【イベントレポート】FRIEZE SEOUL2025ー連帯するアジアのアートシーンをどう解釈するか

西洋から始まった現代美術の世界。それを追いかけるようにして発展していったアジアのアートマーケットだが、時間を重ねるごとに少し違った様相を呈してきているーーー。

FRIEZE/フリーズはイギリスで30年以上前に刊行されたコンテンポラリーアート・カルチャーの雑誌に端を発する。その後フリーズ・ロンドン、フリーズ・マスターズ、フリーズ・ニューヨーク、フリーズ・ロサンゼルスといったプレミアム・アートフェアを手掛けておりそのいずれもが美術関係者にとって最も重要なアートフェアの一つとなっている。2025年9月3日から9月6日まで開催された第4回のフリーズ・ソウルでは、韓国・日本をはじめとするアジア各国とヨーロッパ諸国、北米などの国から120 以上のアートギャラリーが参加した。

近代美術の名作を紹介するフリーズ・マスターズで出品されたジョルジュ・ブラックの作品群

会場はソウル・江南地区のコンベンションセンター「COEX」。ほぼ同時期に開催されたKiaf Seoulでは韓国国内のギャラリーを中心に若手作家の積極的な紹介や韓国文化を洞察した作品などが目立った。一方フリーズ・ソウルでは、歴史的に希少性の高い作家などを含む、国際色豊かな作品を多く紹介している印象だった。

コンテンポラリーアートの現在地ーエルヴィン・ブルム

Kiaf Seoulと同様に大勢のビジターで賑わっている会場。目につくのはそれぞれのギャラリーでの作品の売れ行きだ。一般的にアートフェアでは早い者勝ちで作品の販売が行われる。そして購入された作品は会期終了後に購入者へと届けられる仕組みとなっている。作品の販売状況は作品リストやキャプションに貼られた印の色を確認すればよい。色のわけ方はギャラリーによって様々だが、赤は売り切れ、青は交渉中とされることが多い。基本的に印がついているものは、購入することができないものと認識していれば間違い無いだろう。

フリーズ・ソウルに出展していたTake Ninagawaでは開始10分で大竹伸朗の大作が販売されたという。韓国のアートマーケットは一時の勢いを失いつつあるという見方もされるが、アジアの中でのハブとしての立ち位置は依然高いことがわかる。

Take Ninagawaのブース。今年のFrieze Stand Prizeを受賞した。

そんな勢いを表すかのように、展示された作品も現代アートのマスターピースばかりであった。エルヴィン・ブルムは1954年オーストリア生まれ。ウィーン応用美術大学とウィーン美術アカデミーで学び、ウィーンとリンベルクを拠点に活動しているアーティストだ。世界各地の影響力の高い美術館に作品が収蔵され、そのシニカルでユーモラスな作風を展開し第一線で活躍している。

左:Vanity;2023 右:Melancholia;2024 いずれもErwin Wurm

ロンドン・パリ・ソウルなど5箇所の都市に拠点を持つThaddaeus Ropacでは「Vanity」が展示販売された。アルミニウムによって作られたこの彫刻はバッグから足が生えている不気味な彫刻だ。そしてこのバッグのモチーフは、大流行したBottega Venetaの「カセット」というデザインだ。ニューヨークを拠点にするギャラリーLEHMANN MAUPINEでもブルムの「Melancholia」という作品が展示販売されていた。どちらもファッションアイテムがモチーフとなっており、私たちがバッグや洋服を通じて、他人からどう見られたいかという欲望と、世界からどのように見られるかという問いかけを示唆しているという。

連帯するアジアのアートシーン。ソウルから世界へと発信する意味

村上隆の作品群を一目見ようと人だかりになるPerrotinのブース

世界の美術館関係者やコレクターが、ここFRIEZE Seoulに集まる理由は、韓国や日本をはじめとするアジアのアートシーンへの注目が高まっているからだろう。自身の出自や自国の伝統・文化を作品に取り込むことで、西洋のアーティストとは異なったアプローチで現代アート作品を制作しているアジア人アーティストたちは、ここ数年で国際的な評価が高まっている。

Self-portrait;Sun Yitian 2025

1989年にベルリンでオープンしたEsther Schipperのスペースでは、中心にSun Yitianによる新作が展示販売されていた。Sunは北京を拠点に活動する女性アーティストで、2024年にはルイヴィトンとのコラボレーションでも話題となった。「Self-portrait」では3枚で1作品となっており祭壇画のような構成だ。中央の女性は水着姿で肌を露出しながらも、顔を覆われている。その姿は無防備であると同時に反抗的な印象を与える。この被り物は青島のビーチで、日差しとクラゲの刺傷から身を守るために登場したフェイスキニというアイテムだ。画家にとって、フェイスキニは日本や韓国で古くから存在する海女の伝統を想起させ、家父長制社会における女性の自立精神の象徴と結びつけている。

Floor to Floor Lamp;玉山拓郎

また東京から参加しているANOMALYのスペースでは玉山拓郎の作品が展示され、身近にある家具を使って重力や空気といった目に見えないものを知覚させ、天井によって支えられた空間において、それぞれの建築要素の役割と意味を変容させることで、新たな視覚的風景を生み出している。

世界48カ国から7万人の来場者を集めたFRIEZE Seoul。名作から最新作まで、現代アートという系譜を時代ごとに捉えることができるとともに(しかもそれらが購入できる…!)、また違った熱気が感じられたアートフェアだった。東京から2時間強でいくことのできる、最も近いアジア都市ソウルで濃密でエキサイティングなアートをぜひ体感してみてほしい。

【インタビュー】変換されていく景色ーYosca Maedaがピクセルアートで描く永遠と対話の世界-前編

電車やバスの電光掲示板、テレビのモニター、スマートフォンの画面など目を凝らすとそこには無数の点”ピクセル”が存在する。ピクセルとはデジタル画像を構成する色情報を持った最小単位のことだ。世界に「デジタル」が生まれ、同時に「ピクセル」も生まれた。Yosca Maedaはそんなピクセルの世界を自在に操る注目のアーティストだ。

ミュージシャン、教員からピクセルアーティストへ

初めまして!本日はよろしくお願いいたします。

Yosca  Maeda:よろしくお願いします。Yosca Maedaです。2020年からはじめはMaeという名前で制作活動をスタートしました。

「Afterglow」

アーティストになる前は小学校の教員をなさっていたと伺いました。

Yosca  Maeda:そうなんです。そもそもは音楽に携わる仕事がしたい、ということがきっかけで。ただ音楽系の専門学校を卒業したあとの見通しが立っていなかったので、教員の資格を取得し4年半ほど教員をしていました。当時は自身の音楽活動と並行して仕事をしようと考えていたんです。すごくやりがいがあったのですがあまりに忙しく、音楽活動ができない状況が続いてしまって。自分が初めて担任を受け持った生徒たちが6年生で卒業するのを区切りに退職する決意をしました。

音楽活動からピクセルアーティストへと転換したきっかけは?

