【Interview】Mika Pikazoにしか表現できない色彩 – 後編

Vtuberの輝夜月やハコス・ベールズ。ディズニーの作品をイラストで表現した『Disney Collection by Mika Pikazo』。更には「ファイアーエムブレム エンゲージ」、「Fate/Grand Order」などのゲーム内に登場するキャラクターデザインに至るまで、近年では「イラストレーター」の枠を超え、活躍の場を広げてきたMika Pikazo。個展の開催にも積極的な彼女の仕事ぶりを見ると、間違いなく多作と言っていいと思う。何がここまで、彼女を“創作”に向かわせるのか。

過去のたくさんの素晴らしいインタビュー記事、その当時から、2025年9月現在に、彼女は何を思っているのか。Mika Pikazoさんのインタビューを前後編でお届けします。

FLOWERS OF THE HEAD

メンターとの出会い

Mika Pikazo(以下、M) – 尊敬している方で、とある音楽会社さんのプロデューサーさんがいるんです。クリエイターとかアーティストって、外に向けて作品を表現していく人たちだと思うんですけど、その人は、何気ない日常の中で、ちょっとした瞬間、エンターテインメントのようなものを見せてくる。もう7、8年の付き合いになるんですけど、こんなことをできる人が世の中にいるんだ、と驚いた方でした。その方は多分、「この人に今こういったことを言うべきだ」みたいなことがすごく分かる人で、自分がどうしようもないくらいメンタルを崩していた時に、最後にこの人に会いにいこうと思って、泣きながら相談しに行きました。

GALVANIZE

そんなすごい方がいるんですね!

M – そうなんです。私が「本当に辛くてしょうがないけど、絵のことを考えず休むべきだと周りから言われたけど、でも休みたくないんです、描いても休んでも辛くて、どうしたらいいかわからない」って。そしたらその方に「じゃあ今のMikaさんの想いを絵のコンセプトとして昇華させるべきだ」って言われて。「 絶対それ、絵に入れた方がいい。元気になっちゃったら今の気持ちはもう描けなくなるよ」と。 それから、今の自分にしかできないことってなんだろうと考えに考えて、辛い気持ちを日記に書くようにしたんです。辛い、悲しいとか、同じような言葉がすっごい書かれてるんですけど、それを書くことによって、展示会のコンセプトにできないかな、とか。 今の気持ちををちゃんと物語とか絵に入れようって思って。 辛いってすごく主観的じゃないですか。その主観的なものっていうのは、もう、周りが見えないような状況でしか作れないから。 当時はめちゃめちゃ辛かったし、自分が描いた絵がいいかどうかもわからなくなっちゃって。もっとできたんじゃないかとかも思いながら完成させたのですが、今その絵を見たとき、「本当にそのときにしか描けないものがあるんだ」と思います。あんなに辛くて悲しかったのに、自分が描いた絵は優しい顔をしていた。しっかり当時の感情が込められていて、本当に好きだなと思いますね。描いてよかったです。

宇宙を漂う1人の少女

それはちなみにどの作品ですか?

M – 「UNDER VOYAGER」です。展示会のタイトルの絵ですね。宇宙に漂ってる女の子の絵なのですが、当時の自分の心理状況とかもそうですし、呼吸ができなくて、いろんなものが浮遊して止まっていて、でも信号だけは発せられている…みたいな…。

個展「UNDER VOYAGER」メインビジュアル

宇宙探査機「UNDER VOYAGER」に
乗っていた人間少女”ライカ”(LAIKA)は
探査機の故障トラブルにより、
宇宙のどこかに墜落してしまった。
意識不明のライカが目を覚ますと、
そこには見たことのない世界が広がっていた…
探査機はもう壊れて動かない、
この星で生きていかなければいけない
身体負傷、混濁した記憶の中、
ライカの生きる希望を探す旅が始まった。

展示「UNDER VOYAGER」のプロローグにはこのように書かれています。今の話も踏まえると、当時のMikaさんの心情と本当にリンクしていますね。展示を企画する時は、大抵どういったプロセスで制作に入るのですか?

M – タイトルとコンセプトから決めます。その後に展示の空間的な演出を決めて、ようやく絵の制作に入ります。もともと描いてあった絵を展示することもあるのですが、既にある絵をどう見せるかというよりかは、空間があって、その後に、ここの部分にはこういう連作を描こうかとかっていうイメージです。

そのベースの中で、一枚一枚の絵に、その時点での感情を込めて描いていくと。

M – そうですね。

個展「UNDER VOYAGER」会場の様子

短歌とイラストの化学反応

ちなみに今計画している展示などはありますか?

