【インタビュー】 “憧れ”を追い越していく。Face Okaの現在地 – 前編 

ひと目見れば彼の作品だとわかる。一度でも目にすれば脳裏に焼きつく作品群は、そのインパクトからはちょっと不思議なくらいにシンプル。それでいて、アイコニックなイラストに固執しない、自由で横ノリなスタイルは、憧れたアーティストたちの背中を追いかけることから始まった。仲間と始めたポッドキャスト「Too Young To Know」は、今や放送173回に及び、近年には「パペット」という操り人形シリーズ「THE KIDDING HEADS」も展開。自身の声と、時折見せるシュールな動きでパペットを操る、画面外のFace Oka。

この人、一体どんなアーティストなのか____。

「THE KIDDING HEADS」と併せて、前後編にわたり徹底的に深掘りします。

アーティスト、イラストレーターとして活躍するFace Oka

アパレルに打ち込んだ学生時代

子供の頃からご家族の影響で絵を描くようになったそうですが、高校、大学時代はどのように過ごしていましたか?

Face Oka(以下:Face) – 高校は普通科だったんですが、そのまま大学の美術系に進めるコースがあったんです。そのまま進学して、大学では芸術を専攻していました。高校までサッカーもやっていましたが、続けていたのはイラストや絵でした。幼少期からサラリーマンにはなりたくなかったんです。大学も2年で中退してしまって。

在学中の2年間はどのような生活でしたか?

Face – ほとんど何もしていなかったですね(笑)。高校からそのまま仲のいい友達も多くて、本当に自由に過ごしていました。友達が出ている全然関係ない授業に顔を出したりとか(笑)。あとは服が好きだったのもあって、アパレルでアルバイトをやっていました。当時、町田の大学に通ってたんですが、町田に「MARUKAWA」っていうお店があったんです。ジーンズメイトみたいなところで、そこでアルバイトしてました。すごく楽しくて入り浸ってました(笑)。

僕も地元が町田で…!!当時はどの辺りで遊んでいましたか?

Face – そうなんですね!!町田はもう本当にどこにでも行ってました。古着が好きだったので、「DESERTSNOW」とか。

「DAMAGE DONE」とか(笑)!

Face – ですね(笑)。「MARUKAWA」では、フィッティングルームに自由に絵を飾らせてもらったりもしていました。あとは、大学時代に25歳くらいの同級生がいて、彼はアートを本格的にやりたいタイプで、企画展をよく開いていたんです。それにいつも参加させてもらっていました。そのうちにだんだん大学から足が遠のいていって…。

Face Oka

当時、大学の授業で学んでいたことは今に繋がっていますか?

Face – 絵を描くのは好きなんですけど、「学んで描く」というのがあまり好きじゃなくて。今思うと、そこをちゃんと学べていたらよかったなとは思います。いろいろやっていく中で、自分がやりたいことを表現できなかったりするのは、やっぱり技術的な面もあるので。そこは今、補わないといけないところですね。

大学を中退してからは何を?

Face – それからSTUSSYで働くようになりました。当時は、カウズやバリー・マッギーらのアーティストを筆頭に、「売れたらTシャツを出せる」という流れがあった。ショップ店員としてだけではなくて、その「自分のTシャツを出す」ということに凄く憧れがありました。だから休みの時間には、ひたすらに絵を描いていましたね。

当時はどのような絵を描いていましたか?

Face – 当時からストリートのカルチャーは好きだったのですが、本当にゴリゴリのグラフィカルな文字にはあまり興味がなかったんです。なんと言うか、バリー・マッギーやカウズ、元を辿るとキース・ヘリングもそうですけど、グラフィティなんだけど、ちょっとグラフィティーじゃないというか。キャラクターを作ったり、色々なことをやっている人たちが好きだったので、常にオリジナルのキャラクターみたいなものを探っていたんだと思います。

アトリエの様子

Faceさんのイラストは、誰が描いたのかひと目でわかるし、シンプルながら一度見たら忘れることのないインパクトがあると思います。「この方向でいくぞ」と決めるにはなかなか勇気がいることじゃないですか?

Face – うまくいく確信なんてなかったですね。学生時代、授業中に落書きでキャラクターを描いていたんです。それを友達に見せて、「いいね」っていう反応が嬉しかった。今もその延長にいる感覚なんです。気づけば観てくれる人が、友達だけでなくもっと多くの人に広がっていきました。

影響を受けたアーティストたち

耳をすませば / Face Oka

作品を通して「平和ボケした日本人」というテーマが隠れているそうですが、Faceさんの描く「顔」の色は、日本人のいわゆる黄色人種とは違って、ピンクに近い色合いに見えます。

Face – ジェームズ・ジャーヴィスからの影響はかなりありますね。彼の作品にはピンクが多用されていて、あとは、Perks And Mini(P.A.M.)というブランドの服で、蛍光ピンク色っぽい感じのキャラクターがいるんです。発色がいいカラーを使うブランドで、そこのグラフィックからの影響もあると思います。

もうひとつは、最近はコンプライアンスが色々とある中で、ピンク色の肌の人種っていないじゃないですか。どこにも属さない中間を取れたらいいなという想いもありました。

現代アーティストで特に影響を受けている方はいますか?

Face – マイク・ケリーですね。今やっているパペット作品もそうですし、彼の影響は大きいです。あとはポール・マッカーシーとか。結構ハードコアな作風の人なんですけど、そうした海外のアーティストには強く影響を受けています。

会社の名前「ピカビア」にも意味があるそうですね。

Face – これはフランシス・ピカビアというフランスのアーティストから取っています。彼はマルセル・デュシャンと同時代の作家で、ダダイズムのメンバーのひとりでした。この人は、本当に“これがピカビアの作風”と呼べるものがないくらい、常に違うことをやり続けていたんです。その時々で作風がどんどん変わっていく。その自由さや、既存の枠に収まらない姿勢にすごく憧れています。

アトリエの様子

以前の個展のタイトル「都合の悪い存在」にも、その影響があったとか。

Face – そうですね。このタイトルは、ピカビアがかつて評価されたときに「都合の悪い存在」だと言われたというエピソードから来ています。流行や時代の空気に迎合せず、常に違うことをしていた。ちょっとカウンター的というか、反骨精神のある人だったんですよ。みんなが言っていることや思っていることと違うことをやっていたから、周りからしたら「都合の悪い存在」だったんでしょうね(笑)。

まさにアンチテーゼの体現者ですね。

Face – そうですね。デュシャンの「泉」もそうですが、「アートは絵を描くことだけではない」という感覚はあると思います。

軽やかな横ノリの如く

例えば「絵」において、全く別のスタイルにトライしてみたくなることはありますか?

Face – 好きなものはずっと変わっていなくて、例えばこの絵だと、黒くて太い線があって、キャラクターがあって、というものですが、もっと写実的なものを描いてみたい気持ちはあります。今の作風に固執していることは全くなくて、他にも色々な方向で試してみたいです。

Face Oka

カウズやバリー・マッギー、キース・ヘリングのように?

Face – そうですね。当時代官山にサイラス(SILAS)というブランドがあったり、トッド・ジェームスが「AMOS TOYS」というフィギュアを作ったり。そうしたムーブメントがあったんです。いつか僕もやりたいという想いはどこかにずっとありました。

昔は平面的なイラストが多かった印象がありますが、今は、ここにある作品のように影の表現が増えています。そのあたりの変化には、試行錯誤や意識的な変化がありますか?

Face – このシリーズに関しては、実はあまり試行錯誤というのはなくて、もう僕の中ではこのスタイルで完結しているんです。なので、新しいことをやろうというときは、これとは違う方向で取り組むようにしています。たとえばパペット作品もそうですが、もし「油絵をもう一度やりたい」となった場合には、このスタイルでは描かないようにしています。

バケツに吐いた香水 / Face Oka

油絵を描くとしたら、どんな風になりそうですか?

Face – 実は過去にやっていて、2年ほど前に「Gallery Target」で久々に個展を開いたとき、多くの方がこのシリーズのような作品を期待して来られたと思うのですが、展示の8割は全く関係のない油絵でした。

それは何か意図があったのでしょうか?

Face – 意図というよりも、単純に「同じものを描き続けていてもな…」という感覚がありました。あとは、「ずっと同じことを続けるのが正しいとは限らない」とは思っていて、油絵にも挑戦したんです。それに加えて、「油絵を描く中で、このキャラクター(シリーズ)と組み合わせる方法はないか」みたいな実験もしています。展示でもそうした試みを見せていますが、常に実験している感覚です。

「自分がやる意味」とは何か

いろんな表現を横断していく中で、「自分がやる意味」をどのように考えていますか。

Face – 「平和ボケした日本人」という創作のテーマがあるんです。だから「ピース(平和)」というワードは、ずっと根本にあります。見た人がハッピーになることはもちろんですが、その中に“隠れた危機感”のようなものも込めたい。そういうメッセージをうまく表現できるアーティストになりたいと思っています。

創作は「自分のため」と「見る人のため」、どちらの比重が大きいですか?

