日本を代表するイラストレーターでありアートディレクターのMika Pikazo。彼女がクリエイティブディレクションを務める「感情展-短歌で詠み、イラストで描く-」が、角川武蔵野ミュージアムで開催されている。
「短歌×イラスト」という異色な掛け算に加え、総勢50名もの作家が一堂に介した大規模展覧会。本展に合わせたBAMによるスペシャル対談シリーズ第二弾では、イラストレーター・イメージディレクターとして活躍するORIHARAと、Mika Pikazoによる対談の前後編をお届けする。
イラストレーターと、もう一つの肩書き

まずは「肩書き」について聞かせて下さい。
お2人とも2つの肩書きをお持ちで、Mikaさんが「イラストレーター / アートディレクター」なのに対して、ORIHARAさんは「イラストレーター / イメージディレクター」として活動していますね。
ORIHARA – 私の場合、イラストレーターとイメージディレクターで脳みその使い方を分けています。イメージディレクターの仕事について敢えて言葉にするなら、「世界中の誰の為でもなく、ただ1人のたったその人のために捧げる仕事」といったイメージです。(関連記事:見えない顔、見える感性 – ORIHARAが紡ぐ人間の複雑さ 【前編】)
それに対してイラストレーターとしては、そのスイッチを逆に切り替える。内側の部分よりも外装の部分に気を使いたいと言いますか、広告的な意味合いが強いものになるんです。みなさんが「ORIHARAの絵ってこういうのだよね」と言ってくださるような部分をより強調しながら、一目で「ORIHARA」とわかるように意識しながら描いています。
Mika Pikazo – 確かにORIHARAさんの絵って、「あ、ORIHARAさんのだ」ってすぐに分かる絵をしていますよね。初めてORIHARAさんの絵に触れたのがAdoさんのイラストで、作品を見ていく中で、「叫び」が聞こえてくるというか、“何か”をすごく渇望しているんだろうな、手をグッと伸ばしているんだろうなというものが感じられて。そういった部分が、多くの人に響いているんだろうなと思いました。
ORIHARA – ありがとうございます…!
一方Mikaさんもイラストレーターだけでなくアートディレクターとして活動されていますが、2つの顔を持つという点において、ORIHARAさんと通ずるものはありますか?
Mika Pikazo – 凄くありますね。私はこれまで、「人の感情が揺り動かされ反射的に目を奪われてしまう絵はどんなモノだろうか」ということをかなり意識して描いてきました。特に20代はその傾向が強かったなと思います。ただ、そうして積み上げていくうちに、ふと「反骨精神」のようなものが以前より湧いてくることがあるんです。「絶対に輪郭を捉えさせないぞ」といった感覚。それは自分自身のためでもあり、見ている人を驚かせたいという気持ちでもあります。自分の「コントロールしたい意志」とは別に、自然と湧き上がってくる“何か”があるような感覚、というか…。
ORIHARA – 凄く分かります。こうした方がいいと頭では分かっているけれど、「それだけが私の全てではありません」という、別の部分が出てくる。
Mika Pikazo – 意外とそうした側面を楽しんでくれる方もいて、そういったところから始まるアイデアや画風もあるんだ、というのは最近になって感じています。
ORIHARA – Mika Pikazoさんのイラストといえば三原色を活かした鮮やかなイメージがありますが、時々、ライティングが強めの白みがかったイラストが出てくると、「おっ!」と思います(笑)!
Mika Pikazo – 嬉しいです(笑)。あえて色彩や得意なモチーフ・技法に制限をかけたり、普段描く表現と違うものを求められたりすると面白いですよね。逆にORIHARAさんは、いつもと違うものを描いた時に「いいね」と言われると、どう感じますか? それが自信や嬉しさに繋がることはありますか?
「オリハラブランド」という“ハンコ”からの脱却

ORIHARA – やっぱり嬉しいですね。ORIHARAらしい絵を描き続けていると、ときどき「他人の借り物」を描いているような感覚になることがあるんです。受け手が作ってくれた「ORIHARAブランド」というイメージ像。その期待に応え続けることが、同じ「ハンコ」を押し続けているように感じられることもあって。もちろん同じ絵を描いているわけではないのですが、「いつも同じものばかり届けていないだろうか?」と自問自答してしまいます。
Mika Pikazo – なるほど。
ORIHARA – だから、たまに違うものを描いて、それが「いいね」と言われると、素直に「バリ嬉しい!」ってなります(笑)。
Mika Pikazo – バリ嬉しい(笑)。すごく解ります。
広告的視点と「出力先」で決まる表現

Mika Pikazo – ORIHARAさんはどういった風に描かれているのかなと気になっていましたが、お話を伺っていると、かなり「広告的な視点」も強い方なんだなと分かりました。今の活動の規模感や見られ方に、しっかりその辺りが入っているんですね。
ORIHARA – そうですね。私は、「どこで出すか」によって、描き方をかなり変えています。大きな広告として掲載されるイラストなのか、YouTubeのサムネイルという小さな枠で目立つべきなのか。あるいは雑誌という媒体の中で目を引くべきなのか。イラストを描く時には「出力先」から逆算して考えています。 Mika Pikazoさんも様々な媒体のお仕事をされていますが、その辺りってMika Pikazoさんはどう捉えていらっしゃいますか?
Mika Pikazo – 例えば私がAdoさんの1stアルバムの駅内広告を描かせていただいた時は、誰もがAdoさんを知っているという状況の中で、どうやって足を止めさせるかを考えました。