M – 「感情展」という展示を来年に開催予定です。これまでの自分の個展とは違って、クリエイティブディレクション的な挑戦としての意味合いが大きい展示企画です。自分の絵は一つの表現ですが、やってみたいことは自分の絵だけではなく、もっと複合的に面白いものを作ってみたい…。そういった想いで今回こうした形を試しています。

Mika Pikazo「感情展」メインビジュアル/2026年2月13日より開催予定

展示のテーマについて教えてください。

M – テーマはタイトルにある通り、「感情」です。短歌に関しては、著名な短歌作家である方々の作品や、現代のイラストレーションを盛り上げている様々なイラストレーターの方々に参加していただきます。

短歌とイラスト!それぞれの表現はどのように絡むのでしょうか?

M – 短歌とイラストは、一見文字と絵といった異なる表現手法を用いて作品へと昇華していますが、根本的には、クリエイティブというものは、人間の中から沸き立つ感情があって、そこから生まれると思うんです。楽しいから描く、怒りや悲しみを表現する、そういった感情そのものが作品の起点になると考えました。だからこそ、作るに至るプロセスはみんな同じところから始まっているのではないかって。今回は、そうした「感情」がテーマの展示にしたくて、「感情展」という名前を付けました。形容詞としてはひとつの感情の表現でも、文字としてはこういった複雑な表現が絡んでいて、絵ではまた全く異なる、言葉にできない表現になるとか。あとは、怒りとか楽しさを感じる時って、いろんなものを内包していると思うんです。怒ってるけど、本当は悲しい、とか、楽しいけど焦ってる、みたいに、表面だけではわからない何重にも重なった思惑がある。そういったところにフォーカスした作品で構成しています。

Mika Pikazoは「アート」なのか

そうしたディレクション的な要素をはじめ、「イラストレーター」として型にはまらないご活躍だったり、イラストに和柄を取り入れている点からは、日本と海外を繋ぐ意識、アートと日本のカルチャーの融合、といったような、例えば村上隆のような感覚もあったりするのかなと思ったのですが、いかがですか?

M – 例えば、日本を代表する芸術表現のひとつに、「浮世絵」がありますが、元々の始まりとして芸術ではなく、グラフィックというか、エンターテインメントの文脈が強いですよね。 「漫画」とか「アニメ」も娯楽として作られたものとして既に確立している。だからこそ、それ自体が何事にも代え難い世界に匹敵する芸術表現だと思いますし、すごくそこに対するリスペクトがありまして。アートとして表現をするというよりも、誰かを楽しませるために作った浮世絵や日本の漫画・アニメがあって、そこから多角的な解釈が広がっている。そういったエンターテインメントに強く影響を受けたんだと思います。だからこそ、娯楽から生まれる芸術表現を突き詰めていきたいのかもしれません。

和装少女

再解釈したり、それこそディレクターズカットをしなくても、本来のもの自体がいいよねっていう。

M – もの自体が本当にすごいものだから。そこに誇りを持ってるし、自分も影響を受けて表現をしている。

Mikaさんの作品で言うと、「アート」という認識よりかは、“エンターテインメント”として出しているという感覚なんですね。

M – そうですね。  アメリカの音楽などのポップシーンでは、 彼らは作品に込める社会的なメッセージが強いんですよ。例えば政治的・宗教的な観点がクリエイティブと一体になっている。それを軸に自分はここに立っているっていう感覚がすごく強いと思うんです。日本の場合は、それが結びついてい̇な̇い̇ことの面白さだなって思うんです。空想の世界、ストーリーというか。信念や思想があえてぼやかされているからこその狂気があると思います。「初音ミク」とか、Vtuberとか、空想を空想の世界で描ききることって、ある種、日本独自の世界だなと思います。 そこに私はリスペクトと誇りを感じています。私自身がそのコンテンツに囲まれて育って、熱狂して、このエンターテインメントにしか表現することのできない希望の光がある、と思っています。

一般的に、美術館や展示会において、1枚の絵に対する鑑賞時間は15秒から30秒とされる。SNSをはじめ加速化する情報社会において、ひょっとすると、デジタルのイラストに与えられた時間はもっと少ないかもしれない。ただ、例えそのほとんど一瞬においても、Mika Pikazoの作品はみずみずしい躍動感を放つ。「私はここにいる」と。そして気付けば暫く眺めてしまう。それは“絵を描く”技術力の結晶であると同時に、それ以外の“何か”が影響している気がしている。迷信は信じないタチの私だが、想いの込められたモノには、魂が宿る。そう信じ始めている。

EDIT: Ryo Kobayashi

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