【インタビュー】 感情を込めない。つのさめの描く無機質の美学- 前編

SNSを中心に、緻密なペン画と、どこか捉えどころのないキャラクター「ちえさん」で支持を集めるイラストレーター・漫画家のつのさめ。

一見すると可愛らしく、しかしじっと見つめていると、そこには魚や虫のような「思考の読めない」静かな不気味さが漂っている。

緻密に描き込まれた背景と、極限までシンプルに削ぎ落とされたキャラクター。その鮮やかなコントラストは、いかにして生まれたのか。大阪に構える「シカク」で開催された個展の余韻が残る中、彼女の創作の原点と、「ちえさん」という不思議な存在について話を訊いた。

「ちえさん」って何者!?

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つのさめさんの作品には、象徴的なキャラクターである「ちえさん」が頻繁に登場します。彼、もしくは彼女はどのような経緯で生まれたのでしょうか?

つのさめ – もともとは、私が一番最初に描いたオリジナルの創作漫画に出てきたキャラクターなんです。最初は、パン屋さんかどこかでバイトをしている設定で、三角巾をつけて働いている女の子として描いていました。

でも、落書きを繰り返していくうちに、気付けば最初の設定は薄れて、どんどん曖昧な存在になっていきました。三角巾の「出っ張り」の部分が、いつの間にか髪の毛として定着してしまって(笑)。シルエットとして、三角巾を外したときもこの形だったら面白いな、と思って今の姿になったんです。

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あの特徴的な髪型は、もともと三角巾だったんですね。一つの画面に、ちえさんが何人も登場する作品も印象的です。彼女たちはそれぞれ別人なのでしょうか?

つのさめ – 実は、あまり具体的な設定を作り込んでいるわけではないんです。「画面に同じキャラがいっぱいいたら面白いな」という、すごく素朴な理由で描いています。おじさんになったり赤ちゃんになったりすることもありますね。

私はもともと不思議なものが好きなので、日常的な風景の中に、同じ顔をした存在が複数いるだけで、急に「不思議な空間」になる。その違和感が気に入っています。

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ちえさんの表情には、どこか読めないところがあるというか、愛くるしさの中に、突き放したような不気味さのようなものを感じます。

つのさめ – そう言っていただけると嬉しいです。私自身、創作の中で「情緒」を描くことがあまり好きではないというか……。何を考えているか分からないものが好きなんです。

例えるなら、虫や魚のような感じ。カニやイカなどを頻繁に描くのも、曖昧さや無機質な感覚を描けるからです。言葉にできない、「人間的な感情」が通じないような無機質さに惹かれるんだと思います。私の中では、そうした感覚を表現出来るのが、絵を描くことの魅力です。

トーベ・ヤンソンに見た「コントラスト」の美学

背景の描き込みが非常に緻密な一方で、キャラクターは非常にシンプルですよね。このギャップについては意識されているのでしょうか。

つのさめ – そうですね。キャラクターを際立たせるために意識して描き分けています。影響を受けているのは、『ムーミン』の作者であるトーベ・ヤンソンさんや、水木しげるさんです。

水木しげるさん!確かに、妖怪たちは個性的ですが、背景の自然描写は驚くほど緻密ですね。

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つのさめ – そうなんです。あとエドワード・ゴーリーのペン画にも強く憧れました。背景が緻密で、キャラクターがシンプル。そのバランスが生む、不穏でかっこいい空気感を目指したくて、今のスタイルに辿り着きました。最近の作家さんだと、panpanyaさんや、ネルノダイスキさんの表現からも大きな刺激を受けています。

違っていたらすみませんが、あずまきよひこさんの『よつばと!』からの影響もあるのかなと感じました。

つのさめ – 『よつばと!』も好きですね!キャラクターの線がスッキリしていて。直接的に影響を受けているかは分かりませんが、もしかすると無意識に影響を受けているかも知れません。

らくがきアニメ

作画工程についても伺いたいのですが、アナログのような質感がありつつも、基本的にはデジタルで描かれているとお聞きしました。

つのさめ – はい、基本的にデジタルです。もともとすごく不器用なので、デジタル特有のコマンドZ(戻るボタン)がないと不安で(笑)。でも、アナログの質感にはずっと憧れがあるので、テクスチャーを工夫してアナログ風に見せています。

最近、大阪で個展を開催した際にアナログ制作にも挑戦してみたのですが、やってみたら意外と描きやすさや発見があって。これからは少しずつ、アナログの作品も増やしていけたらいいなと思っています。

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白黒の「ペン画」へのこだわりはありますか?

つのさめ – 個人的なこだわりはそこまでありません。昔は色を使って描くことも多かったのですが、最近はとにかく「ペン画」が楽しくて。タイミングがあれば、カラフルな絵もどんどん描いていきたいです。

そうなのですね…!つのさめさんの作品の中の、言葉に出来ない不穏な世界観は、「ペン画」との相性がすごく良いとも感じたので、ちょっと意外でした。

つのさめ – それもあると思います。実際、「ぺン画」を描いてからの方が、人に見てもらえる機会が増えて、反応もよかったんです。やっぱり反応があると嬉しいので、それでついつい「ペン画」を描いちゃうみたいなとこもありますね(笑)。流されすぎな部分はよくないかも知れませんが…。

「無心になれる」ハッチングの時間

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制作の中で、一番「楽しい」と感じる瞬間はどこですか?

つのさめ – 仕上げの段階で「ハッチング(細かい線を重ねて影をつける技法)」をしているときですね。ここはもう、無心で黙々と手を動かすだけなので、すごく楽しいです。

逆に、構成を考えたり煮詰めたりする段階は、正直かなり苦しいです(笑)。だからこそ、何も考えずに線を引き続ける作業の時間が、自分にとっては癒やしなのかもしれません。

SNSでは「クロッキー」という言葉を添えて投稿されていますが、あの緻密な背景もクロッキーのスピード感で描かれているのでしょうか?

つのさめ – あ、あれは完全に「名残り」なんです!最初は練習として短い時間で描くクロッキーを上げていたんですけど、だんだん描き込みが増えていって、今は全然クロッキーじゃない(笑)。でも、フォロワーの皆さんもその呼び方で覚えてくださっているので、まあいいか、と思ってそのまま使い続けています。

そうだったのですね!謎がひとつ解けました…!笑

後編では、「わからない」もの、「情緒が読めない」ものへの興味のルーツ、そして心底ハマったという「大阪万博」の話、そしてこれからの展望を深掘りしていきます。お楽しみに。

テレビの世界もアートがいっぱい。

「オールドメディア」なんて言葉が流行語にノミネートした今年。
テレビや新聞、雑誌などかつてのエンタメ、報道メディアはインターネットや配信コンテンツ、SNSなどと比べて“オールド”と目されている。ただ、スマホやネットを用いて個人が人それぞれの趣味を楽しめる昨今において、「みんな」に向けてコンテンツを制作する姿勢は“オールド”ながら唯一無二の魅力でもある。それに、NetflixやAmazon Primeで全世界へ配信される日本のバラエティ番組のコンテンツを見てみると、その制作力だって、バカにできないはずだ。

 で、そんなテレビ番組が“みんな”へ届けるコンテンツのなかでも、報道、バラエティ、お笑い、音楽、など様々なジャンルがあるように、アートな内容を堪能できるものがある。本稿では、そんなアートなテレビ番組をご紹介。テレビ離れが叫ばれ久しいが、今一度リモコン(もしくはTVer)片手に、ぜひ一読を(出演者の名前は敬称略)。

ゴールデン帯人気番組から深夜帯のマニアックな放送まで。

「プレバト!!」は2012年からTBS系列で放送(現在、木曜19時〜)されているバラエティ番組。
浜田雅功司会のもと、芸能人による「俳句査定」、「いけばな」、「水彩画」、「消しゴムはんこ」などなど「才能査定ランキング」としてさまざまなジャンルの“才能”の査定を行う。2023年には、「『知的エンターテインメント』ジャンルで、放送の開始から10年以上にわたって多くの人に支持され続けてきた」との理由で、第31回(令和4年度)の橋田賞を受賞している。人気企画は「俳句」。『NHK俳句』などにも出演する俳人、夏井いつき氏による辛口の添削・評価が話題を呼んでいる。藤本敏史、村上健志、森口瑤子、アンミカ、中田喜子、Kis-My-Ft2の横尾渉・千賀健永、千原ジュニア、東国原英夫などなど、豪華出演陣の意外な才能、一面を垣間見れるのが魅力。同企画に出演している梅沢富美男は『句集 一人十色』 (ヨシモトブックス)を出版するなどメディア展開も行う。現在は『プレバト才能アリ展』を全国巡回中。芸能人が創作した才能アリ作品と圧巻のお手本を一挙大公開し、番組ファンはもちろん、作品制作を“自分もやってみよう”と思えるきっかけになるかも。

展覧会公式サイトより引用:https://www.mbs.jp/p-battle/

TOKYO MXで2021年から放送されている「小峠英二のなんて美だ!」。
「初心者でもアートについて簡単に学べる “日本一敷居の低いアートバラエティ番組”」を標榜する同番組はお笑い芸人・小峠英二MCに、軽やかな語り口が魅力の、あらゆる“美”のジャンルへの入り口的存在。その魅力は本格的な出演者と意外な切り口。「日本画」「彫刻」「美大」など美術にまつわるテーマから、「都市デザイン」「日本庭園」「家紋」などややマニアックな話題、「宇宙」「相撲」「数」など、一見すると“美術”にはカウントされない(と勝手に思われている)ような話題まで幅広く丁寧に扱う。『白と黒のとびら』『精霊の箱』の著者で言語学者の川添愛氏、国語辞典編纂者の飯間浩明氏が登場した「ことば」回など本格的な回も。ジェンダー・セクシュアリティ研究を行う岡田玖美子氏&映画監督の今泉力哉氏による「恋愛」回では、王道を逆手に取った演出、観る者の心に響く繊細な描写テクニックを紹介するほか、日本において「恋愛」の価値観がどのような変遷を辿ってきたのかを探る興味深い放送回だった。番組でのメインキャストはアートディレクターの中谷日出と乃木坂46の池田瑛紗。東京藝術大学の美術学部に在学し、今年は個展も開催した池田による勉強熱心なコメントも素敵だ。

番組公式サイトより引用:https://nantebi-da.jp/

長寿番組にもあるんです。

 長年続く名番組として美術の魅力を伝え続けているこちら。
テレビ東京「開運!なんでも鑑定団」はもはや説明不要の伝統的バラエティコンテンツのひとつ。依頼を受けた「お宝」の価値を歴史的・資料的・金銭的に徹底鑑定する番組フォーマットで、1994年から放送中。司会は今田耕司。鑑定士には“骨董通り”の名付け親ともいわれている焼き物・茶道具の専門家中島誠之助、横浜「ブリキのおもちゃ博物館」館長の北原照久、日本画を専門とする安河内眞美など、バラエティに富んだその道のプロたちが登場する。2005年放送の「柿右衛門様式の壺」は5億円(!)、近年では今年放送された「中国 宋時代の版本「韓昌黎集」9冊」が3億円の鑑定額がつくなど話題を呼んだ。実家のお宝や謎の貰い物などなど、身の回りの美術品や貴重品をついついさがしてしまいたくなる。鑑定士たちによる分析、歴史の紹介は、美術と値段の関係について改めて考えるきっかけにもなるはずだ。

