【インタビュー】 感情を込めない。つのさめの描く無機質の美学- 後編

緻密な線を積み重ねることで生まれる、つのさめさんの不思議な世界観。後編では、彼女の思考を形作るプライベートな関心事や、現在連載中の漫画『キョンシーちゃん』に込めた想い、そしてクリエイターとして「細く長く」歩み続けるためのフラットな姿勢について話を訊いた。

「わからないもの」への好奇心とSF的思考

つのさめさんの作品には、魚や海辺のモチーフ、あるいはSF的な要素も登場します。ご自身のルーツとして、何か影響を受けているものはありますか?

つのさめ – 子供の頃は、いわゆる「ジャンプ漫画」や「ポケモン」といったポップなものが好きでした。でも、それとは別に図鑑を眺めるのが好きだったんです。魚、虫、そして宇宙。
大人になってから気づいたのですが、私は「自分が理解できないもの」に対して、ずっと強い好奇心を持っていたんだと思います。

それが、今の「情緒の読めない」作風に繋がっているのでしょうか。

つのさめ – そうですね。「感情を込めない」という作風も、絵を描きはじめた子供の頃からずいぶん経ってから気付いたものです。はじめのうちは「感情」を表現しないといけないとばかり思っていました。それが、自分の本当に好きなものに気がついて、時間をかけて徐々に今の作風に変わっていったんです。
最近は特にSF小説や、一般向けの科学解説書をよく読んでいます。科学に詳しいわけではないのですが、そこにある「まだ解明されていない不思議」や未知のものに触れるのが楽しいですね。

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最近、大阪万博(2025年)にもかなり熱心に通われていたとお聞きしました。

つのさめ – もう狂ったように通っていました(笑)。今はネットで何でも調べられますが、その場に行かないと体感できないものがあると思います。巨大な建造物や世界の衣装、最新のロボット……。二次元では表現しきれない「生の体験」に溢れていて、出不精な私にはすごく刺激的でした。

万博での体験が、絵に影響を与えることも?

つのさめ – 直接的に「これを描こう」となることは少ないですが、長期的な視点で見れば、自分の気持ちの方向性を変えてくれている気がします。特に落合陽一さんの「null2(ヌルヌル)」では、AIが自分そっくりの姿で語りかけてきて、自分の存在意義を問い直させられるような哲学的な面白さがありました。ああいう「攻めた内容」を大きな規模で見せてもらえるのは、一人のクリエイターとして純粋に感動しました。

メッセージを込めない、という選択

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ご自身の作品を通じて、読者に伝えたいメッセージなどはありますか?

つのさめ – 実はないんです。むしろ、意図的にメッセージが込もらないようにしているくらいです。

ちょっとわかる気がします。作品としての意義や作為性、メッセージ性から一切離れて、目の前の作品に純粋に感動するような。

つのさめ- 私は、パッと見て「何を考えているかわからない」温度感や、その場の空気感が「なんかいいな…」と思ってもらえるだけで十分なんです。自分が純粋に好きだと思った光景を、言葉にできないまま形にしたい。見る人にも、そのままを受け取ってもらえたら一番嬉しいですね。

現在連載中の漫画『キョンシーちゃん』では、イラストとはまた違うアプローチをされていますね。

つのさめ – 漫画はイラストと違って、どうしても「感情」を描かなければならないので、実は今でも悩みながら描いています。本来、私は感情を描くのが苦手なのですが、キャラクターが何を考えているかを読者に伝えるのは漫画としての醍醐味でもあります。「イラスト」と「漫画」、この両方の作風の差をどう埋めていくかが今の私の課題です。

「細く長く」続けていくことの豊かさ

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普段、制作に行き詰まることはありますか?また、そんな時のリフレッシュ方法があれば教えてください。

つのさめ – 構想を練る段階はいつも苦しいです(笑)。そんな時は散歩をしたり、本を読んだり、猫を撫でたり。ごく平凡な暮らしをしています。散歩中にポッドキャストを聴いているときや、あえて何も聴かずに歩いているときに、ふと「あ、これを描こう」とアイデアが降ってくることもありますね。

日々のルーティンの中で、創作が呼吸のように組み込まれているんですね。

つのさめ – ただ、今はまだまだ絵に向き合う時間が少ないと思うので、一日に6時間は机に向かうように頑張っています。一人だと集中が切れて本を読み始めてしまうので、友達と作業通話をして雑談しながら、自分を机に縛り付けています(笑)。

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最後に、今後の展望について教えてください。

つのさめ – 何か大きな野望があるわけではなく、今の状態を「細く長く」続けていけたらいいな、という気持ちが一番大きいです。仕事として受けるものも、できるだけ自分の趣味とかけ離れないように。自分が「いいな」と思えるものを、これからも淡々と、静かに積み重ねていきたいと思っています。

 つのさめさんの語り口は、その作品と同様にフラットで、どこか浮世離れした心地よさがあった。「わからないもの」を「わからないまま」愛でる。その潔いまでの無機質さが、かえって私たちの想像力を刺激し、彼女の描く緻密な白黒の世界へと深く沈み込ませてくれるのだろう。

【インタビュー】 感情を込めない。つのさめの描く無機質の美学- 前編

SNSを中心に、緻密なペン画と、どこか捉えどころのないキャラクター「ちえさん」で支持を集めるイラストレーター・漫画家のつのさめ

一見すると可愛らしく、しかしじっと見つめていると、そこには魚や虫のような「思考の読めない」静かな不気味さが漂っている。

緻密に描き込まれた背景と、極限までシンプルに削ぎ落とされたキャラクター。その鮮やかなコントラストは、いかにして生まれたのか。大阪に構える「シカク」で開催された個展の余韻が残る中、彼女の創作の原点と、「ちえさん」という不思議な存在について話を訊いた。

「ちえさん」って何者!?

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つのさめさんの作品には、象徴的なキャラクターである「ちえさん」が頻繁に登場します。彼、もしくは彼女はどのような経緯で生まれたのでしょうか?

つのさめ – もともとは、私が一番最初に描いたオリジナルの創作漫画に出てきたキャラクターなんです。最初は、パン屋さんかどこかでバイトをしている設定で、三角巾をつけて働いている女の子として描いていました。

でも、落書きを繰り返していくうちに、気付けば最初の設定は薄れて、どんどん曖昧な存在になっていきました。三角巾の「出っ張り」の部分が、いつの間にか髪の毛として定着してしまって(笑)。シルエットとして、三角巾を外したときもこの形だったら面白いな、と思って今の姿になったんです。

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あの特徴的な髪型は、もともと三角巾だったんですね。一つの画面に、ちえさんが何人も登場する作品も印象的です。彼女たちはそれぞれ別人なのでしょうか?

