『PAC-MAN』が繋ぐエンターテインメントの新境地【前編】

「namco TOKYO」と言えば、新宿にあるゲームセンター。運営するのはバンダイナムコアミューズメントだ。ゲームセンターのイメージが強い同社だが、この他にも様々な取り組みを行っている。例えば「VS PARK」では、テレビのバラエティ番組のように大掛かりで、走ったり、投げたり、打ったり、跳んだり。様々なエンターテインメント要素をふんだんに盛り込んだアクティビティを楽しむことができる。

今回は、多方面に事業を拡大しているバンダイナムコエクスペリエンス経営企画部経営戦略課に所属する松村氏に話を伺った。

バンダイナムコエクスペリエンス経営企画部経営戦略課に所属する松村氏に話を伺った。

B- バンダイナムコエクスペリエンスの経営企画部経営戦略課とは具体的にどのような仕事をするのですか?

松村- ビジネスの種を見つける仕事ですね。既存事業ではない新規事業を検討する課になります。

B- その事業の一環で、アートに目を付けられた?

松村- いや、正直言って、アートとのコラボは偶然なんです。偶然というか、ご紹介いただいたのがきっかけです。実際にGAAATさんの作品を見た瞬間に、IPとの親和性だったり、これまでにない価値を提供できそうだな、と。そこから前向きにお話しさせて頂きました。

『Maze』の前に立つ松村氏。

B- いざアート作品を作るにあたって、どうして『PAC-MAN』だったのですか?

松村- 単純に僕が好きだからっていうのもあるんですけど、今回、まずはじめに顧客ターゲット層として思い浮かんだのがインバウンドだったんですね。

B- 確かに、海外での日本のアニメ、漫画の人気すごいですからね。

松村- コロナでの自粛期間中に、すごい配信プラットフォームが伸びたんですね。その間に日本アニメってすごい認知度が上がったんですよ。

B- なるほど。

松村- 特にアメリカでは『PAC-MAN』人気ってすごいんです。熱狂度がすごくて。この『PAC-MAN』を正しい形で魅力的なコンテンツにすることができれば、絶対多くの人に共感してもらえるだろうなと思いました。

B- 最終的に作ったのはMCA(メタルキャンバスアート)作品でしたよね?

松村- そうですね。

B- それはどうして?

松村- IPキャラクターって、機能的な商品が多くて、例えばボールペンにキャラクターが描かれている物とか、ドリンクのパッケージにキャラクターがついてるとか、そういう付加価値。

B- いわゆる、副次的なものというか。

松村- 情緒的なものでいうと、フィギュアだったり、ぬいぐるみとか、アクリルスタンドみたいなものがメインだと思うんです。 何かもうちょっと、キャラクターを生活に馴染ませるというか、憧れられる形で展示できるものがないか、ちょうど探してたところだったんです。 そんな中で、パッと見て価値が伝わる、これであればお金を出してもいいなと思うようなものだったので、試してみたいと思いました。

GAAATと『PACK-MAN』のコラボによるMCA作品。

B- 合わせて体験型空間エンターテインメントを企画されたんですね。

松村- そうですね。

B- 生演奏を聴きながら踊れて、神輿を担げる。アートも見て、尚且つ買えるイベントだったと聞きました。

松村- これもインバウンドに対して、うちのコンテンツを組み合わせた音楽イベントみたいなものができれば面白いなと思ったのが走りです。ただ音楽聴いて飲めるイベントじゃ面白くないよねっていうので、アイディアを出していく中で、例えば神輿担げるってどう?みたいなアイディアが出てきたんです。その場では、いやないでしょって思ったんですけど、その日帰った夜に、ずっと神輿のことが頭から離れなくて。確かにおもしろいなと。それで試しに作ってみたっていう感じですね。

東急歌舞伎町タワー内『namco TOKYO』で行われた「PAC-MAN MIKOSHI FEST.」の会場の様子

B- 音楽はどうしてシティーポップにしたのですか?

