テレビの世界もアートがいっぱい。

「オールドメディア」なんて言葉が流行語にノミネートした今年。
テレビや新聞、雑誌などかつてのエンタメ、報道メディアはインターネットや配信コンテンツ、SNSなどと比べて“オールド”と目されている。ただ、スマホやネットを用いて個人が人それぞれの趣味を楽しめる昨今において、「みんな」に向けてコンテンツを制作する姿勢は“オールド”ながら唯一無二の魅力でもある。それに、NetflixやAmazon Primeで全世界へ配信される日本のバラエティ番組のコンテンツを見てみると、その制作力だって、バカにできないはずだ。

 で、そんなテレビ番組が“みんな”へ届けるコンテンツのなかでも、報道、バラエティ、お笑い、音楽、など様々なジャンルがあるように、アートな内容を堪能できるものがある。本稿では、そんなアートなテレビ番組をご紹介。テレビ離れが叫ばれ久しいが、今一度リモコン(もしくはTVer)片手に、ぜひ一読を(出演者の名前は敬称略)。

ゴールデン帯人気番組から深夜帯のマニアックな放送まで。

プレバト!!」は2012年からTBS系列で放送(現在、木曜19時〜)されているバラエティ番組。
浜田雅功司会のもと、芸能人による「俳句査定」、「いけばな」、「水彩画」、「消しゴムはんこ」などなど「才能査定ランキング」としてさまざまなジャンルの“才能”の査定を行う。2023年には、「『知的エンターテインメント』ジャンルで、放送の開始から10年以上にわたって多くの人に支持され続けてきた」との理由で、第31回(令和4年度)の橋田賞を受賞している。人気企画は「俳句」。『NHK俳句』などにも出演する俳人、夏井いつき氏による辛口の添削・評価が話題を呼んでいる。藤本敏史、村上健志、森口瑤子、アンミカ、中田喜子、Kis-My-Ft2の横尾渉・千賀健永、千原ジュニア、東国原英夫などなど、豪華出演陣の意外な才能、一面を垣間見れるのが魅力。同企画に出演している梅沢富美男は『句集 一人十色』 (ヨシモトブックス)を出版するなどメディア展開も行う。現在は『プレバト才能アリ展』を全国巡回中。芸能人が創作した才能アリ作品と圧巻のお手本を一挙大公開し、番組ファンはもちろん、作品制作を“自分もやってみよう”と思えるきっかけになるかも。

展覧会公式サイトより引用:https://www.mbs.jp/p-battle/

TOKYO MXで2021年から放送されている「小峠英二のなんて美だ!」。
「初心者でもアートについて簡単に学べる “日本一敷居の低いアートバラエティ番組”」を標榜する同番組はお笑い芸人・小峠英二MCに、軽やかな語り口が魅力の、あらゆる“美”のジャンルへの入り口的存在。その魅力は本格的な出演者と意外な切り口。「日本画」「彫刻」「美大」など美術にまつわるテーマから、「都市デザイン」「日本庭園」「家紋」などややマニアックな話題、「宇宙」「相撲」「数」など、一見すると“美術”にはカウントされない(と勝手に思われている)ような話題まで幅広く丁寧に扱う。『白と黒のとびら』『精霊の箱』の著者で言語学者の川添愛氏、国語辞典編纂者の飯間浩明氏が登場した「ことば」回など本格的な回も。ジェンダー・セクシュアリティ研究を行う岡田玖美子氏&映画監督の今泉力哉氏による「恋愛」回では、王道を逆手に取った演出、観る者の心に響く繊細な描写テクニックを紹介するほか、日本において「恋愛」の価値観がどのような変遷を辿ってきたのかを探る興味深い放送回だった。番組でのメインキャストはアートディレクターの中谷日出と乃木坂46の池田瑛紗。東京藝術大学の美術学部に在学し、今年は個展も開催した池田による勉強熱心なコメントも素敵だ。

番組公式サイトより引用:https://nantebi-da.jp/

長寿番組にもあるんです。

 長年続く名番組として美術の魅力を伝え続けているこちら。
テレビ東京「開運!なんでも鑑定団」はもはや説明不要の伝統的バラエティコンテンツのひとつ。依頼を受けた「お宝」の価値を歴史的・資料的・金銭的に徹底鑑定する番組フォーマットで、1994年から放送中。司会は今田耕司。鑑定士には“骨董通り”の名付け親ともいわれている焼き物・茶道具の専門家中島誠之助、横浜「ブリキのおもちゃ博物館」館長の北原照久、日本画を専門とする安河内眞美など、バラエティに富んだその道のプロたちが登場する。2005年放送の「柿右衛門様式の壺」は5億円(!)、近年では今年放送された「中国 宋時代の版本「韓昌黎集」9冊」が3億円の鑑定額がつくなど話題を呼んだ。実家のお宝や謎の貰い物などなど、身の回りの美術品や貴重品をついついさがしてしまいたくなる。鑑定士たちによる分析、歴史の紹介は、美術と値段の関係について改めて考えるきっかけにもなるはずだ。

番組公式サイトより引用:https://www.tv-tokyo.co.jp/kantei/index.html

日曜美術館」は定番中の定番でありながら、日本のアート系テレビ番組のマスターピース。
NHK Eテレにて“日曜日”に放送中。芸能人ゲストによる美術館めぐりや、今週開催中の注目の展覧会紹介(「アートシーン」)、 こちらの番組、元々は1965年1月1日に特集番組として放送。’76年よりレギュラー放送が開始され、2,500回の放送を超える歴史ある長寿番組。展覧会に呼応した注目の一作、アーティストにフォーカスしたものから、「印象派」「狩野派」など、美術用語を深掘った学びになる回までバラエティに富む。俵万智や千住明、小野正嗣など錚々たる人選が歴代の「キャスター」を務め、現在は守本奈実アナウンサーと、音楽家の坂本美雨によって届けられている。2026年は50周年を迎えるということで、「NHK日曜美術館50年展」が東京藝術大学大学美術館で開催予定だ。セザンヌ、ムンク、葛飾北斎、舟越桂、などなど、同番組を彩ってきた名品の数々が揃う注目の展覧会だ。

展覧会公式サイトより引用:https://nichibiten50.jp/

 NHK Eテレ「ビタゴラスイッチ」「びじゅチューン!」、テレビ東京「新・美の巨人たち」などなど、美術にまつわる番組は各局に用意され、その方向性も多岐にわたる(筆者はかつてNHK総合で放送されていた『迷宮美術館』がお気に入りでした)。偶然面白い番組と出合ったり、好きな番組の時間にチャンネルを合わせて待機したり。YouTubeや配信型サブスクのサジェスト機能とは一味違う、そんなテレビならではの良い意味での“オールド”な味わいは、今こそ必要な栄養素なのかもしれない。仕事や勉強で疲れたら、美術番組でリフレッシュしてみては?