つのさめ – 実は、あまり具体的な設定を作り込んでいるわけではないんです。「画面に同じキャラがいっぱいいたら面白いな」という、すごく素朴な理由で描いています。おじさんになったり赤ちゃんになったりすることもありますね。

私はもともと不思議なものが好きなので、日常的な風景の中に、同じ顔をした存在が複数いるだけで、急に「不思議な空間」になる。その違和感が気に入っています。

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ちえさんの表情には、どこか読めないところがあるというか、愛くるしさの中に、突き放したような不気味さのようなものを感じます。

つのさめ – そう言っていただけると嬉しいです。私自身、創作の中で「情緒」を描くことがあまり好きではないというか……。何を考えているか分からないものが好きなんです。

例えるなら、虫や魚のような感じ。カニやイカなどを頻繁に描くのも、曖昧さや無機質な感覚を描けるからです。言葉にできない、「人間的な感情」が通じないような無機質さに惹かれるんだと思います。私の中では、そうした感覚を表現出来るのが、絵を描くことの魅力です。

トーベ・ヤンソンに見た「コントラスト」の美学

背景の描き込みが非常に緻密な一方で、キャラクターは非常にシンプルですよね。このギャップについては意識されているのでしょうか。

つのさめ – そうですね。キャラクターを際立たせるために意識して描き分けています。影響を受けているのは、『ムーミン』の作者であるトーベ・ヤンソンさんや、水木しげるさんです。

水木しげるさん!確かに、妖怪たちは個性的ですが、背景の自然描写は驚くほど緻密ですね。

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つのさめ – そうなんです。あとエドワード・ゴーリーのペン画にも強く憧れました。背景が緻密で、キャラクターがシンプル。そのバランスが生む、不穏でかっこいい空気感を目指したくて、今のスタイルに辿り着きました。最近の作家さんだと、panpanyaさんや、ネルノダイスキさんの表現からも大きな刺激を受けています。

違っていたらすみませんが、あずまきよひこさんの『よつばと!』からの影響もあるのかなと感じました。

つのさめ – 『よつばと!』も好きですね!キャラクターの線がスッキリしていて。直接的に影響を受けているかは分かりませんが、もしかすると無意識に影響を受けているかも知れません。

らくがきアニメ

作画工程についても伺いたいのですが、アナログのような質感がありつつも、基本的にはデジタルで描かれているとお聞きしました。

つのさめ – はい、基本的にデジタルです。もともとすごく不器用なので、デジタル特有のコマンドZ(戻るボタン)がないと不安で(笑)。でも、アナログの質感にはずっと憧れがあるので、テクスチャーを工夫してアナログ風に見せています。

最近、大阪で個展を開催した際にアナログ制作にも挑戦してみたのですが、やってみたら意外と描きやすさや発見があって。これからは少しずつ、アナログの作品も増やしていけたらいいなと思っています。

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白黒の「ペン画」へのこだわりはありますか?

つのさめ – 個人的なこだわりはそこまでありません。昔は色を使って描くことも多かったのですが、最近はとにかく「ペン画」が楽しくて。タイミングがあれば、カラフルな絵もどんどん描いていきたいです。

そうなのですね…!つのさめさんの作品の中の、言葉に出来ない不穏な世界観は、「ペン画」との相性がすごく良いとも感じたので、ちょっと意外でした。

つのさめ – それもあると思います。実際、「ぺン画」を描いてからの方が、人に見てもらえる機会が増えて、反応もよかったんです。やっぱり反応があると嬉しいので、それでついつい「ペン画」を描いちゃうみたいなとこもありますね(笑)。流されすぎな部分はよくないかも知れませんが…。

「無心になれる」ハッチングの時間

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制作の中で、一番「楽しい」と感じる瞬間はどこですか?

つのさめ – 仕上げの段階で「ハッチング(細かい線を重ねて影をつける技法)」をしているときですね。ここはもう、無心で黙々と手を動かすだけなので、すごく楽しいです。

逆に、構成を考えたり煮詰めたりする段階は、正直かなり苦しいです(笑)。だからこそ、何も考えずに線を引き続ける作業の時間が、自分にとっては癒やしなのかもしれません。

SNSでは「クロッキー」という言葉を添えて投稿されていますが、あの緻密な背景もクロッキーのスピード感で描かれているのでしょうか?

つのさめ – あ、あれは完全に「名残り」なんです!最初は練習として短い時間で描くクロッキーを上げていたんですけど、だんだん描き込みが増えていって、今は全然クロッキーじゃない(笑)。でも、フォロワーの皆さんもその呼び方で覚えてくださっているので、まあいいか、と思ってそのまま使い続けています。

そうだったのですね!謎がひとつ解けました…!笑

後編では、「わからない」もの、「情緒が読めない」ものへの興味のルーツ、そして心底ハマったという「大阪万博」の話、そしてこれからの展望を深掘りしていきます。お楽しみに。

【寄稿】浅草という街の編集力

夜の街「歌舞伎町」で開催されたオールナイトイベント「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。現地に赴き、速報レポート執筆の為に奔走していた最中の偶然の出会いが、この記事へと繋がった。

出演者として参加していた活動弁士の麻生子八咫さん。僕はそこで初めて、「活弁」なるものを観ることになるのだが、「昔のもの」といった印象からは程遠い、全く驚きの体験をすることになる。その時に話を伺った麻生子八咫さんが、『月刊浅草』の副編集長であられた。

1970年の創業以来、半世紀以上続くタウン誌は、かの川端康成が筆を取り、名付けられた。今でも月末になると最新刊を手に、自転車で街を駆けながら配達に回る。人情の街、浅草の一端を垣間見たようで、顔が綻ぶ。

麻生さんとは「歌舞伎町」の後に何度かやりとりをしていて、今回の「寄稿」の話に限らず、色々なお話をしてくださった。中でも、当時公演のために滞在中だったロンドンで財布をスラれた話を、臨場感いっぱいに悔しさ滲ませながら、「敵ながら、凄技」と伝えてくれたりもした。

とまあ、縁あって、「浅草の街の文化に触れながら、BAMの話を750字で」という、僕たちとしてははじめての寄稿記事が実現したのだ。

以下、2026年1月号『月刊浅草』の連載「浅草はっけん」より。

浅草という街の編集力

浅草は、極めて編集的な街だ。

雑誌などの紙媒体が最新情報の主役だった時代はもう終わった。
情報があふれる今は、ただ“早い”だけでは価値にならない。
既に在る断片をどうつなぎ、新しい意味を生み出すか。以前にも増して、その“編集力”が問われている。

浅草で花開いたオペラ文化に、まさしくそうした視点が垣間見える。大正時代に興隆した「浅草オペラ」は、作曲家の佐々紅華、興行師の根岸吉之助、ダンサーの高木徳子らが中心となって展開された。
欧米の名作オペラを日本語に訳したものから、新たに作られたジャパンメイドの和製オペラ、童話などを題材とし日本独自の発展を遂げたお伽歌劇など、様々な形で大衆へと波及していく。当時の20銭ほどと比較的安価な値段で鑑賞でき、海外の文化を日本風にアレンジ、親しみやすく編集された。時代観を反映しながら人々に届ける姿勢は、現在の「活弁」と重なるものがある。

「月刊浅草」の副編集長を務める麻生子八咫さんは、活弁士としての顔も持ち合わせている。先日はチャップリンをはじめ、海外の無声映画を英語活弁として披露。その父であり師である麻生八咫さんは、無声映画にロックミュージックを加えて臨場感を演出した。そのアティテュードからは、歴史を途絶えさせまいとする覚悟を見ると同時に、在るものを違った視点で届ける、その編集力に魅せられている。

今在るものを異なる視点で提起し継いでゆく編集力は、我々「BAM」—アートの枠を超えた自由な感動を探求していくメディア—として見習わなければなるまい。アートに興味がない人に感動を届けることが出来たなら、私たちの仕事冥利に尽きると思う。
ときに、かっぱ橋道具街で長らく販売されていた食品サンプルは、制作体験で再び脚光を浴びている。同じものづくり。アートとしての価値やいかに。

