【イベントレポート】Kiaf SEOUL2025に行ってきた!韓国アートシーンの最前線へ

K-POPに韓国文学、韓国が発信するカルチャーはことごとく人々の心を掴んで離さない。BAM初の海外レポート、何度も韓国を訪れたことはあるが国内最大級のアートフェア「Kiaf SEOUL」には初めて訪れた。世界から注目される韓国のアートシーンを余すところなくレポートしていこう。

Kiaf SEOULに行ってきた!

GALLERY YEHのブース

ソウル・三成のコンベンションセンター「COEX」で開催されたKiaf SEOULは、2002年から開催された韓国初の国際アートフェアで、国内外の気鋭のアーティストたちの作品を紹介している。2025年は9月3日から7日まで開催され、世界20カ国以上から175のギャラリーが参加した。ソウルは世界のアート市場においても最も活気に満ちたアジア都市の一つでもあり、Kiaf SEOULはグローバルプラットフォームとしての役割を担っている。
まず初めに驚いたのは、その来場者数の多さだ。初日のプレヴューデー*1に伺ったのだが、老若男女ありとあらゆる人が訪れていた。
*1 :イベントに先行して入場できる日のことで、一般的には初日に設定されることが多い。Kiaf SEOULでは招待客及び一般チケットよりも高いチケットを購入して入場できる。
同時に開催されたFRIEZE SEOULと合わせて、韓国の現代アートシーンへの注目度が伺える。

三つのホールにまたがって開催されたKiaf SEOULではギャラリーによる展示と、ピックアップされたアーティストたちによるスペシャルエキシビション、カフェやショップ、VIPラウンジと一日中楽しむことができるラインナップだった。

SMALL GOODのブース。一休みする人々で大賑わい。

早速、韓国のローカルコーヒーロースター「SMALL GOOD」のアイスアメリカーノ片手に「Gallery MEME」(ソウル)のブースに立ち寄った。

チョ・ウンジー不思議に満ちた気鋭のアーティスト

Gallery MEMEはギャラリーが多く位置する仁寺洞エリアに2015年に開館し、現代美術の境界に挑戦する次世代新進作家たちを発掘・支援し、中堅作家や海外作家と合わせて展示している。時代の新しい感覚を覚醒させて拡張していく文化伝達者(ミーム)としての役割を果たすという意味が込められている。

Jo Eunji 「협동 연구 시리즈(直訳:共同研究シリーズ)」2025

インスタレーション形式で絵画を展示するチョ・ウンジ(Jo Eunji)は1999年生まれでソウルをベースに活動しているアーティストだ。韓国国内で活躍する若手アーティストの作品が鑑賞できるのもアートフェアの魅力だろう。

Jo Eunji「닮음에 대한 연구(直訳:類似の研究)」2024

絵画作品を立体作品として表現したり、謎めいたモチーフや図式を多用する独特の世界観のチョの作品には、断片的な記憶を繋ぎ合わせたショートストーリーのよう。今年のKiaf Highlight 10にも選ばれた注目の作家の一人だ。

韓国の伝統をレペゼンする

続いて訪れたのは「Gallery Vit」(ソウル)だ。Vitは暗闇から光へと生命の源泉となり、世界中の美術を照らし、深い感動を求めるという願いから2003年にオープンし現在はソウル・鍾路エリアに位置している。さまざまなアートフェアにも参加しており、韓国のアーティストを世界中に発信するギャラリーだ。

Han Manyoung「Reproduction of Time- Beveled Bottle 1」2017

ハン・マンヨン(Han Manyoung)は国家独立後すぐの1946年にソウルで生まれたアーティストだ。激動の時代を生きたハンの作品には現実と非現実が混ざり合って共存する。代表作である「Reproduction of Time」のシリーズは1984年から制作を続けており、ダヴィンチの「モナリザ」やマティスの「ダンス」、ロイ・リキテンシュタイン作品など世界中の名作を作品に散りばめ、時間という概念を解体していく。

Han Manyoung「Reproduction of Time- Beveled Bottle 1」2017

今回展示された作品は、朝鮮時代から使用されてきた清華白磁をリファレンスに制作されている。東洋と西洋、二次元と三次元、過去と現在など異なる要素を一つのキャンバスに表現することで時間と空間を超えた概念を作品に閉じ込めている。

韓国の消費社会への風刺的な作品も

Kiaf SEOULで印象的だったのは、有名ラグジュアリーブランドの商品やアイコンをモチーフとした作品の多さだ。

Sangho Byun「I love my job x 3」2025

2003年にオープンした「Gallery PICI」のブースで展示されたビョン・サンホ(Sangho Byun)の「I love my job x 3」は現代社会における多様な欲望に向き合い、現代人の溢れる欲望とエネルギーを伝えるため、背景は生々しい色彩で構成されている。

Sunyoung Kim「She Who Dances」2025

ソウル・チョンダムドンエリアの「Gallery WE」のブースではキム・ソンヨン(Sunyoung Kim)の「She Who Dances」が展示されていた。まるで転がる玉のように膨れ上がったバッグがモチーフの巨大な彫刻は、鑑賞者が触れると、優しく揺れ出す。人間の持つ不安定さのバランスや、柔軟性を比喩的に体現している。そういえば、会場の人々の持ちものを見れば、バーキンやケリー、そしてシャネルのマトラッセなど高級バッグのオンパレードだった。Kiaf SEOULで彼らの作品を展示することは、韓国経済のひずみに対する風刺であると想像するに容易かった。

大盛況の中幕を閉じたKiaf SEOUL。アートマーケットの最前線を体感した1日となった。

自分でボケて、自分でツッコむ – おほしんたろうが描く1コマ漫画の世界 【後編】

幼い頃から描いていた絵と、学生時代に右も左も分からないまま上がった芸人の舞台。その2つが交わった時。そしてそこに、少しの隠し味が加わった時____。

お笑い芸人、漫画家、イラストレーターなど、多方面に活躍するおほしんたろうの現在のスタイルに至るまでの軌跡、その創作の背景を紐解くインタビューを前後編でお届けします。

お笑いとイラストが混じり合う

学生時代のお笑いのネタではオーソドックスなコントなどをやっていたとのことでしたが、イラストや1コマ漫画がネタに登場するようになったのはいつ頃ですか?