【インタビュー】魂込めた『着る』漫画の世界。バロン吉元×いがらしゆみこ× 哘誠(TOKYO MXプロデューサー)

12月5日(金)からの3日間、「幕張メッセ」にて開催された『東京コミックコンベンション2025』(「東京コミコン」)。世界中から人が押し寄せるポップカルチャーの一大祭典だ。今年はジョニー・デップも登場するなど、カルチャー界の有名人たちも会場へ大集結。

12月5日(金)〜7日(日)までの3日間開催された『東京コミックコンベンション2025』(「東京コミコン」)。今年は7万人を越える来場者が訪れたとか。

日本の漫画界からもレジェンドたちが会場へやってきた。リングステージエリアで開催された「TOKYO MX presents 「着る」漫画家による仏の世界展」にあわせ、漫画家のバロン吉元さん、いがらしゆみこさんが駆けつけ、ディレクションを務めたTOKYO MXプロデューサー・哘誠さんをMCに、トークショーを開催した。その模様はこちらの記事から。

遡ること2013年。当時の漫画家協会会長・小島功さんの呼びかけにより、赤塚不二夫さん、いがらしゆみこさん、ちばてつやさん、浦沢直樹さん、バロン吉元さんら日本を代表する漫画家たちが、「仏」をテーマにアート作品を制作。震災復興支援を目的とした巡回展として、役割を担った作品たちをNEW ERAが制作するキャップとTシャツとして甦らせるのが、今回のプロジェクトだ。展示会場に作品を展示するいわゆる“箱型展示”の枠を超えて、身に纏う人々そのものが“展示者”となることをコンセプトにデザインされている。

いがらしゆみこさん(左)、哘誠さん(中)、バロン吉元さん(右)

トークショーにも登壇したお三方に、改めて作品へのコメント、コミコンの感想、そして、日本漫画界への想いを伺った。

哘 -「この企画には、著名な漫画家さんがたくさん参加されています。そんな漫画家さんたちの『仏』作品に感動しました。そのまま展示を続けても今の時代にこの感動を広めていくことは難しい面もある。『着てもらう』という体験を通して、皆さんに知ってもらいたい、というのがありました」

いがらし -「まさか『仏』がキャップになるなんてね。バロン先生も着こなしが素敵で似合ってる」

今回、コミコンの場で40年ぶり(!)となる久々の再会を果たしたバロンさんといがらしさん。急遽サイン会も開催するなど大盛り上がりだった。

バロン -「サイン会の分け前はちゃんとくださいね(笑)」

いがらし -「急なお願いにも乗ってくれて本当に“仏”のように優しい人なんです。バロン先生のおかげで40歳は若返っちゃったし、とても楽しかったですよ。私は元々バロン先生のファンだったんです。本当にお上手で、プロ中のプロ。いざ会ってみたらすごく気さくな人柄で。あのときのまま今も変わらなくて、驚きとともに嬉しい」

バロン -「楽しかった色んな思い出が蘇ってきますよね」

『仏』作品を制作した際の思い出を伺った。

バロン -「『天女不動』はとても気合を入れて描きました。実は現在連載中の『ああ荒野』のほかに、私のアトリエでは、縦2メートルと横4メートルほどの大きな作品を描いているのですが、やはり漫画のコマの枠を超えた大きな作品はいいですね」

いがらし先生が『如意輪観音』原画を解説中。「今だったら猫ちゃんも入れて描きたいなあ」といがらしさん。

いがらし -「『如意輪観音』は煩悩を消し去るんですけれど、今、私自身はタバコもお酒もやめて、猫と一緒に暮らしていてもう満足で。煩悩がないんです(笑)日々が幸せで満たされた気持ち。もしかすると、今の気持ちを予知するかのような温かな絵になっているかもしれないです。やはり漫画の原稿を描くときとは全然違う気持ちでしたね。厳かな気持ちは着る人にも伝わるかも。買ってくれた人は、『自分だったらこう描くかもな』とか思いながら『着る』仏作品を“遊ぶ”気持ちで楽しんでほしいなと思いますね」

バロン -「そうだね。熱中して描いたものだから、作品のオーラがある。そんな作品を、今私が着て、それを別の人が着たり被ったりする。なんだか人間的なコミュニケーションを感じるし、作品が非常に自由になっていく感じがしますね。広い意味での人との繋がりを感じて着てもらえたらいいかな」

哘 -「自分はデザインで参加したのですが、今回は第一弾で23種類あります。もちろん全て漫画家さんの魂がこもっている素晴らしい絵の数々です。『これ可愛いな』『素敵だな』と気軽に手に取ってもらえたら嬉しいです」

赤塚不二夫作品「レレレ千手観音」やちばてつや作品「弁財天」などなど、こちらのサイトから購入可能。

バロンさんはこの日一日を振り返る。

「コミコンにはたくさんの人が来ていて、熱気を感じますね。日本の絵、漫画をもっともっと世界に発信したい。日本の国が色んなものを失いつつ、文化や経済が低迷していくからこそ、それを持ち上げるには国にも協力してほしい。海外にもっと面白い部分を発見してもらいたいし、日本の文化を発展させていきたい。ぜひ国や都には『東京漫画ミュージアム』の設立を!」

バロンさんは現在「コミプレ」にて『あゝ、荒野』連載中。現在85歳ながらお元気な姿が印象的だった。先日は「文化庁長官特別表彰」への選出も発表された。

あらゆるポップカルチャーが集まるコミコン。その中でも世界に誇る日本の漫画文化の力を感じた。この力の源が、バロンさんやいがらしさんらレジェンド作家たちの仲の良さ、そして精力的に第一線で活躍してきたパワフルな姿、未来への責任感にあるのだと感じた。漫画文化への愛、力の込められた作品を、ぜひ「着て」楽しんでみてはいかがだろう。

【レポート】展示から“身につけるアート”へ。東京コミコン「「着る」漫画家による仏の世界展」

年末も近づく。「幕張メッセ」での冬の風物詩のひとつ『東京コミックコンベンション2025』(「東京コミコン」)が今年も12月5日(金)〜7日(日)までの3日間開催された。

今年のメインビジュアルは名物企画「メインビジュアルコンテスト」を勝ち抜いた&OK!氏の作品。

もはや説明不要のポップカルチャーイベント。来日したセレブの数は過去最大級。「Disney」「ワーナーブラザーズ・ディスカバリー」、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』ブースや『ストレンジャーシングス』ブースも大盛況。「スターウォーズねぶた」も存在感を放つ。不朽の名作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の公開40周年を記念した公式展示・物販ブースなど、今年ならではの注目の出店はもちろん、様々な作品に登場した衣装や小道具の展示、最終日のジョニー・デップの登場も大きな話題になった(ジョニーにそっくりなコスプレイヤーたちも会場を練り歩いていた)。世界中からやってきたポップカルチャーファンたちが場を盛り上げ、エンターテイメントの力を体感する数日間となった。

「スパイダーマン」シリーズや「DEMON DAYS」など人気コミックスが並ぶ販売ブース。
スターウォーズねぶたも会場中心に鎮座。

注目したいのは、リングステージエリア。大阪、名古屋、東京と全国を巡回してきた展示「TOKYO MX presents 「着る」漫画家による仏の世界展」だ。2013年当時の漫画家協会会長・小島功氏の呼びかけにより、赤塚不二夫さん、いがらしゆみこさん、ちばてつやさん、浦沢直樹さんら日本を代表する漫画家たちが、仏をテーマに描いたアート作品をNEW ERA®︎ とコラボレーションしキャップやアパレルへと展開したこちら。

赤塚不二夫さんやちばてつやさん、浦沢直樹さんらによる原画を元にしたグッズも。

作品を展示する“箱型展示”の枠にとらわれず、身につける人々そのものが“展示者”となることをコンセプトに、漫画家たちが描いた“仏”のパワーが広がる貴重な機会。会場では、参加した漫画家のバロン吉元さん、いがらしゆみこさん、TOKYO MXプロデューサー・哘誠さんの3名が登壇したトークショーが開催された。『柔侠伝』シリーズで知られ、現在も『ああ、荒野』を連載中のバロンさんと、『キャンディ・キャンディ』『ジョージィ』のいがらしさんというレジェンドたちの久々の再会の話題から、仏をテーマに描かれた作品たちを、「着る展覧会」というコンセプトで再解釈した意味、その感想など、ほぼ満席の会場でトークを繰り広げた。

