前編に続いてイラストレーター・アーティストとして独特の色彩とキャラクター、ポエティックなセリフで大活躍する原田ちあきのインタビューをお届けする。
ペンが動かなくなったスランプを「ホラー」が救ってくれた
もし答えづらかったらスルーしていただいて大丈夫なのですが、「この人はちょっとライバルだな」と感じる方はいますか?
原田ちあき – 昔はいっぱいライバル視していた人がいました(笑)。ただそれぞれがそれぞれの好きなことをしていればいいんじゃないか、と思い始めてから他人のことはあまり気にならなくなりました。永遠のライバル、というか憧れでいうと楳図かずお先生です。最終的には楳図さんみたいな元気なおばあちゃん…になりたいです。
過去のインタビューで、「ホラーを書きたい」とおっしゃっていたのを拝見しました。楳図かずおさん(関連記事:楳図かずお、恐怖から大美術へ。)など、影響を受けた作家さんもホラー作品を作っています。原田ちあき版ホラー作品の進捗はいかがですか?
原田ちあき – 実は書籍で出したい!という企画が数年前から持ち上がっているんです。ただちょっと頓挫している状態で。出したい気持ちはすごくあるので、続きをちゃんと書かなければならないと思っています。出版社の皆さまにも本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです…(苦笑)。

それは楽しみです!ホラーをやりたいと思ったきっかけはあるんですか?
原田ちあき – もともと、私のイラストって悪口みたいな言葉を使うことも多かったんです。みんなが心の中で思ってるけど口には出さないようなことを描きたくて。でも、あるタイミングから、特にTwitterでは“レスバトル”する人が増えたり、思ったことを簡単につぶやくようになってきた気がして。そんなタイムラインの中に私のイラストだけがポンと現れたら、逆にものすごく嫌な気持ちになっちゃう人もいるかもしれないな、と感じたんです。

その頃ちょうど私生活もいろいろとぐちゃぐちゃになってしまっていて、体調を崩したり、引っ越しを余儀なくされたり、いろんなことが重なってしまって。コロナの時期も相まってしばらく元気が出ない時期が続き、イラストやエッセイが描けなくなってしまったんです。でも何かを描きたいし、生活も支えなきゃいけない。見てくれている人たちにも絵を届け続けたい。その中で悪口だけじゃダメだな、自分の好きなものをもう一度よく考えてみようと思ったときに、ふとホラーが思いついたんです。
ホームページにこっそり「ホラーっぽいテイストのイラストが描けます」と書いてみたら怪談系YouTuberさんや都市伝説・事件系のYouTuberさんから依頼をいただけるようになって。ホラー作品をつくり出してから、自分にもまだ表現できるものがあるんだと思えてすごく嬉しかったです。
SNSと社会と。みんなが自分だけの仕事をすればいい。
今は誰でも自由に発信できる一方で見られる側になるリスクも大きいと思います。SNSを駆使してきた作家として意識していることはありますか?
原田ちあき – あまりお会いする機会がないのですが、見てくださっている方のことが本当に好きなんです。私のグッズを持ってくれたり、「好き」と言うのってもしかしたらちょっと勇気がいることかもしれない。だからこそ、その人たちが恥ずかしい思いをしないようにしたいんです。
自分が過激なことをツイートして炎上したりしたら、見てくれている人が嫌な気持ちになったり、恥ずかしくなったりするかもしれない。それだけは絶対に嫌で。みんなには凪のような人生、ハッピーな人生を送ってほしいという気持ちでいてもらえるように常に意識しています。
アーティストの中には、SNSで社会的・政治的な発言を積極的にされる方もいらっしゃると思います。原田さんはどのような距離で社会と付き合っていますか?
原田ちあき – 私の場合は遠くからじっと見ている、というのが近いかもしれません。先日も、友達のミュージシャンが政治的なツイートをして大炎上してしまったことがあったんですけど、だからといって「友達をやめよう」とはまったく思わなくて。ミュージシャンだから、イラストレーターだから、とカテゴライズされがちですけど、最近思うのはみんな“自分だけの仕事”をしているということなんですよね。
同じような絵を描いていても、私の仕事は私のもので、その人の仕事はその人のもの。政治的なコメントをすることも含めて、その人のスタイルであり仕事なんだと思っています。
原田ちあきの日常。子育てによって少しずつ成仏していく親への反発
ファッションや見た目にこだわりはありますか?
原田ちあき – 実は、ファッションにはあまり興味がなくて…。服も、髪も、ネイルも、そんなにこだわっていないんです。昔は自分なりにすごく考えていたと思うんですが、実は母が過干渉なタイプで、着るもの全てが決められていて、20代前半くらいで初めて自分で選んだ服を着たときも、「それ似合ってない」「変だね」と言われ続けていて。その反動もあって、反骨精神で派手な色の服を着ていた時期があったんだと思います。
お休みの日には、お子さんと一緒に出かけたりもしますか?
原田ちあき – 最近は増えてきましたね。自分が子どもの頃、親に遊びに連れて行ってもらった記憶があまりなかったので、小さい頃の自分がしてほしかったことを子どもにしてあげたいと思っていて。特別な場所じゃなくてもいいから、1日1回は散歩に行くとか、家の中でも一緒に家事をしたり、遊んだりしています。
それが結果的に、自分の心の健康にもすごく良くて。私のほうが遊んでもらっているような感覚もありますね。

ご両親とのお話をもう少し聞かせてください。
原田ちあき – 昔は本当に仲が悪くて、小学校5年生くらいの時に父がふわっといなくなってしまったんです。そのころの家は空気も悪くて、お父さんと一緒にいるなんて嫌だ!と思っていて。その結果父とは別居することになりました。そこから、母の干渉の対象が私だけになってしまって、ずっとぶつかり合っていました。
最近も喧嘩ばかりで本当に仲が悪かったんですが、孫が生まれてから、母や、父と父のパートナーも遊びに来てくれたりして。ちょっとずつですが仲良くなってきました。
私自身もなんでこんなに親が許せないんだろうという気持ちが、子育てによって少しずつ成仏していくような感覚があります。お互いに距離ができたことで、生きやすさにつながってきました。
最近手がけていることや、これからやってみたいことについてお伺いできればと思います。
原田ちあき – やりたいことは本当にたくさんあります。またエッセイも書きたいですし、ホラーもやりたいです。それから、コロナ以降のスランプの影響もあって、元々の悪口のイラストに完全には戻れていない感覚があるんですが、子どもが幼稚園に行くようになって自分の時間がもう少し取れるようになったら、女の子をもっと細かく描いていきたいなと思っています。
あと、ずっと興味があるのが、自分のイラストと言葉を翻訳して、海外に向けて発信してみることです。以前、台湾や中華圏で翻訳版の本を出していただいたことがあったのですが、今度は英語圏にも出してみたい、いろんな国の人に見てもらいたい、という気持ちがあります。

現在は、子育てエッセイ漫画の出版のお話をいただいていて、それを無事に出したいなと思っています。そこまではなんとか、寿命が尽きることなく頑張りたいですね(笑)。
原田ちあきは、仕事場からの1時間のインタビューでは収まりきらないほどの夢を語ってくれた。SNS、イラスト、アート、そして子育て。様々なフィールドを耕し続ける原田ちあきの勇姿を、時に笑い、時に涙しながら見守っていきたい。