Face – 基本的には、自分が喜ぶかどうかが一番の基準です。ただ、それだけだとやっぱり食べていくのは難しい部分もある。だから、そのバランスを取りながらやっています。将来的には、もっと有名になっていかないといけないなとも思っていて。その理由は単に名声がほしいとかではなくて、子どもたちのためや、次の世代につながる活動をしたいからなんです。自分の表現を通して、次につながるようなことをやっていきたいと思っています。

後編では、近年話題沸騰中のパペット作品「THE KIDDING HEADS」の話から、応援しているサッカーチーム、物作りやアートへの想いを伺います。
お見逃しなく…!

alter.2025, Tokyo  イベントレポートーデザインとアートのはざまで

芸術の秋。全国で様々なアートフェアやイベントが目白押しの中、今回が初の開催となる「alter.2025, Tokyo」(以下alter.)。プロダクトデザインという切り口から、様々な領域で活躍するクリエーターを迎え、次世代のデザインのあり方を思索する実験的なデザインイベントだ。alter.(アルター)という名前の通り、現在の成熟し飽和しきった現在のポスト“デザイン”時代のオルタナティブを提案する。

既存のデザインイベントを覆す

Exhibitionエリアの会場風景

デザインされたプロダクトをカッコいい会場に展示する。それだけではきっと既存のイベントやアートフェアと変わらないように見えるかもしれない。alter.では出展者をコミッティメンバーが選出し、彼らのプロジェクトに対して最大300万円の助成を行う。

メガギャラリーや後ろ盾となる企業を持つギャラリー、若手でもグループ単位でイベントに参加する場合も多く、作品の見せ方一つとっても資金力が大きなウェイトを占めてしまったり、高額な参加費がかかってしまったりする。一方alter.では、アイデアベースの実験的なプロジェクトや普段の領域とは異なる分野でのプロジェクトなどを発表することができる。

コミッティメンバーには、世界の現代アートの最高権威でもあるニューヨーク近代美術館(MoMA) キュレーターの Tanja Hwangやパリのポンピドゥセンターのキュレーター Olivier Zeitoun、グローバルなデザインシーンを牽引するデザインスタジオFormafantasma、世界の都市文化を舞台に活動する設計者/「SKWAT」から代表の中村圭佑、国際的なデザインメディア/プラットフォームである「say hi to_ 」主宰のKristen de La Vallièreの5組で構成された。コンセプチュアルなアプローチをどう構成するか、というキュレーション的な視点を持つTanjaとOlivier、実際のもの作りや環境的な視点を持つFormafantasmaの2人と中村、そしてそれらを編集しテキスト的な視点で魅力を考察するKristenという非常にバランスの取れたチームであることが伺える。

会場で行われたコミッティメンバーたちとのトークセッション

35歳以下のメンバーを中心とした11組・計56名が参加し、2025年11月7日(金)~9日(日)の3日間の会期で開催された。

アイデアから作品化までのプロセスが一直線化された新作が並ぶ

夜の日本橋の賑わいを抜けて、COREDO室町の中にある日本橋三井ホールへ。日本の金融の中心街である日本橋、多くのビジネスパーソンを横目に会場へと辿り着くとライトに照らされた“alter.”の文字。その奥に回り続ける透明なレコードのキャプションには、alter.を構成する4つの指針が記されていた。alter.は変えるという意味を持ち、全てを入れ替えるのではなく一部を作り替えて全体をよくすることだと書いてある。そう言われてみると、ホール自体の硬派で落ち着いたイメージを残しながら会場が構成されており、ここにも“alter.”の概念が表出しているようだ。会場のディレクションを行うのは、美術展やブックディレクションなど多角的な表現活動を行うRondadeだ。ライトのサインに沿って歩いて行くと、Kristen de La Vallièreの作品、そして展示作品数が最多のExhibitionエリアへと到着する。

packing list / MULTISTANDARD 玉山拓郎×河野未彩 Voidbark

packing list ; MULTISTANDARD

鮮やかなブルーのパンチカーペットの床の上に、参加者によって制作されたプロダクトの数々が美しく整理された工場のように展示されている。先ず目に入ったのは、様々な形のオブジェを縄で縛り上げた MULTISTANDARDによる「packing list」だ。ものを輸送する際に行われる梱包作業を着想に、こと日本において国際的なアートマーケットの未発達、アーティストのドメスティック化、そして立地的なハンディキャップなどを問い直す作品だ。作品を輸送するためだけに使われる梱包のブラックボックス化を逆手にとり、梱包するという行為自体が作品となる。また、この縄の形状は石工職人たち独自の輸送システムがモチーフで、最後の結び目を結び終えた瞬間に、作品制作と梱包作業が同時に完了するようになる。

Product and Space ; 玉山拓郎 / 河野未彩

家具や空間そのものをモチーフに制作をするアーティスト玉山拓郎は視覚ディレクター/グラフィックアーティストとして活動する河野未彩との共同制作によって巨大なライト作品「Product and Space」を制作した。

オープニングレセプションで行われたアオイヤマダのパフォーマンス

オープニングレセプションでは、アオイヤマダがこの作品をきっかけにパフォーマンスを行った。パイプの柔軟な形状に合わせて自由に配置されたディスク型のライトは、単なる照明器具を超えて、空間の形や私たちの新体制をより強く感じることができるプロダクトだ。個人的にはこのライトの下をくぐったり、腰掛けたりしてみたい(笑)。

Voidbarkー一番手前側が「真樺のスツール」

デザイナー、製材業、写真家、家具職人の4人で構成されたVoidbarkは、木材の樹皮に着目した。建築家具材の中で、年間50トン以上の樹皮は廃棄されるか樹皮の形状をとどめずに消費されている。樹皮は見た目の面白さだけでなく、分厚く強度も内包している。「真樺のスツール」は、特徴的な表皮のパターンとシンプルな構造が唯一無二の仕上がりとなっている。

近年、ものづくりの世界で耳にする、「テクノロジー」と「クラフトマンシップ」。どちらも大切にすべき概念ではあるが、“またか…”と心の中で唱えてしまう感も否めない。alter.で展示された作品は、あえてプロダクトデザインと区切ることで使用用途を定義している。そして身近にある疑問や課題をコンセプトとして思索することにより、小さな改変にとどまっていることが魅力のように感じた。大掛かりなテクノロジーや大義なクラフトマンシップではないリアルなものづくりを、このストレンジなデザインイベントで感じることができた。

和菓子の中にみる感性と色彩の宇宙

今世の中でちょっとだけブームになっているお菓子がある。それは和菓子だ。和菓子と聞くと古くから日本に伝わる伝統を受け継ぐといったクラシカルな印象を持つかもしれない。古くから練り切りや飴細工など、造形的な指向のある和菓子。食べられてしまうという一瞬の儚さを切り取った和菓子に、世界中の人々が共鳴している。

そんな和菓子に新たな風を吹き込んだニューエイジたちや、伝統を守りながら新たに芸術的な和菓子のあり方に挑戦する老舗、和菓子を切り口に作品を制作するアーティストまで、和菓子とアートの最前線を特集してみよう。

和菓子発祥の島から発信する新たなかたち

現在でも食べられている和菓子の発祥は、江戸時代から外国との交流が盛んだった長崎県にあるとも言われている。砂糖の入手が比較的容易だったことを受けて多くの和菓子がこの地で制作されていた。

長崎県平戸にて開催された“Sweet Hirado”は、定期的に茶会というイベントを介して新たな和菓子のかたちを提案している。

2016年からスタートしたこのプロジェクトではオランダ人アーティストのINA-MATTとRoosmarijn Pallandt を招き、平戸にある老舗の菓子屋とコラボレートした和菓子を発表した。

開催された「sweet hirado」の様子

茶会で使われる茶器や器は特別にデザインされた地元・長崎県の三川内焼やオランダのガラス器、シルバー器などを使用しており、目でも楽しむことができるようになっている。

アーティストたちは、約200年前に平戸藩主松浦凞公が町民の為に作ったお菓子図鑑“百菓之図”からインスピレーションを受け、新たな伝統と革新のお菓子の“平戸菓子”を製作し世界へと発信している。

制作された24種類の和菓子は、それぞれが独自のストーリーを添えてWebにて公開されている。画面を見ているだけでもうっとりしてくる和菓子たち。イベント以外では、Webからのオーダーを受け付けているそうだ。

和菓子を“うつわ”から考える

2025年で10回目を迎えた「うつわと和菓子」展。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科陶磁専攻の学生23名が、老舗和菓子屋「とらや」の菓子を題材に制作した器の企画展示だ。

和菓子を楽しむ行為を、味や見た目だけでなく空間的な広がりの中で考え、和菓子を盛る“うつわ”をテーマに作品制作に取り組んだ展示だ。学生たちは、普段とらやで研鑚を積んでいる和菓子職人たちによる和菓子作りのワークショップを体験し、和菓子の意匠にこめられた日本の多彩な季節感や心情を学び、「和菓子」と「うつわ」の関係性を再構成する。

また、この展示でコラボレートした「とらや」は日本を代表する和菓子屋でありながら、主要店舗にてギャラリーを併設しており、2024年の1月から東京ミッドタウン店にて「和菓子とマンガ」が開催された。

8作品全10冊のマンガを紹介しながら、和菓子が登場するシーンを抜粋。和菓子屋が舞台といった作品や和菓子が主題の作品だけでなく、読んでいくうちに思わず和菓子に興味を惹かれるものや、「このお菓子を食べてみたい!」と感じられる作品をセレクトし、アートの視点から「和菓子」のイメージを変化させるような展示を開催している。

