電車やバスの電光掲示板、テレビのモニター、スマートフォンの画面など目を凝らすとそこには無数の点”ピクセル”が存在する。ピクセルとはデジタル画像を構成する色情報を持った最小単位のことだ。世界に「デジタル」が生まれ、同時に「ピクセル」も生まれた。Yosca Maedaはそんなピクセルの世界を自在に操る注目のアーティストだ。
ミュージシャン、教員からピクセルアーティストへ
初めまして!本日はよろしくお願いいたします。
Yosca Maeda:よろしくお願いします。Yosca Maedaです。2020年からはじめはMaeという名前で制作活動をスタートしました。

アーティストになる前は小学校の教員をなさっていたと伺いました。
Yosca Maeda:そうなんです。そもそもは音楽に携わる仕事がしたい、ということがきっかけで。ただ音楽系の専門学校を卒業したあとの見通しが立っていなかったので、教員の資格を取得し4年半ほど教員をしていました。当時は自身の音楽活動と並行して仕事をしようと考えていたんです。すごくやりがいがあったのですがあまりに忙しく、音楽活動ができない状況が続いてしまって。自分が初めて担任を受け持った生徒たちが6年生で卒業するのを区切りに退職する決意をしました。
音楽活動からピクセルアーティストへと転換したきっかけは?
Yosca Maeda:自身の音楽活動のアートワークを作るためにピクセルアートを描いたのが一番最初でした。そのままコンテストに応募したり、SNSのアカウントを作って、みんなに作ったものを見てもらおうと思ったらピクセルアートの依頼が来たり…。はじめの頃は、この絵を描き上げたらそろそろ就活しようかな、みたいな状態を繰り返していたんですけど、だんだん描いた作品の数も増え、応援してくださる方も少しずつ増えて。もしかしたら、自分がやりたい表現はこの中にあるのかもしれない、という風に思い始めたんです。
一つひとつのピクセルを、確かめるように色を置いていくーーーピクセルアートは自分自身を見つめる鏡

様々な表現方法がある中で、なぜピクセルアートだったのでしょうか?
Yosca Maeda:本格的にアーティスト活動をしていくなかで、世の中は新型コロナウイルスの影響で疲弊していました。それに加えて祖父が他界し、社会との接続点を見失って悲観的な気分になっていました。自分の内面的な部分を見つめ直しているうちに、自分がどんなもので構成されているのか考えるようになったんです。ピクセルにはひとつひとつ明確な境界があって、それを確かめながらピースをはめていくパズルみたいな感覚が好きでした。操作はシンプルなのに、出来上がる作品には自分の感情がにじむ感じがあって。そのバランスがそのときの自分に合っていたんだと思います。
パズルをはめていくみたいに、一つひとつのピクセルを、確かめるように色を置いていく。自分で色の組み合わせを考えざるを得ないので、記憶の中にある大事な景色や自分を構成するものを見つめ直すことができる。それを具現化し自分のアイデンティティーを確かめる作業は、禅問答のように感じるときもあります。
単なる平面作品ではなくGIFのようなループアニメーションに挑戦されている理由はありますか?

Yosca Maeda:僕にとって描くという行為は、自分の中に残っている断片的なイメージを形にすることです。そこでは時間がゆっくりと、あるいは何度も繰り返すように流れている。その感覚を映すために、ループアニメーションを制作しています。
たまに、僕の作品を見てどこか懐かしい景色だと言う方がいます。実際にはまったく同じモチーフに触れてきたわけではないけれど、その場所がピクセルアートに変換されることによって、どの場所でもない、私たちの中にだけある景色につながるような気がするんです。アーティスト名でもあるYoscaには、日本語の「よすが」という意味も含まれています。作品を見てくれた人がちょっとでも心の拠り所にしたくなるような作品を作れたらいいな、と思っています。
制作と生活。日常の中に散りばめられた、作品のかけら
制作以外の時間はどのように過ごしていますか?
Yosca Maeda:展示や映画を観ることがあります。最近ではヴィム・ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」を見ました。それからハリーポッターシリーズも大好きです。劇中に出てくる写真は、魔法によってループアニメーションのように動いているんです。自分自身が作っているループ作品の中でも、ずっと世界が続いている、ある意味魔法的なイメージとも言えるかもしれないです。それから、シーンとシーンの間をつなぐインサート映像なんかをみるのも好きです。

視点が細かすぎます…(笑)!
Yosca Maeda:本筋ではないところで心奪われてしまうことが多いかもしれないです(笑)。それから散歩するのも好きです。散歩していると、ふと気になる景色と遭遇したり、いいフレーズを思いついたり。僕の作品は、日常にある何気ない景色をイメージして作ることが多いので写真やメモで記録することもあります。
どんなことを記録されているのか気になります(笑)
Yosca Maeda:シェアできるようにこだわった写真を撮ると、どうしても道具みたいになっちゃう感じがしてしまうので、最近はあえて雑に撮っています。ブレていたり、人間味が残っていたりする写真の方が、あとから見返した時に面白いなと思っています。撮るものは例えば建物の隙間、影の形、空など、散歩していたらふと目にするような日々の色々です。
鑑賞者、そして自分自身と作品を通じて対話をすること。冷静な言葉で自身を語るYosca Maedaは制作と生活が点と線でつながっているかのようだ。後編では影響を受けた意外なアーティストからこれからのデジタルアートの向かう先まで、よりパーソナルな部分を深掘りしていく。