「歌舞伎町」の光と影を、街の文化を通して再発見するアートイベント「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」が開催される。キュレーターを務めたChim↑Pom from Smappa!Groupにとって、改名前のChim↑Pomから現在に至るまで(改名に至る詳細は美術手帖掲載のインタビュー記事「Chim↑Pom from Smappa!Groupはなぜ改名を選んだのか? 「変異」することの重要性」に詳しい)、手塚マキ氏は「歌舞伎町」と彼らを繋ぐ重要な役割を担ってきた。そしてこの手塚マキ、彼らだけでなく「歌舞伎町」と“外界”を繋ぐハブ的な役割でもある。
1997年にホストとして足を踏み入れ、現在は数多くのホストクラブや飲食店、美容サロンを展開する経営者である手塚は、歌舞伎町商店街振興組合常任理事やボランティア団体「夜鳥の界」を立ち上げるなど、歌舞伎町のイメージアップや文化的側面に貢献してきた。(彼と歌舞伎町の激動の物語は、彼の著書『新宿・歌舞伎町 人はなぜ〈夜の街〉を求めるのか』に詳しいので是非読んでみてほしい。)
そんな彼の見つめるこれからの歌舞伎町は、一体どのようなものなのか。「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」を通して目指す未来と、揺るぎない「歌舞伎町」への愛を紐解いていく。

サイアノタイプ、部屋、インスタレーション
撮影:森田兼次
Courtesy of the artist, ANOMALY and MUJIN-TO Production
歌舞伎町の“深部”を、現代アートに乗せて
卯城さんからはアート的な視点でのお話でしたが、手塚さんは行政との連携を含め、歌舞伎町で様々な活動をされてきました。今回の「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」への想いを聞かせてください。
手塚 – 元々、戦後にこの街を文化で復興させようという流れがあったんです。その中で現代アートというものは、社会現象をしっかり捉えて表現できる。今回の場合は「都市の再野生化」というテーマですが、表層的な部分だけを見せるのではない現代アートは、変動が著しい歌舞伎町にぴったりだと思います。
手塚さん自身、今回のイベントにおいて、歌舞伎町で働く人たち、もしくは歌舞伎町の外の人たち、どちらにより重点を置いていますか?
手塚 – 中の人たちをもっと楽しくしたいという思いが強いです。それは実際に今歌舞伎町にいる人たちだけではなくて、これから働きに来る人たちに対しても。一般的な今の歌舞伎町の印象とは違う、文化的な側面を見て来てくれる人たちや、このイベントを一緒に作りたいという人たちも含めて。実際、「BENTEN」はリクルート的な側面もあると思っていて、昨年のイベントに来てくれた人がそのまま働いて頂いているケースもあるんです。

王城ビルで開催される表現・物販・飲食が交錯するカオスな横丁「アー横」
「中の人」の意識を変え、通り過ぎない街へ
手塚 – SNSを生活の中心にしている人は多く、そこは紋切り型のわかりやすい偏った表現で溢れています。歌舞伎町の刹那さは、そういうマインドが顕著に現れやすい。そして表層的なわかりやすいものが注目されやすい。だからこそ集まる人たち、働いている人たちの自我だったり、現場の実際の感覚が希薄化していく。そうした大方の印象と、リアルな内情との齟齬を少しずつ調整させていければいいな、という思いがあります。
でないと、自分たちがこの街に対する地元意識というか、「俺たちがここで何かを生み出しているんだ」「ここが俺の地元なんだ」と思えなくなってしまう。通り過ぎるだけの街になってしまう。それもそれで魅力的な部分はあるんだけれども、僕らは「居続けている人間」。そのことに対する意味付けができるようにしていきたい。どのように街の中の人たちを巻き込んでいくかを常に考えています。「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」は長い目で見ていて、徐々にそうした流れを生み出していきたい。

歌舞伎町の歴史の中で、同じように街を変えようと試みた鈴木喜兵衛さん(※戦後の歌舞伎町復興に尽力した人物)も、最初は周囲から理解されなかったり、失敗もあったそうですね。
手塚 – そうですね。鈴木喜兵衛の後を継いで街に文化を落とし込んでいったのは、商売で財を成した台湾人の方々が中心だったりするんですよね。綺麗事だけではなく資金的な部分と、追い求めている理想の部分、どちらが欠けてもダメなんです。そのバランスを僕が持たなきゃいけないものだと思っています。今回のイベントでは、我々Smappa!Groupが借りているテナントが半分以上の会場という点は非常に不甲斐ない。今後はそういう思いを持った歌舞伎町の中の人間を集めて、もっと街全体を巻き込んでいきたいです。
今以上に街全体を巻き込んだ形を実現する為に、何か考えていることはありますか?
手塚 – 今回のように現代アートを皮切りに海外も含めてリーチできるのは良いことだと思いつつ、僕としては、もっとエンタメ的なこととか、気楽に中の人たちが商売にも繋がりやすく関われるものも増やしていきたい。

アートを核に「文化のアートイベント」へ
今、ゴールデン街は外国人観光客で溢れ返っていますが、その辺りのインバウンドの増加についてはどうお考えですか?
手塚 – お金儲けを考えるなら、外国人向けにガンガンやればいい。ただそうすると、表層的なわかりやすい歌舞伎町というものにしかならない。先ほどの話のようにそれはそれで必要ですが、中の人間たちで彼らとも交わりながら文化を醸成していくようになると良いですよね。
そのバランス感覚で、一番重要なポイントはどういったところになるのでしょうか?
手塚 – 自分の役割としては、まずアーティストじゃないというところがあって。だからこそ、現代アートがどういうものであるかということをちゃんと理解しつつ、アートだけでない街の行く末を、どうやって外と繋げるか。その時に伝わる歌舞伎町像というのが、いかに現場の実像と齟齬がないかの舵を取ることだと思います。
なるほど。第三者視点的なイメージで。
手塚 – そうですね。歌舞伎町の解釈を間違ったりすることに関しては気を付けないといけない。
歌舞伎町を知り尽くしている方ならではのアドバイスですよね。いわゆるアートキュレーションというよりは、歌舞伎町キュレーションをしているような。