Yosca  Maeda:自身の音楽活動のアートワークを作るためにピクセルアートを描いたのが一番最初でした。そのままコンテストに応募したり、SNSのアカウントを作って、みんなに作ったものを見てもらおうと思ったらピクセルアートの依頼が来たり…。はじめの頃は、この絵を描き上げたらそろそろ就活しようかな、みたいな状態を繰り返していたんですけど、だんだん描いた作品の数も増え、応援してくださる方も少しずつ増えて。もしかしたら、自分がやりたい表現はこの中にあるのかもしれない、という風に思い始めたんです。

一つひとつのピクセルを、確かめるように色を置いていくーーーピクセルアートは自分自身を見つめる鏡

普段制作をしているデスク

様々な表現方法がある中で、なぜピクセルアートだったのでしょうか?

Yosca  Maeda:本格的にアーティスト活動をしていくなかで、世の中は新型コロナウイルスの影響で疲弊していました。それに加えて祖父が他界し、社会との接続点を見失って悲観的な気分になっていました。自分の内面的な部分を見つめ直しているうちに、自分がどんなもので構成されているのか考えるようになったんです。ピクセルにはひとつひとつ明確な境界があって、それを確かめながらピースをはめていくパズルみたいな感覚が好きでした。操作はシンプルなのに、出来上がる作品には自分の感情がにじむ感じがあって。そのバランスがそのときの自分に合っていたんだと思います。

パズルをはめていくみたいに、一つひとつのピクセルを、確かめるように色を置いていく。自分で色の組み合わせを考えざるを得ないので、記憶の中にある大事な景色や自分を構成するものを見つめ直すことができる。それを具現化し自分のアイデンティティーを確かめる作業は、禅問答のように感じるときもあります。

単なる平面作品ではなくGIFのようなループアニメーションに挑戦されている理由はありますか?

「Nostalgia of the Flow」

Yosca  Maeda:僕にとって描くという行為は、自分の中に残っている断片的なイメージを形にすることです。そこでは時間がゆっくりと、あるいは何度も繰り返すように流れている。その感覚を映すために、ループアニメーションを制作しています。

たまに、僕の作品を見てどこか懐かしい景色だと言う方がいます。実際にはまったく同じモチーフに触れてきたわけではないけれど、その場所がピクセルアートに変換されることによって、どの場所でもない、私たちの中にだけある景色につながるような気がするんです。アーティスト名でもあるYoscaには、日本語の「よすが」という意味も含まれています。作品を見てくれた人がちょっとでも心の拠り所にしたくなるような作品を作れたらいいな、と思っています。

制作と生活。日常の中に散りばめられた、作品のかけら

制作以外の時間はどのように過ごしていますか?

Yosca  Maeda:展示や映画を観ることがあります。最近ではヴィム・ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」を見ました。それからハリーポッターシリーズも大好きです。劇中に出てくる写真は、魔法によってループアニメーションのように動いているんです。自分自身が作っているループ作品の中でも、ずっと世界が続いている、ある意味魔法的なイメージとも言えるかもしれないです。それから、シーンとシーンの間をつなぐインサート映像なんかをみるのも好きです。

日常の何げない風景を捉えた「Afterlife」

視点が細かすぎます…(笑)!

Yosca  Maeda:本筋ではないところで心奪われてしまうことが多いかもしれないです(笑)。それから散歩するのも好きです。散歩していると、ふと気になる景色と遭遇したり、いいフレーズを思いついたり。僕の作品は、日常にある何気ない景色をイメージして作ることが多いので写真やメモで記録することもあります。

どんなことを記録されているのか気になります(笑)

Yosca  Maeda:シェアできるようにこだわった写真を撮ると、どうしても道具みたいになっちゃう感じがしてしまうので、最近はあえて雑に撮っています。ブレていたり、人間味が残っていたりする写真の方が、あとから見返した時に面白いなと思っています。撮るものは例えば建物の隙間、影の形、空など、散歩していたらふと目にするような日々の色々です。

鑑賞者、そして自分自身と作品を通じて対話をすること。冷静な言葉で自身を語るYosca Maedaは制作と生活が点と線でつながっているかのようだ。後編では影響を受けた意外なアーティストからこれからのデジタルアートの向かう先まで、よりパーソナルな部分を深掘りしていく。

空前のラブブブームはなぜ起こったのか

「Fall in Wild」シリーズ

ちょっと不機嫌そうな顔、クリンとした目にきらりと光る9つのキバ、もふもふの体毛に覆われた不思議な妖精「Labubu/ラブブ」。中国で生まれた、この愛らしくも不気味なキャラクターは現在世界中をトリコにしている。

なぜラブブは世界を動かしたのか

ラブブは香港出身のイラストレーター、カシン・ルンが2015年に出版した絵本「The Monsters」に登場する妖精のキャラクターで、中国のおもちゃメーカー「ポップマートインターナショナルグループ」がキャラクターグッズを制作・販売している。2025年上半期の売上高は138億8000万元(約2850億円)で、前年の上半期と加え204.4%増という驚異的な売り上げを記録した。

ラブブは確かにかわいいけれど、ここまで人々が熱狂する理由は何なのか。一説によれば、K-POP界のカリスマであるBLACK PINKのLISAが大いに関係していると言われている。2024年半ばに彼女のインスタグラムに投稿されたラブブの姿は一部の熱狂的なファンによって買い占められ、海外のセレブにも波及していく。レディ・ガガやデュア・リパ、ラッパーのセントラル・シーなど男女問わずさまざまなセレブリティに愛用されてきた。

Lisa’s Secret Obsession with Labubus | Vanity Fair

こうしてありとあらゆるSNSに登場することになったラブブは熾烈な争奪戦となった。元々ブラインドボックス方式(中身が見えない状態で販売される)を採用していたことや、生産数が少ないことも相まって、二次流通市場でも高値で取引されるまでに至った。

ただのバッグチャームから富の象徴へ

はじめはかわいい人形として人々から愛されてきたラブブ。「推し活」アイテムのようにたくさんのラブブを身につけたり、ファンアートなどの二次元コンテンツによって消費されてきた。その後、セレブリティたちがたくさんのラブブを彼らの超高級ハンドバッグに付け出した。それにも背景がある。エルメスのバーキンやシャネルのマトラッセなど定番で歴史的なアイテムが流行し、個性を出しづらくなったために、バッグチャームが定番化していったからだ。セレブリティたちはそのほかのバッグチャームと同じようにラブブを活用し、ラブブは一気にステータスの象徴へとのし上がっていったのだ。

