見に来てください。

「活弁」は、最新技術をも凌駕する

次に向かったのは5Fの「活弁天映画祭」。
はっきり言って、初めて触れる「活弁」は衝撃だった。

日本の映画の歴史を辿ると、1896年に国内で初めての映画が公開されたそう。映画と言っても当時は「無声映画」で、その内容を解説する専任の解説者として、「活動弁士」が存在していた。

1998年に活弁界初の文部大臣賞を受賞した麻生八咫(あそうやた)さん演じる「浮世絵活弁」、「血煙荒神山」では、抑揚の効いた声に圧倒されたのはもちろんのこと、その間̇は全く初めてのものだった。時折生まれる完全な静寂は会場に緊張をもたらし、観る者を強烈に惹きつける。そして麻生さんの大きな身振り手振りが、臨場感を加速させていく。

3D、4DX、IMAX…と、新時代のテクノロジーがリアルな映像体験を追求する中、同じ場所、同じ空間での“生演奏”にもはや敵うはずがないのかもしれない。

麻生八咫 / 活弁士・池俊行の活弁「坂本龍馬」との感動の出会いにより活弁士の道へ。

「BENTEN」に参加した率直な感想を聞かせてください。

麻生八咫 – 素晴らしい会場(王城ビル)で感動してますよ。本当に40年、50年前、僕らが新宿で遊んでいたときの、そのまんまが今、よみがえってくる。残っているのが奇跡的。本当になかなかあるものじゃないんですよ。僕たちの世代を20代、30代の頃に若返らせてくれる、そういう現場でした。

無声映画への解説としての「活弁」だと思いますが、時折BGMで音楽、それもロックを差し込んでいたのが驚きでした。

麻生八咫 – 他の活弁士の方に聞かせると怒られちゃうかも。そんなのあるわけねえだろうみたいな。でも、昔じゃなくて、お客さんは今だから。今の人たちにサイレント映画というものを「血湧き肉躍る」みたいな形で提供するには、それもありだろうと。芸能が生き延びていくには、色々な時代を経て、それを乗り越えていかなければいけないから。今のお客さんにいかに喜んでいただけるかという勝負のしかたをしましょう、ということでございます。

観に来ていた若い世代に何か一言頂けませんか?

麻生八咫 – やっぱり生身で、本物をいつも皆さんに提供していきたい。僕もそういうふうに生きてきたし、これからもそう。自然というかね、もっとワイルドに生きていってもいいんじゃないかな。新宿のこういう場所はそれを受け入れてくれる。妙に遠慮して、ある程度の年齢になったら、隅っこでおとなしくしていなければいけないんじゃないかみたいな、そういう忖度は一切せずに、生の人間で僕たちは生きていっていいんだということです。

チャンバラ映画の「活弁」を、英語に乗せて

麻生子八咫 / 麻生八咫の実子であり、同じく活弁士として活躍

そして同日18時30分からは、「活弁」が英語で実演された。演じたのは麻生子八咫さんで、麻生八咫さんの実の娘にあたる。「活弁士」としてのデビューは10歳という彼女に、英語での実演での難しさを伺った。

麻生子八咫 – 特に日本のチャンバラ映画で、日本特有の活弁調、活弁のイントネーションを英語に持っていくっていう、これをしないとあまり意味がないかなと思っていて、それが一番苦労しているところですね。
あとは逆に、『チャップリンの冒険』とか、そういう海外の映画に関しては、俳優さんたちはみんなネイティブな英語を喋っていらっしゃる方々なので、演じている彼らのテンションが、日本語よりも英語のままの方が私にとっても伝わりやすい、共感しやすいんです。そういう面では非常に面白いところです。

スペインからの来訪者

そしてこの公演中、たまたま私の真隣にいた「彼」の話を聞くことが出来た。英語の全く話せない私の差し出すAIの翻訳をじっくり読んで答えてくれた「彼」に、この場を借りて御礼申し上げます。

スペイン出身だという「彼」。翻訳に必死で、あろうことか名前を聞きそびれてしまった…。またどこかで出会えることを願って。

これまでに「活弁」を観たことはありますか?

-こんな経験は今まで一度もありません。声優さんはとても上手だと感じました。彼女は自分の中にある様々な声を使い分けられていて、おばあさんの声も男性の声も出せるんです。彼女が映画に多大な付加価値をもたらしているので、とても興味深かったと思います。それだけでなく、映画に豊かな表現力も与えています。3Dのようにスクリーンで映像を観るだけでなく、語られている内容に感情を動かされる人の姿も見て取れるのです。

それに、これは少し物語風というか、誰かが本を声に出して読んでいるような感じがします。だから私は本当に気に入って、とても興味深いと思いました。

「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」を訪れたきっかけを教えてください。

– 今夜ここにいる何人かのアーティストのInstagramをフォローしていて、彼らはとても興味深いと思いました。それでInstagramの投稿を見て、参加しようと決めました。

実際参加してみていかがでしたか?