番組公式サイトより引用:https://www.tv-tokyo.co.jp/kantei/index.html

「日曜美術館」は定番中の定番でありながら、日本のアート系テレビ番組のマスターピース。
NHK Eテレにて“日曜日”に放送中。芸能人ゲストによる美術館めぐりや、今週開催中の注目の展覧会紹介(「アートシーン」)、 こちらの番組、元々は1965年1月1日に特集番組として放送。’76年よりレギュラー放送が開始され、2,500回の放送を超える歴史ある長寿番組。展覧会に呼応した注目の一作、アーティストにフォーカスしたものから、「印象派」「狩野派」など、美術用語を深掘った学びになる回までバラエティに富む。俵万智や千住明、小野正嗣など錚々たる人選が歴代の「キャスター」を務め、現在は守本奈実アナウンサーと、音楽家の坂本美雨によって届けられている。2026年は50周年を迎えるということで、「NHK日曜美術館50年展」が東京藝術大学大学美術館で開催予定だ。セザンヌ、ムンク、葛飾北斎、舟越桂、などなど、同番組を彩ってきた名品の数々が揃う注目の展覧会だ。

展覧会公式サイトより引用:https://nichibiten50.jp/

 NHK Eテレ「ビタゴラスイッチ」「びじゅチューン!」、テレビ東京「新・美の巨人たち」などなど、美術にまつわる番組は各局に用意され、その方向性も多岐にわたる(筆者はかつてNHK総合で放送されていた『迷宮美術館』がお気に入りでした)。偶然面白い番組と出合ったり、好きな番組の時間にチャンネルを合わせて待機したり。YouTubeや配信型サブスクのサジェスト機能とは一味違う、そんなテレビならではの良い意味での“オールド”な味わいは、今こそ必要な栄養素なのかもしれない。仕事や勉強で疲れたら、美術番組でリフレッシュしてみては?

【インタビュー】原田ちあきが語るイラストと日常ー自分っぽさと健やかさと。 – 後編

前編に続いてイラストレーター・アーティストとして独特の色彩とキャラクター、ポエティックなセリフで大活躍する原田ちあきのインタビューをお届けする。

ペンが動かなくなったスランプを「ホラー」が救ってくれた

もし答えづらかったらスルーしていただいて大丈夫なのですが、「この人はちょっとライバルだな」と感じる方はいますか?

原田ちあき – 昔はいっぱいライバル視していた人がいました(笑)。ただそれぞれがそれぞれの好きなことをしていればいいんじゃないか、と思い始めてから他人のことはあまり気にならなくなりました。永遠のライバル、というか憧れでいうと楳図かずお先生です。最終的には楳図さんみたいな元気なおばあちゃん…になりたいです。

過去のインタビューで、「ホラーを書きたい」とおっしゃっていたのを拝見しました。楳図かずおさん(関連記事:楳図かずお、恐怖から大美術へ。)など、影響を受けた作家さんもホラー作品を作っています。原田ちあき版ホラー作品の進捗はいかがですか?

原田ちあき – 実は書籍で出したい!という企画が数年前から持ち上がっているんです。ただちょっと頓挫している状態で。出したい気持ちはすごくあるので、続きをちゃんと書かなければならないと思っています。出版社の皆さまにも本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです…(苦笑)。

それは楽しみです!ホラーをやりたいと思ったきっかけはあるんですか?

原田ちあき – もともと、私のイラストって悪口みたいな言葉を使うことも多かったんです。みんなが心の中で思ってるけど口には出さないようなことを描きたくて。でも、あるタイミングから、特にTwitterでは“レスバトル”する人が増えたり、思ったことを簡単につぶやくようになってきた気がして。そんなタイムラインの中に私のイラストだけがポンと現れたら、逆にものすごく嫌な気持ちになっちゃう人もいるかもしれないな、と感じたんです。

2013年に公開された「あの娘への最後のお願い」

その頃ちょうど私生活もいろいろとぐちゃぐちゃになってしまっていて、体調を崩したり、引っ越しを余儀なくされたり、いろんなことが重なってしまって。コロナの時期も相まってしばらく元気が出ない時期が続き、イラストやエッセイが描けなくなってしまったんです。でも何かを描きたいし、生活も支えなきゃいけない。見てくれている人たちにも絵を届け続けたい。その中で悪口だけじゃダメだな、自分の好きなものをもう一度よく考えてみようと思ったときに、ふとホラーが思いついたんです。

ホームページにこっそり「ホラーっぽいテイストのイラストが描けます」と書いてみたら怪談系YouTuberさんや都市伝説・事件系のYouTuberさんから依頼をいただけるようになって。ホラー作品をつくり出してから、自分にもまだ表現できるものがあるんだと思えてすごく嬉しかったです。

SNSと社会と。みんなが自分だけの仕事をすればいい。

今は誰でも自由に発信できる一方で見られる側になるリスクも大きいと思います。SNSを駆使してきた作家として意識していることはありますか?

原田ちあき – あまりお会いする機会がないのですが、見てくださっている方のことが本当に好きなんです。私のグッズを持ってくれたり、「好き」と言うのってもしかしたらちょっと勇気がいることかもしれない。だからこそ、その人たちが恥ずかしい思いをしないようにしたいんです。
自分が過激なことをツイートして炎上したりしたら、見てくれている人が嫌な気持ちになったり、恥ずかしくなったりするかもしれない。それだけは絶対に嫌で。みんなには凪のような人生、ハッピーな人生を送ってほしいという気持ちでいてもらえるように常に意識しています。

アーティストの中には、SNSで社会的・政治的な発言を積極的にされる方もいらっしゃると思います。原田さんはどのような距離で社会と付き合っていますか?

原田ちあき – 私の場合は遠くからじっと見ている、というのが近いかもしれません。先日も、友達のミュージシャンが政治的なツイートをして大炎上してしまったことがあったんですけど、だからといって「友達をやめよう」とはまったく思わなくて。ミュージシャンだから、イラストレーターだから、とカテゴライズされがちですけど、最近思うのはみんな“自分だけの仕事”をしているということなんですよね。

同じような絵を描いていても、私の仕事は私のもので、その人の仕事はその人のもの。政治的なコメントをすることも含めて、その人のスタイルであり仕事なんだと思っています。

原田ちあきの日常。子育てによって少しずつ成仏していく親への反発

ファッションや見た目にこだわりはありますか?

原田ちあき – 実は、ファッションにはあまり興味がなくて…。服も、髪も、ネイルも、そんなにこだわっていないんです。昔は自分なりにすごく考えていたと思うんですが、実は母が過干渉なタイプで、着るもの全てが決められていて、20代前半くらいで初めて自分で選んだ服を着たときも、「それ似合ってない」「変だね」と言われ続けていて。その反動もあって、反骨精神で派手な色の服を着ていた時期があったんだと思います。

お休みの日には、お子さんと一緒に出かけたりもしますか?

原田ちあき – 最近は増えてきましたね。自分が子どもの頃、親に遊びに連れて行ってもらった記憶があまりなかったので、小さい頃の自分がしてほしかったことを子どもにしてあげたいと思っていて。特別な場所じゃなくてもいいから、1日1回は散歩に行くとか、家の中でも一緒に家事をしたり、遊んだりしています。

それが結果的に、自分の心の健康にもすごく良くて。私のほうが遊んでもらっているような感覚もありますね。

パパの骨を獅子舞に食べさせる

ご両親とのお話をもう少し聞かせてください。

原田ちあき – 昔は本当に仲が悪くて、小学校5年生くらいの時に父がふわっといなくなってしまったんです。そのころの家は空気も悪くて、お父さんと一緒にいるなんて嫌だ!と思っていて。その結果父とは別居することになりました。そこから、母の干渉の対象が私だけになってしまって、ずっとぶつかり合っていました。

最近も喧嘩ばかりで本当に仲が悪かったんですが、孫が生まれてから、母や、父と父のパートナーも遊びに来てくれたりして。ちょっとずつですが仲良くなってきました。

私自身もなんでこんなに親が許せないんだろうという気持ちが、子育てによって少しずつ成仏していくような感覚があります。お互いに距離ができたことで、生きやすさにつながってきました。

最近手がけていることや、これからやってみたいことについてお伺いできればと思います。

原田ちあき – やりたいことは本当にたくさんあります。またエッセイも書きたいですし、ホラーもやりたいです。それから、コロナ以降のスランプの影響もあって、元々の悪口のイラストに完全には戻れていない感覚があるんですが、子どもが幼稚園に行くようになって自分の時間がもう少し取れるようになったら、女の子をもっと細かく描いていきたいなと思っています。
あと、ずっと興味があるのが、自分のイラストと言葉を翻訳して、海外に向けて発信してみることです。以前、台湾や中華圏で翻訳版の本を出していただいたことがあったのですが、今度は英語圏にも出してみたい、いろんな国の人に見てもらいたい、という気持ちがあります。

中国語版作品の数々

現在は、子育てエッセイ漫画の出版のお話をいただいていて、それを無事に出したいなと思っています。そこまではなんとか、寿命が尽きることなく頑張りたいですね(笑)。

原田ちあきは、仕事場からの1時間のインタビューでは収まりきらないほどの夢を語ってくれた。SNS、イラスト、アート、そして子育て。様々なフィールドを耕し続ける原田ちあきの勇姿を、時に笑い、時に涙しながら見守っていきたい。

【連載】Convenience ART Vol.0 – prologue

コンビニの自動ドアが、「アート」への入り口へと繋がっていると言ったら不思議だろうか。

まず、僕たちの考えていることを簡単にご説明。
これは僕たち「BAM」の全体を通して言えることだが、特にこの連載「コンビニエンスアート」では、難しいことはさておき、価値や定義が曖昧となりつつある「アート」を、もっと自由に楽しみながら、より多くの人に「アート」について知って、考えるきっかけになったら素敵だなと。そんな想いが出発点となっている。

AIの登場により、加速化するであろう「アート」を取り巻く混沌とした状況に対して、そしてただでさえ敷居の高い「アート」に対して、僕たちは、もっとどっしりと構えて、楽しみながらアクセス出来ると思う。

急がなくっても「アート」は逃げない。

誰かに取られることもないのだから。

さて、前置きはこの辺にして。
今、この日本において、誰にとっても、最も身近な“お店”って何だろう?
きっと10人中8人くらいは「コンビニ」と答えるんじゃないかと思う。
そして、そんな「コンビニ」に実は「アート」がたくさん隠れていて、しかも売っていると言ったら気になるでしょう?

