【旅とアート】目で見て感じたものを作品にーさけハラス インタビュー前編ー

とある女子高生の日常を切り取ったように緻密な作品を描くイラストレーターとして人気を博しているさけハラス。「旅」をキーワードに常に新しい表現や発信方法を模索し続ける彼の誠実さに触れたインタビューをお届け。

逆境を楽しむー居酒屋から始まったイラストの道

今日はよろしくお願いいたします。さけハラスさんの作品は風景とキャラクターの雰囲気が相まって、見ている私たちを小さな旅に連れて行ってくれるような魅力がありますよね。イラストで仕事をすることになった経緯を教えてください。

さけハラス(以下:さけ)- お願いします。絵を仕事にしたのは、居酒屋でした。当時はリーマンショックの影響でどの会社も新卒採用を縮小する傾向にあり、自分もその渦中にいました。いただいていた内定が取り消しとなり、どうしようか悩んでいたところに、デザイナーとして募集があったのがその居酒屋でした。

居酒屋でデザイナー募集とは、珍しいですね!

さけ – そうなんです。それも含めて面白そうだな、と思って仕事をはじめました。当時は居酒屋で使うメニューを描いたり、ロゴのデザインをしたりしていました。従業員の似顔絵を描いたりしているうちにイラストに興味を持ち、思い切って会社をやめて、京都のイラスト専門学校に入学しました。卒業した後はその専門学校の講師として働いたり、縁のあったゲーム会社などでキャラ制作やゲームの背景などを担当し、2019年に独立しました。

イラストの指南書などを拝見しても、すごくわかりやすくまとめられていて。講師をやっていたと聞いて納得です。

さけ – 講師をしていた時にもたくさんのことを学びました。彼らが今どんなことに関心があってどんなものが流行っているのか、グッズなども自分たちの時代にはなかったツールを使って制作していて感心していました。当時の生徒さんからもらったオリジナルの缶バッジや、SNSのアイコンにもしているマガモのキャラクターの人形は大切な宝物です。

SNSのアイコンにもしているマガモ

目で見て感じたものを作品に

旅するイラストレーターという肩書の通り、実在する場所をモチーフにした作品も多いかと思います。どのように場所を選ばれているんですか?

さけ – SNSを使った情報収集が多いです。InstagramやX、ピンタレストなどで気になった場所をストックしていて、行く場所が決まるとその地域に詳しいフォロワーさんたちからおすすめをされることもあります。地方に行かせていただくことも多いのですが、その地域が制作しているローカル番組などで紹介されていた場所を訪れたこともあります。

路地裏や交差点など街の“裏側”のような場所に焦点を当てている作品も多いですよね。

さけ – 単純にそういうところが好き、というのもあるんですが。(笑)光の表現に自信があって、そういったコントラストの強く出る景色を選ぶことも多いです。木漏れ日の降り注ぐ場所や海など、その明暗や彩度を誇張して描くこともあります。

「駅と少女2」木漏れ日の表現を得意とするさけハラスさんの作品

ご依頼やお仕事でイラストを描く時には、どうしてもメジャーな場所をモチーフにすることが多いので、個人の活動ではその場に行かないと見つけられないような景色を描きたいな、と思っています。階段の風景を描くことも多いのですが、構図としてキャラクターが入れやすかったり、何かが始まりそうな予感がして、好きなモチーフの一つです。そんな場所でも特定してくれるファンの方もいたりして。

さけハラスさんの作品をみていると、実際にその場所に行ってみたくなります!

さけ – 聖地巡礼などでその場所を訪れてくださるファンの方もいらっしゃいます。一度だけファンの方がツアーをしてくれたこともあって(笑)色んな場所を巡った後に一緒に食事をしました。

AI時代にイラストレーターとして活動すること

旅のルーティンを教えてください。

さけ – 毎回必ずというわけではないのですが、その街の一番大きな駅に行くようにしています。地域がその街がどのくらい盛り上がっているのか、何が有名なのかなどを確認します。絵を描くだけじゃなくて、その街自体も楽しみたいのでその地域ならではのグルメや名所などにも行きます。

作品の醍醐味とも言える緻密な風景描写ですが、どのようにして制作されているんですか?

さけ – 私の場合は旅で訪れた場所の写真を加工したものをベースに加筆・着彩をして仕上げています。その上で誇張する部分や、逆にノイズになってしまう部分を目立たなくしたりもします。元の写真自体は加工の具合によって色々な表現ができるのですが、以前訪れた場所に雪が積もっていて、違う季節のイラストを描こうと思った時に普段の景色を想像しながら制作したときは大変でした(笑)

実際の作品制作時

雄大な景色と可愛らしい女子高生のキャラクターのコントラストも印象的ですよね。

さけ – 気分によって描き変えたりしています。キャラクターが様々な旅先を旅行するというストーリーでコンテンツを制作していたこともありました。実はSNSでイラストを投稿しはじめた時は、とにかく風景を描く練習がしたくてキャラデザインを固定すればいっぱい風景が描ける!と思っていました(笑)ただ、キャラクターがいることによって目を止めてくださる方も多く、今ではどちらの要素も欠かすことができないです。

最近ではAIによるイラストも流行していますが、さけハラスさんはこの状況をどのように見ていますか?

さけ – 同業者の中にはAIアートに苦手意識を持っている方もいると思います。私自身もその気持ちはわかるのですが、やはり時代の流れとして避けられないと思います。もちろん仕事を失っている部分もあるかと思うので、危機感を感じないと言えば嘘になりますが、うまく技術を活用しながらAIに代替されないような活動ができるように頑張っています。ただ著作権の侵害などといった問題も出てきているので法整備などの規制は必要だと思います。

居酒屋のイラストレーターからキャリアをスタートしたさけハラス。制作の秘話からAI時代にサヴァイブすることまで語った。後編では、さけハラスが語る、未来の社会のコトから大好きなホラー映画の話まで。パーソナルな部分を掘り下げていく。

ねぶた祭りをアートとして楽しむ

夏真っ盛りとなった今日この頃、連日の暑さの報道に耳を痛めてしまう。日本では千年前から「春はあけぼの、夏は夜・・・」と清少納言が言い放ったように、昼間と比べ少し涼しくなった夏の夜は格別なものがある。そんな夏の夜を彩るもの、祭り。夏は祭りに行かねば!

