幼い頃から描いていた絵と、学生時代に右も左も分からないまま上がった芸人の舞台。その2つが交わった時。そしてそこに、少しの隠し味が加わった時____。
お笑い芸人、漫画家、イラストレーターなど、多方面に活躍するおほしんたろうの現在のスタイルに至るまでの軌跡、その創作の背景を紐解くインタビューを前後編でお届けします。
幼少期の代表作『変な人』
初めて絵を描いた時のことを覚えていますか?
おほしんたろう(以下:おほ) – 幼稚園くらいの頃から、チラシの裏とかに絵を描いていたみたいです。ウルトラマンとか、怪獣とか、そういうのが好きで描いていましたね。

漫画を描き始めたのはいつ頃ですか?
おほ – それも小学生の時です。たしか学校内のクラブ活動みたいなもので描き始めました。その時には4コマ漫画とかギャグっぽいものを既に描いていた気がします。
オリジナル作品として描かれていた?
おほ – そうですね。元々はどこかで見たやつの真似事だったりしたとは思うんすけど、当時、「変な人」っていうタイトルの漫画を描いていました(笑)。
「変な人」!
おほ – それが代表作です。内容は本当にしょうもなくて、なんかもう、ハゲてるんですよ。変な人が。波平さんみたいな。当時はハゲが変だと思ってたんですよね。 今はもちろんそんなこと思わないですけど、当時は90年代的な価値観でやっていて。それこそ小学生が好きそうな、高いところから落ちちゃうとか、鳥に連れて行かれるとか、そういうやつ。もうほんとにギャグにもなっていないような感じだったと思います(笑)。

『月刊コロコロコミック』のような。
おほ – そうですそうです(笑)。
お笑いについても幼い頃から好きだったのですか?
おほ – あまりお笑いの番組とかを観ない家庭だったんですよ。ダメとは言われないけど、あんまり観ない方がいい?みたいな空気というか。だから中学生の時もあまり観てなかったんですけど、「オンエアバトル」とかが流行りだして、おぎやはぎさんのネタをたまたま観たんです。それがすごく面白くて。そこで一気に興味が湧きました。
“シュールな笑い”の原体験
いわゆる王道のギャグ漫画から、現在の作風に至ったきっかけはありますか?
おほ – たまたま中学の時に『ファミ通』を読んで、それがめっちゃ面白くて。 シュールとか不条理っていう立ち位置だっていうことも分からないまま、「なんだこれ!?」みたいな。夢中になって読んでいたんですけど、次第に自分も参加してみたいと思うようになって。投稿コーナー、採用されたら掲載してもらえるコーナーがあって、自分でも投稿するようになったんです。週に1回発売されるやつに載っているかどうかっていうのが本当に楽しみで、それが青春でした。それが多分、今に繋がる感じの漫画を描き始めたきっかけです。



2枚目の画像では、憧れていたという、とがわKさんの隣だ!
人前でやるっていうことに関しては、お笑いよりも漫画の方が先だったんですね。芸人としての活動はどのようにはじまったのですか?
おほ – 大学時代にコントをやったのが最初ですね。
やっぱりおぎやはぎさんとか、いわゆるちょっとシュールなネタですか?
おほ – いや、最初はもう全然。オーソドックスな感じだったと思います。本当に何もわからなくて、なんかそれっぽいものをやるしかないというか。見よう見まねでやってましたね。でも好きなのはやっぱり、ちょっと王道から外してあるようなものが好きだったので、おのずとそうなっていったというか、結局自分の気持ちが乗ってやれる方向のネタにはなっていったと思います。
謎のバイトをした学生時代、新卒から芸人へ!
大学時代は何かアルバイトをされていましたか?
おほ – 病院の検査で、検尿弁とか色々あるじゃないですか。血液検査とかで採取された、検体って言うんですけど、その検体を検査するための培養に使う寒天のシャーレみたいなのがあって、丸いやつ。どんな菌がいるか調べるんですよ。例えば尿だったら尿をそこに塗り広げる。っていうバイトをしてました(笑)。
めちゃくちゃシュール!そんなバイトがあるんですね(笑)。
おほ – 僕も知らなかったです(笑)。最初は抵抗あるんですけど、単純作業ですぐ慣れちゃいました。白衣着て手袋して、淡々と塗っていくっていう(笑)。
九州大学のご出身ですけど、将来についてのイメージとか、芸人を目指す決め手は何でしたか?
おほ – 本当に何も考えていなかったです。サークルとかは楽しかったですけど、就職とかは全く考えずに過ごしてました。会社に入ってうまくやっていける自信もないし、働きたくもなかったですね。
芸人になろうとは思わなかったんですか?
おほ – なりたいけど、大阪や東京に行く度胸がなくて。大変そうじゃないですか?行ったこともなかったですし。ただそのタイミングで、今いる事務所が九州に事務所を作るっていう話が出てきたんです。地元のアマチュア芸人をスカウトして、事務所に入れますよ、みたいな番組に参加して、今に至ります。
『ファミ通』、おぎやはぎ、ナゾのバイト…。
育まれてきた“シュールさ”への感性は、交わることのなかった別々の領域___お笑いとイラスト___を、本人も気付かぬうちに曖昧にしていった。そしてその2つが明確にブレンドされたのは必然だったのかもしれない。後編では、異なる領域の混ざり合った独自の“おほしんたろうスタイル”を紐解いていく。