福岡アートブックフェア「Pages」に行ってきた!〜後編〜

前編に引き続き、福岡アートブックフェア「Pages」について取り上げる。

主に3つのエリアに分かれて会場が配置される福岡アートブックフェア。メインブースである「余香殿(よかでん)」と「文書館(ぶんしょかん)」、飲食店のポップアップが集まる屋外の「Yummy Area」とそれぞれで雰囲気の異なる出展者が名を連ねており、会場の太宰府天満宮を散歩するようにアートブックフェアを楽しむことができる。

Yummy Areaで腹ごしらえ!

さて、ブースをぐるりと回ってちょっとお腹が減ってきたら、「Yummy Area」で腹ごしらえ。福岡をはじめとする九州地方の飲食店やフードトラックなどを中心に様々な飲食店が出店しており、お腹いっぱいでも立ち寄りたくなる。

南部食堂のおにぎり弁当。天日塩のおにぎりと鯖と大葉のおにぎりの2種が入っていた。(筆者撮影。)

福岡県福津市に拠点を持つ「南部食堂」では、手軽に食べられる季節のおにぎりがラインナップ。2種類の味を楽しめる竹皮包みのプチ弁当も人気。普段は昼呑み推しの食堂を営んでいて、地元の野菜などをふんだんに使った旬野菜をたっぷり食べれるごはん、スパイスをきかせたごはんを作っており、お惣菜のテイクアウトもできるそう。地元の店をアートブックフェアで知ることができるのも面白い。

そのほかにも、久留米市を拠点に出店形式でスパイスカレーを食べることができる「咖喱屋 納曽利(なそり)」、音楽フェスやイベントなどでもお茶を振る舞うカルチャー系茶屋「茶番」、春の温かい日差しにはもってこい!こだわりのアイスクリームを提供する「SCREAM」などの出店があり、筆者も後ろ髪を存分にひかれながら「Yummy Area」を後にした…!

体力もお腹もチャージできたところで、「余香殿」にまた戻ってみよう!

みさこみさこ/PALESTINE ART BOOK FAIR

個人での出展だった「みさこみさこ」さん。福岡を拠点にグラフィックデザイン、写真、編集、アート制作などの分野で活動している。象徴的な「PALESTINE ART BOOK FAIR」のフラッグは東京アートブックフェアに合わせて会場である東京都現代美術館の前でゲリラ的に行われた際のものを使用しており、数ヶ月経った今でもパレスチナの状況が悪化する一方であることを痛感させる。

みさこみさこさんのブース。書き加えられたPALESTINE ART BOOK FAIRの文字が。(筆者撮影。撮影承諾済。)

ブースでは、パレスチナが侵略を受ける前の美しい風景や生活を現地からレポートしている「聖地パレスチナ一人散歩」(菅梓)や、スイスを拠点に活動するグローバルなフェミニスト・コミュニティ「Futuress」が掲載してきた、“フェミニズム×デザイン”の視点で身近なデザインや社会の当たり前を世界の各地(本作ではトルコ・ノルウェー・アメリカ・インド・パレスチナが舞台となっている)で問い直す5本のエッセイを収録した「Design is for EVERYBODY/デザインはみんなのもの」、かわいいイラストをシルクスクリーンでプリントした“STOP GENOCIDE”のファブリックパッチなどが展開されており、こうしてイベントを楽しめることは当たり前ではないことを再認識させる。出展者のみさこみさこさんが丁寧に本の内容を説明してくれたことも印象的だった。

お次は世界を旅するデザイナーのブースへ

へきち

こちらは畳敷きの「文書館」で出展している、グラフィックデザイナー松田洋和とイラストレーター田渕正敏のユニット。2011年から主にアートブック制作を中心に活動をしている。まず驚いたのは、作品の数の多さだ。これ全部作ってんの?!ってところからはじまる。案内してくれたデザイナーの松田さんはJAGDA(グラフィックデザインの登竜門的なアワード)の新人賞を2025年に受賞する実力派。イラストレーターの田渕さんは鮮やかな青色のみを使用したイラストや絵画作品を継続的に制作しており一目で彼の作品だとわかる。

「アートブックフェアをめぐる旅行1 World Journey Around The Art Book Fair 1 NY, USA」−Hirokazu Matsuda 

「World Journey Around The Art Book Fair 1 NY, USA」はデザイナーの田渕さんがニューヨークのアートブックフェア「NYABF」に行った時のレポートを書籍化したもので、世界中にあるアートブックフェアの中から毎年1カ所決めて行き、購入した本の詳細や周辺観光についてまとまっている。さらにイベントに参加している出展者の分析や海外のアートブックフェアに参加するときの意気込みまで…!本に付属しているパスポート風カード、レプリカのチケット、おじさんのポストカードなどなどおまけもかわいい。そのほかにもまるで刺身のパッケージに入っているかのようなイラストZINEや、彼らが毎月開催しているイベントをまとめたレポートブックなど何時間あっても見足りない!

大盛況に終わった「福岡アートブックフェア Pages」。出展しているブースはもちろん、イベントに加えてアーカイブ展など盛りだくさんの内容となっており、遠方から尋ねてくる人(韓国や中国、金沢からきているお客さんもいた!)が多いのも納得だ。本をじっくり眺めたい人、ワークショップやイベントも合わせて楽しみたい人、おいしいご飯が食べたい人(笑)にはもってこいのアートブックフェアであった。来年はさらに面白い出展者に出会えることを願って、このレポートを締めくくりたい。

福岡アートブックフェア「Pages」に行ってきた!〜前編〜

福岡アートブックフェアとは

福岡アートブックフェア「Pages」は今年で2回目を迎える。なぜ福岡?と思われる方も多いかもしれないが、筆者が期間限定で福岡に住んでいるからだ。福岡にはこれまでアートブックを中心にしたブックフェアが存在しておらず、2024年に初めてのアートブックフェア(通称FABF)が開催された。

発起人は福岡カルチャーの中で欠かせない存在の「本屋青旗」の店主でもある川﨑雄平さんだ。本屋青旗は国内外のあらゆるアートブックや雑誌、写真集などを取り扱う店で、定期的にアーティストの個展やイベントを開催している。

そんな川﨑さんを中心に東京アートブックフェア(TABF)のディレクターらが協力しあって開催したのが福岡アートブックフェアなのである!

