【インタビュー】ずっと一緒さ。トイ作家・カネヒラがつくる世界にひとつ – 後編

さて、ぬいぐるみたちの楽しげな世界と、カネヒラさんの頭の中を覗き見してきた前編。
「『鍋つかみ』が実は暑がりだったら…」
カネヒラさんの作品世界は、そんな日常の何気ない所からふっと立ち上がる。では、そのアイデアは一体どのようにして、“具体的な形”として誕生するのだろう。
そして生まれたぬいぐるみたちが旅立つ時の、カネヒラさんの心境とは____________。

「脚本なし」で布を切る、即興のものづくり

「検針器」を取り囲むぬいぐるみたち。これを使って出来上がったぬいぐるみ達を一体一体撫でながら、針の混入が万一にも起こらないように徹底している。

制作のプロセスがかなり独特だと伺いました。

カネヒラ – イラストも型紙も書かずに、まず布に直接ハサミを入れるんです。細長い感じがいいかな、丸い系がいいかな、といった風に切ってみて、くしゃっと丸めてサイズ感を見ながら作っていきます。

脚本のない状態でドラマを撮っているみたいですね。

カネヒラ – あ、まさにそんな感じです。即興劇に近いですよね。うまくいかないことが結果的に良かったりもして。完璧に作ると、カチッとして面白くないんです。

最初の子が即興で出来上がって、次の子を作る時はどのように制作しますか?

カネヒラ – 最初の子ができたら、すぐに型紙を作ります。自分で作ったのに「どうやってできてるんだっけ?」って思いながら(笑)。なるべく記憶が鮮明なうちに、厚紙に起こしておいて、それで次の子以降を作っていきます。

なるべくみんな同じ顔になるようにしますか?それとも個体差はあってもいい?

カネヒラ – SNSで私が投稿した“1人目”の子を見て「この子が欲しい」と思ってくださっている方が多いと思うので、顔はなるべくその子に近づけるようにしています。でも、体つきは少し太っちゃったり、ほっそりとしたり、「個体差」として自分も楽しみながら作っています。“1点もの”という感覚も大事にしたいんです。

「豆粒ぐらい」

「みんな行っちゃったんだな」

制作が終わって、作品を発送するときはどんな気持ちになりますか?

カネヒラ – 気持ちが空っぽになるというか、「みんな行っちゃったんだな…」と毎回すごくしんみりします。自分のところには残らない子たちなので、大事にしてもらえたらいいな、「幸せになれよ」と思いながら送り出しています。

手元を離れた後、ファンの方から連絡が届くこともあるのでしょうか?

カネヒラ – よくご連絡をいただけて、本当にありがたいです。一番印象的だったのは、海外の見たことないほど綺麗な海をバックにぬいぐるみを撮影してくれていて、しかもサングラスと浮き輪をしていたんですよ!夏スタイルで(笑)。それはもう感動しました。自分もそこに連れて行ってもらった気持ちになりますし。

色々と着せ替えたり、新しくアイテムを身に付けて楽しむ方も多いですよね。

カネヒラ – そうなんです。帽子を被せてくれたり、ちょうどぴったりのものを見つけてきて着せてくださったり。皆さんのセンスがすごくて、こんな楽しみ方があるんだなって教えてもらっています。本当に嬉しいです。

「星」

先着販売ではなく抽選販売だったり、転売の禁止を徹底されていますが、これには何かこだわりが?

カネヒラ – 転売対策はもちろんそうですし、来てくださった方に平等に機会があるように、という気持ちが大きいんです。大量生産出来ないからこそ、なるべく平等にできたらと思ってやっています。転売の問題はなかなか難しいことが多くて、悩みどころではあるんですけど…。

「ぬいぐるみ」と「ソフビ」使い分ける理由は?

「目」を接着作業前の「豆粒ぐらいのソフビ」

ぬいぐるみだけでなく、ソフビ作品も展開されていますね。

カネヒラ – ぬいぐるみと比べ「ソフビ」は量をたくさん作れるので、ぬいぐるみが手に入りづらいという方にも購入していただけたらと思って始めました。あと、「ソフビ」という素材がずっと好きで、いつか自分の作品で使ってみたかったんです。

「ソフビ」への思い入れはどこから来ているんですか?

カネヒラ – 昔のおもちゃってソフビ製品が多くて、蚤の市に行ったりするとレトロな貯金箱なんかも「ソフビ」でできていて、すごく可愛らしいんですよ。風化もしていないし、長生きする素材という印象がずっとありました。自分の作品が後世までそのままの形で残っていたら素敵ですよね!

石焼き芋の車のように、不意に現れる移動販売を

最後に、今後の展望についても聞かせてください。いつかは自分のお店を持ちたい、という気持ちはありますか?