松村- これもアメリカでとてつもない認知度と熱狂度のあるシティーポップを掛け合わせるっていう狙いです。 あとちょっと裏話ですけど、本当は『PAC-MAN』で一つの音楽を作りたいなって思ったんです。イベント当日に、三、四十分ぐらい生演奏の尺がある中で、『PAC-MAN』っていうと、1980年発売のゲームなのでそんなに音源がないんですよ。その三、四十分持たせるような音源素材が存在してなかった。

B- なるほど。

松村- 『PAC-MAN』が生まれた当時1980年代のシティーポップと、『PAC-MAN』のSE(ゲーム内の効果音)を効果的に使ってやりましょうっていうのを、今回入って頂いた音楽プロデューサーの方に提案していただいて、面白そうだなと決めました。

シティーポップの生演奏を聴きながらお酒を飲む。加えて神輿を担げてアートも見れる。買える。一見なんの繋がりもないように思えたイベントの狙いや内実を聞けたところで、後編では、そもそも、どうしてこのイベントを企画したのか、その背景を伺えればと思います。

PAC-MAN™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.

『PAC-MAN』が繋ぐエンターテインメントの新境地【後編】

前編に引き続き、バンダイナムコエクスペリエンス経営企画部に所属する松村氏へのインタビュー。後編では、松村氏が描く、これからの体験型空間エンターテインメントのカタチ、さらには、眠っているIPコンテンツの潜在能力、その可能性について伺った。

B- 先日のイベント企画の背景を教えてください。

松村- 実は2年前に立川の昭和記念公園で行われた花火大会で、『太鼓の達人』を使ったイベントを出展したんです。昭和記念公園内に『太鼓の達人』があそべるブースを作って、花火大会が始まる前の時間に無料で叩けるような企画で。

B- 花火が始まるまで暇ですもんね(笑)

松村- それがすごいね、 僕的にはいい仕事したなと思っていて(笑)。

上手い人がやっても盛り上がるし、ちっちゃい子どもが頑張って叩いたりしていて、子どもも楽しいけど、後ろの親御さんたちもそれを見て喜んでくれる。 

そこまでは想像できていたのですが、それを見る周りの関係のない大人たちまで笑顔になっていく連鎖がすごく素敵でした。

B- 関係ない人たちまで!

松村- そうですね。あとはやっぱり、この場が一体として盛り上がってくれているのが、すごくいいなって思いました。これまで僕らって、基本的に固定の場に店舗を作って商売させて貰うということをやってきました。

ただ、これはどちらかというと、人が集まる場所に、僕らが持っているコンテンツを持っていって、そこで熱狂が生まれた。

B- 待つのではなく、行くというか。

松村- ですね。僕らのコンテンツって、まだまだこういう価値の届け方があるのだと気づいたわけです。

既存の場所に出店をして楽しんでいただくっていうスタイルだけではない方法を検討する必要があるなと感じました。

B- 花火大会での手応えと、そうした可動式のイベントというアイデアが基になって、先日の「PAC-MAN MIKOSHI FEST.」に繋がったのですね。

松村- そうですね。これらの背景から持ち運びができるっていうところがキーワードとしてありました。その構成要素が、音楽、映像やアート、神輿と、どんどん増えてきた感じです。

イベント会場に設置された『PACK-MAN』の神輿。

B- イベントを終えて、改めて感じたことや、これからのエンタメのあり方として、何かお考えはありますか?

松村- 単にイベントでアートとか物販を売るっていう形にはしたくないのです。ああいった体験型コンテンツ全体が、来て頂いた人たちはもちろん、コラボさせて頂いたアーティストの方にとっても魅力的な場所みたいなものになっていくと僕は嬉しいなと思っています。

B- 具体的にはどういうことですか?

松村- 日本の技術や若い人の感性ってまだまだ発掘され切っていないと感じています。能力は持っているのになかなか認知されていないとか、披露する場がないみたいな人。 そういう方たちに対して、僕らの、企業としての信用と提案力を持って、いろんな人の目に触れる機会をうまく作れればなっていうふうに思います。

これは将来的に狙っていきたいというか、そういう人たちがしっかりと認知されて、当然来場してくれるお客さんも楽しめたうえで、アーティストや僕らがご飯を食べていけるような状態みたいなものを作り上げられたら仕事として最高に楽しいなと思っています。

B- ある種メディア的な役割という。

松村- そうですね。そういった風になれると嬉しいなと思っています。

B- ニューカマー的な人を発掘するわけじゃないですけど、そういう人たちが表現できる場ということですね。

松村- うまく構成していけば、結構いい場所になるなと。そこをさっきおっしゃっていたように、本当にメディアとして捉えて、広場のようにして、名前が売れていく人が出てきたらそれもまた嬉しいです。 結果的にはその人たちが本気で作ってくる商品だから、お客さんも喜んでくれる商品になるよねっていうふうに思います。

B- それはIPコンテンツとしての人気度とか知名度があってこそ、そういった役割を担えるってことですね。

松村- それもありますし、あとはIP自体の鮮度っていうところもあるかもしれないですね。

B- どういうことでしょう?

