【インタビュー】YOSHIROTTENの奏るテクノロジーと自然のセッション – 後編

テクノロジーを駆使して自然を捉え直すアーティスト、YOSHIROTTEN。前編では、余白から生まれる偶発性、自然というアンコントロールな要素を作品に組み込むどっしりとしたアティチュードが見て取れる。光や石、そこにあ̇る̇も̇の̇やあ̇っ̇たも̇の̇に想いを馳せる彼のフィルターを通すなら、東京という都市はどのように映るのだろう。

YOSHIROTTEN(以下、Y) – 僕は自然豊かな鹿児島で育ち、東京ではクラブカルチャー、夜の世界に面白さを見出してきました。そこでは若い頃から多くの時間を過ごしたし、たくさんの友人や仲間がいる。 東京に関して言うなら、夜にこそ、都会のリアルな姿が鮮明に映し出されるのだと思います。渋谷の地下のクラブなんかで自由に音に身を委ねる人々の姿が、僕の思う東京の好きな風景かもしれません。逆に昼の明るい時間には、森や山の中などの自然の中に身を置き、太陽の光を浴びる。僕にとってはそのどちらも必要な時間だと感じています。

コロナ禍で見つめ直した「1日」の重みと、太陽のポートレート

国立競技場で開催された「SUN」 

パンデミックの最中にスタートしたプロジェクト「SUN」では、365日毎日異なる太陽を描き続けていましたね。あの時期にこの活動を始めたことには、どのような決意があったのでしょうか。

Y – コロナ禍になり、予定していた展示やイベントがすべて白紙になりました。創作しても発表する場がない。クリエイターだけでなく、人類が等しく直面した壁だったと思います。あの閉塞的な時間の中で、ただ僕は、「とにかく作り続けていかなければならない」と強く思ったんです。

国立競技場で開催された「SUN」 

あの時、世界中の人々が同時に「今日という1日」を強く実感していたと思います。外出もままならず、目にするのは何日も同じ景色でした。それでも毎朝昇ってくる太陽とその日の感情は、同じではなかった。その体験を形にすることは、作家として非常に自然な衝動でした。

その後、国立競技場で開催されたフリーイベントでの「SUN」のインスタレーションは、多くの人に解放感を与えましたね。

Y – ようやく人に会える、マスクを外して集まれる。あのパーティーは僕なりの「祝祭」でした。1日1日の積み重ねが365日になり、それがようやく他者と共有される場になった。あの時感じた「1日の実感」は、今の僕の創作活動の土台に深く息づいています。

アルミハニカム:宇宙へ届ける「地球の美しさ」

「無題 」 / photo by Mikito Hyakuno

太陽への眼差しに加え、宇宙にも多大な興味があるそうですね。

Y – 2013年頃にJAXA(宇宙航空研究開発機構)から、実際に宇宙へ行って大気圏を越えて地球に還ってきたパネルを譲り受けたんです。アルミハニカムという素材で出来ているもので、これを生で見た時、このパネルが宇宙で出会ったかもしれない、惑星なのか、大気なのか、粒子なのか、魂なのか…。それらを反映した作品にしたいと思いました。

「無題 」 / photo by Mikito Hyakuno

その後発表されたプロジェクトが「Future Nature」ですね。

Y – そうです。アルミハニカムは人工衛星にも使われる非常に軽くて丈夫な素材です。これにキャンバスとして作品を描けば、物理的には、宇宙へ持っていくことが不可能じゃない。僕は「地球の美しいものを宇宙に届けたい」という想いで“Future Nature”というプロジェクトを続けているので、キャンバスとしてアルミハニカムを選ぶのは自分の中で一番しっくりくるんです。それを見た人が「これは宇宙まで行ける素材なんだ」と知った時、想像力が地球の外側まで広がっていく。ワクワクするじゃないですか。そうしたワクワクするような感覚を生み出すことが、アーティストとして大切だと思っています。

「アート」で感動するということ

ビューイングルームの展示風景 / photo by Mikito Hyakuno

自然の中に創作のヒントを見つけて、全く独自の作品を作り上げるYOSHIROTTENさんですが、他のアーティストの作品からヒントを得たり影響を受けることはありますか?