ラブブをチャームにするセレブたち

StockXなどのリセールサイトでも、2023年には年間100件以下だった取引数が、2025年には一日1000件超にまで激増し、VANSとコラボした限定モデルは1万ドル(約133万円)で売却。さらに世界で一体しかない限定モデルが108万元(約2200万円)という価格で取引されるまでに至ったのだ。

神格化する「ラブブ」ポップカルチャーへと続く波

ラブブは販売市場の席巻から始まり、さまざまなコンテンツに変換されている。ラブブのカスタマイズが進み、人間と同じようにタトゥーや歯のグリルを入れる個体や、オーダーメイドの衣装を着る個体の制作が増え、ファッションジャンルとの融合が進む。

私たちの間で流行しているものが、ラブブたちの間でも流行する。まるでラブブが生きているかのようにコレクターたちは振る舞い、最新のウェアやバッグ、アイテムを装着させるのだ。

またファンアートをデジタルプラットフォームに投稿したり、ラブブをモチーフにしたアート作品など、アートカルチャーへの波及も著しい。TikTokで注目を集めた「Sigma Boy(シグマボーイ」をパロディにした「LABUBU SONG」も YouTubeで200万回再生を超えている。そしてもちろん、コピー商品の流通も。

流行のピークを更新し続けるラブブだが、中国では価格崩壊が起こっている。転売屋たちがこぞって買い占めたラブブだが、正規販売業者が大量販売することによって、需要と供給のバランスが正常化された。完璧な転売対策によって、転売屋たちは次なるラブブはどのキャラクターか、虎視眈々と狙いを定めている。同じポップマートによって制作された、「CRY BABY」や、中国のライバル企業TOP TOYによる「nommi」などがじわじわ人気を集めている。

ネクストラブブとの呼び声も。「nommi」

また古くからキャラクターコンテンツが盛んな日本では往年のキャラが人気を伸ばしている。ラブブに見た目が似ている「モンチッチ」や、「ハローキティ」万博で爆発的なヒットになった「ミャクミャク」などこれからもキャラクターIPの人気は続きそうだ。実際にミャクミャクは様々なキャンペーンやプロモーションでも積極的に活用されており、ついにラブブとのコラボも決定。こうした異業種コラボレーションは、キャラクターという枠を越えて社会的な文化として認知される一因となっている。

50周年を迎える「モンチッチ」。若返りを図るアイテムを強化している。

ラブブの生みの親であるカシン・ルンは、現在、現代アーティストである村上隆が運営する”カイカイキキギャラリー”に所属し、個展などを通じてキャラクターをモチーフにしたポップアートを制作している。

私たちはラブブという親しみやすい存在を通じて、自然とアートやカルチャーに触れることになる。コレクターたちはラブブが持つ文化的な価値を見出し、アートの文脈でラブブを扱い、「アートトイ」という大きな市場を巨大化させた。

ラブブというキャラクターは、今を生きる私たちにとっての現代の様相を反映したポップカルチャーのアイコンとなる。アートはラブブの存在によって、ますますポップカルチャーとの距離を縮めることになる。レアなラブブがゴッホやデュシャンの作品と隣合わせに陳列される日も近いのかもしれない。

【イベントレポート】Kiaf SEOUL2025に行ってきた!韓国アートシーンの最前線へ

K-POPに韓国文学、韓国が発信するカルチャーはことごとく人々の心を掴んで離さない。BAM初の海外レポート、何度も韓国を訪れたことはあるが国内最大級のアートフェア「Kiaf SEOUL」には初めて訪れた。世界から注目される韓国のアートシーンを余すところなくレポートしていこう。

Kiaf SEOULに行ってきた!

GALLERY YEHのブース

ソウル・三成のコンベンションセンター「COEX」で開催されたKiaf SEOULは、2002年から開催された韓国初の国際アートフェアで、国内外の気鋭のアーティストたちの作品を紹介している。2025年は9月3日から7日まで開催され、世界20カ国以上から175のギャラリーが参加した。ソウルは世界のアート市場においても最も活気に満ちたアジア都市の一つでもあり、Kiaf SEOULはグローバルプラットフォームとしての役割を担っている。
まず初めに驚いたのは、その来場者数の多さだ。初日のプレヴューデー*1に伺ったのだが、老若男女ありとあらゆる人が訪れていた。
*1 :イベントに先行して入場できる日のことで、一般的には初日に設定されることが多い。Kiaf SEOULでは招待客及び一般チケットよりも高いチケットを購入して入場できる。
同時に開催されたFRIEZE SEOULと合わせて、韓国の現代アートシーンへの注目度が伺える。

三つのホールにまたがって開催されたKiaf SEOULではギャラリーによる展示と、ピックアップされたアーティストたちによるスペシャルエキシビション、カフェやショップ、VIPラウンジと一日中楽しむことができるラインナップだった。

SMALL GOODのブース。一休みする人々で大賑わい。

早速、韓国のローカルコーヒーロースター「SMALL GOOD」のアイスアメリカーノ片手に「Gallery MEME」(ソウル)のブースに立ち寄った。

チョ・ウンジー不思議に満ちた気鋭のアーティスト

Gallery MEMEはギャラリーが多く位置する仁寺洞エリアに2015年に開館し、現代美術の境界に挑戦する次世代新進作家たちを発掘・支援し、中堅作家や海外作家と合わせて展示している。時代の新しい感覚を覚醒させて拡張していく文化伝達者(ミーム)としての役割を果たすという意味が込められている。

Jo Eunji 「협동 연구 시리즈(直訳:共同研究シリーズ)」2025

インスタレーション形式で絵画を展示するチョ・ウンジ(Jo Eunji)は1999年生まれでソウルをベースに活動しているアーティストだ。韓国国内で活躍する若手アーティストの作品が鑑賞できるのもアートフェアの魅力だろう。

Jo Eunji「닮음에 대한 연구(直訳:類似の研究)」2024

絵画作品を立体作品として表現したり、謎めいたモチーフや図式を多用する独特の世界観のチョの作品には、断片的な記憶を繋ぎ合わせたショートストーリーのよう。今年のKiaf Highlight 10にも選ばれた注目の作家の一人だ。

韓国の伝統をレペゼンする

続いて訪れたのは「Gallery Vit」(ソウル)だ。Vitは暗闇から光へと生命の源泉となり、世界中の美術を照らし、深い感動を求めるという願いから2003年にオープンし現在はソウル・鍾路エリアに位置している。さまざまなアートフェアにも参加しており、韓国のアーティストを世界中に発信するギャラリーだ。

Han Manyoung「Reproduction of Time- Beveled Bottle 1」2017

ハン・マンヨン(Han Manyoung)は国家独立後すぐの1946年にソウルで生まれたアーティストだ。激動の時代を生きたハンの作品には現実と非現実が混ざり合って共存する。代表作である「Reproduction of Time」のシリーズは1984年から制作を続けており、ダヴィンチの「モナリザ」やマティスの「ダンス」、ロイ・リキテンシュタイン作品など世界中の名作を作品に散りばめ、時間という概念を解体していく。

