ライブ会場で、私たちは「物語」を読んでいる。ステージという名の巨大インスタレーション – 前編

ドームやアリーナ、フェスの会場に足を踏み入れた瞬間、目の前に広がる謎めいたステージセット。曲に合わせて色を変える照明、意味深に明滅する映像、やけに作り込まれた演出ギミック。さて、あの熱狂は本当に「音楽」だけに向けられたものだろうか。

たぶん違う。あの瞬間、私たちは音楽と同時に、空間全体で語られる巨大な「物語」を読んでいる。ライブステージはもう、ただ音を鳴らすだけの舞台じゃない。アーティスト・照明・映像・建築、そして観客が一体となって一つのストーリーを紡ぐ、巨大な没入型インスタレーションに進化している。

世界のフェスが見せる「空間ストーリー」の最前線

アメリカの「Coachella」なら、砂漠のど真ん中に巨大な彫刻や構造物が忽然と現れる。会場全体がまるでSF映画のセットに変わり、観客はステージにたどり着く前から、もう物語の中を歩かされている。

Coachella公式サイトより

イギリスの「Glastonbury」には、廃墟のような佇まいのアートエリア「Shangri-La」がある。そこにあるのは整った美しさではなく、退廃的な美しさだ。ディストピア的な深いストーリーテリングを味わうことができる。

Glastonbury 公式サイトより

地形を活かした野外フェス。「全日本フォークジャンボリー」から日本列島にぽつぽつと出現したフェスティバル。

日本国内に目を向けると、最もポピュラーな本格野外フェスは、「FUJI ROCK FESTIVAL」だろう。苗場の森そのものをキャンバスにしてしまう大規模なフェスで、人工セットを持ち込むというより、自然と調和するように空間が設計されている。

FUJI ROCK FESTIVAL 公式サイトより

そして日本の野外フェスを語る上で欠かせないのが、その原点である「全日本フォークジャンボリー」だ。日本国内で初めて開催された野外フェスであると同時に、アメリカの音楽史に残る伝説「ウッドストック・フェスティバル」より6日間早い、1969年8月9日に開催されていることはあまり知られていない。

やさか観光協会公式サイトより

岐阜県の椛の湖畔というロケーションを大胆に切り取った会場で、第3回目の開催では、あの「はっぴいえんど」がサブステージで演奏していたり、吉田拓郎は機材トラブルにより生ギターで「人間なんて」を歌わざるを得なくなったという。当時の会場は混乱に包まれ、一部観客が暴徒化、別ステージではステージ上に観客が雪崩れ込むなど、現場の凄まじさはもはや想像すら難しい。その場にいたかったという思いは胸にしまって、恵まれた時代に感謝を。

そして、その後も「箱根アフロディーテ」など、地の利を活かし自然と調和した野外フェスはぽつぽつと現れはじめ、現在のフジロックへと受け継がれていくことになる。

ちなみに作家・村上龍の名著『69 sixty nine』には、1971年夏に開催された「箱根アフロディーテ」に、“チケット無し”で入り込んだエピソードが登場する。この日は、世界的ロックバンド「ピンク・フロイド」が初来日講演を果たし、日本音楽史に残る重要な出来事となった。当時のカウンターカルチャーやサイケデリックな時代観が漂い、日本の野外フェスの軌跡を窺い知ることができる。

一方、そうした文脈を経て誕生した都市型の「SUMMER SONIC」は、幕張メッセの巨大な屋内ホールと隣のZOZOマリンスタジアム、おまけに人工ビーチステージまでを一つの動線でつないでしまう、とにかく欲張りで現代的な都市型フェスだ。前夜祭として深夜まで続く「SONICMANIA」の緻密なレーザー演出も、このフェスらしい先鋭的な美学の象徴だろう。

SUMMER SONIC 公式サイトより

さらに知る人ぞ知る存在として押さえておきたいのが、タイ・チョンブリーの「Wonderfruit」だ。音楽フェスというより、アート、建築、サステナビリティの実験場に近く、廃材や竹でできた巨大なインスタレーションが会場のあちこちに点在する。来場者が中に入り込める彫刻的なステージなど、歩き回るだけで美術展を巡っている気分になれる。コーチェラほどの知名度はないけれど、「音楽フェスとアートの融合」としての純度の高さは出色している。

Wonderfruit 公式サイトより

しかも2026年10月、そのスピンオフ「Wonderfruit Chapters: Kyoto」が日本に初上陸。社寺や庭園、山中を舞台に、禅にも通じる「妙(みょう)」という概念を探求する、完全招待制・限定100名という小規模な催しだけれど、Wonderfruitの哲学が日本の風土でどう再解釈されるのか、要チェックだ。

これまで、野外フェスの「会場」を中心に紹介してきたのは、音楽はどうしても“聴く”ことに焦点が当てられるから。そうあるべきだしそりゃそうなのだが、フェスやライブ会場では、視覚的な楽しみだって外せないのもまた事実。もはやインスタレーションと化している会場の熱狂を作り上げるのは、登場するミュージシャンだけではない。続く後編では、「会場」からさらに踏み込んで、実際に開催された、願わくばそこにいたかった一度きりのステージを紹介。シンガー、演出、天候(幻想的な霧が出現したり、しのつく雨が降り注いだり…)、そして私たち観客。全てが揃った再現性のないアート的な空間がそこには広がっているはずだ。(続く。)

「描く」才能が原宿に集結。Akaku所属28名アーティストが贈るグループ展「Akaku展」が開催

企業とのタッグで生まれた描き下ろし作品や会場限定アイテムが一堂に。ライブペイントなど交流企画も充実

アソビシステムが手がけるクリエイターレーベル「Akaku(エーカク)」が、レーベルに名を連ねる28名のアーティストによるグループ展を、2026年9月1日(火)から13日(日)までの13日間、原宿のAF GALLERYで開催する。展覧会のタイトルは『Akaku展 support by CLIP STUDIO PAINT』。

原宿・AF GALLERYで開催中の「Akaku展」

Akakuは、絵を「描く」という営みを軸に据え、才能ある作り手とそのファン、さらには企業との橋渡し役を担うレーベルだ。イラストレーターやアニメーター、書道アーティストなど、ペンや筆を持つクリエイターが所属。マネジメント業務にとどまらず、展示やプロダクトの企画開発にも踏み込み、日本発のイラストレーション文化を世界へと届ける活動を続けている。今回の企画は、作り手たちに新たな発表の舞台を用意すると同時に、レーベルを取り巻くコミュニティを盛り上げ、企業やファンとの接点を広げる試みでもある。

この会場だけで手に入る、描き下ろし企業コラボ作品

企業とのコラボレーションで実現した描き下ろし作品「メタルディスプレイ」の数々。(各¥30,000)

会期中の主役となるのは、参加する28名が本展のためだけに描き下ろした新作の数々だ。名を連ねるのは、原田ちあき、NEONERDYBOY、NAKAKI PANTZ、ナガミネショウコら、作風も個性も異なる面々。なお、イラストレーターの原田ちあき、さけハラスは過去にBAMでインタビューを実施しているので、ぜひチェックして欲しいところ(原田ちあきインタビュー / さけハラスインタビュー)。

さらに見逃せないのが、幅広い分野の企業・ブランドとのコラボレーションだ。オリオンビール、くら寿司、ロッテ、SUBARU、新日本プロレス、さらにはサッカーの名門Paris Saint-Germainまで、業種の垣根を越えたパートナーと組んだ作品やグッズが揃う。これらはすべて本展だけの取り扱いで、他では入手できないラインアップが用意される。