おほしんたろう(以下:おほ) – それはもう事務所に入ってからですね。“芸人”になってからです。 それこそ twitter(現X)とかに漫画をあげたら割と反応がよくて。だったらこういうことやった方がいいのかなと思って、フリップネタとかをやるようになりました。

フリップネタを披露するおほしんたろう

元から絵も描いてたし。

おほ – そうですね。もちろん「フリップネタ」という存在は知っていたんですけど、なぜかそれをやるっていう発想がなくて。

ちょっと不思議ですね。

おほ – ですよね。「やりゃいいやん」 って思うと思うんですけど、こういうのって客観的に見れないというか、意外と本人からしたら分からないじゃないですか。

たしかにそういうのはありますね!

描き過̇ぎ̇な̇い̇という隠し味

1コマ漫画を作る時はどんなイメージで作っていますか?

おほ – 大喜利のお題と答えを自分で用意して出すイメージです。イラストと文字を入れて、イラストで回答するような、自己完結の大喜利です。先に大喜利のお題を考えて、その答えとしてイラストを描くので、いいお題が思いつくと割とスラスラ描けます。

以前別のインタビューで、「半分ぼーっとしながら、半分考えている」状態の時にネタが思い浮かぶとおっしゃってましたが、それは今もそうですか?

おほ – 基本的にはもう「描くぞ!」と思って、そこから考えています。ぼんやりしてる時にたまたま浮かぶこともあるんですけど、 それはラッキー。 やっぱり「考えるぞ!」ってやらないと、なかなか思い浮かばないですね。全然面白いことが浮かばないなみたいな時は、何個か描いて、 うーん、みたいな時間は結構あります。でも、何個か描いてたらノってきたりします。

何か特別に意識してることはありますか?

おほ – 憧れの和田ラジヲさんが、「 絵は描きすぎると上手くなっちゃうんだよ」って言ってて。特にああいった感じのギャグって、絵が上手すぎてもなんか違って、一番いいバランスがあると思うんです。ただ、例えば、いい具合に死んだ目の人を描きたいけど、そういう時ってやっぱりどうしても和田ラジヲさんの絵に寄っていってしまう。それも違うので、自分なりの絵柄で描けるように何とか調整する感じです。

和田ラジヲさん公式X

「お笑いとか漫画とかやってますけど、いかがお過ごしですか?」

そのほかに憧れている人はいますか?

おほ – お笑いやりながら絵とかもやっているっていう意味だと、くっきー!さんとか、天竺鼠の川原さんとかは、ネタも面白いし、絵の方も好きです。すごいなって思います。あとは『サラリーマン山崎シゲル』っていう漫画の田中光さんも好きですね。この人もお笑い芸人であり、漫画家でもあるっていう方で。

例えば今挙げられた方とネタが被らないように気をつけていることとかはありますか? 

おほ –  自分が面白いと思うかどうかが最初の基準です。その上で、「これはやられてるかな?これはあんまりやってないかな」っていう、そこの見極めだけですね。あくまで考えた上で、被っているかどうかを判断しています。

『サラリーマン山崎シゲル』公式X

それこそいろいろな活動をされていますが、ご自身の中で肩書きは何だと思いますか?

おほ –  例えばテレビに出るとして、「ザ・お笑い」みたいな仕事ってあんまりなくて。僕の場合は、早朝の情報番組で芸能ニュースを読み上げる、とか、地元の佐賀の情報番組で天気を読むっていう仕事とか、まあ要所要所にちょっと小ボケを入れたりはしますけど、ベースの中での「お笑い」っていう仕事でもなくって。あんまりこう、「芸人です!」っていうのが若干、「それ言っていいのか?」みたいな感じには思ってるので、「お笑いとか漫画とかをやってます」みたいにふわっとさせることが多いです。「漫画家です。」も、ちょっと言い過ぎかなとか思うんで。「お笑いとか漫画とかやってますけど、いかがお過ごしですか?」みたいな 感じで生きてます(笑)。

 Instagramでの1コマ漫画などすごく話題になっていますが、知名度が上がるにつれて、もしかすると、しがらみとか、例えば受け手の反応がネタに影響したりすることはありますか?これがウケそうだな、とか。

おほ –  あー、いや。やっぱり出してみるまでは全然わからないですね。

そういうものなんですね。

おほ – 自分的に、「あ、これ面白いぞ」と思っても、蓋開けてみたら全然伸びないことも多いですし。分かりやすいネタの方が反応多いかな?くらいはありますけど、でもやっぱり どれが評判いいかとかは全くわからない。出してみて毎回、「 へー!?」みたいな感じです。 

反応とかはやっぱり気になるものですか?

おほ – そうですね。やっぱり「いいね」がたくさんつくと嬉しいですよね。ただそこがネタづくりにおいて、自分の中のテンションと一致するか?って言ったら全然そんなことはないです。

1コマ漫画だとかなりの制約があると思いますが、1コマで落としきるコツや意識していることはありますか?

おほ – そうですね…。 落ちてないやつも好きなんで、それがややこしいんですよ。ちゃんと落ちてるやつも勿論いいんですけど、 やっぱり『ファミ通』の時代から、「なんだ。これ?」みたいな、よくわかんないやつが好きっていうのがずっとあるので。なので、落とすコツっていうとわかんないですけど、落ちなくてもいいかなとは思っています。

なるほど。なんか空気感というか、余白が残る感じの。

おほ –  そうですね。受け手側に突っ込んでもらうくらいの。ただ、やっぱり落ちてるやつの方がウケはいいですよ(笑)。

あ、それはやっぱそうなんですね。

おほ –  そうですね。やっぱりちゃんと落ちてるんで。そりゃそうだなっていう。

自分でボケて、自分でツッコむ – おほしんたろうが描く1コマ漫画の世界 【前編】

幼い頃から描いていた絵と、学生時代に右も左も分からないまま上がった芸人の舞台。その2つが交わった時。そしてそこに、少しの隠し味が加わった時____。

お笑い芸人、漫画家、イラストレーターなど、多方面に活躍するおほしんたろうの現在のスタイルに至るまでの軌跡、その創作の背景を紐解くインタビューを前後編でお届けします。

幼少期の代表作『変な人』

初めて絵を描いた時のことを覚えていますか?