いがらしゆみこさん(左)、バロン吉元さん(右)。アイテム着用中。
哘誠さん(左)

いがらしさんがテーマにした仏は「如意輪観音」。執筆当時の印象として「描きながら(心が)洗われるような気分だった。顔が優しく描けたので、皆さんに微笑めたらいいな」と語る。バロンさんが描いた「天女不動」は「この作品だけは別。描いているうちにランナーズハイのようになった。頭の中にドーパミンが出て、神が宿った!」と話す。

40年ぶりの再会という2人。手塚治虫さんらと共に訪れた「サンディエゴ・コミコン」の話題に。

バロンさんは当時を振り返る。「手塚さんとスタッフ、私たち漫画家たちでサンディエゴへ訪れた際、その帰りの飛行機で手塚さんと隣り合わせになりました。漫画家同士でお金を出してロサンゼルスへ家を買おうと盛り上がりまして。結局、私だけが賛成して、1人でロサンゼルスへ一年住んだんです(笑)。スカンクと対決したりとか、色んな思い出がありますが…。思ったよりアメリカでは仕事をもらえず、挫折を味わいました。サムライや富士山を描けと無茶を言われたことも。だからこそ、今この『コミコン』の場に、海外のコミックスと同じように日本の漫画作品が並び、それをめがけて世界から人がやってくることが感慨深い」

現在85歳のバロンさんによる、脱線も含めた楽しいトークに、いがらしさんも「昔と変わらない。賑やかで楽しくて、今もお若い」と笑顔。

「世界各地を周り、熱い歓迎を受けて、本当に世界は漫画文化で一つになることができるんだと実感しています」といがらしさん。そんな現在の漫画文化の礎を築いた2人が元気な姿で夫婦漫才のようにトークを繰り広げ、会場は大いに盛り上がった。

会場では急遽、『「着る」漫画家による仏の世界展』ブース隣にて、いがらしさんとバロンさんによる物販&サイン会も。特別な一日の締めくくりとなった。また「BAM」では、お三方へのインタビューを敢行。こちらの記事もぜひ読んでみて!

トークショーを終え、いがらし先生の発案で、急遽物販&サイン会を開催! 多くの人が押し寄せた。

アートなセンス冴え渡るゲームの世界

ゲーム大国ジャパン。つい最近も「Nintendo Switch」の桃太郎電鉄シリーズ最新作『桃太郎電鉄2 ~あなたの町も きっとある~』が発売されたことで話題だけれど、日本においては、ゲームを一度もプレイしないで生きていくことって、ジブリ作品に触れずに人生を送ることと同じくらい難しいんじゃなかろうか。

日本産のコンピューターゲームが登場したのは1973年のこと。据え置き型の家庭用ゲーム機や携帯型ゲーム機が登場し、アーケードゲームから「ゲーム」の中心が手元へと移っていった。今でも、任天堂やソニーをはじめ、日本で開発されたゲーム機/ゲームソフトは世界で活躍中。むしろ、今だからこそ、ゲームの世界は広がり続け、美しいデザイン、特殊な設定、メディアアート領域との接近もみられる。そんな多様なゲームの世界を本稿ではご紹介したい。

美しき背景デザインから。

ゲームに興味はないけれど、美しい風景は大好き。そんな現実派なあなたには、『ゴーストオブツシマ』はいかがだろう。舞台となる「対馬」は、日本の九州の北方、長崎は玄界灘にある、山林が面積の89%を占める自然豊かな島のこと。鎌倉時代に「文永の役」「弘安の役」の2度にわたり、元軍(モンゴル帝国軍)の侵攻を受けたという歴史を下地にする。主人公は武士の道から外れた境井仁(さかい・じん)。冥府から蘇った「冥人(くろうど)」となって、対馬の地を敵の手から解き放つというストーリーだ。ゲームの設定それ自体ももちろん楽しいが、実際の対馬の風景にインスパイアされた背景デザインも見どころのひとつ。美しい海と白浜の海水浴場の「小茂田浜」、対馬のシンボル的存在で古来より霊山として崇められた「白嶽」、万葉集の「対馬の嶺」に比定される名山「有明山」など、四季の移ろいも楽しみながら、黒澤映画さながらのスケール感で演出される。

戦っても、物を作っても、ただのんびりするだけでも。美しい情景のなかで、なんでもありな革命的ソフトが『ゼルダの伝説』シリーズだ。ここ最近の2作『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』は「オープンワールド」で展開。プレイヤーが広大なマップを動き回りながら、自由に目的に近づくことができるゲーム世界を構築している。この「オープンワールド」のジャンルを踏襲しつつ、壁も岸も洞窟もよじのぼることができる“現実を超えた”自由さを再現したことで、全く新しいゲーム性を獲得した。DIY的に自由に武器を作りながら、夕日や朝日を堪能しつつ、美しい情景に身を任せることができる。

Playstation「Ghost of Tsushima」公式サイトより引用

変わり種ゲームから、アートを感じる。

小さな王子が地球で塊を転がしながら大きくしていくーー。そんなシンプルかつユニークなルールながらコアな人気を誇る「塊魂」。今年にはシリーズ最新作「ワンス・アポン・ア・塊魂」が発売された同作の魅力は、直感的な楽しさやカラフルなデザインに加え、BGMとして使用される「素敵ソング(オリジナルソング)」の数々だ。なかでもキリンジによる「ヒューストン(Re-Arranged by KIRINJI)」は名曲。

楽しいゲームの雰囲気を楽曲で彩る。ナムコが誇る独自性の高さを象徴する一作だ。

コピーライターやエッセイストなど、マルチに活躍する糸井重里氏がディレクション、ゲームデザイン、シナリオを手掛けたことで知られる伝説のゲームといえば「MOTHER」。“エンディングまで、泣くんじゃない。”、“名作保証”などテレビCMで流れたフレーズと共に、発売から30年以上経った現在もファンからの熱烈な支持を受ける同作。当時の現代風のアメリカを舞台に、宇宙人や超能力、ポルターガイストといった怪現象の謎に迫っていく。アメリカンカルチャーへの愛に溢れ、いわゆるRPG的な「剣と魔法」の世界観とは一線を画した斬新なゲーム設定に加え、ムーンライダースの鈴木慶一が担当したサントラは名曲揃い。ゲーム中で重要な役割を果たす『エイトメロディーズ』は小学生向けの音楽の教科書に掲載されたほか、ラッパーのVAVAによる「現実 Feelin’ on my mind」のサンプリング元としても若い世代から親しまれている。

