アートから見る大阪・関西万博

2025年4月13日に開幕した「EXPO 2025 大阪・関西万博」。“いのち輝く未来社会のデザイン”をテーマにかかげ、見たことのないような新しい万博を関西・大阪から発信する。

どことでもオンラインでつながることのできる現代において、あえて万国博覧会をやる必要ってあったっけ?いつの時代にも万博は国の垣根を超えた創造力とワクワクを提供してくれた。この万博が様々な人が活躍できる未来の社会づくりのきっかけにとなるように、アートやデザインの視点から見るBAM流万博の楽しみ方を探っていこう。

大阪・関西万博の顔「ミャクミャク」の誕生秘話

大阪・関西万博公式キャラクター「ミャクミャク」

みなさんは「ミャクミャク」についてどれくらいご存じだろうか?特徴的な赤と青のカラーリングと、ちょっと奇妙なシルエット。開催前からじわじわと人気が出始め、万博会場で売られているミャクミャクの人形はたちまちソールドアウトになっているそう。そんなミャクミャクを作ったのが神戸市出身の絵本作家・山下浩平だ。

mountain mountain名義でグラフィックデザインを、本名の山下浩平として絵本や児童書の制作を行っており、2021年より募集されていたデザイン案の公募によって選出された。

すでに決定していたロゴマークはそのまま顔として、体は「水の都」の大阪にちなんで青に、腕からはポタポタしずくが垂れてくるようなデザイン。山下さんは1970年に開催された大阪万博の象徴でもある「太陽の塔」が大好きで、ミャクミャクを見てどことなく感じる奇抜さは岡本太郎譲りかもしれない。細胞の分裂や水の流れのように、様々な形に変化できるところは、キャラクターとしての面白さだけでなく多様性も感じさせる。

サンリオキャラをはじめとするキャラ同士のコラボレーションや二次創作などによってミャクミャクはネットミーム化しておりX(旧ツイッター)では毎日のように姿を見かける。なぜそこまでミャクミャクが人々を魅了するのだろうか。

ルーツは江戸時代?奇妙さがフックに

一度見たら忘れられない姿のミャクミャク。たくさんの目を持ちポタポタと雫が垂れる様子は一見すると妖怪のようにも見える。日本において妖怪を愛でる行為が広まったのは江戸時代からだそうだ。万物神が宿ることが前提の日本思想。神が宿るとされる「もの」を大切にする過程で妖怪というものがいつしか生まれたのだろう。しかし江戸時代中期に入ると、妖怪にまつわる伝説や信仰が“実は嘘なんじゃないか?”と信じられなくなっていった。(逆を言えばそれまでは本気で信じられていた、ということになる)当時の幕府による政策も相まって、妖怪は一気にトレンドに浮上した。子供用のおもちゃや双六などから、大人向けの絵本や浮世絵、芝居などに多く妖怪が登場していき、妖怪のキャラクター性が確立していった。

一勇斎(歌川)國芳『源頼光公舘土蜘作妖怪圖』(天保14[1843])–国立国会図書館蔵

話を現代に戻そう…。ピカチュウ、マリオ、ハローキティなど世界でも有数のキャラクター大国である日本。ミャクミャクを愛でてしまう心は日本人ならではの、奇妙を受け入れてKAWAIIに転換する不思議な性質が作用しているのかもしれない。

BAM流万博の楽しみ方

独創的なパビリオンを目的に大阪・関西万博に訪れる人も多いだろう。しかし実はパブリックアートの宝庫でもある。国や地域、民族など、多様なバックグラウンドを持つ国際的なアーティストによるパブリックアートが会場の各所に展示され、世界各国の芸術作品を通して、来場者同士での対話や交流を図ることを目指している。

チェコ・プラハを拠点とするSubfossil Oak s.r.oが手がける「文明の森」は、世界でも珍しい樹齢6500年のオークの亜化石で作られた森を舞台にした古代の森のインスタレーションで、大阪・関西万博の参加国それぞれに1本ずつ捧げられている。130本以上の希少な樹木が展示され、大きな森を作るというコンセプトのこちらの作品は私たちがこれまで土地を切り拓き、あらゆる場所で叡智と文化を産みながら営みを続けてきた人間とそれを見守ってきてくれた自然との対話のようにも感じられる。パブリックアートはそのほかにも計21作品が会場内に展示され、会期中いつでも見て楽しむことができる。

Forest of Civilizations(文明の森)–Subfossil Oak s.r.o

ここまでは万博の華やかな側面ばかりを伝えてきた。しかし海の外を見れば連日の不安定な国際情勢がニュースを騒がせ、大阪府知事らによる市民の賛否両論を押し切り万博開催を断行したことなど、問題も山積みだ。開催前に話題になった会田誠によるミャクミャクのパロディ作品は大阪・関西万博の負の部分を思い起こさせる。大きなイベントにはそれ相応の負荷がかかる。会田誠以外にも批判的な眼差しを向け続けるアーティストたちも多く存在する。それは、アートが私たちに批評的な視野を与えてくれるからかもしれない。

私たちの未来は明るいのか、それとも…。そんな岐路に立つ我々に新たな発見を与えてくれる大阪・関西万博は、2025年10月13日までの開催だ。ぜひ体験してみてほしい。

EDIT: Ryo Hamada