Han Manyoung「Reproduction of Time- Beveled Bottle 1」2017

今回展示された作品は、朝鮮時代から使用されてきた清華白磁をリファレンスに制作されている。東洋と西洋、二次元と三次元、過去と現在など異なる要素を一つのキャンバスに表現することで時間と空間を超えた概念を作品に閉じ込めている。

韓国の消費社会への風刺的な作品も

Kiaf SEOULで印象的だったのは、有名ラグジュアリーブランドの商品やアイコンをモチーフとした作品の多さだ。

Sangho Byun「I love my job x 3」2025

2003年にオープンした「Gallery PICI」のブースで展示されたビョン・サンホ(Sangho Byun)の「I love my job x 3」は現代社会における多様な欲望に向き合い、現代人の溢れる欲望とエネルギーを伝えるため、背景は生々しい色彩で構成されている。

Sunyoung Kim「She Who Dances」2025

ソウル・チョンダムドンエリアの「Gallery WE」のブースではキム・ソンヨン(Sunyoung Kim)の「She Who Dances」が展示されていた。まるで転がる玉のように膨れ上がったバッグがモチーフの巨大な彫刻は、鑑賞者が触れると、優しく揺れ出す。人間の持つ不安定さのバランスや、柔軟性を比喩的に体現している。そういえば、会場の人々の持ちものを見れば、バーキンやケリー、そしてシャネルのマトラッセなど高級バッグのオンパレードだった。Kiaf SEOULで彼らの作品を展示することは、韓国経済のひずみに対する風刺であると想像するに容易かった。

大盛況の中幕を閉じたKiaf SEOUL。アートマーケットの最前線を体感した1日となった。

ジャケットデザインから紐解くアナログレコードの魅力。時代のスタイルを生み出し、今リバイバルへ。

BAM読者のみなさんは普段どうやって音楽を聞いているだろうか。Apple Musicや Spotifyなどの音楽配信サービスが音楽体験の主流となって久しいが、テクノロジーの進化に反動を受けるかのように、今アナログレコードの人気が再燃している。

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なんと言っても、アナログレコードの魅力は音質と迫力のレコードジャケットだ。特徴的な正方形のアートワークとサイズの大きさは細かい部分までじっくりと鑑賞することができる。アナログレコードは、音楽だけでなくアート作品として視覚でも楽しむことができるのだ。

ノスタルジーだけじゃない、再燃するアナログレコード

加速するトレンドに疲弊した若者たちが、かつて流行した古き良き文化にアクセスし始めている。音楽も例外ではなく、サブスクリプションサービスで昭和歌謡がヒットしたり、TIK TOKでは懐かしい曲に合わせてティーンたちが振りをつけて踊っている。しかし、アナログレコード人気の再燃は、昔を懐かしむ“ノスタルジー”的な感覚にのみによって消費されているわけではないのだ。

下北沢「フラッシュ・ディスク・ランチ」

日本にはレコードショップの大きなマーケットが存在している。ありとあらゆるレコードが揃う「ディスクユニオン」から、あの「PERFECT DAYS」にも登場した下北沢「フラッシュ・ディスク・ランチ」など、大小様々かつセレクトも個性的で、掘り出し物を求めて世界中の音楽ファンが訪れるのだ。また80〜90年代にかけての日本の音楽が有名アーティストにサンプリング1されることによって当時の音源にプレミアがつき、良質な中古アイテムが求められた。そして、保管状態の良い日本の中古マーケットが世界に注目された。

多角化するアルバムジャケット

また、デジタル音源が普及したことによって、よりフィジカルな音楽体験を重要視する時代性も後押しした。アーティストのKAWSやジュリアン・オピーなど、現代アート界の巨匠たちがかつて手がけたアルバムジャケットは、もはやアート作品としての需要が高まっている。ポップアートの原点でもあるアンディー・ウォーホルは「ラッツ&スター」や「ローリングストーン」、「ジョン・レノン」らのレコードジャケットを手がけており、アートと音楽が一体となってポップカルチャーが盛り上がって行くことにもつながる。アルバムジャケットは、アート作品やインテリアのように所有欲を満たすコレクションとなっていったのだ。

ジョン・レノン「Menlove Ave.」(1980)

また最新のアーティストたちも、この流れに乗る形でアナログレコードを新譜としてリリースしている。2019年12月に薬物の過剰摂取によって21歳でこの世を去ったシカゴ出身のJuice WRLD(ジュース・ワールド)は自身の2枚目の遺作アルバム「The Party Never Ends」をアナログレコードでも発売。村上隆の手がけたアートワークは彼が亡くなる2週間前に東京で直接対面して制作が勧められたそうだ。

Juice WRLD「The Party Never Ends」(2024)

名作ジャケットから紐解くデザインの力

アート作品としても支持を受けるレコードジャケット。コンセプチュアルなビジュアルの原点ともされているのが。ビートルズ「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」(1967)だ。デザインはピーター・ブレイク&ジャン・ハワースで、アルバムジャケットに集合するのは、マリリン・モンロー、ボブ・ディラン、アレイスター・クロウリーなどのスターたち。アルバム自体を一つのコンセプチュアルな芸術作品として提示することによって、音楽とビジュアルの相乗効果を狙った。

日本では現在“シティポップ”と呼ばれるジャンルの大瀧詠一「A LONG VACATION」や山下達郎「For You」などの作品に代表される独特のイラスト表現が花開いた。それぞれ永井博・鈴木英人が手がけており、都会的なイメージや陰影のない表現が、現実の雑念やひずみを忘れさせるユートピアのような場所として想起させられる。

大瀧詠一「A LONG VACATION」(1981/2021)

現代音楽家のブライアン・イーノはアートワークを“瞬間芸術”と呼んでいる。聴く前の0秒の瞬間に、音の世界を予感させるジャケットは「音楽の扉」であり、視覚的なイントロダクションでもあるというわけだ。音楽表現と切っても切り離せないアルバムのアートワークは、音楽体験の拡張と、終わりなきアートへの旅に連れていってくれる存在としてこれからも注目し続けたい。

  1. サンプリング:他人の作品の一部を抜粋することで楽曲を構成していく手法 ↩︎

新しいレコードに出会えるショップ

【旅とアート】目で見て感じたものを作品にーさけハラス インタビュー後編ー

前編に引き続き、さけハラスのインタビューをお届け。創作から離れた時間の過ごし方や、最近ハマっていることなどを通して、さけハラスの価値観や人間的な魅力に迫っていく。

ホラー映画で価値観の転換点を味わう

制作の時以外は何をして過ごしていますか?