カネヒラ – いつか移動販売でぬいぐるみやグッズを販売したいと思っていて。キッチンカーのような、石焼き芋の車のようなもので、時間を指定することもなく突然現れるみたいな。そういう移動販売をいつかしてみたいんです。その中で雑貨屋さんみたいに作品がいっぱい並んでいて、自分の作品やグッズを直接お届けできたら、きっと幸せな空間になるんだろうなと思います。お客さんやファンの方々の反応も直接見られますし。

個展「たまもののゆめのこと」京都会場の様子

陶芸、ストップモーション…やりたいことはまだまだある

ぬいぐるみ以外にも、挑戦してみたいことはありますか?

カネヒラ – 陶芸とか面白そうじゃないですか?陶器でキャラクターを作っても良いかも、と思っていて。どうやって作るかもまだわからないんですけど(笑)。あとは、ストップモーション。NHKの「ニャッキ!」や「ひつじのショーン」がずっと好きだったので、その懐かしさを自分の作品にも滲ませたいです。自分の作った子たちがみんなが動いていたら絶対楽しいですよね!

FANQ – 募集質問コーナー

最後に、事前に募集した「カネヒラさん」への読者質問を掲載します。たくさんのご応募ありがとうございました。
ここに掲載されていないものも記事内の所々で話に登場するので、是非じっくり読んでみて下さい。今後も様々なアーティストで実施予定ですので、そちらも合わせてチェックしてみて下さい!

  • 制作中はBGMを流したりしますか?
    • カネヒラ – 音楽をかけているのに、気づいたら終わっていて何も聞いていない、みたいなことがよくあります。集中すると、イヤホンをしていても頭に入ってこないんです。ラジオを流しておくこともありますけど、抽選販売の前はとにかく時間との戦いなので、無心になっていることが多いです。
  • SNSにアップされている写真の撮影では、ぬいぐるみをどうやって自立させていますか?
    • カネヒラ – なるべく目立たないサイズの透明のキューブを後ろにそっと置いて、支えにするんです。空にぬいぐるみがぽっと浮かんでいるような写真は背景だけの写真も1枚撮っておいて、あとで指だけ消す加工をすることもあります。ストップモーション動画のときは、ポテっと倒れないように、しっかり固定してからコマを1枚ずつ撮っていくんですけど、気が遠くなる作業です(笑)。
「たまもの」
  • 1番苦労した作品はなんですか?
    • カネヒラ – どれも等しく大変なのですが、「寝かされたカレー」はどんな形にするかでかなり悩みました。
  • ひとりの子を作るのにどのくらいの時間がかかりますか?
    • カネヒラ – 本当にものにもよりますが、1つを集中して作るとなると、3時間くらいかかると思います。
  • 生地はどこで調達されているのでしょうか?
    • カネヒラ – 近くの手芸屋さんか、ネットでも買ったりします。ただ、ネットだと写真と実際の色が違うことがあるので、なるべく実物を見て買うようにしています。たまに気に入った生地が廃盤になったりして、それは死活問題です…。
  • 1日の制作時間が知りたいです!
    • カネヒラ – 実は、毎日ずっとぬいぐるみをつくっているわけではないんです。他にも色々なグッズの制作や別ラインの作業があるので、日によって時間の使い方はかなり変わりますね。ただ、「今日は新しいぬいぐるみを作るぞ」と決めた日は、本当にその1日を最初から最後まで丸ごと使う日もあります。あとは、急にアイデアが降ってきて、いきなりガーっと作業し始めることもあります(笑)。
  • おすすめのお手入れ方法について聞きたいです!
    • カネヒラ – 私の場合はブラシで優しめに擦ったり、優しい成分の除菌シートのようなもので拭いたりしています。
  • 制作で1番楽しい瞬間はいつですか?
    • カネヒラ – どんな作品にしようかと悩んでいる時は結構苦しかったりしますが、やっぱり完成した瞬間の嬉しさが1番です!

【インタビュー】ずっと一緒さ。トイ作家・カネヒラがつくる世界にひとつ – 前編

ただのぬいぐるみだなんてとんでもない!
見たことあるようで、見たことない、いや、でも見たことあるような気も…。
一言では言い表せない、カネヒラさんの豊かに広がる作品世界。有名なあの“カウボーイ”のように、目を離したらいそいそと動き出してしまいそう。そんなぬいぐるみたちの世界を、ちょっと、覗いてみよう。

「メガネの豆粒ぐらいたち」

頭の中のキャラクターを具現化する

カネヒラさんの活動の出発点を教えてください。

カネヒラ – 元々パッケージデザインがすごく好きで、デザインの専攻がある大学に進学しました。卒業後はデザイン会社に入社して、パッケージやポスターを作っていたんですけど、そこで「何か自分で発信したい」という気持ちが出てきて、今の作品を作り始めたんです。

その時から、現在のような「ぬいぐるみ」を?

カネヒラ – 小さい頃から、頭の中にキャラクターみたいなものがいたんです。活動当初はアクセサリーを作ったりもしたんですけど、その中で、自分がずっと思い描いていたキャラクターたちを誰も見たことないような形で出してみたら面白いかな、と思って始めました。

大学の卒業展示でも、ぬいぐるみを作っていたとお聞きしました。

カネヒラ – そうなんです。「Yogibo」みたいな大きなクッションに目をつけたものを作って。今は写真も残っていないんですけど、あれが原点だったかもしれないです。ぬいぐるみを本格的に作り始めたのは23歳くらいでした。

「信楽焼のたぬきとささくれ」

「大事にしてもらえるものを作っていきたい」

活動当初は「しまいぬ」という名義だったとか。「空想アパートメント」という屋号や、現在の「カネヒラ」という名前に変わっていった経緯を教えていただけますか?