Y – 色々ありますが、具体的にこの人がといったことはないですね。
ただ、一昨年に、ずっと行きたかった南仏にあるヴィクトル・ヴァザルリという大好きなアーティストの美術館「Fondation Vasarely」に行ったんです。僕と同じように元々デザイナーだった彼は、平面から彫刻へと表現を拡張し、最終的に自分だけの美術館を作り上げてしまった。その偉業には憧れるものがあります。完成して30年、40年後に僕が行って、感動する。イサム・ノグチのモエレ沼公園もそうだし、篠田桃紅さんの当時のアトリエを移設した場所を訪れた時にも、全身に鳥肌が立ったのを覚えています。 それは1つの作品を観てというより、作家の全体像、文脈の中でこの作品を作ることが出来たという事実に直面した時に、より感じるものです。あとは、自分が20代の頃から憧れていた場所に訪れた時、変わらず感動できたことが嬉しかった。

事務所の本棚には人工衛星や宇宙の本がずらり。 / photo by Mikito Hyakuno
ヴィクトル・ヴァザルリの作品集なども。 / photo by Mikito Hyakuno

メディアとして機能するYOSHIROTTENの作品

ビューイングルームの様子  / photo by Mikito Hyakuno

ご自身の作品が観られる立場としてはどうでしょうか。今回の「大谷グランド・センター」もそうですが、大谷の地において、ある種ハブスポット的な役割も持ち合わせています。作品を通して、既存のものの価値を新たにする点は、メディア的な役割とも言えますね。

Y – そうですね。「大谷グランド・センター」は、大谷の歴史をどうやって未来に伝えられるかというのが最初の課題でした。まずは人をたくさん呼ぶ。その為にはインパクトのあるものが必要ですが、一時的にたくさんの人を集めるだけでは意味をなさない。フィールドリサーチや土地の歴史を辿ると、古くからある大谷石の存在や、70年代頃に構想されていた「大谷テクノパーク」という、SF映画バリの地下施設を作ろうという計画の存在が浮かび上がってきました。結局実現はしませんでしたが、そこには「トランストーン」という空間があって…とか、「なんだそれ」ってなるじゃないですか。大谷の魅力を伝えるというのは、そうした過去の歴史に目を向けることが非常に大切でした。

大谷石。「ミソ」と呼ばれる穴が最大の特徴だ。

過去に実施された伝統工芸である「輪島塗」とのコラボレーションでも、現代的なアプローチを通して全く新しい作品に仕上げていますね。漆器という歴史ある媒体をどう捉えましたか?

Y – 輪島塗には数百年の歴史と伝統があります。でも、僕はその伝統を忠実に継承する立場ではないからこそ、新しい表現で伝統工芸に向き合えると思いました。
職人さんに提案したのは、これまでの輪島塗ではあまり使われてこなかった鮮やかな色漆(いろうるし)のグラデーションです。まずはCGを使ってシミュレーションを作成し、「こういう色の繋がりを持つ杯(さかずき)を作れませんか?」とお伝えしました。

「SAKAZUKI」 / photo by Mikito Hyakuno

職人さんの反応はいかがでしたか?

Y – 最初は「やったことがない」と驚かれましたが、面白がってご協力頂けました。出来上がったものは、輪島の工芸作品としての美しさを保ちながら、これまでにない色彩を放っています。これを見た人が「漆ってこんなに綺麗なんだ」と再発見してくれる。それこそが、僕がやる意味だと思っています。大谷のプロジェクトもそうですが、土地の歴史や伝統を自分なりに解釈し、未来へ繋ぐために何ができるかを常に思っていますね。

「とにかく、たくさん作ること」

YOSHIROTTEN / photo by Mikito Hyakuno

最後に、これから創作の道を志す若い世代に向けて、メッセージをお願いします。

Y – シンプルですが「とにかく、めちゃくちゃたくさん作ること」です。
そして、作ったものをどう扱うか、徹底的に向き合ってほしいです。今の時代、発表する手段はいくらでもあります。勇気を持って世に出してみるのも一つの方法です。表現したいという想いがあるのなら、その一歩を恐れずに踏み出し、継続してやり切ること。楽しみながら。それがすべてだと思います。

大谷グランド・センター

所在地:栃木県宇都宮市大谷町1396-29
アクセス:JR「宇都宮」駅より車で約30分/関東バス「大谷観音前」下車すぐ
入館パス:大人(18歳以上)・中人 500円 / 小学生以下無料
グランドパス:大人(18歳以上) 1800円 / 中人 1500円 / 小学生以下無料
公式サイト:https://oya-grand-center.com