おほしんたろう(以下:おほ) – 幼稚園くらいの頃から、チラシの裏とかに絵を描いていたみたいです。ウルトラマンとか、怪獣とか、そういうのが好きで描いていましたね。

幼少期に描いたイラスト。既にかなりシュール…

漫画を描き始めたのはいつ頃ですか?

おほ – それも小学生の時です。たしか学校内のクラブ活動みたいなもので描き始めました。その時には4コマ漫画とかギャグっぽいものを既に描いていた気がします。

オリジナル作品として描かれていた?

おほ – そうですね。元々はどこかで見たやつの真似事だったりしたとは思うんすけど、当時、「変な人」っていうタイトルの漫画を描いていました(笑)。

「変な人」!

おほ – それが代表作です。内容は本当にしょうもなくて、なんかもう、ハゲてるんですよ。変な人が。波平さんみたいな。当時はハゲが変だと思ってたんですよね。 今はもちろんそんなこと思わないですけど、当時は90年代的な価値観でやっていて。それこそ小学生が好きそうな、高いところから落ちちゃうとか、鳥に連れて行かれるとか、そういうやつ。もうほんとにギャグにもなっていないような感じだったと思います(笑)。

「変な人」原画

『月刊コロコロコミック』のような。

おほ – そうですそうです(笑)。

お笑いについても幼い頃から好きだったのですか?

おほ – あまりお笑いの番組とかを観ない家庭だったんですよ。ダメとは言われないけど、あんまり観ない方がいい?みたいな空気というか。だから中学生の時もあまり観てなかったんですけど、「オンエアバトル」とかが流行りだして、おぎやはぎさんのネタをたまたま観たんです。それがすごく面白くて。そこで一気に興味が湧きました。

“シュールな笑い”の原体験

いわゆる王道のギャグ漫画から、現在の作風に至ったきっかけはありますか?

おほ – たまたま中学の時に『ファミ通』を読んで、それがめっちゃ面白くて。 シュールとか不条理っていう立ち位置だっていうことも分からないまま、「なんだこれ!?」みたいな。夢中になって読んでいたんですけど、次第に自分も参加してみたいと思うようになって。投稿コーナー、採用されたら掲載してもらえるコーナーがあって、自分でも投稿するようになったんです。週に1回発売されるやつに載っているかどうかっていうのが本当に楽しみで、それが青春でした。それが多分、今に繋がる感じの漫画を描き始めたきっかけです。

『ファミ通』投稿時代。当時は塩味電気というペンネームで活動していた。
2枚目の画像では、憧れていたという、とがわKさんの隣だ!

人前でやるっていうことに関しては、お笑いよりも漫画の方が先だったんですね。芸人としての活動はどのようにはじまったのですか?

おほ – 大学時代にコントをやったのが最初ですね。

やっぱりおぎやはぎさんとか、いわゆるちょっとシュールなネタですか?

おほ – いや、最初はもう全然。オーソドックスな感じだったと思います。本当に何もわからなくて、なんかそれっぽいものをやるしかないというか。見よう見まねでやってましたね。でも好きなのはやっぱり、ちょっと王道から外してあるようなものが好きだったので、おのずとそうなっていったというか、結局自分の気持ちが乗ってやれる方向のネタにはなっていったと思います。

謎のバイトをした学生時代、新卒から芸人へ!

大学時代は何かアルバイトをされていましたか?

おほ – 病院の検査で、検尿弁とか色々あるじゃないですか。血液検査とかで採取された、検体って言うんですけど、その検体を検査するための培養に使う寒天のシャーレみたいなのがあって、丸いやつ。どんな菌がいるか調べるんですよ。例えば尿だったら尿をそこに塗り広げる。っていうバイトをしてました(笑)。

めちゃくちゃシュール!そんなバイトがあるんですね(笑)。

おほ – 僕も知らなかったです(笑)。最初は抵抗あるんですけど、単純作業ですぐ慣れちゃいました。白衣着て手袋して、淡々と塗っていくっていう(笑)。

九州大学のご出身ですけど、将来についてのイメージとか、芸人を目指す決め手は何でしたか?

おほ – 本当に何も考えていなかったです。サークルとかは楽しかったですけど、就職とかは全く考えずに過ごしてました。会社に入ってうまくやっていける自信もないし、働きたくもなかったですね。

芸人になろうとは思わなかったんですか?

おほ – なりたいけど、大阪や東京に行く度胸がなくて。大変そうじゃないですか?行ったこともなかったですし。ただそのタイミングで、今いる事務所が九州に事務所を作るっていう話が出てきたんです。地元のアマチュア芸人をスカウトして、事務所に入れますよ、みたいな番組に参加して、今に至ります。

『ファミ通』、おぎやはぎ、ナゾのバイト…。
育まれてきた“シュールさ”への感性は、交わることのなかった別々の領域___お笑いとイラスト___を、本人も気付かぬうちに曖昧にしていった。そしてその2つが明確にブレンドされたのは必然だったのかもしれない。後編では、異なる領域の混ざり合った独自の“おほしんたろうスタイル”を紐解いていく。

今週読みたいアート。アートな雑誌 Vol.2

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

ちょーっと右肩下がりな出版業界において、「MEN’S CLUB」「美人百花」などなど、続々とレジェンド雑誌が廃刊していく。隆盛を極めた“夢を届ける”メディアはかつての勢いは陰る。しかしながら雑誌にしか表現し得ない世界ってものがあるのだ。ということで、前編に続き後編では、「アート」に触れられる雑誌にフォーカス。パラパラっとめくってみて、まだ見ぬ世界や華麗なクリエイティブにワクワクしてみては。

◯『Epoch review』Francesca Gavin、Leonard Vernhet・編(Epoch review)

