K-POPに韓国文学、韓国が発信するカルチャーはことごとく人々の心を掴んで離さない。BAM初の海外レポート、何度も韓国を訪れたことはあるが国内最大級のアートフェア「Kiaf SEOUL」には初めて訪れた。世界から注目される韓国のアートシーンを余すところなくレポートしていこう。
Kiaf SEOULに行ってきた!

ソウル・三成のコンベンションセンター「COEX」で開催されたKiaf SEOULは、2002年から開催された韓国初の国際アートフェアで、国内外の気鋭のアーティストたちの作品を紹介している。2025年は9月3日から7日まで開催され、世界20カ国以上から175のギャラリーが参加した。ソウルは世界のアート市場においても最も活気に満ちたアジア都市の一つでもあり、Kiaf SEOULはグローバルプラットフォームとしての役割を担っている。
まず初めに驚いたのは、その来場者数の多さだ。初日のプレヴューデー*1に伺ったのだが、老若男女ありとあらゆる人が訪れていた。
*1 :イベントに先行して入場できる日のことで、一般的には初日に設定されることが多い。Kiaf SEOULでは招待客及び一般チケットよりも高いチケットを購入して入場できる。
同時に開催されたFRIEZE SEOULと合わせて、韓国の現代アートシーンへの注目度が伺える。
三つのホールにまたがって開催されたKiaf SEOULではギャラリーによる展示と、ピックアップされたアーティストたちによるスペシャルエキシビション、カフェやショップ、VIPラウンジと一日中楽しむことができるラインナップだった。

早速、韓国のローカルコーヒーロースター「SMALL GOOD」のアイスアメリカーノ片手に「Gallery MEME」(ソウル)のブースに立ち寄った。
チョ・ウンジー不思議に満ちた気鋭のアーティスト
Gallery MEMEはギャラリーが多く位置する仁寺洞エリアに2015年に開館し、現代美術の境界に挑戦する次世代新進作家たちを発掘・支援し、中堅作家や海外作家と合わせて展示している。時代の新しい感覚を覚醒させて拡張していく文化伝達者(ミーム)としての役割を果たすという意味が込められている。

インスタレーション形式で絵画を展示するチョ・ウンジ(Jo Eunji)は1999年生まれでソウルをベースに活動しているアーティストだ。韓国国内で活躍する若手アーティストの作品が鑑賞できるのもアートフェアの魅力だろう。

絵画作品を立体作品として表現したり、謎めいたモチーフや図式を多用する独特の世界観のチョの作品には、断片的な記憶を繋ぎ合わせたショートストーリーのよう。今年のKiaf Highlight 10にも選ばれた注目の作家の一人だ。
韓国の伝統をレペゼンする
続いて訪れたのは「Gallery Vit」(ソウル)だ。Vitは暗闇から光へと生命の源泉となり、世界中の美術を照らし、深い感動を求めるという願いから2003年にオープンし現在はソウル・鍾路エリアに位置している。さまざまなアートフェアにも参加しており、韓国のアーティストを世界中に発信するギャラリーだ。

ハン・マンヨン(Han Manyoung)は国家独立後すぐの1946年にソウルで生まれたアーティストだ。激動の時代を生きたハンの作品には現実と非現実が混ざり合って共存する。代表作である「Reproduction of Time」のシリーズは1984年から制作を続けており、ダヴィンチの「モナリザ」やマティスの「ダンス」、ロイ・リキテンシュタイン作品など世界中の名作を作品に散りばめ、時間という概念を解体していく。

今回展示された作品は、朝鮮時代から使用されてきた清華白磁をリファレンスに制作されている。東洋と西洋、二次元と三次元、過去と現在など異なる要素を一つのキャンバスに表現することで時間と空間を超えた概念を作品に閉じ込めている。
韓国の消費社会への風刺的な作品も
Kiaf SEOULで印象的だったのは、有名ラグジュアリーブランドの商品やアイコンをモチーフとした作品の多さだ。

2003年にオープンした「Gallery PICI」のブースで展示されたビョン・サンホ(Sangho Byun)の「I love my job x 3」は現代社会における多様な欲望に向き合い、現代人の溢れる欲望とエネルギーを伝えるため、背景は生々しい色彩で構成されている。

ソウル・チョンダムドンエリアの「Gallery WE」のブースではキム・ソンヨン(Sunyoung Kim)の「She Who Dances」が展示されていた。まるで転がる玉のように膨れ上がったバッグがモチーフの巨大な彫刻は、鑑賞者が触れると、優しく揺れ出す。人間の持つ不安定さのバランスや、柔軟性を比喩的に体現している。そういえば、会場の人々の持ちものを見れば、バーキンやケリー、そしてシャネルのマトラッセなど高級バッグのオンパレードだった。Kiaf SEOULで彼らの作品を展示することは、韓国経済のひずみに対する風刺であると想像するに容易かった。
大盛況の中幕を閉じたKiaf SEOUL。アートマーケットの最前線を体感した1日となった。