目玉となるメタルディスプレイはもちろん、ステッカーやクリアファイル、Tシャツなど、豊富なコラボグッズ展開が見逃せない、ファン垂涎のイベントとなっている。

コラボレーションTシャツ(各¥6,200) / モデル左:平澤由理(@littlelily1999 ) / 右:Ayano(@ayanonishikawa_ )共にアソビシステム所属
ステッカー(各¥550)やクリアファイル(各¥2200)など、豊富なグッズが展開されている。

その場で描く姿を目撃。作り手と語らえる仕掛けも

会期を通してクリエイター本人が会場に立つほか、目の前で筆を走らせるライブペイントや似顔絵づくりといった体験型のプログラムも予定されている。完成した作品を眺めるだけでは終わらない、制作の裏側や作り手それぞれの思いに踏み込める内容で、Akakuらしい振れ幅のあるクリエイティブを肌で感じられる場となりそうだ。

来場した人には、Akakuオリジナル仕様のコラボマッキーと、CLIP STUDIO PAINTのライセンスが付いたポストカードのプレゼントも。こちらは数量限定で、用意がなくなった時点で配布終了となる。

絵を描くという原点を見つめ直しながら、作り手・企業・ファンが交錯する空間には、どんな熱が立ちのぼるのか。原宿から生まれるカルチャーの“いま”を、会場で目撃してほしい。

Akaku展 support by CLIP STUDIO PAINT

・会期:2026年9月1日(火)〜9月13日(日)
・営業時間:11:00〜19:00(変更の場合があるので、詳しくは公式サイトをください)
・会場:AF GALLERY(東京都渋谷区神宮前3丁目21-8 ASOBIFACTORY)
・アクセス:東京メトロ明治神宮前駅より徒歩5分/JR原宿駅より徒歩7分
・公式サイト:https://asobisystem.com/schedule/73867/

・参加クリエイター(50音順)
葵山わさび/asuka/ABEchan/utu/枝里/おくだま/kakimaku/火曜び/コタチユウ/さけハラス/佐藤なつみ/さめない/DAF/NAKAKI PANTZ/ナガミネショウコ/新水/NEONERDYBOY/乃の木そよ/原田ちあき/BEY/Poki/堀越ねる/前田ミック/ますだみく/meeco/山下人夢/ヨシダナツミ/REDFISH

・クリエイティブパートナー(50音順)
アルプスの少女ハイジ/&Shimajiro/X TREATMENT/オリオンビール/くら寿司/CLIP STUDIO PAINT/ゼブラ/新日本プロレス/SUBARU/Hi! Mckee/Paris Saint-Germain/フエキくん/マリオンクレープ/LIHIT LAB./ロッテ イタガム/ワコム

【レポート】Don’t Look Backとは言うけれど。バンド漫画の金字塔『BECK』・『THE BAND』が“アートピース”として生まれ変わる – 「THE BAND / BECK METAL CANVAS SALES EVENT」

「THE BAND / BECK METAL CANVAS SALES EVENT」が開催

「THE BAND / BECK METAL CANVAS SALES EVENT」は2026年8月21日(金)の東京を皮切りに、大阪・横浜・名古屋・福岡の全国5都市で順次開催予定。(東京・大阪・横浜は会期終了済み)

ハロルド作石氏が手がけた伝説のバンド漫画『BECK』、そして最新作『THE BAND』が、アートワークとして生まれ変わった。「THE BAND / BECK METAL CANVAS SALES EVENT」と銘打った本販売会では、アートブランド・GAAATにより、独自技法「MCA(メタルキャンバスアート)」と呼ばれる金属製のキャンバス作品が誕生。さらに、現代アーティスト・Face Oka氏とのコラボレーション作品も実現するなど、見過ごせない企画となっている。会場の様子、作品の詳細を速報レポートとしてお届けする。

デビューから四半世紀。色褪せない「バンド漫画の金字塔」

『BECK』新装版 / 作:ハロルド作石(講談社)
多くの現役バンドマンをロックの道に駆り立てた、バンド漫画の金字塔。アニメ化・実写映画化までされた原作『BECK』は、2008年に完結。今なお、多くのファンの心を掴んでいる。

まず、二つの作品について軽く触れておきたい。

『BECK』は、1999年から2008年まで『月刊少年マガジン』(講談社)で連載された、ハロルド作石氏による全34巻の漫画作品だ。平凡な少年・田中幸雄(コユキ)が天才ギタリスト・南竜介と出会い、バンド「BECK」の一員として世界を目指す。2002年には講談社漫画賞(少年部門)を受賞、アニメ化・実写映画化もされ、現在活躍する多くのバンドマンをロックの道に駆り立てた、まさに「バンド漫画の金字塔」だ。

ここで押さえておきたいのが、『BECK』が登場した1999年当時、「バンド漫画」がむしろ逆風のジャンルだったことだ。いまでこそ『けいおん!』や『ぼっち・ざ・ろっく!』を思い浮かべる人も多いだろうが、当時の漫画業界には「バンド漫画は売れない」という“定説”があった。音楽漫画は、肝心の“音”が聴こえないという構造的なハンデを抱えている。ライブの熱をどう絵で伝えるか。その難しさゆえに、成功例は決して多くなかった。

その“定説”を覆したのが『BECK』だ。折しも時代は野外フェスブームのまっただ中。日本初の本格的野外ロックフェス「フジロック」が初開催されたのも1997年だ。メロコアやパンク、ミクスチャー・ラウドロックといった生々しいロックが台頭していた時期で、作中の伝説的フェス「グレイトフル・サウンド」をはじめ、『BECK』はそうした現実の音楽の熱狂と見事にリンクした。「音が聴こえるはずのない漫画から、ライブのグルーヴが伝わってくる」などと評され、バンド漫画を“売れるジャンル”として成立させた先駆けとなった。

そして新たなバンド漫画である『THE BAND』。『BECK』完結から16年、作者であるハロルド作石氏が再びバンド漫画に挑んだ最新作で、2024年12月発売の『月刊少年マガジン』2025年1月号でスタートした。いじめられがちな少年・新木友平が、初めて行ったライブで受けた衝撃を原点に、音楽仲間のマタロー(井畑眞太朗)や三日月形の風変わりなギターと出会い、音楽の世界へ踏み出していく。構造は『BECK』を受け継ぎながらも、音楽シーンの“今”を反映した「現代のBECK」とも評されている。

「メタルキャンバスアート」とは

MIYASHITA PARK「GAAAT GALLERY」で開催された東京展の様子。『BECK』、『THE BAND』の名シーンやカバーイラストがMCA(メタルキャンバスアート)として生まれ変わった。『BECK』の主人公・コユキが抱える様々なギターには、MCA特有の細かな凹凸が煌めいている。
現代アーティストのFace Oka氏が『BECK』をテーマに描いた特別なアートピースも登場。いつもの『BECK』とは一味違う、ファン垂涎の作品だ。なんでもFace氏はアトリエにギターを置くほどの音楽好きなんだとか。

本イベントでは、GAAATが手がける独自技法「MCA(メタルキャンバスアート)」として、紹介した2作品がアートピースとして生まれ変わった。

MCAとは、一般的な紙やキャンバスではなく、金属製のキャンバスを用いるのが最大の特徴。2次元のイラストデータを最大32層に分割して立体的に積み上げることで、“2.5次元”とも言うべき奥行きが生まれる。見る角度や光の当たり方によって表情が変わり、金属ならではの輝きや色合いも楽しめる。さらに、メンテナンスフリーで半永久的に美しさを保てるという保存性の高さも、この技法ならではのもの。