松村- 『PAC-MAN』は、今年で45周年なのです。それが今回、MCAとして新しい形で表現できた。一つのキャラクターに対して、こうした継続的な提案や、新しい見せ方を模索して、それが確かに良いものであれば、お客さんに対して新しい価値提供ができることが分かった。

キャラクターにとっても継続的な提案は必要な要素だと考えています。

B- 相互にとって、素晴らしいコラボだったわけですね。

イベント当日には大小様々な『PACK-MAN』のMCAが販売された。

バンダイナムコグループの掲げる、「いいものつくる」「もっとひろげる」「そだてつづける」「みがきふかめる」。そのひとつのかたちとして、これからの『PAC-MAN』を楽しみに。
そして、インタビューを通して気がついたのは、手塩にかけて育てられ、愛されたIPキャラクターの懐は、思ったよりも深そうだということ。人気IPを通して広がるカルチャーの輪は無限だ。
様々なカルチャーを巻き込んでフックアップしていく『PAC-MAN』の後ろ姿は、見られないけれど、きっと、たくましいに違いない。

PAC-MAN™& ©Bandai Namco Entertainment Inc. 
Taiko no Tatsujin™Series & ©Bandai Namco Entertainment Inc.

伝統文化のフロンティア

「僕から一個だけ。憧れるのをやめましょう」から始まった大谷翔平の言葉は、2023年、ベースボールクラシック(WBC)決勝の舞台を前に、侍ジャパンの気を引き締めるには十分だった。前回王者であるアメリカを3-2で下し、実に14年ぶり3度目の優勝。悲願の世界一奪還を成し遂げたのだ。

試合前、円陣での声出しを務めた大谷の言葉は次のように続く。

「憧れてしまっては超えられないので、僕らは今日超えるために、トップになるために来たので。今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう。」

「謙虚な日本人」というレッテルを、この日だけはそっと剥がして果敢に立ち向かった侍ジャパンの勇姿は、今なお鮮明だ。だが、戦いの場はスタジアムに限った話じゃない。野球のような熱狂や派手さはないかもしれない、いや、ところがそんなこともない。

今回は、時にド派手に、しかしリスペクトは忘れず、伝統文化に挑戦する人たちを紹介していく。

独自スタイルで切り拓く新たな茶道

松村宗亮は、茶の湯の基本を守りつつ、現代にあった独自のスタイルを構築している茶人だ。松村は学生時代にヨーロッパを放浪。その時に自分は日本人でありながら日本文化を知らないということに気がつき、帰国後に茶道に華道、習字を始めた。中でも「お茶」に面白さと可能性を見いだし、のめり込んでいく。

全く独自の世界観でお茶を点てる松村宗亮:PR Timesより

「ルールの間にある自由さ」が楽しいと語る通り、彼の活動は自由、もっと言うと無茶苦茶にも見える。と言うより「無茶苦茶」は、彼が会長を務める会社の名でもある。

世界的なデザインの祭典である「Dubai Design Week 2023」では、「アラビ庵」での茶会をプロデュース。茶室はその土地の緯度から形状を導き出し、地域の生ゴミを「食品コンクリート」として建設するなど、展示国であるドバイの文化にちなんだ企画は大変話題を呼んだ。

「Dubai Design Week 2023」にて「アラビ庵茶会」をプロデュース。©Mucha-Kucha Inc.

コンテンポラリーアートや舞踏、ヒューマンビートボックス、漫画などとの積極的なコラボレーションにも見られる彼の独自性は、ある意味では必然だった。

それは、無名かつ初代といういわばハンデを持って、伝承文化である茶道の世界に飛び込んだ彼の生き抜く術でもあったわけだ。利休の時代から脈々と続く、創造性や精神性、爆発力を忘れずに、彼の活動は納まるところを知らない。

言語学のズレを焦点に

伝統に則り、拡張していく動きは、書家の山本尚志にも共通している。

著者インタビュー【前編】|山本尚志「書は現代アートとなりうるのか!?」:ART DIVER

「モノにモノの名前を書く」ことを立脚点として、書と現代アートを行き来する山本。
彼は「書」が言語であると想定しつつも、言語学とは元来西洋の文脈であり、漢字やひらがな、カタカナには対応していないところに目を付ける。