便利でいつでも身近な存在「コンビニエンスストア」で見つけたたくさんの「アート」を紹介していく連載「コンビニエンスアート」、お楽しみに。

4次元で観る『YONEYAMA MAI EXHIBITION “arc”』

米山舞の個展が、およそ2年ぶりに開催される。

アニメーションの現場で長きに渡り活躍してきた米山は、2018年頃から、本格的にイラストレーターとしてのキャリアをスタートさせた。2019年の初個展「SHE」を皮切りに、2021年の「EGO」(anicoremix gallery)、2023年の個展「EYE」(PARCO MUSEUM TOKYO)と、意図してか、これまで2年おきに個展を開催してきた。
そして2025年、今回の『YONEYAMA MAI EXHIBITION “arc”』である。

それぞれ、青山、原宿、渋谷、銀座といった開催地の変遷を辿って来た訳だが、アニメーター出身であり、そのルーツを重視する彼女が、未だ会場に秋葉原を選ばないのは何故か。
私にはそれが、彼女の特徴のひとつである、アニメーション・イラストレーション・アートと、越境していくアーティスト活動と重なって見える。

今やこの国で、アニメを「オタク文化」と呼ぶ人はいない。むしろ、日常に“ありふれてしまった”アニメは、情報の氾濫する現代において、簡単に消費されてしまいかねない。現に私たち普通の視聴者は、アニメーションが一体どのようにつくられ、どれほどの人が関わり、どれだけの絵が描かれているか知らない。
アニメや漫画における原画の価値が囁かれ始めている昨今の潮流、放送画面からは見えない、画面の奥の影の部分を再評価しようとする気運は、そうした現状に一石を投じている。

そして米山は、その第一線にいる。

「時間」と「連続性」をテーマに据えたと語る今回の個展は、それまでの展示としては初めての試みとして、自主制作した映像を作品として展示・販売している。
そして何より特徴的なのは、会場の空間設計として、外壁・内壁・中央と、3つの異なるレイヤーで構成した点だ。それぞれ、外壁を走る1コマ毎のカット、内壁を飾るのは、大小様々なイラストレーション、そして中央に鎮座する3メートルもの彫刻作品。その背後の巨大スクリーンには、アニメーションが映し出される。

そうした流れの中での鑑賞体験は、ひょっとすると、米山から観た、ある1つのアニメーション作品への視線・思考をなぞり、追体験することに近いのかも知れない。
3つのレイヤーを通して、シームレスに、アニメーション・イラストレーション・アートへと接続されていく流れるような展開は、1つの絵の中で、流れるようなストーリー性を感じさせる米山舞の真骨頂と言える。

昨今の原画への再評価や、米山の言うセル画の価値を認めることは、すなわちアニメーションを取り巻く細分化された職種に目を向けるということに繋がり、ひいては、度々問題になるアニメーターの労働環境・賃金などの問題に光をあてるきっかけになるかも知れない。アニメーションをハイエンドな銀座の街に持ち込んだ『YONEYAMA MAI EXHIBITION “arc”』は、そういった意味でも、非常に重要な意味合いを孕んでいる。

YONEYAMA MAI EXHIBITION “arc”

会期:2025年12月6日~12月28日
会場:銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM
アドレス:東京都中央区銀座6丁目10-1 GINZA SIX 6F
電話:03-3575ー7755
開館時間:11:00~20:00(最終日 ~18:00)
観覧料:無料
公式サイト:https://store.tsite.jp/ginza/event/art/50901-1725021030.html?srsltid=AfmBOooZH2OQWBIFdSqHDGHBGJyACjc9Owt21w-9hOArGwLmIlZlPQ2J

「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」現地レポート – その2

2025年11月1日からの3日間で開催された「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。
Chim↑Pom from Smappa!Groupらがキュレーションを務めたオールナイトでのアートイベントは、東洋一の歓楽街と呼ばれる「歌舞伎町」を舞台に、街のあちらこちらに散らばった会場で、同時多発的に“何か”が起きている。

さて、歌舞伎町で一体何が起きていたのか。

鈴木喜兵衛から続く「歌舞伎町」のダイナミズム

「新宿歌舞伎町能舞台」

会場のひとつである「王城ビル」を後にして向かったのは、「新宿歌舞伎町能舞台」。先日のインタビューにて、Chim↑Pom from Smappa!Groupの卯城竜太さんは次のように語っていた。

「この場所が今後の歌舞伎町の文化活動のアイデンティティになっていくのではと思っています。」

「歓楽街に能舞台があることは、一見特殊に見えるが、文脈としては真っ当で、自然なことなんです。」

「新宿歌舞伎町能舞台」

近隣をラブホテルに囲まれたビルの一角に、「新宿歌舞伎町能舞台」はある。奥まった入り口を、さらに2階へと上がり、ようやく扉が現れる。確かに「普通」ではない。
だが、この場所の歴史は、1941年まで遡ることが出来る。
当時は「淀橋区角筈一丁目北町」という地名であったこの地は、戦時下に街の大部分が焼失。復興に際した町おこしとして、当時の町会長である鈴木喜兵衛が目指したのは、歌舞伎を上演する劇場を中心とした「文化の街」だった。歌舞伎座の誘致を目指し、1947年に今の「歌舞伎町」という名称に至ったのだが、結果的に歌舞伎座の誘致は実現せず、皮肉にも今の「歌舞伎町」という名称だけが残った…。

はずだった。

「新宿歌舞伎町能舞台」

そうした歴史の中で、1941年に誕生した「中島新宿能舞台」。2022年からは名称を変え、「新宿歌舞伎町能舞台」となる。ホスト事業を中心に展開するSmappa!Groupが施設を購入したのだ。会長の手塚マキさんは、歌舞伎町商店街振興組合常任理事を務めるなど、現在の「歌舞伎町」の文化的発展に尽力している。彼の話は【インタビュー】東洋一の歓楽街を回遊する。「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」の舞台裏 – 手塚マキ編で触れた通りだ。また、彼の著書『新宿・歌舞伎町 人はなぜ〈夜の街〉を求めるのか』に詳しい。

「中島新宿能舞台」に「歌舞伎町」という名前を加えたのは、そんな彼の、「鈴木喜兵衛の意志を継ぐ」という決意の現れなのかもしれない。

「新宿歌舞伎町能舞台」から外に出たところに居合わせた、飲食業に勤めるという女性に話を伺った。

「過去に開催された「ナラッキー」がきっかけで王城ビルを知りました。普段はあまり歌舞伎町には来ないですが、2Fの唐組の公演や、新宿歌舞伎町能舞台もすごかったです。」

鈴木喜兵衛の描いていた街の未来像まで、時間はかかるかも知れない。だが着実に、このラブホテル街にも、歴史の流れ、街の土壌から生まれるダイナミズムを感じた瞬間だった。

鑑賞者ではなく、誰もが参加者。歌舞伎町のロッカーには何がある…?

続いて向かったのは、会場の1つであるセレクトショップの「THE FOUR-EYED」。アーティストのぼく脳さんによる「フォー横闇市場」が開催されている。

ぼく脳

「フォー横闇市場」はどういった取り組みでしょうか?

ぼく脳 – 近年のフリマアプリや古着の高騰の仕方を見ていると、「闇市」に近いものを感じるんです。元々「闇市」って生活に必要なものが手に入らなくて生まれたものだと思うので、今回は闇市化した、フリマアプリなどのデジタルの世界に流れていったものを、あえて現実世界に戻す、みたいな文脈で考えています。体験とか概念に焦点を当てていて、「お金」じゃ買えないメニューもあったり。それをセレクトショップという華やかなお店の横でやるということに意味があると思います。

個人的な目玉商品はありますか?

ぼく脳 – 歌舞伎町の街中にあるロッカーを1つ借りて、その中に展示物を入れたんです。歌舞伎町ってかなりロッカーがあるんですけど、その中のどれか1つに展示があって、鍵自体がどこのロッカーの物かも探さないといけないんです。

ちょっと闇取引のようなイメージですね。参加者の人に何かコメントを頂けますか?

ぼく脳 – 普通に「アート」を観に来るだけでも勿論いいと思いますが、例えば今言ったような体験だったり、一緒に散歩したりとか、「一緒に何かをする」という形が多いイベントだと思います。だから誰ひとりとして鑑賞者なんていなくて、ここに来た全員が参加者。ぜひ積極的に呑んだり、買ったり、体験したりしながら街を歩いて楽しんでください!

歌舞伎町の真ん中で「みそ」を仕込み、踊る

「生活パーティー feat.みそ仕込み」の様子

続いて向かった先は「デカメロン」。
2020年にオープンしたアートスペースで、2Fに作品を展示、1Fには作品を鑑賞した後に対話が生まれるようにとbarが設けられている。
この場所で今夜行われているのが、アーティストの下司悠太さんによる「生活パーティー feat.みそ仕込み」だ。今夜仕込んだ「みそ」は、湿気の少ない常温で保存し、だいたい1年後に食べごろなんだとか。

DJが音楽を流しながらのみそ仕込みの現場とは、一体どのようなものなのだろう。

「生活パーティー feat.みそ仕込み」会場の様子。右側男性がアーティストの下司悠太さん。

歓楽街のど真ん中で、「みそを作りながら音楽に合わせて踊る」。かなり珍しい試みだったと思いますが、いかがでしたか?

下司悠太 – デカメロンのギャルバーのギャルたちが、みそ汁をこんなに楽しんでくれるとは思わなかったです。すごく嬉しかったですね。

開催に当たって何か想いはありますか?

下司悠太 – 家事労働とか、生のための行いは、「金銭価値」を得づらいですよね。そうしたことを「歌舞伎町」でやるっていうギャップは面白いんじゃないかなと思いました。ただ、みそ仕込み自体は3年前からやっていて、毎年20キロのみそを仕込んでいます。かなり大変で、こういう時こそ、「音楽があるといいな」と、そういう思いから始まりました。この活動を通して何かを訴えたいというよりかは、自分の中の欲望というか、そういった思いが大きくもあるんです。

続いて、偶然居合わせた「みそ仕込み」体験中のパフォーマーの坂口涼太郎さんに感想を伺った。

参加していたパフォーマーの坂口涼太郎さん

みそ仕込みを体験してみての感想を一言お願いします。

坂口 – 坂口涼太郎です。パフォーマーをやっています。歌舞伎町で踊りながら仕込んだみそが、1年後のこの時期に完成して、その感想をまたこの場所に伝えに行きたいです。

研究者として俯瞰する。齋藤直紀の見据える都市の姿

GROUP 齋藤直紀

「WHITEHOUSE」で開催されているのは、建築コレクティブGROUPによる展示、生きられた新宿「Parallax city」だ。
批評家の多木浩二の残した2000枚あまりの新宿の写真。そこに折り畳まれた彼の新宿への視線から、彼のいない2025年の新宿、ひいては100年後の都市に目を向ける。そんな建築コレクティブGROUPのメンバーであり、東京大学未来ビジョン研究センター特任助教でもある齋藤直紀さんに話を伺った。

今回の展示はどういったものでしょうか?

