BAM読者のみなさんは普段どうやって音楽を聞いているだろうか。Apple Musicや Spotifyなどの音楽配信サービスが音楽体験の主流となって久しいが、テクノロジーの進化に反動を受けるかのように、今アナログレコードの人気が再燃している。

なんと言っても、アナログレコードの魅力は音質と迫力のレコードジャケットだ。特徴的な正方形のアートワークとサイズの大きさは細かい部分までじっくりと鑑賞することができる。アナログレコードは、音楽だけでなくアート作品として視覚でも楽しむことができるのだ。
ノスタルジーだけじゃない、再燃するアナログレコード
加速するトレンドに疲弊した若者たちが、かつて流行した古き良き文化にアクセスし始めている。音楽も例外ではなく、サブスクリプションサービスで昭和歌謡がヒットしたり、TIK TOKでは懐かしい曲に合わせてティーンたちが振りをつけて踊っている。しかし、アナログレコード人気の再燃は、昔を懐かしむ“ノスタルジー”的な感覚にのみによって消費されているわけではないのだ。

日本にはレコードショップの大きなマーケットが存在している。ありとあらゆるレコードが揃う「ディスクユニオン」から、あの「PERFECT DAYS」にも登場した下北沢「フラッシュ・ディスク・ランチ」など、大小様々かつセレクトも個性的で、掘り出し物を求めて世界中の音楽ファンが訪れるのだ。また80〜90年代にかけての日本の音楽が有名アーティストにサンプリング1されることによって当時の音源にプレミアがつき、良質な中古アイテムが求められた。そして、保管状態の良い日本の中古マーケットが世界に注目された。
多角化するアルバムジャケット
また、デジタル音源が普及したことによって、よりフィジカルな音楽体験を重要視する時代性も後押しした。アーティストのKAWSやジュリアン・オピーなど、現代アート界の巨匠たちがかつて手がけたアルバムジャケットは、もはやアート作品としての需要が高まっている。ポップアートの原点でもあるアンディー・ウォーホルは「ラッツ&スター」や「ローリングストーン」、「ジョン・レノン」らのレコードジャケットを手がけており、アートと音楽が一体となってポップカルチャーが盛り上がって行くことにもつながる。アルバムジャケットは、アート作品やインテリアのように所有欲を満たすコレクションとなっていったのだ。

また最新のアーティストたちも、この流れに乗る形でアナログレコードを新譜としてリリースしている。2019年12月に薬物の過剰摂取によって21歳でこの世を去ったシカゴ出身のJuice WRLD(ジュース・ワールド)は自身の2枚目の遺作アルバム「The Party Never Ends」をアナログレコードでも発売。村上隆の手がけたアートワークは彼が亡くなる2週間前に東京で直接対面して制作が勧められたそうだ。

名作ジャケットから紐解くデザインの力
アート作品としても支持を受けるレコードジャケット。コンセプチュアルなビジュアルの原点ともされているのが。ビートルズ「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」(1967)だ。デザインはピーター・ブレイク&ジャン・ハワースで、アルバムジャケットに集合するのは、マリリン・モンロー、ボブ・ディラン、アレイスター・クロウリーなどのスターたち。アルバム自体を一つのコンセプチュアルな芸術作品として提示することによって、音楽とビジュアルの相乗効果を狙った。
日本では現在“シティポップ”と呼ばれるジャンルの大瀧詠一「A LONG VACATION」や山下達郎「For You」などの作品に代表される独特のイラスト表現が花開いた。それぞれ永井博・鈴木英人が手がけており、都会的なイメージや陰影のない表現が、現実の雑念やひずみを忘れさせるユートピアのような場所として想起させられる。

現代音楽家のブライアン・イーノはアートワークを“瞬間芸術”と呼んでいる。聴く前の0秒の瞬間に、音の世界を予感させるジャケットは「音楽の扉」であり、視覚的なイントロダクションでもあるというわけだ。音楽表現と切っても切り離せないアルバムのアートワークは、音楽体験の拡張と、終わりなきアートへの旅に連れていってくれる存在としてこれからも注目し続けたい。
- サンプリング:他人の作品の一部を抜粋することで楽曲を構成していく手法 ↩︎
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