【インタビュー】絵で食べていくということ – GODTAILの歩んだ軌跡 – 前編

“絵を描く”ことで食っていこうと頑張っている弱冠ハタチの友人が、僕にはいる。

そのひとつのカタチとして現在はアニメーターを志しているようで、そんな彼の動向を通して僕は、アニメ業界をはじめ、様々な「絵」に関する仕事の、特に外からは伺い知れない「お金の話」を興味深く聞いている。少し前、「好きなことで生きていく」というコピーがYouTubeに溢れた時期があった。夢を追うということの本当の意味、生々しい現実感は、キャッチーで耳障りの良いその言葉によって画面から押し出されてしまった。

絵は、夢は、甘くない。

アートとお金の話は折を見てするとして、ともかく「好きなことで生きていく」である。これに、正解や正攻法は、きっと無い。答えは本の中にも、あるいは誰も持ち合わせていないのだろう。ただ、ヒントを得る事は出来る。いや、むしろヒントはどこにでも転がっているのかも知れない。そう、ゴミ箱にだって……。

物心ついた時から絵を描いていたというGODTAIL。株式会社GODTAILを立ち上げ、今や活躍の場は、デザイン・演出・編集・広告・筐体デザインにも及び、存在感を放っている。『MARVEL/DC公式アーティスト』 も務める彼のこれまでの軌跡、業界での20年間を振り返るインタビューを前後編でお届け。

GODTAIL インタビュー前編

B – まず、絵を描き始めたきっかけを教えてください。

GODTAIL – 物心ついた時から描いていたと思います。自分ではあまり覚えてないですけど、幼稚園に入る前から描くのが好きだったみたいですね。

B – それからずっと絵は描き続けていたのですか?

GODTAIL – そうですね。学校の休み時間に描いたりしていました。友達に頼まれて『ドラゴンボール』のキャラクターを描いたり、オリジナル作品も描いたりしていました。

B – ストーリーの創作もされていたんですね。

GODTAIL – 完全に友達のウケ狙いです。だから、黙々とやるというより、絵が上手いやつっていう風に見られていて、友達を変に描いて腐すじゃないですけど、そんなことばっかりやっていました。先生の顔を伸ばして描いて、それで友達を喜ばせたり(笑)。

高校時代の自作漫画

B – 当時は将来の夢とか、何がやりたいとかはあったんですか?

GODTAIL – 絵ではなかった、絵はなかったですね。単なる趣味として描いていました。

B – 大阪芸術大学への進学はどのタイミングで決意されたのですか?

GODTAIL – もともとアルバイトで引っ越しをやっていたので、そのまま就職しようかなと思っていたんですけど、友達に「芸大受けてみたら?」って言われて、旅行がてら試験を受けに行きました(笑)。映像学科なんですけど、別に絵が上手くなくても絵コンテが描ければ受かるみたいに言われていて、漫画は学生時代から描いていたから、それで描いたら受かりましたね。

B – 凄いですね(笑)。大学ではどういったことを学んでいましたか?

GODTAIL – 映像学科なので、映画見るくらいしかしてなかったですね。絵に関して何か教わったとかはないです。今まで通り、ただ単に描いていました。どちらかと言うと発想が命なのかな。オリジナルの発想、ストーリーの展開を頭で考えるとか、そういう学科でしたね。

B – そういった内容を扱う学科だったんですね。当時は将来の展望というか、どんなイメージでしたか?

GODTAIL – 何もない、バイトばかりしてましたよ。ほんとに色々なバイトをしていたので、何かしらでやっていけるとは思ってました。ただ、周りが就活してるっていうので、自分もやってみて、結果的にゲーム会社に就職しました。それも絵を描く側とかキャラクターデザインっていうよりかは、プランナーとしての仕事でしたね。プランナーの中では描ける方だったから、そういうところは狙ってはいました。

B – そこは計算があったんですね。

GODTAIL – ある程度は。新しいキャラクターデザインのイメージとかを伝えたい時とかって、字で書くよりは絵で伝えた方が早いわけじゃないですか。普通はプランナーって絵は描かないけど、「こういうポーズでこういう風に描いてください」とかっていうのを、絵で指示出来た。

B – 絵で食べていきたいとか、直接的に絵を描く仕事をしたいっていう意識はなかったんですか?

GODTAIL – 絵はずっと好きだったし、上手くはなりたかったんですけど、それまではきっかけがなかった。ただ、ゲーム会社で色々なデザイナーの方を見たり、一緒に仕事をしていく上で、そこでようやく意識し始めるというか、絵で食っていきたいなとは思うようになっていったと思います。

B – 具体的にはどんなことから始めましたか?

GODTAIL – デザイナーの方たちが、デッサンとかラフをゴミ箱に捨てるんですよ。ちょうど僕がゴミ当番をやっていたので、それをかき集めて、ホチキスで留めて、自分で教科書みたいにして、それを見ながら練習していました。当時はインターネットなんかないから、本を買うしかない。でも、本買うお金もそんなにないし。

B – 捨ててある物だけど、ある意味全然ゴミではなかったというか。

GODTAIL – うん、そうですね。教科書みたいな。パッと見て、いいなとか、上手いなと思ったやつをかき集めてました。

B – そのあたりから、本格的に絵を描き始めたんですね。

GODTAIL – そうですね。やっぱり絵がいいなぁと思って、仕事しながら毎日描いてました。あとは、仕事の絵とはまた全然違うキャラクターとか、そんなのを描いてたと思います。オリジナルキャラクターとかを描いて、南の道頓堀とかに売りに行くんですよ。今は多分ダメだけど、当時は橋の上でクリエイターがズラーっと座っていて。そのエリアだったりとか、路上売りみたいなことをみんなやっていた時代がありましたね。

B – 凄い光景ですね、見てみたかったです。

GODTAIL – 当時はホームページとかも無いから、手で売ったり現場に行って自分の絵を見せるっていう時代でした。もちろん今はダメだと思いますけど。

B – 贅沢な話ですよね、だって原画っていうことですよね?