【インタビュー】YOSHIROTTENの奏るテクノロジーと自然のセッション – 前編

これまでの作品が展示されている自身のビューイングルームの様子 / photo by Mikito Hyakuno

グラフィック、空間インスタレーション、映像。メディアの境界を軽やかに飛び越え、独自の色彩感覚と光の表現で世界を魅了するアーティスト、YOSHIROTTEN(ヨシロットン)。 一見すると無機質で先鋭的なデジタル表現に見える彼の作品群の根底には、驚くほど純粋な「自然への畏敬」と、フィールドワークに基づいた緻密なデータ観測がある。

今回、彼が栃木県宇都宮市の大谷(おおや)で手掛けた最新プロジェクトから、霧島での大規模な個展、そして「分光器」を用いた独自の制作手法までを深く掘り下げた。テクノロジーというフィルターを通して、彼は一体どのような「自然」を見つめているのか。初公開となるビューイングルームの様子と共にお届け。

「2回訪れてほしい」という言葉に込められた、時空を味わう体験

大谷グランド・センター / photo by Ryo Kobayashi

ご自身の初となる常設展示を手掛けた「大谷グランド・センター」について、「ここには1日に2回来てほしい」とお話しされていましたね。その言葉の真意について改めて教えていただけますか。

YOSHIROTTEN(以下、Y) – 大谷の現場に初めて行ったのが、2019年の11月でした。その時は昼過ぎから夕方にかけての時間帯で、次に訪れたのが朝だったんです。同じ場所なのに光の入り方によって空間の表情が劇的に変わることに驚かされました。

「山本園大谷グランドセンター」跡地。およそ30年の時を経て「大谷グランド・センター」として新たに生まれ変わった。

現代アートと食の複合施設としてオープンしたこの場所は、前身の施設が閉館してから長い間廃墟になっていました。もともとそこは、岩肌が剥き出しになった場所に浴場があるユニークな建築だったのですが、単に「面白い建物の中にアートを置く」という発想ではなく、そこに入ってくる外からの光や、窓の外に見える大谷の街並みが、時間とともにどう照らされていくか。その「変化」そのものを作品にしたいと考えたんです。

そこに流れる「時間」や「光」を体験してほしいということですね。

Yなので、元の建物をそのまま活かせるところはなるべく残し、あえて開いたままの窓も塞がない選択をしました。窓にオレンジ色のフィルターを貼ることで、大谷の街をその色越しに眺める。でも夕方になれば、街は見えなくなり、空間の体感は刻々と変わっていきます。

YOSHIROTTENが手掛けた初の常設展示「大谷石景」 / photo by Ryo Kobayashi

「2回訪れてほしい」と言ったのは、たとえば朝に作品を見てから、近くの大谷資料館や大谷観音、お蕎麦屋さんなんかを巡って、夕方にまた戻ってくる。そうすると、光のある時間帯は大谷の街並みと作品がゆるやかに繋がっていて、日が落ちてからは、この空間に没入して作品と向き合う時間が生まれる。その体験は、展示会場の中だけで完結するものではなく、帰り道や日常の中でも「時間の移ろい」に意識が向くきっかけになると思うんです。そういう風に日々を楽しめるようになることまで含めて、作品として提示したいと思っています。

自然という「コントロールできないもの」との親和

FUTURE NATURE Ⅱ in Kagoshima / photo by Yasuyuki TAKAKI

自然現象を作品に取り入れる場合、アーティストとしての作品の「コントロール」と、自然の「偶発性」のバランスをどのように取っていますか?

Y – 自然をテーマにしている時点で、僕はコントロールしようとは思っていません。むしろ、その状況と親和することが、最も自然な作品の在り方だと思っています。
以前、僕の育った鹿児島県にある公立美術館「霧島アートの森」で個展を開催しました。そこでは、自然光の入る美術館のトップライトが全開放された部分を生かして、時間帯によって空間がオレンジ色に染まったりと、空間全体を使った光の作品を作りました。雨が降ればより没入感のある暗い空間になるし、晴れれば光がパーンと入ってくる。それは僕にもコントロールできません。

予期せぬことが起きる面白さ、というわけですね。

FUTURE NATURE Ⅱ in Kagoshima / photo by Yasuyuki TAKAKI

霧島でのオープニングの日は、ものすごい霧が出たんです。「これ、演出なの?」ってみんなに聞かれるくらい(笑)。僕が数年かけてフィールドワークした中でも見たことがないような美しい霧が、その日に偶然起きた。
最終日には、それまでは入ってこなかった角度から西日が差し込んで、ある作品にだけスポットライトのように光が当たっていたんです。これも狙ったのか度々聞かれましたが、そうではないんです。完全な「余白」から生まれた現象。窓を閉じなかったからこそ起きた奇跡です。余白を残すということも自分の制作においては重要な要素です。

