【インタビュー】もう1人のプリマドンナ。りく Ligtonの夢の続き – 後編
彼女自身の大胆さ、彼女の生み出すアニメーションのダイナミックさは、時にあのヒロインと重なって見える。「主役って大変だわ」と歌い上げた星街すいせいに負けじと存在感を放つ若き才能、りく Ligtonとは一体どんな人物なのか。これは、もう1人のプリマドンナの物語。
彗星の勉強から始まった『プリマドンナ』のMV制作
アニメーションを作る際、最初の工程はどんなことから始めるのでしょうか?
りく Ligton(以下:りく) – 基本的にまずは資料集めです。星街すいせいさんの『プリマドンナ』のMVでは、彼女というキャラクターに「彗星」や「天体」のモチーフがあったので、まずは宇宙望遠鏡の本などを買って勉強することから始めました。そこから何か良い要素を拾ってこれないかなと。 あとは、楽曲に「女優・星街すいせいの1週間」というコンセプトがあったので、ファッションショーの動画やブランドのギフトカタログなどを集めました。今回はGUCCIの2018年コレクションのルックをかなり参考にしています。ギフトカタログがイラストで作られていたのですが、リアリズムに徹した絵でありながらそこにファンタジー要素もあって、世界観がとてもお洒落なんです。そういった様々な資料からインスピレーションを広げて、絵コンテに落とし込んでいきました。
星街すいせいさんを描く際、特に意識したことありますか?
りく – 彼女の活動ポリシーやキャラクター性に「強い女性像」があると思います。私も強い女性を描くのが好きで得意分野だったので、あまり何かを意識して変えなくても自然に描けそうだという予感がありました。
「2分52秒」をどう使うか。ストーリーテリングを切り捨てる選択

『プリマドンナ』は星街すいせいさんの独立後初となるMV作品ですよね。制作にあたって、何か特別な指示などはあったのですか?
りく – 実は、指示は限りなく少なかったんです。「女優コンセプトで、星街すいせいの1週間みたいなMVにできたら」という大枠のテーマを頂いただけで、あとは自由に任せていただきました。私はその方が作りやすかったので、ありがたかったですね。
「2分52秒」という短い尺をどう使うか、最初に考えたことは何でしょうか。
りく – 2分52秒は凄く短いので、やりたいことを詰め込みすぎると中身がごちゃごちゃになってしまいます。だから今回は、ストーリーテリング的な部分はあえてバッサリ切り捨てました。 物語を作るとなると、カットごとに緩急をつけたり、間を持たせる構成にしたりする必要があります。しかし、今回の曲は構成が非常にシンプルだったので、この短い尺で無理に物語を語ろうとしても視聴者に意図が伝わらないなと。だから今回はストーリーを語ることはせず、「見ていて気持ちいい映像」に全振りすることに決めました。
特にこだわったところを教えてください。

りく – 全画面、毎秒・毎コマが「美しい画面」であることです。私は自分の作る作品の中に1枚も汚いものを混ぜたくないみたいな欲求があるんです。 棚に好きなものを綺麗に並べていくように、MVの2分52秒間をすべて美しい絵で埋めたかった。ルック(映像の見た目)はとにかく綺麗なものにしたい、という点には徹底的にこだわりました。
大ヒット作の舞台裏に隠された青春ストーリー
背景の描き込みやデザイン的な要素も強く感じました。その部分は美大時代のデザイン科の経験が活かされているのでは?
りく – 背景はChavoomさんというアーティストの方が一人で全て描いてくれています。お仕事するのは過去に作ったEveさんの楽曲「虎狼来」mvから2回目で、とても信頼している方です。デザイン周りは、多摩美術大学時代の同級生に頼みました。私はデザインができないので、前回のEveさんのMVや今回の『プリマドンナ』も含め、信頼できる同級生たちにお願いしています。今回はデザインと作画の両面で多摩美時代の同級生が4人ほど関わってくれているんです。
そんな青春ストーリーが隠れていたのですね…!
りく – たまたま学生時代の友人だったというだけで、みんなすでにプロの現場で何年も生き抜いてきたプロフェッショナルばかりです。大人になってもこうして集まれるのは嬉しいですね。 現場の雰囲気もすごく温かくて。制作のDiscordがあるのですが、私が納品報告をした時にみんながブワーッとスタンプで盛大に祝ってくれたんです。本当に居心地の良い現場でした。