会場では、MCA以外のグッズ展開も豊富だ。ライブハウスに持ってこいのバンドタオルや、Face Oka氏の描き下ろした限定『BECK』Tシャツも。

あの頃、ロックに焦がれた大人たちへ

『THE BAND』の友平が、いままさに新しい世代へあの衝動を手渡しているように、ロックのアティテュードは時代を越えて受け継がれていく。

『BECK』が連載されていたあの頃、ページの向こうから確かに鳴̇っ̇て̇い̇た̇音に胸を焦がし、コユキが、竜介が、背負っていたロックのアティテュードを、理屈ではなく魂で受け取りながら青春時代を過ごした人たちがいる。あの熱を握りしめたまま、いつのまにか大人になったあなたは今、何をしているのだろうか。

もしも大人になる道すがらで、その熱をそっとしまってしまったのなら、忙しない日々に追われ、あの頃の衝動を忘れかけているなら、会場で作品の前に立ってみてほしい。金属の上で光を放つコユキの歌が、竜介のギターが、忘れていた熱い想いを思い出させてくれる。2024年、長きにわたり衝突してきたリアムとノエルは、オアシスの再結成を果たした。「Don’t Look Back」とは言うけれど、時にはかつての“あの熱”を思い出して。体の内側に響くロックの息遣いが、聴こえてくるはずだ。

左から「平 義行」(出典元:『BECK』 第13巻・179P) / 「コユキ-LIVE2」(出典元:『BECK』 第5巻・157P) / 「ディス・イズ・マイ・ホーム」(出典元:『THE BAND』 第3巻・122-123P) /
「コユキ-LIVE2」では、手を後ろに組み、顔を突き出すようにして歌う伝説のロックバンド・オアシスのボーカル・リアムギャラガーがモデルとされているコユキの歌唱シーンを採用。作中に登場するバンド「BECK」のロゴにもまた、オアシスのバンドロゴをオマージュしたデザインが施されている。

「THE BAND / BECK METAL CANVAS SALES EVENT」開催概要

ハロルド作石氏の漫画『BECK』『THE BAND』の世界観を「メタルキャンバス」で表現する販売イベント「THE BAND / BECK METAL CANVAS SALES EVENT」が東京・大阪・横浜を経て全国ツアー後半へ。
2026年9月17日(木)から名古屋「ギャルリーくさ笛」で開催を予定している同イベントは、
GAAAT独自のアートテクノロジー「Metal Canvas Art(MCA)」により、音楽と青春の物語の熱量を新たなアート表現へと昇華した作品が展示・販売される。

8月に実施された東京を皮切りに、大阪、横浜と巡回し、今回の名古屋が全国5都市ツアーの第4会場となる。
名古屋会場は9月21日(月・祝)まで開催し、その後、10月2日(金)から福岡「GAAAT GALLERY FUKUOKA_」でツアーは閉幕を迎える。

・入場料:無料
・来場予約特典:事前に来場予約をされた方へ限定ポストカードをプレゼント
※開催日時・会場・展示内容・販売作品・特典等は変更となる場合がございます。最新情報は特設サイトにてご確認ください。

特設ページ:https://gallery.gaaat.com/pages/beck

【名古屋】
・会期:2026年9月17日(木)~9月21日(月・祝)
・時間:12:00~18:00 ※最終日は14:00閉場
・会場:ギャルリーくさ笛
・住所:〒460-0008 愛知県名古屋市中区栄3-27-22 kuze bldg. 3F

【福岡】
・会期:2026年10月2日(金)~10月12日(月・祝)
・時間:12:00~18:00
・会場:GAAAT GALLERY FUKUOKA_
・住所:〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神3丁目16-17 1F

【東京】会期終了
・会期:2026年8月21日(金)~8月25日(火)
・時間:11:00~21:00
・会場:GAAAT GALLERY
・住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前六丁目20番10号 MIYASHITA PARK South 3階

【大阪】会期終了
・会期:2026年8月28日(金)~8月31日(月)
・時間:13:00~18:00 ※最終日は15:30閉場
・会場:心斎橋ギャラリービル 1F
・住所:〒542-0081 大阪府大阪市中央区南船場2丁目6-22 1F

【横浜】会期終了
・会期:2026年9月4日(金)~9月6日(日)
・時間:12:00~18:00 ※初日は15:00開場、最終日は17:00閉場
・会場:Hideharu Fukasaku Gallery & Museum
・住所:〒221-0835 神奈川県横浜市神奈川区鶴屋町3-33-2 横浜鶴屋町ビル1F

■GAAAT 独自のアートテクノロジー「Metal Canvas Art(MCA)」とは?

「Metal Canvas Art(MCA)」は、GAAATが提案する新しいアート体験です。専門の職人が一つひとつ丁寧に手作りで仕上げるメタルキャンバスアートは、メタル素材ならではの重厚感と美しさを持ちながら、作品の立体感が際立つ独自の没入体験を提供します。
さらに、優れた耐久性を備えており、日光や湿度に強く、長期間にわたりその美しさを楽しむことができます。デジタルデータを32層に分割する特殊なデータ設計技術を駆使し、凹凸や色味の繊細な表現を実現しました。

■GAAATについて

GAAATは、アートとテクノロジーの力で、IPコンテンツの表現と体験を新しい次元へ拡張するアートブランドです。私たちは、独自の技術とクリエイションによって、世界観や感情の奥行きを空間的・体験的に広げ、IPが持つ力をアートとして再定義します。

WEB:https://gaaat.com/

GAAAT Gallery(EC):https://gallery.gaaat.com/

Instagram:https://instagram.com/gaaat_art

X:https://x.com/gaaat_art

【インタビュー】「満たすことのできないものを、人は絶えず満たそうとする」 アーティスト ジョン・カフカ、個展「PICA」に寄せて – 後編

前編では、個展「PICA」のタイトルに込められた意味や、作品を表す言葉としてのタイトルの重さについて伺ってきた。後編では、作品に漂う記憶や記録、宗教観や死生観、そしてルーツである韓国と日本の文化的相違点について訊いた。

作品は感情を保存するためのツール

『PALIMPSEST』

作品に散りばめられた文章や落書き、時間の表記にはどのような意味がありますか。

カフカ – 私にとって、それらは装飾ではなく「記録」です。絵を描いていると、実際にメモを書いたり、制作した時間を記したり、消してから描き直した痕跡が残ったりします。

以前はそうした痕跡をすべて消そうとしていました。しかし時間が経つにつれて、その過程そのものも作品なのではないかと考えるようになりました。今回の絵は、一つの完成されたイメージというよりも、一冊のノートのようなものとして捉えています。画面の中にある文章や数字は、何らかの意味を解読してもらうための暗号ではなく、私がその絵と共に過ごした時間の痕跡です。

作品そのものについても、「記録」というニュアンスがあるのですね。

カフカ – 私は、作品とは感情を保存するための一つの方法だと考えています。人は記憶を完璧に保存することができません。私にとって絵は、その瞬間の自分自身をそのまま残してくれるものだと思っています。時間が経ってから昔の作品を見ると、絵そのものよりも先に、その当時の自分が何について悩んでいたのか、何を考えていたのかを思い出すことがあります。自分がどのような問いを追いながら生きてきたのかを記録しながら、未来の自分がこれからどんな言葉でこれらの感情を表現するのか、それが自分でも楽しみなんです。

消えてしまうものを必死で掴む

『VITRUNE』

普段のカフカさん自身が、手に入らないものに手を伸ばしてしまうような、何かに渇望することはありますか?