【連載】Convenience ART Vol.1「和田誠とハイライトと、」

さて、「コンビニエンスアート」記念すべき初回、vol.1。

のっけから選ぶ題材としてはちょっと…と言われそうなところを押し切って、今回は「コンビニ」で買えるアート、「タバコ」についての話。

1960年の発売から、今なお多くの人に愛されているタバコ、「ハイライト」。

ミュージシャンの桑田佳祐や、『ちびまる子ちゃん』に登場するさくらヒロシの愛する銘柄でもある。

レギュラーとメンソールの2種類が存在し、それぞれ、コバルトブルー(後にハイライトカラーと呼ばれるまでの大ヒットぶり)とグリーンのパッケージは、デザインコンペによって選ばれたもの。

作者は和田誠で、後にイラストレーターとして名を馳せることになる彼の初期の作品ということになる。コンペの段階では、採用された2色の他に、幻となってしまった黒色のデザイン案もあったそう。和田誠自身、この色がいちばん気に入っていたそうだから、いつしか売ってくれないか、JTさん。

和田誠は2019年に亡くなってしまったが、40年にわたり『週刊文春』の表紙絵を担い、他にも数多くの書籍装丁を手掛けてきた。

村上春樹との共著『ポートレイト・イン・ジャズ』では、和田誠の描くジャズプレイヤーに、村上春樹による珠玉のエッセイが掲載されている。

普段から親交のあった彼らだが、村上春樹が愛した新宿を代表するジャズ喫茶&バーである「Juzz Cafe Bar DUG」(関連記事:東京カルチャートリップ【後編】)では、実は和田誠が店のロゴデザインを手掛けているんだとか。タバコの吸えない喫茶店が増えてきた今もなお、喫煙席を残している嬉しいお店。

せっかくだし、村上春樹が愛したカティサークを注文して、ハイライトを吸ってみたら、きっと楽しいだろうな。

【連載】Convenience ART Vol.0「prologue」

コンビニの自動ドアが、「アート」への入り口へと繋がっていると言ったら不思議だろうか。

まず、僕たちの考えていることを簡単にご説明。
これは僕たち「BAM」の全体を通して言えることだが、特にこの連載「コンビニエンスアート」では、難しいことはさておき、価値や定義が曖昧となりつつある「アート」を、もっと自由に楽しみながら、より多くの人に「アート」について知って、考えるきっかけになったら素敵だなと。そんな想いが出発点となっている。

AIの登場により、加速化するであろう「アート」を取り巻く混沌とした状況に対して、そしてただでさえ敷居の高い「アート」に対して、僕たちは、もっとどっしりと構えて、楽しみながらアクセス出来ると思う。

急がなくっても「アート」は逃げない。誰かに取られることもないのだから。

さて、前置きはこの辺にして。
今、この日本において、誰にとっても、最も身近な“お店”って何だろう?
きっと10人中8人くらいは「コンビニ」と答えるんじゃないかと思う。
そして、そんな「コンビニ」に実は「アート」がたくさん隠れていて、しかも売っていると言ったら気になるでしょう?

便利でいつでも身近な存在「コンビニエンスストア」で見つけたたくさんの「アート」を紹介していく連載「コンビニエンスアート」、お楽しみに。

【レポート】『Hosono Record House』へ行ってきた!

細野晴臣のレコードが一堂に介する『Hosono Record House』が、2025年12月19日から2026年1月25日の期間で開催中だ。

レコードやCD、Tシャツにスウェット、キャップにインタビュー冊子、さらにはポスター、コップなど…。

様々なグッズで溢れる楽しげなポップアップ会場の様子に加え、細野さんのオフィス、「ミディアム」の谷本さんによる、開催までの裏話や細野さんとのやり取りをお届け!

デビューからおよそ半世紀。未だ衰えない人気ぶり

「はっぴいえんど」や「YMO」などで、常に日本の音楽シーンの最前線をひた走ってきた細野晴臣。日本ロックの礎を築いた彼のソロデビュー作『HOSONO HOUSE』の発表からは、半世紀以上もの月日が流れている。にも関わらず、未だ国内外での人気は衰え知らず。

このタイミングでポップアップの開催に至ったのはどうしてだろう。谷本さんは次のように語る。

「50周年を記念して、2019年に『細野観光1969-2019』展、ドキュメンタリー映画『NO SMOKING』、国内外公演などの企画を1年間に詰め込みましたが、55周年は、ゆるく長くやりたいなと思いました。 中でも今回は、近年作にフォーカスしています。」

第71回カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞) を受賞した映画『万引き家族』(2018年公開)では、オリジナル・サウンドトラックを手掛けるなど、近年も精力的に活動する細野さん。僕の周りでも細野さんを知らない人はいないし、出演する『おげんさんといっしょ』では、おげんさん(星野源)の「長男」役として、最高にクールでチャーミングな姿を、いつも楽しみにしていた。(放送が終わってしまったことが本当に残念…)

しかし、世間から見える景色が、必ずしも本人のものと同じとは限らない。

細野さんから漏れてきた意外な一言が、今回の展示のきっかけの1つになったそう。

「2023年に、ソロファーストアルバム『HOSONO HOUSE』が50周年を迎えました。海外も含めて再評価頂けて、本人もとても喜んでいたんです。世間の声をちゃんと自覚できたようで、すごくいいきっかけになったのですが、同時に、『僕の近年作を誰も聴いてくれないかも…』みたいな、ちょっと寂しいことをおっしゃったんですね。だから、近年作をきちんと再発して、もう一度まとめるような企画をしようと。それが1年ほど前です。アナログレコードが一度に揃う機会もなかなかないので、近年の音楽にフォーカスした企画として、『HOSONO RECORD HOUSE』の実現に至りました。」

メインビジュアルの秘密 – ベートーヴェンとこれから細野晴臣

細野さんのスタジオには、ベートーヴェンの胸像が置かれている。

これは母方の祖父である中谷孝男さんが残したもので、今回の『Hosono Record House』のメインビジュアルとして登場する。もちろんこれは、単にあ̇っ̇た̇からではない。ピアノ調律師であった祖父の影響、中でも“クラシック”は、これからの細野晴臣の重要なピースとなるかもしれないのだ。

「ここのところ、細野さんが、『ベートーヴェンをカバーしたい』と言っているんです。その話とスタジオの胸像がリンクして、メインビジュアルに採用しました。近年作にフォーカスした企画だということもあったので、今後の新作に関わってくるベートーヴェンをメインビジュアルに採用したことは、意味があるように感じています。」

会場には物販の他に、近年のアルバムに関する細野さんの言葉が壁を彩っている。

足元に飾られた「H」と「R」と「H」のアルファベットのブロックが可愛らしい。

2026年オープン予定のデジタルミュージアム「HOSONO MANDALA」のチェックも忘れないようにと思いつつ、やはりまずは会場に足を運ばないと。僕だって、一切重みのない財布を取り出して、気づけば真冬にTシャツを買っていた。会場を後にして、細野さんの大ファンの友人の元へ走った。寒さを忘れてTシャツ姿で語りあかした夜の思い出、冬越えのさなか、クシャミひとつで済んでよかったな…。

『Hosono Record House』

会期:2025年12月19日~2026年1月25日
会場:New Gallery
アドレス:東京都千代田区神田神保町1-28-1 mirio神保町 1階
休廊:12月29日~1月5日、月曜(1月12日を除く)
開館時間:12:00~19:00
観覧料:無料
公式サイト:https://newgallery-tokyo.com/hosonorecordhouse/

【インタビュー】「アートは、言語や国境を越える」。Acky Brightの壮大な夢-後編

名前が世に出ることはない、“自由な裏方”から、働く喜びを探して表舞台に立ち、海を超えたAcky Bright。その先で目にしたのは、日本アニメ・漫画の“限定的な広がり”という現実だった。漫画とアメコミの表現を行き来しながら数多くの作品を手掛けてきた彼だからこその表現やこだわり、そしてAI時代に見据える物作りの本質に迫ります。

Acky Bright
Photo:Hyakuno Mikito

アメコミと漫画の相違点

Procreate POPUP東京 / 告知ビジュアル

アメコミと日本の漫画、両方を手掛ける中で、作り方の根本的な違いを感じるのはどんなところですか?

