ホテルのロビーがギャラリーに。作品化していく宿泊空間

休みが近づくとなんとなく航空券の予約サイトやちょっといいホテルを調べてしまう。仕事やタスクに追われている現代人たちにはそんなプチ現実逃避をしている人も多いかもしれない。

日本が観光立国を推進し、全国に国内外の観光客が訪れている。地域によっては宿泊施設の不足などが叫ばれるなか、最近ではアートを切り口にしたホテルが各地で登場し盛り上がりを見せている。ギャラリー化するホテルの潮流を探る。

ホテルとアートの蜜月

かつてホテルは上流階級の人々のためだけのものであった。高額な宿泊費の他にもドレスコードなど、豪華できらびやかな空間性が求められた。ホテルのエントランスやロビーには美しい生花や装飾とともに、西洋画やブロンズ彫刻といった古典的なアート作品が置かれていた。

ベネッセハウスミュージアム

転換のきっかけとなったのは間違いなく「ベネッセハウス直島」だろう。瀬戸内国際芸術祭の立役者でもあるベネッセが「自然・建築・アートの共生」をコンセプトに、1992年に開館した美術館とホテルが一体となった施設だ。草間彌生やイ・ウファン、ルーチョ・フォンタナなどのアートとともに眠れるホテルとして海外のアートや旅行メディアなどでもたびたび取り上げられ、日本におけるアートツーリズムの始まりの地となった。ベネッセハウス直島で実践された、現代アート作品と宿泊体験を繋ぎ合わせるスタイルは、非日常体験を楽しむことのできるホテルが鑑賞体験もできる場所として確立することになった。

用事がなくても行ってしまうーーー作品化するような空間

今では様々な宿泊施設で現代アートを楽しむことができる。自身のブランディングに長けているAce Hotel(エースホテル)は、世界中のエキサイティングな都市に唯一無二の宿泊体験を提案するホテルを開業している。日本では旧京都中央電話局をリノベーションした新風館という商業施設にAce Hotel 京都をオープンさせており、隈研吾が建築設計を行なっている。

Ace Hotel公式サイトより

Ace Hotelの魅力はそのデザイン性の高さにあるだろう。決して華美ではないエントランス空間だが、地元の人ですらふらっと立ち寄ってしまうようなアットホームな空間。地域に関連するアーティストの作品や使われているインテリアにものれんや陶磁器、照明などのクラフト作品も点在し、空間そのものがアートギャラリーのような印象だ。定期的に音楽やカルチャーイベントが行われ、様々な人が訪れる文化的なサロンのような場所になっている。ラウンジや客室の至る所に染色家・アーティストの柚木沙弥郎の手がけた作品が飾られている。またホテル内のレストランMr. Maurice’s Italian(ミスター・モーリスズ・イタリアン)ではバークレーで活動するアーティスト、Alexander Kori Girard (アレキサンダー・コリ・ジラード)の床や可動壁のデザインを鑑賞することもできる。

Ace Hotelの例から分かるように、ホテルのロビーの役割が変わりつつある。かつてはチェックインや待ち合わせといった通過点の空間から、これからのホテル体験の象徴や、お客さんに世界観を最初に伝える空間、そして用事がなくても行ってしまいたくなるような場所づくりを徹底的に行なっている。

続いて紹介するのは空間自体が作品化し、その場でしか味わうことのできない鑑賞体験ができる施設だ。

アートストレージ化している共用部

台東区の蔵前にあるKAIKA 東京 by THE SHARE HOTELSは現代アート作品を収蔵・公開する「アートストレージ」とホテルが一体となった施設だ。倉庫ビルをリノベーションした建物内に、複数の“見せる収蔵庫”スペースがあり、作品が展示されている。アートギャラリーと連動しているため、現代アート作品は日々入れ替わり、館内で無料で体験できる。その他にも企画展や「KAIKA TOKYO AWARD」など公募で選ばれた作品も常時展示されている。公開保管というコンセプトの作品を見ているかのようだ。

色の配色が見事。

広島県尾道にあるLOGは1963年築の集合住宅をリノベーションして生まれたホテルで、インドの設計グループSTUDIO MUMBAIが建築設計を行なっている。和紙や土といった自然素材の使い方が印象的で、光の入り方や質感の違いがまるで美術作品かのよう。客室や共用空間の作り、素材やディテールに美しさがあり、空間自体が展示のようになっている。

なぜここまでホテルがアートと蜜月になったのか。それはホテル自体の世界観を一瞬で伝え差別化要素として機能するためだと考えられる。特に共用部においては人の出入りが多く目につきやすい。ホテルのロビーを最も身近なアート鑑賞の場と捉えると、ホテルで過ごす退屈な時間が、一気にエキサイティングな時間へと変わるかもしれない。

EDIT: Ryo Hamada

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