独自の感性で和菓子をアップデートする新参者

菓子屋ここのつ

菓子屋ここのつは、日本に古くから伝わる伝統的な和菓子と製法を踏襲しながら独自の美意識の中でアップデートし、変えなくていい事と変えていくべき事を和菓子を通して伝えていく。

ここのつのインスタグラムの中に閉じ込められた菓子たちは、素朴ながらも息を呑むほどの美しさで人々の心をつかんでいった。現在は浅草の鳥越にて「菓子屋ここのつ茶寮」を営業しており完全予約制・写真撮影禁止という徹底された環境の中で全身でここのつの菓子を楽しむコースを楽しむことができる。

公式ウェブサイト「妄想写真家」より

主宰の溝口実穂さんは食物栄養科の短期大学を卒業後、京都と東京の和菓子店で修業を積み、23歳という若さで「菓子屋ここのつ」を立ち上げた。和菓子をとりまくルールや概念にとらわれず、日本の食材や季節、色彩を活かした新しい菓子を提案している。古くから和菓子作りに使われる素材を用いながら洋の技法を取り入れたり、旬の果物や食材を和菓子的な視点で再構築している。

食べられる彫刻としての和菓子

坂本志穂は、現代的な感性で和菓子をデザイン・再構築するフードアーティストだ。自身のブランド “紫をん”を主宰し、伝統的な和菓子の技法をベースに、見たことがないような和菓子の作品を国内外で発表している。

「sprout / 萌芽」公式Webサイトより

彼女は和菓子を食べられる彫刻と形容する。自然の中にある花の色や草木の匂い、季節の喜びといった日本に古くから存在している感性と、和菓子の持つ光や温度、湿度、時間といった目に見えない要素を結びつけた和菓子を制作している。徹底されたビジュアルや表現は、インスタグラムなどのSNSでも人気のコンテンツで、日本だけでなく海外からのファンも多い。

日本ならではの伝統と製法を生かした和菓子。見た目の美しさだけでなく、ほどよい甘さと季節感を味わえることも魅力の一つとなっているが、作家たちに共通しているのは、和菓子の持つ儚さだ。食べるのも惜しいような“アート”な和菓子を食卓に一品追加して、新しい感性を磨くきっかけにしてみたい。

アートなセンス冴え渡るゲームの世界

ゲーム大国ジャパン。つい最近も「Nintendo Switch」の桃太郎電鉄シリーズ最新作『桃太郎電鉄2 ~あなたの町も きっとある~』が発売されたことで話題だけれど、日本においては、ゲームを一度もプレイしないで生きていくことって、ジブリ作品に触れずに人生を送ることと同じくらい難しいんじゃなかろうか。

日本産のコンピューターゲームが登場したのは1973年のこと。据え置き型の家庭用ゲーム機や携帯型ゲーム機が登場し、アーケードゲームから「ゲーム」の中心が手元へと移っていった。今でも、任天堂やソニーをはじめ、日本で開発されたゲーム機/ゲームソフトは世界で活躍中。むしろ、今だからこそ、ゲームの世界は広がり続け、美しいデザイン、特殊な設定、メディアアート領域との接近もみられる。そんな多様なゲームの世界を本稿ではご紹介したい。

美しき背景デザインから。

ゲームに興味はないけれど、美しい風景は大好き。そんな現実派なあなたには、『ゴーストオブツシマ』はいかがだろう。舞台となる「対馬」は、日本の九州の北方、長崎は玄界灘にある、山林が面積の89%を占める自然豊かな島のこと。鎌倉時代に「文永の役」「弘安の役」の2度にわたり、元軍(モンゴル帝国軍)の侵攻を受けたという歴史を下地にする。主人公は武士の道から外れた境井仁(さかい・じん)。冥府から蘇った「冥人(くろうど)」となって、対馬の地を敵の手から解き放つというストーリーだ。ゲームの設定それ自体ももちろん楽しいが、実際の対馬の風景にインスパイアされた背景デザインも見どころのひとつ。美しい海と白浜の海水浴場の「小茂田浜」、対馬のシンボル的存在で古来より霊山として崇められた「白嶽」、万葉集の「対馬の嶺」に比定される名山「有明山」など、四季の移ろいも楽しみながら、黒澤映画さながらのスケール感で演出される。

戦っても、物を作っても、ただのんびりするだけでも。美しい情景のなかで、なんでもありな革命的ソフトが『ゼルダの伝説』シリーズだ。ここ最近の2作『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』は「オープンワールド」で展開。プレイヤーが広大なマップを動き回りながら、自由に目的に近づくことができるゲーム世界を構築している。この「オープンワールド」のジャンルを踏襲しつつ、壁も岸も洞窟もよじのぼることができる“現実を超えた”自由さを再現したことで、全く新しいゲーム性を獲得した。DIY的に自由に武器を作りながら、夕日や朝日を堪能しつつ、美しい情景に身を任せることができる。

Playstation「Ghost of Tsushima」公式サイトより引用

変わり種ゲームから、アートを感じる。

小さな王子が地球で塊を転がしながら大きくしていくーー。そんなシンプルかつユニークなルールながらコアな人気を誇る「塊魂」。今年にはシリーズ最新作「ワンス・アポン・ア・塊魂」が発売された同作の魅力は、直感的な楽しさやカラフルなデザインに加え、BGMとして使用される「素敵ソング(オリジナルソング)」の数々だ。なかでもキリンジによる「ヒューストン(Re-Arranged by KIRINJI)」は名曲。

楽しいゲームの雰囲気を楽曲で彩る。ナムコが誇る独自性の高さを象徴する一作だ。

コピーライターやエッセイストなど、マルチに活躍する糸井重里氏がディレクション、ゲームデザイン、シナリオを手掛けたことで知られる伝説のゲームといえば「MOTHER」。“エンディングまで、泣くんじゃない。”、“名作保証”などテレビCMで流れたフレーズと共に、発売から30年以上経った現在もファンからの熱烈な支持を受ける同作。当時の現代風のアメリカを舞台に、宇宙人や超能力、ポルターガイストといった怪現象の謎に迫っていく。アメリカンカルチャーへの愛に溢れ、いわゆるRPG的な「剣と魔法」の世界観とは一線を画した斬新なゲーム設定に加え、ムーンライダースの鈴木慶一が担当したサントラは名曲揃い。ゲーム中で重要な役割を果たす『エイトメロディーズ』は小学生向けの音楽の教科書に掲載されたほか、ラッパーのVAVAによる「現実 Feelin’ on my mind」のサンプリング元としても若い世代から親しまれている。

斬新。これまでの価値観を変革するという取り組みは多分にアート的。その意味で、ゲームの枠組みを根底から覆すような「アンチRPG」の金字塔を打ち立てた一作が「moon」だ。「ゲームなんかやめて⋯」というセリフからはじまるこちらのゲーム。ひょんなことから異世界へとやって来た主人公が、すでに勇者に倒された何の罪もないアニマルの魂を「キャッチ」して救い、住人たちの生き様に触れて“ラブ”を集めていくという、敵を倒すのではなく、「救う」のが目的の「反骨精神」に溢れた物語なのだ。住民たちの生き様や活動は、もはやアンチRPGの枠に収まらず、この現代社会のありように警鐘を鳴らすような、哲学的な問いが散りばめられている。

steam「moon」公式サイトより引用

芸術×ゲームの世界

アーティストたちがリスペクトを捧げるゲームもある。1994年にイギリスのレアが開発、任天堂が発売したスーパーファミコン用横スクロールアクションゲーム「スーパードンキーコング」。こちらにリスペクトを捧げるのはミュージシャンのマック・デマルコだ。彼が好きな一曲として挙げる「Aquatic Ambiance」はこのゲームの水中シーンでかかるBGMで、メロウかつアンビエントな音の響きが魅力の楽曲だ。こちらは、『伝説の騎士エルロンド』『バトルトード』シリーズなどの音楽を手がけたゲーム音楽家、デビッド・ワイズが手がけた楽曲で、マニア間では伝説級。メルカリ等の中古販売サイトではサントラCDの価格は高騰している。大学時代テレビゲームにはまっていたという俳優・イラストレーターのリリー・フランキーの卒業制作はスーパーマリオブラザーズの世界を表現したもの。マリオ一人で8ステージのうち4ステージまでを、一度も失敗せずにたどり着く様子を録画したものだったとか。このようにゲームを起点にモノづくりに影響を受けた人々がいる一方、ゲームそのものがアートと交わる事例もある。

日本の文化庁では、平成27(2015)年度からゲーム、アニメ、マンガ、メディアアートの4分野を対象とした、「メディア芸術連携促進事業 連携共同事業」を行っている。要するに、ゲームは日本が世界に誇れる「メディア芸術」であるとして国が認めているわけだ。ゲームそのものの保存・アーカイブへの取り組みだけでなく、メディア芸術としてゲームを扱うアーティストの活動支援を行うなど、ゲーム分野とアート分野の接近は要注目なのだ。