岸和田のだんじり祭りや“奇祭”で知られる岐阜県の郡上おどりなど日本各地にさまざまな祭りがある中で、一際異彩を放っているのが青森・ねぶた祭りだろう。伝統もさることながら、巨大な「ねぶた」が夜闇を練り歩く様はテレビで見てもド迫力。一度は見にいってみたいと思っている人も多いだろう。

2023年 青森県板金工業組合 「火雷天神 菅原道真」北村春一作

​実はこの「ねぶた」、毎年新しいものが作られており、その全てが伝統の技術を受け継ぐ職人たちの手作業によって作られている。それぞれのねぶたの表情や髪の流れ・着物の柄合わせに至るまで一つとして同じものはなく、それゆえ毎年多くの人々を熱狂させる。祭りの熱気と、出店でちょっと一杯を楽しむのもいいけれど、紙と灯りの芸術作品としての「ねぶた」を目を凝らして鑑賞してみてはどうだろうか。

ねぶたの起源は、諸説あるが七夕祭りの灯籠流しの変形であろうといわれている。

奈良時代に中国から渡来した「七夕祭」と、古来から青森のあたりにあった習俗や行事が一体化して祭りとなり、その後紙と竹、ローソクが普及されると祭りで灯籠を作るようになる。それが変化して人形やねぶたになったという考えが一般的だ。青森の中の地域によっても少しづつ違いがみられ弘前では「ねぷた」という名称で親しまれている。

巨大総合芸術作品「ねぶた」はこうして出来上がる

ねぶた師 竹浪比呂央

毎年30を超える大小のねぶたは、下絵を描いたのちに3ヶ月ほどかけて制作に移る。彫刻を作るがごとく、木材と針金によって躯体部分を造形。かつてはその全てを竹で行っていたというから驚きだ…!大きいもので約1000個もの電球を取り付ける電気配線や、躯体に紙をはって日本画の技法に基づいて墨跡、ロウ引き、絵付けをほどこし完成となる。歴史上の人物や神話をモチーフにすることも多いことから、時代考証も行われているそうだ。出来上がったねぶたを大人30〜40人で担ぎ上げて、ようやく私たちの目で見ることができるのだ。

2023年 NTTグループねぶた 「釈迦降誕」制作風景 北村春一作

デザイン、サイズ、立体感。そのどれをとっても他で見ることはできないだろう。しかもそのねぶたが祭りになると動き出す。この祭りの異常性にようやく気づいただろう。

どうしても祭りの当日にいけない、という方には青森駅からアクセスできる青森市文化観光交流施設「ねぶたの家 ワ・ラッセ」に行ってほしい。街の発展を見届けてきたねぶた祭の歴史や魅力を余すことなく紹介するとともに、一年を通じて祭り本番に出陣した大型ねぶたを間近で鑑賞することができる施設だ。ねぶたに触れられる他、祭りに参加しているかのようにねぶた囃子が流れる中で実物のねぶたをたっぷりと堪能できる。

ねぶたを自宅でも楽しむ

「KAKERA」NEBUTA STYLE 

美しく力強いねぶただが、毎年作られた作品はどうしても廃棄されてしまっていた。そこに着目したのが「NEBUTA STYLE (ネブタスタイル)」だ。大型ねぶたの和紙を1枚1枚丁寧にはがし取り、インテリア照明としてアップサイクルしたり、ホテルの障子などに利用している。開発においては、第一線のねぶた師と、多くのメーカーやデザイナー、アーティストなどとコラボレーションをすることによってねぶたに新しい価値が生まれている。

青森発の日本を代表するアートとして「ねぶた」を世界に発信していけば、ねぶた祭りがもっと盛り上がるだろう。世界中のミュージアムでねぶたをはじめとした祭りの文化や作品が展示されるとしたら、「ねぶた」を違った見方ができるようになるかもしれない。

福岡アートブックフェア「Pages」に行ってきた!〜後編〜

前編に引き続き、福岡アートブックフェア「Pages」について取り上げる。

主に3つのエリアに分かれて会場が配置される福岡アートブックフェア。メインブースである「余香殿(よかでん)」と「文書館(ぶんしょかん)」、飲食店のポップアップが集まる屋外の「Yummy Area」とそれぞれで雰囲気の異なる出展者が名を連ねており、会場の太宰府天満宮を散歩するようにアートブックフェアを楽しむことができる。

Yummy Areaで腹ごしらえ!

さて、ブースをぐるりと回ってちょっとお腹が減ってきたら、「Yummy Area」で腹ごしらえ。福岡をはじめとする九州地方の飲食店やフードトラックなどを中心に様々な飲食店が出店しており、お腹いっぱいでも立ち寄りたくなる。

南部食堂のおにぎり弁当。天日塩のおにぎりと鯖と大葉のおにぎりの2種が入っていた。(筆者撮影。)

福岡県福津市に拠点を持つ「南部食堂」では、手軽に食べられる季節のおにぎりがラインナップ。2種類の味を楽しめる竹皮包みのプチ弁当も人気。普段は昼呑み推しの食堂を営んでいて、地元の野菜などをふんだんに使った旬野菜をたっぷり食べれるごはん、スパイスをきかせたごはんを作っており、お惣菜のテイクアウトもできるそう。地元の店をアートブックフェアで知ることができるのも面白い。

そのほかにも、久留米市を拠点に出店形式でスパイスカレーを食べることができる「咖喱屋 納曽利(なそり)」、音楽フェスやイベントなどでもお茶を振る舞うカルチャー系茶屋「茶番」、春の温かい日差しにはもってこい!こだわりのアイスクリームを提供する「SCREAM」などの出店があり、筆者も後ろ髪を存分にひかれながら「Yummy Area」を後にした…!

体力もお腹もチャージできたところで、「余香殿」にまた戻ってみよう!

みさこみさこ/PALESTINE ART BOOK FAIR

個人での出展だった「みさこみさこ」さん。福岡を拠点にグラフィックデザイン、写真、編集、アート制作などの分野で活動している。象徴的な「PALESTINE ART BOOK FAIR」のフラッグは東京アートブックフェアに合わせて会場である東京都現代美術館の前でゲリラ的に行われた際のものを使用しており、数ヶ月経った今でもパレスチナの状況が悪化する一方であることを痛感させる。

みさこみさこさんのブース。書き加えられたPALESTINE ART BOOK FAIRの文字が。(筆者撮影。撮影承諾済。)

ブースでは、パレスチナが侵略を受ける前の美しい風景や生活を現地からレポートしている「聖地パレスチナ一人散歩」(菅梓)や、スイスを拠点に活動するグローバルなフェミニスト・コミュニティ「Futuress」が掲載してきた、“フェミニズム×デザイン”の視点で身近なデザインや社会の当たり前を世界の各地(本作ではトルコ・ノルウェー・アメリカ・インド・パレスチナが舞台となっている)で問い直す5本のエッセイを収録した「Design is for EVERYBODY/デザインはみんなのもの」、かわいいイラストをシルクスクリーンでプリントした“STOP GENOCIDE”のファブリックパッチなどが展開されており、こうしてイベントを楽しめることは当たり前ではないことを再認識させる。出展者のみさこみさこさんが丁寧に本の内容を説明してくれたことも印象的だった。