1日50枚の原画。制作期間3ヶ月の舞台裏
制作期間はどれくらいですか?
りく – 丸3ヶ月ほどです。納品の4〜5日前になって「これ、終わらないな」と気づき、現実的な計算をしてみたんです。そうしたら「あと150枚あるから、1枚20分の計算で16時間、これを3日間描き続ければ終わる」という計算になりまして(笑)。 最終日の3日前くらいからは、1日2時間睡眠で、ひたすら1日50枚を描く生活をしていました。不可能だと思いましたが、実行してみたらなんとか間に合いました。
過酷ですね……。その3ヶ月間、精神的に落ち込むようなことはありませんでしたか?
りく – それは全くなかったです。MV制作は楽しいことばかりで、参加してくれた方々の技術のおかげもあって、辛い瞬間は全くなかったですね。今回は撮影監督の千葉大輔さんと二人三脚で作ったのですが、千葉さんがクライアントとの連絡や他のアニメーターとの連携をすべて引き受けてくださったので、私は描くことだけに100%専念できました。それも大きかったですね。
趣味と仕事の境界線はない。1日10時間超のルーティン

この3ヶ月間、絵の合間に趣味として絵を描いたりはしましたか?
りく – 合間にもたくさん描きます。特に絵コンテの期間は、採用されなかったアイデアもたくさん出るので、それを別の機会に使うためにノートに描き留めています。 ずっと絵を描いて生きてきたので、自分の中で趣味と仕事の境界線は限りなく“ない”に等しいですね。
制作期間中の1日のスケジュールはどのようなものでしたか?
りく – MVを作っていた頃は、12時頃に起きて13時から19時まで一気に仕事。お腹が減ったらご飯を食べて、少し休憩してから21〜22時頃に再開し、深夜の3〜4時まで描く……という、ただの夜型生活です(笑)。 ただ、1日10時間はデフォルトで描いていますね。ずっと座っていると腰を悪くするので、昇降式のデスクを使って、立ったり座ったり動きながら描いています。
あの時遊んだポケモンカードが、今では______。
ここからはポケモンカードついても聞かせて下さい。
幼少期から「ポケモン」が好きでよく描いていたとのことですが、今ではポケモンカードのイラストも手掛けています。ひとつ夢が叶ったのでは?
りく – そうですね。子供の頃はポケモンカードで遊んだりもしていたのですが、まさか自分が描く側になるなんて想像もしていなかったです。もしタイムマシンがあったら、自分が描いたカードを過去の自分に送ってあげたいです。きっと腰を抜かすほど驚くでしょうね(笑)。
ちなみに、今でもポケカで遊ぶことはあるのですか?
りく – 描き始めてから再開したのですが、私にはカードゲームの才能がなかったみたいで(笑)。勝負事に負けるのが嫌いなのに、全然勝てないんですよ。だから悔しくてやめちゃいました。「自分で描いてるんだから強いだろう」とか思って始めたのですが、現実のバトルは厳しかったです…。
りくの描く夢の続き。いつかは「2時間の大作」を。