ゲームを作品に取り入れている例として、アーティスト・藤嶋咲子が2024年末に開催した個展「WRONG HERO」は注目。バーチャルな空間を絵画として描くと同時に、メタバース上の空間でデモを行うパフォーマンスを行うなど、多岐に渡りメディアアートを展開していた作家だが、この個展では、「主人公」の物語を補完するだけの脇役のように扱われる女性性に着目。「姫になることを捨て、勇者になる」選択をした女性を主人公に、ジェンダーをめぐる2Dゲーム、それをベースにした3Dゲームの映像の展開とともに、埋もれていた声を浮かび上がらせる。

アイルランドの映画監督デヴィッド・オライリーによるゲーム作品もコンセプチュアルだ。プレイヤーが山になる、かつ、山でいる他は何もできないというシンプルすぎるゲーム『Mountain』、原子から銀河、ピザから巨木、微生物から巨大ビルまで、ありとあらゆるあらゆるものに変化を続けるゲーム『Everything』の2作を発表。ゲームの基礎である「ストーリーテリング」「キャラクター」といった要素を排除し、表層的な世界の解釈から離れていくユーザー体験を提供している、実践的な取り組みだ。何をどう操作すればいいかわからない。チュートリアルも存在しない。「世界」そのものの体験。いわばそんな「アンチ・ゲーム」を展開するアーティスティックな作品もぜひプレイしてみてほしい。

steam「everything」公式サイトより引用

広がり続けるゲームの宇宙。

日本で家庭用ゲームが誕生して約50年。これだけのゲームが溢れれば、ある種の飽和状態にあるのではないか。そんな不安を軽々と打ち破ったのが「アストロボット」だろう。主人公は小型ロボットのアストロ。 50を超える惑星に散り散りになった仲間のボットたちを助け集めていくストーリーのアクションゲームだ。ソニー・インタラクティブエンタテインメントが2024年秋に発売したこのゲームは、総合レビューサイトMetacriticでメタスコア94点という高得点を叩き出し、この年の「GAME OF THE YEAR」を受賞する快挙。草むらや砂利道、鉄板などの異なる地面、水の感触、敵を攻撃した際のダイナミックなアクションなど、シンプルながら随所まで気の行き届いたギミックが評価された。こちらのゲームはソニーの「TEAM ASOBI」という日本のスタジオが制作。「触って楽しい」というゲームの原点に立ち返りつつ、「きめ細かい」ともいうべきゲーム体験、 画面に広がる美しい光景は、ゲームの現在地を大幅にアップデートさせたともいえるだろう。

「8番出口」「スイカゲーム」のように熱狂を生むインディーゲームや、現実への応用可能性がまだまだ開かれているVRゲームなどなど、「ゲーム」の未来はまだはじまったばかり。そしてその発展には必ず「アート」な視点がある。未来を切り開く一作を探して、ぜひプレイしてみよう。

楳図かずお、恐怖から大美術へ。

なぜ今、UMEZZか。

楳図かずおをご存知だろうか。多作かつヒット作が多いが故に、様々な作品が思い浮かぶはず。もしくは吉祥寺の赤白の家に住む不思議な漫画家というイメージだろうか。

昨年、胃がんのために88歳で亡くなった漫画界の巨匠。『漂流教室』や『まことちゃん』など、ホラーからSF、ギャグ漫画まで幅広く手がけ、メディアへの出演、映画、展覧会など多岐に渡り活動した天才。新たな絵画連作に取りくんでいるとの報道がなされた直後の逝去であった。世界での評価も高く、2018年には欧州最大規模の漫画の祭典、フランスの第45回アングレーム国際漫画祭で遺産賞を獲得。「永久に残すべき遺産」として『わたしは真悟』が受賞した。「恐怖」の表情、独自の絵世界はSNS上でもネットミームとして用いられたり、グッズ化されたりと、世界に誇る日本文化としての魅力もある。

長きに渡る活動とその凄さはいくらでも書けるが、まずいいたいのは、楳図はただただ吉祥寺の「赤白」の家に住む面白い人、ではないということ。

1936年に和歌山県で生まれ、奈良県で育った楳図。小学五年生で手に取った手塚治虫『新宝島』を読んでから、漫画家になることを決意。当の手塚も、楳図から送られた原稿をみて「天才が現れた」と感心したという。その後、高校卒業後に『森の兄妹』でプロ漫画家デビューを果たし、人気漫画家の道へ。紆余曲折を経て、60年代半ばには「少女フレンド」で連載した「ねこ目の少女」、「へび女」などで全国規模で恐怖漫画ブームのうねりをつくる。それまでの怪奇漫画、スリラー漫画と区別する意味で、「恐怖漫画」という語まで作ったとされる楳図。「ホラー漫画界の神様」と呼ばれるのも、この時期の仕事量・質の高さにある。

「富江」「うずまき」などの代表作をもち、2023年にフランス・アングレーム国際漫画祭で「特別栄誉賞」を受賞した、現代ホラー漫画の帝王、伊藤潤二はこう語る。

「私にとって楳図先生は身に染みていて、意識せずとも影響が出てしまいます」

※朝日新聞2024年11月13日「楳図かずおの天才ぶり 伊藤潤二さん「画家ダリにも引けを取らない」

楳図作品を読んでみよう!

「恐怖漫画の神様」の凄さはこの後のキャリアにある。『ねこ目小僧』『おろち』『イアラ』、70年代からは、『漂流教室』『まことちゃん』『洗礼』『わたしは真悟』『14歳』。ホラーには全く留まらない数々の名作を世に送り出した。

とある小学校がまるごと未来へと吹き飛ぶところからはじまる『漂流教室』はその入門としても最適。少年たちが辿り着いた未来は荒廃。砂漠化しており、本来、子供たちを導くはずの大人たちはすぐに死んでしまう。

「これからのぼくたちの勉強というのは、いままでのようないい成績をとればいいというんじゃなくて、じかに自分の生死につながってくるんだ‼︎」そんなセリフでもわかるように、子供たちは子供たちだけで生活を続けていかなければならず、コミュニティを形成し、社会を運営しなければならなくなる。人間の歴史の「最後」の姿を描きながら、人間社会の「最初」のサバイバルを描く、その手腕に脱帽する。

これまでの「倫理」や「常識」や「道徳」が通用しない。そうなってはじめて、自分たちは何を大事にして、何を目的に、何を実現するために、どうするのか。そんな根源的な問いへと発展する。安定した社会のその深層にある「問い」へと眼差しを向ける深さ、怖さへと繋がる。

そんなスリルな作品もあるわけだが、小説家の綾辻行人が「ページをめくった瞬間に涙が出る」と語るほど入れ込む、哲学的な作品もある。『わたしは真悟』で描かれるのはロボット「シンゴ」の人生。多層的なテーマ、難解なストーリー展開、哲学的フレーズ、芸術的描写から、なかなか初読で「理解」ることは難しいが、なぜか「感動」できる。そんな不思議な作品だ。

小学六年生の悟(さとる)は父親の務め先である工場を見学中に、別の小学校の真鈴(まりん)と出会う。2人は急速に仲を深め、工場の産業用ロボットにどうやったら子供が作れるのか? と問いかける。ロボットが導き出した回答は「333ノテッペンカラトビウツレ」……。

と、要約もしづらいほど突飛な出だしから始まる。産業用ロボットが意識を持ち覚醒して、今や離れ離れになった悟と真鈴を探し歩くというストーリー展開に至るのだが、この作品の素晴らしい点は、作者のイマジネーションの連続にある。もはや読者の反応なんてものを無視し、ハンドルを振り切った状態で描き続けられる異様な物語の熱は異常。「AI」を先取りした先見性(この「先見性」や「予言力」は楳図かずお作品にはよくある)とか、様々に分析される本作だが、楳図の想像を超えた創造というか、芸術としかいえない幻視的な漫画世界を堪能していただきたい。

アートな楳図。

そんな『わたしは真悟』の続編であり、27年ぶりとなる新作『ZOKU-SHINGO小さなロボット シンゴ美術館』が発表されたのが『楳図かずお大美術展』であった。アクリル絵画で描かれた101点の連作絵画方式をとった本作。楳図かずお作品の漫画におけるコマ割の特徴として、独自のリズム、時間配分をもたらす「くどい」ほどの細かさが挙げられる。この連作絵画では、同じサイズの額のなかに一枚の絵画が入り並べられる。それぞれに「完成」した絵を持っているが物語の繋がりはある。

『楳図かずお大美術展』ポスター 引用:『楳図かずお大美術展』公式サイト

おちゃらけたキャラクターとは別に、読書家で理論派だったという楳図。展覧会の新作は、単なる新たな挑戦だけでなく「漫画」そのものの“フレーム”を押し広げる戦いでもあったのかもしれない。そんな新たな価値を生み出す者を人は芸術家と呼ぶのである。

【インタビュー】変換されていく景色ーYosca Maedaがピクセルアートで描く永遠と対話の世界-後編

行ったことがないはずの景色でも、どこか懐かしいと感じる。そんなピクセルアートを手がけるYosca Maeda。前編では制作のこと、名前に込められた思いなどを伺った。

デジタル画面で、いつでもどこからでもアクセスすることのできる作品から始まったYoscaMaedaの作品だが、2022年より毎年行っている個展では、よりインタラクティブなコミュニケーションを促す作品も制作しているという。

様々な表現にチャレンジすることで広がる可能性

個展では見せ方を工夫した作品も多く制作されていますよね。

Yosca Maeda:はい。今までに3回個展をさせていただいたのですが、毎回異なった表現にチャレンジしています。ピクセルアートというデジタルの作品を、リアルな空間で味わう時に何ができるんだろう?という問いを毎回考えるようにしていて。楽しみ方にはどんなバリエーションがあるかを探っています。デジタル作品の展示方法には、ある意味正解がないと思います。デジタル作品って、そこに存在して目で見ることはできるけれど決して触れることはできない。なので個展では作品により能動的に関わってもらえるようなシステムを試したいと思っています。

インタラクティブ性のある作品を展開した2024年の個展の様子。馬喰町NEORT++にて

例えば2024年の個展では、作品のモニターをカスタムしてダイアルをつけました。鑑賞者がそのダイアルを回すと、画面のピクセルが少しずつ変化していきます。最初は抽象的な形だったものが、次第に何かの景色に見えてくる。解像度の変化を通して、記憶が少しずつ輪郭を持ったり、また曖昧に戻っていったりする内的な感覚を表現しました。また、詩の断片の展示などもあわせておこないました。絵を描いてる時には気づかないけれど、後から見た時に音楽活動をしていた時に歌っていた言葉と重なる部分があったりするんです。時間によって文字が切り替わるようになっていて、この言葉とこの絵って実はつながっているな、という気づきもありました。

インタビューを通してYosca Maedaさんの言葉の選び方にとても魅力を感じていました。今までに影響を受けたものはありますか?