斬新。これまでの価値観を変革するという取り組みは多分にアート的。その意味で、ゲームの枠組みを根底から覆すような「アンチRPG」の金字塔を打ち立てた一作が「moon」だ。「ゲームなんかやめて⋯」というセリフからはじまるこちらのゲーム。ひょんなことから異世界へとやって来た主人公が、すでに勇者に倒された何の罪もないアニマルの魂を「キャッチ」して救い、住人たちの生き様に触れて“ラブ”を集めていくという、敵を倒すのではなく、「救う」のが目的の「反骨精神」に溢れた物語なのだ。住民たちの生き様や活動は、もはやアンチRPGの枠に収まらず、この現代社会のありように警鐘を鳴らすような、哲学的な問いが散りばめられている。

steam「moon」公式サイトより引用

芸術×ゲームの世界

アーティストたちがリスペクトを捧げるゲームもある。1994年にイギリスのレアが開発、任天堂が発売したスーパーファミコン用横スクロールアクションゲーム「スーパードンキーコング」。こちらにリスペクトを捧げるのはミュージシャンのマック・デマルコだ。彼が好きな一曲として挙げる「Aquatic Ambiance」はこのゲームの水中シーンでかかるBGMで、メロウかつアンビエントな音の響きが魅力の楽曲だ。こちらは、『伝説の騎士エルロンド』『バトルトード』シリーズなどの音楽を手がけたゲーム音楽家、デビッド・ワイズが手がけた楽曲で、マニア間では伝説級。メルカリ等の中古販売サイトではサントラCDの価格は高騰している。大学時代テレビゲームにはまっていたという俳優・イラストレーターのリリー・フランキーの卒業制作はスーパーマリオブラザーズの世界を表現したもの。マリオ一人で8ステージのうち4ステージまでを、一度も失敗せずにたどり着く様子を録画したものだったとか。このようにゲームを起点にモノづくりに影響を受けた人々がいる一方、ゲームそのものがアートと交わる事例もある。

日本の文化庁では、平成27(2015)年度からゲーム、アニメ、マンガ、メディアアートの4分野を対象とした、「メディア芸術連携促進事業 連携共同事業」を行っている。要するに、ゲームは日本が世界に誇れる「メディア芸術」であるとして国が認めているわけだ。ゲームそのものの保存・アーカイブへの取り組みだけでなく、メディア芸術としてゲームを扱うアーティストの活動支援を行うなど、ゲーム分野とアート分野の接近は要注目なのだ。

ゲームを作品に取り入れている例として、アーティスト・藤嶋咲子が2024年末に開催した個展「WRONG HERO」は注目。バーチャルな空間を絵画として描くと同時に、メタバース上の空間でデモを行うパフォーマンスを行うなど、多岐に渡りメディアアートを展開していた作家だが、この個展では、「主人公」の物語を補完するだけの脇役のように扱われる女性性に着目。「姫になることを捨て、勇者になる」選択をした女性を主人公に、ジェンダーをめぐる2Dゲーム、それをベースにした3Dゲームの映像の展開とともに、埋もれていた声を浮かび上がらせる。

アイルランドの映画監督デヴィッド・オライリーによるゲーム作品もコンセプチュアルだ。プレイヤーが山になる、かつ、山でいる他は何もできないというシンプルすぎるゲーム『Mountain』、原子から銀河、ピザから巨木、微生物から巨大ビルまで、ありとあらゆるあらゆるものに変化を続けるゲーム『Everything』の2作を発表。ゲームの基礎である「ストーリーテリング」「キャラクター」といった要素を排除し、表層的な世界の解釈から離れていくユーザー体験を提供している、実践的な取り組みだ。何をどう操作すればいいかわからない。チュートリアルも存在しない。「世界」そのものの体験。いわばそんな「アンチ・ゲーム」を展開するアーティスティックな作品もぜひプレイしてみてほしい。

steam「everything」公式サイトより引用

広がり続けるゲームの宇宙。

日本で家庭用ゲームが誕生して約50年。これだけのゲームが溢れれば、ある種の飽和状態にあるのではないか。そんな不安を軽々と打ち破ったのが「アストロボット」だろう。主人公は小型ロボットのアストロ。 50を超える惑星に散り散りになった仲間のボットたちを助け集めていくストーリーのアクションゲームだ。ソニー・インタラクティブエンタテインメントが2024年秋に発売したこのゲームは、総合レビューサイトMetacriticでメタスコア94点という高得点を叩き出し、この年の「GAME OF THE YEAR」を受賞する快挙。草むらや砂利道、鉄板などの異なる地面、水の感触、敵を攻撃した際のダイナミックなアクションなど、シンプルながら随所まで気の行き届いたギミックが評価された。こちらのゲームはソニーの「TEAM ASOBI」という日本のスタジオが制作。「触って楽しい」というゲームの原点に立ち返りつつ、「きめ細かい」ともいうべきゲーム体験、 画面に広がる美しい光景は、ゲームの現在地を大幅にアップデートさせたともいえるだろう。

「8番出口」「スイカゲーム」のように熱狂を生むインディーゲームや、現実への応用可能性がまだまだ開かれているVRゲームなどなど、「ゲーム」の未来はまだはじまったばかり。そしてその発展には必ず「アート」な視点がある。未来を切り開く一作を探して、ぜひプレイしてみよう。

楳図かずお、恐怖から大美術へ。

なぜ今、UMEZZか。

楳図かずおをご存知だろうか。多作かつヒット作が多いが故に、様々な作品が思い浮かぶはず。もしくは吉祥寺の赤白の家に住む不思議な漫画家というイメージだろうか。

昨年、胃がんのために88歳で亡くなった漫画界の巨匠。『漂流教室』や『まことちゃん』など、ホラーからSF、ギャグ漫画まで幅広く手がけ、メディアへの出演、映画、展覧会など多岐に渡り活動した天才。新たな絵画連作に取りくんでいるとの報道がなされた直後の逝去であった。世界での評価も高く、2018年には欧州最大規模の漫画の祭典、フランスの第45回アングレーム国際漫画祭で遺産賞を獲得。「永久に残すべき遺産」として『わたしは真悟』が受賞した。「恐怖」の表情、独自の絵世界はSNS上でもネットミームとして用いられたり、グッズ化されたりと、世界に誇る日本文化としての魅力もある。

長きに渡る活動とその凄さはいくらでも書けるが、まずいいたいのは、楳図はただただ吉祥寺の「赤白」の家に住む面白い人、ではないということ。

1936年に和歌山県で生まれ、奈良県で育った楳図。小学五年生で手に取った手塚治虫『新宝島』を読んでから、漫画家になることを決意。当の手塚も、楳図から送られた原稿をみて「天才が現れた」と感心したという。その後、高校卒業後に『森の兄妹』でプロ漫画家デビューを果たし、人気漫画家の道へ。紆余曲折を経て、60年代半ばには「少女フレンド」で連載した「ねこ目の少女」、「へび女」などで全国規模で恐怖漫画ブームのうねりをつくる。それまでの怪奇漫画、スリラー漫画と区別する意味で、「恐怖漫画」という語まで作ったとされる楳図。「ホラー漫画界の神様」と呼ばれるのも、この時期の仕事量・質の高さにある。

「富江」「うずまき」などの代表作をもち、2023年にフランス・アングレーム国際漫画祭で「特別栄誉賞」を受賞した、現代ホラー漫画の帝王、伊藤潤二はこう語る。

「私にとって楳図先生は身に染みていて、意識せずとも影響が出てしまいます」

※朝日新聞2024年11月13日「楳図かずおの天才ぶり 伊藤潤二さん「画家ダリにも引けを取らない」

楳図作品を読んでみよう!