太宰府天満宮の気持ちのいい日差しの中開催された

2025年4月18日から4月20日までの三日間、太宰府天満宮にて開催され、筆者は初めて参加したのだが太宰府天満宮という場所柄からか、子どもから大人・お年寄りまで多くの方々が来場しており、東京アートブックフェアよりも幅広い人たちにアクセスしているのが印象的だった。

大きく、個人やグループなどで参加しているブースが集まっている余香殿(よかでん)と、海外の出版社や国内のアートブック系の本屋・出版社などが出展している文書館(ぶんしょかん)、飲食店や花屋などが集まる屋外のYummy Areaの三箇所に分かれており、太宰府天満宮の中を散歩するようにアートブックフェアを楽しむことができるのも魅力的だ。

また、会期に合わせて様々なイベントやトークセッション・ワークショップが行われており、毎日行っても楽しめるようなアートブックフェアになっている。

それでは、特に印象に残ったブースを紹介していこう!

Ghi-Cha 汽車

お隣の国、韓国から参加している女性四人組のアーティストコレクティブ。そういえば福岡という場所柄か、韓国からの出展者や参加者が多いことも印象的だった。東京より近いし。このGhi-Chaも1回目の開催に引き続き2回目の参加だという。グループ名のGhi-Chaは、本を開き、読み、見るという行為が、汽車に乗り、目的地に到着する旅路に似ているという点から名付けられた。

Ghi-Chaのブース。色とりどりの本が並ぶ。

メンバーの1人であるド・ユナさんがディレクション・編集している「TRANSLATED BOOKMARKS」を購入した。本業はグラフィックデザイナーだというユナさん。本の装丁やデザインもクラフト感があってかわいい。かわいい包みとはウラハラに韓国語と日本語のバイリンガルブックとなっており(ありがたい…!)内容もしっかりと読み応えのある本になっている。ユナさんの友人を中心に匿名の八人を対象にした、メディアやコンテンツとの関わり方をとらえたインタビュー形式の本になっていて、日本のアニメや韓ドラなども多く登場してきて、するする読めてしまう。(翻訳もユナさんがしたらしい!)会社員をしている人からアーティストまで幅広いカテゴリーの友人たちにインタビューしており、コンテンツを作っている人たちにぜひ読んでもらいたい一冊だ。

「b/o/o/k/e/u/b/o/o/k/e/u」のブックスワップ

韓国からの出展者で面白い取り組みをしている方々がもう1組。

「b/o/o/k/e/u/b/o/o/k/e/u」(ブクブク)はソウルを拠点に活動している移動式ライブラリープロジェクト(?!)だ。なんのこっちゃ。ソウルでは様々な場所にゲリラ的に出没し、本の交換会を行ったり、自分たちが制作したZINEなどを販売しているという。アートスペースや公園などでの開催を経て、福岡アートブックフェアに出展していた。福岡では、事前に彼らのインスタグラム上で募った希望者から本を送付してもらい、福岡へ。そして福岡の会場で並べられた本たちと日本の参加者が持ち寄った本を交換し、交換が成立した提供者にそのまま送付するという。

b/o/o/k/e/u/b/o/o/k/e/uのイベントを通じて、全く見ず知らずの2人がつながるというロマンティックな仕組みだ。

ブックスワップは日本ではあまり馴染みがないが、海外のアートブックフェアなどで盛んに行われており、交換によって経済を動かしていく面白い取り組みの一つだ。アーティストや作家などが、自分たちの作った本やZINEを宣伝する目的に使うことも。思わぬところでバイブスの合う作家に出くわしたり、欲しかった本をちょっぴりおまけして手に入れることができたりもする。

実際福岡アートブックフェアに行って思ったことは、時間の流れがゆったりしているということだ。東京アートブックフェアでは味わうことができない参加者たちの“交流の場”を作り、その中の化学反応を楽しんでほしい、とディレクターの東直子さん(TABFのプロジェクトマネージャーでもある!)も語っている*1。作家や本の作り手からじっくりと本の説明を受けたり、ゆったりご飯を楽しんだり、畳の部屋でごろごろくつろいだり(?)参加者それぞれに楽しみ方が用意されている福岡アートブックフェア。後編ではブース紹介の続きと、Yummy Areaのレポートも!ぜひ続けて読んでみてほしい。

*1:https://2024.fukuokaartbookfair.com/interviews/2421/ より引用

アートから見る大阪・関西万博

2025年4月13日に開幕した「EXPO 2025 大阪・関西万博」。“いのち輝く未来社会のデザイン”をテーマにかかげ、見たことのないような新しい万博を関西・大阪から発信する。

どことでもオンラインでつながることのできる現代において、あえて万国博覧会をやる必要ってあったっけ?いつの時代にも万博は国の垣根を超えた創造力とワクワクを提供してくれた。この万博が様々な人が活躍できる未来の社会づくりのきっかけにとなるように、アートやデザインの視点から見るBAM流万博の楽しみ方を探っていこう。

大阪・関西万博の顔「ミャクミャク」の誕生秘話

大阪・関西万博公式キャラクター「ミャクミャク」

みなさんは「ミャクミャク」についてどれくらいご存じだろうか?特徴的な赤と青のカラーリングと、ちょっと奇妙なシルエット。開催前からじわじわと人気が出始め、万博会場で売られているミャクミャクの人形はたちまちソールドアウトになっているそう。そんなミャクミャクを作ったのが神戸市出身の絵本作家・山下浩平だ。

mountain mountain名義でグラフィックデザインを、本名の山下浩平として絵本や児童書の制作を行っており、2021年より募集されていたデザイン案の公募によって選出された。