Acky Bright – 作り方がそもそも全く違うので、アウトプットの仕方が全然違います。日本の漫画は、基本的に「吹き出し」から作る、というと言い過ぎかもしれませんが、まずネームの段階で吹き出しの配置を決め、読者の視線の通り道を作ります。読んでもらうために、見せたい絵は吹き出しの動線上に存在しないといけない。

一方、アメコミはGraphic Novelと言われているように、基本的に「テキストと絵を別々で考える」作り方です。ライターが書くスクリプト(脚本)には、ページ数とパネル(コマ)の数が指定され、シーン、セリフ、そして「このパネルは一番大きくしたい」といった指示が入ります。コミックアーティストは、吹き出しやオノマトペを一切入れずに、ひたすら絵を描き進めます。吹き出しの配置やフォント(レタリング)は、レタラーという別の人が後付けで決めるからです。

僕は最初、その仕組みが分からなかったので、日本漫画のやり方で吹き出しまで全部自分で入れていたのですが、出来上がったものを見たら、全く関係なく配置されていました(笑)。

PLANET OF METAL/ASTERISM

異なる制作スタイルは、作風にどのように影響していますか?

Acky Bright – アメコミを描いていると、レビューで「東洋の漫画の影響を感じる」と書かれますし、日本で描くと「Ackyさんの絵はアメコミっぽい」と言われます。どちらにも居場所がある、ということは、独自性を保てているということかもしれません。

アメコミを描くときは、ネームから入るのではなく、まず全部脚本に落としてから作業に入ります。ライターを兼任するときも、編集会議を通すために、日本の漫画家のようにいきなり絵でネームを切るのではなく、アメコミのスクリプトの形式に則って、セリフ、シーン、パネル構成を文字で全て指定します。根本的にやることは漫画もアメコミも同じですが、プロセスは違うし、コマ運びやレイアウトに関しても、アウトプットの際に意図的に自分で変えるようにはしています。いずれは融合していきたいですが、試行錯誤している段階です。

DC Comics「KNIGHT TERRORS」の裏側 
Photo:Hyakuno Mikito
BRIGHT WORKS 東京スタジオ
Photo:Hyakuno Mikito

AI時代におけるクリエイターの「本質」

現在、AIに関する議論が世界中で起こっていますが、この時代にクリエイターが向き合うべき「本質」は何だと考えますか?

Acky Bright – この質問はどこへ行っても聞かれるのですが、僕は一つの答えを持っていて、それを「料理」に例えています。絵を描く人、ものを作る人というのは、基本的に「プロセスを楽しんでいる」はずなんです。しかし、SNSが出てきたことで、人から評価される「結果」(いいねを集める、大きな仕事をするなど)が簡単に得られるようになり、早くそこへ行くことが目的化してしまいました。AIは、まさにその「結果」を簡単にかなえてくれるツールです。でも、本来の喜びは、絵を描くこと自体にある。僕自身が、描いてる途中は楽しいけれど、描き上がったものにはさほど興味がないのはそのためです。料理にしても、自分で作ったものを人にごちそうして喜んでもらうのは嬉しいですが、インスタント食品を振る舞ってもそれは自分の料理ではない。AIに結果を出してもらうことは、インスタントを振る舞うことに近い。つまり絵を描く人にAIの作画を聞くことは、かつてウサイン・ボルトに、「新しいフェラーリが出たことをどう思う?」と聞いたという話と同じで、車が速くなろうが、人間が速く走るという“価値”は変わらない。ライブドローイングも、作品の完成度を評価してほしいのではなく、描いているプロセスにこそ価値があるという考えからやっています。だから、クリエイターは、AIがどうの、ルールをどうするか、という議論以前に、「そもそもこの仕事はなぜ楽しいのか」という本質的なところに立ち返り、自分のモラルと向き合わないと、この仕事を長く続けることはできないと考えています。

自身の創作における「核」と「キャラクターデザイン」の哲学

ONI MASK / 中央町戦術工芸とのコラボレーション作品

創作において最も大切にされている「核」や、こだわりの部分はどこにありますか?

Acky Bright – 根底にあるものは「ゼロからイチを産み出すこと」ですが、具体的な作画スタイルで言うと、「白黒表現」と「キャラクターデザイン」へのこだわりがあります。ただ、初期の頃の僕の絵が白黒だったのには理由があるんです。
デザイン会社をやっていたはじめのうちは、スタッフに隠れて仕事中にアーティストとしての作品を描いていたので、PCで色を塗ったり、大々的に描くとバレてしまう。なので、シャーペンとコピー用紙でやるしかなかったんです(笑)。もちろんそれだけではなくて、ルーツが日本の「漫画」であるということも相まって、白と黒がAcky Brightのひとつのスタイルとして認知されていきました。

Procreate鉛筆ブラシの習作

メカと女の子の融合したスタイルはどのようにして生まれたのですか?

Acky Bright – 実は、「女の子を描くのが苦手だった」という苦手意識からだったりします。名前を出さないで描いていたころも女性は描いていましたが、それはどちらかというと企業のために描いたもので女性を魅力的に描くことは求められていませんでした。しかし、アーティストとして女性のキャラクターを魅力的に描こうと思ったとき、ただポートレートのような女性イラストを描くのが照れくさくて(笑)。それを誤魔化すように、角を生やしたり、メカをつけたりしていました。それがSNSでバズって、私のシグネチャーのひとつとなってしまいました。なので、いまだに「女の子を描くのが得意だ」とは思っていないというのが正直なところです。

MONICA / UNDERVERSE / ACTION FIGURE DESIGN

キャラクターデザインにおいて、特に重視している点は何でしょうか?

Acky Bright – 「シルエットでわかるものを作りたい」という点です。髪の色を変える、目の表現を変える、衣装を変えるといった日本的なスタイルのキャラクターデザインよりは、ピクサーやディズニーのように、シルエット(形)だけで何のキャラクターかわかることが、僕の中での基本です。北米マクドナルドでの仕事「WcDonald’s」の際にも徹底しましたが、多国籍なキャラクターを描くとき、ただ肌を黒くするだけでなく、骨格や筋肉のつき方、顔の形といった人種的な特徴を正しく反映させることにこだわっています。昔、ある漫画家さんの、「君のキャラクターは、骨にするとみんな一緒だね」と言われたエピソードを本で読んで以来、「骨も識別できるキャラクターにならなきゃいけない」と強く意識しています。

TIRORI MIX 3 / McDonald’s / MV CHARACTER DESIGN

日本のクリエイターへ送るメッセージ

若手の作家、クリエイター志望の方々に、何かメッセージをいただけますか?