フランス発のこのインディペンデント・マガジンは「現在と過去を対話させる」ことを目的として不定期刊行中。クリエイティブディレクターとして誌面を作成するのは、Leonard Vernhetだ。〈シャネル〉や〈シュプリーム〉や〈エルメス〉とのコラボレーション、〈オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー〉の創業者・ラムダン・トゥアミとの山岳をテーマにした雑誌『USELESS FIGHTERS』でも活躍する、第一線のアート・ディレクターだ。そんな彼が力を入れるこの本は、人類学からファッション、科学から芸術、考古学から音楽まで、様々な分野の融合を行っている。アーティスト、思想家、歴史家、人類学者など、多くの職種の人々が参加し、扱うテーマも「メタモルフォーゼ」「予言」など抽象的かつ多岐にわたる。広げまくった風呂敷をちゃーんと回収する誌面には圧倒されるし、時代の先端をいく刺激的なクリエイティブに出合ってみてほしい。

◯『Provoke 』多木浩二、中平卓馬、高梨豊、岡田隆彦、森山大道・編(二手舎)

雑誌、とひとくちにいってもZINEや同人誌まで含めるとどれほどの数がこの世にはあるだろう。そんな中でも、“伝説の雑誌”は刊行後もいつまでも語り継がれるものだ。こちら、美術評論家の多木浩二と写真家の中平卓馬によって発案され、詩人の岡田隆彦と写真家の高梨豊が加わり創刊された同人誌。1968年の刊行後、たったの3刊しか続かなかったにもかかわらず、その影響力は絶大。「思想のための挑発的資料」として書かれた内容はもちろん、デザイン面でも、先日予告されたフランク・オーシャンのニューアルバムのジャケットが、この「Provoke」を参照しているとも話題だった。復刊プロジェクトもすすみ、手に入りやすい今こそ、ぜひ読んでみて。

今週読みたいアート。アートな雑誌 Vol.1

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

本格的な暑さが到来し始めた今日この頃。休日は家で涼みながら、優雅な1日を。というか、あまりの酷暑に家にいるしかない。そんなときは雑誌をパラパラっとめくってみて、まだ見ぬ世界や華麗なクリエイティブにワクワクしてみるのはどうだろう。「アート」に触れられる、まだまだ面白い雑誌が世界にはいっぱいあるのだ。

◯『Voice of photography』Voice of photography・編(影言社)

2011年に創刊、台湾発の写真にフォーカスしたアートマガジン。「暴力」「科学資本主義」「AI」など、ニッチでハードコアな話題からトレンドの事象まで、毎号異なるテーマを展開。国内外の写真家、アーティスト、映像作家を軸に、対談やインタビュー、創作にまつわる裏事情や文化的背景、歴史などアカデミックな内容も。写真史の論考、コラム、レビューなど、写真の批評に関する側面も強い。最新号は「宣教師」の図像イメージを探った第36号。台湾を起点にアジアの写真文化を俯瞰する壮大なプロジェクトだ。

◯『So young magazine』So young magazine・編(SO YOUNG)

こちらの雑誌がフォーカスするのは音楽。ロンドン発のDIY音楽マガジンだ。音楽といっても注目するのは新進気鋭のミュージシャン&イラストレーター。フォンテインズD.C.やウェット・レッグなど魅力あふれるルーキーたちのイラストを交え、今のインディー・シーンのリアルな姿を紹介し、世界から注目を集めている。ここ日本でも2022年に特別号が刊行され、昨年末には第2号も刊行。現在もライブやパーティーを主催するなど、その活動の幅を広げながら精力的に活動中。最新号はカーディナルズ、スクワッドらを特集した第56号。是非ともチェックしてみて欲しい!

福岡アートブックフェア「Pages」に行ってきた!〜前編〜

福岡アートブックフェアとは

福岡アートブックフェア「Pages」は今年で2回目を迎える。なぜ福岡?と思われる方も多いかもしれないが、筆者が期間限定で福岡に住んでいるからだ。福岡にはこれまでアートブックを中心にしたブックフェアが存在しておらず、2024年に初めてのアートブックフェア(通称FABF)が開催された。

発起人は福岡カルチャーの中で欠かせない存在の「本屋青旗」の店主でもある川﨑雄平さんだ。本屋青旗は国内外のあらゆるアートブックや雑誌、写真集などを取り扱う店で、定期的にアーティストの個展やイベントを開催している。

そんな川﨑さんを中心に東京アートブックフェア(TABF)のディレクターらが協力しあって開催したのが福岡アートブックフェアなのである!

太宰府天満宮の気持ちのいい日差しの中開催された

2025年4月18日から4月20日までの三日間、太宰府天満宮にて開催され、筆者は初めて参加したのだが太宰府天満宮という場所柄からか、子どもから大人・お年寄りまで多くの方々が来場しており、東京アートブックフェアよりも幅広い人たちにアクセスしているのが印象的だった。

大きく、個人やグループなどで参加しているブースが集まっている余香殿(よかでん)と、海外の出版社や国内のアートブック系の本屋・出版社などが出展している文書館(ぶんしょかん)、飲食店や花屋などが集まる屋外のYummy Areaの三箇所に分かれており、太宰府天満宮の中を散歩するようにアートブックフェアを楽しむことができるのも魅力的だ。

また、会期に合わせて様々なイベントやトークセッション・ワークショップが行われており、毎日行っても楽しめるようなアートブックフェアになっている。

それでは、特に印象に残ったブースを紹介していこう!

