ジョン・カフカ:意外なる文化的ルーツと、イラストの魅力に迫る。【前編】

豊かな色彩感覚と独特な構図、繊細なタッチが織りなす唯一無二の世界観。現代的なイラストレーションの美しさを更新し続ける韓国のイラストレーター、デザイナー、ジョン・カフカ。SNSの投稿で注目を浴びて以来、ここ日本でも個展の開催やAdoのカバーソングMVを手掛けるなど、活躍を目にする機会が増えた。ジョンはよくある英語名から、カフカはあのドイツの作家フランツ・カフカから頂戴したという名前からして、ミステリアスなイメージも多い彼だが、アーティストになるまでの来歴やこれからの展望など、気になることを根掘り葉掘り伺ってみたインタビュー記事の前編です。

花死

ジョン・カフカがアーティストになるまで。

B- 本日はよろしくお願いいたします。昨年の日本での個展「DECO」(@ハラカド)「閻羅-KARMA-」(@ミカン下北沢)はいかがでしたか?

John Kafka-東京には観光でよく行っていたのですが、個展を日本で開催したのは昨年が初めてでした。日本は展示の文化も活発で、ファンの方との交流も楽しかったです。自分の作品を気に入ってもらえたことがとても嬉しく、これからも活動を続けたいと思う原動力になりました。日本はサブカルチャーの聖地ですし、実は今年も日本で予定していることがあるんです(詳しくは記事後編で)。

B- 普段はどんなことをされているんですか?

John Kafka- フリーランスでイラストレーターとして活動しつつ、絵の講師として授業も受け持っています。

B- 先生なんですね! そんなジョンさんのこれまでの来歴を聞いてもいいですか?

John Kafka- 絵に興味を持ったのは高校生のときです。最初は趣味としてのスタートでした。美術大学を卒業して、ウェブデザインや出版・編集の仕事に関わるなかで、自分の画集を出したいという思いが強くなったんです。本格的に作家活動を志したのは3年ほど前で、 ゲームイラストや広告イラストのお仕事をしつつ、今回の展示を機に念願だった画集も出版することができました。

B- そもそも、アーティストを志すきっかけは何だったのですか?

John Kafka- 絵は昔から好きだったのですが、職業にするつもりはなかったんです。でも以前、ある作家さんの画集の表紙を手伝った際に、世界中の人に自分の絵を見せられるってすごいなあと思ったんです。素敵な絵を描いて出版できるって良いなと。その方は今も応援してくれる恩人のような人で、その時に感じた“画集を出版したい”という思いがきっかけかもしれません。

花火 ※アーティストとして初期の頃の作品写真

B- 人気が出るきっかけはありましたか?

John Kafka- うーん、自分としてはまだ人気があるとは思わないですが、有名なアーティストの方々と一緒に絵を描いたり、自分の好きなものや伝えたいことをみんなが見つけてくれたり好きになってくれたりしたときに、少しだけ実感します。

B- これまでどんなポップカルチャーに触れてきましたか?

John Kafka- 普段の興味は、映画、音楽、小説などの本、詩(俳句)です。王家衛(ウォン・カーウァイ)監督や黒澤明監督の映画作品が好きで、特に『羅生門』や『夢』がお気に入りです。King gnuやAdoなどのアーティストにも、歌詞や創作方法といった面からもとてもインスピレーションを受けています。

B- では、ご自身の創作活動に影響を与えたアーティストはいましたか?

John Kafka- 絵に関しては、20世紀初頭に活躍したアメリカのイラストレーター、J・C・ライエンデッカーの影響が大きいです。日本ではイラストレーターの米山舞さんやタイキさんが好きです。それから米津玄師さんです。ひとつにとらわれない自由さに影響を受けました。

B- ライエンデッカーの影響も意外ですが、日本のカルチャーへの造詣の深さにも驚きです。作品制作のプロセスについて教えていただけますか?