GODTAIL – 原画もだし、あとはプリンターを買ってプリントしてとか。でも全然売れないですよ。

B – そういうものなんですね、

GODTAIL – 売れない売れない。だから、キャラクターとかを描いても売れないんだと分かって、いろいろ試行錯誤して、なんとかお金にしたいなと思った時に、クレパスで描いた似顔絵が売れだしたんです。

ひっかけ橋で描いていた似顔絵

B – 学生時代に友達を喜ばせる為に絵を描いていたのと通ずるところがありますね。誰かに喜んでもらう為に描くというか。

GODTAIL – そうかもしれないですね。

B – そうしてゲーム会社を経て、パチンコパチスロ業界に行かれたと思います。具体的にはどんなことをされていましたか?

GODTAIL – 企画からデザインから、全部やっていました。図柄だったり盤面のデザインだとか、印刷方法とかもそこで覚えました。元々映像学科時代に監督みたいなこともやってたんですよ。企画して、撮影して、編集してっていうことを全部やっていたから、まあ、それに近い感覚ですね。写真を企画して、内容を企画して、自分でデザインして、そのキャラクターの図柄を揃えるっていうような物を作っていました。キャラクターの色数も当時は16色とかに限定されていたので、その中で遊んでいました。

B – 遊び心というか。

GODTAIL – やりたいことを混ぜながらやってたわけです。

B – ひとりで最初から最後まで全部やられてるみたいな感じだと思うのですが、相当大変ですよね?

GODTAIL – 大変ですよ、今は無理だと思います。際限ない量だし。楽しいというか苦しかったですね。もう夜中なんて当たり前だし、今だったらもうブラック企業ですよ、休み無いし。寝泊まりするのが当たり前の時代でした。

B – そんな中で、どうして7、8年も続けられたんですか?

GODTAIL – オリジナルを作って、一発当てたかったっていうのがありました。自分の手で当てたいっていう野心はすごくあったし、頑張ってたかな。一発当てれば夢があったような気がした。そういうのもあって、ずっとオリジナルのものを作り続けてましたね。

ゴミ箱に、橋の上に、路上にと、あらゆるところにチャンスを見出してきたGODTAIL。そうした場所を経由しながら、遊びから仕事へと、徐々に活躍の場を移しつつも、根底にあって変わらないのは“人を喜ばせたい”という気持ち。後編では、独立して会社を立ち上げ、今に至るまでの軌跡から、彼にとって「良い絵」とは何なのか、斬り込んだ内容をお届け。

ジョン・カフカ:意外なる文化的ルーツと、イラストの魅力に迫る。【後編】

豊かな色彩感覚と独特な構図、繊細なタッチが織りなす唯一無二の世界観。現代的なイラストレーションの美しさを更新し続ける韓国のアーティスト、ジョン・カフカ。特別インタビューの前編ではミステリアスなイメージとは裏腹に、日本のカルチャーにも造詣深く、お気に入りのブランドや映画など意外な一面も垣間見た。そんな彼の、アーティストとしての日常や創作哲学、これからの展望など、気になることを根掘り葉掘り伺ってみたインタビュー記事の後編です。

「自分の絵が好きな人をがっかりさせたくない」

B – 普段はどんな場所で制作していますか。また、制作の際に大事にしていることはありますか。

John Kafka – 普段は自宅で、iPadで制作をします。でもカフェでやるときもあるし、友達の家に遊びに行ったときにも制作することもあるので、場所を選ばないですね。作品は週に3〜4枚。多いときには週に7枚描くときもありました。 ファンの方と交流し続けたいから、絵をたくさんアップする方だと思います。コツコツと、定期的にたくさん制作することを大事にしています。あとはクラシックなどの音楽があるとより良い仕事ができる気がしています。

普段の制作の様子

B – 休日はどんなことをして過ごしていますか?

John Kafka – 本や映画が好きなので(詳しくは前編に)、散歩しながら映画館や本屋でインスピレーションを得ます。あとは、休みを作って人と会う約束をして話をするようにしています。同じ活動をしている仲間の作家さんが多くなり、自分が知らなかった習慣や見習うべき点を吸収しています。

韓国のお気に入りのお店【Sushi Ki】での写真

B – かなりストイックに制作して仕事に取り組んでいる印象です…! 原動力になっているのは何でしょうか。

John Kafka – やはり読者、鑑賞者ですね。昔は承認欲求から制作に取り組むことも多々あったのですが、そこはもうだいぶ捨てた状態だと思います。今は好きなものを描いて、好きになってもらうことが嬉しいという気持ちが大きいです。自分の絵が好きな人をがっかりさせたくないですね。

B – 取り組む作品で目指したい世界観などはありますか。

John Kafka – 一つのコンセプトで連作をするのが好きなんです。今は宗教的なコンセプトを立てて制作を進行中です。自分の良さをどう表現するか、どう説明するかをより重視していきたいなと思ってもいます。実は、日記的に日常の気分を絵に描いたことがあるのですが、後で歳をとった時に昔の作品を見ながら過去を振り返ることができたら面白いなと思って制作しています。

B – では、そうした作品を目指し制作する上で、心がけていることはありますか?

John Kafka – 好きな人、尊敬するアーティストの影響を受けながらも、あまり影響を受けすぎて似たり寄ったりになりすぎないようにしようと心がけています。ミュージックビデオなどを見て影響を受けることもあるけど、とにかく自分の好きなように表現しようという努力を怠らないようにしています。

ジョン・カフカの目指す未来。

B – 今年(2025年)から、今後挑戦していきたいことなどはありますか。また、今後GAAATと新しい挑戦や共同でやってみたいことなどありますか?