齋藤 – GROUPとしては映像だったり、インスタレーションだったり、あるいは群像写真だったりというものを、MoMAで開催された「Shinjuku: The Phenomenal City」に展示された作品をもとに作成しているんです。そうしたたくさんの要素の合わさった点は、今の新宿という街の、ある種雑多な感じと共通するかも知れません。

「BENTEN」では、歌舞伎町という街で、同時多発的にあちこちで色々なことが起こっています。都市の研究者である齋藤さんだからこそ出来ると考えていることはなんでしょうか?

齋藤 – 都市をテーマとしたアート作品というのはたくさんあって、僕自身もすごく共鳴するところではあるんですけど、一方で「都市」と言っていれば何でも成り立つような飽和状態に近いのかなと思っています。僕自身は都市空間の研究者として都市をリサーチした上で、成り立つアート作品というものを提示できればなと、それだけがテーマではないけれど、そうした点で別の姿を提示できるかなと考えています。

生きられた新宿「Parallax city」

こうしたイベントを通して、歌舞伎町という街がどのように変化していくと予想しますか?また、こんな風に変わっていってほしいという、願いのようなものがあれば教えてください。

齋藤 – 50年前に多木浩二さんが、「新宿には、モニュメントがない。目に見える構造というものがなくて、人々の活動によって、新宿というものが出来上がっている」と言っているんだけれども、50年経った今、その多木さんが言っていた新宿像みたいなものは、パッケージングされて、東京の都市のどこでも見られるようになっている。それでも多木さんは逆に鋭かったのかなと思っているんです。

今後、新宿に望むものとしては、特にこう変わってほしいとか、こうあってほしいというものはないんだけれども、新宿だけはこの猥雑さというか、ある種、怖さみたいなものはあり続けるのかなとは思います。都市開発は、そうした部分を少なくしていく作業の側面がありますが、グレーな部分が全て無くなるのはどうなのかとは思いますね。と言うより、何か操作をして変えられるようなものではないと思っているので、研究者として、もう少し俯瞰して見ていられればいいかなと思います。

王城ビルで待ち合わせ

王城ビル

再び「王城ビル」へと歩を進める。
「デカメロン」の「生活パーティー feat.みそ仕込み」で出会った方に、ミソが出来上がってひと段落ついたら話が聞きたいから電話が欲しい旨を伝えていた。「王城ビル」1Fで開催中の飲食店や物販が立ち並ぶ「アー横」で待ち合わせをした。

「デカメロン」で開催された「生活パーティー feat.みそ仕込み」に参加したお2人

イベントに参加したきっかけを教えてください。

– Instagramの広告で知りました!新宿や高円寺で活動しているアーティストの友人も知っていて、開催前から話題に上がっていました。「王城ビル」のアートイベントにも何度か行ったことがあったんです。

「BENTEN」を通して歌舞伎町のあちこちを歩いて回ったと思いますが、何か歌舞伎町への印象が変わったり、新しい発見はありましたか?

– 能舞台があることは全然知らなかったですね。建物の隙間に入り込んでいって、すごい場所にあるなと結構驚きました。

みそ仕込みはいかがでしたか?

– 「王城ビル」の受付のところにチラシが置いてあって、行ってみたらすごく楽しかったです。持ち帰って保管して、1年くらいしたらカビを取って食べられるみたいです。大豆の水分が抜けて浮き上がってきて、その部分は醤油として使えるとか、作る人の手の細菌によって味もちょっと変わるらしくて、色々と知れて楽しかったです。

わざわざご連絡いただき本当にありがとうございました。

2人にお礼を伝え、最後に、「東京砂漠」へと向かった。

東京砂漠

この日は13年ぶりに、「芸術公民館」が復活する。「芸術公民館」とは、会田誠さんが開いたbarで、若き芸術家たちの集うサロンであった。今はなきその場所、ならびにその意思の跡̇にできたのが、今夜の会場の「東京砂漠」だ。

今日は特別に会田誠さんがバーテンを勤めるとのこと。残念ながら会田さんがいる時間は過ぎてしまったが、23時から5時までは、会田さんの奥さんであり、同じく芸術家の岡田裕子さんが店頭に立つ。

深夜4時30分。「東京砂漠」の屋根裏部屋

東京砂漠

「東京砂漠」に着くと、そこはもう人でごった返していた。店内の椅子はもちろん、通路にまで人が溢れ、皆愉しげに酒を酌み交わし、会話を交わしている。ちょっと人が多過ぎたのと、酒の席を邪魔するのも癪だと思い、撮影だけさせてもらう。そしてもう1つ上の階、屋根裏部屋のような部屋へと階段を上がっていった。

東京砂漠最上階の様子。

壁中にペンで好き放題の文字やら絵やらが描かれ、それらは畳にまで及んでいる。「宅呑み」の中でも自由度の高い呑み場さながらの、出̇来̇上̇が̇っ̇た̇状態が広がっていた。後から聞いた話だが、会田誠さんの描いた絵の横にも、みんな好き放題に、なんでも描いているそう。ここはそういう場所。年代世代を問わないたくさんの人たち。酔いもかなり回っているであろうこの場から聞こえてくる言葉は、「村上隆」、「好きな〇〇文学」…。品のない行動は承知で、カメラの確認のフリをしながら盗み聞いていると、そこだけ聞いてももはや皆目理解不能の哲学の話までしている。堪えきれずに尋ねると、手前にいた2人、互いの「芸術論」での激論を繰り広げていたのだが、さっき、ここで出会ったばかりだと言う。

そう言えば、少し前に出くわした、会田誠を探して「BENTEN」にやってきたと言う某映画監督。「王城ビルにいるらしい!」と言って道に迷っていたので、ビルまで案内したのだが…。僕も探していた会田さん、ここで寝てましたよ…!

東洋一の歓楽街「歌舞伎町」を舞台に、3日間のオールナイトイベントとして幕を閉じた「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。街のあちらこちらで同時多発的に、様々なイベントが巻き起こる。
戦後間もないこの地を「道義的繁華街」として復興すべく尽力した鈴木喜兵衛が、未来に託した願い、「歌舞伎町」命名に際した願いは、未だ旅の途上にある。「BENTENは長期的に考えている」と語る手塚マキさんの描くこれからの歌舞伎町が、未来の歴史にどう絡んでくるのか。街のダイナミズムは留まることを知らない。

「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」※イベントは終了しました。

2025年11月1日〜11月3日に開催された回遊型アートイベント「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。「都市の再野生化」をテーマに掲げ、昨年の「BENTEN 2024」に続き、Chim↑Pom from Smappa!Groupらがキュレーションを務める。
当日は新宿歌舞伎町能舞台、王城ビル、デカメロン、WHITEHOUSE、東京砂漠などを回遊しながら、光と影の交錯するカオティックな都市のリアルを、文化としての「歌舞伎町」を味わうことができる。

日時:2025年11月1日(土)15:00-5:00/11月2日(日)15:00-5:00/11月3日(月・祝)15:00-23:00

HP : https://www.benten-kabukicho.com/

Instagram:https://www.instagram.com/benten2025_kabukicho

「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」現地速報レポート

2025年11月1日からの3日間で開催中の「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。
Chim↑Pom from Smappa!Groupらがキュレーションを務めたオールナイトでのアートイベントは、東洋一の歓楽街と呼ばれる「歌舞伎町」を舞台に、街のあちらこちらに散らばった会場で、同時多発的に“何か”が起きている。

さて、歌舞伎町で一体何が起きているのか。

閉幕まで残り2日の今、初日の現場レポートを速報でお届けします。

「うしろさん、今2階にいます!」

15時ちょうどに現場入りをする。スタッフの方とは開催直前のインタビューに際して既にやり取りをしていたので、挨拶もそこそこに「王城ビル」の奥へと入った。今日はやることがたくさんある。新米ライターとして、できるだけたくさんの素材を集めようと躍起になっていた。

「王城ビル」のB1Fから5Fまでひとまず目を通そうとしていた矢先、スタッフの方から連絡があった。「うしろさん、今2階にいます!」

Chim↑Pom from Smappa!Group 卯城竜太

来場者に向けて一言だけ頂けませんか?

卯城 – 必ずどこかしらで何かが行われているので、タイムテーブルをよく見てもらって、色々楽しんで頂けたらと思います。
僕は今日、2階で「状況」劇場を担当していて、16時頃からは演劇があったり、歌ったり、それからパフォーマーたちがいろんなことをやり始めます。パフォーマティブな空間になっているので、是非見に来てください。

「活弁」は、最新技術をも凌駕する

次に向かったのは5Fの「活弁天映画祭」。
はっきり言って、初めて触れる「活弁」は衝撃だった。

日本の映画の歴史を辿ると、1896年に国内で初めての映画が公開されたそう。映画と言っても当時は「無声映画」で、その内容を解説する専任の解説者として、「活動弁士」が存在していた。

1998年に活弁界初の文部大臣賞を受賞した麻生八咫(あそうやた)さん演じる「浮世絵活弁」、「血煙荒神山」では、抑揚の効いた声に圧倒されたのはもちろんのこと、その間̇は全く初めてのものだった。時折生まれる完全な静寂は会場に緊張をもたらし、観る者を強烈に惹きつける。そして麻生さんの大きな身振り手振りが、臨場感を加速させていく。

3D、4DX、IMAX…と、新時代のテクノロジーがリアルな映像体験を追求する中、同じ場所、同じ空間での“生演奏”にもはや敵うはずがないのかもしれない。

麻生八咫 / 活弁士・池俊行の活弁「坂本龍馬」との感動の出会いにより活弁士の道へ。

「BENTEN」に参加した率直な感想を聞かせてください。

麻生八咫 – 素晴らしい会場(王城ビル)で感動してますよ。本当に40年、50年前、僕らが新宿で遊んでいたときの、そのまんまが今、よみがえってくる。残っているのが奇跡的。本当になかなかあるものじゃないんですよ。僕たちの世代を20代、30代の頃に若返らせてくれる、そういう現場でした。

無声映画への解説としての「活弁」だと思いますが、時折BGMで音楽、それもロックを差し込んでいたのが驚きでした。

麻生八咫 – 他の活弁士の方に聞かせると怒られちゃうかも。そんなのあるわけねえだろうみたいな。でも、昔じゃなくて、お客さんは今だから。今の人たちにサイレント映画というものを「血湧き肉躍る」みたいな形で提供するには、それもありだろうと。芸能が生き延びていくには、色々な時代を経て、それを乗り越えていかなければいけないから。今のお客さんにいかに喜んでいただけるかという勝負のしかたをしましょう、ということでございます。

観に来ていた若い世代に何か一言頂けませんか?

