【インタビュー】加賀美健の、ホントの話 – 前編

大人が「うんち」で笑っていたら、僕はおかしいと思う。普通はそうなのだが、加賀美さんの作品に「うんち」のオブジェやイラストがあっても、納得できる。「うんち」どころではないモチーフが登場することも少なくない、それなのに品すら感じさせるのはどういうカラクリなのか。「実家帰れ」を始めとした手書き文字のステッカーで感じる、妙に腑に落ちるあの感じは何なのか。ずっと好きで見てきたのに、分かるようで分からない。いや全く分からない。今日こそは、本当の加賀美健の輪郭だけでも捉えるぞと、意気込んでアトリエのインターフォンを押した。

返信があまりにも速い

今日までのメールのやり取り、人生で出会った方で一番返信が早かったです。冗談抜きで1分経たないで返ってくるくらいの感覚というか。

加賀美健(以下:K) – せっかちだからね。

そういう理由なんですか。早いっていう次元じゃないと思うんですよ。

K – AIみたいでしょ?よく怖がられるもん(笑)。「ちゃんとしよう」というより、社会人としてやりやすいじゃん、そっちの方が。気持ちよく仕事できた方が絶対いいし、僕もそっちの方がやりやすい。ただそれだけですよ。

いつでも返せるように構えているんですか?

K – いや、そういうわけじゃないです。 ポンと来たらパッと見るじゃない。 だって仕事中ですよ。少し考えなきゃいけない内容だったら一旦置くけど、基本的にすぐ返信する。ジャッジが早いっていうのはあるかもしれないですね。 別に考えてもしょうがないので。 

それは作品もそうですか?

K – 早い。作品の方が早い。

慣れたリズムで生み出す作品たち

この日は加賀美さんのスタジオにお邪魔してのインタビュー。スタジオ内での写真も合わせてお届けする。

それは一体何故ですか?やはりせっかちだから?

K – そうですね。あとは、このリズムでずっとやってきてるから。

自分の気持ちいいテンポみたいな。

K – そうそう。

創作において熟考したり悩んだりすることはありますか?

K – ないですね。それが良いか悪いかではないと思うけど、僕の場合はただ本当に“早い”っていうだけです。

制作が早いと必然的に作品の数も多くなると思いますが、世に出してしまって後悔したことはありますか?

K – すぐ忘れちゃうから、次って感じで。インスタもすごいスピードで上がるでしょ。アイデアとかのメモ代わりに使っているんですけど、あれでも抑えてるんですよ。本当だと1日100投稿くらいできちゃうんだけど、それだとまた怖がられるから(笑)。

メッセージを込めない創作スタイル

様々なタイプのアーティストの方がいる中で、例えば「感情」と創作活動が密接に繋がっている方もいますよね。加賀美さんの制作においてその辺りはどう関わってきますか?

K – 創作への影響とかは絶対あると思います。じゃあどんな感情ですかって言われたら難しいけど。基本的に作品にメッセージを入れないようにしていて。そういうものには全く興味がないかな。人一倍ニュースも見るし、頭の中では色々考えているけど、それを作品に込めるかどうかは全くの別物。作品に落とし込んで、それを人に見せることには全く興味がないです。それよりももうちょっとわからないものを表現したいから。今後も自分の表現とか発言とかでそういったことは一切ないと思う。

海外のアーティストの方だと、そういった「メッセージ性」が強い人が多い印象があります。

K – そういう方が評価されるからね。

加賀美さんは日本でのアーティスト活動を始める前、1年半ほどサンフランシスコに住んでいらっしゃいますが、その時の影響はありますか?

K – そういう意味で言うとないと思う。やっぱりよくわからないものが好きです。

加賀美フォントの、ホントの話

あの「加賀美フォント」が出てきたのはいつ頃なんですか?

K – あれはね、もうお店を作ってから。ストレンジストア。16年前。

そんなに前なんですね。

K – そう。「実家帰れ」とか適当にステッカーに書いて、それを友達に配ってたの。で、友達が携帯の裏とかに貼るでしょ。それを見た別の友達が「なんだこれ?」ってなる。もうそっからどんどんどんどん。適当なシールに日本語で変な文字を書いたりして、インスタに上げてたの。そしたらそれが広がっていって。

一目で加賀美さんの文字だと分かります。実は相当練習されているんじゃないですか?