例えば、リンゴという物質を表す英単語は「apple」。

これが日本語の場合は「リンゴ」や「林檎」、「りんご」…。
日本人からすると、何を当たり前なことを、という話だが、海外の人からすると、

「…?」

山本は、西洋の言語学と、日本や漢字文化圏の言語学のこうした明らかなズレに焦点を当てた。

山本尚志『マシーン』, ボンド墨・和紙,, 695×1350 mm ©Hisashi Yamamoto, Courtesy of Yumiko Chiba Associates:PR Timesより

また、同氏は2018年より「ART SHODO」を提唱。現代書の認知と書家の発掘を目指した組織で、今では100人ほどの規模にまで成長し、様々な作家を輩出している。

山本から広がる現代アートとしての「書」。その盛り上がりから目が離せない。


と思っていたが、街中で見かけたスニーカーには、思わず目を奪われた。

TRADMAN’SとVANSのコラボによって実現した「盆栽」のテクスチャーを用いたOLD SKOOL。Copyright TRADMAN’S All Rights Reserved.

VANSの「OLD SKOOL」を彩るのは、遠目にみると迷彩柄だが、よくよく目を凝らすと…盆栽!

盆栽のニュースクール

平安時代に中国から伝わったとされる盆栽は、日本で独自の発展を遂げた。銀閣寺を建立し、文化的側面でもよく知られる室町幕府8代将軍足利義政も盆栽を育てていたそう。

『ESC Garage&Club(エスク ガレージアンドクラブ)』で行われたPOPUPでの展示作品。:PR Timesより

そんな、いわゆる手の届かない盆栽のイメージを刷新したのが、小島鉄平だ。彼が代表を務めるTRADMAN’S BONSAIでは、先のVANSをはじめ、様々なコラボレーションを実現。

小島鉄平率いるTRADMAN’S BONSAI:PR Timesより

彼もまた松村宗亮同様、事のきっかけは海外での出来事だった。当時アパレルバイヤーとして米国を巡っていた小島が目にしたのは、曲解された「盆栽」の姿。自慢げに見せられたそれは、鉢合わせも剪定もできておらず、幹にペンキを塗ったものまであったという。

松村と事情が異なるのは、彼は幼少期から盆栽に触れていた点。

服の裾からチラリと見えるタトゥーや、ストリートカルチャーやファッションを好んでいるパーソナリティからわかるように、幼少期から盆栽の「カッコよさ」に惹かれていたという。海外で曲解されていた「盆栽」のカッコを外し、その素晴らしさを、国内外に伝える小島。

彼もまた「オールドスクールがあってのニュースクール」と語っている。

TRADMANS TOKYO MARUNOUCHI BONSAI STORE:PR Timesより

登場した3人に共通するのは、先人を尊びながらも、果敢に挑戦する姿勢。進化論にもわかるように、移ろいゆく時代の中で淘汰された種は数えきれない。伝統文化もまた、新陳代謝を繰り返すことで時代を超えてゆく。

そしてこここそが、伝統文化の最前線だ。

アートブレイク-アートとジョークの関係性

彼の代名詞である、特別に長い鼻。毎朝大声で騒ぎながら村中に嘘をふれて回る、それでいて憎めないキャラクター。『ONE PIECE』のウソップは、この大作の中でもとりわけ存在感を放っていると思う。

現実的に考えてみると、彼の場合は、その嘘が毎日続いたのだから、確かに隣人としてはちょっと厄介かもしれないのだが…。
それでも僕は、ちょっとした嘘、少しばかりの悪戯はあっていいように思う。というよりむしろ、緊張した日々を弛緩するのには、とても大切なこととさえ思える。

なぜ人々は嘘をつく日を必要とするのか

そのひとつの根拠として、エイプリルフールの存在がある。試しにWikipediaで「エイプリルフール」と打ってみると、その起源の説明は次のようにはじまる。

エイプリルフールの起源は全く不明である。すなわち、いつ、どこでエイプリルフールの習慣が始まったかはわかっていない。

エイプリルフール:Wikipedia

ここに書かれていることを、考えれば考えるほど不思議に思う。

他の季節のイベントであれば、その出自は大半が明らかだし、さらには商業的な視点が多少はチラつくもの。ところが4月1日ときたら、人々がちょっとした嘘をついたり、悪戯を企てるだけで、「お金」の入り込む隙はどうやら無さそうだ。

それでも未だに人々の暦の中に意識として存在しているのをみると、「この日」だけは、ちょっとのブレイクとして残しておきたい、そんな気持ちがあるのかもしれない。

そしてその感覚は、高尚と見られるアートの世界においても例外ではなかった。

これは、アートと、ちょっとした遊び心の話。

モナ・リザの新たな一面?