「恐怖漫画の神様」の凄さはこの後のキャリアにある。『ねこ目小僧』『おろち』『イアラ』、70年代からは、『漂流教室』『まことちゃん』『洗礼』『わたしは真悟』『14歳』。ホラーには全く留まらない数々の名作を世に送り出した。

とある小学校がまるごと未来へと吹き飛ぶところからはじまる『漂流教室』はその入門としても最適。少年たちが辿り着いた未来は荒廃。砂漠化しており、本来、子供たちを導くはずの大人たちはすぐに死んでしまう。

「これからのぼくたちの勉強というのは、いままでのようないい成績をとればいいというんじゃなくて、じかに自分の生死につながってくるんだ‼︎」そんなセリフでもわかるように、子供たちは子供たちだけで生活を続けていかなければならず、コミュニティを形成し、社会を運営しなければならなくなる。人間の歴史の「最後」の姿を描きながら、人間社会の「最初」のサバイバルを描く、その手腕に脱帽する。

これまでの「倫理」や「常識」や「道徳」が通用しない。そうなってはじめて、自分たちは何を大事にして、何を目的に、何を実現するために、どうするのか。そんな根源的な問いへと発展する。安定した社会のその深層にある「問い」へと眼差しを向ける深さ、怖さへと繋がる。

そんなスリルな作品もあるわけだが、小説家の綾辻行人が「ページをめくった瞬間に涙が出る」と語るほど入れ込む、哲学的な作品もある。『わたしは真悟』で描かれるのはロボット「シンゴ」の人生。多層的なテーマ、難解なストーリー展開、哲学的フレーズ、芸術的描写から、なかなか初読で「理解」ることは難しいが、なぜか「感動」できる。そんな不思議な作品だ。

小学六年生の悟(さとる)は父親の務め先である工場を見学中に、別の小学校の真鈴(まりん)と出会う。2人は急速に仲を深め、工場の産業用ロボットにどうやったら子供が作れるのか? と問いかける。ロボットが導き出した回答は「333ノテッペンカラトビウツレ」……。

と、要約もしづらいほど突飛な出だしから始まる。産業用ロボットが意識を持ち覚醒して、今や離れ離れになった悟と真鈴を探し歩くというストーリー展開に至るのだが、この作品の素晴らしい点は、作者のイマジネーションの連続にある。もはや読者の反応なんてものを無視し、ハンドルを振り切った状態で描き続けられる異様な物語の熱は異常。「AI」を先取りした先見性(この「先見性」や「予言力」は楳図かずお作品にはよくある)とか、様々に分析される本作だが、楳図の想像を超えた創造というか、芸術としかいえない幻視的な漫画世界を堪能していただきたい。

アートな楳図。

そんな『わたしは真悟』の続編であり、27年ぶりとなる新作『ZOKU-SHINGO小さなロボット シンゴ美術館』が発表されたのが『楳図かずお大美術展』であった。アクリル絵画で描かれた101点の連作絵画方式をとった本作。楳図かずお作品の漫画におけるコマ割の特徴として、独自のリズム、時間配分をもたらす「くどい」ほどの細かさが挙げられる。この連作絵画では、同じサイズの額のなかに一枚の絵画が入り並べられる。それぞれに「完成」した絵を持っているが物語の繋がりはある。

『楳図かずお大美術展』ポスター 引用:『楳図かずお大美術展』公式サイト

おちゃらけたキャラクターとは別に、読書家で理論派だったという楳図。展覧会の新作は、単なる新たな挑戦だけでなく「漫画」そのものの“フレーム”を押し広げる戦いでもあったのかもしれない。そんな新たな価値を生み出す者を人は芸術家と呼ぶのである。

“読む文化”の変化。マンガ雑誌が教えてくれること

「MANGA」。日本発祥のコミック・アートでありながら、世界的にそのままの語で通用するほどに広く普及するサブ(もはやサブでもない)カルチャー。子どもたちが夢中になり、大人も熱狂し、いまや多くのメディアでの展開を経て、日本における一大ビジネスでもある存在だ。あなたの時代の漫画体験はどうだっただろう? 兄弟から貸してもらったり、本屋さんで立ち読みをしたり、友達と学校で回し読みをしたり、病院の待ち時間の楽しみだったり……。ときに付録を集め、読者アンケートに応募する。今なら、「話読み」をしたり、SNSに感想を投稿したりといった具合だろうか。各世代それぞれの素晴らしい作品と、漫画文化が存在し、それはこの日本における数少ない国民の“共通言語”のひとつでもあり「昨日のあの話読んだ?」と語り合える素晴らしき文化だ。そんな漫画文化を「漫画雑誌」をヒントに駆け足ながらご紹介。

意外に長い漫画の歴史。

そもそもの漫画のルーツといわれているのは平安時代に遡る。巻物に擬人化した動物たちの愉快な姿を描いた『鳥獣人物戯画(鳥獣戯画)』に由来するとされる。18世紀初頭には、江戸の町民文化と結びつき、葛飾北斎による『北斎漫画』などの戯画本や、浮世絵の一分野としての戯画・風刺画が数多く生み出されることとなる。独特にデフォルメした絵柄がその出発点である。

『北斎漫画』 Wikimedia commonsより引用(Public domain)

そんな可愛らしいタッチの絵は江戸時代の子どもにも人気で、子ども向けの絵本が発売される。大河ドラマ『べらぼう』にも描かれたような出版文化の隆盛もそれを後押しした。『源平盛衰記』や『桃太郎宝蔵入』といった赤色(正確には丹色)の表紙をしたこれらは、「赤本」と呼ばれ、明治、大正、第二次大戦を挟んで戦後へと「赤本」文化が形をかえながら引き継がれていくのだ。

「子どもの読み物」の逆襲

新聞や雑誌の中で連載される形で『正チャンの冒険』や『のらくろ』といった名作も生まれた戦前の漫画界。第二次世界大戦中は物資や情報統制が起こり、漫画文化には一時的な衰退が起こる。それを打ち破ったのが手塚治虫だ。子ども向けで内容も低俗とみなされた「赤本」の世界で革命を起こした。1947年に発表した『新宝島』がロングセラーとなり、『ロスト・ワールド』、『メトロポリス』といった名作を次々に発表(藤子不二雄Aによる自伝的名作『まんが道』にもその際の感動が記されているのは有名な話)。50年代には貸本(レンタル)用に作られた漫画、いわゆる「貸本漫画」が広く流通する。『ゲゲゲの鬼太郎』の水木しげるや『カムイ伝』で知られる白土三平といったスターたちもここから誕生する。

日本が高度経済成長期を迎える50代後半から60年代。仕事で追われる人々の生活サイクルが月単位から週単位へと変化していくように、雑誌の世界も月刊から週刊へと変化。その流れをキャッチして少年漫画誌に取り入れたのが、1959年に登場する『少年マガジン』(講談社)、『少年サンデー』(小学館)だ。子ども向け路線を明確に打ち、手塚治虫、赤塚不二夫、藤子不二雄、石ノ森章太郎ら通称『トキワ荘』組の有名漫画家たちを組んだ『少年サンデー』。対してちばてつや、さいとう・たかを、水木しげる、楳図かずお、ジョージ秋山、永井豪、松本零士ら独自の異才たちが活躍し、劇画・スポ根路線を開拓していくこととなる。週刊『少女フレンド』、週刊『マーガレット』など少女漫画誌が創刊したのもこの60年代前半だ。

カウンターカルチャーとしての漫画雑誌

1960年代後半、全共闘運動の最中に言われた「右手にジャーナル、左手にマガジン」。週刊誌「朝日ジャーナル」と「週刊少年マガジン」のことだ。硬派な雑誌と並んでマンガが若者のライフスタイルに大きな影響を与えはじめた時代。64年には、日本初の青年漫画誌『月刊漫画ガロ』が登場する。白土三平の劇画『カムイ伝』を連載するために創刊されたこちら。週刊漫画雑誌のスタイルが広がったことで活躍の場を失いつつあった貸本漫画家への発表の場の提供・新人の発掘の場になり、それは結果として漫画界に“オルタナティヴ”な価値を広げていくカウンターな雑誌となっていく。手塚治虫がこの影響を受けて創刊した『COM』とともに、「漫画」のイメージや概念を拡張/変化させていく。