お次は世界を旅するデザイナーのブースへ

へきち

こちらは畳敷きの「文書館」で出展している、グラフィックデザイナー松田洋和とイラストレーター田渕正敏のユニット。2011年から主にアートブック制作を中心に活動をしている。まず驚いたのは、作品の数の多さだ。これ全部作ってんの?!ってところからはじまる。案内してくれたデザイナーの松田さんはJAGDA(グラフィックデザインの登竜門的なアワード)の新人賞を2025年に受賞する実力派。イラストレーターの田渕さんは鮮やかな青色のみを使用したイラストや絵画作品を継続的に制作しており一目で彼の作品だとわかる。

「アートブックフェアをめぐる旅行1 World Journey Around The Art Book Fair 1 NY, USA」−Hirokazu Matsuda 

「World Journey Around The Art Book Fair 1 NY, USA」はデザイナーの田渕さんがニューヨークのアートブックフェア「NYABF」に行った時のレポートを書籍化したもので、世界中にあるアートブックフェアの中から毎年1カ所決めて行き、購入した本の詳細や周辺観光についてまとまっている。さらにイベントに参加している出展者の分析や海外のアートブックフェアに参加するときの意気込みまで…!本に付属しているパスポート風カード、レプリカのチケット、おじさんのポストカードなどなどおまけもかわいい。そのほかにもまるで刺身のパッケージに入っているかのようなイラストZINEや、彼らが毎月開催しているイベントをまとめたレポートブックなど何時間あっても見足りない!

大盛況に終わった「福岡アートブックフェア Pages」。出展しているブースはもちろん、イベントに加えてアーカイブ展など盛りだくさんの内容となっており、遠方から尋ねてくる人(韓国や中国、金沢からきているお客さんもいた!)が多いのも納得だ。本をじっくり眺めたい人、ワークショップやイベントも合わせて楽しみたい人、おいしいご飯が食べたい人(笑)にはもってこいのアートブックフェアであった。来年はさらに面白い出展者に出会えることを願って、このレポートを締めくくりたい。

今週読みたいアート。芸術の舞台裏を描く漫画編 Vol.2

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

梅雨真っ只中のこの季節。風邪もひきやすいし、なかなか外出して楽しむ気分でもないかも。そんなときはお家のなかで読書はいかが。といっても今回紹介するのはアートに関する漫画本。芸術業界の裏側を覗き見たり、作家の葛藤を垣間見たり。きっと創作意欲も湧いてくること間違いなし。

◯『ギャラリーフェイク』細野不二彦・著(小学館)

「ギャラリーフェイク」1992年、細野不二彦・著(小学館)出典:小学館公式ウェブサイトより引用

アートコミックの金字塔であり、必読の書。主人公は雁作専門の画廊、「ギャラリ-フェイク」のオ-ナ-、藤田玲司。古今東西、あらゆる美術作品の知識はもちろん、時事問題、社会問題までをカバーする教養と情報の数々に圧倒されつつも、サスペンス仕立ての物語にグイグイ引き込まれる。基本的には1話完結なので、スキマ時間に読みやすいのもGOOD。現在も連載中の不朽の芸術書である。

◯『In: The Graphic Novel)』ウィル・マクファイル著(Mariner Books)

「In: The Graphic Novel」2021年、ウィル・マクファイル著(Mariner Books)出典:ウィル・マクファイル公式ウェブサイトより引用

ザ・ニューヨーカー誌で活躍する有名なデザイナー、ウィル・マクファイルによる最初の作品(グラフィックノベル)だ。こちら、まだ邦訳されていない作品ながら、ジワジワ注目を集めている一冊。2022年には「アイズナー賞」にノミネートし、2024年にはフランス語に翻訳された作品を表彰する「ACBDコミック賞」のグランプリを獲得。主人公は、作者を投影したかの様な、人とつながることができない若いイラストレーター、ニック。その人生の苦痛と孤独を描き出すのだが、ニックの内面に変化が現れたたとき、モノクロームのページから突如として現れるカラフルな色彩に感動する。イラストレーターという仕事が描き出す詩的な世界をとくとご覧あれ。

アートから見る大阪・関西万博

2025年4月13日に開幕した「EXPO 2025 大阪・関西万博」。“いのち輝く未来社会のデザイン”をテーマにかかげ、見たことのないような新しい万博を関西・大阪から発信する。

どことでもオンラインでつながることのできる現代において、あえて万国博覧会をやる必要ってあったっけ?いつの時代にも万博は国の垣根を超えた創造力とワクワクを提供してくれた。この万博が様々な人が活躍できる未来の社会づくりのきっかけにとなるように、アートやデザインの視点から見るBAM流万博の楽しみ方を探っていこう。

大阪・関西万博の顔「ミャクミャク」の誕生秘話

大阪・関西万博公式キャラクター「ミャクミャク」

みなさんは「ミャクミャク」についてどれくらいご存じだろうか?特徴的な赤と青のカラーリングと、ちょっと奇妙なシルエット。開催前からじわじわと人気が出始め、万博会場で売られているミャクミャクの人形はたちまちソールドアウトになっているそう。そんなミャクミャクを作ったのが神戸市出身の絵本作家・山下浩平だ。

mountain mountain名義でグラフィックデザインを、本名の山下浩平として絵本や児童書の制作を行っており、2021年より募集されていたデザイン案の公募によって選出された。

すでに決定していたロゴマークはそのまま顔として、体は「水の都」の大阪にちなんで青に、腕からはポタポタしずくが垂れてくるようなデザイン。山下さんは1970年に開催された大阪万博の象徴でもある「太陽の塔」が大好きで、ミャクミャクを見てどことなく感じる奇抜さは岡本太郎譲りかもしれない。細胞の分裂や水の流れのように、様々な形に変化できるところは、キャラクターとしての面白さだけでなく多様性も感じさせる。

サンリオキャラをはじめとするキャラ同士のコラボレーションや二次創作などによってミャクミャクはネットミーム化しておりX(旧ツイッター)では毎日のように姿を見かける。なぜそこまでミャクミャクが人々を魅了するのだろうか。

ルーツは江戸時代?奇妙さがフックに

一度見たら忘れられない姿のミャクミャク。たくさんの目を持ちポタポタと雫が垂れる様子は一見すると妖怪のようにも見える。日本において妖怪を愛でる行為が広まったのは江戸時代からだそうだ。万物神が宿ることが前提の日本思想。神が宿るとされる「もの」を大切にする過程で妖怪というものがいつしか生まれたのだろう。しかし江戸時代中期に入ると、妖怪にまつわる伝説や信仰が“実は嘘なんじゃないか?”と信じられなくなっていった。(逆を言えばそれまでは本気で信じられていた、ということになる)当時の幕府による政策も相まって、妖怪は一気にトレンドに浮上した。子供用のおもちゃや双六などから、大人向けの絵本や浮世絵、芝居などに多く妖怪が登場していき、妖怪のキャラクター性が確立していった。