本当に素晴らしいと思います。これまでの人生で参加した中でもトップクラスのアートイベントです。新宿のあちこちで企画されているという点がとても興味深いですし、新宿や歌舞伎町の歴史にも触れられていて面白いです。さまざまな部屋があり、とても魅力的でした。

いろいろな建物があって、それらは本当に素晴らしいです。私はとても気に入りました。とても良かったです。

日本の芸術の印象を教えてください。

– わあ、難しい質問ですね。私は日本の芸術がとても好きで、独特の違いがあると思います。西洋の芸術とはかなり違うと思います。なんというか、どう説明していいのかわかりません。ただ、日本の芸術にはとても特別なものがあります。どう説明していいかわからないのですが、とても繊細で、微妙なニュアンスを感じます。細部にまで注意が行き届いていて、とても丁寧に作られている印象です。私が思うに、やはり「繊細」という言葉が一番ぴったりくると思います。でも時には、とても野性的でありながら、同時にその野性を受け入れているので、少し刺激的でもあるんです。子供の頃から日本の美術に夢中で、本当に心から感謝しています。

Thank you very much!!! Have a nice day! 

彼とは、「王城ビル」の入り口でハンドシェイクして別れた。

唐組「紅テント」スタイルはそのままに、自由な出入りの新鮮さ

「恋と蒲団」

時間軸を元に戻そう。

この麻生八咫さん演じる「活弁天映画祭」を観た後すぐに、はじめに卯城さんを見つけた2Fに足を運んだ。始まって10分ほど経過してはいたものの、生きられた新宿「状況」劇場唐組を鑑賞する。
初回の「恋と蒲団」では演劇的な実演が、続く「唄い読む唐十郎の言葉」では、ギターとチェロの音色と、今は亡き唐十郎の美しい言葉が見事に合わさった。

「唄い読む唐十郎の言葉」

唐組の公演の大きな特徴の一つが、その鑑賞スタイルだ。紅テントと呼ばれるテント劇場の中で、観客は、さながらピクニックや花見のように、所狭しと詰め合って座る。座席の区切りはない。今回の「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」ではテントの設置こそないが、敷物に直に座って鑑賞するスタイルが取られた。

「恋と蒲団」と「唄い読む唐十郎の言葉」の両方に出演した役者の福本雄樹さんは、「いつもの座席の感じもありながら、来られた方が自由に出入りする様子が新鮮でした」と語る。

同じく「唄い読む唐十郎の言葉」にて、チェロ奏者として福本さんと共演した佐藤舞希子さんの2人と「王城ビル」入り口付近で遭遇し、話を伺う事が出来た。

福本雄樹 / 俳優。劇団唐組で活躍中。

福本 – 唐組の公演の時とはお客さんの層も違って、それでいていつもの感じの御座に座っているのがまたちょっと不思議でした。公演が始まって、だんだん人が増えたり減ったりするのが見える点も新鮮でしたね。

初めて観る方に対して、どんなところに注目して貰いたいですか?

福本 – 唐十郎さんの書いている言葉の美しさだったり、少しでも「残る」ような、なんかいいな、と思うような言葉を見つけて貰えると嬉しく思います。ひと言ひと言の台詞の妙だったりとか、言葉がすごく詩的になっていたり、リズム感が五、七五になっていたり。ストーリーが分からなくても、そうした少しの言葉の部分だけでも「なんかいいな」って感じて頂けたら嬉しいです!

佐藤舞希子 / チェリストとしてのソロライブだけでなく、箏や三味線との和洋折衷ユニット、インストゥルメンタルバンドの編成など、型にはまらない新たなジャンルを開拓している。

チェロと朗読という新たな試みでしたが、演奏されていかがでしたか?

普段から楽器を演奏するにしても、自分の声のようにセリフに乗せて奏でているの感覚なんです。今回の場合も、相手がどう来るのかとか、次のセリフの言葉に寄り添いながら、チェロの音とかリズムを変えたり、音程を変えていったりしました。

セッションに近いイメージですね?

そうですね。今後も、その時にしかないライブ感、その時にしかない音というものを、びしびしと、おもしろい方とやっていきたいと思っています。

続編では、Chim↑Pom from Smappa!Groupのエリイさん、ぼく脳さんらが登場予定です。
続く→

BENTEN 2 Art Night Kabukicho

2025年11月1日〜11月3日に開催される回遊型アートイベント「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。「都市の再野生化」をテーマに掲げ、昨年の「BENTEN 2024」に続き、Chim↑Pom from Smappa!Groupらがキュレーションを務める。
新宿歌舞伎町能舞台、王城ビル、デカメロン、WHITEHOUSE、東京砂漠などを回遊しながら、文化としての「歌舞伎町」を味わうことが出来る。光と影の交錯するカオティックな都市のリアルを、ぜひ現場でご覧ください。

日時:2025年11月1日(土)15:00-5:00/11月2日(日)15:00-5:00/11月3日(月・祝)15:00-23:00

※会場によって開場時間が異なります。公式WEBサイトやSNS等によりご確認ください。

前売りチケット発売中

https://artsticker.app/events/94416 ※10/31 23:59まで

当日券

一般(1DAYチケット)¥3,500 / 前売り券¥3,000

一般(フリーパス)*3日間入場可 ¥7,000 / 前売り券¥6,000 

18歳未満*¥2,500

中学生以下無料

※24:00以降は 2,000円(1ドリンク付き)で入場可能。

※一部プログラムは別途料金の支払いが必要です。

HP : https://www.benten-kabukicho.com/

Instagram : https://www.instagram.com/benten2025_kabukicho

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