すでに決定していたロゴマークはそのまま顔として、体は「水の都」の大阪にちなんで青に、腕からはポタポタしずくが垂れてくるようなデザイン。山下さんは1970年に開催された大阪万博の象徴でもある「太陽の塔」が大好きで、ミャクミャクを見てどことなく感じる奇抜さは岡本太郎譲りかもしれない。細胞の分裂や水の流れのように、様々な形に変化できるところは、キャラクターとしての面白さだけでなく多様性も感じさせる。

サンリオキャラをはじめとするキャラ同士のコラボレーションや二次創作などによってミャクミャクはネットミーム化しておりX(旧ツイッター)では毎日のように姿を見かける。なぜそこまでミャクミャクが人々を魅了するのだろうか。

ルーツは江戸時代?奇妙さがフックに

一度見たら忘れられない姿のミャクミャク。たくさんの目を持ちポタポタと雫が垂れる様子は一見すると妖怪のようにも見える。日本において妖怪を愛でる行為が広まったのは江戸時代からだそうだ。万物神が宿ることが前提の日本思想。神が宿るとされる「もの」を大切にする過程で妖怪というものがいつしか生まれたのだろう。しかし江戸時代中期に入ると、妖怪にまつわる伝説や信仰が“実は嘘なんじゃないか?”と信じられなくなっていった。(逆を言えばそれまでは本気で信じられていた、ということになる)当時の幕府による政策も相まって、妖怪は一気にトレンドに浮上した。子供用のおもちゃや双六などから、大人向けの絵本や浮世絵、芝居などに多く妖怪が登場していき、妖怪のキャラクター性が確立していった。

一勇斎(歌川)國芳『源頼光公舘土蜘作妖怪圖』(天保14[1843])–国立国会図書館蔵

話を現代に戻そう…。ピカチュウ、マリオ、ハローキティなど世界でも有数のキャラクター大国である日本。ミャクミャクを愛でてしまう心は日本人ならではの、奇妙を受け入れてKAWAIIに転換する不思議な性質が作用しているのかもしれない。

BAM流万博の楽しみ方

独創的なパビリオンを目的に大阪・関西万博に訪れる人も多いだろう。しかし実はパブリックアートの宝庫でもある。国や地域、民族など、多様なバックグラウンドを持つ国際的なアーティストによるパブリックアートが会場の各所に展示され、世界各国の芸術作品を通して、来場者同士での対話や交流を図ることを目指している。

チェコ・プラハを拠点とするSubfossil Oak s.r.oが手がける「文明の森」は、世界でも珍しい樹齢6500年のオークの亜化石で作られた森を舞台にした古代の森のインスタレーションで、大阪・関西万博の参加国それぞれに1本ずつ捧げられている。130本以上の希少な樹木が展示され、大きな森を作るというコンセプトのこちらの作品は私たちがこれまで土地を切り拓き、あらゆる場所で叡智と文化を産みながら営みを続けてきた人間とそれを見守ってきてくれた自然との対話のようにも感じられる。パブリックアートはそのほかにも計21作品が会場内に展示され、会期中いつでも見て楽しむことができる。

Forest of Civilizations(文明の森)–Subfossil Oak s.r.o

ここまでは万博の華やかな側面ばかりを伝えてきた。しかし海の外を見れば連日の不安定な国際情勢がニュースを騒がせ、大阪府知事らによる市民の賛否両論を押し切り万博開催を断行したことなど、問題も山積みだ。開催前に話題になった会田誠によるミャクミャクのパロディ作品は大阪・関西万博の負の部分を思い起こさせる。大きなイベントにはそれ相応の負荷がかかる。会田誠以外にも批判的な眼差しを向け続けるアーティストたちも多く存在する。それは、アートが私たちに批評的な視野を与えてくれるからかもしれない。

私たちの未来は明るいのか、それとも…。そんな岐路に立つ我々に新たな発見を与えてくれる大阪・関西万博は、2025年10月13日までの開催だ。ぜひ体験してみてほしい。

グラフィックデザイン入門ーエフィメラとアート

エフィメラとは

「エフィメラ」と聞いてピンとこない人も多いかもしれない。エフィメラ/ephemeraとは、「短命な/一時的な/はかない」といった意味を持つ言葉で、美術用語に置き換えれば、保存されることを考慮されていない、即物的に生産された小さな紙媒体のことを指す。筆者がエフィメラというものに出会ったのは、「フルクサス/fluxus」という芸術運動に興味を持ったことがきっかけとなり、調べているうちにエフィメラの存在に辿り着いた。エフィメラとフルクサスの関係には後日触れることにして、エフィメラの魅力について語っていこう。

読者のみなさんも、いいデザインのチラシやDM、パンフレットを捨てずに取っておいた経験があるのではないだろうか。現在でもおびただしい数のチラシやDMが作り続けられている。しかしデジタル技術の発展とともに、紙媒体での配布がなくなり、InstagramやWebサイトといった存在に代替しつつあるのも事実だ。つまりエフィメラは減少傾向にあるといっていい。

そもそもの始まりは、今よりもずっと前。展覧会やイベントがあるとアーティストたちは招待状やDMを仲のいい友人や支援者、ギャラリーやプレスなどに向けて制作していた。その当時は広く宣伝する手立てがないため、それらがアーティストやイベントを知ってもらう唯一の手段となったため、各アーティストたちが趣向を凝らしながら制作されたものも多かった。つまりエフィメラがそのアーティストやイベントの顔になる、ということでもあった。

あのアーティストのエフィメラ

現代美術の祖とも言えるマルセル・デュシャン/Marcel Duchampもエフィメラルな作品を多く残している。

“Dada: 1916-1923,” Sidney Janis Gallery, New York, April 15 to May 9, 1953 / Marcel Duchamp


