「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」現地レポート – その2

2025年11月1日からの3日間で開催された「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。
Chim↑Pom from Smappa!Groupらがキュレーションを務めたオールナイトでのアートイベントは、東洋一の歓楽街と呼ばれる「歌舞伎町」を舞台に、街のあちらこちらに散らばった会場で、同時多発的に“何か”が起きている。

さて、歌舞伎町で一体何が起きていたのか。

鈴木喜兵衛から続く「歌舞伎町」のダイナミズム

「新宿歌舞伎町能舞台」

会場のひとつである「王城ビル」を後にして向かったのは、「新宿歌舞伎町能舞台」。先日のインタビューにて、Chim↑Pom from Smappa!Groupの卯城竜太さんは次のように語っていた。

「この場所が今後の歌舞伎町の文化活動のアイデンティティになっていくのではと思っています。」

「歓楽街に能舞台があることは、一見特殊に見えるが、文脈としては真っ当で、自然なことなんです。」

「新宿歌舞伎町能舞台」

近隣をラブホテルに囲まれたビルの一角に、「新宿歌舞伎町能舞台」はある。奥まった入り口を、さらに2階へと上がり、ようやく扉が現れる。確かに「普通」ではない。
だが、この場所の歴史は、1941年まで遡ることが出来る。
当時は「淀橋区角筈一丁目北町」という地名であったこの地は、戦時下に街の大部分が焼失。復興に際した町おこしとして、当時の町会長である鈴木喜兵衛が目指したのは、歌舞伎を上演する劇場を中心とした「文化の街」だった。歌舞伎座の誘致を目指し、1947年に今の「歌舞伎町」という名称に至ったのだが、結果的に歌舞伎座の誘致は実現せず、皮肉にも今の「歌舞伎町」という名称だけが残った…。

はずだった。

「新宿歌舞伎町能舞台」

そうした歴史の中で、1941年に誕生した「中島新宿能舞台」。2022年からは名称を変え、「新宿歌舞伎町能舞台」となる。ホスト事業を中心に展開するSmappa!Groupが施設を購入したのだ。会長の手塚マキさんは、歌舞伎町商店街振興組合常任理事を務めるなど、現在の「歌舞伎町」の文化的発展に尽力している。彼の話は【インタビュー】東洋一の歓楽街を回遊する。「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」の舞台裏 – 手塚マキ編で触れた通りだ。また、彼の著書『新宿・歌舞伎町 人はなぜ〈夜の街〉を求めるのか』に詳しい。

「中島新宿能舞台」に「歌舞伎町」という名前を加えたのは、そんな彼の、「鈴木喜兵衛の意志を継ぐ」という決意の現れなのかもしれない。

「新宿歌舞伎町能舞台」から外に出たところに居合わせた、飲食業に勤めるという女性に話を伺った。

「過去に開催された「ナラッキー」がきっかけで王城ビルを知りました。普段はあまり歌舞伎町には来ないですが、2Fの唐組の公演や、新宿歌舞伎町能舞台もすごかったです。」

鈴木喜兵衛の描いていた街の未来像まで、時間はかかるかも知れない。だが着実に、このラブホテル街にも、歴史の流れ、街の土壌から生まれるダイナミズムを感じた瞬間だった。

鑑賞者ではなく、誰もが参加者。歌舞伎町のロッカーには何がある…?

続いて向かったのは、会場の1つであるセレクトショップの「THE FOUR-EYED」。アーティストのぼく脳さんによる「フォー横闇市場」が開催されている。

ぼく脳

「フォー横闇市場」はどういった取り組みでしょうか?

ぼく脳 – 近年のフリマアプリや古着の高騰の仕方を見ていると、「闇市」に近いものを感じるんです。元々「闇市」って生活に必要なものが手に入らなくて生まれたものだと思うので、今回は闇市化した、フリマアプリなどのデジタルの世界に流れていったものを、あえて現実世界に戻す、みたいな文脈で考えています。体験とか概念に焦点を当てていて、「お金」じゃ買えないメニューもあったり。それをセレクトショップという華やかなお店の横でやるということに意味があると思います。

個人的な目玉商品はありますか?

ぼく脳 – 歌舞伎町の街中にあるロッカーを1つ借りて、その中に展示物を入れたんです。歌舞伎町ってかなりロッカーがあるんですけど、その中のどれか1つに展示があって、鍵自体がどこのロッカーの物かも探さないといけないんです。

ちょっと闇取引のようなイメージですね。参加者の人に何かコメントを頂けますか?

ぼく脳 – 普通に「アート」を観に来るだけでも勿論いいと思いますが、例えば今言ったような体験だったり、一緒に散歩したりとか、「一緒に何かをする」という形が多いイベントだと思います。だから誰ひとりとして鑑賞者なんていなくて、ここに来た全員が参加者。ぜひ積極的に呑んだり、買ったり、体験したりしながら街を歩いて楽しんでください!