麻生八咫 – やっぱり生身で、本物をいつも皆さんに提供していきたい。僕もそういうふうに生きてきたし、これからもそう。自然というかね、もっとワイルドに生きていってもいいんじゃないかな。新宿のこういう場所はそれを受け入れてくれる。妙に遠慮して、ある程度の年齢になったら、隅っこでおとなしくしていなければいけないんじゃないかみたいな、そういう忖度は一切せずに、生の人間で僕たちは生きていっていいんだということです。

チャンバラ映画の「活弁」を、英語に乗せて

麻生子八咫 / 麻生八咫の実子であり、同じく活弁士として活躍

そして同日18時30分からは、「活弁」が英語で実演された。演じたのは麻生子八咫さんで、麻生八咫さんの実の娘にあたる。「活弁士」としてのデビューは10歳という彼女に、英語での実演での難しさを伺った。

麻生子八咫 – 特に日本のチャンバラ映画で、日本特有の活弁調、活弁のイントネーションを英語に持っていくっていう、これをしないとあまり意味がないかなと思っていて、それが一番苦労しているところですね。
あとは逆に、『チャップリンの冒険』とか、そういう海外の映画に関しては、俳優さんたちはみんなネイティブな英語を喋っていらっしゃる方々なので、演じている彼らのテンションが、日本語よりも英語のままの方が私にとっても伝わりやすい、共感しやすいんです。そういう面では非常に面白いところです。

スペインからの来訪者

そしてこの公演中、たまたま私の真隣にいた「彼」の話を聞くことが出来た。英語の全く話せない私の差し出すAIの翻訳をじっくり読んで答えてくれた「彼」に、この場を借りて御礼申し上げます。

スペイン出身だという「彼」。翻訳に必死で、あろうことか名前を聞きそびれてしまった…。またどこかで出会えることを願って。

これまでに「活弁」を観たことはありますか?

-こんな経験は今まで一度もありません。声優さんはとても上手だと感じました。彼女は自分の中にある様々な声を使い分けられていて、おばあさんの声も男性の声も出せるんです。彼女が映画に多大な付加価値をもたらしているので、とても興味深かったと思います。それだけでなく、映画に豊かな表現力も与えています。3Dのようにスクリーンで映像を観るだけでなく、語られている内容に感情を動かされる人の姿も見て取れるのです。

それに、これは少し物語風というか、誰かが本を声に出して読んでいるような感じがします。だから私は本当に気に入って、とても興味深いと思いました。

「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」を訪れたきっかけを教えてください。

– 今夜ここにいる何人かのアーティストのInstagramをフォローしていて、彼らはとても興味深いと思いました。それでInstagramの投稿を見て、参加しようと決めました。

実際参加してみていかがでしたか?

本当に素晴らしいと思います。これまでの人生で参加した中でもトップクラスのアートイベントです。新宿のあちこちで企画されているという点がとても興味深いですし、新宿や歌舞伎町の歴史にも触れられていて面白いです。さまざまな部屋があり、とても魅力的でした。

いろいろな建物があって、それらは本当に素晴らしいです。私はとても気に入りました。とても良かったです。

日本の芸術の印象を教えてください。

– わあ、難しい質問ですね。私は日本の芸術がとても好きで、独特の違いがあると思います。西洋の芸術とはかなり違うと思います。なんというか、どう説明していいのかわかりません。ただ、日本の芸術にはとても特別なものがあります。どう説明していいかわからないのですが、とても繊細で、微妙なニュアンスを感じます。細部にまで注意が行き届いていて、とても丁寧に作られている印象です。私が思うに、やはり「繊細」という言葉が一番ぴったりくると思います。でも時には、とても野性的でありながら、同時にその野性を受け入れているので、少し刺激的でもあるんです。子供の頃から日本の美術に夢中で、本当に心から感謝しています。

Thank you very much!!! Have a nice day! 

彼とは、「王城ビル」の入り口でハンドシェイクして別れた。

唐組「紅テント」スタイルはそのままに、自由な出入りの新鮮さ

「恋と蒲団」

時間軸を元に戻そう。

この麻生八咫さん演じる「活弁天映画祭」を観た後すぐに、はじめに卯城さんを見つけた2Fに足を運んだ。始まって10分ほど経過してはいたものの、生きられた新宿「状況」劇場唐組を鑑賞する。
初回の「恋と蒲団」では演劇的な実演が、続く「唄い読む唐十郎の言葉」では、ギターとチェロの音色と、今は亡き唐十郎の美しい言葉が見事に合わさった。

「唄い読む唐十郎の言葉」

唐組の公演の大きな特徴の一つが、その鑑賞スタイルだ。紅テントと呼ばれるテント劇場の中で、観客は、さながらピクニックや花見のように、所狭しと詰め合って座る。座席の区切りはない。今回の「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」ではテントの設置こそないが、敷物に直に座って鑑賞するスタイルが取られた。

「恋と蒲団」と「唄い読む唐十郎の言葉」の両方に出演した役者の福本雄樹さんは、「いつもの座席の感じもありながら、来られた方が自由に出入りする様子が新鮮でした」と語る。

同じく「唄い読む唐十郎の言葉」にて、チェロ奏者として福本さんと共演した佐藤舞希子さんの2人と「王城ビル」入り口付近で遭遇し、話を伺う事が出来た。

福本雄樹 / 俳優。劇団唐組で活躍中。

福本 – 唐組の公演の時とはお客さんの層も違って、それでいていつもの感じの御座に座っているのがまたちょっと不思議でした。公演が始まって、だんだん人が増えたり減ったりするのが見える点も新鮮でしたね。

初めて観る方に対して、どんなところに注目して貰いたいですか?

福本 – 唐十郎さんの書いている言葉の美しさだったり、少しでも「残る」ような、なんかいいな、と思うような言葉を見つけて貰えると嬉しく思います。ひと言ひと言の台詞の妙だったりとか、言葉がすごく詩的になっていたり、リズム感が五、七五になっていたり。ストーリーが分からなくても、そうした少しの言葉の部分だけでも「なんかいいな」って感じて頂けたら嬉しいです!

佐藤舞希子 / チェリストとしてのソロライブだけでなく、箏や三味線との和洋折衷ユニット、インストゥルメンタルバンドの編成など、型にはまらない新たなジャンルを開拓している。

チェロと朗読という新たな試みでしたが、演奏されていかがでしたか?

普段から楽器を演奏するにしても、自分の声のようにセリフに乗せて奏でているの感覚なんです。今回の場合も、相手がどう来るのかとか、次のセリフの言葉に寄り添いながら、チェロの音とかリズムを変えたり、音程を変えていったりしました。

セッションに近いイメージですね?

そうですね。今後も、その時にしかないライブ感、その時にしかない音というものを、びしびしと、おもしろい方とやっていきたいと思っています。

続編では、Chim↑Pom from Smappa!Groupのエリイさん、ぼく脳さんらが登場予定です。
続く→

BENTEN 2 Art Night Kabukicho

2025年11月1日〜11月3日に開催される回遊型アートイベント「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。「都市の再野生化」をテーマに掲げ、昨年の「BENTEN 2024」に続き、Chim↑Pom from Smappa!Groupらがキュレーションを務める。
新宿歌舞伎町能舞台、王城ビル、デカメロン、WHITEHOUSE、東京砂漠などを回遊しながら、文化としての「歌舞伎町」を味わうことが出来る。光と影の交錯するカオティックな都市のリアルを、ぜひ現場でご覧ください。

日時:2025年11月1日(土)15:00-5:00/11月2日(日)15:00-5:00/11月3日(月・祝)15:00-23:00

※会場によって開場時間が異なります。公式WEBサイトやSNS等によりご確認ください。

前売りチケット発売中

https://artsticker.app/events/94416 ※10/31 23:59まで

当日券

一般(1DAYチケット)¥3,500 / 前売り券¥3,000

一般(フリーパス)*3日間入場可 ¥7,000 / 前売り券¥6,000 

18歳未満*¥2,500

中学生以下無料

※24:00以降は 2,000円(1ドリンク付き)で入場可能。

※一部プログラムは別途料金の支払いが必要です。

HP : https://www.benten-kabukicho.com/

Instagram : https://www.instagram.com/benten2025_kabukicho

【インタビュー】東洋一の歓楽街を回遊する。「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」の舞台裏 – 手塚マキ編

「歌舞伎町」の光と影を、街の文化を通して再発見するアートイベント「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」が開催される。キュレーターを務めたChim↑Pom from Smappa!Groupにとって、改名前のChim↑Pomから現在に至るまで(改名に至る詳細は美術手帖掲載のインタビュー記事「Chim↑Pom from Smappa!Groupはなぜ改名を選んだのか? 「変異」することの重要性」に詳しい)、手塚マキ氏は「歌舞伎町」と彼らを繋ぐ重要な役割を担ってきた。そしてこの手塚マキ、彼らだけでなく「歌舞伎町」と“外界”を繋ぐハブ的な役割でもある。

1997年にホストとして足を踏み入れ、現在は数多くのホストクラブや飲食店、美容サロンを展開する経営者である手塚は、歌舞伎町商店街振興組合常任理事やボランティア団体「夜鳥の界」を立ち上げるなど、歌舞伎町のイメージアップや文化的側面に貢献してきた。(彼と歌舞伎町の激動の物語は、彼の著書『新宿・歌舞伎町 人はなぜ〈夜の街〉を求めるのか』に詳しいので是非読んでみてほしい。)

そんな彼の見つめるこれからの歌舞伎町は、一体どのようなものなのか。「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」を通して目指す未来と、揺るぎない「歌舞伎町」への愛を紐解いていく。

「また明日も観てくれるかな? So see you again tomorrow, too?」2016年 / 青写真を描くversion 2
サイアノタイプ、部屋、インスタレーション
撮影:森田兼次
Courtesy of the artist, ANOMALY and MUJIN-TO Production

歌舞伎町の“深部”を、現代アートに乗せて

卯城さんからはアート的な視点でのお話でしたが、手塚さんは行政との連携を含め、歌舞伎町で様々な活動をされてきました。今回の「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」への想いを聞かせてください。

手塚 – 元々、戦後にこの街を文化で復興させようという流れがあったんです。その中で現代アートというものは、社会現象をしっかり捉えて表現できる。今回の場合は「都市の再野生化」というテーマですが、表層的な部分だけを見せるのではない現代アートは、変動が著しい歌舞伎町にぴったりだと思います。

手塚さん自身、今回のイベントにおいて、歌舞伎町で働く人たち、もしくは歌舞伎町の外の人たち、どちらにより重点を置いていますか?