ニューヨークでのダダに関する展示を行った際の活版印刷による展覧会カタログとポスターデザインとのことだが、作品が折りたたまれていることからもわかる通り、保存状態も決していいとは言えない。しかしグラフィカルな文字の配置や、アートワークのようなデザインは今見ても参考になる。

さらにエフィメラには、時代性を色濃く映し出すという側面もある。長期的に存在することを前提に作られた美術作品や書籍とは違って、即物的・即興的に作られており、展覧会やイベントが終わったら捨てられてしまうようなものであるため、その時のアーティストたちの思想や感情が反映されやすく、短期的に制作されることが多いため、同じアーティストの作ったエフィメラ出会っても、時期によって作風が全く違うこともしばしば。そんな点もエフィメラを、これからもウォッチしていたいと思わせるうちの一つだろう。

日本のエフィメラを見つけにいこう

日本でもたくさんのエフィメラを見つけることができる。1950年代から60年代にかけ華道の流派の一つである草月流の総本山・草月ホール(現在の東京・赤坂に所在する草月ホールの前身となったアートスペース)では、三代目家元でアーティストでもあった勅使河原宏(てしがわらひろし)のもと、様々なイベントが催されていた。多彩なジャンルの表現がその枠にとらわれずに自由に集まり、創造し、発表し、批評し合える場、アーティスト同士が交流できる場を目指した草月ホールでは、アーティスト自身で自作をプロデュースするという仕組みが取られ、日本のコンテンポラリーアートの発信地になっていった。特に現代音楽の新しい発表の場となった「草月コンテンポラリー・シリーズ」では多くの素晴らしいエフィメラ作品が登場している。



アーティストの小野洋子(オノヨーコ)もこの草月ホールで作品の発表を行っていた。この発表の数年後に、かの有名なビートルズのジョンレノンと世紀の婚約を発表し、数奇な人生に飲み込まれていくことはみなさんもご存知だろう。1962年に小野の制作した音楽作品の発表会が開かれ、そのイベントに合わせて制作されたこちらのフライヤーは、広げると全長40センチを超える不定形で、整然と並べられた文字情報の脇にはエンボス加工がされており、力の入れようが伺える。当時の小野は一柳彗やジョンケージ(「4分33秒」という音楽作品で有名なアーティスト)らとともに新しい音楽の形を模索していた。それを間接的に表現するためのエフィメラだ。

近年、エフィメラが小さな盛り上がりを見せており、エフィメラのコレクターでもある清里現代美術館のアーカイブブックが発売されたり、エフィメラ作品を収蔵していた慶應義塾大学アート・センターとJapan Cultural Research Instituteによる展覧会「エフィメラ:印刷物と表現」も2024年に開催された。

膨大な数が存在するエフィメラだが、未開拓な部分も多い。新しい作品の領域になりうるかもしれない。コンセプトアートもいいけれど、即時的でアーティストの熱のこもった作品の多いエフィメラをチェックしてみるのも悪くないかもしれない…!


アートフェア―アートを見る時代から買う時代へ

アートを買うにはどうしたら良いのだろうか。アーティストの個展や百貨店のギャラリーに赴いて直接買う?あるいは度々ニュース等で話題になるオークションに参加する、というのも一つの手だろう。しかし、もっと手軽に、いろんな作品を吟味できる方法はないだろうか。そんな願いを叶えてくれる「アートフェア」でぜひアートを買ってみてほしい。

アートフェアとは

アートフェアはよくアートの見本市と言われている。たくさんのギャラリーやアーティストが一同に会し、その場で鑑賞や購入ができる仕組みとなっており、たくさんのアートを一度にみたい人や、さまざまなアーティストの作品を見比べながら購入を検討している人にとっては絶好の機会なのである。

代表的なものはアートの売買の中心地、スイス・バーゼルを拠点に開催される「アート・バーゼル」だ。アート・バーゼルは昨今のアートフェアトレンドの火付け役だ。その歴史は1970年から始まっており、現在ではマイアミビーチや香港、パリなどのエリアに拡大してアートフェアを開催している。世界各地から200軒以上のギャラリーと4000を超えるアーティストの作品が並ぶアート・バーゼルには、優良な顧客が来ることでも知られており各ギャラリーの作品にも力が入っている。アートフェアでは普段目にすることができない作品を見ることができるのも魅力の一つだろう。

日本のアートフェア

日本でもアートフェアは各地で開催されてきた歴史があるが、海外から見て日本のアートマーケットは未だに小さく、現代アートへの教養や理解度が発展途上であったために、世界の著名なギャラリーがなかなか参加してくれないなどの課題が残っていた。

しかし2023年に初開催された日本初の国際的なアートフェアと題された「Tokyo Gendai」を皮切りに日本でもアートフェアを盛り上げる動きが注目されている。

Tokyo Gendai(東京現代)とは2023年を皮切りに毎年開催されている世界水準の国際アートフェアで、2023年には3日間で20,000人を超える入場者を記録した 。世界各国から集結した現代アートギャラリーによる作品の展示と販売をしている。“国際的”というのは単に海外のギャラリーが参加しているというだけでなく、作品の質や作家の文化的アイデンティティ、ジェンダーなどの指標を鑑みて、グローバルなプレゼンテーションとなるような展示内容となっている。(逆を言えば今までの日本のアートフェアではそのあたりの平等性が担保されていなかったのも問題点だったのだろう。)

「Tokyo Gendai」の様子。世界でもっとも影響力のあるギャラリーのひとつであるPaceが参加するのは日本ではTokyo Gendaiのみ

Tokyo Gendaiでは、会期中のトークセッションやイベントなど体験価値の高まるようなプログラムもたくさん用意されており、単にアートを購入するだけでなく参加者全員が楽しめるような内容となっているのも魅力だ。2025年には第3回をパシフィコ横浜で控えているので気になった方はチェックすることをおすすめする。