広告に関しては、自分らしさよりも「インパクト」を重視します。興味を持った人や知っている人が「Mika Pikazoの絵だ」と、分かってくれる人が1割いれば十分だと思っていて。クライアントワークについては、その案件の大事な要素を自分にインストールして、その目的のために描くという感覚が強いです。
Adoさんの話が出ましたが、ORIHARAさんはAdoさんのイメージディレクターを務めていますよね?
ORIHARA – 昨年にAdoさんの世界ツアー『Ado WORLD TOUR 2025 “Hibana” Powered by Crunchyroll』が開催されていたんです。元々観に行こうと思っていたのですが、ちょうど1人で旅をしたいと考えていたタイミングと重なったこともあり、ヨーロッパを中心に色々と回ってきました。
2ヶ月でおよそ10カ国を巡る、弾丸一人旅の裏側

Mika Pikazo – 完全に一人で行かれたんですか?すごすぎる!
ORIHARA – そうなんです。日本を出てから2ヶ月間、飛行機やホテルも全部自分で手配して、いろいろな国を巡って、最後にアメリカに行って帰ってきました。世界一周とまではいきませんが、10カ国くらいは回ったと思います。
Mika Pikazo – すごい行動力! 10カ国も!
ORIHARA – イラストレーターはどこでも仕事ができるから、旅先にも道具を持っていってあちこち移動しながら仕事をしていました。
Mika Pikazo – その時はiPadで制作されていたんですか?
ORIHARA – いえ、iPadの他に液タブとパソコンを担いで行きました(笑)。
Mika Pikazo – すご…(笑)。バイタリティがある…!
「離れたら偽物になってしまう」

Mika Pikazo – ヨーロッパを旅しながらも、その先々にAdoさんのツアーという「自分の人生と深く繋がっているもの」がちゃんと存在しているというか、未知の世界と、自分がよく知るものが連結している感じが、すごく素敵だなと思いました。
ORIHARA – 離れてしまったら、描くものが偽物になってしまうので。やっぱり「ライブ」という場所が、一番「本人」が見える瞬間だと思うんです。 ツアー中、彼女は日本にいないわけで、その離れている間に、彼女はどんどん変わっていく。それなのに、それを見ていない私が「分かっています」という顔をして描くのは、ものすごく嘘をついているような気がするんです。
Mika Pikazo – なるほど、そういう感覚なんですね。面白い。
ORIHARA – その人がその土地で何に感銘を受けたのか、何を見たのか。少しでも近いところで自分も体感したいという気持ちがあったんです。元々一番ファンでいようとしているので、一緒に行動したとかは全くないです。あくまでファンの人と同じ距離で得たものをAdoとして出すのが私のお仕事です。なので、本当にただ追っかけていただけの人なんです(笑)。ライブになると現れて、突然消える、みたいな。勝手に関係のないスコットランドにも行ったりしていましたし(笑)。

Mika Pikazo – すごくいいお話ですね。以前、あるダンサーペアの方の話を聞いたことがあって。 その二人は、常にある一定の近い距離にいるからこそ出せる「シンクロ感」があるそうで、逆に少しでも離れてしまうと、その「同期」がズレてしまう。 今のORIHARAさんのお話を聞いて、まさにその「同期」を大切にされているんだなと腑に落ちました。それだけ本気でAdoさんと向き合っているんだなって。
ORIHARA – ありがたいです。そうやって何かを追求するのが、私にとっての「絵」なのかもしれません。
Mika Pikazo – 確かに、絵は自分を裏切らない……と言いたいけれど、たまに描けなくなって自分を裏切ることもある。でも、ずっとそばにいてくれたのはやっぱり「絵」なんですよね。
ORIHARA – そうですね。人間よりも信用できるのは、絵と、犬だけだと思っています(笑)。
Mika Pikazo – 犬! いいですね(笑)。
ORIHARA – 絵は私を1人にしなかったから……。その割にはリソースがかかりすぎるし、本当に手のかかる面倒な趣味だなって思いますけどね(笑)。
後編では、見てきたものが作品に与える影響に始まり、創作の背景や哲学について、第一線を走る2人ならではの対話が盛りだくさん!絵を描くことは、2人にとって「幸せ」なのか、それとも…。
お楽しみに!
「感情展-短歌で詠み、イラストで描く-」
会期:2026年2月13日~2026年3月29日
会場:角川武蔵野ミュージアム
アドレス:埼玉県所沢市東所沢和田3丁目31−3 ところざわサクラタウン
休廊:火曜
開館時間:10:00~18:00(最終入館:17:30)
※休館日、営業時間は変更となる場合があります。最新情報は公式HPよりご確認ください。
公式サイト:https://kadcul.com/event/251