歌舞伎町の真ん中で「みそ」を仕込み、踊る

「生活パーティー feat.みそ仕込み」の様子

続いて向かった先は「デカメロン」。
2020年にオープンしたアートスペースで、2Fに作品を展示、1Fには作品を鑑賞した後に対話が生まれるようにとbarが設けられている。
この場所で今夜行われているのが、アーティストの下司悠太さんによる「生活パーティー feat.みそ仕込み」だ。今夜仕込んだ「みそ」は、湿気の少ない常温で保存し、だいたい1年後に食べごろなんだとか。

DJが音楽を流しながらのみそ仕込みの現場とは、一体どのようなものなのだろう。

「生活パーティー feat.みそ仕込み」会場の様子。右側男性がアーティストの下司悠太さん。

歓楽街のど真ん中で、「みそを作りながら音楽に合わせて踊る」。かなり珍しい試みだったと思いますが、いかがでしたか?

下司悠太 – デカメロンのギャルバーのギャルたちが、みそ汁をこんなに楽しんでくれるとは思わなかったです。すごく嬉しかったですね。

開催に当たって何か想いはありますか?

下司悠太 – 家事労働とか、生のための行いは、「金銭価値」を得づらいですよね。そうしたことを「歌舞伎町」でやるっていうギャップは面白いんじゃないかなと思いました。ただ、みそ仕込み自体は3年前からやっていて、毎年20キロのみそを仕込んでいます。かなり大変で、こういう時こそ、「音楽があるといいな」と、そういう思いから始まりました。この活動を通して何かを訴えたいというよりかは、自分の中の欲望というか、そういった思いが大きくもあるんです。

続いて、偶然居合わせた「みそ仕込み」体験中のパフォーマーの坂口涼太郎さんに感想を伺った。

参加していたパフォーマーの坂口涼太郎さん

みそ仕込みを体験してみての感想を一言お願いします。

坂口 – 坂口涼太郎です。パフォーマーをやっています。歌舞伎町で踊りながら仕込んだみそが、1年後のこの時期に完成して、その感想をまたこの場所に伝えに行きたいです。

研究者として俯瞰する。齋藤直紀の見据える都市の姿

GROUP 齋藤直紀

「WHITEHOUSE」で開催されているのは、建築コレクティブGROUPによる展示、生きられた新宿「Parallax city」だ。
批評家の多木浩二の残した2000枚あまりの新宿の写真。そこに折り畳まれた彼の新宿への視線から、彼のいない2025年の新宿、ひいては100年後の都市に目を向ける。そんな建築コレクティブGROUPのメンバーであり、東京大学未来ビジョン研究センター特任助教でもある齋藤直紀さんに話を伺った。

今回の展示はどういったものでしょうか?

齋藤 – GROUPとしては映像だったり、インスタレーションだったり、あるいは群像写真だったりというものを、MoMAで開催された「Shinjuku: The Phenomenal City」に展示された作品をもとに作成しているんです。そうしたたくさんの要素の合わさった点は、今の新宿という街の、ある種雑多な感じと共通するかも知れません。

「BENTEN」では、歌舞伎町という街で、同時多発的にあちこちで色々なことが起こっています。都市の研究者である齋藤さんだからこそ出来ると考えていることはなんでしょうか?

齋藤 – 都市をテーマとしたアート作品というのはたくさんあって、僕自身もすごく共鳴するところではあるんですけど、一方で「都市」と言っていれば何でも成り立つような飽和状態に近いのかなと思っています。僕自身は都市空間の研究者として都市をリサーチした上で、成り立つアート作品というものを提示できればなと、それだけがテーマではないけれど、そうした点で別の姿を提示できるかなと考えています。

生きられた新宿「Parallax city」

こうしたイベントを通して、歌舞伎町という街がどのように変化していくと予想しますか?また、こんな風に変わっていってほしいという、願いのようなものがあれば教えてください。

齋藤 – 50年前に多木浩二さんが、「新宿には、モニュメントがない。目に見える構造というものがなくて、人々の活動によって、新宿というものが出来上がっている」と言っているんだけれども、50年経った今、その多木さんが言っていた新宿像みたいなものは、パッケージングされて、東京の都市のどこでも見られるようになっている。それでも多木さんは逆に鋭かったのかなと思っているんです。

今後、新宿に望むものとしては、特にこう変わってほしいとか、こうあってほしいというものはないんだけれども、新宿だけはこの猥雑さというか、ある種、怖さみたいなものはあり続けるのかなとは思います。都市開発は、そうした部分を少なくしていく作業の側面がありますが、グレーな部分が全て無くなるのはどうなのかとは思いますね。と言うより、何か操作をして変えられるようなものではないと思っているので、研究者として、もう少し俯瞰して見ていられればいいかなと思います。

王城ビルで待ち合わせ

王城ビル

再び「王城ビル」へと歩を進める。
「デカメロン」の「生活パーティー feat.みそ仕込み」で出会った方に、ミソが出来上がってひと段落ついたら話が聞きたいから電話が欲しい旨を伝えていた。「王城ビル」1Fで開催中の飲食店や物販が立ち並ぶ「アー横」で待ち合わせをした。

「デカメロン」で開催された「生活パーティー feat.みそ仕込み」に参加したお2人

イベントに参加したきっかけを教えてください。

– Instagramの広告で知りました!新宿や高円寺で活動しているアーティストの友人も知っていて、開催前から話題に上がっていました。「王城ビル」のアートイベントにも何度か行ったことがあったんです。

「BENTEN」を通して歌舞伎町のあちこちを歩いて回ったと思いますが、何か歌舞伎町への印象が変わったり、新しい発見はありましたか?

