和菓子の中にみる感性と色彩の宇宙

今世の中でちょっとだけブームになっているお菓子がある。それは和菓子だ。和菓子と聞くと古くから日本に伝わる伝統を受け継ぐといったクラシカルな印象を持つかもしれない。古くから練り切りや飴細工など、造形的な指向のある和菓子。食べられてしまうという一瞬の儚さを切り取った和菓子に、世界中の人々が共鳴している。

そんな和菓子に新たな風を吹き込んだニューエイジたちや、伝統を守りながら新たに芸術的な和菓子のあり方に挑戦する老舗、和菓子を切り口に作品を制作するアーティストまで、和菓子とアートの最前線を特集してみよう。

和菓子発祥の島から発信する新たなかたち

現在でも食べられている和菓子の発祥は、江戸時代から外国との交流が盛んだった長崎県にあるとも言われている。砂糖の入手が比較的容易だったことを受けて多くの和菓子がこの地で制作されていた。

長崎県平戸にて開催された“Sweet Hirado”は、定期的に茶会というイベントを介して新たな和菓子のかたちを提案している。

2016年からスタートしたこのプロジェクトではオランダ人アーティストのINA-MATTとRoosmarijn Pallandt を招き、平戸にある老舗の菓子屋とコラボレートした和菓子を発表した。

開催された「sweet hirado」の様子

茶会で使われる茶器や器は特別にデザインされた地元・長崎県の三川内焼やオランダのガラス器、シルバー器などを使用しており、目でも楽しむことができるようになっている。

アーティストたちは、約200年前に平戸藩主松浦凞公が町民の為に作ったお菓子図鑑“百菓之図”からインスピレーションを受け、新たな伝統と革新のお菓子の“平戸菓子”を製作し世界へと発信している。

制作された24種類の和菓子は、それぞれが独自のストーリーを添えてWebにて公開されている。画面を見ているだけでもうっとりしてくる和菓子たち。イベント以外では、Webからのオーダーを受け付けているそうだ。

和菓子を“うつわ”から考える

2025年で10回目を迎えた「うつわと和菓子」展。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科陶磁専攻の学生23名が、老舗和菓子屋「とらや」の菓子を題材に制作した器の企画展示だ。

和菓子を楽しむ行為を、味や見た目だけでなく空間的な広がりの中で考え、和菓子を盛る“うつわ”をテーマに作品制作に取り組んだ展示だ。学生たちは、普段とらやで研鑚を積んでいる和菓子職人たちによる和菓子作りのワークショップを体験し、和菓子の意匠にこめられた日本の多彩な季節感や心情を学び、「和菓子」と「うつわ」の関係性を再構成する。

また、この展示でコラボレートした「とらや」は日本を代表する和菓子屋でありながら、主要店舗にてギャラリーを併設しており、2024年の1月から東京ミッドタウン店にて「和菓子とマンガ」が開催された。

8作品全10冊のマンガを紹介しながら、和菓子が登場するシーンを抜粋。和菓子屋が舞台といった作品や和菓子が主題の作品だけでなく、読んでいくうちに思わず和菓子に興味を惹かれるものや、「このお菓子を食べてみたい!」と感じられる作品をセレクトし、アートの視点から「和菓子」のイメージを変化させるような展示を開催している。

独自の感性で和菓子をアップデートする新参者

菓子屋ここのつ

菓子屋ここのつは、日本に古くから伝わる伝統的な和菓子と製法を踏襲しながら独自の美意識の中でアップデートし、変えなくていい事と変えていくべき事を和菓子を通して伝えていく。

ここのつのインスタグラムの中に閉じ込められた菓子たちは、素朴ながらも息を呑むほどの美しさで人々の心をつかんでいった。現在は浅草の鳥越にて「菓子屋ここのつ茶寮」を営業しており完全予約制・写真撮影禁止という徹底された環境の中で全身でここのつの菓子を楽しむコースを楽しむことができる。

公式ウェブサイト「妄想写真家」より

主宰の溝口実穂さんは食物栄養科の短期大学を卒業後、京都と東京の和菓子店で修業を積み、23歳という若さで「菓子屋ここのつ」を立ち上げた。和菓子をとりまくルールや概念にとらわれず、日本の食材や季節、色彩を活かした新しい菓子を提案している。古くから和菓子作りに使われる素材を用いながら洋の技法を取り入れたり、旬の果物や食材を和菓子的な視点で再構築している。

食べられる彫刻としての和菓子

坂本志穂は、現代的な感性で和菓子をデザイン・再構築するフードアーティストだ。自身のブランド “紫をん”を主宰し、伝統的な和菓子の技法をベースに、見たことがないような和菓子の作品を国内外で発表している。

「sprout / 萌芽」公式Webサイトより

彼女は和菓子を食べられる彫刻と形容する。自然の中にある花の色や草木の匂い、季節の喜びといった日本に古くから存在している感性と、和菓子の持つ光や温度、湿度、時間といった目に見えない要素を結びつけた和菓子を制作している。徹底されたビジュアルや表現は、インスタグラムなどのSNSでも人気のコンテンツで、日本だけでなく海外からのファンも多い。

日本ならではの伝統と製法を生かした和菓子。見た目の美しさだけでなく、ほどよい甘さと季節感を味わえることも魅力の一つとなっているが、作家たちに共通しているのは、和菓子の持つ儚さだ。食べるのも惜しいような“アート”な和菓子を食卓に一品追加して、新しい感性を磨くきっかけにしてみたい。

EDIT: Ryo Hamada

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