幼少期からの夢だったポケモンカードのイラストまで手掛け、大活躍されているりくさんですが、今、描いていた夢のどのあたりまで来ましたか?
りく – 難しいですが……「3割」ですね。まだまだこれからです。
これから挑戦したいことはありますか?
りく – やはりアニメーションに軸を置きたいです。今は短編を何本か作らせていただいていますが、ゆくゆくは20分、1時間、そして最終的には「2時間尺の長編映画」にも挑戦したいと思っています。 もちろん、技術的にも資金的にも、今すぐ2時間の大作を作ることは不可能です。いつかそれを形にできるように、今は短いものからコツコツと作って地盤を固めている段階です。いつか脚本も自分で手掛けた映画を作れたらいいな、と。
それが最終目標なのですね。
りく – そうですね。そこに向けて着々と進んでいきたいです。これから先、「りくさんが作るフィルムってこういうルック、こういうクオリティだよね」という共通認識が業界や視聴者の皆さんの間に生まれたらいいなと思っています。 それに、周囲の人にお手伝いをお願いする際も、「りくさんの作品だからクオリティは妥協できないな」と思ってもらえたら、より良い作品が生み出せるはず。そういう共通認識と信頼のビジョンを作っていきたいです。
未来のクリエイターへ、そして過去の自分へ贈る言葉
最後に、これからイラストレーターやアニメーターを目指す若い人たちへアドバイスやメッセージをいただけますか。
りく – 私自身がまだ若手だと思っているので、アドバイスというおこがましいものは何もないのですが(笑)。
では、もし過去の若い自分に一つだけ言葉をかけられるとしたら、何と伝えますか?
りく – 「描くのをやめるな」ですね。とにかくひたすら描き続けろ、と伝えたいです。
FAQ – 募集質問コーナー
最後に、事前に募集した「りく Ligtonさん」への読者質問を掲載します。たくさんのご応募ありがとうございました。
ここに掲載されていないものも記事内の所々で話に登場するので、是非じっくり読んでみて下さい。今後も様々なアーティストで実施予定ですので、そちらも合わせてチェックしてみて下さい!

Q – ここ最近で衝撃を受けたアニメ作品は?
A – 『スパイダーマン:スパイダーバース』です。2Dの作画アニメではありませんが、画面からアニメーターの熱量がビシビシ伝わってくるところが大好きです。登場する様々なスパイダーマンごとに作風や原画のタッチが全く異なるのに、映像のルックとストーリーが完璧に融合している。単なる見た目の面白さだけでなく、「映画としての面白さ」に昇華されている点に衝撃を受けました。
Q – ご自身が描かれた中で、一番気に入っているポケモンカードは?
A – ムウマージのイラストです。アートレアではない通常のノーマルカードなのですが、夜が似合う紫色のゴーストポケモンを、あえて真昼間の広場にいるシチュエーションで描いたんです。それが自分の中で凄く上手くハマった感覚がありました。
Q – りくさんにとって青色は特別な色ですか?
A – 青は幼稚園の頃からずっと好きでした。なぜなのか自分でもうまく言語化したことはないのですが、青色ってバリエーションがすごく多い気がするんです。あと、水や海が好きでよく描くのですが、それらも青色だから、自分の好きなものが全て「青」に詰まっているのかもしれません。
小学校に上がるとき、親が赤いランドセルを買ってきてくれたことがありました。その時、3歳下の妹に、ついでに水色の自由帳も買ってきたんです。ランドセルと自由帳が並んでいるのを見て、ランドセルそっちのけで水色の自由帳が欲しくて「そっちが良かった!」と泣いた記憶があります(笑)。
Q – 絵とは離れた趣味などはありますか?
A – あまりないのですが、レゴ(LEGO)が好きです。ちょっとコレクター気質で、たくさん買っています。 最近のレゴはクオリティが凄くて、中には6万円や7万円するような高価なキットもあります。組み立てるのにすごく時間がかかるので、最近は積みレゴ(買ってそのまま積んでしまう状態)になっています(笑)。
Q – 集中が途切れたときや、煮詰まったときのリフレッシュ方法は?
A – 散歩に出かけます。外に出られないほど忙しいときは、家の中をウロウロしたりストレッチをしたりします。もっとしっかりリフレッシュしたいときは、キッチンに立ってパスタを茹でます(笑)。
Q – 目を描く時のこだわりはありますか?
A – 最近周りの方から言われ始めてこだわるようになりました。同時に「逆張り」のような意識も働きまして(笑)。眼球の情報量は逆に極限まで少なくしつつ、強い目力を表現できるように工夫しています。眼球の描き込みを減らす代わりに、白目とのバランスや、まつ毛のラインの引き方を意識することで、「強い目力」が出るようにコントロールしています。







































































