今週読みたいアート。アーティストによる書籍編 Vol.1

美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。

よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。

6月。梅雨の湿気や新年度の疲れが溜まって気が滅入っている人も、落ち着いた日々を過ごせた人にも、刺激的な読書で印象深い初夏にしてみるのはいかがでしょうか。今回は「アーティストによる名著」をご紹介。作品ばかりじゃなく、作家本人による言葉には面白い部分がたくさんある。インスピレーションを受けること間違いなし。

◯『自分の中に毒を持て: あなたは”常識人間”を捨てられるか』岡本太郎・著(青春文庫)

「自分の中に毒を持て: あなたは”常識人間”を捨てられるか」1993年、岡本太郎・著(青春文庫)出典:青春出版公式ウェブサイトより引用

大阪・関西万博の開催で、1970年当時の万博の映像を目にする機会も多いこの頃。当時から現在まで絶大なるインパクトを残すのが『太陽の塔』。作品と同じく、亡くなって約30年が経った今もなお存在感を発揮しているのが作者の岡本太郎だ。「芸術は爆発だ」の名言に代表されるように、言葉の訴求力も高い岡本。「無難な生き方ばかり選んでないか」「自分の殻を破ってみないか」「自分の中に毒を持ってみようよ」そんな意図が込められた刺激的で人間愛に溢れた岡本の金言の数々に痺れる。チルが求められる時代にこそ必読……いや必毒の一冊。

◯『グレン・グールド著作集』グレン・グールド・著/ティム・ペイジ・編/宮澤淳一・訳(みすず書房)

「グレン・グールド著作集」2025年、グレン・グールド・著/ティム・ペイジ・編/宮澤淳一・訳(みすず書房)出典:みすず書房公式ウェブサイトより引用

カナダといえばマーシャル・マクルーハンなどメディア論・メディア研究の大家を輩出した国でもあるけれど、同じく20世紀に活動したカナダの知識人として、グレン・グールドを推したい。ピアニスト、グールドは22歳で米国デビュー。若い頃より名声を欲しいままにしたが、64年のリサイタルを最後に突如として舞台から退き、以後はレコードと放送番組のみで演奏活動を続けた一風変わった存在だ。クールな佇まいに、独自の解釈を施した演奏から、いまだにファンも多いグールド。音楽論やメディア論をめぐって文筆も行なう思想家としての一面も持ち合わせる。35年ぶりとなる新訳で、彼の辿った軌跡と深い思考の数々を追ってみてほしい。伝説の「クラシック」ピアニストが如何に「現代」を鋭く分析していたかがわかるはず。

EDIT: Ryoma Uchida