 

週刊少年ジャンプと漫画の未来。

週刊少年漫画雑誌の熾烈な売上競争が続いたのが80年代だ。この時代から王者として漫画雑誌界に君臨することとなったのが、「友情・努力・勝利」を編集方針に掲げる『週刊少年ジャンプ』(1968年創刊)だ。伝説の漫画編集者、鳥嶋和彦氏が見出した鳥山明による『Dr.スランプ』、『キャプテン翼』『キン肉マン』『北斗の拳』『SLAM DUNK』『幽☆遊☆白書』など多くの人気作が登場し、アニメ化などメディアミックスを活用した戦略で一人勝ち。売り上げは鰻登りに。公称発行部数は1994年12月の1995年3・4号で653万部の歴代最高部数を達成するまでに成長する。

テクノロジーの発達とともに、いわゆる「出版不況」と呼ばれる状況を迎える21世紀。それでも『ONE PIECE』『NARUTO -ナルト-』『BLEACH』はじめここに書ききれないほどの名作を生み出す『週刊少年ジャンプ』。現在はアプリ『少年ジャンプ+』にもその場を広げている。『怪獣8号』『ダンダダン』『SPY×FAMILY』や読切作品ながら話題となった『ルックバック』など社会現象を起こすほどの作品を届け、雑誌が行なっていた「発掘と発表の場」はネット上へと広がりをみせた。小学館でも「サンデーうぇぶり」、講談社では「マガジンポケット」など漫画アプリへと提供の場を広げている。出版不況とともに、漫画文化は終焉ではなく変容へと向かっているのだ。

これからの漫画雑誌?

『AKIRA』『攻殻機動隊』など名作を生み出してきた青年マンガ誌『ヤングマガジン』は、この夏に特別増刊号『ヤングマガジンUSA』と名付けた英語版を発行した。『頭文字D』の作者しげの秀一や、『血の轍』で知られる押見修造の新作などを含めた多彩なジャンルの19作品が収録され、WEB版は特設サイトとSNSで公開。人気ランキングの集計などもアプリとSNSで行う模様で、国籍や媒体もミックスしつつ、日本の漫画文化の核心を伝えるーーそんな試みになりそうだ。

そもそも、そんな風にミックスされることで生み出される“雑味”こそ雑誌の良さであり、そんな「漫画雑誌」の“雑多な誌面”こそが漫画文化を生み出してきた。それは今、形を変えながらも、あらゆる国の、あらゆる状況の、あらゆる人々に届いている。ページを開くワクワク。漫画雑誌の素晴らしい精神は“ドラゴンボール”のごとく、今世界中に散らばっているのだ。

 

朝ドラ『ばけばけ』でも注目。日本の夏の風物詩「怪談」。その魅力の源泉とは?

花火、蝉の声、山登り……。夏の風物詩は様々あるけれど、日本の夏の「夜の」風物詩で忘れてはならないのは「怪談」だ。肝試し、ホラー映画など、日本には古くから「怖いもので涼をとる」という独自の文化があるわけで、なかでも本日お話する「怪談」は、おそらく誰しも一度は聞いた(体験した?)ことがあるはず。いや、ご安心を。怖い話をするのではなく、本稿では、怪談がいかにアートの世界と密接なのかをご紹介していきます。

今こそ、怪談。

「怖いなー怖いなー」などの特徴的な語り口で現代における怪談話ブームを切り開いた稲川淳二をはじめ、「怪談」は今でも人気コンテンツのひとつ。今年9月スタートのNHKの新たな朝ドラ「ばけばけ」は明治時代に怪談を研究した小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)とその妻、セツの人生にフォーカスした作品。YouTubeでも怪談、オカルトなどのホラー系動画は人気ジャンルの一つであるし、ポッドキャストにも数多くのホラー番組が。テレビ番組でも「ほんとにあった怖い話」をはじめ、「TXQ FICTION」(テレビ東京)といったモキュメンタリー系や「世界で一番怖い答え」といったクイズ系などなど「恐怖」の解釈は広がっている。後述するホラー映画、小説、漫画も隆盛を極め、雑誌では毎年のようにホラー/怪談が特集される。もはや怪談はポップカルチャーの一大ジャンルなのだ。

YouTube上で人気を博す怪談師「ぁみ」の動画
放送されるやいなやSNS上でも話題となったテレビ東京のモキュメンタリーホラー番組「飯沼一家に謝罪します」

怪談ってアートなの?

ポップカルチャーと書きましたが、本来、日本の美術史の中には、怪談的な怖ーい絵がたくさんある。著名な浮世絵画家、歌川国芳は『相馬の古内裏』(1845年頃)という作品にて、物語『善知安方忠義伝』をもとに、登場人物の1人である平将門の娘が巨大な「骸骨」の妖怪を呼び出す場面を描いている。

歌川国芳『相馬の古内裏』、Wikimedia commonsより引用

他にも、「円山派」の祖であり、写生を重視した画風が特色の江戸の絵師、円山応挙は『幽霊図』なんて作品を残している。

円山応挙『幽霊図』
Wikimedia commonsより引用

日本で伝承されてきた民間信仰がもととなっている妖怪や、18世紀にまとめられた『雨月物語』 『四谷怪談』、江戸の絵師たちがこぞって描いた幽霊画などなど、日本画や浮世絵の世界では、物語、造形、想像力、恐怖/悲しみなどの感情にインスピレーションを受けた作品が多く生み出されている。冥界、霊界、魔界、そうした「あやかし」の世界は、日本人にとってより身近な存在であり、芸術の源泉の一つであったわけだ。

明治期、古くから伝わる日本各地の怪談や奇談、民間の伝承を集めた小泉八雲は「怪談の書物は私の宝」と語ったように、「耳なし芳一」「ろくろ首」「雪女」などの話を『怪談』という文学作品として一冊にまとめあげたジャパニーズ・ホラー界の父。朝ドラ放送にあわせてぜひ一読を。このように時系列で追っていくとわかってくるけれど、怪談は今だけのブームではなく、歴史上ずーっと人々の心を揺さぶってきた最強コンテンツでもある。

日本の各地に散らばった民話、伝承、伝説。心を刺激する恐怖、悲哀の物語、不可思議な世界。感情、思想、創造性を表現するのがアートであるならば、そんな日本的「ホラー」は、単なる「話」の枠を越え、アート的ともいえる領域にまで、とっくの昔に到達していたのではないだろうか。

世界へ羽ばたく怪談

そんな怪談も、今現在に目を向ければ様々な創作ジャンルへと展開している。まず、ホラー漫画の躍進は無視できない。今年、「マンガのアカデミー賞」とも呼ばれるアメリカのアイズナー賞を授与された伊藤潤二は現代ホラー漫画界の巨匠の一人。「うずまき」「富江」シリーズで知られる同氏だが、昨年にはNetflixにてアニメ化された作品「伊藤潤二『マニアック』」もあるし、BTSのメンバー、ジミンがお気に入りの作家として挙げていたこともある。