John Kafka – 絵も描き続けますが、短編小説も書きたいです。 絵画家と文章作家を両立させてみたいなと考えています。GAAATさんとは最近のホテルの展示(ザ・スクエアホテル銀座での個展『DECO』)が3月31日まで開催中です。衣料品&アクセサリーコラボの広い範囲の展示になっていて、絵ももちろんあるのですが、実際に衣装を制作して展示しています。コンセプト的なものを絵以外にもっと広げて、見所をたくさん増やして、展示場を絵のコンセプトの世界観で彩れるように目指したいです。

DECO

B – ジョンさんのアーティストとしての夢はありますか。

John Kafka – そうですね。昔思っていたレベルでの夢は叶ったけれど、最終的には絵やメッセージをより多くの人に見てもらいたいですね。自分の夢が誰かの夢になること。誰かに影響を与えられる人になることです。

B – ありがとうございます。最後に、進行中のプロジェクトや、告知したいことなどあれば教えてください。

John Kafka – 韓国ではポップアップストア(日本でも開催計画中)、日本では展示活動と画集が出版されていますので、ぜひチェックをお願いいたします。絵を描いている理由は読者の方がいてこそ、見てくれるだけで嬉しいんです。今日は色々お話を聞いていただきましたが、やはり絵を描く人間として、絵でメッセージを伝え、話をしなければならないとも思っています。これからも頑張りますので、よろしくお願いいたします。本日はありがとうございました!

今週読みたいアート。アーティストによる書籍編 Vol.2

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

だんだんと暑さを感じる今日この頃。家で涼みながら読書はいかがだろう。おすすめのアートにまつわる本を紹介する連載、今回は「アーティストによる名著」をご紹介。アーティストを志す人はもちろん、その作品を知らない人でも、作家本人の言葉をキャッチしてみれば、思いもよらないインスピレーションを受けられるはず。

◯『点と線から面へ』ヴァシリー・カンディンスキー・著/宮島久雄・訳(ちくま学芸文庫)

まるでマジシャンの種明かしのように。20世紀初頭、抽象絵画の概念を提唱した画家・カンディンスキー。自由に伸びる線、色とりどりの図形、音楽が聴こえるような創造的な構図。当たり前だけど、テキトーに描いてるんじゃなくて、計算し尽くされているのだから恐ろしい。その裏側を全公開するかのごとく、自身の絵画の構成要素を徹底的に分析し、理論的・科学的に吟味する本書。「生きた作品」の造り方を露にした名著だ。ドイツの伝説のデザイン学校「バウハウス」にて教鞭もとっていた「先生」による、必読の教科書。

◯『芸術起業論』村上隆・著(幻冬舎文庫)

昨年、京都市京セラ美術館にて開催された「村上隆 もののけ 京都」、お笑い芸人・ロバートの秋山や哲学者・斎藤幸平とのYouTubeでの対談動画など、最近も話題に事欠かない稀代の芸術家・村上隆。これだけバズを起こすのは、彼の才能の一つに、分かりやすく人に伝える言葉の力もあるんじゃないかと思う。それが遺憾なく発揮された主著がこちら。世界基準の戦略を立てる意図から、作品をブランド化する方法、プレゼンテーションの秘訣、才能を限界まで引き出す方法…。村上隆が設定する問題意識と、生き抜くための経営方法が描出される。村上の活動を理解するためだけでなく、ビジネス書としても有用。「死後評価される」と時折、憂いをもって語る村上だが、この本も益々参照され続けるはず。

OSAKA INTERNATIONAL ART 2025:取材レポート

「OSAKA INTERNATIONAL ART 2025」が、2025年5月31日、6月1日の2日間で開催される。大阪城ホールを舞台に、「大阪でアートを買おう」と銘打った、国際的で大規模なアートフェアで、およそ115ものギャラリーが参加している。特筆すべきはその4割弱が海外からの参加となっていること。アートを取り巻く環境の好循環を生み出すと共に、アートを通じて“文化”と“経済”の交流に繋げるイベントとして、今回が初めての開催となった。


会場の様子


普段なかなか観ることすらできない作品を、“買う”ことを念頭に楽しむことができる。マルク・シャガール、アンディ・ウォーホル、岡本太郎、草間彌生、コシノジュンコ…。言わずと知れたマスターピースに加え、海洋堂による「銅合金 シン・ウルトラマン」や、COOKIE(お笑い芸人 野生爆弾 くっきー!)による作品、日本が誇るバーチャルシンガーソフトウェア『初音ミク』による「ART OF MIKU」など、様々な文脈でのアート作品が立ち並んでいる。


マルク・シャガール / 画家と婚約者


「展示会ではありません」と、総合プロデューサーを務めた來住尚彦氏は語る。では、このイベントは一体全体何なのか。気持ちよく言い切ってしまうと、こういうことだと思う。

「商いの街、大阪の地で、アートを使って金儲け」

これが、簡略化した本イベントの姿かたちだと思う。素敵だなと思うのだが、おそらくこのように書くと、拒否反応、反感を持つ人が多いのだろう。

そして他でもない、一連のこうした感情の動きが、今の世相に示唆的であり、このアートフェアの提起する本質だろう。

例えば同時期に開催されている大阪万博は、博覧会であり、博覧会と検索をかけると、「種々の産物を陳列して公衆に見せ、販路拡張と改良進歩を目ざして開く会」とある。販路拡張の側面こそあれど、そこでは、あくまで“お披露目”という色が強く出ている。

対して、今回のOIAはアートフェアだ。フェアとは、市、即売会としての色が強く、さしずめ“お買い物”といったところだろうか。

ここで重要になるのが、では実際に自分が買うか、買えるか(お財布的に)ではなく、「アートを購入することが出来る“場所”の用意があります」という意思表示、機会の提供が成されたということだ。