さけ – 基本的には自宅兼作業場のデスクで1日を過ごすことが多いです。あまり仕事とプライベートを分けていなくて、映画や動画を見ながらなど毎日何かしらの作業をしてしまいます(笑)。活動時間も不規則で今日も夜中の0時に起きて昼までずっと作業していました。それ以外の時間ではやはり旅にでていますね。あとは散歩したりするのも好きです。

マルチタスク、羨ましいです…!どのような映画を見られるんですか?

さけ – 実はホラー映画が好きで。ホラー映画って、制作費に制約のある作品も多いので、同じ空間を使って違う見せ方をしたり、脚本を工夫したりして制作されているものも多く、その発想自体が興味深いんです。アイデア次第では全く新しいジャンルが生まれたりとか。

それから、ホラー映画の根幹でもある怖がる対象物が時代によって変わっていることも面白いです。例えば80から90年代頃の作品ではビデオテープが呪いの道具として使われたホラー映画がありましたが、それが携帯電話に、そしてスマートフォンになり、最近ではSNSの恐ろしさを切り取ったホラー作品があったり。様々なデジタルデバイスが生まれてきましたが、それを使う私たちのリテラシーも問われているような気がします。

ホラー映画を追うことで時代の転換点が見えるんですね…!私自身初心者なのですが、おすすめの作品はありますか?

さけ – うーん…。ドリュー・ゴダード監督の「キャビン」という映画は好きです。今までのホラー映画の定番を詰め込みながらもそれらをメタ的な視点で展開していくんですが、ある意味禁じ手というか。ホラー映画自体の価値観をひっくり返したような映画です。

映画「キャビン」

ホラー映画以外に影響を受けた作品はありますか?

さけ – 単純に絵として影響を受けているのは、やはり新海誠さんです。「言の葉の庭」(2013)という作品を観て知りました。日常の風景をめちゃくちゃ綺麗に表現していて。ただ新宿という街に初めて訪れた時に、新海誠さんの絵と実際の風景の落差に驚きました(笑)。

幼い頃から絵を描くのは好きだったんですか?

さけ – 小学生の時に遊戯王カードが流行っていたのですが、それのオリジナルカードを手描きで作って友達と遊んでいました。今考えると創作活動の原体験かもしれないです(笑)。あとは好きな漫画の模写をしていました。漫画のキャラクターに空想のセリフを喋らせて友達を笑わせたりとか。

思い出の味は車中泊した日に食べた貝汁

今までにたくさんの場所を旅されてきたと思うのですが、思い出の料理はありますか?

さけ – 最近山陰地方を旅したのですが、山口県で食べた貝汁が絶品で。地元の人も集まるというサービスエリアがあるのですが、東京の自宅から車で出かけてそこで車中泊をしたんです。貝の出汁がたっぷり出た味噌汁だったのですが体に沁みました。温泉などもある広い施設で、地元のかたが足しげく通われるのも納得でした。

山口県を訪れた際に食べた貝汁定食

旅先でお土産を買うのも好きで、一時期はご当地のお酒を買って飲み終わった瓶をコレクションしたりもしていました。並べると達成感も味わえます(笑)。

ご自身の活動の中で転機になったタイミングはありますか?

さけ – やはりフリーランスとして独立できた時だと思います。私自身が0から1を作る作業の方が向いているなと思っていて。会社に所属してた時は、実績や信頼を積み重ねた一握りの人しかそういった現場に立ち会うことはできませんでした。一つのものを極めてクオリティを上げていく、ということにも価値はあると思うんですが、色々なことを試して実践していく、というスタイルが自分にあっていると気づいて。2019年に「写真加工で作る風景イラスト」という指南書を出版した時も、“甘えじゃないか!?”などの批判の声もいただきました。けれど時が流れて今では当たり前の出来事になっていると思います。

「散策」何気ない瞬間を切り抜いたさけハラスさんの作品

小さなアクションから社会に貢献したい

随所でさけハラスさんご自身への客観的視点に感服してしまいます…!最近Xにて選挙についての投稿をしていましたよね。ご自身と社会との関係性についてどのようにお考えですか?

さけ – 私は鳥取県出身なのですが、自分が住んでいた頃から10万人以上も人口が減ってしまっていて。また、行政の方々からの仕事を進めていく上で、地域の様々な問題に直面することもあります。はじめは地道に活動していくしかないか、と思っていたのですが、そもそも根本から変えないと意味がないのでは?と思い始めて。そこからさらに政治や社会に関心を持ちました。とはいっても自分にできることと言えば、選挙に行ったり、対話をしたり、地域の話を聞いて活動をしていくしかないと思うので。

ただ、ASOBI SYSTEMに所属してからは自分自身だけではアプローチできなかった場所や仕事をご紹介いただくことも増えました。マネジメントのお話しをいただいた時はびっくりしましたが(笑)。

私自身の武器はイラストなので、少しでも社会に役立つものを作れたらいいなと思っています。

これからアーティストを目指す方々やファンのみなさんにメッセージをお願いします。

さけ – イラストだからこういったことしなきゃいけないっていうよりは、ちょっとだけ発想を変えてみたり、新しい表現や発信方法を考えてみたりしてみてほしいです。立場とか関係なく、なんか面白いことを考えて一緒にイラストに関わるカルチャーを盛り上げて行きたいな、と思っています。

イラストレーター・さけハラス。旅することで生まれた作品と、地域への思いに胸が熱くなる。彼の描く未来が、これからもっと明るく素晴らしいものになると信じて、私たちも行動して行きたい。

【旅とアート】目で見て感じたものを作品にーさけハラス インタビュー前編ー

とある女子高生の日常を切り取ったように緻密な作品を描くイラストレーターとして人気を博しているさけハラス。「旅」をキーワードに常に新しい表現や発信方法を模索し続ける彼の誠実さに触れたインタビューをお届け。

逆境を楽しむー居酒屋から始まったイラストの道

今日はよろしくお願いいたします。さけハラスさんの作品は風景とキャラクターの雰囲気が相まって、見ている私たちを小さな旅に連れて行ってくれるような魅力がありますよね。イラストで仕事をすることになった経緯を教えてください。

さけハラス(以下:さけ)- お願いします。絵を仕事にしたのは、居酒屋でした。当時はリーマンショックの影響でどの会社も新卒採用を縮小する傾向にあり、自分もその渦中にいました。いただいていた内定が取り消しとなり、どうしようか悩んでいたところに、デザイナーとして募集があったのがその居酒屋でした。

居酒屋でデザイナー募集とは、珍しいですね!