一勇斎(歌川)國芳『源頼光公舘土蜘作妖怪圖』(天保14[1843])–国立国会図書館蔵

話を現代に戻そう…。ピカチュウ、マリオ、ハローキティなど世界でも有数のキャラクター大国である日本。ミャクミャクを愛でてしまう心は日本人ならではの、奇妙を受け入れてKAWAIIに転換する不思議な性質が作用しているのかもしれない。

BAM流万博の楽しみ方

独創的なパビリオンを目的に大阪・関西万博に訪れる人も多いだろう。しかし実はパブリックアートの宝庫でもある。国や地域、民族など、多様なバックグラウンドを持つ国際的なアーティストによるパブリックアートが会場の各所に展示され、世界各国の芸術作品を通して、来場者同士での対話や交流を図ることを目指している。

チェコ・プラハを拠点とするSubfossil Oak s.r.oが手がける「文明の森」は、世界でも珍しい樹齢6500年のオークの亜化石で作られた森を舞台にした古代の森のインスタレーションで、大阪・関西万博の参加国それぞれに1本ずつ捧げられている。130本以上の希少な樹木が展示され、大きな森を作るというコンセプトのこちらの作品は私たちがこれまで土地を切り拓き、あらゆる場所で叡智と文化を産みながら営みを続けてきた人間とそれを見守ってきてくれた自然との対話のようにも感じられる。パブリックアートはそのほかにも計21作品が会場内に展示され、会期中いつでも見て楽しむことができる。

Forest of Civilizations(文明の森)–Subfossil Oak s.r.o

ここまでは万博の華やかな側面ばかりを伝えてきた。しかし海の外を見れば連日の不安定な国際情勢がニュースを騒がせ、大阪府知事らによる市民の賛否両論を押し切り万博開催を断行したことなど、問題も山積みだ。開催前に話題になった会田誠によるミャクミャクのパロディ作品は大阪・関西万博の負の部分を思い起こさせる。大きなイベントにはそれ相応の負荷がかかる。会田誠以外にも批判的な眼差しを向け続けるアーティストたちも多く存在する。それは、アートが私たちに批評的な視野を与えてくれるからかもしれない。

私たちの未来は明るいのか、それとも…。そんな岐路に立つ我々に新たな発見を与えてくれる大阪・関西万博は、2025年10月13日までの開催だ。ぜひ体験してみてほしい。

今週読みたいアート。アーティストによる書籍編 Vol.1

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

6月。梅雨の湿気や新年度の疲れが溜まって気が滅入っている人も、落ち着いた日々を過ごせた人にも、刺激的な読書で印象深い初夏にしてみるのはいかがでしょうか。今回は「アーティストによる名著」をご紹介。作品ばかりじゃなく、作家本人による言葉には面白い部分がたくさんある。インスピレーションを受けること間違いなし。

◯『自分の中に毒を持て: あなたは”常識人間”を捨てられるか』岡本太郎・著(青春文庫)

「自分の中に毒を持て: あなたは”常識人間”を捨てられるか」1993年、岡本太郎・著(青春文庫)出典:青春出版公式ウェブサイトより引用

大阪・関西万博の開催で、1970年当時の万博の映像を目にする機会も多いこの頃。当時から現在まで絶大なるインパクトを残すのが『太陽の塔』。作品と同じく、亡くなって約30年が経った今もなお存在感を発揮しているのが作者の岡本太郎だ。「芸術は爆発だ」の名言に代表されるように、言葉の訴求力も高い岡本。「無難な生き方ばかり選んでないか」「自分の殻を破ってみないか」「自分の中に毒を持ってみようよ」そんな意図が込められた刺激的で人間愛に溢れた岡本の金言の数々に痺れる。チルが求められる時代にこそ必読……いや必毒の一冊。

◯『グレン・グールド著作集』グレン・グールド・著/ティム・ペイジ・編/宮澤淳一・訳(みすず書房)

「グレン・グールド著作集」2025年、グレン・グールド・著/ティム・ペイジ・編/宮澤淳一・訳(みすず書房)出典:みすず書房公式ウェブサイトより引用

カナダといえばマーシャル・マクルーハンなどメディア論・メディア研究の大家を輩出した国でもあるけれど、同じく20世紀に活動したカナダの知識人として、グレン・グールドを推したい。ピアニスト、グールドは22歳で米国デビュー。若い頃より名声を欲しいままにしたが、64年のリサイタルを最後に突如として舞台から退き、以後はレコードと放送番組のみで演奏活動を続けた一風変わった存在だ。クールな佇まいに、独自の解釈を施した演奏から、いまだにファンも多いグールド。音楽論やメディア論をめぐって文筆も行なう思想家としての一面も持ち合わせる。35年ぶりとなる新訳で、彼の辿った軌跡と深い思考の数々を追ってみてほしい。伝説の「クラシック」ピアニストが如何に「現代」を鋭く分析していたかがわかるはず。

ジョン・カフカ:意外なる文化的ルーツと、イラストの魅力に迫る。【前編】

豊かな色彩感覚と独特な構図、繊細なタッチが織りなす唯一無二の世界観。現代的なイラストレーションの美しさを更新し続ける韓国のイラストレーター、デザイナー、ジョン・カフカ。SNSの投稿で注目を浴びて以来、ここ日本でも個展の開催やAdoのカバーソングMVを手掛けるなど、活躍を目にする機会が増えた。ジョンはよくある英語名から、カフカはあのドイツの作家フランツ・カフカから頂戴したという名前からして、ミステリアスなイメージも多い彼だが、アーティストになるまでの来歴やこれからの展望など、気になることを根掘り葉掘り伺ってみたインタビュー記事の前編です。

花死

ジョン・カフカがアーティストになるまで。

B- 本日はよろしくお願いいたします。昨年の日本での個展「DECO」(@ハラカド)「閻羅-KARMA-」(@ミカン下北沢)はいかがでしたか?

John Kafka-東京には観光でよく行っていたのですが、個展を日本で開催したのは昨年が初めてでした。日本は展示の文化も活発で、ファンの方との交流も楽しかったです。自分の作品を気に入ってもらえたことがとても嬉しく、これからも活動を続けたいと思う原動力になりました。日本はサブカルチャーの聖地ですし、実は今年も日本で予定していることがあるんです(詳しくは記事後編で)。

B- 普段はどんなことをされているんですか?

John Kafka- フリーランスでイラストレーターとして活動しつつ、絵の講師として授業も受け持っています。

B- 先生なんですね! そんなジョンさんのこれまでの来歴を聞いてもいいですか?

John Kafka- 絵に興味を持ったのは高校生のときです。最初は趣味としてのスタートでした。美術大学を卒業して、ウェブデザインや出版・編集の仕事に関わるなかで、自分の画集を出したいという思いが強くなったんです。本格的に作家活動を志したのは3年ほど前で、 ゲームイラストや広告イラストのお仕事をしつつ、今回の展示を機に念願だった画集も出版することができました。

B- そもそも、アーティストを志すきっかけは何だったのですか?

