芸術の秋。全国で様々なアートフェアやイベントが目白押しの中、今回が初の開催となる「alter.2025, Tokyo」(以下alter.)。プロダクトデザインという切り口から、様々な領域で活躍するクリエーターを迎え、次世代のデザインのあり方を思索する実験的なデザインイベントだ。alter.(アルター)という名前の通り、現在の成熟し飽和しきった現在のポスト“デザイン”時代のオルタナティブを提案する。
既存のデザインイベントを覆す

デザインされたプロダクトをカッコいい会場に展示する。それだけではきっと既存のイベントやアートフェアと変わらないように見えるかもしれない。alter.では出展者をコミッティメンバーが選出し、彼らのプロジェクトに対して最大300万円の助成を行う。
メガギャラリーや後ろ盾となる企業を持つギャラリー、若手でもグループ単位でイベントに参加する場合も多く、作品の見せ方一つとっても資金力が大きなウェイトを占めてしまったり、高額な参加費がかかってしまったりする。一方alter.では、アイデアベースの実験的なプロジェクトや普段の領域とは異なる分野でのプロジェクトなどを発表することができる。
コミッティメンバーには、世界の現代アートの最高権威でもあるニューヨーク近代美術館(MoMA) キュレーターの Tanja Hwangやパリのポンピドゥセンターのキュレーター Olivier Zeitoun、グローバルなデザインシーンを牽引するデザインスタジオFormafantasma、世界の都市文化を舞台に活動する設計者/「SKWAT」から代表の中村圭佑、国際的なデザインメディア/プラットフォームである「say hi to_ 」主宰のKristen de La Vallièreの5組で構成された。コンセプチュアルなアプローチをどう構成するか、というキュレーション的な視点を持つTanjaとOlivier、実際のもの作りや環境的な視点を持つFormafantasmaの2人と中村、そしてそれらを編集しテキスト的な視点で魅力を考察するKristenという非常にバランスの取れたチームであることが伺える。

35歳以下のメンバーを中心とした11組・計56名が参加し、2025年11月7日(金)~9日(日)の3日間の会期で開催された。
アイデアから作品化までのプロセスが一直線化された新作が並ぶ
夜の日本橋の賑わいを抜けて、COREDO室町の中にある日本橋三井ホールへ。日本の金融の中心街である日本橋、多くのビジネスパーソンを横目に会場へと辿り着くとライトに照らされた“alter.”の文字。その奥に回り続ける透明なレコードのキャプションには、alter.を構成する4つの指針が記されていた。alter.は変えるという意味を持ち、全てを入れ替えるのではなく一部を作り替えて全体をよくすることだと書いてある。そう言われてみると、ホール自体の硬派で落ち着いたイメージを残しながら会場が構成されており、ここにも“alter.”の概念が表出しているようだ。会場のディレクションを行うのは、美術展やブックディレクションなど多角的な表現活動を行うRondadeだ。ライトのサインに沿って歩いて行くと、Kristen de La Vallièreの作品、そして展示作品数が最多のExhibitionエリアへと到着する。
packing list / MULTISTANDARD 玉山拓郎×河野未彩 Voidbark

鮮やかなブルーのパンチカーペットの床の上に、参加者によって制作されたプロダクトの数々が美しく整理された工場のように展示されている。先ず目に入ったのは、様々な形のオブジェを縄で縛り上げた MULTISTANDARDによる「packing list」だ。ものを輸送する際に行われる梱包作業を着想に、こと日本において国際的なアートマーケットの未発達、アーティストのドメスティック化、そして立地的なハンディキャップなどを問い直す作品だ。作品を輸送するためだけに使われる梱包のブラックボックス化を逆手にとり、梱包するという行為自体が作品となる。また、この縄の形状は石工職人たち独自の輸送システムがモチーフで、最後の結び目を結び終えた瞬間に、作品制作と梱包作業が同時に完了するようになる。

家具や空間そのものをモチーフに制作をするアーティスト玉山拓郎は視覚ディレクター/グラフィックアーティストとして活動する河野未彩との共同制作によって巨大なライト作品「Product and Space」を制作した。

オープニングレセプションでは、アオイヤマダがこの作品をきっかけにパフォーマンスを行った。パイプの柔軟な形状に合わせて自由に配置されたディスク型のライトは、単なる照明器具を超えて、空間の形や私たちの新体制をより強く感じることができるプロダクトだ。個人的にはこのライトの下をくぐったり、腰掛けたりしてみたい(笑)。

デザイナー、製材業、写真家、家具職人の4人で構成されたVoidbarkは、木材の樹皮に着目した。建築家具材の中で、年間50トン以上の樹皮は廃棄されるか樹皮の形状をとどめずに消費されている。樹皮は見た目の面白さだけでなく、分厚く強度も内包している。「真樺のスツール」は、特徴的な表皮のパターンとシンプルな構造が唯一無二の仕上がりとなっている。
近年、ものづくりの世界で耳にする、「テクノロジー」と「クラフトマンシップ」。どちらも大切にすべき概念ではあるが、“またか…”と心の中で唱えてしまう感も否めない。alter.で展示された作品は、あえてプロダクトデザインと区切ることで使用用途を定義している。そして身近にある疑問や課題をコンセプトとして思索することにより、小さな改変にとどまっていることが魅力のように感じた。大掛かりなテクノロジーや大義なクラフトマンシップではないリアルなものづくりを、このストレンジなデザインイベントで感じることができた。