Yosca Maeda:生き方という点において岡本太郎さんは昔から好きなアーティストです。実家が岡本太郎美術館の近くにあったので、今でも年間パスポートを毎年買っていて、定期的に足を運びます。音楽だけの表現にこだわらず、ピクセルアートのキャリアをはじめることができたのも、様々なことにアグレッシブに挑戦し続ける岡本太郎さんの影響かもしれません。

未来のデジタルアートとは?

さまざまな表現者にとってAIやデジタル技術の進歩が大きな影響を与えています。そのような技術とどう向き合っていますか?

Yosca Maeda:デジタル技術と共にある表現者として、さまざまな新しい技術に対して興味はあります。ただ作品を制作している中で特に大切にしているのは過程です。AIによる生成は短時間で完成するという強みがある反面、作られる動機や過程が乏しい印象があります。過程にこそアーティストや作品が存在する理由があると思います。どんなに技術が発達しても、なぜその作品を作ったか、どれだけ時間をかけて向き合ってきたか、といった要素が味わいを生み、人と人が対話するために作品は存在しているはずです。

きっとこれから、デジタルのクオリティはもっと上がっていくと思うし、色々なことが更に便利になっていくでしょう。それでも作品の中にそれぞれの成長や結果、ストーリーを宿して欲しいなと思っています。

Light in Passing

Yosca Maedaさんは未来のデジタルアートをどのように考えますか?

Yosca Maeda:混沌とした世界になるんですかね。今でもすでに問題にはなっていますが、これは人が作った、これはAIが作った、などもその一つですよね。さらに色々なものが現れるとある地点で「では結局、本当にいいものってなんだろう?」と思う気がするんです。大量生産の一方で手づくりのものに魅力を感じる人がいるように、やっぱりそこに人がいて、どういう思いでどう作ったのか、作られたものは何であるか、みたいなコミュニケーションが大事なんじゃないかと思うんですよ。作り手と受け手が人である限り、その流れが崩れることはないと思うので。自分がやりたいことをもっと深く突き詰めていく、そんないい時代になる気もしています。

教員時代のご縁で、小学生向けのワークショップをしたことがあります。子どもたちには取り組みやすいサイズのキャンバスを使ってピクセルアートのアニメーションを作ってもらったのですが、その姿を見て、自分で作ることをとにかく楽しむ!みたいにシンプルに夢中になる感情も大事にしたいと思いました。

ーーー進む技術に対して目先の結果には惑わされたくない、と語っていたのが印象的だったYosca Maeda。しなやかさと力強さのある眼差しで見つめる、これからの未来を楽しみながら歩んでいきたい。

【イベントレポート】FRIEZE SEOUL2025ー連帯するアジアのアートシーンをどう解釈するか

西洋から始まった現代美術の世界。それを追いかけるようにして発展していったアジアのアートマーケットだが、時間を重ねるごとに少し違った様相を呈してきているーーー。

FRIEZE/フリーズはイギリスで30年以上前に刊行されたコンテンポラリーアート・カルチャーの雑誌に端を発する。その後フリーズ・ロンドン、フリーズ・マスターズ、フリーズ・ニューヨーク、フリーズ・ロサンゼルスといったプレミアム・アートフェアを手掛けておりそのいずれもが美術関係者にとって最も重要なアートフェアの一つとなっている。2025年9月3日から9月6日まで開催された第4回のフリーズ・ソウルでは、韓国・日本をはじめとするアジア各国とヨーロッパ諸国、北米などの国から120 以上のアートギャラリーが参加した。

近代美術の名作を紹介するフリーズ・マスターズで出品されたジョルジュ・ブラックの作品群

会場はソウル・江南地区のコンベンションセンター「COEX」。ほぼ同時期に開催されたKiaf Seoulでは韓国国内のギャラリーを中心に若手作家の積極的な紹介や韓国文化を洞察した作品などが目立った。一方フリーズ・ソウルでは、歴史的に希少性の高い作家などを含む、国際色豊かな作品を多く紹介している印象だった。

コンテンポラリーアートの現在地ーエルヴィン・ブルム

Kiaf Seoulと同様に大勢のビジターで賑わっている会場。目につくのはそれぞれのギャラリーでの作品の売れ行きだ。一般的にアートフェアでは早い者勝ちで作品の販売が行われる。そして購入された作品は会期終了後に購入者へと届けられる仕組みとなっている。作品の販売状況は作品リストやキャプションに貼られた印の色を確認すればよい。色のわけ方はギャラリーによって様々だが、赤は売り切れ、青は交渉中とされることが多い。基本的に印がついているものは、購入することができないものと認識していれば間違い無いだろう。

フリーズ・ソウルに出展していたTake Ninagawaでは開始10分で大竹伸朗の大作が販売されたという。韓国のアートマーケットは一時の勢いを失いつつあるという見方もされるが、アジアの中でのハブとしての立ち位置は依然高いことがわかる。

Take Ninagawaのブース。今年のFrieze Stand Prizeを受賞した。

そんな勢いを表すかのように、展示された作品も現代アートのマスターピースばかりであった。エルヴィン・ブルムは1954年オーストリア生まれ。ウィーン応用美術大学とウィーン美術アカデミーで学び、ウィーンとリンベルクを拠点に活動しているアーティストだ。世界各地の影響力の高い美術館に作品が収蔵され、そのシニカルでユーモラスな作風を展開し第一線で活躍している。

左:Vanity;2023 右:Melancholia;2024 いずれもErwin Wurm

ロンドン・パリ・ソウルなど5箇所の都市に拠点を持つThaddaeus Ropacでは「Vanity」が展示販売された。アルミニウムによって作られたこの彫刻はバッグから足が生えている不気味な彫刻だ。そしてこのバッグのモチーフは、大流行したBottega Venetaの「カセット」というデザインだ。ニューヨークを拠点にするギャラリーLEHMANN MAUPINEでもブルムの「Melancholia」という作品が展示販売されていた。どちらもファッションアイテムがモチーフとなっており、私たちがバッグや洋服を通じて、他人からどう見られたいかという欲望と、世界からどのように見られるかという問いかけを示唆しているという。

連帯するアジアのアートシーン。ソウルから世界へと発信する意味

村上隆の作品群を一目見ようと人だかりになるPerrotinのブース

世界の美術館関係者やコレクターが、ここFRIEZE Seoulに集まる理由は、韓国や日本をはじめとするアジアのアートシーンへの注目が高まっているからだろう。自身の出自や自国の伝統・文化を作品に取り込むことで、西洋のアーティストとは異なったアプローチで現代アート作品を制作しているアジア人アーティストたちは、ここ数年で国際的な評価が高まっている。

Self-portrait;Sun Yitian 2025

1989年にベルリンでオープンしたEsther Schipperのスペースでは、中心にSun Yitianによる新作が展示販売されていた。Sunは北京を拠点に活動する女性アーティストで、2024年にはルイヴィトンとのコラボレーションでも話題となった。「Self-portrait」では3枚で1作品となっており祭壇画のような構成だ。中央の女性は水着姿で肌を露出しながらも、顔を覆われている。その姿は無防備であると同時に反抗的な印象を与える。この被り物は青島のビーチで、日差しとクラゲの刺傷から身を守るために登場したフェイスキニというアイテムだ。画家にとって、フェイスキニは日本や韓国で古くから存在する海女の伝統を想起させ、家父長制社会における女性の自立精神の象徴と結びつけている。

Floor to Floor Lamp;玉山拓郎

また東京から参加しているANOMALYのスペースでは玉山拓郎の作品が展示され、身近にある家具を使って重力や空気といった目に見えないものを知覚させ、天井によって支えられた空間において、それぞれの建築要素の役割と意味を変容させることで、新たな視覚的風景を生み出している。

世界48カ国から7万人の来場者を集めたFRIEZE Seoul。名作から最新作まで、現代アートという系譜を時代ごとに捉えることができるとともに(しかもそれらが購入できる…!)、また違った熱気が感じられたアートフェアだった。東京から2時間強でいくことのできる、最も近いアジア都市ソウルで濃密でエキサイティングなアートをぜひ体感してみてほしい。