– 能舞台があることは全然知らなかったですね。建物の隙間に入り込んでいって、すごい場所にあるなと結構驚きました。

みそ仕込みはいかがでしたか?

– 「王城ビル」の受付のところにチラシが置いてあって、行ってみたらすごく楽しかったです。持ち帰って保管して、1年くらいしたらカビを取って食べられるみたいです。大豆の水分が抜けて浮き上がってきて、その部分は醤油として使えるとか、作る人の手の細菌によって味もちょっと変わるらしくて、色々と知れて楽しかったです。

わざわざご連絡いただき本当にありがとうございました。

2人にお礼を伝え、最後に、「東京砂漠」へと向かった。

東京砂漠

この日は13年ぶりに、「芸術公民館」が復活する。「芸術公民館」とは、会田誠さんが開いたbarで、若き芸術家たちの集うサロンであった。今はなきその場所、ならびにその意思の跡̇にできたのが、今夜の会場の「東京砂漠」だ。

今日は特別に会田誠さんがバーテンを勤めるとのこと。残念ながら会田さんがいる時間は過ぎてしまったが、23時から5時までは、会田さんの奥さんであり、同じく芸術家の岡田裕子さんが店頭に立つ。

深夜4時30分。「東京砂漠」の屋根裏部屋

東京砂漠

「東京砂漠」に着くと、そこはもう人でごった返していた。店内の椅子はもちろん、通路にまで人が溢れ、皆愉しげに酒を酌み交わし、会話を交わしている。ちょっと人が多過ぎたのと、酒の席を邪魔するのも癪だと思い、撮影だけさせてもらう。そしてもう1つ上の階、屋根裏部屋のような部屋へと階段を上がっていった。

東京砂漠最上階の様子。

壁中にペンで好き放題の文字やら絵やらが描かれ、それらは畳にまで及んでいる。「宅呑み」の中でも自由度の高い呑み場さながらの、出̇来̇上̇が̇っ̇た̇状態が広がっていた。後から聞いた話だが、会田誠さんの描いた絵の横にも、みんな好き放題に、なんでも描いているそう。ここはそういう場所。年代世代を問わないたくさんの人たち。酔いもかなり回っているであろうこの場から聞こえてくる言葉は、「村上隆」、「好きな〇〇文学」…。品のない行動は承知で、カメラの確認のフリをしながら盗み聞いていると、そこだけ聞いてももはや皆目理解不能の哲学の話までしている。堪えきれずに尋ねると、手前にいた2人、互いの「芸術論」での激論を繰り広げていたのだが、さっき、ここで出会ったばかりだと言う。

そう言えば、少し前に出くわした、会田誠を探して「BENTEN」にやってきたと言う某映画監督。「王城ビルにいるらしい!」と言って道に迷っていたので、ビルまで案内したのだが…。僕も探していた会田さん、ここで寝てましたよ…!

東洋一の歓楽街「歌舞伎町」を舞台に、3日間のオールナイトイベントとして幕を閉じた「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。街のあちらこちらで同時多発的に、様々なイベントが巻き起こる。
戦後間もないこの地を「道義的繁華街」として復興すべく尽力した鈴木喜兵衛が、未来に託した願い、「歌舞伎町」命名に際した願いは、未だ旅の途上にある。「BENTENは長期的に考えている」と語る手塚マキさんの描くこれからの歌舞伎町が、未来の歴史にどう絡んでくるのか。街のダイナミズムは留まることを知らない。

「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」※イベントは終了しました。

2025年11月1日〜11月3日に開催された回遊型アートイベント「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。「都市の再野生化」をテーマに掲げ、昨年の「BENTEN 2024」に続き、Chim↑Pom from Smappa!Groupらがキュレーションを務める。
当日は新宿歌舞伎町能舞台、王城ビル、デカメロン、WHITEHOUSE、東京砂漠などを回遊しながら、光と影の交錯するカオティックな都市のリアルを、文化としての「歌舞伎町」を味わうことができる。

日時:2025年11月1日(土)15:00-5:00/11月2日(日)15:00-5:00/11月3日(月・祝)15:00-23:00

HP : https://www.benten-kabukicho.com/

Instagram:https://www.instagram.com/benten2025_kabukicho

EDIT: Ryo Kobayashi

SHARE

人気記事

RANKING