Acky Bright – 僕は、日本のコンテンツをさらに世界に広げるためには、日本のクリエイターが「もっと外に出て交流すべき」だと強く思っています。コンベンションに行くと、日本からのゲストは英語が苦手だったり顔出しNGだったりで、ファンとの交流も限定的になりがちです。すごく気持ちもわかります。でも日本からのゲストとコミュニケーションしたいアメリカの人々からすると、とても「物足りない」と感じるはずです。僕がアメリカで認知されたのは、ファンとの交流を徹底してやったからです。英語が完璧でなくても、コミュニケーションはできる。僕も2022年にはじめてNYでコンベンションに参加したときは、アメリカでもまったく無名でした。しかし、この活動を通じて「そんなんでやれるもんなの?」と言われながらも、結果としてMcDonald’sをはじめ、MetaやRedBullとコラボしたり、NYのJapan Societyでの単独個展を実現するところまではこれました。そして、今の日本の仕組みの中で僕のような活動をしようとすると、既得権益の壁に阻まれてしまいます。しかし、外側(海外)から入ってくると、日本ではいとも簡単に多くのことをクリアできるという不思議な現象があります。

数々のイベントに参加してきたAcky Brightさん。300人以上のサインに対応したことも。
Photo:Hyakuno Mikito

僕の活動をきっかけに、これから「Acky Brightと同じようなことをやってみよう」と思う人が現れてくれたら嬉しいです。考えすぎで絵を描く人は、もう時代遅れです。コミュニケーションの手段はいくらでもあります。大事なのは、そこではない。そして、長く活動を続けるためには、目の前の「いいね」や「売れているもの」に流されるのではなく、僕なんかより、本当に30年、40年と現役で活躍し続けている「本物の先輩たち」を見て、その姿勢から学び、自分のモラルと情熱を保つこと。僕らの業界は、ありがたいことにそういうかっこいい先輩たちがたくさんいます。彼らがいるから、「今はまだ全然ダメでもあと何十年後には追いつけるかもしれない」と思える。そうやって、日本のクリエイターたちが世界で活躍し続けるための道筋を、今後は僕自身も作っていきたいと思っています。

【インタビュー】「アートは、言語や国境を越える」。Acky Brightの壮大な夢-前編

ニューヨークのマンハッタンのど真ん中にある「ジャパン・ソサエティ」。

そこではこれまで、草間彌生や村上隆など、数々の名だたる芸術家たちが名を残してきた。

そんな由緒ある場所で4ヶ月に及ぶ個展「Acky Bright: Studio Infinity」を開催したのが、日本の漫画家・イラストレーターのAcky Brightだ。

数々のDC COMICS等でコミックのヴァリアントカバーを手掛け、北米McDonald’sが世界40の国と地域で展開したグローバルキャンペーン「WcDonald’s」では、長いマクドナルドの歴史で初めて、紙バッグをデザインした個人アーティストとなった。

そんな海外での活動が目立つ彼が、ある意味逆輸入的に日本の最前線に割って入ったのだ。

Ado、YOASOBI、Vaundyら今をときめくミュージシャンたちを招聘してきた日本マクドナルドのキャンペーン楽曲「ティロリミックス」では、楽曲だけでなく、オリジナルのアニメーションMVが大きな反響を呼んでいる。圧巻の動画体験のあとは決まってクレジット欄を眺めてしまうもの。キャラクターデザインには、彼の名前がある。

「アートは、言語や国境を越える」

そう語るAcky Brightは、「アメコミ」と漫画を行き来した特有の作風で語られることが多い。

しかし話を聞いていくうちに、彼の見据える未来は、もっとずっと大きいものだったと気づくことになる…。

はじまりは裏方として

Acky Bright / Photo:Hyakuno Mikito

Acky Bright – 今の名前「Acky Bright」を名乗る前からデザイン会社を経営していたんです。その時の僕の本分は、いわゆるプランナー。色々な企業のプロモーションや広告、イベント企画などを考えていました。その時に、要所要所で「イラスト」が必要になるんです。

その時のイラストをご自身で描かれていたんですね。

Acky Bright – そうですね。元々幼い頃から絵を描いていて、漫画家を目指していました。高校生くらいの頃には、出版社の担当の方に付いて頂いていた時期もあったのですが、当時は尖っていたのと、状況をよく分かっていなかったです(笑)。結局漫画家ではなくて、デザイン会社を経営することになって。会社では、あくまでプランナー。イラストに関しては、名前を一切出さずに、完全に「裏方仕事」みたいな感覚でやっていました。フィクサーっぽくて面白かったし、名前を出さない、責任のなさがゆえの自由さも感じていました。ただ、会社も大きくなってきて、ちょっと思うところが出てきたんです。

BRIGHT WORKS東京スタジオ。近々引っ越し予定なんだとか。
Photo:Hyakuno Mikito

「世界ではこんなに面白いことになっているのか…。」

Acky Bright – 2017年、8年くらい、まだNetflixが今ほど有名じゃなかったときに、Gleeのライアン・マーフィーが、「5年契約で300億」っていう話を聞いたんです。300億ですよ?「メッシじゃん」って思いました(メッシはもっと稼いでますけど)。「脚本家とかエンタメの仕事で、メッシになれるんだ…!」って衝撃で。ただ、「お金を稼ぎたい」とか「有名になりたい」っていう意味ではないんです。

それまでの予算配分では、設備投資が9で、コンテンツが1くらいの割合でした。そこから設備への投資額は更に増額されているのにも関わらず、その比率がひっくり返ったんです。設備投資が1で、コンテンツが9になった。つまり、予算の規模自体が100倍とかの勢いになってきている。「世界ではこんなに面白いことになっているのか…。」と思いました。

インフラ的にも、例えば海外の方が日本のTVシリーズのアニメを視聴するには、違法アップロードのものか、もしくは円盤にならないと観られなかったのが、日本にいる僕らと同じで、ほぼリアルタイムで観られるようになった。それまであった、日本と世界の時間的、物理的な壁が無くなったんです。コロナ禍や日本の経済情勢もあり、国内での仕事には限界を感じていたのも相まって、海外に対して意識し始めたんです。リモートでの仕事が一般化したのも、海外との仕事を後押ししてくれました。

そうした流れで「Acky Bright」が生まれたんですね。

Acky Bright – はい。もともとプランニングをやっていたり、漫画家を目指していたのは、「0から何かを作る」というのが好きだったんです。まだ若いし、お金の為だけに働くのもつまらないと思っていたので、初めて自分の名前で絵を描こうと決心しました。

江戸川コナン方式で生まれたAcky Bright

Acky Bright

名前の由来はなんですか?

Acky Bright – 一番最初のアメリカでの仕事でクレジットを入れる必要があって、ペンネームを考えようってなった時に、外国人っぽくしようと思ったんです。あだ名で「アキ」と呼ばれていたので、江戸川コナンみたいに「アッキー」に何か付け足した名前にしようと考えて、会社の名前の一部である「ブライト」を付けました。コンベンションなどのゲストリストで名前が出た時に、AとBなので、上に来るのも目立って好都合でした。

名前が決まって、どういったことから始めましたか?

Acky Bright – 当時はSNSをほとんど活用していなかったので、XやInstagramにイラストを毎日投稿することから始めました。寺田克也さんやキムジョンさんらの影響もあり、イベントに出てライブドローイングをしていました。2021年には、憧れだった寺田克也さんと一緒にライブドローイングをさせて頂きましたが、あれ以上に緊張するシチュエーションはないので、どんな国や規模のイベントでも緊張しなくなりました。

Adobe MAX 2025(LosAngeles)

アメリカでの本格始動

WcDonald’s Promotion / McDonald’s / Package Design, Manga
Photo:Hyakuno Mikito

アメリカではどういった仕事をしましたか?