カフカ – 「完全さ」や「確信」、「才能」、「インスピレーション」など、そうしたものを欲してしまうことがあります。その中でも、やはり最も強く渇望しているのは「時間」です。何かを記録し、残そうとする行為そのものが、結局は消えていくものを必死に掴もうとする行為なのかもしれません。満たされない部分をそのまま抱えながら生きていくことは、とても怖いことです。今はそれを少しずつ受け入れ、自分の中で消化していこうともがいています。

「信じる」ことの力と危うさ

前回のBAMでのインタビューでは、「人々の信仰心」を今後の制作のきっかけにしたいと話されていました。信仰にまつわる印象的なエピソードはありますか?

カフカ – 私はクリスチャンというわけではありませんが、家族や親戚の中にはキリスト教や仏教を信仰している人が多く、宗教そのものには自然と触れながら育ってきました。ただし、私の作品は特定の宗教について説明したり、何かを布教したりするためのものではありません。私にできることは、原典やそこに存在する物語を、現代を生きる人間の視点から再解釈することだと思っています。

『CORRUPT 』

信仰によってより良い人生を送っている人も見てきました。一方で、誤った信念や盲目的な信仰によって人生そのものが壊れてしまう姿を目にしたこともあります。「信じる」という目に見えないものが、人間に対してどれほど大きな力を持つのか。同時に、盲目的に何かを信じることが持つ危険性についても考えるようになりました。

日本ではさまざまな宗教や信仰が混ざり合う「神仏習合」の文化があります。韓国にルーツを持つカフカさんから見て、日本人の信仰心はどのように映りますか?

カフカ – 韓国では、信仰が比較的はっきりとした形で表れることが多いように感じます。一方で日本では、特定の宗教を強く意識するというより、信仰そのものが生活や文化の中に自然と溶け込んでいるような印象を受けました。創作者の立場から見ると、そうした姿勢はとても興味深いです。日本の信仰文化は宗教という枠組みを超えて、「時間を積み重ねていく一つの方法」のようにも感じられます。日本と韓国のどちらも、自国の信仰や宗教について真剣に向き合っているということは、とても良いことだと思っています。

花は、咲くことと枯れることが同時に存在しているからこそ美しい

『FLORILEGIUM』

今回展示される作品の一つ、『FLORILEGIUM』では生と死について考えた作品だと伺いました。カフカさんにとって生と死の境界線はどこにあると考えていますか。

カフカ – これは私自身もよく自分に問いかける質問です。身体的な基準で考えれば、心臓が止まる瞬間のように、明確に定義できる基準はあると思います。ただ、人間が「生」と「死」を受け入れる方法は、もっと複雑なものだと思っています。

花は咲いているその瞬間から、すでに枯れていく時間を内包しています。だからといって、枯れ始めた瞬間から死んでいると言うこともできません。むしろ咲くことと枯れることが同時に存在しているからこそ、花は美しいのだと思います。人間もそれと似ていると思います。私たちは生きている間にも絶えず何かを失い、その一方で何かを残し続けています。

もしかすると、生と死はまったく別のものというより、実は同じものの異なる状態なのかもしれません。

異なる信仰を持つ日本と韓国ですが、展示や芸術的観点での文化の違い、鑑賞者の反応の違いを感じることはありますか?

カフカ – 韓国では、制作過程や技術的な部分について質問してくださる方が多い印象があります。色をどのように使っているのか、どんなブラシを使っているのかといった非常に具体的な質問を受けることもよくあります。一方日本では、作品を見て受けた感情や、印象に残った文章について話してくださる方が多いように思います。

今回の「PICA」展でも、絵そのもの以上に、作品の中に書かれた文章について質問してくださる方が多くいらっしゃいました。それは私にとって、とても嬉しい経験でした。絵だけではなく、自分が考えてきた物語や言葉まで一緒に届いていたということだと思ったからです。

『SANE』

今回の日本滞在で、その他に印象に残ったことがあれば教えてください。

カフカ – 今回の滞在で最も印象に残ったのは、お会いした人たちです。久しぶりに会った日本の作家の方々と話をしながら、お互いの悩みを共有したり、制作についての考えを話し合ったりすることができました。一人で制作している時間が長いと、創作者はどうしても自分自身の世界の中に閉じこもりやすくなります。しかし、他の作家と会話をすると、自分ではまったく予想していなかった視点に出会うことがあります。

今回の「PICA」は日本で完成した展示でしたが、同時に次の作品が始まるきっかけになった展示でもあります。これからも絵を通して人々と問いを共有し続ける作家として、成長していきたいと思っています。

丁寧に、それでいて大胆に言葉を選び取っていくジョン・カフカ。作品を通じて私たちに、あらゆるものにある境界の意味を問い直してくれる。今後の活動からも目が離せそうにない。

【インタビュー】「満たすことのできないものを、人は絶えず満たそうとする」 アーティスト ジョン・カフカ、個展「PICA」に寄せて – 前編

韓国にルーツを持ちながら日本でも精力的に活動を続けるアーティスト、ジョン・カフカ。日本で開催した個展「PICA」で見つめたのは、人間が生涯抱え続ける「欠乏」というテーマだった。展示の核心について話を伺った。

この世界に、一つの意味しか持たないものはほとんどない

『APOCRYPHA』

普段の制作において、作品タイトルはどのように決めていますか?

ジョン・カフカ(以下、カフカ) – 私は、作品のタイトルをかなり長い時間をかけて考えます。タイトルは絵と同じ重さを持つ、もう一つの作品と言ってもいいかもしれません。作品の9割ほどは描き始める段階で既にタイトルが決まっていますが、制作中にもメモを残します。聖書の一節やラテン語、古い文学作品、哲学書や論文などで見つけた言葉を書き留めておくことも多く、その中には、時間が経ってもずっと頭の中に残り続ける言葉があります。最終的に作品のタイトルになるのは、そうした言葉です。

二つの意味を持つ言葉をタイトルに選ぶことが多いようですが、そうした「二重性」に惹かれる理由を教えてください。

カフカ – この世界には、一つの意味しか持たないものはほとんどないと思っています。同じ言葉でも、時代が変われば意味が変化しますし、その人次第でまったく違う形で受け取られることもあります。私は、そうした“不完全さ”が好きなんです。
聖書に登場する象徴も、一つの意味だけを持っているわけではありません。光は「希望」であると同時に「審判」でもあり、水は「生命」であると同時に「洪水」や「災厄」でもあります。これは創作においても同じで、鑑賞者が最初は一つの意味として受け取ったものを、時間が経ってから別の意味として再発見できるのであれば、それだけでも作品をより楽しむ要素になると思います。

『溺』

そして、この感覚はモチーフの選び方にもつながっています。花は、咲いた瞬間から枯れていく時間を同時に抱えていて、生命と死、始まりと終わりを同時に象徴します。魚もまた、キリスト教では古くから信仰を象徴する印として使われてきた一方で、人間が長く留まることのできない水中に生きる存在でもあります。私は一つの対象そのものからインスピレーションを得るというより、そうした異なる意味を持つ象徴同士を結びつけ、新しい関係を生み出していく過程に強く惹かれています。

個展タイトル「PICA」に込めた意味

『DAISY』

では、今回の個展のタイトル「PICA」にはどんな意味が込められているのでしょうか。

カフカ – 実は、最初はまったく違うタイトルを考えていました。制作を進めながら、それぞれの作品を貫いているものは何なのかを考え続け、その過程で「満たすことのできないものを、絶えず満たそうとする人間」という一つの言葉に近づいていきました。そんな中で「PICA」という言葉に出会いました。

