美術館に行き、「なんでこれが良い(とされている)のだろう」とか、「これにどんな価値があるんだろう」とか、アートについて「よく分からない」なんて気持ちが芽生えたまま帰宅する……なんてことがあるかもしれない。
よく分からない作品にウン十億円という値段がついたかと思えば、街中の無料で入れるギャラリーで素敵な作品と出会ったり、はたまた、作品の枠組みを超えた「プロジェクト」なんかが作品と呼ばれていたり。歴史や理論が背後にあるからこそ、様々なアーティストや作品があるわけで、感覚だけで理解できるのがアートの世界ではないし、何かの手がかりがないと中々理解できないことも多い。というわけでこの連載では毎週「アート」にまつわる書籍をいくつかご紹介。
だんだんと暑さを感じる今日この頃。家で涼みながら読書はいかがだろう。おすすめのアートにまつわる本を紹介する連載、今回は「アーティストによる名著」をご紹介。アーティストを志す人はもちろん、その作品を知らない人でも、作家本人の言葉をキャッチしてみれば、思いもよらないインスピレーションを受けられるはず。
◯『点と線から面へ』ヴァシリー・カンディンスキー・著/宮島久雄・訳(ちくま学芸文庫)
まるでマジシャンの種明かしのように。20世紀初頭、抽象絵画の概念を提唱した画家・カンディンスキー。自由に伸びる線、色とりどりの図形、音楽が聴こえるような創造的な構図。当たり前だけど、テキトーに描いてるんじゃなくて、計算し尽くされているのだから恐ろしい。その裏側を全公開するかのごとく、自身の絵画の構成要素を徹底的に分析し、理論的・科学的に吟味する本書。「生きた作品」の造り方を露にした名著だ。ドイツの伝説のデザイン学校「バウハウス」にて教鞭もとっていた「先生」による、必読の教科書。
◯『芸術起業論』村上隆・著(幻冬舎文庫)
昨年、京都市京セラ美術館にて開催された「村上隆 もののけ 京都」、お笑い芸人・ロバートの秋山や哲学者・斎藤幸平とのYouTubeでの対談動画など、最近も話題に事欠かない稀代の芸術家・村上隆。これだけバズを起こすのは、彼の才能の一つに、分かりやすく人に伝える言葉の力もあるんじゃないかと思う。それが遺憾なく発揮された主著がこちら。世界基準の戦略を立てる意図から、作品をブランド化する方法、プレゼンテーションの秘訣、才能を限界まで引き出す方法…。村上隆が設定する問題意識と、生き抜くための経営方法が描出される。村上の活動を理解するためだけでなく、ビジネス書としても有用。「死後評価される」と時折、憂いをもって語る村上だが、この本も益々参照され続けるはず。