手塚 – 中の人たちをもっと楽しくしたいという思いが強いです。それは実際に今歌舞伎町にいる人たちだけではなくて、これから働きに来る人たちに対しても。一般的な今の歌舞伎町の印象とは違う、文化的な側面を見て来てくれる人たちや、このイベントを一緒に作りたいという人たちも含めて。実際、「BENTEN」はリクルート的な側面もあると思っていて、昨年のイベントに来てくれた人がそのまま働いて頂いているケースもあるんです。

「BENTEN 2024」©上原俊
王城ビルで開催される表現・物販・飲食が交錯するカオスな横丁「アー横」

「中の人」の意識を変え、通り過ぎない街へ

手塚 – SNSを生活の中心にしている人は多く、そこは紋切り型のわかりやすい偏った表現で溢れています。歌舞伎町の刹那さは、そういうマインドが顕著に現れやすい。そして表層的なわかりやすいものが注目されやすい。だからこそ集まる人たち、働いている人たちの自我だったり、現場の実際の感覚が希薄化していく。そうした大方の印象と、リアルな内情との齟齬を少しずつ調整させていければいいな、という思いがあります。
でないと、自分たちがこの街に対する地元意識というか、「俺たちがここで何かを生み出しているんだ」「ここが俺の地元なんだ」と思えなくなってしまう。通り過ぎるだけの街になってしまう。それもそれで魅力的な部分はあるんだけれども、僕らは「居続けている人間」。そのことに対する意味付けができるようにしていきたい。どのように街の中の人たちを巻き込んでいくかを常に考えています。「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」は長い目で見ていて、徐々にそうした流れを生み出していきたい。

「BENTEN 2024」©上原俊

歌舞伎町の歴史の中で、同じように街を変えようと試みた鈴木喜兵衛さん(※戦後の歌舞伎町復興に尽力した人物)も、最初は周囲から理解されなかったり、失敗もあったそうですね。

手塚 – そうですね。鈴木喜兵衛の後を継いで街に文化を落とし込んでいったのは、商売で財を成した台湾人の方々が中心だったりするんですよね。綺麗事だけではなく資金的な部分と、追い求めている理想の部分、どちらが欠けてもダメなんです。そのバランスを僕が持たなきゃいけないものだと思っています。今回のイベントでは、我々Smappa!Groupが借りているテナントが半分以上の会場という点は非常に不甲斐ない。今後はそういう思いを持った歌舞伎町の中の人間を集めて、もっと街全体を巻き込んでいきたいです。

今以上に街全体を巻き込んだ形を実現する為に、何か考えていることはありますか?

手塚 – 今回のように現代アートを皮切りに海外も含めてリーチできるのは良いことだと思いつつ、僕としては、もっとエンタメ的なこととか、気楽に中の人たちが商売にも繋がりやすく関われるものも増やしていきたい。

「BENTEN 2024」©上原俊

アートを核に「文化のアートイベント」へ

今、ゴールデン街は外国人観光客で溢れ返っていますが、その辺りのインバウンドの増加についてはどうお考えですか?

手塚 – お金儲けを考えるなら、外国人向けにガンガンやればいい。ただそうすると、表層的なわかりやすい歌舞伎町というものにしかならない。先ほどの話のようにそれはそれで必要ですが、中の人間たちで彼らとも交わりながら文化を醸成していくようになると良いですよね。

そのバランス感覚で、一番重要なポイントはどういったところになるのでしょうか?

手塚 – 自分の役割としては、まずアーティストじゃないというところがあって。だからこそ、現代アートがどういうものであるかということをちゃんと理解しつつ、アートだけでない街の行く末を、どうやって外と繋げるか。その時に伝わる歌舞伎町像というのが、いかに現場の実像と齟齬がないかの舵を取ることだと思います。

なるほど。第三者視点的なイメージで。

手塚 – そうですね。歌舞伎町の解釈を間違ったりすることに関しては気を付けないといけない。

歌舞伎町を知り尽くしている方ならではのアドバイスですよね。いわゆるアートキュレーションというよりは、歌舞伎町キュレーションをしているような。

「BENTEN 2024」©上原俊
「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」の会場の1つである「東京砂漠」

手塚 – 要は「どういう風に見られてるか」ということの理解がとても大事。歌舞伎町という街を今後どうしていきたいかというより、それを理解しつつ現代アートの文脈にしっかりと乗せて、尚且つそのクオリティが担保された上に、エンタメ的な要素を入れて間口を広げる。そうしてできたものは筋が通っていると思うし、アートだけではない、街としての芸術祭のように変わっていくと思います。その真ん中に、きちんと現代アートが立っているというのが一番綺麗な形。これが僕のやりたいことです。そうすると、現代アートに興味がない人たちも、アートの力で街に関して自分ごととして考えれられるし、積極的な街の人間になっていくんじゃないかなと思います。

あくまで街の文化がありつつ。

手塚 – そうですね。外部からの見え方もある程度調整しつつ、内部から変えていきたい。わかる人たちだけくればいい、みたいなことは全然思ってないです。あとは、昔うまくいったアイススケートリンク(※鈴木喜兵衛が試みたプロジェクト)のように、もう一度歴史を紐解いてやりたいというのもあります。昔と同じことやったってしょうがないけど、何かしらそういう、街の歴史を継承しつつ、今の時代観の中でできることをやっていきたい。

「BENTEN 2024」©上原俊

歌舞伎町で得る「人生の肥やし」

今回のアートイベントは、鑑賞者が街を回遊してはじめて成立するものだと思います。参加者が能動的に街を歩くことで、結果的に歌舞伎町をより理解できる仕組みだと思いますが、その辺は意識されていますか?

手塚 – かなり意識していますね。回遊イベントにしたのは、実際参加した人が、自分で街をどう捉えるか、ということは大事にしたい。自分の力で夜の繁華街に来て、「おもしろいな」って思ってもらう。そうしてはじめて、開催の意義があると思います。

将来的に歌舞伎町がどんな街になってほしいですか?

手塚 – 中でいろんな人たちが歌舞伎町で働いていたことが、人生の肥やしになっていくようなところです。今でも「歌舞伎町で働いたことがいい経験になってます」と言う人はいるけど、その中には、「文化」が足りない。歌舞伎町で様々な文化に触れたことが良かったと思ってもらえるようになると、とても嬉しいです。そうなると嬉しいし、その素養がある街だと思う。自分自身がどういう風に生きていくかということを考えるきっかけになる場所だから。

改めて、手塚さんにとって歌舞伎町はどんな街ですか?

手塚 – やっぱり、すごく激動しているのが歌舞伎町。この街は、世の中の激動、例えばAI革命だとか、ネット社会だとか、コロナが起きたとか、そういった歴史の「あの時変化したよね」っていうことを、物凄いスピード感で感じられる。外国人観光客の問題とかも、ネットで何かと話題だけど、画面の向こうではなく、目の前の出来事として存在している。そうした変化を肌身に感じられる。だからある意味、さっき言った世相が表層的に現れやすい。その中で、自分たちがどういう風な生き方をしていこうか、どんな人間でいるのかってことを考えられる。机上の空論だけじゃないし、綺麗事だけでも済ませられない。それがとても魅力的なことだと思います。

最後に、来場者の方に一言お願いします。

手塚 – 僕の場合、アートをたくさん楽しんでもらいたいというのもあるけど、そのついでに、街を回遊して、いろんな飲み屋とかご飯屋さんとか、街にいる人とかを眺めてもらえたら嬉しいですね。

来る11月1日、「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」を通して街を回遊する___。

すると怖くて危ない街・歌舞伎町というイメージが一変し、みずみずしい輪郭を帯びて捉え直すきっかけになるはずだ。そんな革命前夜に、本記事が少しでも寄与出来れば素敵だなと思っている。

BENTEN 2 Art Night Kabukicho

2025年11月1日〜11月3日に開催される回遊型アートイベント「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。「都市の再野生化」をテーマに掲げ、昨年の「BENTEN 2024」に続き、Chim↑Pom from Smappa!Groupらがキュレーションを務める。
新宿歌舞伎町能舞台、王城ビル、デカメロン、WHITEHOUSE、東京砂漠などを回遊しながら、文化としての「歌舞伎町」を味わうことが出来る。光と影の交錯するカオティックな都市のリアルを、ぜひ現場でご覧ください。

日時:2025年11月1日(土)15:00-5:00/11月2日(日)15:00-5:00/11月3日(月・祝)15:00-23:00

※会場によって開場時間が異なります。公式WEBサイトやSNS等によりご確認ください。

前売りチケット発売中

https://artsticker.app/events/94416 ※10/31 23:59まで

当日券

一般(1DAYチケット)¥3,500 / 前売り券¥3,000

一般(フリーパス)*3日間入場可 ¥7,000 / 前売り券¥6,000 

18歳未満*¥2,500

中学生以下無料

※24:00以降は 2,000円(1ドリンク付き)で入場可能。

※一部プログラムは別途料金の支払いが必要です。

HP : https://www.benten-kabukicho.com/

Instagram : https://www.instagram.com/benten2025_kabukicho

【インタビュー】東洋一の歓楽街を回遊する。「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」の舞台裏 – 卯城竜太編

光と影が交錯する街「歌舞伎町」。東洋一の繁華街と言われるこの地で夜通し行われる、回遊型アートイベントの開催が間近に迫っている。

2025年11月1日からの3日間で開催される「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」は、昨年の「BENTEN 2024」に続く2度目の開催。キュレーションはChim↑Pom from Smappa!Groupらが務める。

我々BAM編集部は、気になるその実態、地理的イデオロギーを探るべく、開催を目前に独占インタビューを敢行。前編ではChim↑Pom from Smappa!Groupリーダーの卯城竜太氏に、後編ではSmappa!Group会長の手塚マキ氏に、それぞれプロジェクトの背景や開催への想いを伺った。

「また明日も観てくれるかな? So see you again tomorrow, too?」2016年 / ビルバーガー
3階分のフロア、事務用品、空調、家具、照明器具、カーペットなど
撮影:森田兼次 / Courtesy of the artist, ANOMALY and MUJIN-TO Production
手塚氏が常任理事を務める解体予定の歌舞伎町商店街振興組合ビルの床を1階まで繰り抜いて開催された。

世にも珍しいアートの生態系

まずは開催に至る経緯を教えてください。

卯城 – Chim↑Pomのこれまでの活動は、歌舞伎町と密接な繋がりがありました。手塚さんと協働し、色々なプロジェクトをやってきたりしたんです。振興組合のビルでプロジェクトをやったりとか、メンバーの結婚式を路上でやったりとか、にんげんレストランみたいなものをやったりとか。で、僕自身も「WHITEHOUSE」というアートスペースを展開したり。僕ら自身の活動以外にも、歌舞伎町界隈にアートスペースや文化活動の場がコロナ禍を起点に続々と出来てきた感じがあって、それを俯瞰して見た時に、「世にも珍しいアートの生態系が出来つつあるな…」と思ったんです。

「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」 会場マップ

海外の音楽やアート関係の知人をそういった場所に連れて周ると、やはりその特異性を面白がるんですね。歓楽街でジェントルフィケーションするアートプロジェクトみたいなものはそれまでもあったけど、そうでない形でボトムアップに文化的なスペースが立ち上がってきているのが面白がられているんだなと感じました。
それは何より、「デカメロン」もそうですし、新宿歌舞伎町能舞台も王城ビルもみんなコロナ禍にオープンしてきたことに関係があると思うんです。歌舞伎町が「夜の街」として批判されていた一方で、逆にそうした場所だからこそ集まってきたものや人もいる。磁場が働いているように、他の場所がフリーズせざるを得なかったからこそ、居場所や隙間を求めて色々な人たちが集まって新しい活動が始まっていく。そんな感じがありました。

そうした文化的な土壌が、アートイベントとしての「BENTEN」の構想に繋がったんですね。

卯城 – そうですね。いわゆる「芸術祭」も考えましたが、長期に渡る上、かかる労力がかなり変わってくる。「展覧会」をやるにしても、歌舞伎町にはそもそも美術館などがない。それよりも、「劇場」とかライブスペースとか、パフォーマンスイベントだとか、アートで言えば「路上」で起きたハプニングがこの街の特徴のはず。だからこそ、身体的で、イベント的な活動が展開されるものがいいな、と。アートナイトだと3日間程度だし、夜の歓楽街との相性もいいな、というところがあって、昨年の開催に至りました。

「また明日も観てくれるかな? So see you again tomorrow, too?」2016年 / BLACK OF DEATH
2008、2016 / ビデオ
撮影:森田兼次 / Courtesy of the artist, ANOMALY and MUJIN-TO Production

再開発、そして相変わらずのカオス

イベントのテーマが「都市の再野生化」とのことですが、これはどういったものでしょう?