【インタビュー】変換されていく景色ーYosca Maedaがピクセルアートで描く永遠と対話の世界-前編

電車やバスの電光掲示板、テレビのモニター、スマートフォンの画面など目を凝らすとそこには無数の点”ピクセル”が存在する。ピクセルとはデジタル画像を構成する色情報を持った最小単位のことだ。世界に「デジタル」が生まれ、同時に「ピクセル」も生まれた。Yosca Maedaはそんなピクセルの世界を自在に操る注目のアーティストだ。

ミュージシャン、教員からピクセルアーティストへ

初めまして!本日はよろしくお願いいたします。

Yosca  Maeda:よろしくお願いします。Yosca Maedaです。2020年からはじめはMaeという名前で制作活動をスタートしました。

「Afterglow」

アーティストになる前は小学校の教員をなさっていたと伺いました。

Yosca  Maeda:そうなんです。そもそもは音楽に携わる仕事がしたい、ということがきっかけで。ただ音楽系の専門学校を卒業したあとの見通しが立っていなかったので、教員の資格を取得し4年半ほど教員をしていました。当時は自身の音楽活動と並行して仕事をしようと考えていたんです。すごくやりがいがあったのですがあまりに忙しく、音楽活動ができない状況が続いてしまって。自分が初めて担任を受け持った生徒たちが6年生で卒業するのを区切りに退職する決意をしました。

音楽活動からピクセルアーティストへと転換したきっかけは?

Yosca  Maeda:自身の音楽活動のアートワークを作るためにピクセルアートを描いたのが一番最初でした。そのままコンテストに応募したり、SNSのアカウントを作って、みんなに作ったものを見てもらおうと思ったらピクセルアートの依頼が来たり…。はじめの頃は、この絵を描き上げたらそろそろ就活しようかな、みたいな状態を繰り返していたんですけど、だんだん描いた作品の数も増え、応援してくださる方も少しずつ増えて。もしかしたら、自分がやりたい表現はこの中にあるのかもしれない、という風に思い始めたんです。

一つひとつのピクセルを、確かめるように色を置いていくーーーピクセルアートは自分自身を見つめる鏡

普段制作をしているデスク

様々な表現方法がある中で、なぜピクセルアートだったのでしょうか?

Yosca  Maeda:本格的にアーティスト活動をしていくなかで、世の中は新型コロナウイルスの影響で疲弊していました。それに加えて祖父が他界し、社会との接続点を見失って悲観的な気分になっていました。自分の内面的な部分を見つめ直しているうちに、自分がどんなもので構成されているのか考えるようになったんです。ピクセルにはひとつひとつ明確な境界があって、それを確かめながらピースをはめていくパズルみたいな感覚が好きでした。操作はシンプルなのに、出来上がる作品には自分の感情がにじむ感じがあって。そのバランスがそのときの自分に合っていたんだと思います。

パズルをはめていくみたいに、一つひとつのピクセルを、確かめるように色を置いていく。自分で色の組み合わせを考えざるを得ないので、記憶の中にある大事な景色や自分を構成するものを見つめ直すことができる。それを具現化し自分のアイデンティティーを確かめる作業は、禅問答のように感じるときもあります。

単なる平面作品ではなくGIFのようなループアニメーションに挑戦されている理由はありますか?

「Nostalgia of the Flow」

Yosca  Maeda:僕にとって描くという行為は、自分の中に残っている断片的なイメージを形にすることです。そこでは時間がゆっくりと、あるいは何度も繰り返すように流れている。その感覚を映すために、ループアニメーションを制作しています。

たまに、僕の作品を見てどこか懐かしい景色だと言う方がいます。実際にはまったく同じモチーフに触れてきたわけではないけれど、その場所がピクセルアートに変換されることによって、どの場所でもない、私たちの中にだけある景色につながるような気がするんです。アーティスト名でもあるYoscaには、日本語の「よすが」という意味も含まれています。作品を見てくれた人がちょっとでも心の拠り所にしたくなるような作品を作れたらいいな、と思っています。

制作と生活。日常の中に散りばめられた、作品のかけら

制作以外の時間はどのように過ごしていますか?

Yosca  Maeda:展示や映画を観ることがあります。最近ではヴィム・ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」を見ました。それからハリーポッターシリーズも大好きです。劇中に出てくる写真は、魔法によってループアニメーションのように動いているんです。自分自身が作っているループ作品の中でも、ずっと世界が続いている、ある意味魔法的なイメージとも言えるかもしれないです。それから、シーンとシーンの間をつなぐインサート映像なんかをみるのも好きです。

日常の何げない風景を捉えた「Afterlife」

視点が細かすぎます…(笑)!

Yosca  Maeda:本筋ではないところで心奪われてしまうことが多いかもしれないです(笑)。それから散歩するのも好きです。散歩していると、ふと気になる景色と遭遇したり、いいフレーズを思いついたり。僕の作品は、日常にある何気ない景色をイメージして作ることが多いので写真やメモで記録することもあります。

どんなことを記録されているのか気になります(笑)

Yosca  Maeda:シェアできるようにこだわった写真を撮ると、どうしても道具みたいになっちゃう感じがしてしまうので、最近はあえて雑に撮っています。ブレていたり、人間味が残っていたりする写真の方が、あとから見返した時に面白いなと思っています。撮るものは例えば建物の隙間、影の形、空など、散歩していたらふと目にするような日々の色々です。

鑑賞者、そして自分自身と作品を通じて対話をすること。冷静な言葉で自身を語るYosca Maedaは制作と生活が点と線でつながっているかのようだ。後編では影響を受けた意外なアーティストからこれからのデジタルアートの向かう先まで、よりパーソナルな部分を深掘りしていく。

イラストレーター・焦茶の足跡を辿って

2020年に急逝した今もなお、数多くのファンを抱えるイラストレーターの焦茶さん。待望の初作品集の刊行に併せて開催される個展『Reproduction』を前に、彼の発表してきた数々の作品、その軌跡を眺めていこう。

さて、イラストレーターの焦茶さんはどんな人だろうか。

デジタルで表現する日本画由来の“線”

デジタルイラストへの憧れと、あくまで「アナログに近い感覚を残したまま描く」というこだわりを両立させる為、彼が手に取ったのは“液タブ”だった。日本画をやっていた経験から、“線”には自信があった。吉田博、伊藤若冲、鈴木英人、わたせせいぞう、等の影響について後に語っている※1が、自身の“線”を、彼らの「パキッとした」作風と重ね合わせ、それをデジタルで表現する。その為に“液タブ”に可能性を見出したのだろう。

アルバイトでお金を貯め、「Cintiq 13HD」を購入。当時一番好きだったという、『アイカツ!』の二次創作を描いて、描いて、次第にコツを掴んでいった。SNSへの積極的な投稿から、徐々に支持を集めるようになる。また、イラスト集、同人誌の制作にも精力的だった。

そのはじめの2冊が、『PEOPLE ARE PEOPLE』と『BLACK DOG』。

『BLACK DOG』

どちらもイングランド出身のロックバンドの曲名と一致するのは関係があるか無いか…。『PEOPLE ARE PEOPLE』は偏見や差別への悲しみ、怒りを歌ったデペッシュ・モードのその後の活躍の火種になった曲。『BLACK DOG』はレッド ツェッペリンの言わずと知れた名曲。セーラームーンのオマージュ合戦の一つとして、8年ぶりの来日公演を行ったばかりのアメリカのラッパー、タイラー・ザ・クリエイターを描いたXの投稿も併せて考えると、音楽への関心の高さは単なる誤読ではないだろう。

タイラー・ザ・クリエイター

「SNOW MIKU 2017」

そんな彼に転機が訪れる。「SNOW MIKU 2017」のビジュアルの依頼が舞い込んだのだ。同イベントの特設サイトには、イラストギャラリーが設けてある。提出された作品には、本人も口にしていた、「パキっとした作風」や、「日本画の影響」が色濃く出ており、他のイラストレーターの作品の中でもすぐに彼のものだとわかる。
実際のイラストはSNOW MIKU 2017の公式サイトで是非チェックしてみて欲しい。

『重力アルケミック』

同年はこれに留まらず、表紙イラストを務めた柞刈湯葉著『重力アルケミック』が発売。実際に取材に赴き、訪れた実在の場所を背景として描く彼のスタイルは、この時から既に取り入れられていたのではないか。重力を司る“重素”の採掘によって膨張を続ける地球では、東京大阪間が5000キロを突破し──。といった作品の内容の通り、網目上に空間が分断されたイラストの薄い水色の部分が東京──スカイツリーが見て取れる──で、青紫に近い色の部分が、大阪のどこかの街並みを描いたものかも知れない、と想像が膨らむ。

その後のいくつかの作品においては、Xで実際のロケーションの写真をアップすることもあった。

創作過程から見えてくる“焦茶スタイル”

ロケーションに限らず、焦茶さんはしばしば、制作の過程をXにて公開していた。目にした景色をラフに書き起こし、それを元に本描きに入るが、手前から奥までびっしりと棚に並んだスニーカーの箱の山を描き切った画力、胆力は想像を絶する。