Ghi-Cha 汽車

お隣の国、韓国から参加している女性四人組のアーティストコレクティブ。そういえば福岡という場所柄か、韓国からの出展者や参加者が多いことも印象的だった。東京より近いし。このGhi-Chaも1回目の開催に引き続き2回目の参加だという。グループ名のGhi-Chaは、本を開き、読み、見るという行為が、汽車に乗り、目的地に到着する旅路に似ているという点から名付けられた。

Ghi-Chaのブース。色とりどりの本が並ぶ。

メンバーの1人であるド・ユナさんがディレクション・編集している「TRANSLATED BOOKMARKS」を購入した。本業はグラフィックデザイナーだというユナさん。本の装丁やデザインもクラフト感があってかわいい。かわいい包みとはウラハラに韓国語と日本語のバイリンガルブックとなっており(ありがたい…!)内容もしっかりと読み応えのある本になっている。ユナさんの友人を中心に匿名の八人を対象にした、メディアやコンテンツとの関わり方をとらえたインタビュー形式の本になっていて、日本のアニメや韓ドラなども多く登場してきて、するする読めてしまう。(翻訳もユナさんがしたらしい!)会社員をしている人からアーティストまで幅広いカテゴリーの友人たちにインタビューしており、コンテンツを作っている人たちにぜひ読んでもらいたい一冊だ。

「b/o/o/k/e/u/b/o/o/k/e/u」のブックスワップ

韓国からの出展者で面白い取り組みをしている方々がもう1組。

「b/o/o/k/e/u/b/o/o/k/e/u」(ブクブク)はソウルを拠点に活動している移動式ライブラリープロジェクト(?!)だ。なんのこっちゃ。ソウルでは様々な場所にゲリラ的に出没し、本の交換会を行ったり、自分たちが制作したZINEなどを販売しているという。アートスペースや公園などでの開催を経て、福岡アートブックフェアに出展していた。福岡では、事前に彼らのインスタグラム上で募った希望者から本を送付してもらい、福岡へ。そして福岡の会場で並べられた本たちと日本の参加者が持ち寄った本を交換し、交換が成立した提供者にそのまま送付するという。

b/o/o/k/e/u/b/o/o/k/e/uのイベントを通じて、全く見ず知らずの2人がつながるというロマンティックな仕組みだ。

ブックスワップは日本ではあまり馴染みがないが、海外のアートブックフェアなどで盛んに行われており、交換によって経済を動かしていく面白い取り組みの一つだ。アーティストや作家などが、自分たちの作った本やZINEを宣伝する目的に使うことも。思わぬところでバイブスの合う作家に出くわしたり、欲しかった本をちょっぴりおまけして手に入れることができたりもする。

実際福岡アートブックフェアに行って思ったことは、時間の流れがゆったりしているということだ。東京アートブックフェアでは味わうことができない参加者たちの“交流の場”を作り、その中の化学反応を楽しんでほしい、とディレクターの東直子さん(TABFのプロジェクトマネージャーでもある!)も語っている*1。作家や本の作り手からじっくりと本の説明を受けたり、ゆったりご飯を楽しんだり、畳の部屋でごろごろくつろいだり(?)参加者それぞれに楽しみ方が用意されている福岡アートブックフェア。後編ではブース紹介の続きと、Yummy Areaのレポートも!ぜひ続けて読んでみてほしい。

*1:https://2024.fukuokaartbookfair.com/interviews/2421/ より引用

【インタビュー】絵で食べていくということ – GODTAILの歩んだ軌跡 – 後編

物心ついた時から絵を描いていたというGODTAIL。株式会社GODTAILを立ち上げ、今や活躍の場は、デザイン・演出・編集・広告・筐体デザインにも及び、存在感を放っている。『MARVEL/DC公式アーティスト』 も務める彼のこれまでの軌跡、業界での20年間を振り返るインタビューを前後編でお届け。

B – 会社からの独立の決め手を教えてください。

GODTAIL – 既にほとんど自分でやっているような感じで、ノウハウもあったし、色々やってみたいっていう感覚でしたね。今までの会社でのお付き合いもあったし、自信もあった。だからとりあえず独立してやってみて、ダメでもどこかしらの会社には入れるだろうと思っていました。

B – 趣味として絵を描き始めたのが、仕事になっていくにあたって、その境界線というか、意識の変化はありましたか?

GODTAIL – もちろん趣味の絵と仕事の絵は違うなっていうのもあったし、売れる構造っていうのかな。本当に実力があって売れる人ももちろん一握りいるとは思うんですけど、それ以外にもあると思っていて、例えば大きな企業さんに採用を頂くだとか、要は世間に知られないと、流行らないといけないんですよ、食べていく為には。上手かろうが、そうでなかろうが、まずはそこを抑える。その上で、オリジナルのものとか、誰もやっていないけど見たことあるようなものを狙って作っていました。自分のオリジナルキャラクターを、いきなりバーンって出したって売れないわけですよ。誰も知らないから。台本なりCMなり、結局要は仕組みがあるわけです。流行らせる仕組み、プロセスというか。もちろん突発的に、これいいなって流行ることもあるとは思います。ただ、今売れてるものって何かしら仕掛けがある。絶対的な誰かの力だったり大企業とかの力が発生している。それが良い悪いとかではなくて、そういう面はやっぱりあります。

B – ある程度流れだったりとか、業界の雰囲気を汲みつつというか。

GODTAIL – あくまで結果を出していかないといけないと思っていますね。そういう流れを気にしないで、一筋通してずっと自分の絵柄でやってる方ももちろんいらっしゃいますけど、僕はそういう生き方じゃなかった。

B – 逆に言うと、色々な描き方をするには、自分の手札というか、技術がないとその流れにうまく乗っていけないですよね。

GODTAIL – 描けているのかは分からないですけど、生きていくために一生懸命やっているっていう感じですね。天才じゃないから。

B – 天才ではない?

GODTAIL – ないない、全然。人よりやらないといけないタイプだからこそ、どうしたら生き残れるかを常に考えています。今も会社をやっているから、社員を食わさなきゃいけない。

B – 例えば自分のエゴというか、絵を描いていたら、こういうのを認めてほしいっていうのもあるじゃないですか。

GODTAIL – 自分のオリジナルで売れたいのはもちろんありますし、もちろんね、当てたいですよ。ただ、最近の人はやっぱり上手いし、達者だなとか思うこともあるから。

B – その考えに至るまでに、例えば具体的に大きな挫折があったのですか?ある意味自分が天才じゃないと諦めたというか。

GODTAIL – 諦めてないのは諦めてないんだけど、やっぱり、何だろうな。一線があるというか、ちょっと雰囲気が違う。一個何か違うんですよ。感覚的なものなんですけど。

B – でも、それが分かるっていうことは、ある程度近いレベルにいないと、それすら理解できない気もします。

GODTAIL – だからやり続けないとなって感じです。時代は変わるので、それに対応していかないといけない。上手い子なんかどんどん出てくるし。でも、じゃあそれで諦めるのかと言ったら、そうじゃないけどね。自分なりに対応して、合わせていかないと。

B – どうしたら絵は上手くなりますか?