カネヒラ – 「しまいぬ」は、犬が大好きなのに飼ったことがなくて、「もし犬がいっぱいいる島があったら」という妄想からつけた名前なんです。「空想アパートメント」は、頭の中の空想を何階層かにして見せているイメージというか…。「アパートメント」という言葉が好きで、「空想」と合わせてガチャッとくっつけてみました。

最近は「空想アパートメント」から「カネヒラ」という名前に変えられましたね。

カネヒラ – 「空想アパートメント」だと、今の自分にはメルヘンすぎるかなと思って。名前を変えたことで、気持ちの面でも少し変化がありました。「ゆめかわいい」という方向よりも、もっと落ち着いた、大事にしてもらえるものを作っていきたい、という方向にシフトしていきたかったんだと思います。

「ドラゴンフルーツに夢中なぬいぐるみたち」

言葉の「変さ」にアンテナを

カネヒラさんの作品を見ていると、日常の中に散らばっているものがキャラクターになっているような感覚があります。着想はどこから来るのでしょうか?

カネヒラ – ピンとくる瞬間が突然来るんです。言葉にすると難しいのですが、ずっと頭の片隅に「どうしようかな」があって、そこで「こうだ!」となる感じと言うか…。最近だと、“言葉”がすごく気になっています。「ヘマをする」とか「熱を逃がす」とか。逃がされる熱ってなんだろう、「『ヘマ』って何…?」みたいな。不思議だな、変だなと思ったことをメモに書き留めています。

「寝かされたカレー」も、そういった感覚から生まれたのでしょうか?

カネヒラ – そうなんです!料理で使う「寝かせる」という言葉が、まるで人に使う言葉みたいで面白くて。「寝かされているカレー側の気持ちってどんなだろう? 」と考えていたら形にしたくなりました。寝かされているのに目がギンギンだったり、ハラハラしている仕草にも見えるよう表現するのに苦労しました。最終的に「口元に手を当てているようなポーズにしてタッパーに入れる」というアイデアに決めて。タッパーに入っているから四角くなるんですよ(笑)。

タッパーにぴたっととはまっている「一晩寝かされているカレー」

具体的な動物を直接モチーフにすることは少ないですよね。

カネヒラ – そうですね。犬や猫ではなくて、「もの」や「言葉」に動物みたいな要素を入れ込むという不思議な作業をしてます。ただ、人から見て分かりづらすぎたり、伝わらないものにはしないように気をつけています。「共感」も取り入れることが大切なんです。

1人1人の“個性”を大切に。豊かに広がるぬいぐるみたちの世界

カネヒラさんのキャラクターたちには、それぞれの性格やストーリー設定のようなものはありますか?

カネヒラ – 一応、この子はこんな風に考えているんだろうな、とか、この子は素早い動きをするとか、食いしん坊とか、そういう初期設定はあるんです。「インターネットミーム」というピンク色の細長い子と、「スーパーコンピューター」をイメージしたぬいぐるみがいるんですけど、その2人はネットとパソコンのつながりで仲良くしています。他にもSNSの投稿とかで、「この子たち、よく一緒にいるから仲がいいのかな?」なんて想像してもらえると嬉しいです。いつか相関図とか作っても面白いかもしれないですね。

「インターネットミームとスーパーコンピューター」

とは言っても、やっぱり最後は買って頂いた方だけの特別な子になって欲しいんです。持ち主の数だけ“個性”が生まれるというか、「自分のぬいぐるみがこういう性格だ」、というのを好きなように想像しながら楽しんで頂けると嬉しいです。

誰も見たことないぬいぐるみを目指して

唯一無二の世界観が広がるカネヒラさんの作品世界。大人気の抽選販売は毎回見逃せない!

制作の中で、一番大切にされていることは何でしょうか?

カネヒラ – 「誰も見たことないものを作る」ということですね。物ってたくさんあるから、「これ見たことある」って思われたら終わりだな、という感覚がずっとあって。最近はその意識がさらに強くなっていて、悶々としながら考えることも増えました。

それでいて、着眼点は日常の中から来ているんですね。

カネヒラ – そうなんです。まっすぐに整えられた線より、子供が書いたようなカクカクした線に惹かれるように「無作為を作為するのが好き」なんです。完璧すぎると面白くないから、ちょっと抜けてたり、いびつだったりするのがいいなと思っています。

後編では、実際の制作プロセスを深掘りします。大切に生み出した子たちを送り出す時、果たしてカネヒラさんはどんな心境なのか…。ぬいぐるみたちの旅先からの素敵な知らせや、これからの展望、最後には事前募集した質問への回答も。お楽しみに!

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