さけ – そうなんです。それも含めて面白そうだな、と思って仕事をはじめました。当時は居酒屋で使うメニューを描いたり、ロゴのデザインをしたりしていました。従業員の似顔絵を描いたりしているうちにイラストに興味を持ち、思い切って会社をやめて、京都のイラスト専門学校に入学しました。卒業した後はその専門学校の講師として働いたり、縁のあったゲーム会社などでキャラ制作やゲームの背景などを担当し、2019年に独立しました。

イラストの指南書などを拝見しても、すごくわかりやすくまとめられていて。講師をやっていたと聞いて納得です。

さけ – 講師をしていた時にもたくさんのことを学びました。彼らが今どんなことに関心があってどんなものが流行っているのか、グッズなども自分たちの時代にはなかったツールを使って制作していて感心していました。当時の生徒さんからもらったオリジナルの缶バッジや、SNSのアイコンにもしているマガモのキャラクターの人形は大切な宝物です。

SNSのアイコンにもしているマガモ

目で見て感じたものを作品に

旅するイラストレーターという肩書の通り、実在する場所をモチーフにした作品も多いかと思います。どのように場所を選ばれているんですか?

さけ – SNSを使った情報収集が多いです。InstagramやX、ピンタレストなどで気になった場所をストックしていて、行く場所が決まるとその地域に詳しいフォロワーさんたちからおすすめをされることもあります。地方に行かせていただくことも多いのですが、その地域が制作しているローカル番組などで紹介されていた場所を訪れたこともあります。

路地裏や交差点など街の“裏側”のような場所に焦点を当てている作品も多いですよね。

さけ – 単純にそういうところが好き、というのもあるんですが。(笑)光の表現に自信があって、そういったコントラストの強く出る景色を選ぶことも多いです。木漏れ日の降り注ぐ場所や海など、その明暗や彩度を誇張して描くこともあります。

「駅と少女2」木漏れ日の表現を得意とするさけハラスさんの作品

ご依頼やお仕事でイラストを描く時には、どうしてもメジャーな場所をモチーフにすることが多いので、個人の活動ではその場に行かないと見つけられないような景色を描きたいな、と思っています。階段の風景を描くことも多いのですが、構図としてキャラクターが入れやすかったり、何かが始まりそうな予感がして、好きなモチーフの一つです。そんな場所でも特定してくれるファンの方もいたりして。

さけハラスさんの作品をみていると、実際にその場所に行ってみたくなります!

さけ – 聖地巡礼などでその場所を訪れてくださるファンの方もいらっしゃいます。一度だけファンの方がツアーをしてくれたこともあって(笑)色んな場所を巡った後に一緒に食事をしました。

AI時代にイラストレーターとして活動すること

旅のルーティンを教えてください。

さけ – 毎回必ずというわけではないのですが、その街の一番大きな駅に行くようにしています。地域がその街がどのくらい盛り上がっているのか、何が有名なのかなどを確認します。絵を描くだけじゃなくて、その街自体も楽しみたいのでその地域ならではのグルメや名所などにも行きます。

作品の醍醐味とも言える緻密な風景描写ですが、どのようにして制作されているんですか?

さけ – 私の場合は旅で訪れた場所の写真を加工したものをベースに加筆・着彩をして仕上げています。その上で誇張する部分や、逆にノイズになってしまう部分を目立たなくしたりもします。元の写真自体は加工の具合によって色々な表現ができるのですが、以前訪れた場所に雪が積もっていて、違う季節のイラストを描こうと思った時に普段の景色を想像しながら制作したときは大変でした(笑)

実際の作品制作時

雄大な景色と可愛らしい女子高生のキャラクターのコントラストも印象的ですよね。

さけ – 気分によって描き変えたりしています。キャラクターが様々な旅先を旅行するというストーリーでコンテンツを制作していたこともありました。実はSNSでイラストを投稿しはじめた時は、とにかく風景を描く練習がしたくてキャラデザインを固定すればいっぱい風景が描ける!と思っていました(笑)ただ、キャラクターがいることによって目を止めてくださる方も多く、今ではどちらの要素も欠かすことができないです。

最近ではAIによるイラストも流行していますが、さけハラスさんはこの状況をどのように見ていますか?

さけ – 同業者の中にはAIアートに苦手意識を持っている方もいると思います。私自身もその気持ちはわかるのですが、やはり時代の流れとして避けられないと思います。もちろん仕事を失っている部分もあるかと思うので、危機感を感じないと言えば嘘になりますが、うまく技術を活用しながらAIに代替されないような活動ができるように頑張っています。ただ著作権の侵害などといった問題も出てきているので法整備などの規制は必要だと思います。

居酒屋のイラストレーターからキャリアをスタートしたさけハラス。制作の秘話からAI時代にサヴァイブすることまで語った。後編では、さけハラスが語る、未来の社会のコトから大好きなホラー映画の話まで。パーソナルな部分を掘り下げていく。

ソフト一つとはじまったアーティストの道ーCream Ecoes インタビュー後編ー

前編に引き続き、Cream Ecoes(クリームエコーズ)のインタビューをお届けする。創作から離れた時間の過ごし方や、最近ハマっていることなどを通して、Cream Ecoesの価値観や人間的な魅力に迫っていく。

ルーツは冷蔵庫?Cream Ecoesの素顔

今更ですが、Cream Ecoesというアーティスト名にはどんな思いが込められているんですか?

Cream Ecoes – よく聞かれる質問なのですが、全く意味はなくて(笑)。アーティストとして活動しようと思っていた時に、本名は嫌だなと思っていて。自宅の冷蔵庫に貼ってあったステッカーを見ていたら「Cream」と「Ecoes」が目に入ってきたのでこの名前にしました。綴りをよく間違えられるのですが、それからCream Ecoesと名乗っています。

ステッカーでいっぱいになった冷蔵庫

江戸川コナンと同じだ…!でもなんとなくCream Ecoesさんの雰囲気にもあっているような印象を受けます。

C – ありがとうございます。でも何度も改名を考えているんですよ。ただタイミングを失っていて…。ずっと構想しています。もっとアーティストっぽい名前とかに憧れます。

普段の家での過ごし方を教えてください。

C – 制作しながら過ごしていますが、息抜きでタバコを吸ったりカフェオレを作ったりしています。今日はインタビューなのでブラックコーヒーにしてみました。カッコつけたいなと思って(笑)。パートナーと一緒に住んでいるのですが、交代制で自炊もしています。高校生時代に居酒屋でアルバイトをしていて、その店で教えてもらっただし巻き卵が得意料理です。

思い出の味はありますか?

C – 昔、僕の誕生日にパートナーと群馬県の小さな温泉街に行ったんです。そこで入ったうなぎ屋さんのうなぎの蒲焼がめちゃくちゃおいしくて。それは忘れられないです。

個展などでいろいろな場所に出向くことも多いと思うのですが、好きだった場所はありますか?