GODTAIL – どうなんだろう。まだ全然だけど、向上心では終わりがないですね。ものづくりは終わりがないっていうのがありますし、どんどん新しい子たちが出てきて、刺激がある。何歳下でも、すごいなって子はたくさんいますから。だからずっと描いてますよ。旅行に行った時とか以外は基本的にずっと描いてます。何かしら仕事を頂けているし、自分のオリジナルキャラクターだったりイラストも描きたいし。描いていない日が無い。

B – しんどくなったり、行き詰まることはありますか?

GODTAIL – もうそれがナチュラルになっているから、描いている方が逆に楽なんです。慣れちゃってるというか。

B – Instagramでの作品投稿もかなりの更新頻度ですよね。スピードとかは意識されているんですか?

GODTAIL – というよりは、描いたものをアップしているだけですね。僕の先輩も54歳ぐらいだけど毎日アップしてるし、それが普通くらいの感覚ですね。

B – 基準がすごく高いというか。

GODTAIL – やっぱり天才じゃないから。

B – それでもここまで長きに渡って、絵を描くことを仕事としてやってこられてるわけじゃないですか。長期的にキャリアを維持する上で、何か意識されてることはありますか?

GODTAIL – チャレンジ精神かな。向上心を持っていろいろやっていかないといけない仕事だと思うんです。どんどん進化していく業界じゃないですか、それこそAIとかもそうですし。

B – 参考にしていたり、影響を受けた人はいますか?

GODTAIL – たくさんいますよ。子供の頃は『ドラゴンボール』が好きで、鳥山明先生とか、固定はされていたんですけど、この年になるにつれて、それこそ今の若手のイラストレーターの方もそうだし、身近なイラストレーターの方だったり無名なイラストレーターの方でも、上手い人は上手いから。視野が広くなったというか、誰にでもいいところはあるから、そこから盗める要素はありますね。

B – GODTAILさんにとって、良い絵ってなんですか?

GODTAIL – 良い絵か。「絵が描けないです」って言う人いるじゃないですか。正直言って、手を抜かないで真摯に描いてる絵とか、楽しんで描いている絵はいいですよ。「私は描けない」って言うけど、例えばキリンを描く、一生懸命キリンを、5、6時間かけて描いたら、それはすごくいいと思う。絵の基本はそこなんじゃないかな。

B – 確かにそうですね。絵に限らず、ものづくりにおいてはそういうところはありますね。

GODTAIL – もちろん技術が高いとかもありますよ。ただ、それだけじゃない。絵の根本って、描ける、描けないじゃないかな。売れる、売れないももちろんあるし、かっこいい、かっこ悪いとかもあるけど、絵そのもの自体は、もっと奥底にある心の部分というか。商売になるかどうか、商業的かどうかっていうのはまた別の話になってしまうけど、その、心というか、その人がどれだけ一生懸命やったかは、大事だと思います。

B – 最後に、今後の目標とか、今の野心を教えてください。

GODTAIL – 僕もう50歳なんですよ。だから、だいたい一生懸命かけるのがあと10年弱くらいかなと思っているんですけど、そこまでにIPキャラクターを作りたいかな。自分のオリジナルキャラクターを、自分の会社で出したいっていうのはあります。

B – やっぱり限界まで描き続けたいっていうのはあるんですね。

GODTAIL – そうですね。でも、絵描きは誰でも言うと思います。絵描きながら死ぬんじゃないかな。

今週読みたいアート。芸術の舞台裏を描く漫画編 Vol.1

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

梅雨真っ只中のこの季節。風邪もひきやすいし、なかなか外出して楽しむ気分でもないかも。そんなときはお家のなかで読書はいかが。といっても今回紹介するのはアートに関する漫画本。芸術業界の裏側を覗き見たり、作家の葛藤を垣間見たり。きっと創作意欲も湧いてくること間違いなし。

◯『ブルーピリオド』山口つばさ・著(講談社)

主人公は、高校生・矢口八虎(やぐち・やとら)。「受験」という誰もが避けては通れぬ門。それがあの美大受験なら? 美大受験の克明な描写、美術に向き合う者に降りかかる試練の数々。まさかの美術×スポ根⁉︎ 美しくも厳しい美術の世界へ身を投じ、美術に青春を捧げる学生たちを描いた名作だ。自身も東京藝術大学の出身である著者が描く物語は、信念と情熱と、美術を信じる者の感性の瑞々しさに満ちている。

◯『東京ヒゴロ』松本大洋・著(小学館)

フランスでは漫画は「音楽」「文学(詩)」「演劇」「映画」「メディア芸術」と8つの分野に次ぐ「第九の芸術」と呼ばれる。ここ日本でも、文化庁の特別の機関「日本芸術院」にて新分野として「漫画」が選出された。その流れに異論を唱える人は多くないと思う。そんな「漫画」の世界そのものを抉り出した傑作がこちら。作者は『鉄コン筋クリート』『ピンポン』で知られる松本大洋。大手出版社を早期退職した漫画編集者の塩澤は、理想の漫画誌を作るため、自分が信じる漫画家たちを訪ね、執筆を依頼する。ただ“それだけ”の話なのだが、仕事・表現・友情が交差した「創作哲学」があまりに美しすぎる。もはやこれは「描く」ことの美学が詰まった、芸術作品だ!