Netflix「伊藤潤二『マニアック』」予告編

そんな伊藤潤二の精神的師匠ともいえるのが楳図かずお。今年逝去されたことでも話題となったが、『ねこ目の少女』『へび女』など、初期から恐怖とユーモアを巧みに融合させた独自の世界を展開。長編ホラー映画『マザー』の監督などマルチに活躍し、フランスの「アングレーム国際漫画祭 遺産賞」を受賞した。芸術的な側面をさらに先鋭化させ、自身の漫画をアートへと展開させた展覧会「楳図かずお大美術展」も記憶に新しい。

「楳図かずお大美術展」公式Xより引用。

アメリカのアイズナー賞にて伊藤潤二と同時に殿堂入りを果たしたのは水木しげる。『ゲゲゲの鬼太郎』『河童の三平』『悪魔くん』などを発表し、妖怪漫画の第一人者でありながら、日本人に妖怪文化を定着させた功績は凄まじい。独特にデフォルメされたキャラクターらは様々な商品にも活用され、作家が亡くなった後も、世界中に羽ばたいている。

「鬼太郎ポスト」水木しげる記念館公式サイトより引用。

映画の世界でも日本的怪談の人気は止まらない。『死ぬまでに観たい映画1001本』(スティーヴン・ジェイ・シュナイダー・著)でも紹介された『リング』(中田秀夫・監督)はハリウッドリメイク版まで製作されるほどで紹介するまでもないか。これがきっかけとなりジャパニーズ・ホラー人気の口火を切り、三池崇史監督による『オーディション』、清水崇監督による『呪怨』、黒沢清監督による『回路』などなど、巨匠たちによる名作が多数発表された。今年、第78回ロカルノ国際映画祭で最高賞にあたる金豹賞を『旅と日々』で受賞した三宅唱監督によるドラマ『呪怨: 呪いの家』も記憶に新しい。そのどれもがクオリティが高く、日本文化的な暗さ、切なさを有し、オリジナリティに溢れている。

Netflixドラマ『呪怨: 呪いの家』予告編

インターネット上の怪談も見逃せない。英語圏のインターネットコミュニティ(4chan等)のユーザーによって「SCP-173」として創作され、不気味なストーリーで一躍話題となった「怖い画像」。これはアーティスト、加藤泉による作品「無題 2004」だ。作家本人の意図とは無関係に、ネット上の都市伝説的にオカルトに接続されてしまった例だが、アートと怪談の奇妙な繋がりを感じる。

また他に世界展開した例では、ウェブライター雨穴による小説「変な家」だろう。これは2020年に公開されたミステリーフィクション。ノンフィクションのレポート風に綴る記事が元となり、そのYouTube版は現在2500万回以上再生。実写映画化や漫画化もされ、翻訳版も世界30の国と地域(北米、ヨーロッパ、南米、アジア)で出版。世界的な大ヒット作となっている。

雨穴【不動産ミステリー】変な家

怖いけど楽しい。一見矛盾するような価値観をもったカルチャーだからこそ、他の何にも変え難い面白さがあるし、だからこそ「怪談」ひいてはホラーコンテンツは現代社会でも人気を博しているのかも。もしあなたが何か新たなアート作品を手に取ろうと考えたとき、「恐怖を感じた」なんて理由があっても面白い。

ちなみに、かつて小泉八雲はこんな言葉を残している。

外国人の旅行者にとっては、古いものだけが新しいのであって、それだけがその人の心を、ひきつける。

古いものは新しい。価値の転倒をあえて楽しむような在り方は、不安や怖さにただ怯えるんじゃなく、あえて楽しむ「怪談」の行為にも似ているかもしれない。不安や恐怖、未知の体験にも楽しく耐える術はこの先もきっと必要とされる。「怪談」の可能性は未来に大きく開かれているはずだ。我々も異界への旅行者として、心が惹きつけられる怪談話、ホラーの世界を探索しに行ってみよう。

花火ってアートかも?

みんなで楽しむ、夏の職人技。

1人1台のスマートフォン。利用するコンテンツは人それぞれで、エンターテインメントの個人化は歯止めが効かない。「昨日何のテレビ見た?」なんて会話が難しくなっている昨今だが、日本の夏は「みんな」で空を見上げる素敵なイベントがある。

花火は日本の夏の風物詩であり、一大エンタメ。テレビでも放映される他、全国各地で大会が開催されるなど、その人気は衰えることがない。改めていうまでもないが、花火は火薬の爆発とその煌めきを楽しむ文化だ。物を焼くことで煙を上げ、情報を伝える「のろし」がその原型ともいわれ、火薬を発明した中国が爆竹などの用途で魔除け/武器などに用いはじめたのが花火の発祥だとされる。

ここ日本でも、武器として火薬が持ち込まれた後、戦乱の世が終わり平和になった江戸時代、1733年に隅田川で行われた水神祭において、はじめて鑑賞としての花火が打ち上げられたという。こちらは飢饉・疫病の死者を弔うためのもので、その後、数々の職人たちが登場し華やかさを競うことになる。日本の暑い夏の夜夕涼みのカルチャーともマッチしたことで、海外では年越しのイメージがある花火も、日本では今でも夏のシーズンに打ち上げられることが多いのだ。

祈り、感謝、鎮魂の意を込め、大きく球状に広がる独自の日本の花火。花の芯のように二重・三重の円を描きながら、細かな技術で空に儚い絵を描き、爆発する。そんな様子を、着物を着たり掛け声をかけたりしながら鑑賞する。空間を含めて、ある種のインスタレーションのように感じてしまうのは暴論だろうか。実際に、火薬という素材自体の美しさに着目し、火薬を用いた作品制作をする中国のアーティストがいる。蔡國強だ。彼には花火をモチーフにした作品がある。

「WHEN THE SKY BLOOMS WITH SAKURA BY CAI GUO-QIANG」(福島・いわきで行われた〈サン・ローラン〉協力の作品「白天花火《満天の桜が咲く日》」)〈サン・ローラン〉Official YouTube Channnelより引用。

自然現象への敬意と、鎮魂の意を通したこの作品について彼は各種メディアにて「爆発はコントロールできないものであり、自分を解放する」という趣旨の発言をしている。空をキャンバスとして映し出される作品は、偶然に身を任せながら創造する一瞬のモニュメント。その美しい光景は、まさに花火がアートであるといいたくなる。

手のひらサイズの「火薬アート」の名店案内。

「手持ち花火」は全国のコンビニやスーパーで手に入る身近な花火だ。子どもの頃には夏休みに家族や友だちと楽しんだ思い出がある方も多いはず。なかでも線香花火は町人文化として江戸時代初期に登場した「おもちゃ花火」。日本独自の遊びだ。火をつけてからほんの数秒、光の煌めきと静寂。日本の伝統文化が重んじる削ぎ落とされた美的な感覚を呼び起こす。そんな線香花火のみならず、実は今でもハイクオリティで美しい手持ち花火を購入できる場がある。

昭和4年創具花火製造場。富士山をモチーフにした「花富士」、古来から伝わる郷土玩具にインスピレーションを受けた「どうぶつはなび」など、オリジナリティあふれる商品を販売するほか、ギャラリーも併設。線香花火の製作工程を体験するワークショップや、子ども向け商品「えかきはなび」を使って、花火の巻き紙に絵をかくワークショップを開催するなど、アートや教育にも力を入れ、国産花火の普及に務める注目の製造場だ。