C – 栃木県の黒磯と静岡県が好きでした。街自体の雰囲気も好きなのですが、それらの場所で開催した展示がすごく楽しくて。黒磯は街がコンパクトで、その中にショップとかが集まっている感じが好きでした。六喩というレコードショップでの展示だったので、レコードサイズの作品を展示しました。静岡県では、展示が終わった後に遅くまで居酒屋で友達と飲んでいました。居酒屋の雰囲気がすごくよくて、ご飯も美味しかったのでお気に入りです。

六喩での個展「Jung Pung」(2024)の様子

勘当覚悟で買ったベースと都市伝説

ずっと大切にしている「宝物」はありますか?

C – 学生時代から使っているベースだと思います。初めての大きな買い物ってやつで。ちょっといいベースをローンを組んで購入しました。親からはローンなんて組むなら縁切るぞ!と言われました(笑)。もう弾くことはほとんどないので、お金に困った時に何度も売ろうとしたこともありました。でも手放さずにいて良かったと思っています。

思い出のベース

バンド時代はどのような活動をしていたんですか?

C – 今までに二つバンドを組んできたのですが、シティポップや歌謡曲、R&Bとソウルなどを演奏してきました。割といろんなジャンルを通ってきました。「ディアンジェロ」や「エリカバトゥ」などの90sのR&Bをよく聞くのですが、やっぱりベースの音に注目してしまいます。

最近ハマっていることを教えてください。

C – 展示を見てくれた友人からオススメされた手塚治虫の「火の鳥」を読んでいます。今まであまり漫画は読んでこなかったのですが、めちゃくちゃ面白いです。あとはABEMA TVに登録したのですが、「ナオキマンの都市伝説ワイドショー」という番組にハマっています。神社のすごい人・スパイ・芸能界の闇・世紀末…面白半分ですが、見出したら止まらないんですよね(笑)。

「Always be in my heart」(2025)

先日の参議院選挙や昨今の社会問題を通してアーティストたちが連帯して声をあげることも多くなってきました。アーティストとして社会とどのように関係していきたいと考えていますか?

C – スローガンのデザインをされているデザイナーさんなど、活動自体は好きなのですが自分自身はまだそういったことに参加したことはありません。深く考えないようにしていて、距離感をどうとるのかが難しいです。ただ漠然とした将来への不安はあります。2,30年後にどうなっているんだろう、みたいな。大学卒業のタイミングで就職活動もしていたのですが、どうしても違うな、と感じて内定をいただいた会社をお断りしました。今でも申し訳ないと思っていますが、そのおかげでより一層気合いが入ったような感覚になりました。

ソフトひとつと始まったアーティストの道

これから挑戦してみたいことを教えてください。

C – 立体作品やアニメーションにトライしてみたいです。あとは今まで作品に人物や動物を登場させたことが無くて。新しいモチーフにも興味があります。

これからアーティストを目指す方々に一言お願いします。

C – とりあえず何かやってみよう、と伝えたいです。僕もたまたまダウンロードしていたIllustratorのソフトからアーティスト活動が始まりました。でも実際やってみないとわかんないことがすごいあって。大変なこともありますが、楽しいこともたくさんあります。一人で向き合う時間はちょっと寂しいけど(笑)。

終始和やかなムードで終わったCream Ecoesのインタビュー。目で見たものが彼のフィルターを通してあらゆる物質に変換される。その心地よい違和感は、混沌とした世の中に残されたユートピアの入り口なのかもしれない。

Cream Ecoesは現在、台湾・soil taipeiにて個展を開催中。
その後は静岡でも展示を予定しており、国内外で作品世界を体感できる機会が続きます。
ぜひ足を運んで、彼の新たな挑戦をチェックしてみてください。

Cream Ecoes Touring Solo Exhibition “In my head? (or)In your head?” in Taiwan 2025

会期:8.15(金)- 9.14(日)
時間:12:00 – 19:00
会場:SOIL TAIPEI  (No. 94號, Lane 74, Section 3, Bade Rd, Songshan District, Taipei City, 台湾 )
後援:Whimsy Work Gallery

​Cream Ecoes Poster Solo Exhibition “(P)” in Shizuoka 2025

会期:9.6(土)- 9.28(日)
時間: 月~木 8:00-21:00 / 金~土 8:00-23:00 / 日 8:00-18:00
会場::PART COFFEE ROASTER (静岡市葵区御幸町20番地 M20ビル cosa1F)

誰もみたことがない世界を作品にーCream Ecoes インタビュー前編ー

いつか来るディストピアはこんな景色だろうか。2000年生まれの25歳、Cream Ecoes(クリームエコーズ)の作品は彼の穏やかな雰囲気とは相反するかのように、この混沌とした世の中を映し出しているかのようだ。

Cream Ecoes 唯一無二の色彩

「ANORAK! Tour Visual」 (2025) —新しいカラーリングに挑戦した作品

東京をベースに活動を続けているCream Ecoes。三年前にバンド活動を経てアーティスト・イラストレーターに転向。独特のカラーリングやモチーフが話題を呼び、日本全国から台湾までも個展を開催している。作風や名前も謎に包まれたCream Ecoesに制作のこと、好きなこと、最近興味がある都市伝説のことまでインタビューを行ったーーー。

今日はよろしくお願いします。前回は六本木のCOMMONというカフェ&バーで行われたZINEフェアでお会いしましたね。

Cream Ecoes – よろしくお願いします。ZINEが好きなので遊びに行きました。実は過去に一度ZINEを作ったことがあります。あまり言語化が得意ではないのですが、ZINEは自分の世界観を存分に表すことができるので、これからも作っていきたいと思っています。

初めてCream Echoesさんの作品をみた時から、「色」が印象的でした。配色はどのように決めているんですか?

C – どんな風に決めてるんだろう…。ただ色はすごく大切にしていて。今まで発見した変わった配色のものを参考にしたり、組み合わせてみて面白い組み合わせなどを使うようにしています。最近は作品の配色が派手になったような気がしていて。今まで使わなかったピンク色なども作品に取り入れることが多くなりました。

作品との付き合い方がより軽やかに、自由になったような感じですか?

C – 確かに、日頃から作品へのしがらみや制約から解き放たれたい!と思っています(笑)最近ヨーロッパに行く機会があって、旅行中は普段あまりしない散歩をして、街の様子や歩いている人々の姿を記憶に留めています。

誰も見たことがない景色を作品に

幼い頃にみた景色やもので印象的なものはありますか?

C – 地元が宮城県で子供の時によくスノーボードをしていたんですが、地元のスポーツ用品店で売っていた「kissmark」というブランドのウェアをよく着ていました。他にはないビビッドな配色のアイテムが多くて、少なからず影響を受けているような気がしています。

影響を受けたアーティストはいますか?