ここには2つ、重要な意義がある。


「銅合金 シン・ウルトラマン」 / 原型制作:木下隆志

アートは美術館だけのものじゃない

もちろん、イベントのみならず、都内を筆頭に全国のあちこちには、店を構えた画廊やギャラリーが点在している。そこでは、アートを買うことができるし、在廊していれば、作家本人が、気さくに喋りかけてくれたりもする。恐らく訪れたことのない方のイメージを大きくかけ離れた、誰でも楽しめる場所が広がっている。そういった所に興味を持つきっかけとして、こうした大規模かつ国際的なアートフェアの可能性は大きい。マルセル・デュシャンを筆頭に、現代アートの文脈が明らかにしつつあるのは、「高尚なアート」の溶解だ。普段、お洒落な服を買うように、素敵な雑貨で部屋を飾るように、アートだって、買って所有して、楽しむことができる(普段の買い物と比べると、0が3つほど違うのには目を瞑るとして…)。お金を払えば手に入るもの、お金では買えないもの。後者としての印象が強いアートが、「買える」となると、その意味は、存外深い。このことは、アートが高尚なものだという固定観念を壊す一助になっていると言える。

アートというアカデミーを、エコノミーに

それにしても、アートに限らず、好きなことに、ちょっとお金を払わなさ過ぎやしないか。サブスクリプションの台頭は、確かに利便性こそ高めた。だが、月に1度、月額料金を支払えば作品が見放題、聴き放題というシステムでは、1作品ごとに、「お金を払っているんだ」という感覚を少しずつ、しかし確実に薄めている。1枚ずつCDを借りていた頃とは、そのありがたみは薄れ、お金を払うことがリスペクトである、ということが綺麗に忘れ去られている。その末路、問題が顕在化したのが、虚しくもSNSに溢れかえる、違法アップロードされた作品の数々だ。逮捕者が出るなど、大きな社会問題に発展している。『週刊少年ジャンプ』の発売日になると必ず、お気に入りの作品を立ち読みする人が現れるが、窃盗罪での逮捕者が出るのも、そう遠くない未来で十分あり得る話に思える。だが要点は、法を犯しているか否かではない。それって本当に「好き」なのだろうか?クエスチョンマークがぐるぐると、虚しく回り続けている。


COOKIE / Ticty


そして、イベントを翌日に控えた前日囲み取材では、総合プロデューサーである來住尚彦と並んで、コシノジュンコが登壇した。

コシノジュンコは次のように語る。

大阪万博と同時期に開催できるという、タイミングがすごく良かったなと思います。世界からたくさんの作品が大阪に集まるということは、 芸術家もまたここ大阪に集まるということ。この街がアートに触れる機会を深める第一歩だと思います。

これまでも彼女が述べてきたのは、人と話したり、連帯することの重要性。

大阪万博と同時期に開催することにより、より大きなアートの流れを、大阪の地で巻き起こそうとしている。その時に忘れてならないのは、僕の誤読でないならば、OIAが提起した、アートは買える、身近な楽しみの一つであるということ。そして、お金を払うことはリスペクトであり、素敵なことだということ。もっと言うと、これを素敵なものという認識から、当たり前のことであるというレベルにまで押し下げていく。そうした連帯が求められている、そんな気がしてならない。



OSAKA INTERNATIONAL ART は下記会期で開催中。

グラフィックデザイン入門ーエフィメラとアート

エフィメラとは

「エフィメラ」と聞いてピンとこない人も多いかもしれない。エフィメラ/ephemeraとは、「短命な/一時的な/はかない」といった意味を持つ言葉で、美術用語に置き換えれば、保存されることを考慮されていない、即物的に生産された小さな紙媒体のことを指す。筆者がエフィメラというものに出会ったのは、「フルクサス/fluxus」という芸術運動に興味を持ったことがきっかけとなり、調べているうちにエフィメラの存在に辿り着いた。エフィメラとフルクサスの関係には後日触れることにして、エフィメラの魅力について語っていこう。

読者のみなさんも、いいデザインのチラシやDM、パンフレットを捨てずに取っておいた経験があるのではないだろうか。現在でもおびただしい数のチラシやDMが作り続けられている。しかしデジタル技術の発展とともに、紙媒体での配布がなくなり、InstagramやWebサイトといった存在に代替しつつあるのも事実だ。つまりエフィメラは減少傾向にあるといっていい。

そもそもの始まりは、今よりもずっと前。展覧会やイベントがあるとアーティストたちは招待状やDMを仲のいい友人や支援者、ギャラリーやプレスなどに向けて制作していた。その当時は広く宣伝する手立てがないため、それらがアーティストやイベントを知ってもらう唯一の手段となったため、各アーティストたちが趣向を凝らしながら制作されたものも多かった。つまりエフィメラがそのアーティストやイベントの顔になる、ということでもあった。

あのアーティストのエフィメラ

現代美術の祖とも言えるマルセル・デュシャン/Marcel Duchampもエフィメラルな作品を多く残している。

“Dada: 1916-1923,” Sidney Janis Gallery, New York, April 15 to May 9, 1953 / Marcel Duchamp


ニューヨークでのダダに関する展示を行った際の活版印刷による展覧会カタログとポスターデザインとのことだが、作品が折りたたまれていることからもわかる通り、保存状態も決していいとは言えない。しかしグラフィカルな文字の配置や、アートワークのようなデザインは今見ても参考になる。

さらにエフィメラには、時代性を色濃く映し出すという側面もある。長期的に存在することを前提に作られた美術作品や書籍とは違って、即物的・即興的に作られており、展覧会やイベントが終わったら捨てられてしまうようなものであるため、その時のアーティストたちの思想や感情が反映されやすく、短期的に制作されることが多いため、同じアーティストの作ったエフィメラ出会っても、時期によって作風が全く違うこともしばしば。そんな点もエフィメラを、これからもウォッチしていたいと思わせるうちの一つだろう。