K – 昔からずっとあの字ですよ(笑)。キース・ヘリングとかピカソとかウォーホルとか、有名なアーティストの字って見ればわかるでしょ。自分の字で書いてるから、必ずサインとかにも個性が残る。僕の場合は、白い紙に日本語で書くっていうのを作品にする人があんまりいなかったから、ずっと続けるうちにイメージが付いたんじゃないですかね。だから、ほんとは紙とペンさえあれば誰でもできますよ。ただ、僕の字はちょっと癖があるから、見ると結構忘れないでしょ。

本当はめちゃくちゃ計算して書いているのかな、と(笑)。

K – してない。してたら寒いでしょ。しててこれやってたら、逆にすごいけどね(笑)。

まあそうですね(笑)。フォントとして登録などはされてない?

K – してないしてない。登録なんて多分できないです。今日「あ」を書いたとしたら、明日の「あ」は違うから。丁寧に書けって言われても書けないし、もうこれが普通。仕事で字を書く依頼もたくさん受けてるけど、基本的に全部一発書き。毎日普通に字を書くのと、何ら変わりないです。

アーティストには「イライラ」が必要

書いている内容はシニカルでありながら、嫌な感じが一才しないのが本当に不思議で。そこは注意していますか?

K – そこは気をつけてる。あんまり強すぎちゃうとね。書いてる内容は結構インパクトあるんだけど、この字でなんとなくまとまってるっていうか。これを綺麗な文字で書いてたりしたら、面白くないじゃない。

内容自体は加賀美さんの本心ですか? お話ししているとすごく穏やかな印象で、そこのギャップが不思議です。

K – いや、考えてることはこういうことですよ。頭の中は常にシニカルだし。で、割と常にイライラしてるんで。絶対イライラしてなきゃダメなんですよ、アーティストは。イライラしてる方が、作品は面白くなる。

加賀美健にとって、アートって何?

コマーシャルワークとアート活動は分けて考えていますか?

K – 同一線上なんだけど、一緒かと言ったらちょっと違うかも。気持ちの持ちようというか。ギャラリーでの展示とか海外の時は、もうちょっと現代美術の文脈に寄せて頭を作る。

具体的にどういったことでしょう。

K – 海外なら、キャンバスに書く日本語を英語に変えるとか、それくらい。でも、そうすることでアートとして考える。……まあ、難しくてね。そう言われると。

加賀美さんは美大には通われていないですが、昔からアートがお好きですよね。自由なスタイルを見ていると、どこからがアートだと考えているのか気になります。STRANGE STORE(ストレンジストア)もお店自体が作品で買うことが出来たり、インスタだって、あれ自体に作品性があるように思えます。

K – その辺りは難しい。でも、全部アートって言うと卑怯だよね。

まあそうですね。

K – だけど、結局アートって、文脈だったりそういうのを分かってないと楽しくないジャンルなんですよ。興味が無いスポーツの試合とか見ないでしょ?それと一緒なんですよ。アートに興味がなかったらアートなんて見ない。で、値段が高いと「なんでこんなのが高いんだ」って文句を言う。だけど、アートの文脈を多少なりとも知ってたら、意外と面白いと思います。

知識があるから楽しめる、と。

K – 演歌だって聴かない人は聴かないけど、好きな人はその人のルーツまですごい詳しいじゃない。それと同じ。アートって範囲が広すぎて説明できないけど、ジャンルや仕組みを知れば知るほど楽しめるものだから。

ご自身のそのアート文脈での立ち位置についてはどのように考えていますか?

K – 自分のやっていることに関しては、全てアート活動としてやってるかな。それを言葉で説明するのは難しいし、僕の中での解釈があって楽しんでいる感覚。例えそれを誰かに説明しても多分面白くもないし。だから僕の活動を見て、「なにこれ」って引っかかる人が面白いがってくれればいいんじゃないかな。

後編では、アーティストを続ける理由とその覚悟、「遅咲きの方が100%いい」と語る意図を紐解きます。海外での衝撃パフォーマンスのお話も。

お楽しみに!

STRANGE STORE

住所:東京都渋谷区鶯谷町12-3 フローラ代官山301
電話番号:03-3496-5611
営業日時:Instagramにてご確認ください。
公式Instagram:https://www.instagram.com/store_strange/
公式サイト:https://strangestore.shop

EDIT: Ryo Kobayashi

PHOTO: Mikito Hyakuno

SHARE

人気記事

RANKING