卯城 – 王城ビルも「新宿歌舞伎町能舞台」も「デカメロン」も「WHITEHOUSE」も、コロナ禍と再開発の時期に始まりました。再開発は東京のあちこちで起きていて、渋谷をはじめ都内の各地が秩序化されて変化していった。歌舞伎町にもその流れはあるにはありましたが、後から見てみると、実際に再開発によって秩序が生まれたかというと、むしろその真逆のことがたくさん生まれていた。再開発によって人々が集まりやすくなったのはたしかですが、しかし歌舞伎町は歌舞伎町らしく、色々な人たちが逃げてきたり集まってきて、カオスな状態が生まれていった。それは他の都市には見られない特異な状況でした。歌舞伎町の相変わらずっぷりには、歴史的な裏打ちもありそうな気がしていて、今回のテーマとして考えています。

「LOVE IS OVER」2014
撮影:篠山紀信 / Courtesy of the artist

「Love is Over」のデモ行進、「また明日も観てくれるかな」では“解体ビル”内でのプロジェクトであったり、印象的な取り組みでしたが、「BENTEN」の特徴はどういったところでしょうか?

卯城 – 今回のメインアーティストとして、やなぎみわさんを位置づけてはいるんですけど、どちらかと言うと何かひとつの事というより、もっと重層的で、同時多発的であることが、アートイベントとして重要だと考えています。歌舞伎町という街を徘徊したり、目移りしないと、どの会場で何が起きているか分からない。現代アートのみならず、パフォーマンス、演劇、音楽、クラブイベント、横丁、バー、活弁映画、味噌汁……と、あらゆるジャンルが入り乱れ、タイムテーブルそのものが表現のカオスと化していますが、そのイベントを通して、街のあちこちを回遊して頂きたいです。

歌舞伎町の“ローカリティー”を世界に

Chim↑Pom from Smappa!Groupとしての国際的なご活躍と、近年のインバウンドを背景にした歌舞伎町ゴールデン街の外国人観光客の増加、その辺りはイベントに関わってきますか?

卯城 – 現代アートの視点で世界を見渡した時に、東京はアジアの中で相当プレゼンスが下がっていると思うんです。香港やソウルは国際的なアートフェアを中心に、その周辺でパーティーや展覧会が充実している。台湾の台北も、中国との対立の中で表現の自由がものすごく推し進められています。しかし、香港やソウルのように西洋のやり方をそのまま輸入してイベントを作っても、東京には似合わないと思っています。東京は独自にサブカルチャー的に育ってきたものがあったり、1世紀を余裕で上回るほどの美術の歴史がある。その中でも歌舞伎町で熟成されてきたゲリラ的な文化活動とか、小さなバーで繰り広げられてきた文化活動を土壌としたアートイベントとして構想していたので、自ずとフェアや美術館など欧米的なグローバリズムとは違うローカリティーを推しだすものになったように思います。

「BENTEN」は歌舞伎町公園に祀られる弁財天が由来だと伺いました。

卯城 – 新宿のシンボリックな神様みたいな部分があり、芸術と芸能の境界線みたいなものを考えるのにすごく良いアイコンでした。そうした歴史や文化が色濃い街なので、西洋的な美意識と枠組みでやるよりも、ここで熟成されてきたものを普通に発信した方が独自のものとして受け止められると思ったんです。いずれ特異なものとして世界的に認知されていくだろうなと思っていて、回数を重ねて実験していこうかなと考えています。

「BENTEN 2024」©上原俊「新宿歌舞伎町能舞台」

「BENTEN」は今後の別の活動やイベントの指標になりますか?

卯城 – いや、ならない気がします。他のイベントへの影響だとか、ノウハウがどうっていうことはないと思います。むしろ「歌舞伎町」でしか通用しないやり方でやっていかないと、独自のものにはならなかったりもするし、逆に他の土地にはまた全然違う事情や理屈があるはずで。

あくまで歌舞伎町だからこそできるイベント、表現であると。

卯城 – そうですね。今後は表現の部分だけではなく、運営の部分で、より歌舞伎町独自のものにしていきたいです。そうすれば、もっと世界に例がないようなものになる気がします。

芸術と芸能の交錯地点「新宿歌舞伎町能舞台」

アーティストの選定に関しては、菊池成孔さんなどのミュージシャンが出演されていたり、必ずしもアートだけではない、様々な方を招聘されています。選定の基準やこだわりをお伺いできますか?

卯城 – DOMMUNEの宇川直宏さんに昨年から参加して頂いていて、テーマである「都市の再野生化」を踏まえて山本裕子さんと一緒にキュレーションやブッキングを考えて頂きました。「BENTEN」の立ち上げの段階から、DOMMUNEのイメージは僕の中にあったんです。2013年に開催された「FREEDOMMUNE 0<ZERO> ONE THOUSAND 2013」が、当時飽和していた音楽祭の中で、ノイズだったり、コンテンツが特殊にも関わらず大規模のイベントとして、全く独自のお祭りを作っていた。「BENTEN」に関しても、日本国内にたくさんの芸術祭が存在している中で、似たような立ち位置のものがあれば面白いだろうなとは思っていました。例えば、歌舞伎町シネシティ広場で、Merzbowがノイズミュージックをやるなんて事件だってあり得る訳で。

もう一つは、スペースをたくさん使っている点で言うと、「新宿歌舞伎町能舞台」が、今後の歌舞伎町の文化活動のアイデンティティになっていくんじゃないかと思っています。と言うのも、今回のやなぎみわさんも、前回のメインアーティストでAsian Dope Boysというコレクティブをやっているチェン・ティエンジュオさんも、能舞台があることに凄く惹かれているんです。もっと言うと、能舞台が歓楽街にあること自体が特殊……。特殊には見えるのですが、さっき話した、弁財天や芸術と芸能の境界線を考える上では、河原者による儀式や、「湿った場所」で勃発した歌舞伎など、文脈としては真っ当で、自然なことなんです。歓楽街の中に能舞台があって、そこに、考え抜かれたものがコンテンツとして出てくるっていうのは、脱西洋中心主義的な表現を考えるにあたって、大変重要な部分。今後もその部分を大切に活かしながら展開するイベントになっていくといいなと思います。

その土地の文化的な土壌や時代観を色濃く反映させながら、Chim↑Pom from Smappa!Groupが作り上げるアートイベント「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。それまで多くの人が描いていたであろう、怖くて危ない街・歌舞伎町というイメージは、彼らの投げかけるアートを介して見つめ直すと、全く異なる街の輪郭が立ち現れてくる。そしてそれは、通り過ぎていた街の外の人も、中にいる「歌舞伎町の住人」も一緒だ。

後編では、1997年にホストとしてこの街に足を踏み入れ、以来「歌舞伎町の住人」として、酸いも甘いも噛み分けながら、ほんとうの歌舞伎町を目の当たりにしてきた手塚マキ氏の想い、彼の描く今後の歌舞伎町の未来像を紐解いていく。

「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」

2025年11月1日〜11月3日に開催される回遊型アートイベント「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。「都市の再野生化」をテーマに掲げ、昨年の「BENTEN 2024」に続き、Chim↑Pom from Smappa!Groupらがキュレーションを務める。
新宿歌舞伎町能舞台、王城ビル、デカメロン、WHITEHOUSE、東京砂漠などを回遊しながら、文化としての「歌舞伎町」を味わうことが出来る。光と影の交錯するカオティックな都市のリアルを、ぜひ現場でご覧ください。

日時:2025年11月1日(土)15:00-5:00/11月2日(日)15:00-5:00/11月3日(月・祝)15:00-23:00

※会場によって開場時間が異なります。公式WEBサイトやSNS等によりご確認ください。

前売りチケット発売中

https://artsticker.app/events/94416 ※10/31 23:59まで

当日券

一般(1DAYチケット)¥3,500 / 前売り券¥3,000

一般(フリーパス)*3日間入場可 ¥7,000 / 前売り券¥6,000 

18歳未満*¥2,500

中学生以下無料

※24:00以降は 2,000円(1ドリンク付き)で入場可能。

※一部プログラムは別途料金の支払いが必要です。

HP : https://www.benten-kabukicho.com/

Instagram:https://www.instagram.com/benten2025_kabukicho

【インタビュー】「初音ミク」と現代アートが出会う場所——「ART OF MIKU」が描く新たな文化の架け橋 – 前編

デジタルとリアル、サブカルチャーとアートカルチャー。一見相反する領域に見える世界を繋ぐプロジェクトが注目を集めている。
「ART OF MIKU」と銘打ったこのプロジェクトは、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社が保有する日本が誇るIP(知的財産)である「初音ミク」を、株式会社W.creationが企画し“アート”として再解釈したプロジェクト。同社は様々なキャラクターやコンテンツを新たな価値想像によって国内外に届け、アーティストの情熱と多くのファンを巻き込んで繋いでいく。カルチャーを跨いでブーストしていく熱気ある現場には一体どんなドラマがあるのだろう。

その1つに、2024年に札幌と渋谷で初開催された「初音ミク」をテーマにした現代アート展「ART OF MIKU」がある。多くのファンを動員するなど、大成功を収めた。その後も横浜、六本木、神戸、福岡、大阪で新作を発表して展示を行うなど、勢い凄まじい展開からはほとんど目が離せなくなっている。そんな「ART OF MIKU」のプロジェクトの始動、これまでの軌跡を追いかけるべく、クリエイティブディレクターである池田元基さんとアートディレクターである大西正人さんにインタビューを敢行。前後編に分けてお届けします。

「ART OF MIKU」札幌会期の様子

「ART OF MIKU」誕生のきっかけ

このプロジェクトが始まったきっかけを教えてください。

池田氏 – まず前提として、日本の現代アート市場は、世界のアートマーケットに比べると、まだまだ成長の余地があると考えています。もっと多くの方にアートを身近に感じてもらいたい、アートに触れる機会を増やしたいという思いが、プロジェクトの根本にありました。そこで考えたのが、日本が世界に誇るキャラクターを現代アートの文脈に乗せて発信することです。日本独自の文化を生かして、クリエイターがもっと自由に表現できる場を作りたかった。それが、「ART OF MIKU」の立ち上げ、そしてギャラリーを飛び越えたアート展の開催へと繋がっていきました。

数あるキャラクターの中から、「初音ミク」を選んだ理由はありますか?