「PICA」も異なる意味を持つ言葉で、一つは、タイポグラフィで用いられる大きさの単位です。今回の展示では、文字や文章そのものを作品の重要な要素として使用していたため、この意味は作品のビジュアル面とも密接につながっていました。

一方で、医学的には「異食症」を意味する用語でもあります。異食症は、食べ物ではないものを継続的に摂取することを特徴とする実在する疾患です。

特に「PICA」という言葉において私が注目したのは、一つの言葉が、まったく異なる領域の意味を同時に持っているという点でした。タイポグラフィの単位であると同時に医学用語でもある。その隔たりが、私にとって新しいアプローチとして感じられました。そうした考えをもとに、それが鑑賞する人にどのような視覚的イメージとして届くのかを考えました。

人はなぜ、愛や記憶、承認、過ぎ去った時間のように、完全には所有することのできないものを絶えず手元に留めようとするのか。

そして、満たされないものを満たそうとする心を、どのようにイメージとして表現できるのか。「PICA」という言葉が持つ異なる意味の隔たりを出発点として、私はこうした問いを、「人間の渇望や欠乏」というテーマへと発展させていきました。

『12』

この疾患を持つ方々の経験や、その原因を作品のテーマと直接結びつけて説明するべきではないと考えています。そのため、リサーチを重ねながら、疾患そのものを解釈したり再現したりすることはなく、作品の中でもそれを直接的に想起させることのないよう注意を払いながら企画しました。

「異食症」についてはどのようなリサーチを行ったのでしょうか。

カフカ – 最初は異食症に関する医学資料や論文だけでなく、「PICA」という言葉がそれぞれの領域でどのように使われているのかについても調べました。

調査を進める中で最も重要だと感じたのは、この疾患を単なる概念や象徴として扱うべきではないということです。実際の疾患には、それぞれ異なる背景や経験を持つ方々が存在しますし、当事者ではない私が、それを一つの原因や感情によって説明することは適切ではないと考えました。

そのため、リサーチを進めるほど、疾患そのものを作品の論理の中へ取り込むのではなく、むしろその部分と自分の作品との境界を明確に分けることを意識するようになりました。

私が作品の中で扱っている「渇望と欠乏」は、異食症の原因を意味するものではありません。愛や記憶、承認、時間のように、人間が生きていく中で経験するさまざまな満たされない心と、それを満たそうとする心について、私が作家として別のものとして考え、発展させた概念です。

企画者の立場では、まず資料を正確に理解し、自分がどこまで語ることができるのかを見極める過程が重要だと考えています。そして作家の立場では、その境界を尊重した状態で、自分の中に残った“問い”をどのように別のイメージや言葉へと発展させていくのかを考える必要があると感じています。

人と物の境界にあるもの

『STRAY 』

今回の個展のテーマは、人と物の関係性を考えることでもあると思います。それぞれの境界についてどのように考えていますか。

カフカ – 私は、人と物の境界は思っている以上に曖昧なものだと考えています。人は物そのものを使っているのではなく、そこに宿った記憶を使っているのではないかとも思います。

ある人にとっては古びた鉛筆一本が家族と同じくらい大切なものかもしれませんし、一通の古い手紙や詩の一節が、その人の人生そのものを代弁することもあります。私自身も、長く使ってきた万年筆やスケッチブック、本などを簡単には捨てることができません。それらは単なる道具ではなく、時間を共に過ごしてきた記録だからです。結局、人と物の境界を作っているのは機能ではなく、記憶や信じる心なのではないかと思います。

後編では、作品に残された記憶や記録、信仰というテーマと死生観、そして日本と韓国で経験した文化の違いについて、さらに深掘りしていく。募集した質問への回答も。お楽しみに。

「予約してから本を選ぶ」書店はなぜ増えているのか

かつて書店といえば、街でふらりと立ち寄った先で、棚を眺めながら本と出会う場所だった。本屋の閉店のニュースが相次ぐ中、近年では首都圏を中心に「予約をしないと入れない本屋」が増えてきている。住所は非公開、来店はInstagramのDMやフォームから。そんな手続きの面倒さですら、体験の一部として機能しているように見える。

「アポイント制」本屋の広がり

Daily Practice Books

Daily Practice Books公式サイトより

渋谷区・広尾エリアにある「Daily Practice Books」は、マンションの一室を週末だけ開放する個人書店だ。住所は非公開で、Instagramやメールで連絡を取り合ってから訪問する。棚は店主の私的な本棚でもあり、読書会や編み物の会といった小さな集まりも開かれるブック・コミュニティとしても機能している。「本を売る場所」というだけでなく「本を介した関係が生まれる場所」になっている。

Hi Bridge Books

Hi Bridge Booksにてローンチイベントを行った「XO1」(サラ ユキコ)。取り扱いは限られたショップのみ。 / 販売サイトより

代々木八幡の「Hi Bridge Books」は、完全予約制のブックストア兼ギャラリーだ。神保町の小宮山書店で経験を積んだ店主が、アートやファッションのビジュアルブックや国内外の写真集・雑誌を独自の視点でセレクトする。予約はInstagramのDMのみ。展示やブックローンチイベントも定期的に行われ、書店という存在を超え文化の発信拠点としての性格が強い。

loneliness books

公式サイトより

東中野の「loneliness books」は、クィアやジェンダー、フェミニズムに関する本やZINEを集めるブックストア兼出版レーベルだ。2020年に大久保にて完全予約制の形でスタートし、現在はオルタナティブスペース「platform3」を拠点に、読書部屋としての来店予約を受け付けている。一般書だけでなく、店主自らの手で集めたゲイ雑誌のアーカイブや、世界中のZINEがディスプレイされている。テーマ性の強い選書だからこそ、来店のハードルを設けることで、安心して本と向き合える空間づくりにつながっている。

Porvenir Bookstore・Chapters bookstore

神奈川県・大船にある「Porvenir Bookstore」は、対話型個別選書というサービスを予約制で行っている。事前アンケートを行うことで、店主が棚を巡りながら対話を重ねて本を選書してくれるサービスだ。市ヶ谷の「Chapters bookstore」は、オンライン書店を母体に、スタッフとの対話を通じて一人ひとりに本を提案する「パーソナル選書」を展開し、読書好き同士の出会いの場としても機能している。

「不便」がむしろ強みになる理由

これらの書店に共通するのは、来店のハードルを上げることが単なる個性にとどまらず、ビジネス的にも理にかなっている点だ。住所非公開・アポイント制の書店にすることで、アクセスしやすい立地にオープンせずに済む。その分、独自のセレクトを展開したり、一人一人の選書サービスといった手間のかかる接客に取り組むことができる。予約という一手間を挟むことで来店者はあらかじめ関心の高い人に絞られ、「ひやかし客」への対応に時間を取られにくくなる。パーソナル選書のように、選ぶという行為自体に値段をつけるサービスも生まれており、本という薄利多売の商材に、接客サービスの工夫を重ねることで付加価値をつけている。

なぜ今、予約制なのか

背景には少なくとも三つの要因がありそうだ。

イベントを定期的に開催することで、ブックコミュニティを形成する下北沢・本屋B&B / 公式サイトより

第一に、情報過多への反動。ネット書店やAIによるレコメンドに疲れた私たちにとって、「誰かが自分のために選ぶ」という選書体験は希少価値を持つ。店主のこだわりが詰まった独立系の書店は、そのばにいるだけでもあらゆる文化や教養に触れることができる。