日本で最も歴史のあるアートフェアといえば、毎年有楽町の東京国際フォーラムで開催されている「アートフェア東京」だ。Tokyo Gendaiが現代アートに特化したアートフェアだったのに対し、アートフェア東京では古美術・工芸から、日本画・近代美術・現代アートまで、幅広い作品のアートが展示される。また2005年から開催している、日本最大級の国際的なアートフェアで会期中の来場者数は2024年開催時には5万5千人を超えた。

出展数も日本ではトップクラスの150軒超えとなっており、さまざまなアートをまんべんなく見てみたい人にはおすすめのアートフェアとなっている。

「アートフェア東京19」の様子。ソフィ・カルや村上隆が所属する国際的なギャラリー「ペロタン」も参加している。

参加するギャラリーやアーティストにとって、作品が売れることは大事な要素の一つ。その点アートフェア東京は約33億円の売上を計上し、1000万円クラスの作品も多数売買された。そのため参加するアーティストたちにとってもモチベーションが高く、世に出回ることの少ない作品も展示されることも多い。

映像作品やインスタレーションといった、なかなか売買されることが少ない作品もある。そんな作品を多く取り扱っていた「EAST EAST」というアートフェアが2023年に東京・科学技術館にて開催された。

当日はライブパフォーマンスやフード・ドリンクの提供など、アートフェアという枠組みにとらわれない試みも見られ、なかなかアートフェアに馴染みのない若い世代や学生たちにも好評のアートフェアとなった。国内外の24のギャラリーが参加しており、数だけ聞くとやや小規模に感じるかもしれないが、参加しているギャラリーやアーティストはアートフェアに初参加の新しいギャラリーや、学生を含む若いアーティストたちも多く、よりフレッシュでカルチャーシーンを体現するような場となった。オフサイトプログラムとして、渋谷や新宿の街頭での映像作品展示や、クラブやライブハウスでの音楽プログラムなども行われた。次回開催は未定。

ZINEって何?

TOKYO ART BOOK FAIR(通称TABF)はご存知だろうか?東京で毎年10月〜11月頃に開催される、アート出版に特化した日本で初めてのブックフェアだ。口コミやインスタグラムなどで話題を呼び、2009年の初開催から大小さまざまな国内外の出版社、アートギャラリー、アーティストら約350組が出展をし、なんと2万人以上の人々が来場している一大イベントだ。

TABF 2024

TOKYO ART BOOK FAIRでは、もちろん写真集やアートブックなどが展示販売されるなか、特に人気を集めているエリアが、主に自主制作されたZINEを販売する「ZINE’S MATE」と呼ばれるエリアだ。

ZINEとは、個人や小規模のグループによって作られる雑誌や写真集・詩集などの出版物を指す言葉だ。

1930年代のSFファンの間で自主的に作られた「FanZine」に端を発すと言われているZINEの歴史はとても長く、これといった定義やルールがないのが特徴だ。似た言葉として「リトルプレス」があり、自らの手で制作した少部数発行の出版物のことを指す。

2010年代頃からインスタグラムやX(旧Twitter)をはじめとするSNSが世の中に浸透し、いままでクローズドだった個人の主張がよりオープンに公開されるようになった。その影響もあってか、アーティストやデザイナーといった、感度の高い人々を中心に再びZINEという制作手法が再注目されたのだ。

よく似たものとして雑誌があげられるが、雑誌はさまざまなライターやエディターの企画が集まっているのに対し、ZINEは作っている個人やグループの、とても個人的な思いやテーマが色濃く反映された媒体であるところが違いと言えよう。(もちろん限りなく「雑誌的」なZINEや「ZINE的」な雑誌があるのも事実であるが…。)

個性豊かなZINEの作り手たち

TOKYO ART BOOK FAIR 2024のZINE’S MATE出店者の一つである東京・東中野にある「loneliness books」はアジア各地のクィア、ジェンダー、フェミニズムに関連するZINEなどを集めたブックストアだ。

「まとまらないおしゃべりのその先に… #まとおしゃ」 ¥700
フェミニズム的な視点からさまざまな書籍や絵本を制作している韓国の出版社チョウ商会、脳性マヒ当事者としてさまざまな社会運動に関わる古井正代、フェミニスト手芸グループ山姥のメンバーたちのおしゃべりを記録したZINE。



「MORIMICHI ZINE’S FAIR」は“モノとごはんと音楽の市場”をテーマに掲げる「森、道、市場」というフェスの会場内で開催されているZINEのイベントだ。愛知県三河地域を中心に開催され、初夏の3日間を上質な音楽やおいしいご飯をたのしみながらZINEをチェックすることができる。

参加者の「VOYAGE KIDS」は移動式アートブックショップを全国で開催したりもする大阪のアーティストグッズショップ。アートや音楽、ファッションなど、「街で表現する」国内外のアーティストの展示会や出版を手がけている。

「ずれマン(ずれてるマンホール) 」 小川樹 ¥770
名前にはっとするZINE。文字通りズレてるマンホールをただ撮影しまくっている写真集。う~~ん…ズラしたいっ!