【インタビュー】絵で食べていくということ – GODTAILの歩んだ軌跡 – 前編

“絵を描く”ことで食っていこうと頑張っている弱冠ハタチの友人が、僕にはいる。

そのひとつのカタチとして現在はアニメーターを志しているようで、そんな彼の動向を通して僕は、アニメ業界をはじめ、様々な「絵」に関する仕事の、特に外からは伺い知れない「お金の話」を興味深く聞いている。少し前、「好きなことで生きていく」というコピーがYouTubeに溢れた時期があった。夢を追うということの本当の意味、生々しい現実感は、キャッチーで耳障りの良いその言葉によって画面から押し出されてしまった。

絵は、夢は、甘くない。

アートとお金の話は折を見てするとして、ともかく「好きなことで生きていく」である。これに、正解や正攻法は、きっと無い。答えは本の中にも、あるいは誰も持ち合わせていないのだろう。ただ、ヒントを得る事は出来る。いや、むしろヒントはどこにでも転がっているのかも知れない。そう、ゴミ箱にだって……。

物心ついた時から絵を描いていたというGODTAIL。株式会社GODTAILを立ち上げ、今や活躍の場は、デザイン・演出・編集・広告・筐体デザインにも及び、存在感を放っている。『MARVEL/DC公式アーティスト』 も務める彼のこれまでの軌跡、業界での20年間を振り返るインタビューを前後編でお届け。

GODTAIL インタビュー前編

B – まず、絵を描き始めたきっかけを教えてください。

GODTAIL – 物心ついた時から描いていたと思います。自分ではあまり覚えてないですけど、幼稚園に入る前から描くのが好きだったみたいですね。

B – それからずっと絵は描き続けていたのですか?

GODTAIL – そうですね。学校の休み時間に描いたりしていました。友達に頼まれて『ドラゴンボール』のキャラクターを描いたり、オリジナル作品も描いたりしていました。

B – ストーリーの創作もされていたんですね。

GODTAIL – 完全に友達のウケ狙いです。だから、黙々とやるというより、絵が上手いやつっていう風に見られていて、友達を変に描いて腐すじゃないですけど、そんなことばっかりやっていました。先生の顔を伸ばして描いて、それで友達を喜ばせたり(笑)。

高校時代の自作漫画

B – 当時は将来の夢とか、何がやりたいとかはあったんですか?

GODTAIL – 絵ではなかった、絵はなかったですね。単なる趣味として描いていました。

B – 大阪芸術大学への進学はどのタイミングで決意されたのですか?

GODTAIL – もともとアルバイトで引っ越しをやっていたので、そのまま就職しようかなと思っていたんですけど、友達に「芸大受けてみたら?」って言われて、旅行がてら試験を受けに行きました(笑)。映像学科なんですけど、別に絵が上手くなくても絵コンテが描ければ受かるみたいに言われていて、漫画は学生時代から描いていたから、それで描いたら受かりましたね。

B – 凄いですね(笑)。大学ではどういったことを学んでいましたか?

GODTAIL – 映像学科なので、映画見るくらいしかしてなかったですね。絵に関して何か教わったとかはないです。今まで通り、ただ単に描いていました。どちらかと言うと発想が命なのかな。オリジナルの発想、ストーリーの展開を頭で考えるとか、そういう学科でしたね。

B – そういった内容を扱う学科だったんですね。当時は将来の展望というか、どんなイメージでしたか?

GODTAIL – 何もない、バイトばかりしてましたよ。ほんとに色々なバイトをしていたので、何かしらでやっていけるとは思ってました。ただ、周りが就活してるっていうので、自分もやってみて、結果的にゲーム会社に就職しました。それも絵を描く側とかキャラクターデザインっていうよりかは、プランナーとしての仕事でしたね。プランナーの中では描ける方だったから、そういうところは狙ってはいました。

B – そこは計算があったんですね。

GODTAIL – ある程度は。新しいキャラクターデザインのイメージとかを伝えたい時とかって、字で書くよりは絵で伝えた方が早いわけじゃないですか。普通はプランナーって絵は描かないけど、「こういうポーズでこういう風に描いてください」とかっていうのを、絵で指示出来た。

B – 絵で食べていきたいとか、直接的に絵を描く仕事をしたいっていう意識はなかったんですか?

GODTAIL – 絵はずっと好きだったし、上手くはなりたかったんですけど、それまではきっかけがなかった。ただ、ゲーム会社で色々なデザイナーの方を見たり、一緒に仕事をしていく上で、そこでようやく意識し始めるというか、絵で食っていきたいなとは思うようになっていったと思います。

B – 具体的にはどんなことから始めましたか?

GODTAIL – デザイナーの方たちが、デッサンとかラフをゴミ箱に捨てるんですよ。ちょうど僕がゴミ当番をやっていたので、それをかき集めて、ホチキスで留めて、自分で教科書みたいにして、それを見ながら練習していました。当時はインターネットなんかないから、本を買うしかない。でも、本買うお金もそんなにないし。

B – 捨ててある物だけど、ある意味全然ゴミではなかったというか。

GODTAIL – うん、そうですね。教科書みたいな。パッと見て、いいなとか、上手いなと思ったやつをかき集めてました。

B – そのあたりから、本格的に絵を描き始めたんですね。

GODTAIL – そうですね。やっぱり絵がいいなぁと思って、仕事しながら毎日描いてました。あとは、仕事の絵とはまた全然違うキャラクターとか、そんなのを描いてたと思います。オリジナルキャラクターとかを描いて、南の道頓堀とかに売りに行くんですよ。今は多分ダメだけど、当時は橋の上でクリエイターがズラーっと座っていて。そのエリアだったりとか、路上売りみたいなことをみんなやっていた時代がありましたね。

B – 凄い光景ですね、見てみたかったです。

GODTAIL – 当時はホームページとかも無いから、手で売ったり現場に行って自分の絵を見せるっていう時代でした。もちろん今はダメだと思いますけど。

B – 贅沢な話ですよね、だって原画っていうことですよね?

GODTAIL – 原画もだし、あとはプリンターを買ってプリントしてとか。でも全然売れないですよ。

B – そういうものなんですね、

GODTAIL – 売れない売れない。だから、キャラクターとかを描いても売れないんだと分かって、いろいろ試行錯誤して、なんとかお金にしたいなと思った時に、クレパスで描いた似顔絵が売れだしたんです。

ひっかけ橋で描いていた似顔絵

B – 学生時代に友達を喜ばせる為に絵を描いていたのと通ずるところがありますね。誰かに喜んでもらう為に描くというか。

GODTAIL – そうかもしれないですね。

B – そうしてゲーム会社を経て、パチンコパチスロ業界に行かれたと思います。具体的にはどんなことをされていましたか?