「花富士」筒井時正玩具花火製造場 公式ウェブサイトより引用

国産手持ち花火の種類と製造量は業界トップを誇る井上玩具煙火株式会社。1926年に静岡県島田市にて創業し、約100年間も日本の伝統的な花火を作り続けてきた老舗だ。そんなお店と、南青山にあるインテリアショップ「NICK WHITE」が毎年、花火に特化した合同のポップアップショップをオープンしている。色鮮やかな「かたち花火」やユニークな「しかけ花火」、井上玩具煙火の定番「スパークラー」などを詰めた特別セットを販売。職人達が1本1本丁寧に作り上げている至高の花火を堪能してみよう。こちらのイベントは8月31日まで。お急ぎを。

都内で手持ち花火を1本1本選ぶ興奮を味わうなら、蔵前駅近くの「松木商店」へ行くべし。花火専門問屋として卸しのみならず、一般にも小売販売をするこのお店。店内には約400種類以上の花火がずらりと並ぶ。玩具や文具の問屋街、浅草橋/蔵前エリアにあるからこその圧倒的物量と経験。あまり見慣れない限定商品、新製品はもちろん、懐かしの「ねずみ花火」「スパーク」「すすき」などなど、その種類の豊富さに興奮間違いなし。手持ち花火のセレクトショップである。一点一点を見てみれば、コンビニやスーパーで買うようないつもの花火とは一味違う体験になるはず。今年の夏を特別なものにしてみよう。

店内の様子。「松木商店」公式ウェブサイトより引用

開催間近な夜空のアート、花火大会。

最後に、これから開催される注目の花火大会をいくつかご紹介。「第97回 全国花火競技大会『大曲の花火』」は1910年(明治43年)から続く、秋田県大仙市の花火競技大会だ。全国の花火師が技を競い合うコンクール形式で行われることが最大の特徴。光ではなく煙を打ち上げる「昼花火」、10号玉の「芯入割物の部」、「自由玉の部」、「創造花火」の4部門で競い合うから、花火職人の凄さを目にできる。審査では、内閣総理大臣賞も授与されるなど、権威のある大会なのでぜひ訪れてほしい。8月30日(土)開催。

9月6日に開催される「北海道芸術花火 2025」は、世界的な彫刻家、イサム・ノグチが設計した公園、札幌市のモエレ沼公園を舞台に開催される大規模な花火イベントだ。名曲に合わせ、「大地の彫刻」ともいわれる起伏をいかした立体的な花火像を堪能できる。

10月でもまだ間に合う。「厳島水中花火大会」は10月18日(土)開催。世界遺産・厳島神社を背景に、海上から花火を打ち上げる。、約50年間宮島で引き継がれてきた水中花火大会の歴史を、6年ぶりに新たな形で開催されるこちら。水面から点火され水中で花開く「水中花火」がなんといっても見どころ。今年は戦後80年で、広島被爆80年の節目でもある。「平和への願い」と「伝統文化の継承」をテーマに掲げているから、平和や文化の大切さを考えながら、歴史、自然、芸術の大切さを空から感じてみよう。

「厳島水中花火大会」公式X投稿より引用。

もちろん、花火大会はこれ以外にもまだまだたくさんあるし、「手持ち花火」でも遊んでこそ「日本の夏」。今年の夏は、火薬の匂いと共に素敵な思い出を残してみてはどうだろう?

今週読みたいアート。アートな雑誌 Vol.2

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

ちょーっと右肩下がりな出版業界において、「MEN’S CLUB」「美人百花」などなど、続々とレジェンド雑誌が廃刊していく。隆盛を極めた“夢を届ける”メディアはかつての勢いは陰る。しかしながら雑誌にしか表現し得ない世界ってものがあるのだ。ということで、前編に続き後編では、「アート」に触れられる雑誌にフォーカス。パラパラっとめくってみて、まだ見ぬ世界や華麗なクリエイティブにワクワクしてみては。

◯『Epoch review』Francesca Gavin、Leonard Vernhet・編(Epoch review)

フランス発のこのインディペンデント・マガジンは「現在と過去を対話させる」ことを目的として不定期刊行中。クリエイティブディレクターとして誌面を作成するのは、Leonard Vernhetだ。〈シャネル〉や〈シュプリーム〉や〈エルメス〉とのコラボレーション、〈オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー〉の創業者・ラムダン・トゥアミとの山岳をテーマにした雑誌『USELESS FIGHTERS』でも活躍する、第一線のアート・ディレクターだ。そんな彼が力を入れるこの本は、人類学からファッション、科学から芸術、考古学から音楽まで、様々な分野の融合を行っている。アーティスト、思想家、歴史家、人類学者など、多くの職種の人々が参加し、扱うテーマも「メタモルフォーゼ」「予言」など抽象的かつ多岐にわたる。広げまくった風呂敷をちゃーんと回収する誌面には圧倒されるし、時代の先端をいく刺激的なクリエイティブに出合ってみてほしい。

◯『Provoke 』多木浩二、中平卓馬、高梨豊、岡田隆彦、森山大道・編(二手舎)

雑誌、とひとくちにいってもZINEや同人誌まで含めるとどれほどの数がこの世にはあるだろう。そんな中でも、“伝説の雑誌”は刊行後もいつまでも語り継がれるものだ。こちら、美術評論家の多木浩二と写真家の中平卓馬によって発案され、詩人の岡田隆彦と写真家の高梨豊が加わり創刊された同人誌。1968年の刊行後、たったの3刊しか続かなかったにもかかわらず、その影響力は絶大。「思想のための挑発的資料」として書かれた内容はもちろん、デザイン面でも、先日予告されたフランク・オーシャンのニューアルバムのジャケットが、この「Provoke」を参照しているとも話題だった。復刊プロジェクトもすすみ、手に入りやすい今こそ、ぜひ読んでみて。

今週読みたいアート。アートな雑誌 Vol.1

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

本格的な暑さが到来し始めた今日この頃。休日は家で涼みながら、優雅な1日を。というか、あまりの酷暑に家にいるしかない。そんなときは雑誌をパラパラっとめくってみて、まだ見ぬ世界や華麗なクリエイティブにワクワクしてみるのはどうだろう。「アート」に触れられる、まだまだ面白い雑誌が世界にはいっぱいあるのだ。

◯『Voice of photography』Voice of photography・編(影言社)

2011年に創刊、台湾発の写真にフォーカスしたアートマガジン。「暴力」「科学資本主義」「AI」など、ニッチでハードコアな話題からトレンドの事象まで、毎号異なるテーマを展開。国内外の写真家、アーティスト、映像作家を軸に、対談やインタビュー、創作にまつわる裏事情や文化的背景、歴史などアカデミックな内容も。写真史の論考、コラム、レビューなど、写真の批評に関する側面も強い。最新号は「宣教師」の図像イメージを探った第36号。台湾を起点にアジアの写真文化を俯瞰する壮大なプロジェクトだ。

◯『So young magazine』So young magazine・編(SO YOUNG)

こちらの雑誌がフォーカスするのは音楽。ロンドン発のDIY音楽マガジンだ。音楽といっても注目するのは新進気鋭のミュージシャン&イラストレーター。フォンテインズD.C.やウェット・レッグなど魅力あふれるルーキーたちのイラストを交え、今のインディー・シーンのリアルな姿を紹介し、世界から注目を集めている。ここ日本でも2022年に特別号が刊行され、昨年末には第2号も刊行。現在もライブやパーティーを主催するなど、その活動の幅を広げながら精力的に活動中。最新号はカーディナルズ、スクワッドらを特集した第56号。是非ともチェックしてみて欲しい!

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