見えない顔、見える感性 – ORIHARAが紡ぐ人間の複雑さ 【後編】

強さの奥にある儚さや、意味ありげな表情。全体を覆う毒々しい雰囲気の奥に垣間見えるのは、悲哀なのか、一種の諦観なのか。ORIHARAの繊細なタッチが織りなす繊細な描写は、観る者に何かを訴えかけてくる。細かなニュアンスが全体の印象を作り上げるといういわば正当な順序からちょうど逆転するように、作品を前にして感じるファーストインプレッションを、細部の微妙な表現により裏切り、解体する。人間は複雑な生き物だ。人一人を、イラストというカタチで真摯に描こうとするORIHARA。相反する要素を、なんら矛盾なく共存させてしまう彼女の仕事ぶりは、むしろ正当であり、それ故に末恐ろしくもある。Adoのイメージディレクターも務める彼女は、開催を間近に控えた「OSAKA INTERNATIONAL ART 2025」にて個人制作としては初となる展示を実現。イラストレーターやイメージディレクターなど、型にはまらない彼女の作家としてのあり方、その精神性に迫るインタビューを前後編でお届け。

私の肖像

B- イメージディレクターとしての仕事では、他人に入り込む感覚だと思うのですが、自分がブレるというか、自分との境界が曖昧になるような、そういった瞬間はありますか?

ORIHARA- 自分のことを考える時間が少ないというのはあります。昨日食べたもの何一つ覚えていないのに、他人の話は全部覚えているみたいなことはありますね(笑)。

B- それはちょっと休んだ方がいいかもしれないですね(笑)。

ORIHARA- 元々自分の感情を外に出すのは得意じゃないというか、自分の感情を作品にして誰かにぶつけることへの価値というのが測れていなくて、この作品を出す価値ってなんだろう?この作品を表に出すことによって、誰にとってなんの意味があるのだろう、とか考えますね。同じ作品でも出す時間によって価値が全然変わってきてしまったりもするので。

B- なるほど。ご自身の話で言うと、多くの人がORIHARAさんの作品を一度は目にしたことがあると思います。そんな中で、顔出しはされていないじゃないですか。普段の自分と、一人歩きしていく「ORIHARA」との乖離を感じることはありますか?

ORIHARA- それは結構あると思います。自分のことを裏方(職人)だと思っているので、SNSで何かを多くを語ることはなかったのですが、それで実際に人と話すと、「もっとミステリアスで怖い人だと思っていました」って、よく言われます。実際の私がどうかは置いておいて、そういうイメージを受けてしまっているところには、結構衝撃を受けました。結局リアルで話していても見せる一面によって人の印象は全く変わってしまうので、それはそれで良いのかな。本来の自分との延長線上の話だと思っています。

B- そうした認知度の高さの中で、作品の特にどんな部分を見てもらいたいですか?

ORIHARA- イメージディレクターとしては、大きく出ているその人の一面以外の部分を届けたいです。すごく笑っている人の中の怒りを伝えてあげたい。その人に脆い部分があることを、その人が人間であることを伝えたいっていうような気持ちです。でももちろんどんな感じ方でも嬉しいですよ。

B- 単純にいいなみたいな。

ORIHARA- そうです。シンプルにこの衣装可愛いでも全然いいし、この髪型にしたいとかでもいいし、楽しんでくれたらやっぱりそれが一番嬉しいですね。

OSAKA INTERNATIONAL ART 2025展示作品 「narcissism」

自己批判によって見えてくる「幸せ」のカタチ

B- 今年開催される「OSAKA INTERNATIONAL ART 2025」では、初の個人展ですね。イメージディレクターというより、イラストレーター色の強い作品になるんですか?

ORIHARA- そうですね。普段はその人個人をすごく見つめて、その正解を拾って出力するみたいな、制約の中での制作だったのが、突然自由にとなると、普段のプレースタイルからかなり変わるので、苦労しました。そこの境界があやふやな仕事はたくさんありますが、今回は特にイラストレーター色が強いというか、自分とは何かみたいなところに行きつきました。ある種自分のイメージディレクション的な側面もあったかなと思います。

B- なるほど。内省というか、自分を見つめて。

ORIHARA- こういう感情が私の中にあったな、とか、このようなものになりたかった、こういう風なものが私の現実であるとか、自分に置き換えてちょっと潜ってみたかなと思います。

B- なにかそれは他人に近づくよりもカロリーを使うような気がするのですが、そのあたりはどうでしたか?

ORIHARA- たくさん怒ったりたくさん泣いたりできましたね。すごく貴重な機会だった気がします。あんなに正当な理由で自分で自分に怒ったりしていいんだっていう。

B- 例えばどういった感じですか?