世界的名画である「モナ・リザ」。

1990年、インディペンデントは、モナリザの大規模な清掃を行う芸術修復チームが驚くべき発見をしたと報じた。汚れの層を取り除くと、絵の中の彼女は実際には顔をしかめていることがわかった。

というようなジョークで、「モナ・リザ」に対するこの手のジョークは、メディアから市民に至るまで、多くの人の間でもはや常套句になりつつある。

この他にも、美術館側が声明を出したり、展示企画をすることも少なくない。

例えば、エイプリルフール当日に本物そっくりの偽作品を展示したり、解説文に嘘の情報を混ぜたりする他、有名な芸術家の「新たに発見された」作品として、スタッフが制作した模造品を展示するなど、おふざけが過ぎるとも思えるが、この日だけはご愛嬌。

それだけではない。とある美術館では、過去に「全ての芸術作品がフェイクである」という看板を掲示したこともあり、単なるおふざけに留まらず、芸術とは何か、考えるきっかけにもなり得るのだ。

仕掛けに隠された思い

エイプリルフールではないが、とあるアートマーケットにて起こった一大事件も記憶に新しい。
まず、アートマーケットの世界では、セカンダリーマーケットなるものが存在する。作家が制作した作品を、自ら相場を計りつつ値付けし、それをコレクターやバイヤーが購入する。これをプライマリーマーケットと呼ぶ。対して所有者が再び作品をオークションに売りに出すことをセカンダリーマーケットと呼び、この時にプライマリーマーケットの価格との差額がすなわち、今後の作家としての市場価値に反映されるわけだ。

2018年10月5日、このアートマーケットにおいて、一躍注目を集めた大事件が起こる。
ロンドンで起きたその事件の首謀者の名は、バンクシー。

彼はこうした資本主義とアートの強い結びつきへのアンチテーゼとして、作品に、ちょっとした細工を仕掛けた。

その日は、「Girl with Balloon」と題された作品がオークションに出されており、次から次へ価格が高騰していき、価格が100万ポンド、日本円にして約1.5億円にまで昇り、落札ハンマーが下ろされた。するとその音を号令に、額縁に隠されていた装置によって、「Girl with Balloon」は木っ端微塵に切り刻まれたのだ。

Why Banksy’s ‘Shredded Girl With Balloon’ Painting May Now Be Worth £2 Million:Insider

「Girl with Balloon」は木っ端微塵に切り刻まれたのだ。

何となしに読み過ごすこの一文が、しかしアートとは何かという問いに対するひとつの見解を雄弁に語ってくれる。「Girl with Balloon」という物質そのものは確かに塵となったが、芸術としてのその「絵」は、装置が作動して初めて完成したと言える。いわば装置の作動は、最後の一筆だったというわけだ。

このように、ちょっと笑えるユーモラスなものから、凝り固まった芸術観へのアンチテーゼとして、アートとは何かを考えさせる内容のものに至るまで、様々な出来事を紹介してきた。

アートは怒らない。ちょっとのおふざけは許してくれる懐の深さは、「高尚なアート」のイメージとは大きくかけ離れたものだ。束の間の休息でコーヒーブレイクをするのと同じように、アートを舞台に、ギリギリを攻めたり少しのジョークを楽しむ、日々の生活の彩に、アートブレイクがあるといい。

IPコンテンツの広がる可能性

2010年、低迷していたユニバーサルスタジオジャパンに入社したマーケターの森岡毅は、それまでの映画に特化したテーマパークというUSJのイメージを刷新し、数々のアニメや漫画とのコラボレーション企画を打ち出してきた。入社当時の年間来場者数が約730万人だったのに対し、2016年度には、およそ2倍である1460万人の来場を達成。目覚ましいV字回復を成し遂げた。その間斬新なアイデアを打ち出し続けたが、この快進撃にアニメや漫画とのコラボレーションが一役買っているのは言うまでもない。

また、ユニバーサルスタジオハリウッドでは、2025年の4月よりUNIVERSAL FAN FEST NIGHTSを初開催。同イベントでは、日本からは『ONE PIECE』、『呪術廻戦』が参加し、テーマパークでしか味わえない特別な体験を味わうことが出来る。