日本のエフィメラを見つけにいこう

日本でもたくさんのエフィメラを見つけることができる。1950年代から60年代にかけ華道の流派の一つである草月流の総本山・草月ホール(現在の東京・赤坂に所在する草月ホールの前身となったアートスペース)では、三代目家元でアーティストでもあった勅使河原宏(てしがわらひろし)のもと、様々なイベントが催されていた。多彩なジャンルの表現がその枠にとらわれずに自由に集まり、創造し、発表し、批評し合える場、アーティスト同士が交流できる場を目指した草月ホールでは、アーティスト自身で自作をプロデュースするという仕組みが取られ、日本のコンテンポラリーアートの発信地になっていった。特に現代音楽の新しい発表の場となった「草月コンテンポラリー・シリーズ」では多くの素晴らしいエフィメラ作品が登場している。



アーティストの小野洋子(オノヨーコ)もこの草月ホールで作品の発表を行っていた。この発表の数年後に、かの有名なビートルズのジョンレノンと世紀の婚約を発表し、数奇な人生に飲み込まれていくことはみなさんもご存知だろう。1962年に小野の制作した音楽作品の発表会が開かれ、そのイベントに合わせて制作されたこちらのフライヤーは、広げると全長40センチを超える不定形で、整然と並べられた文字情報の脇にはエンボス加工がされており、力の入れようが伺える。当時の小野は一柳彗やジョンケージ(「4分33秒」という音楽作品で有名なアーティスト)らとともに新しい音楽の形を模索していた。それを間接的に表現するためのエフィメラだ。

近年、エフィメラが小さな盛り上がりを見せており、エフィメラのコレクターでもある清里現代美術館のアーカイブブックが発売されたり、エフィメラ作品を収蔵していた慶應義塾大学アート・センターとJapan Cultural Research Instituteによる展覧会「エフィメラ:印刷物と表現」も2024年に開催された。

膨大な数が存在するエフィメラだが、未開拓な部分も多い。新しい作品の領域になりうるかもしれない。コンセプトアートもいいけれど、即時的でアーティストの熱のこもった作品の多いエフィメラをチェックしてみるのも悪くないかもしれない…!


今週読みたいアート。入門書編vol.1

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

4月は出会いの季節…。今一度、アートの世界と出会ってみよう。ということで今月フォーカスするのは「入門書」。今回はあえて新刊本ではなく、既に発売されており価格もお手頃で、手に入りやすいものから選んでみました。勉強…とまでは言わないけれど、読んでおけば、作品と出会ったときの体験にもさらに深みがでてくるはず。

◯ 美術の物語/エルンスト・H・ゴンブリッチ・著(河出書房新社)

「今週読みたい」と銘打っておいてなんだが、こちらの本は一生もの。美術の歴史を知りたければ、とにもかくにも、これを読んでおけば間違いない教科書的一冊だ。本書の1番の凄味は、一貫して優しい言葉で記されている点。なにかと専門用語の多い美術の世界でも、とにかく分かりやすく、図説を配置しながら、スタートとなる「ラスコーの洞窟壁画」から現代アートに至るまでの膨大&壮大な美術の世界へ読みやすく展開する。主に西洋にフォーカスしているが、社会的、歴史的な背景とともに、理解が進むはず。昨年10月には河出書房よりポケット版(内容同じく新書に近いサイズ)が発売されている。お値段もお手頃なので一家に一冊ほしいところ。「ポケポケ」も話題だけどこちらの「ポケット」もお忘れなきよう。

◯20世紀美術/高階秀爾・著(ちくま学芸文庫)

昨年逝去された高階秀爾氏による一冊。高階氏は日本を代表する美術史家・美術評論家だ。2000年まで国立西洋美術館長を務め、『名画を見る眼』や『近代絵画史』など著書に代表作も多く、多くの美術学徒たちにとっての心の先生的存在ではなかろうか。とにかく平易な言葉を用いて美術のコンテクストを説明してくれるありがたい存在。なかでも本書は文庫なので手に入りやすい点と、「難解」なイメージのある「現代美術」がはじまった20世紀にフォーカスしている点からおすすめ。いわゆる美術史をおおまかにつかんだら、この一冊を手に取ってみよう。モネら印象派の登場の後、戦争の時代を挟み、どのようにして今日の現代アートへと至るのか、コンパクトにストーリーを追っていける。図版多数なのも親切設計だ。

アートフェア―アートを見る時代から買う時代へ

アートを買うにはどうしたら良いのだろうか。アーティストの個展や百貨店のギャラリーに赴いて直接買う?あるいは度々ニュース等で話題になるオークションに参加する、というのも一つの手だろう。しかし、もっと手軽に、いろんな作品を吟味できる方法はないだろうか。そんな願いを叶えてくれる「アートフェア」でぜひアートを買ってみてほしい。

アートフェアとは

アートフェアはよくアートの見本市と言われている。たくさんのギャラリーやアーティストが一同に会し、その場で鑑賞や購入ができる仕組みとなっており、たくさんのアートを一度にみたい人や、さまざまなアーティストの作品を見比べながら購入を検討している人にとっては絶好の機会なのである。

代表的なものはアートの売買の中心地、スイス・バーゼルを拠点に開催される「アート・バーゼル」だ。アート・バーゼルは昨今のアートフェアトレンドの火付け役だ。その歴史は1970年から始まっており、現在ではマイアミビーチや香港、パリなどのエリアに拡大してアートフェアを開催している。世界各地から200軒以上のギャラリーと4000を超えるアーティストの作品が並ぶアート・バーゼルには、優良な顧客が来ることでも知られており各ギャラリーの作品にも力が入っている。アートフェアでは普段目にすることができない作品を見ることができるのも魅力の一つだろう。