John Kafka- 資料・参考文献をたくさん探すところから始めます。自分の得意な領域とどう混ぜられるかラフを練り、色を乗せながら、その都度方向性を決めます。自分はレイヤーはあまり使わないですね。最後に補正とシルエットチェック。その時、未熟な部分や修正すべきところがあれば、その都度取り除いて修正を重ねています。

制作の“悩み”と喜び。

B- ジョンさんはデジタルが創作の中心だと思いますが、アナログではなくデジタルを選んだ理由や、違いを感じる瞬間はありますか?

John Kafka- 油絵や水彩画ももちろん好きです。SNSも映像も簡単にアプローチできるのがデジタルで、自分もコミュニケーションのためにデジタルアートを多く制作しています。でも、アナログとデジタルは一緒に制作していくべきだとも思います。デジタルの上にアナログを貼るとか、 並行していくことが大事なポイントだとも思うんです。

B- 二つに分けずに同時に制作していく大切さですね。ちなみに、昨年のハラカドの個展「DECO」では、メタル製のキャンバスに作品が再現され、デジタルアートがフィジカルアート(MCA)になっていました。その垣根の超え方は、どのように感じましたか?

John Kafka- メタルキャンバスってこんな使い方もあるんだと、実物を見てとても良かったです。自分の表現が未熟で完全に生かせなかったんじゃないかと思うくらい魅力的な素材ですし、次やるときはもっと上手くやろうと思っています!

B- 制作以外で熱中していることはありますか?

John Kafka- 趣味を楽しむ時間をあまりとれていないのが残念なのですが、小説や詩集などの本を読むことや、アクセサリーが好きです。リックオウエンスやコムデギャルソン、グッチ、ヴィヴィアンウエストウッドなどなど。

B- そうなんですね! たしかに、人物の服装やアクセサリーなどデザインもジョンさんの作品の魅力のひとつですよね。ご自身のお気に入りの一枚を教えてください。

John Kafka- 「カルマ」という作品です。これは反省がテーマの作品で、絵を描きながら過去を振り返ってみたんです。自分はこれまで、キャリアに役立つものや興味のあるものだけをテーマに、誰かのために絵を描いたことがありませんでした。 家族や友人や周りの人を表現する絵を描いたことがなかったんです。“自分だけのために絵を描いていたんだな”と反省をしました。実は、母親が仏教徒で、それに関連する本を読んだことで、コンセプトの方向性が決まりました。「カルマ」とは業という意味で、因果を示すものです。そして自分の反省の気持ちやメッセージを投げかける作品になりました。

カルマ ※自身のお気に入りの作品写真

B- AdoのカバーMV、Eveの“音楽を絵にする”・トリビュート企画アルバム「Under Blue」への参加など、コラボレーションはいかがでしたか。

John Kafka- 個人的にファンアートを制作するほどすごく好きなアーティストだったので、とても嬉しかったです。ファン心を表現した絵になっていると思います!

B- MV、ゲームイラスト、個展に向けた作品制作など、それぞれ違いはありますか?

John Kafka- 昔はそれぞれの制作を分けて考えていたけど、大きな違いはないかな。ゲームイラストに関しては注文されたものだけを制作しています。コラボ制作は、ミーティングでコンセプトを話し合うところからはじめるのが、普段の制作とは異なりますね。

B- 制作過程の中で、行き詰ったことや大変だなと感じた体験や、逆に嬉しい瞬間はありますか?

John Kafka- 作品ごとに大変さを感じます。いつも大変だけれど、絵も消費していくので、自分の絵に見飽きることもあります。なんというか…アイデンティティが停滞してしまう感じ。自分のスタイルを維持してそのままだとマンネリ化してしまうかもしれないし、かといってそこから外れると自分じゃないような。そういう難しさを感じます。嬉しい瞬間としては、コラボレーションをしたときに気に入ってもらえることです。それから、「カルマ」を展示した時、日本のお客さんが家族で来客して鑑賞して下さって。“ジョンさんのおかげで絵を始めた”と言ってくれたとき。とても感動したと同時に、自分の活動により重みを感じた瞬間ですね。

後編へ続く。

EDIT: Ryoma Uchida