だが、分野を跨ぐ越境は、なにもマーケターの専売特許ではない。先に述べたコラボレーションが生み出す経済効果は自明の事だが、越境による異種混交は今に始まったことではない。人類のまだ見ぬ景色への欲望は、およそ180万年前にアフリカから踏み出した最初の一歩目から、アポロ11号に乗ったニール・アームストロングの月面歩行、そして現在までの系譜の中で、そのダイナミズムを加速化させている。轟轟と走り出したテクノロジーの波は収まることを知らない。

そしてその流れはアートの世界にも飛び火。
「高尚なアート」はその姿を変え、形を変え、あちらこちらに散開した。

今やアートは至るところに、お、言った側から…。

アートによって拡張するIPコンテンツ

もはや知らない人はいないであろう、『ドラゴンボール』。
2019年にはコラージュアーティストである河村康輔とタッグを組み、ユニクロのグラフィックTシャツラインである「UT」から「ドラゴンボールUT」を発売。イラストを一度裁断し再構築するというシュレッダーデザインによって、新たな表現として生まれ変わった孫悟空の必殺技「かめはめ波」など見どころはたくさんだ。

先の河村康輔は2017年には渋谷PARCO企画である『AKIRA』アートウォール・プロジェクトを展開。『AKIRA』作者である大友克洋とタッグを組んだ同企画は、当時建て替え工事中であった渋谷PARCOの工事仮囲いをキャンパスとし、「ただの壁」だった場所をパブリックアートとして彩った。IPコンテンツとアートのコラボレーションが起爆剤となり、都市開発に新しい風を吹き込んだのだ。カニエ・ウェストもお忍びで来日するなど、大変話題を呼んだ事は記憶に新しい。

渋谷PARCO の建て替え工事に伴う仮囲いをアートウォールとして活用した「AKIRA ART WALL」:PR Timesより

先の事例同様、『ポケットモンスター』も精力的なコラボレーションを展開している。2020年には、現代アーティストのダニエル・アーシャムとのコラボレーションを実現。「1000年後、3020年に化石になって発掘されたポケモン」を彫刻作品として制作するアートプロジェクトで、ピカチュウやイーブイなど、馴染みのポケモンたちが化石となって展示された。

ポケモンはその後も同氏とのコラボを重ね、それまでの作品を一挙にまとめた『ダニエル・アーシャムのポケモン図鑑』が2022年、美術出版社から発売。24種の彫刻ドローイングに加え、ペインティングなど91作品を収録している。

ダニエル・アーシャムのポケモン図鑑/ダニエル・アーシャム/美術出版社

さらに2024年、ポケモンは「工芸」とのコラボレーションにも挑戦。人間国宝である桂盛仁はじめ、総勢20名のアーティストがポケモンと「工芸」の掛け算を見事にやってのけた。本展示では、日々を彩る器、着物や帯留など粋な装いに誘い込まれたポケモンたちを見ることが出来る。2025年は日本国内3箇所で巡回するというから見逃すわけにはいかない。

『ポケモン×工芸展ー美とわざの大発見ー』松坂屋美術館、今井完眞『フシギバナ』

国内外を問わず大人気の『鋼の錬金術師』が2017年にコラボしたのは、墨絵師である御歌頭氏だ。墨絵師とは読んで字の如く、墨で絵を描くアーティストのこと。かの水墨画は墨絵の一種であり、中国での修行後帰国した雪舟によって日本独自の水墨画が確立された。そうした歴史深い墨絵において、御歌頭氏は中でも戦国武将と城を中心に描くアーティストだ。それに加えアニメや映画、スポーツの墨絵化でも知られており、彼もまた異なる文脈を見事に繋ぎ合わせている。本企画では、『鋼の錬金術師』の人気キャラクターを墨絵で描き、それを和紙にプリントしたグッズを販売。日本特有の歴史深い文化とのコラボレーションは、国民的アニメを新鮮なイメージで再解釈している。

墨絵師・御歌頭氏とANIPLEX+による【墨絵コレクション】第3弾として、「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」が登場。:PR Timesより

このように、今やIPコンテンツとアートのコラボレーションはあちらこちらで同時多発的に発生している。慣れ親しんだあの作品やこの作品の新鮮な姿を見ていると、移ろいゆく時代の中でナニかが蠢く気配を感じる。アートも、IPも、さながら生き物かのように、これからも変わり続けるだろう。その姿を、1ファンとして、見届けていきたい。

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