日本のアートフェア

日本でもアートフェアは各地で開催されてきた歴史があるが、海外から見て日本のアートマーケットは未だに小さく、現代アートへの教養や理解度が発展途上であったために、世界の著名なギャラリーがなかなか参加してくれないなどの課題が残っていた。

しかし2023年に初開催された日本初の国際的なアートフェアと題された「Tokyo Gendai」を皮切りに日本でもアートフェアを盛り上げる動きが注目されている。

Tokyo Gendai(東京現代)とは2023年を皮切りに毎年開催されている世界水準の国際アートフェアで、2023年には3日間で20,000人を超える入場者を記録した 。世界各国から集結した現代アートギャラリーによる作品の展示と販売をしている。“国際的”というのは単に海外のギャラリーが参加しているというだけでなく、作品の質や作家の文化的アイデンティティ、ジェンダーなどの指標を鑑みて、グローバルなプレゼンテーションとなるような展示内容となっている。(逆を言えば今までの日本のアートフェアではそのあたりの平等性が担保されていなかったのも問題点だったのだろう。)

「Tokyo Gendai」の様子。世界でもっとも影響力のあるギャラリーのひとつであるPaceが参加するのは日本ではTokyo Gendaiのみ

Tokyo Gendaiでは、会期中のトークセッションやイベントなど体験価値の高まるようなプログラムもたくさん用意されており、単にアートを購入するだけでなく参加者全員が楽しめるような内容となっているのも魅力だ。2025年には第3回をパシフィコ横浜で控えているので気になった方はチェックすることをおすすめする。

日本で最も歴史のあるアートフェアといえば、毎年有楽町の東京国際フォーラムで開催されている「アートフェア東京」だ。Tokyo Gendaiが現代アートに特化したアートフェアだったのに対し、アートフェア東京では古美術・工芸から、日本画・近代美術・現代アートまで、幅広い作品のアートが展示される。また2005年から開催している、日本最大級の国際的なアートフェアで会期中の来場者数は2024年開催時には5万5千人を超えた。

出展数も日本ではトップクラスの150軒超えとなっており、さまざまなアートをまんべんなく見てみたい人にはおすすめのアートフェアとなっている。

「アートフェア東京19」の様子。ソフィ・カルや村上隆が所属する国際的なギャラリー「ペロタン」も参加している。

参加するギャラリーやアーティストにとって、作品が売れることは大事な要素の一つ。その点アートフェア東京は約33億円の売上を計上し、1000万円クラスの作品も多数売買された。そのため参加するアーティストたちにとってもモチベーションが高く、世に出回ることの少ない作品も展示されることも多い。

映像作品やインスタレーションといった、なかなか売買されることが少ない作品もある。そんな作品を多く取り扱っていた「EAST EAST」というアートフェアが2023年に東京・科学技術館にて開催された。

当日はライブパフォーマンスやフード・ドリンクの提供など、アートフェアという枠組みにとらわれない試みも見られ、なかなかアートフェアに馴染みのない若い世代や学生たちにも好評のアートフェアとなった。国内外の24のギャラリーが参加しており、数だけ聞くとやや小規模に感じるかもしれないが、参加しているギャラリーやアーティストはアートフェアに初参加の新しいギャラリーや、学生を含む若いアーティストたちも多く、よりフレッシュでカルチャーシーンを体現するような場となった。オフサイトプログラムとして、渋谷や新宿の街頭での映像作品展示や、クラブやライブハウスでの音楽プログラムなども行われた。次回開催は未定。

ZINEって何?

TOKYO ART BOOK FAIR(通称TABF)はご存知だろうか?東京で毎年10月〜11月頃に開催される、アート出版に特化した日本で初めてのブックフェアだ。口コミやインスタグラムなどで話題を呼び、2009年の初開催から大小さまざまな国内外の出版社、アートギャラリー、アーティストら約350組が出展をし、なんと2万人以上の人々が来場している一大イベントだ。

TABF 2024

TOKYO ART BOOK FAIRでは、もちろん写真集やアートブックなどが展示販売されるなか、特に人気を集めているエリアが、主に自主制作されたZINEを販売する「ZINE’S MATE」と呼ばれるエリアだ。

ZINEとは、個人や小規模のグループによって作られる雑誌や写真集・詩集などの出版物を指す言葉だ。

1930年代のSFファンの間で自主的に作られた「FanZine」に端を発すと言われているZINEの歴史はとても長く、これといった定義やルールがないのが特徴だ。似た言葉として「リトルプレス」があり、自らの手で制作した少部数発行の出版物のことを指す。

2010年代頃からインスタグラムやX(旧Twitter)をはじめとするSNSが世の中に浸透し、いままでクローズドだった個人の主張がよりオープンに公開されるようになった。その影響もあってか、アーティストやデザイナーといった、感度の高い人々を中心に再びZINEという制作手法が再注目されたのだ。

よく似たものとして雑誌があげられるが、雑誌はさまざまなライターやエディターの企画が集まっているのに対し、ZINEは作っている個人やグループの、とても個人的な思いやテーマが色濃く反映された媒体であるところが違いと言えよう。(もちろん限りなく「雑誌的」なZINEや「ZINE的」な雑誌があるのも事実であるが…。)

個性豊かなZINEの作り手たち

TOKYO ART BOOK FAIR 2024のZINE’S MATE出店者の一つである東京・東中野にある「loneliness books」はアジア各地のクィア、ジェンダー、フェミニズムに関連するZINEなどを集めたブックストアだ。

「まとまらないおしゃべりのその先に… #まとおしゃ」 ¥700
フェミニズム的な視点からさまざまな書籍や絵本を制作している韓国の出版社チョウ商会、脳性マヒ当事者としてさまざまな社会運動に関わる古井正代、フェミニスト手芸グループ山姥のメンバーたちのおしゃべりを記録したZINE。



「MORIMICHI ZINE’S FAIR」は“モノとごはんと音楽の市場”をテーマに掲げる「森、道、市場」というフェスの会場内で開催されているZINEのイベントだ。愛知県三河地域を中心に開催され、初夏の3日間を上質な音楽やおいしいご飯をたのしみながらZINEをチェックすることができる。

参加者の「VOYAGE KIDS」は移動式アートブックショップを全国で開催したりもする大阪のアーティストグッズショップ。アートや音楽、ファッションなど、「街で表現する」国内外のアーティストの展示会や出版を手がけている。

「ずれマン(ずれてるマンホール) 」 小川樹 ¥770
名前にはっとするZINE。文字通りズレてるマンホールをただ撮影しまくっている写真集。う~~ん…ズラしたいっ!

