【インタビュー】 “憧れ”を追い越していく。Face Okaの現在地 – 前編 

ひと目見れば彼の作品だとわかる。一度でも目にすれば脳裏に焼きつく作品群は、そのインパクトからはちょっと不思議なくらいにシンプル。それでいて、アイコニックなイラストに固執しない、自由で横ノリなスタイルは、憧れたアーティストたちの背中を追いかけることから始まった。仲間と始めたポッドキャスト「Too Young To Know」は、今や放送173回に及び、近年には「パペット」という操り人形シリーズ「THE KIDDING HEADS」も展開。自身の声と、時折見せるシュールな動きでパペットを操る、画面外のFace Oka。

この人、一体どんなアーティストなのか____。

「THE KIDDING HEADS」と併せて、前後編にわたり徹底的に深掘りします。

アーティスト、イラストレーターとして活躍するFace Oka

アパレルに打ち込んだ学生時代

子供の頃からご家族の影響で絵を描くようになったそうですが、高校、大学時代はどのように過ごしていましたか?

Face Oka(以下:Face) – 高校は普通科だったんですが、そのまま大学の美術系に進めるコースがあったんです。そのまま進学して、大学では芸術を専攻していました。高校までサッカーもやっていましたが、続けていたのはイラストや絵でした。幼少期からサラリーマンにはなりたくなかったんです。大学も2年で中退してしまって。

在学中の2年間はどのような生活でしたか?

Face – ほとんど何もしていなかったですね(笑)。高校からそのまま仲のいい友達も多くて、本当に自由に過ごしていました。友達が出ている全然関係ない授業に顔を出したりとか(笑)。あとは服が好きだったのもあって、アパレルでアルバイトをやっていました。当時、町田の大学に通ってたんですが、町田に「MARUKAWA」っていうお店があったんです。ジーンズメイトみたいなところで、そこでアルバイトしてました。すごく楽しくて入り浸ってました(笑)。

僕も地元が町田で…!!当時はどの辺りで遊んでいましたか?

Face – そうなんですね!!町田はもう本当にどこにでも行ってました。古着が好きだったので、「DESERTSNOW」とか。

「DAMAGE DONE」とか(笑)!

Face – ですね(笑)。「MARUKAWA」では、フィッティングルームに自由に絵を飾らせてもらったりもしていました。あとは、大学時代に25歳くらいの同級生がいて、彼はアートを本格的にやりたいタイプで、企画展をよく開いていたんです。それにいつも参加させてもらっていました。そのうちにだんだん大学から足が遠のいていって…。

Face Oka

当時、大学の授業で学んでいたことは今に繋がっていますか?

Face – 絵を描くのは好きなんですけど、「学んで描く」というのがあまり好きじゃなくて。今思うと、そこをちゃんと学べていたらよかったなとは思います。いろいろやっていく中で、自分がやりたいことを表現できなかったりするのは、やっぱり技術的な面もあるので。そこは今、補わないといけないところですね。

大学を中退してからは何を?

Face – それからSTUSSYで働くようになりました。当時は、カウズやバリー・マッギーらのアーティストを筆頭に、「売れたらTシャツを出せる」という流れがあった。ショップ店員としてだけではなくて、その「自分のTシャツを出す」ということに凄く憧れがありました。だから休みの時間には、ひたすらに絵を描いていましたね。

当時はどのような絵を描いていましたか?

Face – 当時からストリートのカルチャーは好きだったのですが、本当にゴリゴリのグラフィカルな文字にはあまり興味がなかったんです。なんと言うか、バリー・マッギーやカウズ、元を辿るとキース・ヘリングもそうですけど、グラフィティなんだけど、ちょっとグラフィティーじゃないというか。キャラクターを作ったり、色々なことをやっている人たちが好きだったので、常にオリジナルのキャラクターみたいなものを探っていたんだと思います。

アトリエの様子

Faceさんのイラストは、誰が描いたのかひと目でわかるし、シンプルながら一度見たら忘れることのないインパクトがあると思います。「この方向でいくぞ」と決めるにはなかなか勇気がいることじゃないですか?

Face – うまくいく確信なんてなかったですね。学生時代、授業中に落書きでキャラクターを描いていたんです。それを友達に見せて、「いいね」っていう反応が嬉しかった。今もその延長にいる感覚なんです。気づけば観てくれる人が、友達だけでなくもっと多くの人に広がっていきました。

影響を受けたアーティストたち

耳をすませば / Face Oka

作品を通して「平和ボケした日本人」というテーマが隠れているそうですが、Faceさんの描く「顔」の色は、日本人のいわゆる黄色人種とは違って、ピンクに近い色合いに見えます。

Face – ジェームズ・ジャーヴィスからの影響はかなりありますね。彼の作品にはピンクが多用されていて、あとは、Perks And Mini(P.A.M.)というブランドの服で、蛍光ピンク色っぽい感じのキャラクターがいるんです。発色がいいカラーを使うブランドで、そこのグラフィックからの影響もあると思います。

もうひとつは、最近はコンプライアンスが色々とある中で、ピンク色の肌の人種っていないじゃないですか。どこにも属さない中間を取れたらいいなという想いもありました。

現代アーティストで特に影響を受けている方はいますか?

