「MANGA」。日本発祥のコミック・アートでありながら、世界的にそのままの語で通用するほどに広く普及するサブ(もはやサブでもない)カルチャー。子どもたちが夢中になり、大人も熱狂し、いまや多くのメディアでの展開を経て、日本における一大ビジネスでもある存在だ。あなたの時代の漫画体験はどうだっただろう? 兄弟から貸してもらったり、本屋さんで立ち読みをしたり、友達と学校で回し読みをしたり、病院の待ち時間の楽しみだったり……。ときに付録を集め、読者アンケートに応募する。今なら、「話読み」をしたり、SNSに感想を投稿したりといった具合だろうか。各世代それぞれの素晴らしい作品と、漫画文化が存在し、それはこの日本における数少ない国民の“共通言語”のひとつでもあり「昨日のあの話読んだ?」と語り合える素晴らしき文化だ。そんな漫画文化を「漫画雑誌」をヒントに駆け足ながらご紹介。
意外に長い漫画の歴史。
そもそもの漫画のルーツといわれているのは平安時代に遡る。巻物に擬人化した動物たちの愉快な姿を描いた『鳥獣人物戯画(鳥獣戯画)』に由来するとされる。18世紀初頭には、江戸の町民文化と結びつき、葛飾北斎による『北斎漫画』などの戯画本や、浮世絵の一分野としての戯画・風刺画が数多く生み出されることとなる。独特にデフォルメした絵柄がその出発点である。

そんな可愛らしいタッチの絵は江戸時代の子どもにも人気で、子ども向けの絵本が発売される。大河ドラマ『べらぼう』にも描かれたような出版文化の隆盛もそれを後押しした。『源平盛衰記』や『桃太郎宝蔵入』といった赤色(正確には丹色)の表紙をしたこれらは、「赤本」と呼ばれ、明治、大正、第二次大戦を挟んで戦後へと「赤本」文化が形をかえながら引き継がれていくのだ。
「子どもの読み物」の逆襲
新聞や雑誌の中で連載される形で『正チャンの冒険』や『のらくろ』といった名作も生まれた戦前の漫画界。第二次世界大戦中は物資や情報統制が起こり、漫画文化には一時的な衰退が起こる。それを打ち破ったのが手塚治虫だ。子ども向けで内容も低俗とみなされた「赤本」の世界で革命を起こした。1947年に発表した『新宝島』がロングセラーとなり、『ロスト・ワールド』、『メトロポリス』といった名作を次々に発表(藤子不二雄Aによる自伝的名作『まんが道』にもその際の感動が記されているのは有名な話)。50年代には貸本(レンタル)用に作られた漫画、いわゆる「貸本漫画」が広く流通する。『ゲゲゲの鬼太郎』の水木しげるや『カムイ伝』で知られる白土三平といったスターたちもここから誕生する。
日本が高度経済成長期を迎える50代後半から60年代。仕事で追われる人々の生活サイクルが月単位から週単位へと変化していくように、雑誌の世界も月刊から週刊へと変化。その流れをキャッチして少年漫画誌に取り入れたのが、1959年に登場する『少年マガジン』(講談社)、『少年サンデー』(小学館)だ。子ども向け路線を明確に打ち、手塚治虫、赤塚不二夫、藤子不二雄、石ノ森章太郎ら通称『トキワ荘』組の有名漫画家たちを組んだ『少年サンデー』。対してちばてつや、さいとう・たかを、水木しげる、楳図かずお、ジョージ秋山、永井豪、松本零士ら独自の異才たちが活躍し、劇画・スポ根路線を開拓していくこととなる。週刊『少女フレンド』、週刊『マーガレット』など少女漫画誌が創刊したのもこの60年代前半だ。
カウンターカルチャーとしての漫画雑誌
1960年代後半、全共闘運動の最中に言われた「右手にジャーナル、左手にマガジン」。週刊誌「朝日ジャーナル」と「週刊少年マガジン」のことだ。硬派な雑誌と並んでマンガが若者のライフスタイルに大きな影響を与えはじめた時代。64年には、日本初の青年漫画誌『月刊漫画ガロ』が登場する。白土三平の劇画『カムイ伝』を連載するために創刊されたこちら。週刊漫画雑誌のスタイルが広がったことで活躍の場を失いつつあった貸本漫画家への発表の場の提供・新人の発掘の場になり、それは結果として漫画界に“オルタナティヴ”な価値を広げていくカウンターな雑誌となっていく。手塚治虫がこの影響を受けて創刊した『COM』とともに、「漫画」のイメージや概念を拡張/変化させていく。
週刊少年ジャンプと漫画の未来。
週刊少年漫画雑誌の熾烈な売上競争が続いたのが80年代だ。この時代から王者として漫画雑誌界に君臨することとなったのが、「友情・努力・勝利」を編集方針に掲げる『週刊少年ジャンプ』(1968年創刊)だ。伝説の漫画編集者、鳥嶋和彦氏が見出した鳥山明による『Dr.スランプ』、『キャプテン翼』『キン肉マン』『北斗の拳』『SLAM DUNK』『幽☆遊☆白書』など多くの人気作が登場し、アニメ化などメディアミックスを活用した戦略で一人勝ち。売り上げは鰻登りに。公称発行部数は1994年12月の1995年3・4号で653万部の歴代最高部数を達成するまでに成長する。
テクノロジーの発達とともに、いわゆる「出版不況」と呼ばれる状況を迎える21世紀。それでも『ONE PIECE』『NARUTO -ナルト-』『BLEACH』はじめここに書ききれないほどの名作を生み出す『週刊少年ジャンプ』。現在はアプリ『少年ジャンプ+』にもその場を広げている。『怪獣8号』『ダンダダン』『SPY×FAMILY』や読切作品ながら話題となった『ルックバック』など社会現象を起こすほどの作品を届け、雑誌が行なっていた「発掘と発表の場」はネット上へと広がりをみせた。小学館でも「サンデーうぇぶり」、講談社では「マガジンポケット」など漫画アプリへと提供の場を広げている。出版不況とともに、漫画文化は終焉ではなく変容へと向かっているのだ。
これからの漫画雑誌?
『AKIRA』『攻殻機動隊』など名作を生み出してきた青年マンガ誌『ヤングマガジン』は、この夏に特別増刊号『ヤングマガジンUSA』と名付けた英語版を発行した。『頭文字D』の作者しげの秀一や、『血の轍』で知られる押見修造の新作などを含めた多彩なジャンルの19作品が収録され、WEB版は特設サイトとSNSで公開。人気ランキングの集計などもアプリとSNSで行う模様で、国籍や媒体もミックスしつつ、日本の漫画文化の核心を伝えるーーそんな試みになりそうだ。
そもそも、そんな風にミックスされることで生み出される“雑味”こそ雑誌の良さであり、そんな「漫画雑誌」の“雑多な誌面”こそが漫画文化を生み出してきた。それは今、形を変えながらも、あらゆる国の、あらゆる状況の、あらゆる人々に届いている。ページを開くワクワク。漫画雑誌の素晴らしい精神は“ドラゴンボール”のごとく、今世界中に散らばっているのだ。