国内外のアートフェアやイベントでも展示をする「ドキドキクラブ」も独自な視点でZINEを制作しているアーティストの一人だ。

「サンバイ婆」ドキドキクラブ ¥1,500

サンバイザーを目深にかぶる中年女性を撮りためた「サンバイ婆」、日常の風景にノリツッコミを仕掛ける「ザ・ショック」、衝撃的なタイミングをカメラで収めた「ステキなタイミング」など上げればきりがない。

アートブックだと装丁や印刷もしっかりしている分、値段もそれなり。ZINEはカジュアルで値段も買いやすいため、気軽に好きなアーティストや作家のグッズとして購入することができる点も魅力的だ。

ZINEを作ってみよう

いろいろなおもしろ&楽しいZINEを紹介してきたが、自分にもできそうかも?とムズムズしている読者も多いのではないだろうか。ここからはどうやったらZINEが作れるのかを紹介しよう。

MOUNT ZINE(マウントジン)は、誰でも参加できるZINEプロジェクトだ。国内外でのイベント開催やZINEショップの運営、ZINEスクールを開講しており、参加すれば初心者でもZINEをつくることができる。作り方を教わったあと、制作のサポートやアドバイスをもらったり定期開催しているZINEのイベントに出店することもできる。

イベント「MZ28」の様子

もう自分でも編集や制作ができる、という方は、作ったZINEを印刷してみよう。

「三交社」という印刷会社では「ZINE(アートブック)印刷」のプランがあり、印刷のプロが作りたいZINEの雰囲気や予算にあわせてさまざまなパターンを教えてくれる。印刷に使う紙の種類や製本方法など自分だけのこだわりのZINEをなるべく手軽に作るための味方になってくれるはずだ。

もっと手軽にZINEを作ったり公開したい人にはコンビニプリントを使うのも手だ。所定のアプリなどを使用してオンライン上にデータをアップロードしたら、コンビニにあるプリンターで操作するとその場で印刷・製本をしてくれる。また予約番号をSNSなどで公開すればどこでも印刷することができるようになり、ZINEフェアなどに参加しなくても日本各地に自分が作ったZINEを公開することができる。(印刷代は印刷する人が負担)

おもしろい視点や作品に出会うことができるZINE。かくいう筆者もZINEを作ったり売ったりした経験がある。完成したときや売れたときの喜びもひとしお、ZINEフェアに参加すると同世代で同じようにZINEを作っているクリエイターから刺激をもらえる。見る側と作る側の双方が楽しい、それがZINEなのだ。

東京カルチャートリップ【前編】

近年、海外からの観光客が爆発的に増加している東京。そんな東京は日本屈指のアート・カルチャースポットを有している。最新のアートを紹介するギャラリーや、ヒップな若者の集まるショップやミュージッククラブなどを紹介していこう。

伝統と革新が共存する都市

エリアによって様々な顔をもつ東京。街の特色をうまく反映したスポットに注目が集まる。その代表的なまちが新宿だ。昔ながらの街並みと再開発をとげた“キメラ都市”新宿は現在最もホットなエリアだ。

デカメロン:PR Timesより

アートギャラリーを併設したバー「デカメロン」は、アート作品を鑑賞するのと同時に、おいしいお酒も味わう事ができる。アーティストなど、様々な人が訪れると噂の「デカメロン」。2025年3月からは、ディレクターにアーティストである磯村暖が就任したから、今後の展開にもご注目。

「デカメロン」から徒歩圏内のビームスジャパンは、一棟まるごとカルチャーを発信するスポットになっている。

BEAMS JAPAN 外観:PR Timesより

デザインに溢れた和工芸や特産品に加えて、ラジカセを集めたコーナー、アートギャラリーまであり、有名無名関係なくアート作品を展示販売している。

そして、アートギャラリーが集積する施設をアートコンプレックスと呼ぶ。東京には六本木や品川・天王洲エリアなど何ヶ所かギャラリーや美術館が集積する場所があるが、ビジネスマンの集まる街「京橋」にも近年アートスポットの盛り上がりが目覚ましい。

TODA BUILDINGエントランス/持田敦子ー Steps:PR Timesより

戸田建設の本社ビルでもある「TODA BUILDING」は銀座線・京橋駅やJR東京駅からアクセス可能で、アートとビジネスが交差する拠点として2024年に誕生した。

3階には草間彌生の所属する小山登美夫ギャラリーやKOSAKU KANECHIKAなどのギャラリーが集まり、6階ではアニメ、マンガ、音楽といったポップカルチャーや現代アート、デザインなど多彩な領域の展示を行うCREATIVE MUSEUM TOKYOがオープンしている。

下町文化と現代アートの融合

ビジネス街から、今度は下町に目を向けてみる。前述した京橋駅から電車で30分弱。京島駅、および墨田区周辺でもアートスポットの盛り上がりを見せている。歴史の残る建物と下町コミュニティが織りなす相乗効果で若手アーティストが増えているのだ。