Face – マイク・ケリーですね。今やっているパペット作品もそうですし、彼の影響は大きいです。あとはポール・マッカーシーとか。結構ハードコアな作風の人なんですけど、そうした海外のアーティストには強く影響を受けています。

会社の名前「ピカビア」にも意味があるそうですね。

Face – これはフランシス・ピカビアというフランスのアーティストから取っています。彼はマルセル・デュシャンと同時代の作家で、ダダイズムのメンバーのひとりでした。この人は、本当に“これがピカビアの作風”と呼べるものがないくらい、常に違うことをやり続けていたんです。その時々で作風がどんどん変わっていく。その自由さや、既存の枠に収まらない姿勢にすごく憧れています。

アトリエの様子

以前の個展のタイトル「都合の悪い存在」にも、その影響があったとか。

Face – そうですね。このタイトルは、ピカビアがかつて評価されたときに「都合の悪い存在」だと言われたというエピソードから来ています。流行や時代の空気に迎合せず、常に違うことをしていた。ちょっとカウンター的というか、反骨精神のある人だったんですよ。みんなが言っていることや思っていることと違うことをやっていたから、周りからしたら「都合の悪い存在」だったんでしょうね(笑)。

まさにアンチテーゼの体現者ですね。

Face – そうですね。デュシャンの「泉」もそうですが、「アートは絵を描くことだけではない」という感覚はあると思います。

軽やかな横ノリの如く

例えば「絵」において、全く別のスタイルにトライしてみたくなることはありますか?

Face – 好きなものはずっと変わっていなくて、例えばこの絵だと、黒くて太い線があって、キャラクターがあって、というものですが、もっと写実的なものを描いてみたい気持ちはあります。今の作風に固執していることは全くなくて、他にも色々な方向で試してみたいです。

Face Oka

カウズやバリー・マッギー、キース・ヘリングのように?

Face – そうですね。当時代官山にサイラス(SILAS)というブランドがあったり、トッド・ジェームスが「AMOS TOYS」というフィギュアを作ったり。そうしたムーブメントがあったんです。いつか僕もやりたいという想いはどこかにずっとありました。

昔は平面的なイラストが多かった印象がありますが、今は、ここにある作品のように影の表現が増えています。そのあたりの変化には、試行錯誤や意識的な変化がありますか?

Face – このシリーズに関しては、実はあまり試行錯誤というのはなくて、もう僕の中ではこのスタイルで完結しているんです。なので、新しいことをやろうというときは、これとは違う方向で取り組むようにしています。たとえばパペット作品もそうですが、もし「油絵をもう一度やりたい」となった場合には、このスタイルでは描かないようにしています。

バケツに吐いた香水 / Face Oka

油絵を描くとしたら、どんな風になりそうですか?

Face – 実は過去にやっていて、2年ほど前に「Gallery Target」で久々に個展を開いたとき、多くの方がこのシリーズのような作品を期待して来られたと思うのですが、展示の8割は全く関係のない油絵でした。

それは何か意図があったのでしょうか?

Face – 意図というよりも、単純に「同じものを描き続けていてもな…」という感覚がありました。あとは、「ずっと同じことを続けるのが正しいとは限らない」とは思っていて、油絵にも挑戦したんです。それに加えて、「油絵を描く中で、このキャラクター(シリーズ)と組み合わせる方法はないか」みたいな実験もしています。展示でもそうした試みを見せていますが、常に実験している感覚です。

「自分がやる意味」とは何か

いろんな表現を横断していく中で、「自分がやる意味」をどのように考えていますか。

Face – 「平和ボケした日本人」という創作のテーマがあるんです。だから「ピース(平和)」というワードは、ずっと根本にあります。見た人がハッピーになることはもちろんですが、その中に“隠れた危機感”のようなものも込めたい。そういうメッセージをうまく表現できるアーティストになりたいと思っています。

創作は「自分のため」と「見る人のため」、どちらの比重が大きいですか?

Face – 基本的には、自分が喜ぶかどうかが一番の基準です。ただ、それだけだとやっぱり食べていくのは難しい部分もある。だから、そのバランスを取りながらやっています。将来的には、もっと有名になっていかないといけないなとも思っていて。その理由は単に名声がほしいとかではなくて、子どもたちのためや、次の世代につながる活動をしたいからなんです。自分の表現を通して、次につながるようなことをやっていきたいと思っています。

後編では、近年話題沸騰中のパペット作品「THE KIDDING HEADS」の話から、応援しているサッカーチーム、物作りやアートへの想いを伺います。
お見逃しなく…!

EDIT: Ryo Kobayashi

PHOTO: Hyakuno Mikito

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