John Kafka- 絵は昔から好きだったのですが、職業にするつもりはなかったんです。でも以前、ある作家さんの画集の表紙を手伝った際に、世界中の人に自分の絵を見せられるってすごいなあと思ったんです。素敵な絵を描いて出版できるって良いなと。その方は今も応援してくれる恩人のような人で、その時に感じた“画集を出版したい”という思いがきっかけかもしれません。

花火 ※アーティストとして初期の頃の作品写真

B- 人気が出るきっかけはありましたか?

John Kafka- うーん、自分としてはまだ人気があるとは思わないですが、有名なアーティストの方々と一緒に絵を描いたり、自分の好きなものや伝えたいことをみんなが見つけてくれたり好きになってくれたりしたときに、少しだけ実感します。

B- これまでどんなポップカルチャーに触れてきましたか?

John Kafka- 普段の興味は、映画、音楽、小説などの本、詩(俳句)です。王家衛(ウォン・カーウァイ)監督や黒澤明監督の映画作品が好きで、特に『羅生門』や『夢』がお気に入りです。King gnuやAdoなどのアーティストにも、歌詞や創作方法といった面からもとてもインスピレーションを受けています。

B- では、ご自身の創作活動に影響を与えたアーティストはいましたか?

John Kafka- 絵に関しては、20世紀初頭に活躍したアメリカのイラストレーター、J・C・ライエンデッカーの影響が大きいです。日本ではイラストレーターの米山舞さんやタイキさんが好きです。それから米津玄師さんです。ひとつにとらわれない自由さに影響を受けました。

B- ライエンデッカーの影響も意外ですが、日本のカルチャーへの造詣の深さにも驚きです。作品制作のプロセスについて教えていただけますか?

John Kafka- 資料・参考文献をたくさん探すところから始めます。自分の得意な領域とどう混ぜられるかラフを練り、色を乗せながら、その都度方向性を決めます。自分はレイヤーはあまり使わないですね。最後に補正とシルエットチェック。その時、未熟な部分や修正すべきところがあれば、その都度取り除いて修正を重ねています。

制作の“悩み”と喜び。

B- ジョンさんはデジタルが創作の中心だと思いますが、アナログではなくデジタルを選んだ理由や、違いを感じる瞬間はありますか?

John Kafka- 油絵や水彩画ももちろん好きです。SNSも映像も簡単にアプローチできるのがデジタルで、自分もコミュニケーションのためにデジタルアートを多く制作しています。でも、アナログとデジタルは一緒に制作していくべきだとも思います。デジタルの上にアナログを貼るとか、 並行していくことが大事なポイントだとも思うんです。

B- 二つに分けずに同時に制作していく大切さですね。ちなみに、昨年のハラカドの個展「DECO」では、メタル製のキャンバスに作品が再現され、デジタルアートがフィジカルアート(MCA)になっていました。その垣根の超え方は、どのように感じましたか?

John Kafka- メタルキャンバスってこんな使い方もあるんだと、実物を見てとても良かったです。自分の表現が未熟で完全に生かせなかったんじゃないかと思うくらい魅力的な素材ですし、次やるときはもっと上手くやろうと思っています!

B- 制作以外で熱中していることはありますか?

John Kafka- 趣味を楽しむ時間をあまりとれていないのが残念なのですが、小説や詩集などの本を読むことや、アクセサリーが好きです。リックオウエンスやコムデギャルソン、グッチ、ヴィヴィアンウエストウッドなどなど。

B- そうなんですね! たしかに、人物の服装やアクセサリーなどデザインもジョンさんの作品の魅力のひとつですよね。ご自身のお気に入りの一枚を教えてください。

John Kafka- 「カルマ」という作品です。これは反省がテーマの作品で、絵を描きながら過去を振り返ってみたんです。自分はこれまで、キャリアに役立つものや興味のあるものだけをテーマに、誰かのために絵を描いたことがありませんでした。 家族や友人や周りの人を表現する絵を描いたことがなかったんです。“自分だけのために絵を描いていたんだな”と反省をしました。実は、母親が仏教徒で、それに関連する本を読んだことで、コンセプトの方向性が決まりました。「カルマ」とは業という意味で、因果を示すものです。そして自分の反省の気持ちやメッセージを投げかける作品になりました。

カルマ ※自身のお気に入りの作品写真

B- AdoのカバーMV、Eveの“音楽を絵にする”・トリビュート企画アルバム「Under Blue」への参加など、コラボレーションはいかがでしたか。

John Kafka- 個人的にファンアートを制作するほどすごく好きなアーティストだったので、とても嬉しかったです。ファン心を表現した絵になっていると思います!

B- MV、ゲームイラスト、個展に向けた作品制作など、それぞれ違いはありますか?

John Kafka- 昔はそれぞれの制作を分けて考えていたけど、大きな違いはないかな。ゲームイラストに関しては注文されたものだけを制作しています。コラボ制作は、ミーティングでコンセプトを話し合うところからはじめるのが、普段の制作とは異なりますね。

B- 制作過程の中で、行き詰ったことや大変だなと感じた体験や、逆に嬉しい瞬間はありますか?

John Kafka- 作品ごとに大変さを感じます。いつも大変だけれど、絵も消費していくので、自分の絵に見飽きることもあります。なんというか…アイデンティティが停滞してしまう感じ。自分のスタイルを維持してそのままだとマンネリ化してしまうかもしれないし、かといってそこから外れると自分じゃないような。そういう難しさを感じます。嬉しい瞬間としては、コラボレーションをしたときに気に入ってもらえることです。それから、「カルマ」を展示した時、日本のお客さんが家族で来客して鑑賞して下さって。“ジョンさんのおかげで絵を始めた”と言ってくれたとき。とても感動したと同時に、自分の活動により重みを感じた瞬間ですね。

後編へ続く。

今週読みたいアート。入門書編vol.2

4月は出会いの季節…。今一度、アートの世界と出会ってみよう。ということで今月フォーカスするのは「入門書」。ひとくちに美術といっても様々な切り口があるけれど、「よく分からない」の意見も多い現代アートについての書籍と、美術史に関する意外な一冊をご紹介。

◯現代アートとは何か/小崎哲哉・著(河出書房新社)

「現代アートとは何か」2018年、小崎哲哉・著(河出書房新社)出典:河出書房新社公式ウェブサイトより引用

現代アートを説明する文章は数あれど、どんな問題や議論を孕んでいるのか、「アートワールド」と呼ばれる世界が如何なる輪郭をもつのか、詳細に紹介しているのが本書だ。「現代アートを司るのは、いったい誰なのか?」そんな問いから、アートの動機や裏側を軽やかに暴いていく。現代アート界の内幕を描き、カンヌ国際映画祭パルム・ドール(最高賞)も受賞した映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(監督:リューベン・オストルンド)や、『現代美術史』(山本浩貴・著/中公新書)も併せて読むとさらに理解は深まるかもしれない。

◯ 改訂版 西洋・日本美術史の基本 美術検定1・2・3級公式テキスト/美術検定実行委員会・編(美術出版社)

「改訂版 西洋・日本美術史の基本 美術検定1・2・3級公式テキスト」2014年、美術検定実行委員会・編(美術出版社)出典:美術出版社公式ウェブサイトより引用

少し異色の本を。こちら「美術検定」という美術検定協会主催の検定試験の公式テキスト。美術の知識や教養をテストするための教科書なのだが、図説や内容のカバー範囲が幅広く、美術の入門書としてもバッチリ。特に日本と西洋両面を抑えており、各時代の要点を掴めるところがおすすめ。TOEICの単語帳から英単語を勉強してみるように、このようなテキストから美術を学んでみるのもいいかも。ついでに毎年開催されている試験を受けてみては? 