Acky Bright – 『トランスフォーマー』のTシャツのイラストが、アメリカに渡ってから初めての仕事でした。MoMAでキュレーターを務めるPaola Antonelliさんや、当時、DC Comics バットマングループ編集長だったBen Abernathyさんが僕のことを買ってくれていたのも凄く大きかったです。次第にドイツのBMWとの仕事やDCコミックス、北米のMcDonald’sのキャンペーン企画である「ワクドナルド/ WcDonald’s」のキャラクターデザインなど、たくさんの仕事を頂けるようになりました。DCコミックスでは、「ジョーカー」や「ハーレークイーン」、「KNIGHT TERRORS」などのスピンオフ企画なども描かせて頂いています。

日本の漫画とは異なる文脈の「コミック」を描くことに対して、どのように考えていましたか?

Acky Bright – 子供の頃からずっと漫画や「アメコミ」は好きでした。漫画家になりたい気持ちはあったけど、まさか自分が「アメコミ」の作家になるなんて全く想像もしていなかったです。いざ描くとなると、そもそも仕組みがわからないんですよ。あくまで“観る側”、コンテンツとしての『マーベル』や『DCコミック』、ヴァリアントカバーとかはなんとなく知ってはいましたが、具体的な裏側についてや制作についてはひとつひとつ、やりながら学んでいきました。

Harley Quinn / DC COMICS / VARIANT COVER
KINGHT TERRORS / Angel Breaker

「世界のMANGA」に感じたギャップ

Acky Bright – 海外で本格的に活動するにあたって、ビザを取れたことが本当に大きかった。渡航前から北米ですでに多くの実績があったことが認められてビザが取得できたんです。ビザは取得がものすごく大変な上に、取得前に現地で仕事をするのは犯罪にあたる。取得までの期間は、コロナ禍もあったので、スムーズに全てリモート。国内にいながら北米で実績がつくれたのは大きかったです。

無事ビザを取って、現地での活動はいかがでしたか?

Acky Bright – 現地での3年間は、本当に充実していました。ビザのお墨付きで自由に活動も出来ました。日本のアニメや漫画って、今世界を席巻しているじゃないですか。日本のメディアとかだとそ̇う̇い̇う̇こ̇と̇になっている。確かに、「アニコン」とか行くと、それはもうすごいんです。めちゃめちゃファンがいるし、街に出ても、車にアニメのステッカーを貼っていたりとか、『ドラゴンボール』のTシャツを着ている人を見かけたりはするんです。でも、現地で仕事をしているからこそ分かったのが、肌感覚で言うと、実態は「20年前の日本」みたいな感じなんです。いわゆる、「オタク」だけの文化という感覚。今の日本では、アニメや漫画は、もう完全に一般化しているじゃないですか。そういう意味では、海外でのポテンシャルはまだまだ余地があると思うんです。でも、なかなか難しいというか、壁があるとは感じています。

海外のマジョリティに刺さる漫画を目指して

Acky Bright –  これら目指すべきものはまさにそこで、日本から作ったものをただ輸出するのではなくて、本当の意味で漫画やアニメが世界のコンテンツとして広まっていくには、やっぱりプレイヤー、作り手側も日本以外の人が増えていくことも重要だと思っているし、実際海外のアーティストの描くMANGAやANIMEのレベルもどんどん上がっていると感じます。そしてそういう状況になってきたからこそ、世界中の人が参加して、この日本発祥のカルチャーを盛り上げていくことが非常に重要だと考えています。最近になって、出版社さんなどがそういう動きを見せてきてはいるんだけど、やっぱり課題はある。

MANGAやIPでアメリカで活動するとか、出版社の人もアメリカに駐在して、作家と膝つき合わせてやれるんのかって言ったら、なかなか難しいところがある。そこの壁、天井がある中で、僕はアメリカの中で混じってやることに意味を感じています。

僕は今北米にスタジオを作る準備をしていますが、まさにそれもいろんな国のアーティストが面白いものを作ることをアーティストの視点に立ってサポートしたいという考えからで、それが僕の一番の目標、夢です。

自分が人気になりたい、もっと売れたい、とはちょっと次元の違う話ですね。

Acky Bright –  そうかも知れません。

ANIME NYC

最後は“裏方”として

Acky Bright –  デザイン会社での裏方的な立場から変わって、今は名前を出して表舞台で楽しくやっていますが、最終的には、もう一度、僕自身が“裏方”になりたいと思っているんです。やっぱり「ゼロイチ」の仕事がずっと好きなんです。プロデューサーやプランナー、指揮系統を握るディレクションなど。フィニッシュワークに完全に興味がないわけではないですが、そういうことができる人材って、山のようにいるんです。僕よりも、すごく素晴らしい人たちがたくさんいる。その人たちと一緒に仕事をやればいい話で、僕はどちらかと言うと、新しい場所だったり、何か新しいものを切り拓いていきたいと思っています。さっきも言ったように、今まさに、ニューヨークにスタジオを作る準備をしているんです。

これは“裏方”としての第一歩です。ただ、資金集めや実績など、今の僕ではまだ至らない部分もある。今はありがたいことに表舞台のアーティストとして注目して頂いているのだから、一度自分で行けるところまでやっていこうとは思っています。そこで行き着く先が、“裏方”であればいいなと思っています。

アーティストとしての野心のようなものはないと?

Acky Bright –  そう思います。なぜかというと、それだけでは世界を変えることはできない。僕の満足だけで終わってしまう。僕がちょっと人よりモテる程度の話で終わってしまうと思うんです。

世界をアートやコンテンツの力で平和に

Anime Expo 2025

そこまで大きな視点を持つようになったきっかけはなんですか?

Acky Bright –  子供の頃の、苦しくて大変だった環境が影響していると思います。しんどい中で僕を救ってくれたのが、『ジャンプ』や『マガジン』をはじめとする漫画でした。毎週出るのを待ちながら、「生きよう」と思っていました。漫画があったから本当に人生が救われたので、恩返しというか、僕と同じような人がいるのなら、漫画を通して少しでも世の中が良くなれば嬉しいです。

例えば、鳥山明さんが亡くなった時に、本当に世界中の人が分け隔てなく哀悼の意を表しました。鳥山明、『ドラゴンボール』ってすごくないですか。宗教とか政治とか、もう全部超えちゃってる。音楽やアートもそうだけど、ファンの間では国境もないし、同じ好き同士。世の中への貢献の仕方はたくさんあると思いますが、エンタメを仕事にしている人間である以上、そういった部分は大切にしていきたいし、目指していきたい。そんな想いで、海外を拠点に活動しているんです。

名前が世に出ることはない、“自由な裏方”から、働く喜びを探して表舞台に立ち、海を超えたAcky Bright。その先で目にしたのは、日本アニメ・漫画の“限定的な広がり”という現実だった。後編では、漫画とアメコミという、東洋漫画と西洋漫画の根本的な相違点や、キャラクターデザインの裏側、日常レベルで日本メイドを広める為に尽力するAcky Brightが見据える、AI時代の創作活動に迫ります。

4次元で観る『YONEYAMA MAI EXHIBITION “arc”』

米山舞の個展が、およそ2年ぶりに開催される。

アニメーションの現場で長きに渡り活躍してきた米山は、2018年頃から、本格的にイラストレーターとしてのキャリアをスタートさせた。2019年の初個展「SHE」を皮切りに、2021年の「EGO」(anicoremix gallery)、2023年の個展「EYE」(PARCO MUSEUM TOKYO)と、意図してか、これまで2年おきに個展を開催してきた。
そして2025年、今回の『YONEYAMA MAI EXHIBITION “arc”』である。

