空前のラブブブームはなぜ起こったのか

「Fall in Wild」シリーズ

ちょっと不機嫌そうな顔、クリンとした目にきらりと光る9つのキバ、もふもふの体毛に覆われた不思議な妖精「Labubu/ラブブ」。中国で生まれた、この愛らしくも不気味なキャラクターは現在世界中をトリコにしている。

なぜラブブは世界を動かしたのか

ラブブは香港出身のイラストレーター、カシン・ルンが2015年に出版した絵本「The Monsters」に登場する妖精のキャラクターで、中国のおもちゃメーカー「ポップマートインターナショナルグループ」がキャラクターグッズを制作・販売している。2025年上半期の売上高は138億8000万元(約2850億円)で、前年の上半期と加え204.4%増という驚異的な売り上げを記録した。

ラブブは確かにかわいいけれど、ここまで人々が熱狂する理由は何なのか。一説によれば、K-POP界のカリスマであるBLACK PINKのLISAが大いに関係していると言われている。2024年半ばに彼女のインスタグラムに投稿されたラブブの姿は一部の熱狂的なファンによって買い占められ、海外のセレブにも波及していく。レディ・ガガやデュア・リパ、ラッパーのセントラル・シーなど男女問わずさまざまなセレブリティに愛用されてきた。

Lisa’s Secret Obsession with Labubus | Vanity Fair

こうしてありとあらゆるSNSに登場することになったラブブは熾烈な争奪戦となった。元々ブラインドボックス方式(中身が見えない状態で販売される)を採用していたことや、生産数が少ないことも相まって、二次流通市場でも高値で取引されるまでに至った。

ただのバッグチャームから富の象徴へ

はじめはかわいい人形として人々から愛されてきたラブブ。「推し活」アイテムのようにたくさんのラブブを身につけたり、ファンアートなどの二次元コンテンツによって消費されてきた。その後、セレブリティたちがたくさんのラブブを彼らの超高級ハンドバッグに付け出した。それにも背景がある。エルメスのバーキンやシャネルのマトラッセなど定番で歴史的なアイテムが流行し、個性を出しづらくなったために、バッグチャームが定番化していったからだ。セレブリティたちはそのほかのバッグチャームと同じようにラブブを活用し、ラブブは一気にステータスの象徴へとのし上がっていったのだ。

ラブブをチャームにするセレブたち

StockXなどのリセールサイトでも、2023年には年間100件以下だった取引数が、2025年には一日1000件超にまで激増し、VANSとコラボした限定モデルは1万ドル(約133万円)で売却。さらに世界で一体しかない限定モデルが108万元(約2200万円)という価格で取引されるまでに至ったのだ。

神格化する「ラブブ」ポップカルチャーへと続く波

ラブブは販売市場の席巻から始まり、さまざまなコンテンツに変換されている。ラブブのカスタマイズが進み、人間と同じようにタトゥーや歯のグリルを入れる個体や、オーダーメイドの衣装を着る個体の制作が増え、ファッションジャンルとの融合が進む。

私たちの間で流行しているものが、ラブブたちの間でも流行する。まるでラブブが生きているかのようにコレクターたちは振る舞い、最新のウェアやバッグ、アイテムを装着させるのだ。

またファンアートをデジタルプラットフォームに投稿したり、ラブブをモチーフにしたアート作品など、アートカルチャーへの波及も著しい。TikTokで注目を集めた「Sigma Boy(シグマボーイ」をパロディにした「LABUBU SONG」も YouTubeで200万回再生を超えている。そしてもちろん、コピー商品の流通も。

流行のピークを更新し続けるラブブだが、中国では価格崩壊が起こっている。転売屋たちがこぞって買い占めたラブブだが、正規販売業者が大量販売することによって、需要と供給のバランスが正常化された。完璧な転売対策によって、転売屋たちは次なるラブブはどのキャラクターか、虎視眈々と狙いを定めている。同じポップマートによって制作された、「CRY BABY」や、中国のライバル企業TOP TOYによる「nommi」などがじわじわ人気を集めている。

ネクストラブブとの呼び声も。「nommi」

また古くからキャラクターコンテンツが盛んな日本では往年のキャラが人気を伸ばしている。ラブブに見た目が似ている「モンチッチ」や、「ハローキティ」万博で爆発的なヒットになった「ミャクミャク」などこれからもキャラクターIPの人気は続きそうだ。実際にミャクミャクは様々なキャンペーンやプロモーションでも積極的に活用されており、ついにラブブとのコラボも決定。こうした異業種コラボレーションは、キャラクターという枠を越えて社会的な文化として認知される一因となっている。

50周年を迎える「モンチッチ」。若返りを図るアイテムを強化している。

ラブブの生みの親であるカシン・ルンは、現在、現代アーティストである村上隆が運営する”カイカイキキギャラリー”に所属し、個展などを通じてキャラクターをモチーフにしたポップアートを制作している。

私たちはラブブという親しみやすい存在を通じて、自然とアートやカルチャーに触れることになる。コレクターたちはラブブが持つ文化的な価値を見出し、アートの文脈でラブブを扱い、「アートトイ」という大きな市場を巨大化させた。

ラブブというキャラクターは、今を生きる私たちにとっての現代の様相を反映したポップカルチャーのアイコンとなる。アートはラブブの存在によって、ますますポップカルチャーとの距離を縮めることになる。レアなラブブがゴッホやデュシャンの作品と隣合わせに陳列される日も近いのかもしれない。

EDIT: Ryo Hamada

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