ORIHARA- 例えば、小さい時に心に残った作品をみて「なんでこのシーンに私は共感したんだっけ」「それって一種の自己愛的なものが働いているのか」「なんでこのシーンが嫌いなんだっけ」というふうに。自分の好きなものと自分が受け入れられなかったものを全部強制的に一度向き合って考えました。

OSAKA INTERNATIONAL ART 2025展示作品 「衣装ラフ」

B- 相当しんどい作業ですよね。それでも自分を見つめ続ける、そのエネルギーの源はなんですか?

ORIHARA- 幸せになりたいというごく当たり前の感情があるのですが、どうやったら幸せになれるかって考えるじゃないですか。その時にかなり受動的というか、幸せにしてもらう方法ばっかり頭に浮かぶことに気がついて。例えばペットを飼うとか恋人を作るとか、相手に優しい言葉をもらったり癒してもらったり、「何を施してもらえるか」を考えてしまうことに気づいて。

B- そうですね。

ORIHARA- ということは幸せになりたい時に、私たちは他人を頼る。自身は何も努力する気がないけど、幸せになりたい。幸せになりたいと言うけれど、自分は何もしたくないって、道理にかなわないじゃないですか。寂しいから友達と遊びに行くのも、じゃあ友達に孤独を埋めて欲しいってことでもあるわけで。

B- 確かにそういう面はありますね。

ORIHARA- 「それって一緒にいる友達は楽しいの?いつまで一人だけ幸せになろうとしてるのかな。そんなことを繰り返していて、これからも繰り返すのかな?」と考えた時に、もう自分が頑張るしかない。良い人間になりたい。その為には今の自分のダメなところはちゃんと向き合わなきゃいけない。ちゃんと自分のことも責められないといけない。そういった考えが、仕事でも、イラストでも少し出ているかもしれないです。できているとはまだ思えないんですが。

B- もし仮に、自分を徹底的に見つめ続けて、完璧人間みたいになるとするじゃないですか。そうなったらORIHARAさんの作品ってどうなるんですか?作れなくなってしまうのか、

ORIHARA- どうなるんだろう。でもその先が見てみたいし、何があってもずっと描いているとは思うんですよね。幸せであろうと努力をしているということは、いつだって転げ落ちる可能性を自覚しているということで。良き人間になろうとしているっていうことは、根っこが本当はもっとだらけたい人間であるっていうことで。完璧なことを、息をするように、基礎代謝みたいにできる人間じゃないってことを知っているから、きっと何かしらいろいろな作品を作るんじゃないかなと思いますね。

B- 諦めることって多分簡単じゃないですか。楽しようと思えばいくらでも出来るというか。

ORIHARA- 私の場合は、SNSのフォロワーや、ファンの方を絶対裏切っちゃいけないよねっていう気持ちでなんとかやれています。

B- ある種巻き込んで。

ORIHARA– 一種の証人ですね(笑)。観て頂いている方や支えてくれている人がいるから、もっと頑張らないといけないと思います。ただ、いつでもダメになれるっていうのは本当にそうで、効率が悪いからとか、やらない理由なんていくらでも出てくる。だから言質を取っていただく。このインタビューもきっと私の言質ですね(笑)。

B- 確かにそうですね(笑)。

一枚の絵を描き上げるのに、一体どれほど苦心しているのだろう。自分が絵を描く意味はなんなのか。相手に届ける意味は?相手は本当はどんな人だろう。自分って、なんだろう。目を背けたくなる、耳を塞ぎたくなるような場面で、彼女は決して逃げない。その姿を尊敬すると同時に、羨ましくも思う。心配にも、思う。だからたまには後ろを振り返って。そこには、“目を尖らせた審判”はいない。というよりはむしろ、暖かい眼差しをもった多くの人たちが立っているはずだから。その中には、もちろん僕も。ORIHARAさんの今後の活躍を、1ファンとして楽しみにしています。



OIAチケットプレゼントキャンペーン開始!

OIAチケットプレゼントキャンペーン開始!ORIHARAの世界観を“リアル”に体感できるチャンス。
OSAKA INTERNATIONAL ART 2025(5/31〜6/1)のチケットが当たるキャンペーンを実施中!SNSフォロー&応募フォームで申し込み完了!
まずは BAM公式アカウントをチェック!

※お一人様2枚まで

【応募フォーム】
https://forms.gle/pkqXsabFTGctg1Rr7


BAM公式アカウント

Profile Image

BAM Art Media

@bam_art_media

BAM(Boundless Art Media)公式アカウント アートの枠を超えた、自由な感動を探求していきます。 毎週記事を更新中✍️

Profile Image

bam_art_media

BAM

📍BAM Official Account / BAM公式アカウント
Exploring the free-spirited excitement beyond the boundaries of art🎨
アートの枠を超えた、自由な感動を探究していきます。
毎週記事を更新中✍️


EDIT: Ryo Kobayashi