第二に、SNSが店舗への導線そのものになったこと。Instagramのプロフィールより、「link in bio」をクリックすれば予約に直結する設計は、実店舗の看板よりも強い集客力を持つ。物理的な売り場面積が限られる中で、インスタグラムのポストではより効果的に本を紹介できる。しかも“平置き”と同じ状態で。

第三に、書店の役割がモノの販売からコミュニティ形成へと広がっていること。読書会、展示、ローンチイベントなどを書店で開催することは、本の紹介だけでなく、そこに集う「時間」や「関係性」こそが商品になっている。こうした複数の接点を持つことは、書籍単体の薄い利益率を補い、顧客との深い関係を継続させることにもつながっている。

小規模だからこそ実現できる濃密な体験は、大型書店には模倣しづらい。予約制という不便さが、むしろブランドの輪郭を際立たせているだろう。それが今、独立系書店が選び取っている生存戦略なのかもしれない。ただしその分、事業としては来店可能な人数に規模が縛られやすく、店主個人の目利きに依存する分、拡大よりも持続を目指す性質のビジネスだとも言えそうだ。

香水は「纏うアート作品」になった ―― 嗅覚から入る、新しいアートの所有体験

香りはアートになりうるか。

香りはアートになりうるか。人々は、美術館やギャラリーで作品を鑑賞するように、「香水」という形で表現された好みの香りを購入している。まるで作品のコンセプトを解釈するかのように、その香水に込められたストーリーを楽しみながら。

きっかけは、香水を身だしなみの道具としてではなく、調香師という作家が生み出した「液体の作品」として捉え直す視点の広がりだ。ニッチフレグランス市場はここ数年、年率で二桁台の成長を続けており、その中心にいるのはSNSを中心に香りのレビューを追いかける若い世代だという。

絵画や彫刻は、買うにも飾るにも大きなハードルがある。しかし香水なら、数千円〜数万円で、作家の思想や物語を所有し、自分の生活の中に一部にすることができる。そんな「嗅覚のアート」がどのような系譜をたどってここまで来たのか、そして今、何が最前線で起きているのかを辿っていきたい。

香水というアート

香水とアートが出会ったのは、中身の香りだけではない。20世紀初頭、フランスのガラス工芸家ルネ・ラリックは、香水商フランソワ・コティとの出会いをきっかけに香水瓶のデザインを手がけるようになり、香水瓶を「小さな彫刻」の域にまで引き上げた。1764年創業のクリスタルメーカー、バカラもまた、緻密なカットガラスによって数々の高級香水ブランドのボトルを手がけ、香水瓶をアートの領域に押し上げた存在として知られている。

つまり「香水を飾る/所有する」という体験は、香り以前に、ボトルというオブジェへの美意識としてすでに始まっていたのだ。

ラリックが手掛けたフレグランスボトルの数々。アール・ヌーヴォーの巨匠として名を馳せていたルネ・ラリックは、アール・デコのガラスアーティストへと変貌を遂げた。 / LALIQUE公式サイトより

香水が単なる製品を超えて「自己を表現する道具」になった転換点として欠かせないのが、シャネル No.5 だ。「夜、何を着て眠るのか」と聞かれたマリリン・モンローが「シャネルの5番よ」と答えたという逸話は、いまや20世紀ポップカルチャー史の一部として語り継がれている。この一言によって、香水は「肌にまとう最後の一枚」として、ファッションや映画のイメージと分かちがたく結びつくアート表現になった。

アーティストが作り出す「香り」という作品

香水とアートの関係が最も先鋭的な形で現れているのが、川久保玲が率いる〈コム デ ギャルソン パルファム〉だ。同ブランドは1994年の創業以来、既存の香水の定義に抵抗し続けてきた「アンチ・フレグランス」のレーベルとして知られている。

グラフィティアーティストとして世界的な人気を誇るKAWSとは、コラボレーション香水「MIRROR by KAWS」を2021年に発表した。KAWSの代名詞ともいえるキャラクター「COMPANION」が赤い水たまりに沈んでいくグラフィックがボトルとパッケージにあしらわれ、香りそのものもKAWSの多面的な作品世界からインスピレーションを得たフローラルムスクに仕上げられている。

MIRROR BY KAWS EAU DE TOILLETE 100ml ¥16,500 /  DOVER STREET MARKET GINZA 公式サイトより

そして2026年、現代美術の拠点として知られるダイア・アート・ファウンデーションと、メグ・ウェブスターとのコラボレーションでは「[ ] Dia x Meg Webster」が誕生した。ウェブスターの彫刻作品を特徴づける正四面体のシルバーボックスに収められたこの香りは、キノコやサンダルウッド、パチュリを基調に、雨上がりの土や森の空気を思わせる香調で構成されている。ウェブスターは、香りを普段の作品の延長線上にある「もうひとつの素材」として扱っているかのようだ。コム デ ギャルソン パルファムはこれ以前にも、作曲家マックス・リヒターやサーペンタイン・ギャラリーズ、ステファン・ジョーンズといった多様な作り手とタッグを組んでおり、香水そのものを「発表媒体」として扱う姿勢を貫いている。

調香師という名のアーティスト

香水そのものを詩的な「作品」として提示するニッチフレグランスメゾンの活躍も見逃せない。

エディション ドゥ パルファム フレデリック マルの香水。削ぎ落とされたデザインは香りとの静謐な対話を可能にする。 / エディション ドゥ パルファム フレデリック マル公式サイトより

〈パルファン・クリスチャン・ディオール〉の創業者の血を継ぐフレデリック・マルが創設した〈エディション ドゥ パルファム フレデリック マル〉は、自らを「香りの出版社」と位置づけ、調香師を”作家”として扱った。マルは調香師と編集者のような関係を築き、彼らが本当に作りたい香りを最高級の原料と技術で実現させることに徹し、パッケージに調香師自身の名前を明記するという当時としては異例の戦略を行った。この姿勢は、エルメスの初代専属調香師というキャリアを持つジャン・クロード・エレナをはじめとする一流調香師たちを惹きつけてきた。

一方、2009年にパリで創業した〈メゾン フランシス クルジャン〉は、調香師フランシス・クルジャン自身が香りの名前を先に着想し、そこにふさわしい香りを作り込んでいくという手法で知られる。トップからラストへ移ろう香りの時間の流れそのものをストーリーとして重要視し、香りという作品を生み出すアーティストたらしめている。

クルジャンがアーティストのヤン・トマとのコラボレーションによって制作された”香り付きの飲める湧き水”というアート作品

「展示」された香り

ニューヨークのメトロポリタン美術館で行われた特別展「Sleeping Beauties: Reawakening Fashion(眠れる森の美女たち:ファッションの目覚め)」では、香りが正式な展示メディアとして扱われた。

ドレスやファッションアイテムにまとわりついた香りを体感することができる / メトロポリタン美術館公式サイトより

本展では、生地が傷みすぎてマネキンに着せることすらできない歴史的な衣装の数々を、嗅覚を通じて鑑賞するという試みがなされた。ベルリンを拠点とするシセル・トラースが1913年に制作されたドレスから香りを抽出し、特殊な塗料として再現した。来場者がパイプや瓶を通して、または壁を撫でるとその香りを体感できるインスタレーションとして制作されている。さらに「Scent of a Woman」と題されたセクションでは、社交界の女性たちが実際にまとっていたドレスや帽子から採取した香り分子をもとに、その人物が生前まとっていたであろう香りそのものを再構成するという試みも行われた。

トラースは「香りが持つ情報は、視覚中心のものの見方を、より感覚的な世界理解へとシフトさせる力を持つ」と語っている。美術館が香りを、絵画や彫刻と並ぶマテリアルであることを確証づけている。