それでは、みなさまのより楽しいアートライフを祈って、また次週!

初のアート展「冒険につき」──高野洸が選んだ“もうひとつの舞台”

2009年、『天才てれびくんMAX』が開催した全国オーディションを見事に勝ち抜き、『Dream5』として芸能界に名乗りをあげた高野洸。『妖怪ウォッチ』のエンディングテーマ、『ようかい体操第一』で一世を風靡した。それからはや10年__。子役からの大成は難しいという一種の定説を、彼は颯爽と飛び越えてみせた。

かつて「ようかいでるけんでられるけん」と踊っていた青年は、今や、音楽、ダンス、舞台、映画、ドラマと、ジャンルを飛び越えてその才能を遺憾無く発揮している。そしてその才能は、アートの形をとっても、怯むどころか一層輝いているから、もはや嫉妬すら覚えない。

アートブランドであるGAAATとのコラボレーションにより実現した、高野洸にとって初めてとなる個人展「冒険につき」1

会期は2025年5月22日から5月28日の7日間で、高野洸の描いた水彩画の原画をはじめ、アートブランドGAAATとのコラボレーションで実現したMCA(メタルキャンバスアート)作品群を間近で観ることが出来る。会期中はこの機会に限定制作された作品をオンラインにて抽選販売も実施中とのこと、こちらも要チェックだ。

そして2025年5月23日、本展示を祝したトークイベントが開催。今回は定員80名を遥かに超える応募があったとのことで、来られなかった方々に、当日のお話の一部をQ&A形式でお届けする。

高野洸「冒険につき」トークイベントの様子

Q – そもそも絵を描いたり、アート活動を始めたきっかけはなんだったのですか?

A – 小さい頃から絵を描くのが好きで、自由帳に描いたりしていました。小学生の頃はクラブ活動でイラストクラブに入っていて、授業中とかも描いたり(笑)、あとは家族でお絵描き大会をやったりしていましたね。

Q – どういった気持ちの時に絵を描きたくなりますか?

A – 仕事させてもらっている中でも、例えば絵に触れた時などに、より描きたい欲が高まると思います。

Q – 美術館に行くとか、そういうことですか?

A – そうですね。美術館の展示企画とかはSNSで見つけて行くことが多いです。普段はインドアなんですけど、そういった場所に足を運ぶこと自体は全然苦ではないですね。

Q – 最近行かれた展示会や美術館はありますか?

A – 国立西洋美術館での、「西洋絵画どこから見る」に行きました。

Q – 高野さんにとって、芸術やアートを鑑賞したり、ご自身で描かれたりという事はどんな意味を持ちますか?

A – 好奇心を満たしてくれるものですね。あとは、感銘を受けたりするものです。行ってよかったなと思うような。そうした絵は、印象深く焼き付いていますね。

Q – 好きな作家やアーティストはいますか?

A – 鳥山明です。僕はゲームがすごく好きで、ドラクエが好きなんです。子供の頃ドラゴンボールも毎週観ていて、この二つを本当に同じ人が描いているんだ!と感銘を受けました。自由帳とかにはドラゴンボールの絵を描いていましたね。あとは生で観たモネの睡蓮は本当に凄かったです。印象派も、写実主義も、色味などに惹きつけられる作品は凄く好きです。あとは昔の人物画に出てくる人の纏っている服装を見ることも好きですね。

2025年1月〜3月にかけて、大阪・宮城・愛知・福岡・東京で開催されたイベント【皆様が激写したご当地写真を高野がデッサンしながらティータイム】で描かれた作品。イベント中では完成していないので今回が完成作品初お披露目。大阪の回で描かれた写真の撮影者がトークイベントに参加。イベントでは、迷いなくスラスラと描き進めていったそう。

Q – ご自身としては初のアート展ということで、やろうと決めたきっかけはありますか?

A – 別のイベントで水彩画を描いていて、それを展示してみたいとは思っていたんです。あとは、最近本当に絵が好きで、特に絵を描く時間とか、美術館に行く時間がたくさんあったんです。そういったことがあって、個展を開くのは一つの目標というか、夢でした。

Q – 今回、高野さんに描いていただいた原画が、MCA(メタルキャンバスアート)という、アートブランドGAAATの手掛けたオリジナルアート作品に生まれ変わりました。金属製のキャンバスに独自の技術加工を施すことで、長く美しさを保つように作られています。特徴としては、光の角度によって見え方が変わったり、立体的なテクスチャーに加え、重厚感や耐久性を備えています。実際にご覧になって、いかがでしたか?

A – あまり見たことのないもので、生で初めて見た時に本当にすごいなと思いました。僕の描いた一個一個の線を反映してくださったり、立体感や鮮やかさ、メタルならではの良さがあって素敵に仕上がったと思います。プリザードフラワーが凄く好きなんですけど、同じように、ずっと長持ちしてくれるのも嬉しいポイントですね。

Q – 水彩画に関しては、高野さんが3月まで行っていたツアーの会場で、ファンの方が撮影した写真の中から、会場ごとに1枚ずつ選んで描かれていたものですが、苦労した点や、こだわったポイントはありますか?

A – 素敵な写真ばかりだったので、苦渋の選択というか、どの会場も写真選びが大変でした。「愛知」に関しては、行きの新幹線で、雪化粧の富士山を見ることができて、描きたいと思いました。ちょうど用意してあった絵の具の中に銀色のものがあったので、それも追加で入れて、かなりキラキラした絵になったかなと思います。

「25.02.23_愛知」ライブツアー中に行ったイベント「皆様が激写したご当地写真を高野がデッサンしながらティータイム」にて、愛知付近の写真をハッシュタグで募集し、選んだ1枚をイベント内でデッサン。その日、2/23は富士山の日であったこともあり、この写真をセレクト。上空からの富士山も、大きくて神々しい。初めて水彩絵の具のシルバーを使ってみました。

Q – ツアー中ということもあって、時間が限定されている中での創作だったと思いますが、大変でしたか?