FUTURE NATURE Ⅱ in Kagoshima / photo by Kazuki Miyamae

分光器とスキャナー:見えなくともそこにある“何か”へ想い馳せる

大谷各地でのフィールドリサーチ / photo by Kazuki Miyamae

YOSHIROTTENさんの制作スタイルを語る上で欠かせないのが、フィールドワークとテクノロジーの活用です。具体的にどのような調査を行っているのでしょうか?

Y霧島や大谷のプロジェクトでは、ハンドスキャナーを持ち歩いて、岩肌や土、葉っぱの表面をなぞってデジタルデータに変換する作業を行いました。これは視覚的な「記録」に近い行為です。特に今回の大谷でのプロジェクトでは、大谷石の特徴である「ミソ」と呼ばれる穴に注目しました。(※脚注:およそ1200万年前に誕生した凝灰岩である大谷石には、「ミソ」と呼ばれる茶色の斑点がある。これは、火山岩が粘土化して出来たもので、長い年月を経て、その箇所は抜け落ちていく)

大谷石の最大の特徴である「ミソ」

「この穴の中にあった石の粒たちは、どこへ行ったんだろう?」という想像から、スキャンした石の粒が空間を浮遊するような映像作品を作り、プロジェクションで元々ある石自体に光を当てました。テクノロジーを使うことで、肉眼では捉えられない自然の深層や、その場所が持つ記憶を可視化していく感覚です。

大谷石をハンドスキャンし、観測していく。

普段の制作のもう一つのアプローチとして「分光器」を使った制作があります。僕らが通常見ている世界は「可視光線」ですが、その隣には赤外線や紫外線など、僕らの目には映らない様々な光が存在しています。それらを捉えることができる分光器を各地のフィールドワークに持ち込みました。

「霧島百景」 / 鹿児島県のいろいろな場所でフィールドスキャニングした50分間ほどの映像作品。 / photo by Mikito Hyakuno

目に見えない光をデータとして抽出するのですね。

Yはい。例えば、霧島の噴気地帯(温泉の煙が上がっている場所)で分光器を向けると、赤外線の数値が高いだとか、可視光線はこれくらいだというグラフが出る。その場所の、その瞬間にしか存在しない「光の組成」をキャプチャーするんです。それをそのまま出すのではなく、得られたデータを元に「この数値の動きが美しい」と感じる部分を抽出して、さらにその場所で抱いたイメージで着色していく。そうすることで、僕らの目には見えていなかったけれど、確かにそこに存在していた光を「デジタル上の絵画」として作り上げていきます。

「Menhir 2」 / ビューイングルーム内の不可視光線を分光器によってリアルタイムで映し出す。室内の自然光の入り方、窓の締め具合、照明の有無で、刻一刻と変化してく。目に見えない「光」が、生き物のように動き出す。記事内での変化にもご注目。 / photo by Mikito Hyakuno

最新技術を使っているけれど、やっていることは印象派の画家が光を捉えようとしていた営みに近いようにも感じます。もしテクノロジーが存在しない中世に生まれていたとしても、やはり何かを作っていたと思いますか?

Y形は違えど、その時代における「新しい技術や表現」を使って、見たこともないものを作ろうとしていたはずです。
今の僕たちがアートとして発表することの意味は、この時代のテクノロジーを使って、前の時代の人たちにはできなかった表現を追求し形に残すことにあると思っています。「今ならこれができる」という可能性を追求することが、作家の役割の1つではないでしょうか。

後編では、自身の作品、アーティスト活動がメディアとして機能するような側面、そして、彼自身の太陽や宇宙への憧憬がちらりと姿を表します。お楽しみに。

大谷グランド・センター

所在地:栃木県宇都宮市大谷町1396-29
アクセス:JR「宇都宮」駅より車で約30分/関東バス「大谷観音前」下車すぐ
入館パス:大人(18歳以上)・中人 500円 / 小学生以下無料
グランドパス:大人(18歳以上) 1800円 / 中人 1500円 / 小学生以下無料
公式サイト:https://oya-grand-center.com

人気記事

RANKING