長い歴史の中で、人々は香りに魅了され続けてきた。それは香りが持つ独特の想起力にある。他の感覚と比べて、香りは身体に直接まとわりつき、その場にいなくても特定の情景や記憶を呼び起こす。個性豊かな調香師たちによる香水の数々は、それぞれがまるで小説や絵画のような物語性を持っており、ニッチフレグランスにおいては、年間で二桁代の成長率を誇る巨大な市場を形成しつつある。こうして、香水は量産品ではなく、纏うことができる「アート」としてとして選ばれるようになったのだ。

【連載】Convenience ART Vol.9「『コンビニ人間』が炙り出したコンビニという“正常な楽園”」

コンビニに入ると、なんとなく安心する。

商品の並ぶ棚、決められたレジの位置、店員さんの「いらっしゃいませ」。どの店に行っても似たような景色が広がっていて、何をすればいいのかもだいたい分かる。

四角い箱の中で、人もモノも、ちゃんとそれぞれの場所に収まっている。

今回は、そんなコンビニを舞台にした、村田沙耶香の小説『コンビニ人間』を紹介したい。

『コンビニ人間』 / 村田沙耶香(文春文庫) / PR TIMESより

主人公の古倉恵子は、18年間コンビニでアルバイトを続けている。マニュアルに従って動き、決められた言葉を話し、決められた場所に商品を並べる。

白く明るい店内。壁、棚、レジ、バックヤード、商品、制服、マニュアル。

そこには一見すると無数のものが存在しているが、それぞれには明確な位置と役割が与えられている。恵子は、その空間にいるときだけ、自分が「世界の中のひとつの部品」として機能している感覚を得ていた。

ところが、その場所から少し外れると、そこには「普通ならこうする」という別の規範が現れる。
「普通」や「正常」は、マニュアル化されているわけではないのに、いつの間にか共有され、私たちのふるまいを静かに方向づけている。ときに私たちは、その基準から少し外れたものに違和感を覚える。『コンビニ人間』では、そんな「正常」の輪郭が、コンビニという身近な空間を通してありありと描き出されている。

そして、小説の表紙もまた印象的だ。
あらかじめ決められた位置と役割のなかに、人もモノも整然と収められているコンビニに対して、そこには、四角く切り取られた塔から煙が吹き出し、手足が覗き、大きさもばらばらのモノたちが出たり入ったりしている。

このイメージを手がけたのは、現代美術家・金氏徹平。表紙に使われているのは、2009年に制作された《Tower》だ。ドローイングを起点に、コラージュ、映像、舞台へと姿を変えながら展開されてきたシリーズのひとつである。

美術家・彫刻家の金氏徹平が京都市立芸術大学を舞台に代表作「tower」を再構築。dot architectsとのコラボレーションにより、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAの中で「tower」を組み立てる「パフォーマンス」が行われた / PR TIMESより

箱から何かが出てくる。

穴の向こう側に別のものが見える。

チューブが伸びる。

何かが入り込む。

身の回りにあるものを組み合わせたり、切り取ったり、別の場所に置いてみたりすることで、見慣れたものを別の姿へと変えていく金氏さんの作品。そこでは、ひとつの形や用途にとどまらないものたちが、いくつもの関係をつくっている。

「正常」とされる場所から、少しだけ外れてみること。決められた場所にあるものを、別の場所に置いてみること。そんな視点から世界を覗いたとき、私たちの身の回りにある「四角い箱」は、どんなふうに見えてくるだろう。

【連載】アート事件簿 Vol.1「美術史上最大級の贋作事件」 ー “本物”を揺さぶる天才贋作師 ヴォルフガング・ベルトラッキ

ヴォルフガング・ベルトラッキ(2024) / Wikimedia Commonsより

ヴォルフガング・ベルトラッキは、逮捕後のインタビューで「間違ったことをしたと思いますか?」と問われ、こう答えた。

「間違った絵の具を使ってしまった」と。

天才贋作師と呼ばれた彼が世に送り出した”名画”は300点以上。しかし、そのすべてが彼自身の手による”偽物”だった。

しかも彼が描いていたのは、既存の作品をただコピーしたものだけではない。「もし〇〇がこの時代にこんな作品を描いていたら…」という想像のもと、本来存在しない新作まで制作していたのだ。

それらは世界中で本物として取引され、事件全体で約40億円規模の被害を生み出した。

そして、この事件は決して対岸の火事ではない。

1999年、徳島県立近代美術館が6720万円で購入したジャン・メッツァンジェの『自転車乗り』。そして1996年、高知県立美術館が1800万円で購入したハインリヒ・カンペンドンクの『少女と白鳥』。これらはいずれも20年以上にわたり本物として展示されてきたが、後にベルトラッキ本人が「自分が描いた作品だ」と主張した。

さらに、日本の個人コレクターが所有するマリー・ローランサン作品についても同様の発言をしている。つまり、私たちが「本物」だと思って見てきた作品の中にも、彼の贋作が含まれていた可能性があるのだ。

しかし、ここで少し立ち止まって考えてみたい。

もしその作品が贋作だったとしても、それを見て「美しい」と感じた気持ちまで偽物になるのだろうか?

ベルトラッキはこう語っている。

「私は美しいものを作らなければならない。……人を幸せにしたいんだ。」

もちろん、これは犯罪を正当化する言葉ではない。しかし、この言葉を聞くと、彼が一人の画家としての意識を持っていたこともうかがえる。

実際、彼の父親は教会壁画や名画のコピーを手がける修復師であり、ベルトラッキ自身も幼い頃から父の仕事を手伝っていた。数え切れないほどの本物の名画を間近で観察し、絵具の重なりや筆致、キャンバスの質感まで身体で学んできた経験。それこそが、専門家すら欺く圧倒的な再現力につながったのだろう。

「KAIROS. The Right Moment」in Venice in 2018 /
画家ヴォルフガング・ベルトラッキ(Wolfgang Beltracchi)と、写真家マウロ・フィオレーゼ(Mauro Fiorese)の作品による巡回展 /
Wikimedia Commonsより

彼は、専門家たちについてこう振り返る。

「専門家たちのほとんどは真剣だった。本当に真剣だった。彼らの唯一の問題は、私が上手すぎたということだ。」

一見すると挑発的な言葉だ。しかし彼の持つ卓越した知識と技術が、紛れもなく本物だったことは事実である。だとすれば、私たちにとっての”本物”とは何だろう。作品そのものなのか、それとも作者の名前や来歴なのか。

ベルトラッキの存在は、”本物”という価値観そのものを揺さぶっているのかもしれない。

「自由研究」の現在地 – 定番スポットから珍奇スポットまで

前編では、懐かしの定番自由研究と、令和の最新自由研究キットを紹介した。後編では、自由研究のネタ探しにぴったりな、都内のお出かけスポットを紹介したい。

自由研究をしに出かけよう

国立科学博物館 公式HPより

自由研究のネタは、家の中だけで探すものじゃない。

国立科学博物館をはじめ、都心には自由研究のヒントになりそうな施設が山ほどあるけれど、今年の夏、特に足を運ぶ価値のあるスポットをぜひチェックしてみてほしい。

①日本科学未来館

日本科学未来館 公式HPより

まずは王道から。

日本科学未来館は、2026年10月から2027年4月まで施設整備のため長期休館することが決まっている。つまり、この夏が当面のあいだ最後の開館シーズン。「行こう行こうと思っているうちに気づけば何年も経っていた」というあなた、今年の夏こそチャンスかも。最新のロボット技術やAIの展示は、令和の自由研究テーマとの相性も抜群だ。

