花火ってアートかも?

みんなで楽しむ、夏の職人技。

1人1台のスマートフォン。利用するコンテンツは人それぞれで、エンターテインメントの個人化は歯止めが効かない。「昨日何のテレビ見た?」なんて会話が難しくなっている昨今だが、日本の夏は「みんな」で空を見上げる素敵なイベントがある。

花火は日本の夏の風物詩であり、一大エンタメ。テレビでも放映される他、全国各地で大会が開催されるなど、その人気は衰えることがない。改めていうまでもないが、花火は火薬の爆発とその煌めきを楽しむ文化だ。物を焼くことで煙を上げ、情報を伝える「のろし」がその原型ともいわれ、火薬を発明した中国が爆竹などの用途で魔除け/武器などに用いはじめたのが花火の発祥だとされる。

ここ日本でも、武器として火薬が持ち込まれた後、戦乱の世が終わり平和になった江戸時代、1733年に隅田川で行われた水神祭において、はじめて鑑賞としての花火が打ち上げられたという。こちらは飢饉・疫病の死者を弔うためのもので、その後、数々の職人たちが登場し華やかさを競うことになる。日本の暑い夏の夜夕涼みのカルチャーともマッチしたことで、海外では年越しのイメージがある花火も、日本では今でも夏のシーズンに打ち上げられることが多いのだ。

祈り、感謝、鎮魂の意を込め、大きく球状に広がる独自の日本の花火。花の芯のように二重・三重の円を描きながら、細かな技術で空に儚い絵を描き、爆発する。そんな様子を、着物を着たり掛け声をかけたりしながら鑑賞する。空間を含めて、ある種のインスタレーションのように感じてしまうのは暴論だろうか。実際に、火薬という素材自体の美しさに着目し、火薬を用いた作品制作をする中国のアーティストがいる。蔡國強だ。彼には花火をモチーフにした作品がある。

「WHEN THE SKY BLOOMS WITH SAKURA BY CAI GUO-QIANG」(福島・いわきで行われた〈サン・ローラン〉協力の作品「白天花火《満天の桜が咲く日》」)〈サン・ローラン〉Official YouTube Channnelより引用。

自然現象への敬意と、鎮魂の意を通したこの作品について彼は各種メディアにて「爆発はコントロールできないものであり、自分を解放する」という趣旨の発言をしている。空をキャンバスとして映し出される作品は、偶然に身を任せながら創造する一瞬のモニュメント。その美しい光景は、まさに花火がアートであるといいたくなる。

手のひらサイズの「火薬アート」の名店案内。

「手持ち花火」は全国のコンビニやスーパーで手に入る身近な花火だ。子どもの頃には夏休みに家族や友だちと楽しんだ思い出がある方も多いはず。なかでも線香花火は町人文化として江戸時代初期に登場した「おもちゃ花火」。日本独自の遊びだ。火をつけてからほんの数秒、光の煌めきと静寂。日本の伝統文化が重んじる削ぎ落とされた美的な感覚を呼び起こす。そんな線香花火のみならず、実は今でもハイクオリティで美しい手持ち花火を購入できる場がある。

昭和4年創具花火製造場。富士山をモチーフにした「花富士」、古来から伝わる郷土玩具にインスピレーションを受けた「どうぶつはなび」など、オリジナリティあふれる商品を販売するほか、ギャラリーも併設。線香花火の製作工程を体験するワークショップや、子ども向け商品「えかきはなび」を使って、花火の巻き紙に絵をかくワークショップを開催するなど、アートや教育にも力を入れ、国産花火の普及に務める注目の製造場だ。

「花富士」筒井時正玩具花火製造場 公式ウェブサイトより引用

国産手持ち花火の種類と製造量は業界トップを誇る井上玩具煙火株式会社。1926年に静岡県島田市にて創業し、約100年間も日本の伝統的な花火を作り続けてきた老舗だ。そんなお店と、南青山にあるインテリアショップ「NICK WHITE」が毎年、花火に特化した合同のポップアップショップをオープンしている。色鮮やかな「かたち花火」やユニークな「しかけ花火」、井上玩具煙火の定番「スパークラー」などを詰めた特別セットを販売。職人達が1本1本丁寧に作り上げている至高の花火を堪能してみよう。こちらのイベントは8月31日まで。お急ぎを。

都内で手持ち花火を1本1本選ぶ興奮を味わうなら、蔵前駅近くの「松木商店」へ行くべし。花火専門問屋として卸しのみならず、一般にも小売販売をするこのお店。店内には約400種類以上の花火がずらりと並ぶ。玩具や文具の問屋街、浅草橋/蔵前エリアにあるからこその圧倒的物量と経験。あまり見慣れない限定商品、新製品はもちろん、懐かしの「ねずみ花火」「スパーク」「すすき」などなど、その種類の豊富さに興奮間違いなし。手持ち花火のセレクトショップである。一点一点を見てみれば、コンビニやスーパーで買うようないつもの花火とは一味違う体験になるはず。今年の夏を特別なものにしてみよう。

店内の様子。「松木商店」公式ウェブサイトより引用

開催間近な夜空のアート、花火大会。

最後に、これから開催される注目の花火大会をいくつかご紹介。「第97回 全国花火競技大会『大曲の花火』」は1910年(明治43年)から続く、秋田県大仙市の花火競技大会だ。全国の花火師が技を競い合うコンクール形式で行われることが最大の特徴。光ではなく煙を打ち上げる「昼花火」、10号玉の「芯入割物の部」、「自由玉の部」、「創造花火」の4部門で競い合うから、花火職人の凄さを目にできる。審査では、内閣総理大臣賞も授与されるなど、権威のある大会なのでぜひ訪れてほしい。8月30日(土)開催。

9月6日に開催される「北海道芸術花火 2025」は、世界的な彫刻家、イサム・ノグチが設計した公園、札幌市のモエレ沼公園を舞台に開催される大規模な花火イベントだ。名曲に合わせ、「大地の彫刻」ともいわれる起伏をいかした立体的な花火像を堪能できる。

10月でもまだ間に合う。「厳島水中花火大会」は10月18日(土)開催。世界遺産・厳島神社を背景に、海上から花火を打ち上げる。、約50年間宮島で引き継がれてきた水中花火大会の歴史を、6年ぶりに新たな形で開催されるこちら。水面から点火され水中で花開く「水中花火」がなんといっても見どころ。今年は戦後80年で、広島被爆80年の節目でもある。「平和への願い」と「伝統文化の継承」をテーマに掲げているから、平和や文化の大切さを考えながら、歴史、自然、芸術の大切さを空から感じてみよう。

「厳島水中花火大会」公式X投稿より引用。

もちろん、花火大会はこれ以外にもまだまだたくさんあるし、「手持ち花火」でも遊んでこそ「日本の夏」。今年の夏は、火薬の匂いと共に素敵な思い出を残してみてはどうだろう?

EDIT: Ryoma Uchida