C – 実はアーティストに全然詳しくなくて。元々学生時代からバンド活動をしていたので大瀧詠一さんのジャケットを手掛けていた永井博さんのことだけ知っていました。今でも好きなアーティストの一人です。バンドはもういいかな、と思っていた2022年から絵の制作をはじめました。それから様々なアーティストの作品に触れることによって自身の作風ができていったように思います。

色の境界や、この世のどこでもないアノニマスな風景を描いているという点でも似た雰囲気を感じます。

C – 人が見たことがないモチーフを入れることもあって、グニャグニャ・ギザギザ・トゲトゲといった質感のものを組み合わせて不思議な風景を作り出しています。

デジタルとアナログの融合が織りなすCream Ecoesの世界

「Get Along」(2025)デジタルとアナログを融合させて制作した。

制作について聞かせてください。普段はアトリエとしても使われているご自宅での作業が多いですか?

C – はい。あとは友人と共同で借りている事務所や近所のドトールでも作業することもあります。ノートパソコン一台で完結するので実はどこででも作業ができちゃうんです。

自宅の制作デスク

それは驚きでした!

C – PhotoshopやIllustratorを使用して制作することが多いです。ほとんどをトラックパッドの描画機能で線を描くことも多いのですが、細かい部分や余白を持たせたいところなどはボールペンでかいた素材を出力することもあります。油画などの手描きの絵にずっと憧れがあるので、今まで何度か試したのですが、しっくりくるものが作れず。いつかはそういった作品にもトライしてみたいと思っています。

一枚の作品を完成させるのにどのくらい時間をかけていますか?

C – 本当にまちまちなんですが、早い時だと2~3時間で下絵が完成することもあります。展示が近い時は毎日パソコンの前で制作をしていますが、なんとなく1週間のうちの平日はCream Echoesとして活動し、残りは別の作業や休日にしています。ただ日常の中でアイデアや図版が思いつくこともしばしばです。

2025年8月15日からは、台湾での個展「In my head?(or) In your head?」が開催されますよね。

Traveling Solo Exhibition 「In my head?(or) In your head?」台湾・soil taipeiにて2025年9月14日まで開催

C – 台湾では2025年2月に一度個展をさせていただいたことがあって。その時に知り合ったギャラリストさんが今回の個展をセッティングしてくれました。InstagramのDMでメッセージが来たことがきっかけで、在廊で初めての台湾訪問でした。自分が帰国した後も多くの方が来場してくださったようで、安心しました。今回の展示では飲食もできる台北のアートスペースでの展示で、新作4点に加えて、5月に開催した宮城県での個展からも3点追加した計16点を展示する予定です。

後編ではCream Ecoesのパーソナルな部分に焦点を当てて深掘りしていきます。後編もお楽しみに。

ねぶた祭りをアートとして楽しむ

夏真っ盛りとなった今日この頃、連日の暑さの報道に耳を痛めてしまう。日本では千年前から「春はあけぼの、夏は夜・・・」と清少納言が言い放ったように、昼間と比べ少し涼しくなった夏の夜は格別なものがある。そんな夏の夜を彩るもの、祭り。夏は祭りに行かねば!

岸和田のだんじり祭りや“奇祭”で知られる岐阜県の郡上おどりなど日本各地にさまざまな祭りがある中で、一際異彩を放っているのが青森・ねぶた祭りだろう。伝統もさることながら、巨大な「ねぶた」が夜闇を練り歩く様はテレビで見てもド迫力。一度は見にいってみたいと思っている人も多いだろう。

2023年 青森県板金工業組合 「火雷天神 菅原道真」北村春一作

​実はこの「ねぶた」、毎年新しいものが作られており、その全てが伝統の技術を受け継ぐ職人たちの手作業によって作られている。それぞれのねぶたの表情や髪の流れ・着物の柄合わせに至るまで一つとして同じものはなく、それゆえ毎年多くの人々を熱狂させる。祭りの熱気と、出店でちょっと一杯を楽しむのもいいけれど、紙と灯りの芸術作品としての「ねぶた」を目を凝らして鑑賞してみてはどうだろうか。

ねぶたの起源は、諸説あるが七夕祭りの灯籠流しの変形であろうといわれている。

奈良時代に中国から渡来した「七夕祭」と、古来から青森のあたりにあった習俗や行事が一体化して祭りとなり、その後紙と竹、ローソクが普及されると祭りで灯籠を作るようになる。それが変化して人形やねぶたになったという考えが一般的だ。青森の中の地域によっても少しづつ違いがみられ弘前では「ねぷた」という名称で親しまれている。

巨大総合芸術作品「ねぶた」はこうして出来上がる

ねぶた師 竹浪比呂央

毎年30を超える大小のねぶたは、下絵を描いたのちに3ヶ月ほどかけて制作に移る。彫刻を作るがごとく、木材と針金によって躯体部分を造形。かつてはその全てを竹で行っていたというから驚きだ…!大きいもので約1000個もの電球を取り付ける電気配線や、躯体に紙をはって日本画の技法に基づいて墨跡、ロウ引き、絵付けをほどこし完成となる。歴史上の人物や神話をモチーフにすることも多いことから、時代考証も行われているそうだ。出来上がったねぶたを大人30〜40人で担ぎ上げて、ようやく私たちの目で見ることができるのだ。

2023年 NTTグループねぶた 「釈迦降誕」制作風景 北村春一作

デザイン、サイズ、立体感。そのどれをとっても他で見ることはできないだろう。しかもそのねぶたが祭りになると動き出す。この祭りの異常性にようやく気づいただろう。

どうしても祭りの当日にいけない、という方には青森駅からアクセスできる青森市文化観光交流施設「ねぶたの家 ワ・ラッセ」に行ってほしい。街の発展を見届けてきたねぶた祭の歴史や魅力を余すことなく紹介するとともに、一年を通じて祭り本番に出陣した大型ねぶたを間近で鑑賞することができる施設だ。ねぶたに触れられる他、祭りに参加しているかのようにねぶた囃子が流れる中で実物のねぶたをたっぷりと堪能できる。

ねぶたを自宅でも楽しむ

「KAKERA」NEBUTA STYLE 

美しく力強いねぶただが、毎年作られた作品はどうしても廃棄されてしまっていた。そこに着目したのが「NEBUTA STYLE (ネブタスタイル)」だ。大型ねぶたの和紙を1枚1枚丁寧にはがし取り、インテリア照明としてアップサイクルしたり、ホテルの障子などに利用している。開発においては、第一線のねぶた師と、多くのメーカーやデザイナー、アーティストなどとコラボレーションをすることによってねぶたに新しい価値が生まれている。

青森発の日本を代表するアートとして「ねぶた」を世界に発信していけば、ねぶた祭りがもっと盛り上がるだろう。世界中のミュージアムでねぶたをはじめとした祭りの文化や作品が展示されるとしたら、「ねぶた」を違った見方ができるようになるかもしれない。

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