【連載】Convenience ART Vol.3「レジ横に咲く、ダリの残像」

「コンビニエンスアート」第3回。今回取り上げるのは、レジ横で誰もが一度は目にしたことのあるキャンディ、「チュッパチャプス」。

子どものお菓子、懐かしい存在。

そう思って改めてロゴを眺めてみると、妙に完成度が高いことに気づく。花のようなフォルムに、原色の黄色と赤色。国や言語を超えて、どこにあっても迷わずそれと分かる、強い顔をしている。

このロゴを手がけたのは、シュルレアリスムを代表する画家、サルバドール・ダリ。実はこの象徴的なデザインは、ある日のレストランでの、驚くほど軽やかな「即興劇」から生まれている。1969年、チュッパチャプスの創業者であるエンリケ・ベルナートは、ブランドの世界進出という大きな野望を抱いていた。世界で戦うに相応しい、唯一無二のロゴが必要だ。そう考えた彼が白羽の矢を立てたのが、同郷の天才・ダリだった。ベルナート氏はダリの自宅を訪問し、ロゴの制作を直談判。

するとダリは、彼を連れてそのまま昼食へと出かけた。食事の最中、ダリはサッと紙ナプキンを手に取り、その場でペンを走らせ始めた。わずか1時間、現代まで続く世界的なアイコンは、アトリエのキャンバスではなく、レストランのテーブルに置かれたありふれたナプキンの上で、あっという間に産声を上げた。さらにダリは、ロゴを包み紙の“真上”に配置することを提案。陳列された際、上から見てもすぐに認識できるように。アートというより、むしろ商業デザインの天才的な判断だったのかもしれない。

ダリは絵画だけに留まらない。

1945年、彼はウォルト・ディズニーとともに、短編アニメーション映画の制作に取り組んでいる。タイトルは『Destino』。砂漠の風景、溶ける時計、変形し続ける身体。ダリのイメージが、そのまま映像として動き出す、実験的な作品だった。しかしこの試みは、あまりにも前衛的だったため、当時は完成に至らなかった。企画が再び日の目を見たのは、実に半世紀以上後の2003年。ダリが遺したスケッチをもとに、ディズニーが作品を完成させたのだ。

子どもでも楽しめるアニメーションの中に、さりげなく潜ませたシュルレアリスム。この構造は、どこかチュッパチャプスにも似ている。ただ甘いだけのキャンディの顔をして、実は世界的な画家の思想が包み紙の中に折りたたまれている。

ダリは、アートを特別な場所から解放したかったのかもしれない。

映画館で、広告で、そしてコンビニのレジ横で。私たちは今日も、気づかないうちにダリの作品を手に取っている。

棒のついた、小さなキャンディとして。

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