紫吹蘭 / jordan why notシリーズなどのナイキをはじめ、様々なスニーカーを愛好していたという焦茶さん。スニーカー愛が完成まで背中を押していたのかも知れない

また、wacom公式YouTubeにて、制作過程の一部始終が収録された動画がアップされており、完成したイラストも見ることができるから是非チェックしてみてほしい。

こうしたSNSを通して、完成前の状態やいわゆる元ネタまでも見せてくれるサービス精神に感謝しつつ、最も目に留まったものがある。Xの投稿にて、完成後の作品から、彼の代名詞と言っていい“線”を消して見せたのだ。

左画像がオリジナル、右画像が“線”なし。

“線”なしの淡くのっぺりとしたアノニマスな雰囲気と、まるで自己紹介かのようなパキッと締まった“線”アリは、並べてみるとこうも違うのかと驚かされる。抽象が一気に具体化するような、1人のキャラクターが、眼前に、まさに“輪郭”を帯びて鮮やかに立ち現れる感覚。

そしてもちろん、彼の絵の魅力は“線”だけではない。精緻な線と対照的にべたっと描かれた箇所、全体の色のバランスなど、1枚の絵とは思えない奥行きにより、次、また次、と視線が休まる暇がない。本人曰く、何層にも分かれたレイヤーのように、1枚の絵で「視線誘導」していくゆく。それが彼の作品の叙情性に繋がっているのだろう。

2018年には、翔泳社から発行された『ILLUSTRATION 2018』に掲載。『ILLUSTRATION』とは、毎年その年の注目イラストレーター150人が掲載される図録で、平泉康児氏が監修を務める。掲載する作家は2013年の創刊当初からほとんど全て平泉氏の慧眼によるもの。

そして、この本のブックデザインを手掛けたのが、後に「影響を受けまくっている」と語っていたデザイナーの有馬トモユキ氏。自身の作品でのデザインの要素において、有馬氏の影響を多分に受けていたようで、日頃からも親交があったそうである。
2018年は商業的な仕事が増えつつも、同人誌などのオリジナル作品も精力的に発行。この年に発行されたものが、『DIE LORELEY』『AUTOMNE MALADE』『Second’s』『SUPERSTITION』『TAKE ON ME』と相当な数に昇る。このうちの『AUTOMNE MALADE』に関して、ご親族によって語られた貴重な記事があるので、そちらも併せてご覧いただきたい。

激動の2019年。イラストを通して広がっていく人の輪

そして2019年は、それまで培ってきた技術、経験を遺憾無く発揮。コマーシャルワークも一挙に増え、完全に人気に火がついた年だった。特筆すべきは、YOASOBIとして、ボーカロイドプロデューサーとして、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったAyase氏の楽曲『幽霊東京』のMVを担当したことだろう。「初音ミク」ver.、self cover ver.合わせて5008万回再生のメガヒットを記録している(2025年9月15日現在)。

「幽霊東京」Ayase MV

そしてこの年は、バーチャルシンガーAZKiの2ndビジュアル、衣装デザインも手掛けている。自身の作品が自在に動いているのはこれが初めてで、新しい可能性を示したひとつの転換点だったと言える。特徴的なスニーカーのデザインは、焦茶さん自身がスニーカー好きだった背景が感じられるし、ストリート系のファッションデザイン、コートの内ボタン、メッシュの入ったヘアスタイルなど、随所にこだわりが感じられる。

バーチャルシンガーAZKiの2ndビジュアル

また、同年には詩集『あの夏ぼくは天使を見た 』が発売。焦茶さんのイラストと、毎日歌壇賞を受賞し2019年期待の新人詩人である岩倉文也の詩が交わった同作品。若き才能の邂逅から生み出される作品は唯一無二の彩を放っている。

この他にもたくさんのコマーシャルワークを手掛けながら、この年2019年は初となる個展も開催。「HELLO HELLO HELLO」と銘打ったこの展示は、これまでの作品40点に加え、アナログ作品10点を展示。後に買い替えた「Wacom Cintiq Pro 32」の大画面で、さらに拡大しながら細部を描き込む彼の絵のスタイルに合うように、1.8メートルもの巨大パネル作品や、2メメートルほどもある巨大タペストリーなど、大判の作品が立ち並ぶ会場は、丁寧に描き込まれた彼の作品をたっぷりと堪能できたはずだ。

翌年2020年には、Vtuberの樋口楓の衣装デザインを担当。すぐに「でろーん」ってしてしまう彼女の可愛らしさに、かっこよさを上手く掛け合わせたデザインは、それまでの雰囲気を踏襲しつつ、焦茶さんらしい新たなビジュアルイメージを提案している。

樋口楓衣装デザイン

最後に

これまで、焦茶さんのまさしく気鋭の若手作家としての活動の軌跡を辿ってきた。そしてそれらは、確かに過去のものだ。でも、「時間」という、幽霊のように実在が曖昧なものは、本当にその人を忘れさせてしまうのだろうか?過去のものになってしまうのだろうか?

作家は絵で語る。僕たちが、失うことに慣れていく中で、大事な想いを失さないでいるのなら、それは決して一方通行のやりとりではない。彼の作品を前にした生々しい感情のやり取りは、例え「時間」でさえ奪うことはできない。どれほど時が経っても、彼の作品は後世に残っていく。

そう思うのには、理由がある。

生前の彼のXの投稿で、こんなものがあった。

#誰かの推し作家になりたい

そこにはファンの方のコメントで溢れていた。焦茶さんの物語は、これからも続いていく…。

焦茶作品集『Reproduction』

2020年に急逝した今もなお、国内外で絶大な支持を得るイラストレーター・焦茶。
待望の初作品集「Reproduction」が刊行。本書は、作家に縁の深かった「音楽」をテーマにデザインされ、制作途中だった未発表の漫画作品のネーム(下描き)も掲載される。

https://www.shoeisha.co.jp/book/campaign/Reproduction

個展『Reproduction』

「Reproduction」の刊行に併せた、個展も開催。同展示では、クライアントワークから貴重な個人作品まで、彼の活動の軌跡を幅広く展示。
さらに、これまで誰の目にも触れることのなかった未発表作品が、アートブランドGAAATによるMetal Canvas Artとして、アートとして、生まれ変わる。
金属の光沢と立体感、そして永くその美しさを保つ性質は、 彼の作品世界をより魅力的に表現し、生活の中でふと目をやった時に、そこに焦茶の世界が在り続けるという、新しいアートとの関係を提案する。
貴重なこの機会を、ぜひ会場でご覧ください。

https://gallery.gaaat.com/pages/cogecha

【インタビュー】かわいく弾けて。coalowlの意外な素顔 – 後編 

イラストレーター、アニメーション作家として活躍するcoalowlさん。
TVアニメ『チェンソーマン』のEDアニメーション、PEOPLE1の『常夜燈』MV、カンロ発売のグミ「Marosh」パッケージイラストを手掛けるなど、第一線で活躍する中、これまで自身について語ることは無かったのだが…。

初の個展を開催するこのタイミングで、彼女の生の声を、知られざる創作の裏側を、独自取材することに成功!これまで歩んできた道のりから、数々の作品が生まれた背景、ハイクオリティなアニメーション、謎に包まれたcoalowlさんのインタビュー記事を前後編でお届けします。

Summer has come!

社会人を経て、突然無職に!?

前編にて、会社を辞めたところまで伺いました。突然辞めるとなると、何もなくなってしまうじゃないですか。その後の生活はどうされましたか?

coalowl – 当時は先が見えないから、「大丈夫か?生きていけるのか?」っていう不安はありました。コンビニでバイトして帰ってからポートフォリオを描き溜めていくっていう生活でした。

ターニングポイントはありましたか?

coalowl – 2020年に、にじさんじ所属のVtuber葉加瀬冬雪さんからMV用のイラストをご依頼いただけたことが大きかったです。SNSのフォロワーさんが500人くらいの時期に見つけていただけて本当に嬉しかったのを覚えています。また現在大好きな月ノ美兎さんなどのVTuberを知って好きになるきっかけでもあったので、とても大きな出来事でした!