国内外のアートフェアやイベントでも展示をする「ドキドキクラブ」も独自な視点でZINEを制作しているアーティストの一人だ。

「サンバイ婆」ドキドキクラブ ¥1,500

サンバイザーを目深にかぶる中年女性を撮りためた「サンバイ婆」、日常の風景にノリツッコミを仕掛ける「ザ・ショック」、衝撃的なタイミングをカメラで収めた「ステキなタイミング」など上げればきりがない。

アートブックだと装丁や印刷もしっかりしている分、値段もそれなり。ZINEはカジュアルで値段も買いやすいため、気軽に好きなアーティストや作家のグッズとして購入することができる点も魅力的だ。

ZINEを作ってみよう

いろいろなおもしろ&楽しいZINEを紹介してきたが、自分にもできそうかも?とムズムズしている読者も多いのではないだろうか。ここからはどうやったらZINEが作れるのかを紹介しよう。

MOUNT ZINE(マウントジン)は、誰でも参加できるZINEプロジェクトだ。国内外でのイベント開催やZINEショップの運営、ZINEスクールを開講しており、参加すれば初心者でもZINEをつくることができる。作り方を教わったあと、制作のサポートやアドバイスをもらったり定期開催しているZINEのイベントに出店することもできる。

イベント「MZ28」の様子

もう自分でも編集や制作ができる、という方は、作ったZINEを印刷してみよう。

「三交社」という印刷会社では「ZINE(アートブック)印刷」のプランがあり、印刷のプロが作りたいZINEの雰囲気や予算にあわせてさまざまなパターンを教えてくれる。印刷に使う紙の種類や製本方法など自分だけのこだわりのZINEをなるべく手軽に作るための味方になってくれるはずだ。

もっと手軽にZINEを作ったり公開したい人にはコンビニプリントを使うのも手だ。所定のアプリなどを使用してオンライン上にデータをアップロードしたら、コンビニにあるプリンターで操作するとその場で印刷・製本をしてくれる。また予約番号をSNSなどで公開すればどこでも印刷することができるようになり、ZINEフェアなどに参加しなくても日本各地に自分が作ったZINEを公開することができる。(印刷代は印刷する人が負担)

おもしろい視点や作品に出会うことができるZINE。かくいう筆者もZINEを作ったり売ったりした経験がある。完成したときや売れたときの喜びもひとしお、ZINEフェアに参加すると同世代で同じようにZINEを作っているクリエイターから刺激をもらえる。見る側と作る側の双方が楽しい、それがZINEなのだ。

東京カルチャートリップ【前編】

近年、海外からの観光客が爆発的に増加している東京。そんな東京は日本屈指のアート・カルチャースポットを有している。最新のアートを紹介するギャラリーや、ヒップな若者の集まるショップやミュージッククラブなどを紹介していこう。

伝統と革新が共存する都市

エリアによって様々な顔をもつ東京。街の特色をうまく反映したスポットに注目が集まる。その代表的なまちが新宿だ。昔ながらの街並みと再開発をとげた“キメラ都市”新宿は現在最もホットなエリアだ。

デカメロン:PR Timesより

アートギャラリーを併設したバー「デカメロン」は、アート作品を鑑賞するのと同時に、おいしいお酒も味わう事ができる。アーティストなど、様々な人が訪れると噂の「デカメロン」。2025年3月からは、ディレクターにアーティストである磯村暖が就任したから、今後の展開にもご注目。

「デカメロン」から徒歩圏内のビームスジャパンは、一棟まるごとカルチャーを発信するスポットになっている。

BEAMS JAPAN 外観:PR Timesより

デザインに溢れた和工芸や特産品に加えて、ラジカセを集めたコーナー、アートギャラリーまであり、有名無名関係なくアート作品を展示販売している。

そして、アートギャラリーが集積する施設をアートコンプレックスと呼ぶ。東京には六本木や品川・天王洲エリアなど何ヶ所かギャラリーや美術館が集積する場所があるが、ビジネスマンの集まる街「京橋」にも近年アートスポットの盛り上がりが目覚ましい。

TODA BUILDINGエントランス/持田敦子ー Steps:PR Timesより

戸田建設の本社ビルでもある「TODA BUILDING」は銀座線・京橋駅やJR東京駅からアクセス可能で、アートとビジネスが交差する拠点として2024年に誕生した。

3階には草間彌生の所属する小山登美夫ギャラリーやKOSAKU KANECHIKAなどのギャラリーが集まり、6階ではアニメ、マンガ、音楽といったポップカルチャーや現代アート、デザインなど多彩な領域の展示を行うCREATIVE MUSEUM TOKYOがオープンしている。

下町文化と現代アートの融合

ビジネス街から、今度は下町に目を向けてみる。前述した京橋駅から電車で30分弱。京島駅、および墨田区周辺でもアートスポットの盛り上がりを見せている。歴史の残る建物と下町コミュニティが織りなす相乗効果で若手アーティストが増えているのだ。

このエリアの特徴は、なんと言っても長屋文化。1923年の関東大震災、さらには1945年の東京大空襲といった災禍を乗り越え、独自の発展を遂げてきた。東京で最も多くの戦前からの長屋が残っていて、今なお残る江戸の風土、人情味の色濃いこの街は、再開発の進む東京の街々からは一線を画している。

向島では、あくまで元ある街に寄り添ったカタチでの芸術活動が盛んなのだ。

街のそうした気運を先導するのが「すみだ向島EXPO」だ。2020年の初開催から、毎年異なるテーマを掲げながら、今年2025年まで途切れることなく、地域に密着したイベントとして継続中。

昨年2024年には、『「花」と「森」』をテーマに、様々な華道家やフローリストが参加した他、画家やアーティストは、古い家屋を年輪を重ねた樹木に見たて、花や森を描くことで、街中に花が咲くような1ヶ月を演出した。

すみだ向島EXPO2024ロゴ:PR Timesより

同イベントでの「夕刻のヴァイオリン弾き」では、ヴァイオリニストである小畑亮吾 による生演奏が行われた。三角長屋の2階より、街に18時をしらせる時報としての企画は、地域との繋がりを新たにしている。

小畑亮吾による「夕刻のヴァイオリン弾き」:PR Timesより

このように、最新鋭のスポットから、地域の歴史を活かしたアート運動まで、様々なカルチャーのミックスした混沌を極めるメガシティ東京は、クールでホットな大都市だ。観光の選択肢として、アートに触れてみてはいかがだろうか。