このエリアの特徴は、なんと言っても長屋文化。1923年の関東大震災、さらには1945年の東京大空襲といった災禍を乗り越え、独自の発展を遂げてきた。東京で最も多くの戦前からの長屋が残っていて、今なお残る江戸の風土、人情味の色濃いこの街は、再開発の進む東京の街々からは一線を画している。

向島では、あくまで元ある街に寄り添ったカタチでの芸術活動が盛んなのだ。

街のそうした気運を先導するのが「すみだ向島EXPO」だ。2020年の初開催から、毎年異なるテーマを掲げながら、今年2025年まで途切れることなく、地域に密着したイベントとして継続中。

昨年2024年には、『「花」と「森」』をテーマに、様々な華道家やフローリストが参加した他、画家やアーティストは、古い家屋を年輪を重ねた樹木に見たて、花や森を描くことで、街中に花が咲くような1ヶ月を演出した。

すみだ向島EXPO2024ロゴ:PR Timesより

同イベントでの「夕刻のヴァイオリン弾き」では、ヴァイオリニストである小畑亮吾 による生演奏が行われた。三角長屋の2階より、街に18時をしらせる時報としての企画は、地域との繋がりを新たにしている。

小畑亮吾による「夕刻のヴァイオリン弾き」:PR Timesより

このように、最新鋭のスポットから、地域の歴史を活かしたアート運動まで、様々なカルチャーのミックスした混沌を極めるメガシティ東京は、クールでホットな大都市だ。観光の選択肢として、アートに触れてみてはいかがだろうか。

後編では、新宿の最新クラブシーン+@をご紹介。

全国をめぐるアートツーリズム

デジタルのモノや情報が溢れる現代において、五感を使って楽しむ旅行は、すごくアナログだけど、そこでしか得られない喜びを与えてくれるものだ。おいしいご飯においしいお酒、まだ見ぬ素晴らしい景色を見たり、旅先で人と出会ったり…。そうした楽しみに加え、最近では美術館や地域の芸術祭を見ることも、旅行の目的の一つとなっている。アートツーリズムだ。

海外を見れば、パリのルーヴル美術館やロンドンの大英博物館、ニューヨークにはメトロポリタン美術館(MET)やMoMAといった具合に、世界中の大都市には必ずと言っていいほど有名な美術館や博物館が存在している。読者のみなさんも観光に訪れた都市で美術館やギャラリーを探したことがある人も多いのではないか。同じように日本でも全国各地にアート的魅力を有したスポットは数多く存在している。今回はそんな中でも、様々なカタチでアートにちなんだ宿泊施設をご紹介。

アートに宿泊

杜人舎の宿泊部屋

富山県にある善徳寺は、民藝運動の提唱者である柳宗悦が、その集大成である「美の法門」の執筆で滞在したことでも有名だ。

2024年3月、この善徳寺の研修道場を改修し、泊まれる民藝館として「杜人舎」がオープン。元の研修道場は、柳の愛弟子である建築家・安川慶一が設計していて、かつての趣は残したまま、館内全体を民藝品が飾る。それも棟方志功や浜田庄司、河井寛次郎といった名だたる民藝作家の作品や、世界の民藝品が並んでいて、美術館のような宿泊施設となっている。

また、暮らしのあり方から社会を問うという、民藝運動の根底思想を現代に継承すべく、杜人舎では宿泊以外に「土徳」に触れる講座やアクティビテなども豊富に用意されている。多くの人が学び、集う、「美しい暮らしの学び舎」となっているのだ。

リデザインによって蘇ったという点では、群馬県の白井屋ホテルも共通している。

白井屋ホテル外観:PR Timesより

創業は江戸時代で、旧宮内庁御用達だった白井屋旅館。かつては森鴎外や、近年話題になったドラマ『VIVANT』の主人公乃木憂助のモデルとなった軍人の乃木希典などの著名人も訪れていたというが、中心市街地の衰退とともに2008年に惜しまれながらも廃業。残った建物も取り壊しの危機に晒されていたが、2014年より再生プロジェクトが始動。

デザインと設計を建築家の藤本壮介氏が手掛けた他、レアンドロ・エルリッヒをはじめとする国内外の様々なクリエイターが参加し、6年半におよぶ大改修と新棟建設の末、2020年、白井屋ホテルとして姿新しく蘇った。

金沢21世紀美術館の「スイミング・プール」でも知られるレアンドロ・エルリッヒや、杉本博司、宮島達男などの作品がホテルの内部のありとあらゆるところに散りばめられていて、いつものホテルとは違った空間を楽しむことが出来るだろう。

建築美とロマンを奇数に賭けて

広義なアートにおいて、人のつくったものの美しさをそのうちの1つとするなら、やはり建築美についても触れねばならない。

メインダイニングルーム・ザ・フジヤの格天井

1878年、日本で初めての本格的なリゾートホテルとして創業した富士屋ホテル。箱根宮ノ下に構えた荘厳な意匠は、その建物の多くが有形文化財に登録されている、言わずと知れた名建築だ。

食堂棟の二階に位置するメインダイニングルーム「ザ・フジヤ」の格天井には636種類の異なる高山植物が描かれ、天井付近の壁には507羽の鳥と238匹の蝶が、その下には十二支を中心とした動物の彫刻が施されている。この天井画は2018年より、川面美術研究所による保存修理が行われ、その際に渡部浩年・本多蕉風・大沼南圃・梅荘という4人の日本画家が分担して当時の天井画の制作をしていたことが新たに判明した。このように細部にまでこだわり抜かれた意匠建築だ。眺めるだけで楽しむことができる。

ジョンレノンとオノヨーコもかつて宿泊し、ホテルの名物であるアップルパイを大変気に入ったそうだから、訪れた際はぜひ食べてみて欲しい。

後編では、鑑賞者ではなく、アートの作り手に優しい宿泊施設をご紹介!

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