池田氏 – 「初音ミク」は、サブカルチャーとして世界的に知られているだけでなく、二次創作や多様な表現を受け入れてきた「懐の深い」存在です。クリエイターたちが自由に表現できる、柔軟なプラットフォームとしての側面が大きい。だからこそ、多様化している現代アートの文脈に乗せるのにふさわしいと考えました。「初音ミク」というコンテンツそのものに、すでに「多様性」という共通言語があったからこそ、このプロジェクトは成立したんです。

「初音ミク」が16周年ということで、最初の展示ではアーティストを16名招聘されています。その時の人選はどのように行われましたか?

池田氏 – 主にプロデューサーの山中が中心となりましたが、チーム全員でバランスを非常に重視しました。一口に現代アートと言っても、表現方法は多岐に渡ります。表現が偏らないよう整理し、現代アート、抽象表現、リアリズム、ミニマルアート、コンセプチュアルアートなど…さまざまなジャンルのアーティストに順に声をかけていきました。「初音ミク」というIP(知的財産)をテーマに、それぞれの作家さんがどんな表現を見せてくれるのか、私たち自身もすごくワクワクしていました。

札幌会期の様子

これって「初音ミク」なの?

プロジェクトを進める上で、表現の自由と、IP利用における制約のバランスを取るのが大変だったと伺いました。具体的なエピソードがあれば教えてください。

池田氏 – 最も印象深い課題の一つが、「初音ミク」のIPを持つクリプトン・フューチャー・メディア株式会社(以下「権利元」)様との表現の許容範囲についてのすり合わせでした。作品が出来上がってきた段階で、「これって初音ミクなの?」というケースが所々に起きてきて。アーティストさんと、権利元を繋ぐ共通言語が必要でした。
「この作品はこんなに崩れているけれど、その崩れていく過程にこういうプロセスがあるんです。現代アートとして昇華しているので、決して初音ミクを壊しているわけではありません」と丁寧に説明しました。原型をリスペクトしつつ、抽象的に持っていく。その文化のすり合わせは、私たちとしても何度も対話を重ねて頑張ってやりました。

大西氏: 多くの場合は、制作に入る前のすり合わせで解決していきました。アーティストさんには、まずどういう作風にするのか、どういう方向性なのかという、作品のラフを必ず上げてもらい、それを権利元様に事前に監修していただきました。完成してからNGが出ると当然巻き戻りが発生してしまう。それを抑える為にも、事前にこの工程を何十回と繰り返し行いました。

あとは、権利元様よりいくつか表現についてレギュレーションが設けられていました。IPをお借りしている以上、そのレギュレーションをアーティストに説明する必要があるのですが、ただ「ダメです」と伝えるだけでは、「アートとして作れない」となりかねない。深く理解して頂いた上で制作に取り組んでいただかないと、出来上がる物にも影響する。そういった説明のところは想像以上にコストがかかったなと思います。

バーニーズ ニューヨーク六本木店

手軽なグッズこそ、アート作品に

このプロジェクトでは、ターゲットを「現代アートファン」と「初音ミクファン」の二つに分けて考えていたそうですね。

池田氏 – そうですね。純粋な現代アートファンと、その方々と比較するとあまりアートに触れる機会が少ない「初音ミク」のファンという、全く異なる二つの層にアプローチすることが大きなチャレンジでした。「初音ミク」を知っている人が見たら「これは初音ミクだ」と思える一方で、現代アートファンから見ても「この作家さんの作風だよね」「シリーズものだよね」とわかるような方向性を目指しました。この両方に「刺さる」アート展を生み出すことには苦心しました。

数多くのグッズをご用意したと伺いました。どのような狙いがありましたか?

池田氏 – 多くの人にアートに興味を持ってもらうための「フック」になればいいなと思っていました。展示会自体はアートの文脈で表現を提示し、グッズの方は触れやすい形にしたかったんです。「初音ミク」の母体が非常に大きいからこそ、「これをアートとして提示しても受け入れられるな」という側面もありましたし、二次創作に寛大な土壌があったことも大きかったです。

印象に残っているグッズや、イチオシのグッズを教えてください。

大西氏 –  制作した様々なグッズの中でも、イチオシは私たちも着ているこちらのTシャツです。アート作品が前面にプリントされていて、とてもおしゃれですよね。「アート作品をまとう」というTシャツならではの体験を提供できるのが魅力です。
私が着ているのは仲衿香さんの作品「R&L」、そして池田が着ているのは松山しげきさんの「Portrait of dazzle MH-03」です。
「ART OF MIKU」では、アート作品の魅力を最大限に生かし、現代アートファンにも「初音ミク」ファンにも、気軽に手に取っていただける「グッズ」という形で楽しんでいただけるようにしました。

仲衿香作「R&L」
松山しげき作「Portrait of dazzle MH-03」

大西氏 – そのほか、イチオシのグッズとして、タカハシマホさんの作品「マサユメ」に描かれたキャラクターをアクリルフィギュアにしたものがあります。アート作品の一部をそのままグッズとして再現することで、「アート」と「グッズ」の境界線を曖昧にしました。高価な一点もののユニーク作品は手が出せないけれど、気軽に手に取れる「グッズ」という形でファンに届けられる、これまでにない試みです。この取り組みは、単なるサブカルチャーとしてのグッズとは少し異なる文脈で成立した点が大きな収穫でした。

タカハシマホ トレーディングアクリルフィギュア

グッズ化にあたって、作家さんとのやりとりで苦労したことはありますか?

池田氏 – 現代アート作品がキャラクターとコラボしてグッズ化されることは業界全体から見てもまだ少なく、珍しいんです。だからこそ、Tシャツや、作品内のキャラクターをアクリルスタンドにしたりと、様々な形でグッズ化を実現しました。

大西氏 – 確かに、作家さんの中には、ユニークな一点ものである作品が、簡易的なグッズとして流通することに抵抗を示す方もいました。作家さんの意向を第一に尊重しながらも、アートをより身近に感じて欲しいという目的を丁寧に説明することで、最終的には企画に賛同いただけて、多くの作家さんにグッズ化を承諾していただきました。「初音ミク」のグッズは世の中に数多くありますが、現代アート作品を題材にしたものは非常に珍しいです。アート作品は高価で手が出せないけれど、グッズとして手元に置きたいというユーザーのニーズに応えることができました。

札幌会期で販売されたグッズの数々

こだわった「キャプション」。 徹底した分かりやすいアート展

展覧会では、作品の解説を工夫したと伺いました。

池田氏 – 現代アート展の多くは、鑑賞者それぞれの経験や知識、感情に基づいて作品を自由に解釈したり、対話する”余白”を残すために、キャプションの情報をシンプル(作家名/タイトル/制作年のみなど)にしている傾向があります。しかし、この余白が時には、作品を読み解く手がかりが少なく、鑑賞者が作品の本質的なコンセプトや作者の意図を深く掘り下げることを難しくするという側面も持ち合わせていると考えています。私は、この「情報が少ないことによる解釈の難しさ」こそが、現代アートと一般の人々を隔てる”無言の障壁”の一因だと捉えています。この課題に対し、私たちはキャプションに作家の経歴や作品のコンセプトを丁寧に紡ぎつつ解釈の余白も残すことで、鑑賞者がより深く作品とつながり、その世界観を理解できるような体験の提供を目指しました。

確かに、コンセプトまで明かして書くのは珍しいですよね。

大西氏 – 私たちは、普段あまり美術館に足を運ばない現代アートに馴染みのない方でも楽しめるよう、分かりやすく、読みやすいキャプションを心がけました。単なる作品説明にとどまらず、読み物としても楽しめるように、本来は掲載されないような作品のコンセプトや作家の情報を載せています。また、アート作品の解説ツアーも実施しました。作品のコンセプトだけでなく、制作時の裏話など、来場者の興味を引くような内容を盛り込んだ分かりやすい解説を心がけた結果、多くの方から「現代アートは難しいと思っていたけれど、コンセプトを理解したら面白く感じた」「身近に感じられた」といった嬉しい感想をいただきました。

コンセプトを細かく書くことに、作家さんの抵抗はありませんでしたか?

池田氏 – 思いの外反発はほとんどなく、むしろ協力的でした。イベントの目的を丁寧に説明し、「現代アートを知らない人に楽しんでもらう」という大きなテーマに共感してくれたんです。多くの作家さんが、より多くの人に自分のアートを知ってもらうためにコンセプトを書くことに協力してくれました。作家さんによっては、特定のコンセプトを持たない方もいらっしゃったため、その場合はあえてコンセプトを載せない判断をしました。

ウェブサイトもユニークでした。どのようなこだわりがあったのでしょうか?

池田氏 – 現代アートには多様な表現があるので、オーソドックスなキャンペーンページのようなフラットなデザインではなく、スクロールしていくと作品が動くような、インタラクティブで好奇心を刺激する仕掛けを詰め込みたいとオーダーしました。

札幌会期で販売されたグッズの数々

初回の展示を通じて、手応えは感じましたか?

池田氏: 私たちも手探りではありましたが、カルチャーとしての文化がすでに醸成されている「初音ミク」なら、現代アートも受け入れてくれるだろうという確信はありました。SNSなどでも批判的な言葉はほとんどなく、多くの方が温かく迎えてくださったことに、すごく感謝しています。イラストレーターが描く「初音ミク」とは全く違う領域で、こういう表現もあるんだということを提示できた手応えを感じています。このプロジェクトは、「初音ミク」の二次創作に非常に寛大な土壌があったからこそ、実現できたのだと思います。

前編最後に、権利元であるクリプトン・フューチャー・メディア株式会社 ライセンスビジネスチーム マネージャー 目黒 久美子様より、本インタビューに際して特別にコメントを頂いたので、掲載させて頂きます。

「初音ミク」の「ART OF MIKU」としての展開をご覧になってどう思われましたか?

目黒氏 – 「初音ミク」は今まで様々なコラボレーションをしてきましたが、現代アートでの展開は事例があまりなく、「ART OF MIKU」が開催されるまで、一体どんな反響となるのか、正直全く予測がつかずでした。ご提案をいただいた時から、皆さんと企画を検討し監修を進めて実際に開催されるまで、初めて知ることばかりで、監修をする立場である我々も、何が正解なのか時には悩み、模索しながらの日々でした。

開催後、ファンの皆さまをはじめ、普段ミクでのイラストや楽曲でご一緒しているクリエイターさんや、SNSでも大きな反響をいただくことができました。また、作品を作っていただいた作家さんたちが、それぞれに「初音ミク」という存在を解釈され、様々な表現で向き合って作品が生み出されていく、その想いや過程を知ることができ、「初音ミク」を通して未知の世界に触れることができたのは、我々もファンの皆さまと同じく、素晴らしい経験となりました。「初音ミク」の新たな可能性を開いて下さったことに感謝しております。

後編では、年間400回に及ぶミーティングの実態や、メンバーの個人的な想い、そして今後の海外展開への展望について詳しくお話を伺います。

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