美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。
よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。
梅雨真っ只中のこの季節。風邪もひきやすいし、なかなか外出して楽しむ気分でもないかも。そんなときはお家のなかで読書はいかが。といっても今回紹介するのはアートに関する漫画本。芸術業界の裏側を覗き見たり、作家の葛藤を垣間見たり。きっと創作意欲も湧いてくること間違いなし。
◯『ギャラリーフェイク』細野不二彦・著(小学館)
アートコミックの金字塔であり、必読の書。主人公は雁作専門の画廊、「ギャラリ-フェイク」のオ-ナ-、藤田玲司。古今東西、あらゆる美術作品の知識はもちろん、時事問題、社会問題までをカバーする教養と情報の数々に圧倒されつつも、サスペンス仕立ての物語にグイグイ引き込まれる。基本的には1話完結なので、スキマ時間に読みやすいのもGOOD。現在も連載中の不朽の芸術書である。
◯『In: The Graphic Novel)』ウィル・マクファイル著(Mariner Books)
ザ・ニューヨーカー誌で活躍する有名なデザイナー、ウィル・マクファイルによる最初の作品(グラフィックノベル)だ。こちら、まだ邦訳されていない作品ながら、ジワジワ注目を集めている一冊。2022年には「アイズナー賞」にノミネートし、2024年にはフランス語に翻訳された作品を表彰する「ACBDコミック賞」のグランプリを獲得。主人公は、作者を投影したかの様な、人とつながることができない若いイラストレーター、ニック。その人生の苦痛と孤独を描き出すのだが、ニックの内面に変化が現れたたとき、モノクロームのページから突如として現れるカラフルな色彩に感動する。イラストレーターという仕事が描き出す詩的な世界をとくとご覧あれ。