それぞれ、青山、原宿、渋谷、銀座といった開催地の変遷を辿って来た訳だが、アニメーター出身であり、そのルーツを重視する彼女が、未だ会場に秋葉原を選ばないのは何故か。
私にはそれが、彼女の特徴のひとつである、アニメーション・イラストレーション・アートと、越境していくアーティスト活動と重なって見える。

今やこの国で、アニメを「オタク文化」と呼ぶ人はいない。むしろ、日常に“ありふれてしまった”アニメは、情報の氾濫する現代において、簡単に消費されてしまいかねない。現に私たち普通の視聴者は、アニメーションが一体どのようにつくられ、どれほどの人が関わり、どれだけの絵が描かれているか知らない。
アニメや漫画における原画の価値が囁かれ始めている昨今の潮流、放送画面からは見えない、画面の奥の影の部分を再評価しようとする気運は、そうした現状に一石を投じている。

そして米山は、その第一線にいる。

「時間」と「連続性」をテーマに据えたと語る今回の個展は、それまでの展示としては初めての試みとして、自主制作した映像を作品として展示・販売している。
そして何より特徴的なのは、会場の空間設計として、外壁・内壁・中央と、3つの異なるレイヤーで構成した点だ。それぞれ、外壁を走る1コマ毎のカット、内壁を飾るのは、大小様々なイラストレーション、そして中央に鎮座する3メートルもの彫刻作品。その背後の巨大スクリーンには、アニメーションが映し出される。

そうした流れの中での鑑賞体験は、ひょっとすると、米山から観た、ある1つのアニメーション作品への視線・思考をなぞり、追体験することに近いのかも知れない。
3つのレイヤーを通して、シームレスに、アニメーション・イラストレーション・アートへと接続されていく流れるような展開は、1つの絵の中で、流れるようなストーリー性を感じさせる米山舞の真骨頂と言える。

昨今の原画への再評価や、米山の言うセル画の価値を認めることは、すなわちアニメーションを取り巻く細分化された職種に目を向けるということに繋がり、ひいては、度々問題になるアニメーターの労働環境・賃金などの問題に光をあてるきっかけになるかも知れない。アニメーションをハイエンドな銀座の街に持ち込んだ『YONEYAMA MAI EXHIBITION “arc”』は、そういった意味でも、非常に重要な意味合いを孕んでいる。

YONEYAMA MAI EXHIBITION “arc”

会期:2025年12月6日~12月28日
会場:銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM
アドレス:東京都中央区銀座6丁目10-1 GINZA SIX 6F
電話:03-3575ー7755
開館時間:11:00~20:00(最終日 ~18:00)
観覧料:無料
公式サイト:https://store.tsite.jp/ginza/event/art/50901-1725021030.html?srsltid=AfmBOooZH2OQWBIFdSqHDGHBGJyACjc9Owt21w-9hOArGwLmIlZlPQ2J

【インタビュー】  “憧れ”を追い越していく。Face Okaの現在地 – 後編

ひと目見れば彼の作品だとわかる。一度でも目にすれば脳裏に焼きつく作品群は、そのインパクトからはちょっと不思議なくらいにシンプル。それでいて、アイコニックなイラストに固執しない、自由で横ノリなスタイルは、憧れたアーティストたちの背中を追いかけることから始まった。仲間と始めたポッドキャスト「Too Young To Know」は、今や放送173回に及び、近年には「パペット」という操り人形シリーズ「THE KIDDING HEADS」も展開。自身の声と、時折見せるシュールな動きでパペットを操る、画面外のFace Oka。

この人、一体どんなアーティストなのか____。

「THE KIDDING HEADS」と併せて、前後編にわたり徹底的に深掘りします。

Face OkaとPETTI(ペティ)

「THE KIDDING HEADS」の舞台裏 – 操作編

近年新たな試みとして、パペットという操り人形のシリーズ「THE KIDDING HEADS」を展開していますが、これについて教えてください。パペットを動かすあの操作は難しそうですよね。

Face – そうですね。あれは最初に練習しました。1週間もやれば意外と慣れるんです。定点カメラを置いて、下から手を入れて動かす感じで撮っています。ちょうどパペットが1〜2体できた頃に、Netflixで「エルモ(セサミストリート)」の声をやっているケビン・クラッシュのドキュメンタリー『セサミ・ストリートへ愛を込めて ~エルモに命を吹き込んだ人形師』を観たんです。「その人がどうして声優になったのか」という話が中心で、パペットの扱い方自体はそこまで説明していなかったんですけど、その周りにいたパペットアーティストや講師たちの動かし方を見て、「なるほど、こういうことか」と思って、見様見真似でやりました。

Face OkaとPABLO(パブロ)

特徴的な高い声も全部ご自身で?

Face – はい、全部僕がやっています。僕の中で出せる声のバリエーションが限られていて、基本的に「高い声」と「低い声」しかないんです(笑)。このキャラは高めの声なんで、そういう設定にしてます。

キャラクターごとに声を変えている?

Face – そうなんです。でもそれが今の悩みでもあって…。もともとマイク・ケリーのポスターみたいな作品を作りたくて、最初に「登場人物を7体にしよう」と決めて作り始めたんです。でも声のことは何も考えてなかった(笑)。結果、出せる声が3つくらいしかなくて。今のところ声を当てられているのは、パブロとぺティ、ジェニー、うちの猫をモチーフにしたピカビアだけです。ピカビアは「ニャー」としか言わない(笑)。この4体は声も定まっていて頻繁に登場するんですけど、他のキャラはまだ声が決まっていなくて。だから今、そのあたりをどう整理するか悩んでます。

「THE KIDDING HEADS」の舞台裏 – 設定編

KELLY(ケリー) / Face Oka
JENNY(ジェニー) / Face Oka
MIKE(マイク) / Face Oka

それぞれの人格も違うんですか?

Face – そうですね。ただ、まだそこまで作り込めていなくて、今後もう少し固めたいと思っています。性格や背景をまとめた資料を作って、キャラごとの企画書を整理しています。パペットの番組を持つことが目標です。テレビでも、配信でも、YouTubeでもいいんですけど、ちゃんとシリーズとして成立する作品を作りたいと思っています。

彼らは謎の生物なのか、それとも人間的なニュアンスのどちらになるんですか?

Face – 「エルモ」とかだと、何かわからない生物じゃないですか。動物のようでもあり、抽象的でもある。僕はそうじゃなくて、「人間のパペット」を作りたかった。そこに差別化の意識がありますね。

マイク・ケリーのポスター

マイク・ケリーの作品とも違いますよね。

Face – そうですね。僕が意識しているのは、どちらかというと昔のNHKの『ハッチポッチステーション』。あの番組って、人間という設定のキャラクターが出てくるじゃないですか。ああいう“人間の形をしたパペット”の世界観が好きで、近いものをやりたいと思ってます。

ミシンとの衝撃の出会い

「THE KIDDING HEADS」シリーズ以前にミシンを使った経験はありましたか?

Face – 本格的には今回が初めてで、もともとミシンの知識も全くなかったんです。買おうと思った時も、どこで買えばいいのか分からなくて、とりあえずハンズ(旧東急ハンズ)に行ったんですよ。年配の店員さんがいて、詳しそうだったので聞いてみたんですよね。そしたら、「これだよ、これしかないよ。これ以外はありえない」って一点張りで(笑)。値段を聞いたら40万円くらいして、「えっ!」って、かなり衝撃でした。でもその方が、「高いけど、それだけの価値はある」と言うんです。半分騙された気持ちで買ったんですけど、使ってみたら本当に良かったですね。家庭用ミシンって、硬い生地を縫おうとすると針が折れちゃったりするじゃないですか。逆に工業用ミシンだと、薄い生地が縫いづらかったりもするんですね。でもこのミシンは、その中間というか、どんな素材にも対応できる感じで、すごく万能なんです。

購入以来ずっと使っているというミシン

職業用ミシンではあるんですか?