後編では、新宿の最新クラブシーン+@をご紹介。

民藝が紡ぐモノづくり

民藝とは何かをご存知だろうか。民藝と聞くとアートの文脈からはかけ離れた、お土産のようなイメージもあるが、実はさまざまな時代のアーティストやデザイナーたちを虜にしてきた。民藝という言葉を生み出した「民藝運動」とは、歴とした日本発の芸術運動なのだ。民藝運動は国内外の工芸・美術・思想の世界を中心に瞬く間に広がり、その影響は現代の作家たちにも与え続けられている。民藝の愛好家たちはみな、使っていくことで民藝の奥深さを身をもって知ってきた。そう、民藝とは最も身近な”使える”アートなのだ。

民藝の本質:職人の美、世界を魅了する日本の生活文化運動

民藝運動とは、1926年に柳宗悦・河井寛次郎・浜田庄司らによって提唱された生活文化運動のことだ。当時の工芸界の主流は装飾的な作品。柳たちは、名も無き職人の手から生み出された地域特有の生活道具を「民藝」と名付け、生活の中にこそ美しさがあると考えた。

2024年には、東京・森美術館で「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」が開催されたのも記憶に新しい。世界でもっとも影響力のある100人*のアーティストにも選ばれている現代アーティスト、シアスター・ゲイツが、自らの黒人としてのアイデンティティと、日本の民藝運動における思想を融合した「アフロ民藝」が注目を集めた。
Power 100 – ArtReview

Theaster Gates(出典:Wikimedia commons)

民藝の現在:伝統と革新が交差する、新たなアートの形

さて、使ってナンボの民藝。私たちの暮らしにどう活かしていけばよいだろうか。東京・青山にあるARTS & SCIENCEはいち早く民藝の世界観をファッションに落とし込んだセレクトショップで海外からのファンも多く訪れる。

丁寧に選び取られた、食器やラグなどの日用品に加えて、古布・草木染めなどを使った洋服やバッグをスタイリッシュに提案している。

〈1+0 for A&S〉のカレー皿

世界が注目する民藝の世界。スペインのラグジュアリーファッションブランドであるLOEWEは、クリエイティブディレクターであるジョナサン・アンダーソン氏の下で定期的にLOEWE CRAFT PRIZEというイベントを開催しており、民藝の流れを汲む日本およびアジアの工芸作家たちも多くノミネートされている。

LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2025

ジョナサンはJWアンダーソンのデザイナーでもあり、近年ではユニクロとの継続的なコラボレーションを実施するなど、幅広い活動を行っている。ラグジュアリーなものから、手に取りやすいものまでをデザインしている彼の姿勢そのものが、民藝の思想に通じるところもある。

日本から世界へ:民藝がつなぐアート新たな一面

最後に日本から世界に民藝を紹介しているtatami antiqueを紹介しよう。複数人のディーラーからなるtatamiは、日本の土産物屋の大定番!・ペナントのコレクションから民家の木札、骨董品にいたるまでさまざまな民藝品を日本や海外で展示・販売している。(オンラインショップからも購入できる)

tatami antique公式インスタグラムより

民藝は国境を越え、さまざまな人々に愛されるアートになりつつある。たとえばこけしは”KOKESHI doll”として知られている。日本各地に存在するこけしは、一つとして同じスタイルがなく、最近ではキャラクターやブランドとコラボしたコレクターズアイテムまで存在している。一つ集めると、また一つ集めたくなる。そんなマニア心をくすぐるところも民藝の大きな魅力だろう。(かく言う私も土鈴をコレクションしている。振るとカラカラ音が鳴って楽しい。笑。)

民藝にはまだ価値が与えられていないものもたくさんある。そんなものに自分だけの価値を見出すロマンに溢れていることが、民藝を愛でることの楽しさだ。

モノでいっぱいの世の中で、私たちは何を選びとるのか。民藝には消費社会への疑問に対する答えがわずかながら隠されている気がする。

アートって必要?-教育から考える私たちのアート

「アーティスト」と聞くとどんなイメージを抱くだろうか?好きなことを仕事にしていていい、個性的、ちょっと変人かも…?作品を縦横無尽に作り続けているアーティストたちに対して、少なからず自分たちとは別の世界を生きている、と思っている人も少なくないのではないか。

誰もがアーティストになれる可能性

でも実はそれは少しだけ違っていて、アーティストの中には会社員をしながら制作を続けていたり、子育てをしながら制作をしている人も。それもそのはず。なかなかアーティストという職業に実感がわかないのも、教育環境がまだ不十分だからだ。

日本では主に技術的な指導のみが行われている。義務教育ではどうやったら本物のようにそっくりに絵を描けるか、粘土をこねることができるかを学ぶ。ピカソの本名を覚えさせ、なぜ評価されたのかという部分をなおざりにしてしまう。欧米諸国では技法的な能力よりも、コンセプトやプロセスが重視される。どうしてこう描きたいのか、どうしてこの色を使いたいのかを徹底的に考えさせる。今考えていること、気になっていることがそのまま形になるという点で、アートが生活と密接に関係している。

日本ではこうした教育環境の違いから、アートと人の距離が離れてしまうのだ。遠く離れたところにいるアーティストをわたしたちは、ただ崇めてしまう。

アートを通じた自己表現と社会との繋がり

アートとは社会の鏡だ。社会で起きたこと、すなわち身近に起こったことが制作の起点になる。昨日食べたもの、先月見た風景、大好きな人の姿。ゴッホもピカソもそんなありふれた景色を作品にした。本当は今画面の前にいるあなたもアーティストになり得るのだ。

実は医療の世界では、アートを通じて患者の精神状態を改善させる処方も広がっている。欧米の精神医療の分野ではアートセラピーとも呼ばれており、絵画や彫刻、音楽、ダンス、演劇などの芸術的な表現を通じて心の健康を促進する手法だ。

精神疾患の改善に加えて、自己成長やストレス管理、感情の表現、自己理解を促進するためにも役立つ。私達の心や体を潤すために、美味しいご飯を食べたりおしゃれをすることと同じように、アートを作ったり楽しんだりすることが必要なのだ。