「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」の会場の1つである「東京砂漠」
手塚 – 要は「どういう風に見られてるか」ということの理解がとても大事。歌舞伎町という街を今後どうしていきたいかというより、それを理解しつつ現代アートの文脈にしっかりと乗せて、尚且つそのクオリティが担保された上に、エンタメ的な要素を入れて間口を広げる。そうしてできたものは筋が通っていると思うし、アートだけではない、街としての芸術祭のように変わっていくと思います。その真ん中に、きちんと現代アートが立っているというのが一番綺麗な形。これが僕のやりたいことです。そうすると、現代アートに興味がない人たちも、アートの力で街に関して自分ごととして考えれられるし、積極的な街の人間になっていくんじゃないかなと思います。
あくまで街の文化がありつつ。
手塚 – そうですね。外部からの見え方もある程度調整しつつ、内部から変えていきたい。わかる人たちだけくればいい、みたいなことは全然思ってないです。あとは、昔うまくいったアイススケートリンク(※鈴木喜兵衛が試みたプロジェクト)のように、もう一度歴史を紐解いてやりたいというのもあります。昔と同じことやったってしょうがないけど、何かしらそういう、街の歴史を継承しつつ、今の時代観の中でできることをやっていきたい。

歌舞伎町で得る「人生の肥やし」
今回のアートイベントは、鑑賞者が街を回遊してはじめて成立するものだと思います。参加者が能動的に街を歩くことで、結果的に歌舞伎町をより理解できる仕組みだと思いますが、その辺は意識されていますか?
手塚 – かなり意識していますね。回遊イベントにしたのは、実際参加した人が、自分で街をどう捉えるか、ということは大事にしたい。自分の力で夜の繁華街に来て、「おもしろいな」って思ってもらう。そうしてはじめて、開催の意義があると思います。
将来的に歌舞伎町がどんな街になってほしいですか?
手塚 – 中でいろんな人たちが歌舞伎町で働いていたことが、人生の肥やしになっていくようなところです。今でも「歌舞伎町で働いたことがいい経験になってます」と言う人はいるけど、その中には、「文化」が足りない。歌舞伎町で様々な文化に触れたことが良かったと思ってもらえるようになると、とても嬉しいです。そうなると嬉しいし、その素養がある街だと思う。自分自身がどういう風に生きていくかということを考えるきっかけになる場所だから。
改めて、手塚さんにとって歌舞伎町はどんな街ですか?
手塚 – やっぱり、すごく激動しているのが歌舞伎町。この街は、世の中の激動、例えばAI革命だとか、ネット社会だとか、コロナが起きたとか、そういった歴史の「あの時変化したよね」っていうことを、物凄いスピード感で感じられる。外国人観光客の問題とかも、ネットで何かと話題だけど、画面の向こうではなく、目の前の出来事として存在している。そうした変化を肌身に感じられる。だからある意味、さっき言った世相が表層的に現れやすい。その中で、自分たちがどういう風な生き方をしていこうか、どんな人間でいるのかってことを考えられる。机上の空論だけじゃないし、綺麗事だけでも済ませられない。それがとても魅力的なことだと思います。
最後に、来場者の方に一言お願いします。
手塚 – 僕の場合、アートをたくさん楽しんでもらいたいというのもあるけど、そのついでに、街を回遊して、いろんな飲み屋とかご飯屋さんとか、街にいる人とかを眺めてもらえたら嬉しいですね。
来る11月1日、「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」を通して街を回遊する___。
すると怖くて危ない街・歌舞伎町というイメージが一変し、みずみずしい輪郭を帯びて捉え直すきっかけになるはずだ。そんな革命前夜に、本記事が少しでも寄与出来れば素敵だなと思っている。
BENTEN 2 Art Night Kabukicho
2025年11月1日〜11月3日に開催される回遊型アートイベント「BENTEN 2 Art Night Kabukicho」。「都市の再野生化」をテーマに掲げ、昨年の「BENTEN 2024」に続き、Chim↑Pom from Smappa!Groupらがキュレーションを務める。
新宿歌舞伎町能舞台、王城ビル、デカメロン、WHITEHOUSE、東京砂漠などを回遊しながら、文化としての「歌舞伎町」を味わうことが出来る。光と影の交錯するカオティックな都市のリアルを、ぜひ現場でご覧ください。
日時:2025年11月1日(土)15:00-5:00/11月2日(日)15:00-5:00/11月3日(月・祝)15:00-23:00
※会場によって開場時間が異なります。公式WEBサイトやSNS等によりご確認ください。
前売りチケット発売中
https://artsticker.app/events/94416 ※10/31 23:59まで
当日券
一般(1DAYチケット)¥3,500 / 前売り券¥3,000
一般(フリーパス)*3日間入場可 ¥7,000 / 前売り券¥6,000
18歳未満*¥2,500
中学生以下無料
※24:00以降は 2,000円(1ドリンク付き)で入場可能。
※一部プログラムは別途料金の支払いが必要です。
HP : https://www.benten-kabukicho.com/
Instagram : https://www.instagram.com/benten2025_kabukicho