GODTAIL – 企画からデザインから、全部やっていました。図柄だったり盤面のデザインだとか、印刷方法とかもそこで覚えました。元々映像学科時代に監督みたいなこともやってたんですよ。企画して、撮影して、編集してっていうことを全部やっていたから、まあ、それに近い感覚ですね。写真を企画して、内容を企画して、自分でデザインして、そのキャラクターの図柄を揃えるっていうような物を作っていました。キャラクターの色数も当時は16色とかに限定されていたので、その中で遊んでいました。

B – 遊び心というか。

GODTAIL – やりたいことを混ぜながらやってたわけです。

B – ひとりで最初から最後まで全部やられてるみたいな感じだと思うのですが、相当大変ですよね?

GODTAIL – 大変ですよ、今は無理だと思います。際限ない量だし。楽しいというか苦しかったですね。もう夜中なんて当たり前だし、今だったらもうブラック企業ですよ、休み無いし。寝泊まりするのが当たり前の時代でした。

B – そんな中で、どうして7、8年も続けられたんですか?

GODTAIL – オリジナルを作って、一発当てたかったっていうのがありました。自分の手で当てたいっていう野心はすごくあったし、頑張ってたかな。一発当てれば夢があったような気がした。そういうのもあって、ずっとオリジナルのものを作り続けてましたね。

ゴミ箱に、橋の上に、路上にと、あらゆるところにチャンスを見出してきたGODTAIL。そうした場所を経由しながら、遊びから仕事へと、徐々に活躍の場を移しつつも、根底にあって変わらないのは“人を喜ばせたい”という気持ち。後編では、独立して会社を立ち上げ、今に至るまでの軌跡から、彼にとって「良い絵」とは何なのか、斬り込んだ内容をお届け。

ジョン・カフカ:意外なる文化的ルーツと、イラストの魅力に迫る。【後編】

豊かな色彩感覚と独特な構図、繊細なタッチが織りなす唯一無二の世界観。現代的なイラストレーションの美しさを更新し続ける韓国のアーティスト、ジョン・カフカ。特別インタビューの前編ではミステリアスなイメージとは裏腹に、日本のカルチャーにも造詣深く、お気に入りのブランドや映画など意外な一面も垣間見た。そんな彼の、アーティストとしての日常や創作哲学、これからの展望など、気になることを根掘り葉掘り伺ってみたインタビュー記事の後編です。

「自分の絵が好きな人をがっかりさせたくない」

B – 普段はどんな場所で制作していますか。また、制作の際に大事にしていることはありますか。

John Kafka – 普段は自宅で、iPadで制作をします。でもカフェでやるときもあるし、友達の家に遊びに行ったときにも制作することもあるので、場所を選ばないですね。作品は週に3〜4枚。多いときには週に7枚描くときもありました。 ファンの方と交流し続けたいから、絵をたくさんアップする方だと思います。コツコツと、定期的にたくさん制作することを大事にしています。あとはクラシックなどの音楽があるとより良い仕事ができる気がしています。

普段の制作の様子

B – 休日はどんなことをして過ごしていますか?

John Kafka – 本や映画が好きなので(詳しくは前編に)、散歩しながら映画館や本屋でインスピレーションを得ます。あとは、休みを作って人と会う約束をして話をするようにしています。同じ活動をしている仲間の作家さんが多くなり、自分が知らなかった習慣や見習うべき点を吸収しています。

韓国のお気に入りのお店【Sushi Ki】での写真

B – かなりストイックに制作して仕事に取り組んでいる印象です…! 原動力になっているのは何でしょうか。

John Kafka – やはり読者、鑑賞者ですね。昔は承認欲求から制作に取り組むことも多々あったのですが、そこはもうだいぶ捨てた状態だと思います。今は好きなものを描いて、好きになってもらうことが嬉しいという気持ちが大きいです。自分の絵が好きな人をがっかりさせたくないですね。

B – 取り組む作品で目指したい世界観などはありますか。

John Kafka – 一つのコンセプトで連作をするのが好きなんです。今は宗教的なコンセプトを立てて制作を進行中です。自分の良さをどう表現するか、どう説明するかをより重視していきたいなと思ってもいます。実は、日記的に日常の気分を絵に描いたことがあるのですが、後で歳をとった時に昔の作品を見ながら過去を振り返ることができたら面白いなと思って制作しています。

B – では、そうした作品を目指し制作する上で、心がけていることはありますか?

John Kafka – 好きな人、尊敬するアーティストの影響を受けながらも、あまり影響を受けすぎて似たり寄ったりになりすぎないようにしようと心がけています。ミュージックビデオなどを見て影響を受けることもあるけど、とにかく自分の好きなように表現しようという努力を怠らないようにしています。

ジョン・カフカの目指す未来。

B – 今年(2025年)から、今後挑戦していきたいことなどはありますか。また、今後GAAATと新しい挑戦や共同でやってみたいことなどありますか?

John Kafka – 絵も描き続けますが、短編小説も書きたいです。 絵画家と文章作家を両立させてみたいなと考えています。GAAATさんとは最近のホテルの展示(ザ・スクエアホテル銀座での個展『DECO』)が3月31日まで開催中です。衣料品&アクセサリーコラボの広い範囲の展示になっていて、絵ももちろんあるのですが、実際に衣装を制作して展示しています。コンセプト的なものを絵以外にもっと広げて、見所をたくさん増やして、展示場を絵のコンセプトの世界観で彩れるように目指したいです。

DECO

B – ジョンさんのアーティストとしての夢はありますか。

John Kafka – そうですね。昔思っていたレベルでの夢は叶ったけれど、最終的には絵やメッセージをより多くの人に見てもらいたいですね。自分の夢が誰かの夢になること。誰かに影響を与えられる人になることです。

B – ありがとうございます。最後に、進行中のプロジェクトや、告知したいことなどあれば教えてください。

John Kafka – 韓国ではポップアップストア(日本でも開催計画中)、日本では展示活動と画集が出版されていますので、ぜひチェックをお願いいたします。絵を描いている理由は読者の方がいてこそ、見てくれるだけで嬉しいんです。今日は色々お話を聞いていただきましたが、やはり絵を描く人間として、絵でメッセージを伝え、話をしなければならないとも思っています。これからも頑張りますので、よろしくお願いいたします。本日はありがとうございました!

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