アートを楽しむ方法のひとつにワークショップがある。ワークショップとは目的別のプログラムや与えられた課題を実際に体験することで学習できる自主的な教育の場のことだ。簡単なものではアートカフェや陶芸教室などもこれに該当するが、プリントスタジオの「SURUTOCO:https://www.surutoco.jam-p.com/」が定期開催しているシルクスクリーン*のワークショップではオリジナルの版を作って自分で印刷を体験することができる。Tシャツやトートバッグはもちろん、上達すれば自分だけのオリジナル作品を作ることも可能だ。
※*シルクスクリーン:メッシュ状の版にインクを通過させる孔を開けて印刷する版画技法の一種。シルクスクリーン印刷とも呼ばれ、鮮やかな発色や耐久性、均一な色面が特徴。 

戸田建設主催、必要な創造力を育む学びの場「APK STUDIES」:PR Timesより

どっぷりアートに使ってみたいあなたには戸田建設が主催している、学びの場「APK STUDIES」がおすすめ。2025年から始まったAPK STUDIESは約8ヶ月間にわたってアートを起点にさまざまな創造的実践に出合い、参加メンバーの関心や課題意識を深めていくプログラムだ。クリエーターやキュレーターに加えて、アートと社会の関係について理解を深め実践したいオフィスワーカーなどを対象としており、仕事の後に参加できるようなタイムスケジュールなのもありがたい。

ギャラリーオーナーやアーティスト、建築家といった様々な講師陣に支えられながら、様々なバックグラウンドを持つ生徒たちと交流を重ねて制作を進めるようだ。アートと社会をどう繋いでいくか、考えるきっかけになりそうだ。

全国をめぐるアートツーリズム

デジタルのモノや情報が溢れる現代において、五感を使って楽しむ旅行は、すごくアナログだけど、そこでしか得られない喜びを与えてくれるものだ。おいしいご飯においしいお酒、まだ見ぬ素晴らしい景色を見たり、旅先で人と出会ったり…。そうした楽しみに加え、最近では美術館や地域の芸術祭を見ることも、旅行の目的の一つとなっている。アートツーリズムだ。

海外を見れば、パリのルーヴル美術館やロンドンの大英博物館、ニューヨークにはメトロポリタン美術館(MET)やMoMAといった具合に、世界中の大都市には必ずと言っていいほど有名な美術館や博物館が存在している。読者のみなさんも観光に訪れた都市で美術館やギャラリーを探したことがある人も多いのではないか。同じように日本でも全国各地にアート的魅力を有したスポットは数多く存在している。今回はそんな中でも、様々なカタチでアートにちなんだ宿泊施設をご紹介。

アートに宿泊

杜人舎の宿泊部屋

富山県にある善徳寺は、民藝運動の提唱者である柳宗悦が、その集大成である「美の法門」の執筆で滞在したことでも有名だ。

2024年3月、この善徳寺の研修道場を改修し、泊まれる民藝館として「杜人舎」がオープン。元の研修道場は、柳の愛弟子である建築家・安川慶一が設計していて、かつての趣は残したまま、館内全体を民藝品が飾る。それも棟方志功や浜田庄司、河井寛次郎といった名だたる民藝作家の作品や、世界の民藝品が並んでいて、美術館のような宿泊施設となっている。

また、暮らしのあり方から社会を問うという、民藝運動の根底思想を現代に継承すべく、杜人舎では宿泊以外に「土徳」に触れる講座やアクティビテなども豊富に用意されている。多くの人が学び、集う、「美しい暮らしの学び舎」となっているのだ。

リデザインによって蘇ったという点では、群馬県の白井屋ホテルも共通している。

白井屋ホテル外観:PR Timesより

創業は江戸時代で、旧宮内庁御用達だった白井屋旅館。かつては森鴎外や、近年話題になったドラマ『VIVANT』の主人公乃木憂助のモデルとなった軍人の乃木希典などの著名人も訪れていたというが、中心市街地の衰退とともに2008年に惜しまれながらも廃業。残った建物も取り壊しの危機に晒されていたが、2014年より再生プロジェクトが始動。

デザインと設計を建築家の藤本壮介氏が手掛けた他、レアンドロ・エルリッヒをはじめとする国内外の様々なクリエイターが参加し、6年半におよぶ大改修と新棟建設の末、2020年、白井屋ホテルとして姿新しく蘇った。

金沢21世紀美術館の「スイミング・プール」でも知られるレアンドロ・エルリッヒや、杉本博司、宮島達男などの作品がホテルの内部のありとあらゆるところに散りばめられていて、いつものホテルとは違った空間を楽しむことが出来るだろう。

建築美とロマンを奇数に賭けて

広義なアートにおいて、人のつくったものの美しさをそのうちの1つとするなら、やはり建築美についても触れねばならない。

メインダイニングルーム・ザ・フジヤの格天井

1878年、日本で初めての本格的なリゾートホテルとして創業した富士屋ホテル。箱根宮ノ下に構えた荘厳な意匠は、その建物の多くが有形文化財に登録されている、言わずと知れた名建築だ。

食堂棟の二階に位置するメインダイニングルーム「ザ・フジヤ」の格天井には636種類の異なる高山植物が描かれ、天井付近の壁には507羽の鳥と238匹の蝶が、その下には十二支を中心とした動物の彫刻が施されている。この天井画は2018年より、川面美術研究所による保存修理が行われ、その際に渡部浩年・本多蕉風・大沼南圃・梅荘という4人の日本画家が分担して当時の天井画の制作をしていたことが新たに判明した。このように細部にまでこだわり抜かれた意匠建築だ。眺めるだけで楽しむことができる。

ジョンレノンとオノヨーコもかつて宿泊し、ホテルの名物であるアップルパイを大変気に入ったそうだから、訪れた際はぜひ食べてみて欲しい。

後編では、鑑賞者ではなく、アートの作り手に優しい宿泊施設をご紹介!

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