Face – いや、そこが謎なんですよ(笑)。厳密には職業用って感じでもないんです。でも、そう見えますよね。僕も初めて見たとき、「これ何なんだ?」って思いました。部品が壊れたときのパーツを買えるのがハンズしかなくて、しかも高い(笑)。それでも今もずっと使っています。

「THE KIDDING HEADS」の舞台裏 – 製作編

パペットは全てご自身の手作業で作っているんですよね。

Face – そうですね。生地屋に行って、頭の中にあるイメージに合いそうな生地を探して買ってきます。最初、どうやって作るのかなと思って調べたんですけど、なかなか情報が出てこなくて。調べていくうちに、日本のパペット協会みたいなところにたどり着いたんです。すごく昔のサイトに飛んだんですけど、そこに簡単な標本が出ていて、すぐに買いました。

じゃあ、その協会の出している作り方をベースに?

Face – そうですね。協会の出している“正解”というか、基本の作り方に則って作っているんですけど、ベースが一緒なだけで、あとは全部自分で考えています。どう個性をつけるかという部分は完全に試行錯誤ですね。正直、ミシンも3年前くらいにノリで買って始めたので、パターンの概念もほとんどないような状態でした(笑)。

「THE KIDDING HEADS」制作の参考になったという資料

DIYみたいな感覚なんですね。せっかくなので、頭から順に教えて頂けますか?

Face – 頭の作り方が本当にわからなくて。こういう形にしたいというイメージはあったんですけど、やり方が全然わからなかった。粘土などで立体を作るのとは違って、布で立体を作るのは難しかったです。試行錯誤しながら頭の部分は手で縫いました。

印象的なのが、パブロは目や口がなくて「鼻」だけがあるところですよね。今までのFaceさんの作品では、「口と目だけ」が描かれていることが多くて、これは、逆に鼻だけです。

Face – 特に深い意図があるわけではないんですが、目を入れてしまうと、個人的にあまりハマらない感じがしたんです。なので、あえて入れなかったというか、自然に「ない方がいいな」と思ってこの形になりました。

少し触ってみてもいいですか?足の部分はどうなっているんですか?

Face – 足は、これ本当に最近仕上げたばかりで、まだ塗っていない状態なんです。構造としては、上半身に縫い付けるだけなんですよ。まだ試作段階といった感じですね。

PABLO(パブロ) / Face Oka

よくよく見ると、着ている服もパーカー1枚で終わらせるのではなくて、中にTシャツを着せたりと、細かい部分まで本当にこだわっていますね。

Face – このキャラクターは、以前ニューバランスさんとご一緒したときに、CMに登場させてもらったことがあって。そのときに僕自身がアイロンプリントで作ったものなんです。

胸についている缶バッジも印象的です。

Face – 缶バッジは単純に僕が好きなんです(笑)。この赤い缶バッジは、僕の好きなアーティストの言葉をモチーフにして、自分で作ってつけたものです。もうひとつは、僕が好きなブランドの缶バッジですね。どちらも、自分の「好き」を身につけている感覚です。

靴もかわいいですね。これは…?

Face – これは最近仕事で頂いた人形が、たまたまこの靴を履いていたんです。「あ、これ使えるじゃん!」と思って、勝手に履かせちゃいました(笑)。サイズもぴったりで。そういう偶然の組み合わせがけっこう面白くて、気に入っています。

新宿の交差点、ウェストハムファンの合言葉

PETTI(ペティ) / Face Oka

ペティは、サッカーチームのウェストハムのユニフォームを着ていますが、もしかしてファンですか…?

Face – そう、ウェストハムのファンなんです。だからこのパペットにも今シーズンのウェストハムのユニフォームを着せています。子ども用サイズのセットで、上とショーツが一緒に売っているものを買ってきました。

アイアンズ(ウェストハムファンの愛称)…。かなりニッチですよね(笑)?

Face – そうですね(笑)。仕事でよく海外に行く知り合いがいて、その方に「ちょっと今度スペイン行きましょうよ」って軽いノリで言ったら、ほんとに「行きましょう」ってなって(笑)。その流れで彼らは仕事でロンドンに行かなきゃいけなかったんです。高校までサッカーをしていたので、ロンドン行くんだったらせっかくだし「プレミアリーグ観ようよ!」という話になって。ただ、その時に飛び込みでいきなり買えるチケットが、プレミアリーグだとウェストハムしかなかったんです。選手も1人も知らなかったんですけど、行ってみたらめちゃくちゃ面白くて。そこから完全にハマっちゃっいました。今は最下位から2番目くらいなので、頑張って欲しいですね…(笑)。

羨ましいです…。

Face – 普段からウェストハムのマフラーを付けることが多いのですが、新宿の交差点で外国人にいきなり、「アイアンズ!」って声掛けられたのが面白かったですね(笑)。(ウェストハムのチームエンブレムには、ハンマーがバツの字にクロスしたマークが施されており、ファンの間では手をクロスさせて挨拶がわりにしているんだとか)ちゃんとファンだったので、すぐに反応できてよかったです(笑)。

Faceはアート史に残るのか

以前、「美術史に残りたい」、「美術館に収蔵されたい」という発言が見られましたが、その気持ちは今も変わりませんか?

Face – もちろん、変わらずありますね。ただ、今のアート業界を見ていると、少し距離を感じている部分もあります。少し前にアートバブルがありましたけど、その時期は「もしかしたら僕らのやっているアートの立ち位置も、もう少し上に行けるんじゃないか」という希望があったんです。でも、バブルが落ち着いたタイミングで、やっぱりその可能性をあまり感じられなかった。

いわゆる“アートブーム”の時、買われ方や市場の熱量も独特でしたよね。

Face – そうですね。ブームのとき、「誰が買ってたんだろう」と考えると、アートへの見方が純粋な鑑賞というより“投資”の側面が強かったと思います。例えば「全部売れた!」と話題になっても、「誰が買ったのか」というところまでは、あまり誰も気にしていなかった。そこを考えると、個人的には「本当に意味のある購入だったのか?」と疑問に思うこともあります。作品やアーティストのファンの手に渡っていないのであれば、それは僕のやりたいこととは少し違うなと感じたんです。だから今、バブルが落ち着いたタイミングで改めて考えると、僕が最終的に目指している場所、“美術史に残る”という目標は、ちょっと遠のいたというか、「やっぱり遠かったんだな」と再認識している感じがあります。

様々なアーティストへの“憧れ”が作風に色濃く影響しているFaceさんだからこそ、説得力がありますね。

Face – 額面の話だけじゃなくて、どういう形で評価されて、残るか。年表に名前が残るというよりも、作品そのものが“意味を持って残る”という形で、面白い展開になればいいなと思っています。だから、「アート史に残る」目標としては今もありますけど、具体的にイメージできるわけではないといった感じです。それに今は、あまりそこを意識しすぎるのも良くない気もしていて。やりたいことをやっていく中で、タイミングが合ってうまくハマっていけば嬉しいです。

カウズ、ジェームズ・ジャーヴィス、マイク・ケリー、バリー・マッギー…。彼らの背中を追いかけて進んだアーティストの道。そんな“憧れ”を飛び越えて、Face Okaはどこに向かうのか。自由な活動からは、目が離せそうにない。

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