A – そうなんです、すごく難しくて。1枚に掛けられる時間が30分程で、しかも水彩もかなり久しぶりだったので。鉛筆の線、結構筆圧が強かったのか、残るなっていう印象はありましたけど、それも意外と悪くはないかなと思いました。

Q – 今回のアート展のために描いていただいたデジタルアートの作品では、コンセプトや作風は何か意識されていましたか?

A – タイトルを「冒険につき」にしたいなっていうところから始まって、それに伴ってイメージして描いていきました。

Q – この中でも一つ選んでいただいた作品がこちらの「はじまり」ですが、どういった作品ですか?

A – RPGの世界観が好きなので、道が続いて広がっていく絵の中で、同じようにみなさんの中で想像が広がるような絵を描きたいとは思っていました。ただ、とりあえず木を描き始めたらかなりでかくなってしまって、それが逆に面白い感じになったと思います。

「はじまり」はじめに完成しました。キャンバスをダークグレーに染め、白ペンを取り、何も考えず描き出したでかいと、描きたくなって描いた城。一番しっくりきた空と雲の色。

Q – 全体的にはどのあたりが難しかったですか?

A – 空は悩みましたね。雲のニュアンスが難しくて、何度も描き直しました。背景の色との兼ね合いもあって、細かく塗るかっていうところを、あえて雑に、一番太いペンでバッて描いたりもしました。デジタルアートだと、この細かいドローイング次第で印象が全然変わってしまうので、何百回と試して、良いニュアンスが出たものを使っています。「冒険へ」に関しては、背景が黒いところも、理想の黒になるようにかなりこだわりました。枠外は暗めだけれど、若干明度を上げて、ダークグレーのような感じにして、洋服の部分は若干カーキに近い黒を使いました。MCAでは、その辺りの微妙なニュアンスも再現されていたのでよかったです。

「冒険へ」最後に描いた一枚。僕のマスコットキャラクターであるアドラと一緒に、アートの冒険へ。

Q – ご自身の絵を通して、特に何か伝えたい事はありますか?

A – たくさんの方に絵に関心を持ってもらいたいです。僕の絵を観て、少しでも絵に興味を持つ人が増えたらいいなと思います。

Q – それは高野さんご自身に興味を持ってもらうというよりは、「絵」というものに対して興味を持ってもらうということですか?

A – そうですね。自分の活動を通して、少しでも「絵」の面白さっていうのが広まっていけば嬉しいです。

Q – 今後どんなものを描きたいですか?

A – デジタルアートだったり、自分の個性がどこかで出ているものがいいなとは思っています。色々とチャレンジもしたいのですが、水彩画や油絵、デジタルアートだったり、デッサンなど、色々な描き方を模索しつつ、描きたいものを描いていけたらと思います。

Q – あくまで楽しくというか。

A – そうですね。その楽しさを、多くの人に知ってもらえたら嬉しいです。

Q – 最後に、会場に来られなかった人の為に何か一言お願いします。

A – 今回はトークイベントということで、話がメインという部分はもちろんあったかもしれないですが、絵は、実際に観ることで想像を膨らませて楽しんでもらえるものだと思っています。特に今回お話したこととしては、MCAの素材もすごくいいですし、水彩画も、MCAと並べてみると逆に良さが分かったりして楽しいと思うので、是非会場に来て、間近で作品を観て頂けると嬉しいです。僕の作品を観てどう思うかというところは、皆さんに委ねたい部分です。色々と想像を膨らませたりしながら、純粋に楽しんで貰えたら嬉しいです。

型にはまらず、縦横無尽にその才能を発揮している高野洸。かつての「妖怪ウォッチの人」というイメージは、もはやとうに薄れつつある。彼は、昔、ではなく、間違いなく今を生きている。そして、27歳の才能あふれる凛とした姿は、その視線の先は、来る未来を、楽しげに、しかし確実に見つめている。高野洸の今後の活動から目が離せない。




会期中はオンライン抽選販売を開催!

【皆様が激写したご当地写真を高野がデッサンしながらティータイム】のイベントにて、制限時間がある中で生まれた6点の「水彩画の原画」に加え、
「水彩画の複製Metal Canvas Art」、さらに「『冒険につき』」をテーマに書き下ろした新作4点」を
加えた、全10作品を抽選販売いたします。

受付期間:2025年5月22日(木)13:00 ~ 5月28日(水)23:59
下記URLから詳細をチェック!お見逃しなく!

抽選販売特設ページ

  1. 高野洸 × GAAAT アート展『冒険につき』
    2025年5月22日(木)〜 5月28日(水)
    ※開場時間は日程によって異なります。
    5/22(木): 13:00 – 19:00
    5/23(金)〜 5/27(火): 12:00 – 19:00
    5/28(水):12:00 – 17:00


    BABY THE COFFEE BREW CLUB
    東急プラザ原宿「ハラカド」3階 GAAAT ギャラリー
    〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目28-6 キュープラザ原宿 3F

    ↩︎

見えない顔、見える感性 – ORIHARAが紡ぐ人間の複雑さ 【後編】

強さの奥にある儚さや、意味ありげな表情。全体を覆う毒々しい雰囲気の奥に垣間見えるのは、悲哀なのか、一種の諦観なのか。ORIHARAの繊細なタッチが織りなす繊細な描写は、観る者に何かを訴えかけてくる。細かなニュアンスが全体の印象を作り上げるといういわば正当な順序からちょうど逆転するように、作品を前にして感じるファーストインプレッションを、細部の微妙な表現により裏切り、解体する。人間は複雑な生き物だ。人一人を、イラストというカタチで真摯に描こうとするORIHARA。相反する要素を、なんら矛盾なく共存させてしまう彼女の仕事ぶりは、むしろ正当であり、それ故に末恐ろしくもある。Adoのイメージディレクターも務める彼女は、開催を間近に控えた「OSAKA INTERNATIONAL ART 2025」にて個人制作としては初となる展示を実現。イラストレーターやイメージディレクターなど、型にはまらない彼女の作家としてのあり方、その精神性に迫るインタビューを前後編でお届け。

私の肖像

B- イメージディレクターとしての仕事では、他人に入り込む感覚だと思うのですが、自分がブレるというか、自分との境界が曖昧になるような、そういった瞬間はありますか?

ORIHARA- 自分のことを考える時間が少ないというのはあります。昨日食べたもの何一つ覚えていないのに、他人の話は全部覚えているみたいなことはありますね(笑)。

B- それはちょっと休んだ方がいいかもしれないですね(笑)。

ORIHARA- 元々自分の感情を外に出すのは得意じゃないというか、自分の感情を作品にして誰かにぶつけることへの価値というのが測れていなくて、この作品を出す価値ってなんだろう?この作品を表に出すことによって、誰にとってなんの意味があるのだろう、とか考えますね。同じ作品でも出す時間によって価値が全然変わってきてしまったりもするので。

B- なるほど。ご自身の話で言うと、多くの人がORIHARAさんの作品を一度は目にしたことがあると思います。そんな中で、顔出しはされていないじゃないですか。普段の自分と、一人歩きしていく「ORIHARA」との乖離を感じることはありますか?