生計をたてていけるようになるまでどのくらいかかりましたか?

coalowl – 会社を辞めてから2年くらいです。

2年!?相当早いですよね。初めのうちはあまり作品の反応がない時期もあったかと思うのですが、当時はどのようにモチベーションを保っていましたか?

coalowl – 最初はほぼ全く反応がなくてきつかったです!「やるしかないから」っていう感じにはなっていましたね。会社も辞めちゃったし、もう他にないから。でも絵を描けるということは嬉しかった気がします。

『チェンソーマン』第4話ノンクレジットエンディング / CHAINSAW MAN #4 Ending│TOOBOE 「錠剤」

最初はいわゆる下積み的なニュアンスかと思うのですが、試行錯誤していく中で、絵柄を変えたりすることはありましたか?

coalowl – 絵を仕事にしていこうと思った段階で、自分の好きな絵柄や作風をかなり探りました。なので、模索する前に描いていた絵柄と今の絵柄はだいぶ違います。基本的なところはもうずっと変わっていないですが、今でも何が好きかをずっと意識し続けており、“好き”を常に疑うようにはしています。

好きなものをめいっぱい詰め込んで

直接的に影響を受けたアーティストや作品はありますか?

coalowl – 『HUNTER×HUNTER』とか『カードキャプターさくら』、『なるたる』とかはすごく好きです。子どもの頃からですけど、色々な漫画家さんの絵には影響を受けていると思います。

インスピレーションの点において、例えば音楽などが活きていることはありますか?

coalowl – やっぱり映画の影響が大きいですね。この作品は映画のポスターをイメージして描きました。

1997

「1997」に何か意味はありますか?

coalowl – この絵自体が架空の『1997』という映画のポスターです。私が90年代の映画が好きで、ロードムービーとか、逃亡劇とか、なんか「こういうのいいよね」っていう要素をかき集めて作りました。90年代ってなんか切ない、終末感とかもあって。

PEOPLE 1『常夜燈』の冒頭の歌詞で、「天国に学校はあるかしら ふらつく足で見つけたのは 古い映画の悲しい結末」という箇所があります。MVでのシーンでは、『ライフ・イズ・ビューティフル』が元ネタになっているそうですね。

coalowl – そうですね。この部分は確かPEOPLE 1さんからの依頼で描いたものだったと思いますが、自分でもいわゆる“オマージュ”を入れ込むことはあります。その時はちゃんと依頼者には「この部分のオマージュ元はこれです。」ってちゃんと伝えて。大体は事後報告、完成してから伝えることが多いですけど…!

「自分で踊って、自分で描く」

アニメーションの動きが、リアルと「かわいさ」が共存していて不思議な魅力があると思うのですが、どのように作っているのですか?

coalowl – ロトスコープという手法も要所で取り入れながら、毎回全編1人で手描き作画をしています。ただそのままロトスコしてもかわいくならなかったり、固かったりこぢんまりしてしまうので、誇張したり全然なぞらなかったりして工夫をしています。

1人作画・・・・!!すごい物量ですね・・!となると、アニメーションの踊りの部分は、実際に踊った動画を元に制作しているんですね!ダンスはダンサーの方に踊ってもらう形ですか?

coalowl – 自分で踊って、それを撮影しています。初期は振付をダンサーさんにも協力していただきながら制作し、自分で踊ることが多かったですが、最近は全て自分で振付を作って自分で踊ることが多いです。だからMVのために踊りの練習をしたりもするんです。

にじさんじ所属Vtuber月ノ美兎さんを描いたcoalowlによるファンアート作品

初めからそのやり方だったんですか?

coalowl – そうですね。それまではアニメを描いたことがなかったので、「どうやろうか」ってなった時に、「あれ?そういえば、新体操やってたな。興奮してきたな。自分で踊って自分で作っちゃおう。」っていう。ただ、初めの頃は作り方が分からなくて、CLIP STUDIO PAINTのイラスト機能で1枚ずつ描いては、PNGで保存して、最終的にFinal Cutに全ての絵を読み込んで作っていました。今とは比にならないくらい時間が掛かっていたと思います。後から、CLIP STUDIO PAINTにはアニメーション機能があるってことを知って・・・。

めちゃくちゃ手作業で、異例な作り方だったんですね。ちなみにそのやり方で作った作品はまだ残っていますか?

coalowl – そうです、DIY的な精神で・・・。アイワナビーフリーや常夜燈やテレキャスタービーボーイがその作り方です!アホだと思います。魔法の歌あたりからアニメーション機能の存在を知りました。・・・。

ちなみに、ものすごい作画枚数とお見受けする常夜灯のMVはどのくらいの期間で制作されたんですか?

coalowl – 2ヶ月くらいだった気がします・・・!とにかく毎日、起きて寝るまでバイト以外の時間はずっと描いてました。アニメってこんなに大変なのかとめちゃくちゃ苦しかった・・・。出来た時は「うおおおおお!!」って、フルマラソン走り切ったように感動しましたけど、何回も何回も向き合うので見慣れてきて、「これ、本当に受けるのか・・?観てもらえるのか?」という気分になりましたね。

「うまいね!」よりも「かわいい」を目指して

作品に共通して、色味のこだわりとかはありますか?

coalowl – やっぱり視認性を高くすることは意識しています。作品を出す以上、目立たせたいっていうのはありますね。分かりやすさというか、派手さというか。

依頼された仕事の中で、どのように自分らしさを出すのか考えることはありますか?

coalowl – 自分の中では「出してやるぜ!」みたいな気持ちはあまりないんです。どちらかと言うとこれまでの作品での自分らしさ、自分の絵柄を見た上でご依頼頂いていると思うので、そこはいつも通りに描くというか。

水色メイド天使ちゃん

たくさんのイラストレーターの中で、ご自身の特徴は何だと思いますか?

coalowl – 以前友人が身分を隠して二次創作のアカウントを作っていたことがあったんです。フォロワーが既にかなりいて、偶然それを見つけた。「これ、あなただよね?」って聞いたら、「バレましたか。」ということがあって。

すごい、わかるものなんですね。

coalowl – 分かります。「やっぱそうか」ってなって、私もやってみようかなと話していたら、「絶対一瞬でバレるから意味ない」って言われて。自分ではそんなに違うと思っていなかったんですけど、分かるものなんですね。言語化はしづらいですけど、どこかその人の絵柄みたいなものは雰囲気で出るんだと思います。ただ自分に関して言うと、これといった特徴がそこまであるとは思っていないですけど、シンプルな絵柄にしようとは意識しています。

coalowl さんは、Xのメインアカウントと別に、「ぶたさん」というアカウントもありますよね。

coalowl – 特別ぶたが大好きとかじゃないんですが、学生時代から落書きで描いていて気に入って、そこからずっと描いてます!「気づいたら隣にいた」、みたいな感じです。これからぶたさんの方も頑張っていきたいと思っているので、楽しみにしていただけると嬉しいです!

魅惑のマーメイド
漫画「ぶたさんと女の子」より

ご自身の作品で、特に見て欲しいポイントはありますか?

coalowl – 作品を観てもらった時に、最初に来る感情が「上手い」より「かわいい」だと嬉しいなと思っていて、それは意識しています!

一番大切にしていることは「かわいさ」なんですね。

coalowl – それはずっと変わりません。自分が「かわいい」って思えるものを描く、そう思えないものは描きません。「かわいい」ものがすごく好きで、愛でたいし、見たいし、そばに置きたいから。私のイラストもそう思ってもらえたら嬉しいです。

coalowlさんの手掛けるイラストやMVからは「かわいい」も「かっこいい」や「エモーショナルさ」も伝わってきますが、これからどんな表現をしていきたいですか?

coalowl – もちろん好きなものってかわいいものだけじゃないから、今まで自分が接種してきた好きなものを私なりに出力していきたいです。自主制作で物語性のあるアニメを作ってみたり、いつか映画なども作ってみたいな・・と思ってます。まだまだ頑張っていきたいです!

初めての個展 – メタルと「かわいい」の融合

最後に個展についてお聞かせください。初めての個展とのことですが、何か新しい試みはありましたか?

coalowl – 今まで作れなかった可愛らしいグッズを作れました。服やメタル系のグッズなど、企業さんが絡まないと作るのが難しいものにトライ出来たと思います。服はずっと作りたかったので、デザインやカラー、素材にまでこだわって、何度もテストして作りました。

服のデザインはゼロから作ったんですか?

coalowl – 始まりは元のこの絵があって、「これ作りましょうか!」という流れです。その上で色々試しながら作り上げました。

Tシャツの原案となったイラスト「ぶたさんと女の子 KV (半袖) 」

ご自身のイラストがグッズやMCAになったのを見て、いかがでしたか?

coalowl – 過去に一度MCAを作らせていただいた事があって、その時は個人的にメタルの良さと、自分の絵の良さをうまく活かせなかったんです。めちゃくちゃ悔しくて、それを今回は回収出来ました。結構メタル感やマット感が出るのを意識して書き下ろしました。

確かに、僕のイメージだと、メタルってかっこいいみたいなニュアンスがあって、coalowlさんのイラストのような「かわいい」ものとメタルの融合みたいなところは難しそうだなと思ったのですが、うまく共存、表現されていて。

coalowl – めちゃくちゃ分かります。いつも通りに描いて、その上でどうしたらメタルに「かわいい」とか「おしゃれ」な要素を出せるかを意識しました。

あくまで「かわいい」で勝負したと。

coalowl – そうです!

イラストレーター・アニメーション作家として活躍するcoalowl、待望の初・全国巡回個展が開催。アートブランドGAAATとのコラボレーションにより実現した本展示は、coalowlのかわいらしい世界観で描かれる人気作や描き下ろし新作が、同ブランドの代名詞「Metal Canvas Art (以下:MCA)」として生まれ変わった。

会場では、MCAはもちろん、本展示でしか手に入らないオリジナルグッズや、特別にアニメーションの上映も実施!アートとして生まれ変わった新たなcoalowlに出会うチャンスかも!?ぜひ会場でご覧ください!

イラストレーター/アニメーション作家・coalowl、待望の初・全国巡回個展。

2025年10月31日(金)〜2025年11月5日(水)
12:00-18:00
東急プラザ原宿「ハラカド」3階 THE COFFEE BREW CLUB ギャラリー

【巡回展詳細】
https://gallery.gaaat.com/pages/coalowl?srsltid=AfmBOopbNITSVWczycln2Qja84pgff2mgGHbJwzZL5kBpTYu6LKqLNLF

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