「大谷グランド・センター」の今と昔と、これからと。

とある動物が“道具”を手にし、人類として歩み始めたのが、およそ400万年前。
そのはじめての“相棒”として選ばれたのが「石」だった訳だが、アスファルトに囲まれて生きる僕らからすると、ひょっとすると、それはありきたり過ぎる。

だが、現代を生きる僕らにとって、そんな、取るに足らないはずの「石」への印象はガラリと変わることになる___。

現代アーティスト・YOSHIROTTENが手掛けた「大谷グランド・センター」常設展「大谷石景」の展示風景

「大谷グランド・センター」誕生

「大谷グランド・センター」2Fのレストラン・カフェ

現代アーティストのYOSHIROTTENが、自身初となる常設展示を手掛けた「大谷グランド・センター」。
栃木県宇都宮市大谷町に誕生した「食とアート」の複合施設だ。

「大谷グランド・センター」入り口

この場所にはかつて、「山本園大谷グランドセンター」と呼ばれる入浴と食事が楽しめる観光施設が存在していた。1967年の開業以来、昭和期の盛隆を堺に、1985年頃、廃業。以降30年以上廃墟と化していた。

ところが。

今から10年前の2016年、この、文字通りの廃墟を購入したのが、宇都宮で事業を展開する印刷会社、「井上総合印刷」だ。

初めてこの場所を訪れた時の事を、代表取締役社長を務める井上加容子氏は次のように語る。

「何てすごいところなんだろう。言葉にならないような、建物の力を感じました。」(井上加容子)

「大谷石」の岩肌にひっつく、目を疑う建造物

「山本園大谷グランドセンター」営業当時の様子は画像としての情報が少なく、想像することしか出来ない。しかし廃業後の写真(おそらく井上さんの見た景色)を見るに、岩肌に抱きつくような建造物は、それでも異様な存在感を放ち、神秘的ですらある。

山本園大谷グランドセンター跡地

「山本園大谷グランドセンター」に限らず、かねてよりこの街は、「大谷石」と共に歩んできた。

日本有数の石材の名所であり、その出荷先には、フランク・ロイド・ライトが手掛けた旧帝国ホテルなど、一流の建築物にまで及んでいる。

採石場跡地

街の活気の少なくない部分を「大谷石」と共にしてきた大谷町だが、「山本園大谷グランドセンター」の閉園などの時代の流れと共に、次第に人の出入りが減り始めていた。

書き足された物語の続き

誰かにとって大切な“何か”を「伝え残す」。それが紙の出版物の力だと信じる人たちがいる。「井上総合印刷」の想いに賛同した人々の想いの結晶として、「大谷グランド・センター」はある。街の魅力やその場所の持つ“記憶”を伝え残すハブスポットとして、これからの大谷町の物語を継いでいくだろう。

その前に。

SF映画顔負け。「大谷テクノパーク構想」

実は、1980年代の後半、「山本園大谷グランドセンター」の廃業とちょうど同じ頃、「大谷テクノパーク構想」と銘打った大規模プロジェクトが存在していた。大谷石採掘跡の活用から、産業、観光を盛り上げようと企画されたもので、当時の報道では、「自然と最先端技術が融合する21世紀地底の国」との見出しが建てられているが、これが決して大袈裟ではない。


SF映画さながらのハイテク地底都市を思わせるプロジェクト案の中には、「メディカルZONE」、「アイデアZONE」、「スパイラルエレベーター」と、聞くだけで心踊る数々の計画が建てられていた。そのひとつとして、「アートZONE」もあったのだが、これらのプロジェクトは結果的に実現には至らなかった…。

ハイテクを前面に打ち出したSFチックなプロジェクトの想いは、時を経て、姿形を変え、「大谷グランド・センター」へと受け継がれている。

現代アーティスト・YOSHIROTTENの参画

「大谷グランド・センター」にて常設展示を手掛けたアーティスト・YOSHIROTTEN

緻密なフィールドワークとテクノロジーを駆使しながら、自然を見つめるアーティスト・YOSHIROTTENは、今回のプロジェクトにおいて、常設展として新たな映像インスタレーション「大谷石景」を手掛けている。

常設展「大谷石景」の展示風景

大谷石の最大の特徴と言っていい「ミソ」と呼ばれる穴は、火山岩が粘土化し、長い年月を経て抜け落ちていくことで生まれる。「穴の中にあった石の粒たちは、どこへ行ったんだろう?」という空想から、彼の作品に欠かせないハンドスキャナーによってスキャンした石の粒が空間を浮遊するような映像作品に仕上げた。

大谷石の特徴である「ミソ」と呼ばれる数々の穴

空間を漂う“音”は、大谷でのフィールドワークにて収集したものが素材となっている。

「昼と夕方でも異なる表情をみせる空間なので、1日のうちに2回来てもらえたら嬉しい」と語るのは、時間や季節と共に変化する空間を楽しむのと、一度センターの外に出て、大谷の街を巡って欲しいとの想いから。

「この場所が、ハブスポットとなることで、地元の人々にとっては誇りとなり、知らなかった人たちがこの街を好きになるきっかけになれば嬉しいです。」(YOSHIROTTEN)

YOSHIROTTEN / 「Transtone」改装前からこの場所にあった巨大な大谷石をそのまま活かし、「ミソ」の上からネオンを施した作品

関わった人たちが、口を揃えて大谷への深い愛情について語る様子を見ていると、「大谷石」の持つ不思議な力が、人々を再びこの地に集めようとしているとすら感じる。

ひとつの石と、とある街の物語。そこに集まる、たくさんの人々。

物語のこれからが楽しみだ。

大谷グランド・センター

所在地:栃木県宇都宮市大谷町1396-29
アクセス:JR「宇都宮」駅より車で約30分/関東バス「大谷観音前」下車すぐ
入館パス:大人(18歳以上)・中人 500円 / 小学生以下無料
グランドパス:大人(18歳以上) 1800円 / 中人 1500円 / 小学生以下無料
公式サイト:https://oya-grand-center.com

EDIT: Ryo Kobayashi

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