ORIHARA- それは結構あると思います。自分のことを裏方(職人)だと思っているので、SNSで何かを多くを語ることはなかったのですが、それで実際に人と話すと、「もっとミステリアスで怖い人だと思っていました」って、よく言われます。実際の私がどうかは置いておいて、そういうイメージを受けてしまっているところには、結構衝撃を受けました。結局リアルで話していても見せる一面によって人の印象は全く変わってしまうので、それはそれで良いのかな。本来の自分との延長線上の話だと思っています。

B- そうした認知度の高さの中で、作品の特にどんな部分を見てもらいたいですか?

ORIHARA- イメージディレクターとしては、大きく出ているその人の一面以外の部分を届けたいです。すごく笑っている人の中の怒りを伝えてあげたい。その人に脆い部分があることを、その人が人間であることを伝えたいっていうような気持ちです。でももちろんどんな感じ方でも嬉しいですよ。

B- 単純にいいなみたいな。

ORIHARA- そうです。シンプルにこの衣装可愛いでも全然いいし、この髪型にしたいとかでもいいし、楽しんでくれたらやっぱりそれが一番嬉しいですね。

OSAKA INTERNATIONAL ART 2025展示作品 「narcissism」

自己批判によって見えてくる「幸せ」のカタチ

B- 今年開催される「OSAKA INTERNATIONAL ART 2025」では、初の個人展ですね。イメージディレクターというより、イラストレーター色の強い作品になるんですか?

ORIHARA- そうですね。普段はその人個人をすごく見つめて、その正解を拾って出力するみたいな、制約の中での制作だったのが、突然自由にとなると、普段のプレースタイルからかなり変わるので、苦労しました。そこの境界があやふやな仕事はたくさんありますが、今回は特にイラストレーター色が強いというか、自分とは何かみたいなところに行きつきました。ある種自分のイメージディレクション的な側面もあったかなと思います。

B- なるほど。内省というか、自分を見つめて。

ORIHARA- こういう感情が私の中にあったな、とか、このようなものになりたかった、こういう風なものが私の現実であるとか、自分に置き換えてちょっと潜ってみたかなと思います。

B- なにかそれは他人に近づくよりもカロリーを使うような気がするのですが、そのあたりはどうでしたか?

ORIHARA- たくさん怒ったりたくさん泣いたりできましたね。すごく貴重な機会だった気がします。あんなに正当な理由で自分で自分に怒ったりしていいんだっていう。

B- 例えばどういった感じですか?

ORIHARA- 例えば、小さい時に心に残った作品をみて「なんでこのシーンに私は共感したんだっけ」「それって一種の自己愛的なものが働いているのか」「なんでこのシーンが嫌いなんだっけ」というふうに。自分の好きなものと自分が受け入れられなかったものを全部強制的に一度向き合って考えました。

OSAKA INTERNATIONAL ART 2025展示作品 「衣装ラフ」

B- 相当しんどい作業ですよね。それでも自分を見つめ続ける、そのエネルギーの源はなんですか?

ORIHARA- 幸せになりたいというごく当たり前の感情があるのですが、どうやったら幸せになれるかって考えるじゃないですか。その時にかなり受動的というか、幸せにしてもらう方法ばっかり頭に浮かぶことに気がついて。例えばペットを飼うとか恋人を作るとか、相手に優しい言葉をもらったり癒してもらったり、「何を施してもらえるか」を考えてしまうことに気づいて。

B- そうですね。

ORIHARA- ということは幸せになりたい時に、私たちは他人を頼る。自身は何も努力する気がないけど、幸せになりたい。幸せになりたいと言うけれど、自分は何もしたくないって、道理にかなわないじゃないですか。寂しいから友達と遊びに行くのも、じゃあ友達に孤独を埋めて欲しいってことでもあるわけで。

B- 確かにそういう面はありますね。

ORIHARA- 「それって一緒にいる友達は楽しいの?いつまで一人だけ幸せになろうとしてるのかな。そんなことを繰り返していて、これからも繰り返すのかな?」と考えた時に、もう自分が頑張るしかない。良い人間になりたい。その為には今の自分のダメなところはちゃんと向き合わなきゃいけない。ちゃんと自分のことも責められないといけない。そういった考えが、仕事でも、イラストでも少し出ているかもしれないです。できているとはまだ思えないんですが。

B- もし仮に、自分を徹底的に見つめ続けて、完璧人間みたいになるとするじゃないですか。そうなったらORIHARAさんの作品ってどうなるんですか?作れなくなってしまうのか、

ORIHARA- どうなるんだろう。でもその先が見てみたいし、何があってもずっと描いているとは思うんですよね。幸せであろうと努力をしているということは、いつだって転げ落ちる可能性を自覚しているということで。良き人間になろうとしているっていうことは、根っこが本当はもっとだらけたい人間であるっていうことで。完璧なことを、息をするように、基礎代謝みたいにできる人間じゃないってことを知っているから、きっと何かしらいろいろな作品を作るんじゃないかなと思いますね。

B- 諦めることって多分簡単じゃないですか。楽しようと思えばいくらでも出来るというか。

ORIHARA- 私の場合は、SNSのフォロワーや、ファンの方を絶対裏切っちゃいけないよねっていう気持ちでなんとかやれています。

B- ある種巻き込んで。

ORIHARA– 一種の証人ですね(笑)。観て頂いている方や支えてくれている人がいるから、もっと頑張らないといけないと思います。ただ、いつでもダメになれるっていうのは本当にそうで、効率が悪いからとか、やらない理由なんていくらでも出てくる。だから言質を取っていただく。このインタビューもきっと私の言質ですね(笑)。

B- 確かにそうですね(笑)。

一枚の絵を描き上げるのに、一体どれほど苦心しているのだろう。自分が絵を描く意味はなんなのか。相手に届ける意味は?相手は本当はどんな人だろう。自分って、なんだろう。目を背けたくなる、耳を塞ぎたくなるような場面で、彼女は決して逃げない。その姿を尊敬すると同時に、羨ましくも思う。心配にも、思う。だからたまには後ろを振り返って。そこには、“目を尖らせた審判”はいない。というよりはむしろ、暖かい眼差しをもった多くの人たちが立っているはずだから。その中には、もちろん僕も。ORIHARAさんの今後の活躍を、1ファンとして楽しみにしています。



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OSAKA INTERNATIONAL ART 2025(5/31〜6/1)のチケットが当たるキャンペーンを実施中!SNSフォロー&応募フォームで申し込み完了!
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※お一人様2枚まで

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