日本科学未来館

・住所:〒135-0064 東京都江東区青海2丁目3−6
・公式サイト:https://www.miraikan.jst.go.jp
・公式SNS:https://x.com/miraikan
・休館日:毎週火曜日(火曜日が祝日の場合は開館)、12月28日~1月1日
・営業時間:10:00〜17:00 (入館券の購入および受付は16:30まで)
・入館料:常設展 – 大人:630円 / 小学生~18歳以下:210円 ※毎週土曜日は無料 / 未就学児:無料
※常設展以外の特別展、ドームシアターのご観覧には、別途チケットのご購入が必要です。詳しくは公式サイトをご確認ください。
※休館日、営業時間、入館料に関しては変更の可能性があるので、公式サイトをご確認ください。

②地下鉄博物館

次に、葛西の地下鉄博物館。

ちょうど開館40周年を迎えていて、8月30日(日)まで記念イベント「ちかはく・メモリアル40」を開催中。40年分の歩みを追う写真展や記念グッズも登場する、鉄道好きにとっては見逃せないタイミングだ。実物の車両に乗り込んで運転シミュレーターを体験できるコーナーもあり、自由研究にはうってつけの環境が揃っている。

地下鉄博物館

・住所:〒134-0084 東京都江戸川区東葛西6丁目3−1 東京メトロ東西線 葛西駅高架下
・公式サイト:https://www.chikahaku.jp
・公式SNS:https://x.com/MetroMuseum
・休館日:毎週月曜日(祝日・振替休日となる場合、その翌日) / 年末年始(12/30~1/3)
・営業時間:10:00~17:00(※入館は16:30まで)
・入館料:大人:220円 / 子供:100円(※満4歳以上中学生まで)
※休館日、営業時間、入館料に関しては変更の可能性があるので、公式サイトをご確認ください。

③東京都水の科学館

東京都水の科学館 公式HPより

続いて、有明の東京都水の科学館。

無料で楽しめる体験型施設で、見どころは「水のたびシアター」。周り4面にぐるっと映し出される映像を見ていると、自分が水つぶになった感覚で大自然をめぐる旅を体験できる。蛇口をひねれば当たり前に出てくる水が、どこから来てどこへ行くのか。普段は意識しないテーマだからこそ、自由研究として掘り下げるとかなり奥が深い。

東京都水の科学館

・住所:〒135-0063 東京都江東区有明3丁目1−8
・公式サイト:https://www.mizunokagaku.jp
・公式SNS:https://x.com/mizunokagakukan
・休館日:月曜日(休日の場合その翌日) / 年末年始:12月28日~1月4日(その他臨時休館日は要確認)
・営業時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
・入館料:無料
※休館日、営業時間、入館料に関しては変更の可能性があるので、公式サイトをご確認ください。

ここからは、少し変わり種を2つ。

④消防博物館

消防博物館 公式HPより

まずは四谷の消防博物館。

無料で入れるうえに、9月13日まで特別企画展「知っていますか?空の消防救助機動部隊!」を開催中。消防ヘリコプターの活動を紹介する内容で、館オリジナルのワークシートも用意されているというから、そのまま自由研究の下書きにできてしまう。歴代の消防車や、江戸時代の火消しの道具まで展示されていて、時代ごとの「消火の工夫」を比較するテーマにも発展させやすい。

消防博物館

・住所: 〒160-0004 東京都新宿区四谷3丁目10−10
・公式サイト:https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/taiken/hkkan/index.html
・休館日:毎週月曜日(国民の祝日に当たる場合は開館し、直後の平日を休館日とする。 / 年末年始:12月29日~1月3日(その他臨時休館日は要確認)
・営業時間:9時30分~17時(最終入館は16時30分)
(図書資料室は水・金・日の13時~16時30分)
・入館料:無料
※休館日、営業時間、入館料に関しては変更の可能性があるので、公式サイトをご確認ください。

⑤目黒寄生虫館

次に、目黒の目黒寄生虫館。

常設展ながら、8.8メートルのサナダムシ標本という強烈すぎるインパクトで知られる、都内屈指の知る人ぞ知るスポット。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏も、来日時にプライベートで訪問したそう。特別展として、9月27日(日)まで「寄生虫標本づくりに挑戦!」も開催中。夏休みの自由研究に「ちょっと人と違うテーマ」を選びたい人には、これ以上ない選択肢だと思う。

目黒寄生虫館

・住所:〒153-0064 東京都目黒区下目黒4丁目1−1
・公式サイト:https://www.kiseichu.org
・休館日:毎週月曜日・火曜日/年末年始(月曜日・火曜日が祝日の場合は開館し、直近の平日に休館)
・営業時間:10時~17時
・入館料:無料
※休館日、営業時間、入館料に関しては変更の可能性があるので、公式サイトをご確認ください。

⑥すみだ北斎美術館

すみだ北斎美術館 公式HPより

もう一つ、少し毛色の違うスポットとして紹介したいのが、両国のすみだ北斎美術館。

8月30日(日)まで、葛飾北斎と歌川広重という2大絵師の風景画を並べて紹介する企画展「北斎 広重 ふたりの富士、それぞれの富士」を開催中だ。同じ江戸の風景を、それぞれの絵師がどう描き分けたのかを見比べられる、まさに「観察と比較」がテーマの展覧会。自由研究の王道である “比較” というアプローチを、アートの視点から体感できる貴重な機会だ。妹島和世氏設計の建物自体も、鏡のような外壁が特徴的で一見の価値がある。

すみだ北斎美術館

・住所:〒130-0014 東京都墨田区亀沢2丁目7−2
・公式サイト:https://hokusai-museum.jp
・公式SNS:https://x.com/HokusaiMuseum?lang=ja
・休館日:毎週月曜日(月曜が祝日または振替休日の場合はその翌平日)、年末年始(12月29日~1月3日)
・営業時間:9:30~17:30(入館は閉館の30分前まで)
・入館料:各展示ごとに公式サイトをご確認ください。
※休館日、営業時間、入館料に関しては変更の可能性があるので、公式サイトをご確認ください。

王道から変わり種まで、テーマも雰囲気もバラバラな6施設を並べてみたけれど、共通しているのは「実物を目の前にすると、自由研究のアイデアはいくらでも湧いてくる」ということ。写真を撮る、パンフレットをもらう、気づいたことをメモしておく。それだけでも立派な下調べになる。気になった施設があれば、この夏のうちにぜひ足を運んでみてほしい。

自由研究は、まさに「アート」である

ちょっとここで視点を変えてみたい。自由研究の工程を分解すると、テーマを選び、調べ、手を動かし、まとめる。これって、創作活動のプロセスそのものじゃないだろうか。

しかも自由研究には、そもそも「正解」がなかった。先生からテーマを与えられるわけでも、模範解答が用意されているわけでもない。あるのはただ、自分の「気になる」という気持ちと、それをどう形にするかという工夫だけ。完成度なんて二の次で、夏休み最終日に雑にまとめた模造紙ですら、今見返せば当時の自分が何を面白がっていたかが飾らずに残っている。

大人になった私たちが「創作」や「表現」と聞いて身構えてしまうのは、いつの間にか「うまくやらなきゃ」というプレッシャーを背負い込んでいるからかもしれない。何かを作ろうとするとき、「うまくできるか」より先に「気になるか」を思い出してみる。自由研究が教えてくれるのは、案外そんなシンプルなことだ。

人気記事

RANKING