【インタビュー】 感情を込めない。つのさめの描く無機質の美学- 前編

SNSを中心に、緻密なペン画と、どこか捉えどころのないキャラクター「ちえさん」で支持を集めるイラストレーター・漫画家のつのさめ

一見すると可愛らしく、しかしじっと見つめていると、そこには魚や虫のような「思考の読めない」静かな不気味さが漂っている。

緻密に描き込まれた背景と、極限までシンプルに削ぎ落とされたキャラクター。その鮮やかなコントラストは、いかにして生まれたのか。大阪に構える「シカク」で開催された個展の余韻が残る中、彼女の創作の原点と、「ちえさん」という不思議な存在について話を訊いた。

「ちえさん」って何者!?

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つのさめさんの作品には、象徴的なキャラクターである「ちえさん」が頻繁に登場します。彼、もしくは彼女はどのような経緯で生まれたのでしょうか?

つのさめ – もともとは、私が一番最初に描いたオリジナルの創作漫画に出てきたキャラクターなんです。最初は、パン屋さんかどこかでバイトをしている設定で、三角巾をつけて働いている女の子として描いていました。

でも、落書きを繰り返していくうちに、気付けば最初の設定は薄れて、どんどん曖昧な存在になっていきました。三角巾の「出っ張り」の部分が、いつの間にか髪の毛として定着してしまって(笑)。シルエットとして、三角巾を外したときもこの形だったら面白いな、と思って今の姿になったんです。

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あの特徴的な髪型は、もともと三角巾だったんですね。一つの画面に、ちえさんが何人も登場する作品も印象的です。彼女たちはそれぞれ別人なのでしょうか?

つのさめ – 実は、あまり具体的な設定を作り込んでいるわけではないんです。「画面に同じキャラがいっぱいいたら面白いな」という、すごく素朴な理由で描いています。おじさんになったり赤ちゃんになったりすることもありますね。

私はもともと不思議なものが好きなので、日常的な風景の中に、同じ顔をした存在が複数いるだけで、急に「不思議な空間」になる。その違和感が気に入っています。

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ちえさんの表情には、どこか読めないところがあるというか、愛くるしさの中に、突き放したような不気味さのようなものを感じます。

つのさめ – そう言っていただけると嬉しいです。私自身、創作の中で「情緒」を描くことがあまり好きではないというか……。何を考えているか分からないものが好きなんです。

例えるなら、虫や魚のような感じ。カニやイカなどを頻繁に描くのも、曖昧さや無機質な感覚を描けるからです。言葉にできない、「人間的な感情」が通じないような無機質さに惹かれるんだと思います。私の中では、そうした感覚を表現出来るのが、絵を描くことの魅力です。

トーベ・ヤンソンに見た「コントラスト」の美学

背景の描き込みが非常に緻密な一方で、キャラクターは非常にシンプルですよね。このギャップについては意識されているのでしょうか。

つのさめ – そうですね。キャラクターを際立たせるために意識して描き分けています。影響を受けているのは、『ムーミン』の作者であるトーベ・ヤンソンさんや、水木しげるさんです。

水木しげるさん!確かに、妖怪たちは個性的ですが、背景の自然描写は驚くほど緻密ですね。

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つのさめ – そうなんです。あとエドワード・ゴーリーのペン画にも強く憧れました。背景が緻密で、キャラクターがシンプル。そのバランスが生む、不穏でかっこいい空気感を目指したくて、今のスタイルに辿り着きました。最近の作家さんだと、panpanyaさんや、ネルノダイスキさんの表現からも大きな刺激を受けています。

違っていたらすみませんが、あずまきよひこさんの『よつばと!』からの影響もあるのかなと感じました。

つのさめ – 『よつばと!』も好きですね!キャラクターの線がスッキリしていて。直接的に影響を受けているかは分かりませんが、もしかすると無意識に影響を受けているかも知れません。

らくがきアニメ

作画工程についても伺いたいのですが、アナログのような質感がありつつも、基本的にはデジタルで描かれているとお聞きしました。

つのさめ – はい、基本的にデジタルです。もともとすごく不器用なので、デジタル特有のコマンドZ(戻るボタン)がないと不安で(笑)。でも、アナログの質感にはずっと憧れがあるので、テクスチャーを工夫してアナログ風に見せています。

最近、大阪で個展を開催した際にアナログ制作にも挑戦してみたのですが、やってみたら意外と描きやすさや発見があって。これからは少しずつ、アナログの作品も増やしていけたらいいなと思っています。

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白黒の「ペン画」へのこだわりはありますか?

つのさめ – 個人的なこだわりはそこまでありません。昔は色を使って描くことも多かったのですが、最近はとにかく「ペン画」が楽しくて。タイミングがあれば、カラフルな絵もどんどん描いていきたいです。

そうなのですね…!つのさめさんの作品の中の、言葉に出来ない不穏な世界観は、「ペン画」との相性がすごく良いとも感じたので、ちょっと意外でした。

つのさめ – それもあると思います。実際、「ぺン画」を描いてからの方が、人に見てもらえる機会が増えて、反応もよかったんです。やっぱり反応があると嬉しいので、それでついつい「ペン画」を描いちゃうみたいなとこもありますね(笑)。流されすぎな部分はよくないかも知れませんが…。

「無心になれる」ハッチングの時間

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制作の中で、一番「楽しい」と感じる瞬間はどこですか?

つのさめ – 仕上げの段階で「ハッチング(細かい線を重ねて影をつける技法)」をしているときですね。ここはもう、無心で黙々と手を動かすだけなので、すごく楽しいです。

逆に、構成を考えたり煮詰めたりする段階は、正直かなり苦しいです(笑)。だからこそ、何も考えずに線を引き続ける作業の時間が、自分にとっては癒やしなのかもしれません。

SNSでは「クロッキー」という言葉を添えて投稿されていますが、あの緻密な背景もクロッキーのスピード感で描かれているのでしょうか?

つのさめ – あ、あれは完全に「名残り」なんです!最初は練習として短い時間で描くクロッキーを上げていたんですけど、だんだん描き込みが増えていって、今は全然クロッキーじゃない(笑)。でも、フォロワーの皆さんもその呼び方で覚えてくださっているので、まあいいか、と思ってそのまま使い続けています。

そうだったのですね!謎がひとつ解けました…!笑

後編では、「わからない」もの、「情緒が読めない」ものへの興味のルーツ、そして心底ハマったという「大阪万博」の話、そしてこれからの展望を深掘りしていきます。お楽しみに。

EDIT: Ryo Kobayashi

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